平成29年4月1日に予定されていた消費税率の10%への引上げが見送られたのは周知のとおり。消費税率引上げによる消費への悪影響が懸念されていただけに、特に一般消費者向けの商品を扱う企業にとっては、歓迎すべき話だろう。また、膨大な点数の商品を扱う小売業者では、消費税率10%への引上げに伴い導入される食品に対する軽減税率に対応するためのシステム構築が間に合わない恐れがあると言われていた。今回の消費税率引上げ延期にホッと胸をなで下ろす向きは少なくない。
ただし、今回の消費税率引上げ延期は、「消費税率引上げ」を前提としていた様々な制度に影響を及ぼすことになる。役員としては、自社への影響を整理しておきたいところだ。以下、項目別に見てみよう。
■ 経過措置の実施時期
まず挙げられる影響として、消費税率引上げに伴う「経過措置」の実施時期の変更がある。
注文住宅やソフトウェア開発等を含む「請負工事」を例にとると、消費税率が当初予定どおり平成29年4月1日から10%に引き上げられた場合には、「平成28年9月30日まで」に請負契約を締結しておけば、完成物の引き渡しが消費税率引上げ後の「平成29年4月1日以降」になったとしても、現在の8%の税率が適用されるとされてきた。
今回、消費税率引上げが「平成31年10月1日」まで2年半延期されたことで、この経過措置も下表のように変更されることになる。
<請負契約に関する新旧経過措置>
| 旧 |
新 |
| 平成28年9月30日までに請負契約を締結しておけば、完成物の引き渡しが消費税率引上げ後の平成29年4月1日以降になったとしても、現在の8%の税率が適用される。 |
平成31年3月31日までに請負契約を締結しておけば、完成物の引き渡しが消費税率引上げ後の平成31年10月1日以降になったとしても、現在の8%の税率が適用される。 |
消費税率が引き上げられる局面では、経過措置の適用を受けるための駆け込み需要と、その後の反動減が発生しやすい。これを見込んで予算や中期計画を作成している企業は、数値の見直しが必要になる場合も出てくるだろう。
■ 駆け込み需要とその反動減の緩和措置
駆け込み需要と反動減が住宅市場で起きると、関連業界の企業業績や景気への影響が大きい。そこで政府は、その影響を緩和する措置を平成27年度税制改正で講じていたところだ。
具体的には、経過措置が適用されない「平成28年10月1日から平成29年9月30日までに消費税率10%で住宅購入の契約をした者」が贈与を受けた住宅取得等資金に対する贈与税の非課税枠を最大3,000万円(通常1,200万円)まで拡充するものだが、この時期も2年半スライドすることになろう。すなわち、「平成31年4月1日から平成32年3月31日までに消費税率10%で住宅購入の契約をした者」に付与された住宅取得等資金が3,000万円まで非課税とされる。住宅産業関連の企業においては、今後の業績を予想する上でこの点も考慮する必要がある。
また、同じく平成27年度税制改正では、平成29年4月1日からの消費税率引上げを前提に、年間最大50万円の所得税が減税される住宅ローン控除制度の適用期限が「平成31年6月末まで」延長されている。消費税率引上げが延期されたことで、一旦この減税額が縮小されるのか、政府の判断が注目される(景気への影響の大きさを考えると、縮小はされないのではないかとの意見も多い)。
■ 社有車購入時の課税
住宅と並び、消費税率引上げの影響が大きいのが自動車だ。そこで平成28年度税制改正では、平成29年4月1日からの消費税率引上げに合わせ、自動車取得税を同日から廃止するとともに、自動車税および軽自動車税において、自動車取得税のグリーン化機能を維持・強化する「環境性能割」を導入することとしていた。
これらの措置も消費税率引上げが前提となっているため、次回消費税率引上げまで見送られることになるのは確実。社有車の買い換えを検討していた企業は、購入計画を再検討する必要がありそうだ。
■ 転嫁対策
消費税率引上げ局面では、下請業者に対する消費税増税分の値下げ強要などを防止するため、政府は(消費税の)転嫁拒否対策に力を入れてきた。実際、被害を受けた中小企業からの告発等により政府の指導を受け、社名を公表された上場企業も少なくない。この転嫁拒否対策は「消費税転嫁対策特別措置法」に基づいている。同法は平成30年9月30日が適用期限となっているが、これも2年半、すなわち平成33年3月31日まで延期されることになろう。
■ 税抜表示
本来、消費者に商品の販売やサービスの提供を行う際には、消費税額は販売価格と合わせて「総額」で表示しなければならないが(事業者間取引では消費税は別表示でOK)、消費税率が5%→8%→10%と段階的に上がっていく局面では、価格表示の改訂に膨大な手間とコストがかかることから、上記の消費税転嫁対策特別措置法により、平成30年9月30日までは「税抜き表示」が認められている(これを「総額表示義務の特例」という)。この税抜き表示も平成33年3月31日まで認められることになるだろう。商品のパッケージやチラシの作成スケジュールに組み込んでおきたい。
■ 軽減税率・インボイス制度
食品・外食業界に大きな混乱を招く恐れがあると言われる軽減税率は、消費税率10%への引上げとともに平成29年4月1日から導入される予定だったが、当然ながら次回消費税率引上げ(平成31年10月1日)まで先送りされることになる。
軽減税率の導入を受け、インボイス方式が平成33年4月1日から導入される予定となっているが、これも先送りされるのかどうか、企業の事務負担や販売時・購買時の手続きへの影響が大きいだけに、注目される。インボイス方式自体は消費税の納税の健全化につながることから、当初予定どおり導入されるとの見方もある。
インボイス方式 : インボイス(送り状、納品書などと訳される)とは、仕入先が購入者(販売先)に対して発行する商品価格、仕入先に支払われた税額などが明記された書類のことを指す。購入者が消費税の仕入税額控除を行うにあたり、購入者にこのインボイスの提出を義務付ける手法が「インボイス方式」である。インボイスの提出がない場合、購入者は(消費税を支払った証拠がないとして)仕入税額控除をすることが認められない。
■ 地方法人税
消費税率が引き上げられた場合、東京都のような地方交付税の不交付団体では地方消費税の増税分だけ増収となる一方、地方では地方消費税の増加分だけ地方交付税が減少するため、両者の税収格差がますます拡大するという問題が起こる。
そこで平成28年度税制改正では、法人住民税法人税割の一部を、全額が交付税の原資となる地方法人税に組み替えるとともに、これまで偏在是正の臨時措置として存在した地方法人特別税を廃止する一方で、恒久措置として地方法人税を拡大したところだが、これらの改正も消費税率の引上げが前提となっていたため、見送りとなるのは確実だ。
あくまで税目の名称の話であり、企業の税負担に変化があるわけではないが、各税目の税率が変わるだけに、経理担当役員は注意が必要だろう。