2016/06/10 経営陣が「説明責任」を果たすということ

東京都の舛添知事が、政治資金の不適切な支出について厳しく「説明責任」を問われている。税金を使って飲食するのみならず漫画本まで買っているのだから、税金を負担している納税者への説明責任が発生するのは当然だろう。

「説明責任」はコーポレートガバナンスにおいても重要なキーワードとなっている。例えばコーポレートガバナンス・コードの補充原則4-1②では、中期経営計画について、「取締役会・経営陣幹部は、中期経営計画も株主に対するコミットメントの一つであるとの認識に立ち、その実現に向けて最善の努力を行うべきである。仮に、中期経営計画が目標未達に終わった場合には、その原因や自社が行った対応の内容を十分に分析し、株主に“説明”を行うとともに、その分析を次期以降の計画に反映させるべきである。」としている。また、経営陣が公正かつ透明な意思決定を行う上では、取締役会、特に社外取締役に対する説明責任が不可欠な要素となる。

一方、一体どこまで説明すれば「説明責任」を果たしたことになるのか、線引きも必要だろう。株主側も、感情に任せて際限なく説明責任を要求し続け、必要な人材を辞任に追い込むようなことはしてはならない。

「説明責任を果たす」とは、①「目的」を明確化した上で、・・・

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2016/06/10 経営陣が「説明責任」を果たすということ(会員限定)

東京都の舛添知事が、政治資金の不適切な支出について厳しく「説明責任」を問われている。税金を使って飲食するのみならず漫画本まで買っているのだから、税金を負担している納税者への説明責任が発生するのは当然だろう。

「説明責任」はコーポレートガバナンスにおいても重要なキーワードとなっている。例えばコーポレートガバナンス・コードの補充原則4-1②では、中期経営計画について、「取締役会・経営陣幹部は、中期経営計画も株主に対するコミットメントの一つであるとの認識に立ち、その実現に向けて最善の努力を行うべきである。仮に、中期経営計画が目標未達に終わった場合には、その原因や自社が行った対応の内容を十分に分析し、株主に“説明”を行うとともに、その分析を次期以降の計画に反映させるべきである。」としている。また、経営陣が公正かつ透明な意思決定を行う上では、取締役会、特に社外取締役に対する説明責任が不可欠な要素となる。

一方、一体どこまで説明すれば「説明責任」を果たしたことになるのか、線引きも必要だろう。株主側も、感情に任せて際限なく説明責任を要求し続け、必要な人材を辞任に追い込むようなことはしてはならない。

「説明責任を果たす」とは、①「目的」を明確化した上で、②それを達成するための「手段」として“最善の選択”を行ったことを示す――ことである。話を分かりやすくするために、舛添知事の漫画本購入を例に、説明責任について考えてみよう。同知事は漫画本を購入したことについて、「子供の言葉遣いについて母親から陳情を受けた」と説明している。この点を踏まえると、舛添知事の説明責任における「目的(上記①)」は、「子供の言葉遣いに影響を与えているとされる漫画本について実態を把握すること」とでも定義すればよいだろう。次に求められるのは、この目的を達成するための「手段」として、選択肢を列挙することだ。政治資金で購入しなくても、都立図書館で借りるなど、漫画本を閲覧する手段はいくらでもある。最後に、それらの手段のうち「政治資金で購入すること」が最善の選択であったこと(上記②)を論理的に示すことができれば、舛添知事は説明責任を果たしたことになる。

コーポレートガバナンスにおける「説明責任」も考え方は全く変わらない。中期経営計画の策定を例にとれば、目的は「計画終了時点でどのような会社になっていたいのか」ということであり、手段は「それを達成するための施策」ということになる。舛添知事の問題も広く言えばガバナンスの欠如の問題であり、説明責任の果たし方はコーポレートガバナンスにおけるそれと何ら変わらない。経営陣は、記者からの厳しい質問に窮し説明責任を果たせずにいる舛添知事を他山の石とし、これを機に、自社が意思決定を行う際には、①目的が明確化されているか、②手段について選択肢を列挙した上で、最善のものを選んだか、ということを常に意識するようにするべきだろう。このような取り組みは、いざ説明責任を果たさなければならなくなった場合に必ず生きてくるはずだ。

2016/06/09 (新用語・難解用語)ノックアウト条件

自動車メーカーのスズキのカリスマトップである鈴木修会長が、燃費データ不正問題を受け、29日(2016年6月)に開催予定の株主総会でCEOのポジションを返上するという(ただし、代表取締役会長は継続。スズキのリリースはこちら)。後任には長男の鈴木俊宏社長が就くとのことだが、次期社長の選任を巡り混乱を見せたセブン&アイに続き、図らずもサクセッションプラン(後継者の選任計画)の難しさ、重要性を示した格好となった。

コーポレートガバナンス・コードに「(取締役会は)最高経営責任者等の後継者の計画(プランニング)について適切に監督を行うべきである」との原則(補充原則4-1③)が盛り込まれたことを踏まえ、多くの上場会社がサクセッションプラン(後継者の選任計画)の立案を進めているが、後継者候補を絞り込んでいく際に考慮すべき要素として見落としがちなのが「ノックアウト条件」だ。

後継者候補の選定にあたっては、職務遂行能力や求心力などが十分に考慮される必要があるのは当然だが、これらに目が行き過ぎると、不適格な人物を後継者に指名してしまうという過ちを犯しかねない。分かりやすい例として、・・・

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2016/06/09 (新用語・難解用語)ノックアウト条件(会員限定)

自動車メーカーのスズキのカリスマトップである鈴木修会長が、燃費データ不正問題を受け、29日(2016年6月)に開催予定の株主総会でCEOのポジションを返上するという(ただし、代表取締役会長は継続。スズキのリリースはこちら)。後任には長男の鈴木俊宏社長が就くとのことだが、次期社長の選任を巡り混乱を見せたセブン&アイに続き、図らずもサクセッションプラン(後継者の選任計画)の難しさ、重要性を示した格好となった。

コーポレートガバナンス・コードに「(取締役会は)最高経営責任者等の後継者の計画(プランニング)について適切に監督を行うべきである」との原則(補充原則4-1③)が盛り込まれたことを踏まえ、多くの上場会社がサクセッションプラン(後継者の選任計画)の立案を進めているが、後継者候補を絞り込んでいく際に考慮すべき要素として見落としがちなのが「ノックアウト条件」だ。

後継者候補の選定にあたっては、職務遂行能力や求心力などが十分に考慮される必要があるのは当然だが、これらに目が行き過ぎると、不適格な人物を後継者に指名してしまうという過ちを犯しかねない。分かりやすい例として、コンプライアンス意識に欠ける人は当然後継者候補から“除外”しなければならない。また、いくら職務遂行能力が高くても、社内政治にやたらと熱心で、自分のパフォーマンスを際立たせるために周囲の人間を潰してしまうようなタイプの人も、リーダーとしては不適格と言える。また、パワハラが社会問題化する中、対人影響力を確保するために威圧的な態度をとったり脅したりするなど、自らが持つパワー(権力)を悪い形で使うような人も、リーダーとしての資質に欠ける。このように、サクセッションプランにおいては、「こういう人が必要」という条件を決める一方で、「こういう人はダメ」という条件、すなわち「ノックアウト条件」も決めておく必要がある。これは経営トップの選定に限らず、役員候補の選定にあたっても求められよう。

なお、人材の選定にあたっては、「多様性」も重要な検討要素となる。経営トップや役員に求められる要件は経営戦略や時代の変化によっても変わる。したがって、特定の要件に当てはまる人物ばかりを経営トップや役員に選ぶのはリスクがある。そこで、あえて“健全な摩擦”を生じさせるために、あるいは相互補完関係を生むために、これまでと違うタイプ(属性など)の人物を選定するということも検討するべきだろう。

指名やサクセッションプランについては、セミナー「指名(諮問)委員会とサクセッションプラン」で詳しく解説されているので、ご興味のある方はそちらもご覧ください。

2016/06/08 リニエンシー利用事業者名公表で企業がとるべき行動は?

談合カルテルは独占禁止法違反にあたり、巨額の課徴金(「違反行為対象商品等の売上高」に対し、製造業の場合は10%、小売業の場合は3%、卸売業の場合は2%)を課される可能性がある。ただし、独占禁止法に違反した事業者が、違反の事実を公正取引委員会に自主的に報告し、資料を提出すれば、課徴金の減免を受けられる場合がある。これがリニエンシー(課徴金減免制度)と呼ばれるものだ。

談合 : 公共工事や物品の公共調達の入札の際、入札に参加する事業者同士で話し合い、入札価格を調整すること。競争入札を骨抜きにする行為であり、あらかじめ定めておいた事業者が高値で落札することが可能になる。同業者間で、落札者を持ち回りすることが多い。カルテルの一形態である。
カルテル : 事業者間で、価格や生産量、販売地域などについて協定を結ぶこと。これにより、価格競争による価格低下を防ぐことができる。

従来はリニエンシーの適用があったかどうかさえ積極的に公表しないというのが公正取引委員会の方針だったが、平成28年6月1日からこの方針が変更され、リニエンシーの適用を受けた事業者の「免除の事実または減額の率」が公表されることになった(公正取引委員会「課徴金減免制度の適用事業者の公表」参照)。リニエンシー制度の運用の透明性を確保する観点から、180度の方針変更となった格好だ。“密告”的な性格も持つリニエンシー制度は導入当初、「日本の企業風土には合わない」といった声も聞かれたように、社名や課徴金の減免の詳細が公表されるとなると、リニエンシーの利用に躊躇する企業が出てくることもあり得るが、・・・

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2016/06/08 リニエンシー利用事業者名公表で企業がとるべき行動は?(会員限定)

談合カルテルは独占禁止法違反にあたり、巨額の課徴金(「違反行為対象商品等の売上高」に対し、製造業の場合は10%、小売業の場合は3%、卸売業の場合は2%)を課される可能性がある。ただし、独占禁止法に違反した事業者が、違反の事実を公正取引委員会に自主的に報告し、資料を提出すれば、課徴金の減免を受けられる場合がある。これがリニエンシー(課徴金減免制度)と呼ばれるものだ。

談合 : 公共工事や物品の公共調達の入札の際、入札に参加する事業者同士で話し合い、入札価格を調整すること。競争入札を骨抜きにする行為であり、あらかじめ定めておいた事業者が高値で落札することが可能になる。同業者間で、落札者を持ち回りすることが多い。カルテルの一形態である。
カルテル : 事業者間で、価格や生産量、販売地域などについて協定を結ぶこと。これにより、価格競争による価格低下を防ぐことができる。

従来はリニエンシーの適用があったかどうかさえ積極的に公表しないというのが公正取引委員会の方針だったが、平成28年6月1日からこの方針が変更され、リニエンシーの適用を受けた事業者の「免除の事実または減額の率」が公表されることになった(公正取引委員会「課徴金減免制度の適用事業者の公表」参照)。リニエンシー制度の運用の透明性を確保する観点から、180度の方針変更となった格好だ。“密告”的な性格も持つリニエンシー制度は導入当初、「日本の企業風土には合わない」といった声も聞かれたように、社名や課徴金の減免の詳細が公表されるとなると、リニエンシーの利用に躊躇する企業が出てくることもあり得るが、それは正しくない。

というのも、リニエンシーの利用が遅れた、あるいは利用しなかった結果、会社財産の流出額を減らせなかったとなれば、取締役に善管注意義務違反があったとして、株主代表訴訟を提起されるリスクもあるからだ。この点は住友電工のカルテル事件に関する株主代表訴訟()でも証明されている。取締役は、リニエンシーを利用できるにもかかわらず利用しないことのリスクの高さを肝に銘じておく必要がある。

 平成22年に光ファイバーケーブル製品のカルテル事件で67億円もの課徴金の支払いを命じられた住友電工の取締役(当時)が、「リニエンシーを利用すべきであったのにしなかった点に善管注意義務違反があった」として、課徴金相当額の損害賠償金を住友電工に支払うよう株主代表訴訟を提起された。訴訟自体は平成26年に和解により終結しているが(取締役らが会社に5億2000万円の解決金を支払った)、リニエンシーを利用しないことのリスクを炙り出した訴訟であった。

いずれにせよ、公正取引委員会の調査の結果“クロ”となれば、リニエンシーの利用の有無にかかわらず、違反事業者として企業名が公表される。この点を踏まえると、むしろ「リニエンシーの適用事業者」として公表された方が、単に「違反事業者」として公表されるよりもレピュテーションの毀損は小さくて済むとも言える。また、株主や債権者など企業の利害関係者に対して、「課徴金の額を減らした(会社財産の流出額を減らした)」ことをアピールする効果も期待できる。

逆に言うと、リニエンシーを利用した事業者のリスト公表により、そのリストに載っていなかった違反事業者、すなわちリニエンシーを利用せずに課徴金を全額支払うことになった事業者も容易に特定されることになった。独占禁止法の違反事業者として社会的な制裁を受けたうえに、株主代表訴訟の対象とされないためにも、リニエンシーの利用は排除できないということだ。

なお、平成28年5月31日以前に課徴金減免の申請を行った事業者が、平成28年6月1日以降に課徴金を減免された場合には、不遡及の原則に基づき、従来どおり(自ら望まない限り)企業名を公表されることはない。

不遡及の原則 : 改正後の不利益な法令は改正前の行為には適用されないという原則。

2016/06/07 消費税率引上げ延期が企業に与える影響

平成29年4月1日に予定されていた消費税率の10%への引上げが見送られたのは周知のとおり。消費税率引上げによる消費への悪影響が懸念されていただけに、特に一般消費者向けの商品を扱う企業にとっては、歓迎すべき話だろう。また、膨大な点数の商品を扱う小売業者では、消費税率10%への引上げに伴い導入される食品に対する軽減税率に対応するためのシステム構築が間に合わない恐れがあると言われていた。今回の消費税率引上げ延期にホッと胸をなで下ろす向きは少なくない。

ただし、今回の消費税率引上げ延期は、「消費税率引上げ」を前提としていた様々な制度に影響を及ぼすことになる。役員としては、自社への影響を整理しておきたいところだ。以下、項目別に見てみよう。・・・

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2016/06/07 消費税率引上げ延期が企業に与える影響(会員限定)

平成29年4月1日に予定されていた消費税率の10%への引上げが見送られたのは周知のとおり。消費税率引上げによる消費への悪影響が懸念されていただけに、特に一般消費者向けの商品を扱う企業にとっては、歓迎すべき話だろう。また、膨大な点数の商品を扱う小売業者では、消費税率10%への引上げに伴い導入される食品に対する軽減税率に対応するためのシステム構築が間に合わない恐れがあると言われていた。今回の消費税率引上げ延期にホッと胸をなで下ろす向きは少なくない。

ただし、今回の消費税率引上げ延期は、「消費税率引上げ」を前提としていた様々な制度に影響を及ぼすことになる。役員としては、自社への影響を整理しておきたいところだ。以下、項目別に見てみよう。

■ 経過措置の実施時期
まず挙げられる影響として、消費税率引上げに伴う「経過措置」の実施時期の変更がある。

注文住宅やソフトウェア開発等を含む「請負工事」を例にとると、消費税率が当初予定どおり平成29年4月1日から10%に引き上げられた場合には、「平成28年9月30日まで」に請負契約を締結しておけば、完成物の引き渡しが消費税率引上げ後の「平成29年4月1日以降」になったとしても、現在の8%の税率が適用されるとされてきた。

今回、消費税率引上げが「平成31年10月1日」まで2年半延期されたことで、この経過措置も下表のように変更されることになる。

<請負契約に関する新旧経過措置>

平成28年9月30日までに請負契約を締結しておけば、完成物の引き渡しが消費税率引上げ後の平成29年4月1日以降になったとしても、現在の8%の税率が適用される。 平成31年3月31日までに請負契約を締結しておけば、完成物の引き渡しが消費税率引上げ後の平成31年10月1日以降になったとしても、現在の8%の税率が適用される。

消費税率が引き上げられる局面では、経過措置の適用を受けるための駆け込み需要と、その後の反動減が発生しやすい。これを見込んで予算や中期計画を作成している企業は、数値の見直しが必要になる場合も出てくるだろう。

■ 駆け込み需要とその反動減の緩和措置
駆け込み需要と反動減が住宅市場で起きると、関連業界の企業業績や景気への影響が大きい。そこで政府は、その影響を緩和する措置を平成27年度税制改正で講じていたところだ。

具体的には、経過措置が適用されない「平成28年10月1日から平成29年9月30日までに消費税率10%で住宅購入の契約をした者」が贈与を受けた住宅取得等資金に対する贈与税の非課税枠を最大3,000万円(通常1,200万円)まで拡充するものだが、この時期も2年半スライドすることになろう。すなわち、「平成31年4月1日から平成32年3月31日までに消費税率10%で住宅購入の契約をした者」に付与された住宅取得等資金が3,000万円まで非課税とされる。住宅産業関連の企業においては、今後の業績を予想する上でこの点も考慮する必要がある。

また、同じく平成27年度税制改正では、平成29年4月1日からの消費税率引上げを前提に、年間最大50万円の所得税が減税される住宅ローン控除制度の適用期限が「平成31年6月末まで」延長されている。消費税率引上げが延期されたことで、一旦この減税額が縮小されるのか、政府の判断が注目される(景気への影響の大きさを考えると、縮小はされないのではないかとの意見も多い)。

■ 社有車購入時の課税
住宅と並び、消費税率引上げの影響が大きいのが自動車だ。そこで平成28年度税制改正では、平成29年4月1日からの消費税率引上げに合わせ、自動車取得税を同日から廃止するとともに、自動車税および軽自動車税において、自動車取得税のグリーン化機能を維持・強化する「環境性能割」を導入することとしていた。

これらの措置も消費税率引上げが前提となっているため、次回消費税率引上げまで見送られることになるのは確実。社有車の買い換えを検討していた企業は、購入計画を再検討する必要がありそうだ。

■ 転嫁対策
消費税率引上げ局面では、下請業者に対する消費税増税分の値下げ強要などを防止するため、政府は(消費税の)転嫁拒否対策に力を入れてきた。実際、被害を受けた中小企業からの告発等により政府の指導を受け、社名を公表された上場企業も少なくない。この転嫁拒否対策は「消費税転嫁対策特別措置法」に基づいている。同法は平成30年9月30日が適用期限となっているが、これも2年半、すなわち平成33年3月31日まで延期されることになろう。

■ 税抜表示
本来、消費者に商品の販売やサービスの提供を行う際には、消費税額は販売価格と合わせて「総額」で表示しなければならないが(事業者間取引では消費税は別表示でOK)、消費税率が5%→8%→10%と段階的に上がっていく局面では、価格表示の改訂に膨大な手間とコストがかかることから、上記の消費税転嫁対策特別措置法により、平成30年9月30日までは「税抜き表示」が認められている(これを「総額表示義務の特例」という)。この税抜き表示も平成33年3月31日まで認められることになるだろう。商品のパッケージやチラシの作成スケジュールに組み込んでおきたい。

■ 軽減税率・インボイス制度
食品・外食業界に大きな混乱を招く恐れがあると言われる軽減税率は、消費税率10%への引上げとともに平成29年4月1日から導入される予定だったが、当然ながら次回消費税率引上げ(平成31年10月1日)まで先送りされることになる。

軽減税率の導入を受け、インボイス方式が平成33年4月1日から導入される予定となっているが、これも先送りされるのかどうか、企業の事務負担や販売時・購買時の手続きへの影響が大きいだけに、注目される。インボイス方式自体は消費税の納税の健全化につながることから、当初予定どおり導入されるとの見方もある。

インボイス方式 : インボイス(送り状、納品書などと訳される)とは、仕入先が購入者(販売先)に対して発行する商品価格、仕入先に支払われた税額などが明記された書類のことを指す。購入者が消費税の仕入税額控除を行うにあたり、購入者にこのインボイスの提出を義務付ける手法が「インボイス方式」である。インボイスの提出がない場合、購入者は(消費税を支払った証拠がないとして)仕入税額控除をすることが認められない。

■ 地方法人税
消費税率が引き上げられた場合、東京都のような地方交付税の不交付団体では地方消費税の増税分だけ増収となる一方、地方では地方消費税の増加分だけ地方交付税が減少するため、両者の税収格差がますます拡大するという問題が起こる。

そこで平成28年度税制改正では、法人住民税法人税割の一部を、全額が交付税の原資となる地方法人税に組み替えるとともに、これまで偏在是正の臨時措置として存在した地方法人特別税を廃止する一方で、恒久措置として地方法人税を拡大したところだが、これらの改正も消費税率の引上げが前提となっていたため、見送りとなるのは確実だ。

あくまで税目の名称の話であり、企業の税負担に変化があるわけではないが、各税目の税率が変わるだけに、経理担当役員は注意が必要だろう。

2016/06/06 サクセッションプランの透明性はどこまで必要?

歴代社長経験者が次期社長を決めるという密室人事が不祥事の一因となった東芝や、次期社長の選任を巡り混乱を見せたセブン&アイの事例を踏まえ、今月(2016年6月)に集中する株主総会では、サクセッションプラン(後継者の選任計画)に対する投資家の関心が高まりそうだ。

コーポレートガバナンスコードの補充原則4-1③では、取締役会の責務として「最高経営責任者等の後継者の計画(プランニング)について適切に監督を行うべき」としているが、同原則が求めているのはあくまで「後継者の計画(プランニング)」の“監督”にすぎず、具体的な候補者のリストアップをはじめとする後継者計画そのものについては、少なくとも第一義的には主に最高経営責任者の専属事項であることが少なくない。ただ、取締役会による適切な監督を可能とするためには、リストアップされた候補者名について一定の透明性が確保されることが望ましいところだ。そこで、例えば、候補者リストのレイヤー(階層)に応じて、以下のような線引きをすることが考えられる。・・・

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2016/06/06 サクセッションプランの透明性はどこまで必要?(会員限定)

歴代社長経験者が次期社長を決めるという密室人事が不祥事の一因となった東芝や、次期社長の選任を巡り混乱を見せたセブン&アイの事例を踏まえ、今月(2016年6月)に集中する株主総会では、サクセッションプラン(後継者の選任計画)に対する投資家の関心が高まりそうだ。

コーポレートガバナンスコードの補充原則4-1③では、取締役会の責務として「最高経営責任者等の後継者の計画(プランニング)について適切に監督を行うべき」としているが、同原則が求めているのはあくまで「後継者の計画(プランニング)」の“監督”にすぎず、具体的な候補者のリストアップをはじめとする後継者計画そのものについては、少なくとも第一義的には主に最高経営責任者の専属事項であることが少なくない。ただ、取締役会による適切な監督を可能とするためには、リストアップされた候補者名について一定の透明性が確保されることが望ましいところだ。そこで、例えば、候補者リストのレイヤー(階層)に応じて、以下のような線引きをすることが考えられる(下図参照)。

<候補者リストアップのレイヤー(階層)>
19380

それぞれについて説明しよう。

まず、ピラミッドの一番下の「中長期」層は、将来の役員候補として育成対象となる者を指す。ここにリストアップされる者は相当な数に達することもあるため、この段階で個人名を明らかにすることは必ずしも必要ではないだろう。取締役会としては、役員トレーニングの実施状況を監督する一環として、常に「適切な人数」がストックされていることを確認できればよいだろう。

次に「次期経営者候補」層だが、この段階まで来ると、候補者の個人名を明らかにするのが望ましいだろう。後継者指名プロセスにおいて適切な監督を行うためには、取締役であれば取締役会における討議への参画、執行役員であれば取締役会に対する報告などを通じて、平時から独立社外取締役が当該人物を「経営者候補」と意識できた方がよいからだ。

最後の「緊急時の代替人材」のリストはコンティンジェンシープラン(危機管理計画)の一部として用意されるものであり、取締役会内に限定せず、個人名を周知(明示または暗示)することも選択肢となる。これは、いざ有事が起きた際には、社内外の動揺を抑える効果が期待されるため。あらかじめ「代表権」を付すことを検討しておいてもよさそうだ。