2016/05/16 顧客の名刺は会社の物か

従業員が持つ名刺の共有化を図る会社が増えていることからも分かるように、名刺はネットワークを広げるうえでの“財産”となり得る。そこで問題となるのが、退職する従業員が業務上入手した顧客(候補)等の名刺の取り扱いだ。

会社としては「名刺は顧客情報であり、会社の所有物である」と主張したいところだが、退職する従業員は「自ら築いた人間関係によって入手したものであり、個人の所有物である」と主張するかもしれない。

この点が争われた過去の裁判を見ると、・・・

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2016/05/16 顧客の名刺は会社の物か(会員限定)

従業員が持つ名刺の共有化を図る会社が増えていることからも分かるように、名刺はネットワークを広げるうえでの“財産”となり得る。そこで問題となるのが、退職する従業員が業務上入手した顧客(候補)等の名刺の取り扱いだ。

会社としては「名刺は顧客情報であり、会社の所有物である」と主張したいところだが、退職する従業員は「自ら築いた人間関係によって入手したものであり、個人の所有物である」と主張するかもしれない。

この点が争われた過去の裁判を見ると、「営業秘密に該当する場合」(名古屋地判H20.3.13等)と「特約のある場合」(東京地判H17.6.27等)には会社の言い分が肯定されているのに対し、これらに該当しない場合は従業員側の言い分が認められている(知財高判H24.2.29等)。

では、会社の言い分が肯定された「営業秘密に該当する場合」「特約のある場合」とは具体的にどのような状態を指すのだろうか。

まず「営業秘密」に該当するには、名刺が「施錠された書庫に保管する(紙の場合)」「一部の者だけアクセスできるようパスワードを設定する(データ化した場合)」等“厳重な管理下”に置かれ、退職者もそれが営業秘密であることを容易に認識できる状態になければならない。会社が「名刺=営業秘密」と主張するのであれば、これらの措置を講じておく必要がある。一方の「特約のある場合」とは、「退職時には業務上入手した名刺を会社に返却すること」といった取り決めが、労働契約(就業規則を含む)に定めている状態を指す。

そこで、機密管理規程や就業規則に名刺の管理や退職時の返却について記載しておけばよいかというと、そう簡単な話ではない。この種の訴訟では、「就業規則の記載内容が従業員に周知されていたかどうか」が、しばしば争点になるからだ。したがって、会社としては、就業規則等に定めておくほか、「機密管理に関する誓約書」に顧客の名刺についても明記したうえで、これを各従業員と交わしておくのが望ましい。

また、昨今話題の「顧客の名刺をデータ化して全社で管理する」といったシステム(もしくはルール)は、「営業秘密としての管理」の面でも有効なので、導入を検討する価値はあるだろう。

顧客の名刺が不正利用されて会社が損害を被った場合、会社は損害賠償を求め、また、不正競争防止法事案として公訴を求めることも可能だが、そのような事態にならない方が両者にとって望ましいことは言うまでもない。会社によって方針の違いはあろうが、退職後には使わない(はずの)顧客の名刺は会社に置いていかせる仕組みを作っておくことも一考に値しよう。

公訴 : 検察官が裁判所に起訴状を提出し、審判を求めること。

2016/05/13 役員トレーニングに関するCG報告書への虚偽記載

6月の株主総会を目前に控え、総会後に証券取引所に提出するコーポレートガバナンス報告書(以下、CG報告書)の作成に追われている企業も多いことだろう。コーポレートガバナンス・コード導入から間もなく1年が経過し、2回目の提出となる今回、各社がどのように内容をブラッシュアップしてくるのか投資家の関心も高い。

こうした中、「前回よりも見栄えの良い内容にしたい」という気持ちが働くのは理解できるが、だからと言って、「虚偽」の内容を記載するのは危険だ。実際、・・・

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2016/05/13 役員トレーニングに関するCG報告書への虚偽記載(会員限定)

6月の株主総会を目前に控え、総会後に証券取引所に提出するコーポレートガバナンス報告書(以下、CG報告書)の作成に追われている企業も多いことだろう。コーポレートガバナンス・コード導入から間もなく1年が経過し、2回目の提出となる今回、各社がどのように内容をブラッシュアップしてくるのか投資家の関心も高い。

こうした中、「前回よりも見栄えの良い内容にしたい」という気持ちが働くのは理解できるが、だからと言って、「虚偽」の内容を記載するのは危険だ。実際、先般、社長の射殺事件に反社会的勢力が関わっているとして第三者委員会が報告書をまとめるに至った王将フードサービス(「役員と会社の失敗学第23回 王将フードサービスの事例」参照)では、コーポレートガバナンス・コードに対応したCG報告書への虚偽記載を第三者委員会が見つけ、その事実を公表されている。

同社の虚偽記載は役員のトレーニングや行動規範に関するものだ。同社のCG報告書には、「全役員がその機能を十分に果たすことを可能とするため、eラーニング等を活用した知識習得の機会を提供するとともに、社外役員に対しては、当社の経営と業務についての理解を深めるための情報提供」「コンプライアンス意識の啓発をうたう行動規範を定めて、教育の実施及び小冊子の配布」を行っている旨の記載があったが、実際にはeラーニングを用いた研修が提供されたことはなく(過去の研修記録からもその事実を確認することはできず)、また、行動規範を周知徹底するための「小冊子」なるものも存在しなかった。

確かに、eラーニングの不実施や小冊子の不配布は外部からは見えにくいかもしれないが、だからと言って、虚偽記載をすることが許されるわけではない。ガバナンス報告書に記載されている内容が事実と異なっている以上、これは虚偽記載に他ならないため、事実通りの記載に訂正し、遅滞なく修正後のCG報告書を提出し直す必要がある。

また、CG報告書を“ひな形的文言”で済まそうとすることにもリスクがある。コーポレートガバナンス・コードに対応したCG報告書の内容は企業によって様々だが、各社の報告書を見ると、開示に「先進的」な企業と「後進的」な企業に分けることが可能になりつつある。「先進的な企業」は自社の言葉で語ろうとしている点が特徴的であるのに対し、「後進的な企業」はおしなべて“ひな形的文言”で取り繕っている様子が見て取れる。「コンプライしていないとは言えないから」という理由で“ひな形的文言”で取り繕った場合に、つい実態が伴っていない記載内容、ともすれば「虚偽記載」にもなりかねないので要注意だ。

2016/05/12 (新用語・難解用語)確約制度

独占禁止法違反の疑いがある企業や事業者団体等(以下、事業者)が当該疑いを排除するための措置の実施を公正取引委員会に確約することで、問題を自主的に解決する制度

昨年(2015年)秋に大筋合意に達したTPP協定の競争政策章で「合意により事件を解決する制度」、すなわち確約制度の導入が求められたことを受け、これを国内で実現するため、独占禁止法改正案が今(2016年)通常国会に提出されている。確約制度が導入されれば、事業者は、公正取引委員会による調査に対応するコスト・時間を削減できるとともに、独占禁止法違反と認定されることを防ぐことが可能になる。

確約制度の具体的な手続は以下のとおりとなる。・・・

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2016/05/12 (新用語・難解用語)確約制度(会員限定)

独占禁止法違反の疑いがある企業や事業者団体等(以下、事業者)が当該疑いを排除するための措置の実施を公正取引委員会に確約することで、問題を自主的に解決する制度。

昨年(2015年)秋に大筋合意に達したTPP協定の競争政策章で「合意により事件を解決する制度」、すなわち確約制度の導入が求められたことを受け、これを国内で実現するため、独占禁止法改正案が今(2016年)通常国会に提出されている。確約制度が導入されれば、事業者は、公正取引委員会による調査に対応するコスト・時間を削減できるとともに、独占禁止法違反と認定されるのを防ぐことが可能になる。

確約制度の具体的な手続は以下のとおりとなる。
(1)事業者が、公正取引委員会から、独占禁止法違反の疑いのある行為の概要・法令の条項の通知を受ける。
             ↓   
(2)事業者が、違反状態の排除措置計画を自主的に作成・申請。
             ↓ 
(3)公正取引委員会が、当該排除措置が「違反の疑いのある行為を排除するために十分であり、かつ、排除措置が確実に実施される」と認定した場合には、排除措置命令課徴金納付命令を行わないことを決定。

排除措置命令 : 独占禁止法違反行為をした企業等に、速やかにその行為をやめさせ、市場における競争を回復させるために必要な措置を命じること。
課徴金 : カルテルの場合、「違反行為対象商品等の売上高」に対し、製造業の場合は10%、小売業の場合は3%、卸売業の場合は2%。

要するに、確約制度とは、企業が公正取引委員会と双方向のやり取りをし、自主的に改善提案をする機会を認められることを法律によって明示するものと言える。企業から見れば、公正取引委員会による調査への対応の選択肢が増えることになるため、決して悪い話ではない。

もっとも、現時点では、被疑事実について公正取引委員会からどの程度の開示が行われるのか、また、違反の疑いがある行為すべてについて通知が行われるかは明確ではなく、実際にどれくらい企業がこの制度を利用することになるのかは未知数である。

なお、独占禁止法改正法案はTPPの発効にあわせて施行される。

2016/05/11 役員報酬、他社との比較の仕方は?

コーポレートガバナンス・コード原則4-10①が役員の報酬について「任意の諮問委員会」の設置を勧めていることを受け、会社法上報酬委員会の設置が義務付けられていない監査役会設置会社や監査等委員会設置会社においても報酬(諮問)委員会を設置するところが増えているが、報酬を検討する際に欠かせないのが・・・

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2016/05/11 役員報酬、他社との比較の仕方は?(会員限定)

コーポレートガバナンス・コード原則4-10①が役員の報酬について「任意の諮問委員会」の設置を勧めていることを受け、会社法上報酬委員会の設置が義務付けられていない監査役会設置会社や監査等委員会設置会社においても報酬(諮問)委員会を設置するところが増えているが、報酬を検討する際に欠かせないのが他社との比較(ベンチマーク)だ。

役員の中には、「ベンチマークする必要なんてあるのか?自社の経営のあり方が明確であれば、このくらい払えばよいという判断くらいつくだろう」という本音をこぼす向きも見受けられるが、こうしたマネジメントの意思・方針(ある意味で、荒削りな『報酬の方針』とも言える)はむしろあるのが当たり前で、それが無いようではお話にならない。その上で、「その報酬水準や報酬構成比が世間一般のプラクティスや比較企業の状況に照らしてどのくらい乖離があるのか、もしくは同じような状況であるのかを客観的に審議するプロセス」こそが「ベンチマーク」と言える(ウイリス・タワーズワトソンの経営者報酬部門でコンサルタントを務める小川直人氏)。この数年で各社において社外取締役の選任が進み、株主等の関心が社外取締役を「選任」すること自体から選任後の「役割」に移行する中で、役員報酬の検証は社外取締役に期待される「利益相反の解消」の最たる例だろう。

他社との比較と言うと、法定の開示書類である有価証券報告書(有報)の活用が思い浮かぶところだが、実は有報で他社の正確な報酬水準を把握するのは難しい。というのも、有報に記載されている金額はあくまで「会計上のコスト」(実額)であり、報酬パッケージの標準額(いわゆるターゲット額)が分からないのはもちろんのこと、その期において役員として1年間フルに在籍していなかった人(例えば「9か月」や「3か月」)の報酬も含まれる可能性があるため、有報に記載された報酬総額を単純に人数で割っても、役員1人当たりの報酬実額は正しく出て来ないからだ(員数の増減の問題)。また、例えば3年間で権利が確定するストックオプションであれば、その期に費用計上されるのは1/3であることが多いため、自社の役員の長期インセンティブを検討する際のベンチマークにもしづらい(長期インセンティブにおける費用計上方針及びその差異の問題)。さらに、報酬の要素別開示の仕方も会社によってバラバラであり、役員報酬の総額が単に「年俸」として表示されているだけで、内訳が分からない企業もあれば、翌年12回払いの変動報酬(賞与)の開示形式についても各社によって差異がある。したがって、他社の有報の数字との比較により自社の報酬額について意思決定するのは危険と言えよう。

他社との報酬比較においては、各種のサーベイ(調査)を活用したい。例えば労政時報や政経研究所などは役員報酬の調査結果をまとめ、刊行している。ただ、これらの刊行物は総じて参加企業の規模が小さいため、会社によっては自社の比較企業として妥当であるかどうか慎重な判断が必要になろう(労政時報の場合、参加企業の過半数は従業員数1,000人未満の企業)。また、組織人事コンサルティング会社も役員報酬のサーベイを実施している。諸外国と比べた日本の独自性としては、報酬水準が「専務」や「常務」などの役位に応じて決定されていることが挙げられる。このため、日本ではこれらのサーベイも役位別に集計するのが主流となっている。有報の開示情報と異なり、役位ごとの報酬水準(標準額、実額)・報酬ミックス(基本報酬、年次賞与、長期インセンティブの構成比)の妥当性を検証することができ、報酬委員会の審議において客観性の高い議論が可能となる。役員報酬はセンシティブなテーマだけに、他社と意見交換するというのも難しい。有報で「第三者機関による調査を参考に現行制度・水準を検証している」旨開示している会社をしばしば見かけるが、今後は日本でも欧米のように組織人事コンサルティング会社を活用するケースは増えて行くだろう。

<取材にご協力いただいたウイリス・タワーズワトソン 小川直人氏の連絡先>
ウイリス・タワーズワトソン
経営者報酬部門 コンサルタント 小川 直人
03-3581-6786
naoto.ogawa@willistowerswatson.com

2016/05/10 セブン&アイで実証されたコーポレートガバナンスの「形」による効能

4月28日、セブン&アイ・ホールディングスが5月26日開催の定時株主総会に関する株主総会参考書類等を東証ウェブサイトに開示した(発送は5月4日)。そこでは、第2号議案「取締役14名選任の件」において、その付議に至った経緯を以下のように説明している。

① 指名・報酬委員会による検討の結果、社内役員が提出した原案は承認されなかった
② 同委員会の答申に従って取締役会が審議したところ、原案は過半数を得られず否決された
③ 後に生じた与件も踏まえ、同委員会は新たに本案を組成して取締役会の承認を得た

与件 : 前提として与えられている条件

資本市場は、一連の動きを「コーポレートガバナンスが機能した事例」として高く評価しているようである。

では何故、これがセブン&アイで実現したのだろうか。一つの解釈として、・・・

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2016/05/10 セブン&アイで実証されたコーポレートガバナンスの「形」による効能(会員限定)

4月28日、セブン&アイ・ホールディングスが5月26日開催の定時株主総会に関する株主総会参考書類等を東証ウェブサイトに開示した(発送は5月4日)。そこでは、第2号議案「取締役14名選任の件」において、その付議に至った経緯を以下のように説明している。

① 指名・報酬委員会による検討の結果、社内役員が提出した原案は承認されなかった
② 同委員会の答申に従って取締役会が審議したところ、原案は過半数を得られず否決された
③ 後に生じた与件も踏まえ、同委員会は新たに本案を組成して取締役会の承認を得た

与件 : 前提として与えられている条件

資本市場は、一連の動きを「コーポレートガバナンスが機能した事例」として高く評価しているようである。

では何故、これがセブン&アイで実現したのだろうか。一つの解釈として、同社が構築していたコーポレートガバナンスの「形」が優れていたということが考えられる。同社のコーポレートガバナンスの特徴として以下の3つが挙げられる(定時株主総会が開催される前の現状ベース)。

人数の「形」 独立社外取締役が4名選任されており、独立社外監査役(3名)も含めると取締役会出席者(取締役14名、監査役5名)の3分の1超を独立役員が占める
資質の「形」 日本におけるガバナンス改革の理論的支柱となった「伊藤レポート」の取りまとめプロジェクトの座長を務めた伊藤邦雄 一橋大学大学院商学研究科特任教授や、日本企業での社外取締役経験が豊富な外国人の研究者を招聘している
組織の「形」 独立社外取締役を委員長とする「指名・報酬委員会」を設置し、ここで代表取締役および取締役、執行役員の指名・報酬について審議する体制としている

以上の「形」があったからこそ、上述の①で社内役員の原案に「待った」が掛かり、②で社外役員の意見が審議に強い影響力を及ぼし、③で原案に代わる本案の組成に至ったと言える。1つでも欠けて(不足して)いれば、今回のような結果に至るのは難しかっただろう。

上述の①~③の経緯を見る限り、経営陣幹部に「実質」の伴ったガバナンス改革に対する意欲が旺盛だったとは考えにくい。同社は外国人株主比率が35%超と高く、そこには著名な米国アクティビストも含まれる。また、同業で凌ぎを削っているイオンは指名委員会等設置会社であり、過半数が社外取締役という堅固なガバナンス体制を構築しているということも、同社のガバナンス体制に影響を与えた可能性が高い。つまり、同社は業界のリーディングカンパニーとして、ガバナンス体制の「形」を重視せざるを得ない状況にあったと想定される。その「形」が、今回経営陣幹部の「瑕疵」を咎めたと解釈することは可能だろう。

ここでいう「瑕疵」とは、「サクセッションプランの不存在」ということに尽きる。今回の事態を単純化すれば、経営陣幹部が「100点満点ではない後継者を排除」しようとしたのに対して、社外取締役は「80点の後継者を残して事業継続性を確保する」ことを求めたように見える。20年前なら問題なかっただろうし、10年前でも説明次第で経営陣幹部の思惑通りに事は進んだかもしれない。今回の一件は、同社が構築してきたコーポレートガバナンスの「形」が「事業継続性を優先せざるを得ない」と合理的に判断した、と総括することができそうだ。