製造業や小売業にとって、在庫は次の売上を稼ぎ出す“源泉”ですが、その在庫を売り上げるまで、製造や仕入によって在庫に投じられた資金は「在庫」に形を変えたまま眠り続けることになります。すなわち、在庫を管理することは、「将来の売上」と「現在の資金」を管理することに他なりません。キャッシュフローを重視する経営スタイルの浸透のもと、製商品のライフサイクルが短くなればなるほど、在庫管理の重要性は高まります(在庫管理については「在庫の増減が目に付く」を参照)。
棚卸の流れとしては、まず在庫の出入りを帳簿で把握し、帳簿棚卸により理論上の在庫数量を計算します。次に、実地棚卸により実際の数量をカウントします。そして、理論上の在庫数量と実地棚卸により把握した数量を比較したうえで、両者の差を棚卸減耗として把握し、帳簿上の在庫数量を確定します。
棚卸の目的は、棚卸減耗を把握して帳簿上の在庫金額を確定することだけではありません。棚卸を継続的かつ組織的に行うことで、在庫の横領や架空計上といった在庫不正への牽制効果が期待できます。なぜなら、在庫を私消するために横領したり、利益の調整を目的として在庫数量を操作したりすれば、次の棚卸の際に帳簿上の在庫と実際にカウントした数量とが不一致となり、こうした不正行為が発覚する可能性が高いからです。そのためにも、棚卸は在庫不正の牽制になるような形で実施されなければなりません(詳細は後述)。
棚卸は社内外の人的リソースを総動員してカウント作業を行う“一大プロジェクト”であるため、計画性と情報の共有も不可欠となります。綿密に計画を練り、手続きを周知徹底し、無駄を可能な限り排除したうえで効率的に実施しなければなりません。
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棚卸は、在庫管理部門に一任するだけでは決してうまくいきません。本社管理部門の入念な準備とコントロールのもと、「全社的」に取り組む必要があります。棚卸の準備にあたり必要な事項は次のとおりです。
1 スケジュールの確定
まずは棚卸日を確定します。棚卸は期末日に行うのが一般的ですが、棚卸の実施回数(最低でも年に1回)や回ごとの規模(*)は会社の状況に応じて異なります。実施回数は社内規程に定めておく必要があります。
* 例えば、大規模棚卸(全社的な棚卸)を期末日に1回、小規模棚卸(工場ごと、部門ごと、またはアイテムごと)を
ローテーションで毎月実施します。
ローテーション : 事業場やアイテムごとに分割のうえ、タイミングをずらして棚卸を行うこと。
店舗や工場の稼働の状況によっては、時期をずらして棚卸を行うこともあります。店舗の場合、棚卸作業を営業時間終了後の深夜からスタートするケースも見られます。
2 社内への周知徹底
棚卸の実施中に在庫が動いてしまうと、棚卸数量を正確にカウントできなくなってしまいますので、棚卸の期間中は原則として荷動きを止めなければなりません。
そこで、棚卸に先立ち、棚卸実施日前の最後の入出庫および棚卸実施後に入出庫が可能になる日時、顧客からの要請に基づく緊急出荷や返品など例外的に棚卸の期間中に荷動きをしなければならなくなった場合の申請書や承認ルールを定め、社内に周知徹底する必要があります。
社内での周知徹底を図るには、棚卸担当者を集めて事前説明会を開催するのが有効です。棚卸の2~3週間前に本社管理部門が棚卸説明会を開催し、棚卸手順書を配布して、今回の棚卸で新たに追加または変更された手続きや例年ミスが多い箇所を中心に、十分な説明を行うとともに、現場の疑問にも答えておきます。これが棚卸当日の混乱を防ぎ、効率的な棚卸を実現することになります。
棚卸手順書 : 棚卸スケジュール、組織図、棚卸レイアウト図、担当表、棚卸の手順等が記載される。
3 権限の明確化
棚卸規程により棚卸に関わる指揮命令系統、情報の伝達経路、棚卸に関わる各部署の責任を明確にするとともに、棚卸規程とは別に「棚卸手順書」を作成し、棚卸プロジェクトに関する組織図を示したうえで、各部署・各人が棚卸において果たす役割を記載しておきます。
組織図では、まず全社的な棚卸責任者(社長や管理部長等)を定めます。そして、各工場の工場長や各店舗の店長を、現場での責任者に据えます。さらにその下に、適宜リーダーを配置します。そのうえで、各工場や各店舗における棚卸を、本社経理部等の管理部門がサポートすることになります。
4 棚卸レイアウト図の作成
在庫のカウント漏れが生じないようにするとともに(網羅性の確保)、別のチームが二重にカウントしてしまう無駄を排除するため、棚卸品の配置状況を記したレイアウト図を作成します。
5 担当表の作成
組織図をもとに、棚卸に従事する従業員やパートに作業内容を割り振ります。棚卸の経験の有無を考慮してカウント係(実勘者)と記録係のチーム(2人1組)を決めたうえで、各チームの業務負担に差が出ないように、棚卸レイアウト図をもとに担当する棚を調整します。その際、内部牽制のために、当該在庫に日常的に接している営業や倉庫部門などの担当者“以外”の者が棚卸を担うようにします(詳細は後述)。
実勘 : 数量を数えて、棚札等に記入すること。
棚卸は、本社管理部門の従業員が工場や店舗の状況を把握するための貴重な機会です。したがって、可能な限り本社管理部門の従業員を棚卸の応援に出向かせるようにすべきです。
なかには、棚卸が手続き通りに行われているかどうかを立会人に検証させる会社もあります。
立会人 :公認会計士が会計監査の一環で実施する立会とは別に、社内的なチェックのために実施される。内部監査部門や管理部門に属する棚卸手続きに精通した者が就任するケースが多い。
6 棚卸手順書の作成
棚卸の標準的な手続きを定め、それを「棚卸手順書」に落とし込みます。
棚卸手順書は事前の棚卸説明会などで配布して棚卸担当者の間で周知を図り、担当者やチームによって棚卸手続きが異ならないようにします。
棚卸手続きは法定されておらず、画一的な方法も存在しません。会社によってやり方が異なるため、棚卸手順書の記載内容も会社によって違いますが、おおむね共通する記載内容は次のとおりです。
・日時、場所、事前説明会や棚卸当日のキックオフ・ミーティングの開催について、在庫移動停止期間
・組織図、棚卸レイアウト図、担当表
・カウントの方法
・タグ(棚札。カウントした数を記入する札)へのカウント数の記載方法(記入ミスがあったの場合の修正方法を含む)。カウント数はボールペンで記載し、修正する場合は見え消しを行い、後から修正内容が判別できるようにしておく。
・ダブルチェックの方法
・タグを漏れなく配布するとともに、記入後のタグを漏れなく回収する方法
・タグに書かれてある数量を間違いなく在庫システムに入力するための方法(入力結果を紙に出力し、入力担当者以外の者がタグと照合するなど)
・在庫移動停止期間中に緊急出庫や返品の受け入れが必要になった場合における申請書の作成や承認ルール
・預かり品など棚卸除外品の確認方法
・外部預け在庫の確認方法
・棚卸結果報告書の作成方法、提出先、提出期限
ダブルチェック : カウントを二回実施すること。例えば、カウント係(実勘者)と記録係によるペア内で、カウント終了後に役割を交替し、記録係が二度目のカウントを行うなどの方法が考えられる。
預かり品 : 修理のために預かっている品や買い手の都合で預かっている販売済みの品。間違えてカウントしないよう、棚を分け、「棚卸除外品」の札を貼っておく。
外部預け在庫 : 外部の営業倉庫に預けている在庫。棚卸に出向かずに在庫証明の入手に留める場合もある。
7 棚卸差異の調査
棚卸の結果、棚卸差異が生じた場合、その差異の内容を検討します。
差異の理由としては、店舗では万引きやレジ係のミス、工場では入出庫や戻りの未記帳、出庫数の誤り、紛失などが考えられます。大量の差異が発生している場合、在庫担当者の引継ぎが不十分であったため入出庫手続きのミスが多発している、あるいは、盗難、横流しなどの不正が組織的・継続的に行われていることがあります。
差異が発生した原因の検証は容易ではありませんが、内部統制の整備が不十分であったり、運用が上手く行っていなかったりする可能性もあるので、出来る限りの検証と再発防止策の検討が必要です。
8 陳腐化の判断
カウント担当者は、ただ数を数えればよいわけではありません。カウント時に、目の前の在庫品の価値が下落していないかをチェックすることも求められます。例えば外観に傷がついていれば値札通りの販売はできず、割引額による販売を余儀なくされます。
チェックすべきポイントは物理的な劣化の有無だけではありません。商品ライフサイクルの変化や流行の衰退などにより経済的に劣化している商品、市場の需給変化により収益性が低下している棚卸資産、製品仕様の変更により使用見込みがなくなった部品や材料については、価値の下落に応じた評価損の計上が必要です。例えば棚の奥に埃をかぶって保管されているような在庫は、長期間注文が途絶え出庫がない(これを「不動在庫」と言います)状況にあることから、物理的には劣化していなくても、経済的に陳腐化している恐れがあります。また、医薬品や食品など使用・賞味期限を有するもので当該期限を超えているものや期限切れが近づいているものがないかもチェックしなければなりません。
棚卸担当者が陳腐化の恐れのある在庫品を見つけた場合、その情報を工場や店舗ごとに集約して経理部に伝達し、経理部が会計上評価減を行うかどうか(*)を検討します。それに備えて、情報の集約や伝達方法についても事前に周知しておく必要があります。
* 評価減を計上するための前提として、経理規程などで棚卸資産の評価減のルールの整備も必要です。
9 監査法人の棚卸立会への対応
在庫金額を確定する重要な会計手続きである棚卸には、必ず会計監査人(監査法人)が立ち会うことになります。カウント終了時刻は棚によって異なるため、本社経理部門は終了予定時刻を考慮して立会いのスケジュールを組み立てる必要があります。
10 棚卸最終数値の確定
在庫保管現場では、最終数量を確定した後に「棚卸結果報告書」を作成します。報告書には、棚卸開始時刻・終了時刻、担当者氏名、タグコントロールの結果、棚卸差損の原因分析や再発防止策案、棚卸時のトラブルや所感(この「所感」が後で役に立つ場合があります。詳細は後述)、効率的な棚卸実施に向けての改善策案等を記載します。報告書は、組織図上の上位者(例えば工場長や製造部長など)の承認を経て、本社の管理部門に提出されます。カウント結果が改ざんされることなく経営陣に報告されるためには、在庫保管現場にデータを改ざんする時間的余裕を与えないことが重要です(棚卸結果を改ざんする不正については「在庫の増減が目に付く」の「在庫の過大計上による粉飾の手口」を参照)。在庫担当の役員としては、棚卸当日(*)にすべての棚卸結果報告書を本社の管理部門が入手できるような業務フローを構築すべきと言えます。
* 棚卸結果報告書の記載内容が多岐にわたる場合は、棚卸当日にいったん速報版を提出させ、翌日に正式版を提出させるといった工夫も必要です。
- 大半の会社で棚卸手続きに改善の余地あり
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棚卸手続きは、会社の置かれた状況や在庫特質、在庫システム、予算等の影響を大きく受けることから各社各様であり、どのやり方がベストなのか一概に言うことはできません。裏を返せば、「自社の棚卸手続きがベスト」と言い切れる会社もほとんどなく、棚卸手続きに何らかの課題を抱えていたり、改善の余地が残されていたりするところが大半です。
検討すべき課題や改善策として考えられるものは、以下のとおりです。
■IT導入
棚卸にITを導入することも課題の1つです。
小売業ではPOTやGOTを用いた棚卸が一般的ですが、製造業ではいまだに“紙とペン”によるアナログな棚卸を実施している会社が少なくありません。その理由としては、POTなどの専用端末を導入するには、端末本体のコストに加え、在庫システムとのインターフェイスの開発投資が必要になるにもかかわらず、棚卸の頻度は年に1~2回に過ぎないため、投資の効果が見えにくいということがあります。また、POTなどの専用端末を導入すると、部品や原材料の発注もその端末を利用することになるため、業務フローが大きく変わってしまうということもあります。
とはいえ、棚卸は、製造ラインをストップさせたうえで多くの従業員が関わる一大プロジェクトであり、それに費やす人件費や売上(機会利益)の喪失を計算すると、もともと多額のコストを必要とする手続きです。したがって、棚卸へのIT投資の是非を検討する際は、表面的な投資額の多寡だけで判断せず、こうした目に見えないコストをどの程度削減できるのか(費用削減効果)も検討要素に加えるべきです。
POTやGOTを用いた棚卸 : POT(Portable Order Terminal)やPOTが進化したGOT(Graphic Order Terminal)といった持ち運び容易な端末を利用して、実数のカウントと同時に棚卸数量を入力し、在庫システムにデータを吸い上げること。もともとは店舗での発注や検品を目的にして開発されたが、棚卸機能も有する。紙媒体を利用した棚卸と異なり、棚卸現場で実数の入力が行われることから、データの吸い上げと同時に在庫システムへの入力作業が終わるという利点がある。専用端末は安価ではないものの、最近ではタブレットやスマートフォンのアプリケーションで対応できるシステムも登場している。
■カウント方法
棚卸手続きは、「リスク」の観点からも見直しを図るべきです。
例えば、カウントした数量を書き込む方式としてタグ方式ではなくリスト方式(在庫システムから出力された在庫リストの空欄にカウントした数量を書き込む方法)を採用している会社で、在庫リストに記載されている順序どおりにカウント(リストの順番通り、にリストに記載されている在庫を棚から探す)している場合は要注意です。在庫リスト上の順序が実際の在庫の配置に一致していない場合、そのカウント方法ではすべての在庫を網羅的にカウントできないリスクがあるからです。
カウントは、リストに記載されている在庫を棚から探す(リスト→在庫)という流れではなく、現物をカウント後、製品番号等を頼りにリストの中から探す(在庫→リスト)という流れにより行うべきです。
また、ネジやバネなどの小さな部品は数が多いだけに、1つひとつ手で数えていては時間がかかりすぎてしまいます。小さくても高額な部品であれば丁寧にカウントすべきですが、廉価で小さな部品は、重量を計り、1個当たりの重量から個数を割り出したり、購入時に全額を費用処理(*)したりするなど、費用対効果を勘案した工夫が必要になります。
* 事業年度ごとにおおむね一定数量を取得し、かつ、経常的に消費するものは、購入時に費用処理(=期末に貯蔵品(資産)に振り替えない)すれば、期末在庫があっても棚卸の対象外になります。
■ダブルチェック
カウントを終えた在庫の数え間違い(カウント間違い)がないか、担当者を替えてダブルでチェックしている会社もありますが、リスクアプローチの観点からは、「ダブルチェックの対象を、在庫金額の重要性が高い在庫やカウント間違いが多い在庫に限定する方法」や、「1度目のカウント結果をシステムに吸い上げ、理論在庫と不一致になったもののみ、2度目のカウントを実施する方法」を採用することにより、カウント間違いのリスクをコントロールしながら棚卸に要する時間を削減できます。
リスクアプローチ : 監査用語であり、リスクの発生可能性が高いところに手厚い監査手続きを実施し、リスクの発生可能性が低いところにはそれに応じた監査手続きを実施するという監査の進め方をいう。棚卸のダブルチェックの是非を検討する際に、数え間違いをするというリスクを低減するため、どの程度の人的リソース(時間)を割くのが適切かを判断することが必要となる。
■担当割と陳腐化の事前検討
棚卸に在庫不正への牽制効果を持たせるためには、在庫に日常的に接している営業や倉庫部門などの担当者に棚卸作業を担当させるべきではありません。仮に出荷指示を担う営業担当者が在庫の横流しをしていた場合、その者に棚卸を任せてしまうと、カウント数をごまかす可能性があるからです。入出庫作業を担っている倉庫担当者も同様です。
もっとも、在庫に詳しくない別の部門の者では、在庫が陳腐化しているかどうかの判断が難しいという別の問題が生じることになります。そこで、棚卸に先立ち、事前に営業担当者が在庫の陳腐化の状況をチェックし、値下げ販売や廃棄処分の必要性について検討しておくことが望まれます。
■事前棚卸
棚卸に時間がかかりすぎたり、棚卸減耗損が多額に生じたりする場合、例えば棚卸の1か月前に事前棚卸を実施しておくことで、棚卸減耗による損失の発生を早期に把握できるとともに、本番の棚卸を円滑に進めることが可能になります。いわば棚卸の“予行演習”です。
棚卸減耗を早期に把握することで、年度内の廃棄処分が実現できる(=廃棄損を法人税法上の損金として計上できる)ということも事前棚卸のメリットです(*)。
もっとも、事前棚卸により棚卸減耗を早期に把握した結果、本番の棚卸時に作成される棚卸結果報告書では「棚卸差異はゼロ」という報告書が作成されることになり、経営陣が在庫管理に問題があることを認識しづらくなるため、事前棚卸の結果も経営陣に報告する必要があります。
* 廃棄損を法人税法上の損金にするためには、回収業者が発行する「廃棄証明」などにより廃棄の事実を明らかにしておく必要があります。
■棚卸のアウトソース
小売業の場合、深夜に棚卸作業を実施することが多いため、棚卸要員の確保に苦慮することが珍しくありません。また、店舗数が多いため、全社的に均一の水準で棚卸を行うことも容易ではありません。このような場合、棚卸の作業を専門業者にアウトソースするケースが考えられます(小売業では、既にそうしている会社が見受けられます)。
アウトソーサーの選定に際してはコストを優先しがちですが、棚卸の重要性を踏まえれば、コストのみならず、サービスの品質も判断要素にすべきです。
■所感記入シートの活用
ここまで述べて来たような棚卸手続きの要改善個所の有無は、他社事例に詳しい監査法人や外部のコンサルタントの指摘により明らかになることが多いのですが、棚卸従事者に記入してもらった「所感」を分析することより発覚するケースもあります。このような現場の所感は、棚卸作業の改善に活かすべきです。
例えば「倉庫内の在庫が整然と保管されていないため、カウントに時間がかかった」という所感をもとに、在庫の整列や棚札の表示を工夫することで、棚卸だけでなくピッキングの時間の大幅短縮につながったといった事例もあります。また、所感記入シートの回収・分析により明らかになった要改善点を次回の棚卸時に改善することで、とかく「やらされ感」を抱きがちな棚卸従事者の棚卸への参加意識を高める効果も期待できるでしょう。
- 棚卸の結果には経営上の問題解決のヒントが詰まっている
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棚卸は、大勢の社員を動員し、多額のコストをかけて実施する全社的なプロジェクトです。それにもかかわらず、棚卸を「在庫金額を確定するためだけの単なる手続き」ととらえている経営陣が少なくありません。
しかし、実は棚卸の結果(実地棚卸高、棚卸にかける時間、棚卸差異など)には数々の有用な情報(後述します)が詰まっているので、経営陣はそれを積極的に活用しなくては“損”と言えます。経営陣には棚卸の結果の分析を通じて、経営上の問題点を見つけ、その解決策を検討し、実行に移していくことが望まれます。言い換えれば、経営陣は、棚卸を「在庫金額を確定するためだけの単なる手続き」ではなく、「在庫の把握を通じて行う経営改善活動の一環」に位置付け、棚卸結果の活用策に知恵を絞るべきです。以下、小売業と製造業における棚卸結果の活用策を、具体的に見てみましょう。
■小売業における棚卸結果の活用
小売業において、店舗で生じた棚卸差異の原因を分析してみても、どうしても原因を特定できない差異が残る場合があります。小売業における原因不明の棚卸差異の多くは、万引きなどの盗難による被害と言えます。そこで原因不明の棚卸差異を店舗別・フロア別・アイテム別に比較することで、盗難被害の多い店舗・フロア・アイテムを抽出し、該当店舗等の警備体制を充実させるとともに盗難リスクの高いアイテムをレジ横に配置するなどの工夫を施します。さらに盗難被害の多い店舗を内部監査で重点的にチェックすることで、横流しや私的消費などの従業員不正を見つける場合もあります。また、棚卸差異の原因が仕入れ担当者の習熟度不足による入荷処理のミスであれば、ミスをした仕入れ担当者や監督に不行き届きがあった店長の人事考課に反映させるだけで事足りますが、同じミスをしてしまう仕入れ担当者が多数いるのであれば、そもそも入荷処理のオペレーションがミスの発生しやすいものとなっていないか、オペレーションを見直して、ミスの軽減を図るべきです。
なお、店舗によって実地棚卸高の金額が異なるのは当然としても、同規模の他の店舗よりも在庫が過度に少ない店舗や、逆に過度に多い店舗では、マニュアル通りの発注が行われていない可能性があります。在庫が少なすぎる場合は販売機会を失っているかもしれません。一方、在庫が多すぎる場合は、それだけ余計な資金負担が必要になっていることを意味します。また、在庫が多すぎる店舗では架空在庫による不正が行われている可能性もあります(架空在庫による不正については「在庫の増減が目に付く」の「在庫の過大計上による粉飾の手口」を参照)。いずれにしろ、在庫水準が多店舗とあまりに異なる店舗には内部監査による重点チェックが必要と言えます。
■製造業における棚卸結果の活用
製造業でも、小売業と同様、在庫が盗難されれば原因不明の棚卸差異が生じることになります。とりわけ換金性の高い材料・作業くず・部品・製品が被害を受けやすい在庫と言えます。在庫保管責任者は、原因不明の棚卸差異が生じた場合、盗難の可能性を視野に入れて、防犯カメラの設置や鍵付きの収納庫への保管を検討する必要があります。
また、棚卸に費やした延べ時間数が増加傾向にある場合、その理由を分析します。その結果、部品のアイテム数の増加に伴い棚卸時間数が増加したのであれば、設計を変更し部品共通化を図ることで全社的な部品アイテム数の削減に取り組むべきです。部品共通化によるアイテム数の削減が実現できれば、棚卸時間だけでなく在庫金額も圧縮できるからです(在庫金額の圧縮により、在庫に投じていた資金を減らして、借入金の返済にまわすことができます)。
さらにPOTなどの専用端末の導入により、棚卸の際の時間数を削減できるだけでなく、日常業務での出庫時のピッキング時間の短縮を通じて出庫担当部署の必要人員数も削減でき(人件費の圧縮)、誤出荷の減少を通じてクレームも減らせます(顧客満足度の向上)。
また、ある工程における仕掛品の数量が他工程よりも突出している場合、当該工程またはその次工程が“製造上のボトルネック”になっていないかを検討します。もし、ボトルネックが存在するのであれば、設備投資や外注(下請け)の活用により処理能力を高めることでボトルネックが解消され、全体の在庫金額を圧縮(*)できるだけでなく、製造量の増加にもつながります。
* ボトルネックの解消により、工程間の滞留がなくなり仕掛途中の在庫が減少することで、在庫金額を圧縮できます。
ボトルネック : 当該工程の処理能力が他工程よりも突出して低い場合、当該工程の処理能力が全体の製造量の限界を決めてしまうことを言う。
さらに、実地棚卸高が適正な在庫水準の範囲内に収まっているかどうかの検討により、所定の発注ルールが徹底されているかを確認できます(適正な在庫水準の考え方については「在庫を適正水準に保ちたい」の「業界平均保有期間から在庫の適正水準を探る」を参照)。
こういったアクションがとれるのは、棚卸が適切に行われ、実地棚卸した結果が帳簿金額に正しく反映されているからこそと言えます。逆に言うと、棚卸が正確に行われていなければ、誤った経営判断をしてしまうことにもなりかねません(実地棚卸の結果が帳簿金額に反映されていなかった例として「(役員と会社の失敗学第18回)マツモトキヨシホールディングスの事例」を参照してください)。棚卸の結果を経営改善に活用するためにも、経営陣は棚卸手続の重要性を認識し、その適切なマネジメントに努める必要があります。