企業の業績への影響が大きいことから当フォーラムでも再三取り上げて来た「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」が(2015年)12月25日に企業会計基準委員会(ASBJ)で正式決定される方向だ。
繰延税金資産の積増し額が大きければ、税引前利益から控除される「法人税等」の金額が減り、税引後の「当期純利益」は増えることになる(繰延税金資産の詳しい解説は【新用語・難解用語辞典】資産負債法参照)。繰延税金資産に関する現行の会計基準(日本公認会計士協会の監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」)では、繰延税金資産をどれくらい計上できるのかを、会社の業績の良し悪しによって5つに区分してきたが、今回公表される適用指針では、この計上基準をより柔軟にし、従来よりも繰延税金資産を計上しやすくしたという点が最大のポイントとなっている。具体的な内容は2015年6月1日のニュース「繰延税金資産の計上を巡る監査人との論争が減る?」でお伝えしたもの(今年5月に公表された公開草案)と基本的には変わりないが、一点、公開草案と大きく異なるのが、今回の会計基準の変更に伴う「過去の決算への影響額」の取扱いだ。
平成24年3月期から導入された「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」では、当期において「会計基準等の改正に伴う会計方針の変更」があり、その会計基準等に経過的な取扱い(例えば「本会計基準は過年度に遡及しないこととする」)の定めがなければ、前年度以前の決算も遡って修正すること(これを「過年度遡及修正」という)を求めている。一方、「会計上の見積りの変更」であれば、過年度遡及修正をせずに、変更に伴う影響額を当期の損益として計上することになる。これは、会計上の見積もりの変更はあくまで「新たに入手可能になった情報」に基づくものであり、過去の期間の財務諸表に影響を与えるものではないとの考え方による。
会計上の見積りの変更 : 新たに入手可能となった情報に基づいて、過去に財務諸表を作成する際に行った会計上の見積りを変更すること。
会計基準等の改正に伴う会計方針の変更 : 会計基準等の改正に伴い強制的に行われる会計方針の変更のこと。正当な理由に基づき「認められた会計方針」から別の「認められた会計方針」に任意で行う会計方針の変更とは区別される。
今回の会計基準改正について企業側が望んでいたのは、「会計上の見積りの変更」として取り扱われる方である。というのも、仮に「会計方針の変更」として過年度遡及修正が求められることとなった場合、企業にとっては手間となるうえ、過去の損益への影響額(今回の会計基準見直しは、過去の利益を押し上げる可能性が高い)は“過去のもの”として永久に日の目を見ない(=今期の損益には計上せずに、資本の部の「利益剰余金」に直接反映させられる)ことになるからだ。これに対し、「会計上の見積りの変更」となれば、過去の損益への影響額を「当期の損益」として計上することができる。
この点について公開草案では、「会計方針の変更」として取り扱うこととし、過去の損益への影響額については(損益計上せずに)利益剰余金に計上することを求めていた。これは、今回の見直しでは、旧会計基準(日本公認会計士協会の監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」)に定められる繰延税金資産の計上額を算定するための会計処理の原則及び手続を“変更”する内容が含まれているとの理由からだ。これに対し企業側は、「これまでの監査上の取扱いの見直しを行ったものに過ぎないため、『会計上の見積りの変更』に該当し、その影響額は損益計算書に計上すべき」と主張していた(2015年4月13日のニュース「66号改訂、「会計上の見積りの変更」に該当なら利益の押し上げも」参照)。
結論として、企業会計基準委員会は、旧会計基準の取扱いを「より明確に定めたもの」については従来の考え方を改めるものではない(つまり、「会計方針の変更」ではなく「会計上の見積りの変更」に該当する)としたうえで、次に述べる3つのケースのように、会計処理が大きく異なっている場合に限り「会計方針の変更」に該当するとする方向に、方針を転換した。
(1)「分類2」に該当する企業において、スケジューリング不能な将来減算一時差異について(回収可能であることを合理的に説明できる場合には)回収可能性アリとする取扱い
(2)「分類3」に該当する企業において、おおむね5年を明らかに超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産について(回収可能であることを合理的に説明できる場合には)回収可能性アリとする取扱い
(3)「分類4」の要件に該当する企業において、将来一時差異等加減算前課税所得が生じることを合理的に説明できる場合には「分類2」に該当するものとする取扱い
スケジューリング : 一時差異が解消するタイミングのスケジュールを作成すること
上記3つのケース以外では、会計基準等の改正に伴う「会計方針の変更」とは取り扱わなくてよいことになり、過去の決算への影響額を「当期の損益」に計上することが可能になる。影響額がプラスであれば、新会計基準の適用初年度の利益が押し上げられることになる。新しい会計基準は平成29年3月期から適用されるが、平成28年3月期からの早期適用も認められる。平成28年3月期の決算を上方修正する企業が出て来る可能性もありそうだ。