“横浜マンション傾斜事件”では、当事者である旭化成建材のみならず、親会社の旭化成も矢面に立たされたように、子会社が不祥事を起こした場合には親会社も責任を問われかねない。それを未然に防ぐ役割を期待されるのが子会社の監査役だが、この役割を果たせていないことも多いのが現状だ。
会社法上、非公開会社(株式の譲渡制限を設けている会社)には、監査役や監査役会を設置しないという選択肢も認められている。また、監査役会を設置していない会社の監査役は、「社外性」も問われず、常勤である必要もない。このため、子会社が非公開会社の場合、親会社の経理部長や法務部長などの社員が「非常勤監査役」に就任していることが多い。常に子会社にいるわけではないうえ、親会社の社員としての業務も忙しいとなれば、必然的に子会社の監査役としての仕事は疎かになりがちだ。監査役による監査には、「取締役の業務遂行の適法性」を監査する業務監査と、会社法上の財務諸表である計算書類を監査する「会計監査」があるが、このうち会計監査の内容がずさんでミスが多いという例がしばしば見受けられる。
監査役監査の成果物としては、監査後の計算書類と監査結果(業務監査を含む)を記した監査報告書しかない。逆に言うと、第三者が監査役による監査結果を確かめるにはこれらの書類を見るしかないということだ。上述のとおり、このうち「監査後の計算書類」の記載内容に間違いがあるとなると、「一体何を監査したのか?」ということにもなりかねない。
よく見かける間違いとしては以下のようなものがある。
| ・消費税申告書を作成した結果、消費税の納税が必要になった場合には貸借対照表に「未払消費税」を計上し、還付金が発生すれば「未収消費税」を計上することになっている(ただし、金額的重要性がなければ独立掲記されない場合もある)が、これが「仮払消費税」「仮受消費税」のままになっていた(消費税の申告書を作成した結果、消費税の未払(未収)の額は確定しているにもかかわらず「仮払い」「仮受け」のままになっており、消費税申告書の作成に際し算定した未払(未収)消費税の額が貸借対照表に反映されていない)。
・所有権移転外ファイナンス・リース契約に基づきリースしている資産を貸借対照表に資産計上しているにもかかわらず、資産計上したリース資産に対応するリース債務が計上されていなかった(リース債務は「未払費用」に含まれており、これをリース債務に振り替えて独立掲記するのを失念していたことが原因)。
・貸借対照表では「役員退職慰労引当金」と記載されているが、個別注記表では「役員退職慰労金」となっていた(勘定科目名の間違い)。
・平成20年に「棚卸資産の評価に関する会計基準」が施行され、既に低価法は廃止されているにもかかわらず(したがって、現在は原価法)、会計方針欄に「棚卸資産の評価方法として低価法を採用している」旨の記載があった。
・リース取引の会計方針が、平成19年に改正される前のリース取引に関する会計基準に従った記載のままとなっていた。
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所有権移転外ファイナンス・リース : 満期まで解約が不能など、実質的には借り手が資産を購入し、代金を割賦で支払うに等しい「ファイナンス・リース」の1つ。ただ、「所有権移転外」という言葉のとおり、所有権は借り手には移転しないため、ファイナンスリースとオペレーティングリース(「物を貸して賃貸料をもらう」という元来のリース)の中間に位置付けられる。
個別注記表 : 会計処理等について補足的な情報を提供した一覧表のこと
低価法 : 取得原価と時価を比較し、どちらか低い方の価格で評価する方法
原価法 : 取得時の原価で評価する方法。ただし、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、強制的に正味売却価額まで貸借対照表価額を下げる。
平成19年に改正される前のリース取引に関する会計基準 : 一定の注記を条件に、通常の賃貸借取引と同様、リース料を費用計上するという会計処理が認められていた。
このような誤りは、一定の会計の素養がある者がある程度注意を払って監査を行えば容易に発見できるものだ。もちろん、計算書類を作成している経理担当者にも問題はあるかもしれないが、そういったことを是正するのが監査役の仕事である。何より、この程度の誤りすら見つけることのできない監査役が会計監査を適切に遂行できているはずがなく、ましてや子会社の経理不正を見つけることは期待できない。
子会社が会社法上の大会社に該当しなければ会計監査人(公認会計士・監査法人)の設置は任意とされており、会計監査人を設置していないケースが多い。会計監査人がいなければ、監査役が自ら会計監査をやるしかないのだが、そのような会社ではそもそも監査役が準拠している監査基準さえ不明確であることが多い。監査役が準拠すべき監査基準の一例として、日本監査役協会が出している「監査役監査基準」があるが、会計監査に関する記載を見れば分かるように、これは会計監査人がいることを前提として、「会計監査人が実施した監査の方法と結果の相当性についての意見表明」が中心の内容となっており、会計監査人がいない会社の監査役の参考にはならない。会計監査人のいない会社の監査役が参考にするのであれば、同協会から出されている「会計監査人非設置会社の監査役の会計監査マニュアル」の方が適している。
また、親会社の監査役が中心となって、子会社の監査役の会計監査能力を向上させるためのプログラムを提供するのも一案だ。グループ内での研修や討議、外部研修などを通じて子会社の監査役が育っていけば、その中から将来の親会社の監査役候補を選抜することもできる。
大会社 : 資本金5億円以上または負債総額200億円以上の株式会社
会計監査能力が向上すれば、業務監査の向上も期待できる。これは、取締役の不正が結果として会計面に反映されることは少なくないため。子会社の監査役による会計監査が機能すれば、グループ全体における監査の効率が高まるだけでなく、“グループ・ガバナンス”にも貢献するはずだ。