採用活動(若年者雇用)を取り巻く状況
採用活動について考える前に、若年者雇用を取り巻く状況を見ておきましょう。
(1)人口減少社会における現状と今後
まずは、我が国では既に深刻な人口減少が始まっていることを認識しておく必要があります。15~64歳の「生産年齢人口」のピークは1995年の8,726万人です。それから19年後の2014年の生産年齢人口はピーク時から約1,000万人も減少しており、さらに2060年には4,418万人とピーク時の半分近くまで減ってしまうとの推計があります(総務省「人口推計」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2012年1月推計、出生中位[死亡中位]推計)」)。また、就業者数も、2030年には2014年に比べ790万人減少する可能性があるとされています(厚生労働省「雇用政策研究会報告書」(2015年12月)において、「経済成長と労働参加が適切に進まないケース」の数値)。
人口に関する推計は余程のこと(例えば移民の受け入れなど)がない限り大きく変わることはありません。つまり、企業は人口減少、労働力不足が今後さらに加速していく中で採用活動を行なっていかなければならないということです。
図表1 就業者数の将来変化の推計(2014→2030年)

(2)新卒者の定着・離職状況
一時期“七五三現象”と言われていた若年者の離職率は近年どうなっているでしょうか。厚生労働省の調査によると、2012年3月卒の新卒者における就職後3年以内の離職率は、中学卒で65.3%(2001年72.3%)、高校卒で40.0%(同48.9%)、大学卒で32.3%(同35.4%)でした。いずれも以前に比べると下がっていますが、いまだ大卒者は3人に1人が3年以内に離職しています。企業からすれば、せっかく採用した者が早期に離職するということは、採用活動に費やした長い時間と社員の労力が無駄になったということを意味しており、採用活動に携わった社員のモチベーションの低下を招く恐れもあります。
七五三現象 : 就職してから3年以内に中卒者の7割、高卒者の5割、大卒者の3割が離職する現象のことをいう。
若年期における早期離職は、その後の不安定雇用や繰り返される離転職の契機となり、生涯にわたるキャリア形成ができにくくなるだけでなく、結婚・出産年齢の上昇などにもつながり、日本が直面している人口減少・少子化対策においても悪影響を与えることになります。最近は企業の平均勤続年数や新入社員の定着率などに注目する株主等のステークホルダーも出てきており、経営陣は企業の社会的責任という観点からも看過できない問題として認識する必要があります。
図表2 若年者の離職状況

人口減少によって若年者を中心に人手不足が一層深刻化し、優秀な人材の争奪戦がさらに激化する中、経営陣は多くの労力とコストを割いて採用した新入社員が早期に離職しないようにしながら、自社の社員として戦力となる人材へと育成していかなければならないとの認識・危機感を持ち、これを社内で共有するよう努めることが求められます。これができなければ、最も重要な経営資源が「人材」である多くの日本企業では、(たとえ短期的には問題がなかったとしても)持続的な成長・発展にブレーキがかかることになるでしょう。
(3)経団連「採用選考に関する指針」の改定
採用活動においては、守らなければならない法律や尊重すべきルールもあります。
まず、新卒予定者に対する職場情報の提供の義務化などを盛り込んだ若者雇用促進法です(2015年10月1日施行済。ただし、職場情報の提供義務化は2016年3月1日施行予定)。同法は、雇用のミスマッチを軽減するため、新卒者等から企業情報の提供を求められた場合には、①募集・採用、②雇用管理、③職業能力の開発・向上――の3つの類型に関する情報を、①~③から最低1つずつ提供することを企業に義務付けています。
もう1つは、経団連が2015年12月に改定した「採用選考に関する指針」です。経団連の指針というと、経団連に加盟していない企業は「ウチには関係ない」と思うかも知れませんが、その認識は改めるべきです(理由は後述)。
かつての経団連のルール(採用選考に関する企業の倫理憲章)では、採用に関する広報活動(セミナー・会社説明会)の開始は「卒業・修了学年前年の12月1日以降」、選考活動(面接・試験)の開始は「卒業・修了学年の4月1日以降」とされていましたが、2013年4月、安倍総理は経済3団体(経団連、日本商工会議所、経済同友会)に対し採用選考活動時期の“後ろ倒し”を要請しました。これを受け、経団連は新たに「採用選考に関する指針」(2016年度入社分から適用)を策定し、広報活動は「卒業・修了前年度の3月1日以降」、選考活動は「卒業・修了年度の8月1日以降」と、広報活動、選考活動とも開始日を大幅に後ろ倒ししました。ところが、「学生の学習時間の確保」と「海外留学の促進」という政府の思惑とは裏腹に、採用活動はかえって長期化し、企業・学生双方に悪影響を与えたとの指摘が多数なされました。
図表3 2016年度入社の採用選考活動でみられた主な問題点
① 学生(特に理系院生)の学事日程・研究活動に多大な支障をきたした。
② 広報活動期間が5か月間の長期に及び、中だるみする学生が多く見られた。
③ 学生に酷暑の中での就職活動を強いることになった。
④ 学生の部活動に支障をきたした。
⑤ 大学教授等からの苦情が多く寄せられた。
⑥ 学校推薦の対応等、大学側の足並みが揃わず、企業の負担が高まった。
⑦ 経団連「採用選考に関する指針」を遵守した企業が不利益を被った。
⑧ 中堅・中小企業において内々定辞退者が多発し、採用選考活動が長期化した。
⑨採用担当者の業務量が増加しただけでなく、社員のワーク・ライフ・バランスにも支障が生じた。
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そこで経団連は再び「採用選考に関する指針」を改定(2017年度入社分から適用)、広報活動の開始時期は変更せず(卒業・修了前年度の3月1日以降)、選考活動の開始時期を「卒業・修了年度の6月1日以降」と、2か月前倒ししています。ただし、6月1日はまだ夏休み前であり授業などが行なわれていることから、同指針では、面接や試験の実施に際し、①余裕を持った事前連絡、②授業やゼミ、実験、教育実習などの時間と重ならないような日程設定、③土日・祝日、平日夕方以降の時間帯の活用――など、学事日程等に対する一層の配慮を求めています。また、留学経験者を対象に別途採用枠を設けるなどの措置を採っている場合には、自社のホームページ等で積極的に公表することも促しています。
図表4 経団連「採用選考に関する指針」(2015年12月改定)のポイント

また、経団連の指針改定を受けて、2015年12月10日には、政府の取組みとして、内閣府、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の各担当局長の連名で、約450の経済団体と業界団体の長に対し、同指針の内容を踏まえた採用活動を行なうよう要請する文書が出されています。したがって、経団連の会員企業でなくても、同指針に則った活動を行なうべきでしょう。同指針を順守することを決定した場合には、その旨を自社のホームページや採用関連資料に掲載するなどして、学生や学校関係者などにPRするよう努めることが望まれます。
人材不足時代における採用活動の方向性
企業が継続して成長を続け、その果実を労働条件の向上などの形で社員に適正に分配し、それを受けて社員がさらに生産性や付加価値の向上に取り組むという「企業内での好循環」の実現は、自社の現在に目を向けるだけでなく、将来ビジョンを見据えた人材確保ができるかどうかにかかっています。
仮に現状では優秀な人材のおかげで順調に成長していたとしても、その代わりとなる社員、後継者がいなければ、将来に対して大きな不安を抱き続けることになります。経営者は現状を意識しつつも、常にその先を考えていなければなりません。自分が役員でいる間だけ事業が順調にいったとしても、将来を担う人材の確保・育成を怠れば、経営者失格の誹りは免れないと肝に銘じておくべきです。
こうした観点から、企業が採用活動を進める際のポイントを挙げてみましょう。
(1)採用したい人材像を具体化する
自社の求める・自社に相応しい人材像を明確にすることはもちろんですが、今回の採用活動で特に採りたい人材は具体的にどういう人なのかを明らかにしておくことが肝要です。
経団連の「2015年度新卒採用に関するアンケート調査結果」によれば、選考時に特に重視した要素(5つまで選択)は「コミュニケーション能力」が12年連続でダントツの1位(85.6%)で、以下「主体性」(60.1%)、「チャレンジ精神」(54.0%)が上位3つを占めており、この傾向に大きな変化はありません。これらの能力・要素はマストとして、それとは別に、今回の採用活動において採用すべき人材、すなわち、自社の将来ビジョンや現在の人材戦略に照らして、どのような得意分野・スキルを持っている人材を求めているのかを明らかにし、事前に応募してくる学生に周知できるとベターです。
そして、そのような人材を採用するためには、実際の選考活動、特に面接の場面において、その時の面接官の好みや気分によって合否が左右されることのないよう、できるだけ客観的な採用基準を決め、これをすべての面接官や最終面接を行う役員が共有しておく必要があります。
図表5 選考時に特に重視した要素(5つまで選択)

(2)効果的な採用(募集)活動を考える
①採用(募集)の方法
採用したい人材像を明確にしたものの、望むような人材からの応募が来ないといった声は多くの企業で聞かれます。ここで重要なのは、どのような採用(募集)活動を行なうのか、言い換えれば、どのような「方法」で行なうのかということです。
自社ホームページにおける採用説明会への参加募集や、就職支援会社を活用した広告掲載などのほか、大学の学内セミナーへの参加、大学の就職課への訪問、特に理系学生の採用にあたっては、採用担当者が大学教授を直接訪問して学生の推薦を依頼することもあると思います。これは有効な方法であると思いますが、訪問の際には「なぜこの大学なのか、なぜこの教授に依頼しに来たのか」をしっかりと先方に伝えられるようにしておくことが最低限必要です。意外にこの点がおざなりになっているうえ、売手市場のときだけ依頼をしてくるような企業も少なくないとの話も聞きます。そのような企業に自分の愛弟子であるゼミ生を出したくないと言っている大学教授も実際に存在します。耳の痛い話かも知れませんが、企業は真摯に受け止め、誠実に対応しなければなりません。
②採用(募集)活動のタイミング
応募者である学生が情報収集に動き出すタイミングを踏まえることも非常に重要です。
転職者は、年(年度)初めである1月(4月)入社に向けて、その1~2か月前から動き出す傾向がありますが、新卒の場合、経団連の指針に則れば採用選考活動の開始時期は卒業・修了年度(4年制大学であれば4年生)の6月1日以降ですので、企業はそれに合わせて万全の準備をしておかなければなりません。特に今年は、広報活動開始から採用選考開始までの期間が2か月短縮されて3か月間(3~5月)しかありませんので、より効率的な広報・採用活動が必須となります。学生からの問い合わせ等にスムーズに対応することはもちろん、自社からの情報発信もさまざまなツールやチャンネルを活用して行うことを検討する必要があります。
③求人情報の内容
仕事内容や勤務時間・場所、賃金、雇用形態などの労働条件に関する事項に加え、自社の将来ビジョンとその実現のために求めている人材像をできるだけ記すことが望ましいです。その際、できるだけ具体例を示すことで、求める人材とは異なる人材からの応募を減らすことや、逆に望ましい人材からの応募の誘因とすることが期待できます。採用側と応募側の認識・意識の「ズレ」をできるだけなくしておくことが肝要です。
また、求人情報の内容を検討する際には、他社との差別化という視点も欠かせません。つまり、「我が社で働くとこんな良いことがありますよ」という自社のPRポイント、自社の強みが何なのかを改めて考えてみるということです。その際には、経営陣や採用担当だけでなく、広く従業員から意見を聞くとよいでしょう。従業員がどういった点に自社で働くことの魅力を感じているのかを知ることは、採用活動だけでなく、今後の自社の経営を考える際にも役立ちます。もしかしたら、経営陣や採用担当が当たり前と思っていても、実は従業員や他の企業から見ると魅力的に映る社風や社内制度・施策などが発見できるかもしれません。このようないわば“自社の棚卸し”を行ない、その結果を積極的にアピールしていくことは、採用活動において非常に有益です。
その際、事実でないことを記載したり、誤解を招くような誇大表現を避けるべきであることは言うまでもありませんが、その一方で、自社の悪い点、ネガティブな情報はどのように扱えばよいでしょうか。優秀な人材の争奪戦の中、採用活動には効果的な自社のアピールが欠かせません。しかし、自社の良い点だけを伝えるだけではなく、自社の実情を率直に伝えることも重要です。なぜなら、入社前に良い情報だけを与えると、入社後にちょっとしたことで「こんな会社とは思わなかった」と落胆し、早期退職する若手社員が現れる危険性が高くなるからです。あらかじめネガティブな情報も伝えておくことで、このようなリスクを軽減することができます。また、例えば、面接の際にあえてネガティブな情報を伝え、それに対する反応を見ることで、その人材が自社に適しているか、そして本当に自社に入社したいのかを見極める際の参考にすることもできます。
(3)採用活動の重要性を社内で共有する
採用担当者の準備は多岐にわたり、特に広報活動開始以降は説明会や面接の準備などで多忙を極め、社内の他部署への協力依頼が後手に回ったり、あるいは忘れてしまうことがあるかもしれません。しかし、せっかく学生から問い合わせがあったというのに、たまたま電話を受けた社員が採用活動内容を知らずに何も答えられなかったというのでは、自社に対する学生の第一印象はかなり悪くなります。最低限、どんな求人を出しているのか、また、採用選考活動開始後は、面接の場所や時間、募集職種などの基本的な質問に対しては担当部署以外の社員でも応対できるよう、社内体制を整えておくべきです。
さらに、採用活動の重要性・意味合いを経営陣が社内に周知徹底することによって、採用活動は決して「一部の部署が行なっている毎年恒例の業務」ではなく、「同じ会社で働く未来の仲間を見つけるための全社的なプロジェクト」へと社員の意識を変えることができれば、その会社の採用活動はもとより、社員のモラルもレベルが1つ上がったと言えるでしょう。
社員への周知のやり方としては、メールや社内報、イントラネットといった一般的な方法を活用するだけでなく、例えば朝礼や社員総会など多くの社員が顔を合わせる機会に、採用担当からではなく経営陣が自らの言葉で語りかけると、非常に効果的でしょう。
「マネジメントの個別化」の推進を
このように時間や労力を費やして社員を採用しても、早期に辞められてしまっては元も子もありません。では、新入社員はじめとする若手社員を定着させるにはどうしたらよいでしょうか。
この問いに対する即効性のある答えはありませんが、1つのキーワードになるのが「マネジメントの個別化」です。
かつてのように、会社に入れば誰もが管理職を目指す中、画一的なマネジメントをしておけば十分であった時代とは異なり、近年は若手社員の仕事やキャリアに対する意識はかなり多様化しています。このような若手社員に対して従来型の画一的なマネジメントを押し付ければ、「こんなはずではなかった」「こんな仕事をするために入社したのではない」と、あっさり会社を去ってしまう若手社員が続出することにもなりかねません。
こうした事態を避けるため、経営陣としては、自らのキャリア形成に主体的に取り組む若手社員を支援する社内風土と仕組みをつくることが必須ですし、それにも増して、近年「メンター制度」を採用している企業の増加に象徴されるように、若手社員一人ひとりに合った社員教育、つまり「個別マネジメント」が求められていると言えるでしょう。
メンター制度 : 年齢や社歴の近い先輩社員が指導役となり、後輩社員の育成や悩みの相談に乗るという社員教育の仕組み。後輩社員にとっては、上司などに比べ先輩社員の方が接しやいため、精神的な安定を保ちながら(その結果、離職も防止)業務スキルを身に付けられる一方、先輩社員にとっても、マネジメントスキルを習得する訓練の機会となるというように、双方にメリットがある。
若手社員に限らず、「会社(上司・先輩など)は自分のことをちゃんと気にかけてくれている」と実感している社員は多少のことで辞めたりしませんし、会社のために懸命に働いてくれるものです。上司と部下、先輩と後輩、同僚といった「人と人とのつながり」が、会社と社員との連帯感となり、会社の競争力の源泉となります。これが、我が国企業の人事・労務管理における要諦であり、こと採用活動においては、「この人となら一緒に働ける・働いてみたい」と思える人材を採用することが、実は最も重要で、かつ正確な選考基準だと言えるのではないでしょうか。