近年、在任期間が長い社外役員の再任に反対する旨を議決権行使基準に定める機関投資家が増えていることが示すように、役員の在任期間はコーポレートガバナンスの実効性に影響を与える重要なテーマと言える。こうした中、自社の役員の任期の妥当性について改めて検討する上場会社も出てきている。任期をどれくらいに設定するかは各社が何を重視するのかによっても変わるが、本稿では、検討のポイントや世の中のトレンドなどについて整理したい。
日本総研による「TOPIX100企業の取締役会・取締役分析(2022年調査)」によると、TOPIX100企業の取締役・監査役の在任期間は、社内取締役が6.6年、社外取締役が3.3年、取締役全体では5.0年、社内監査役が2.6年、社外監査役が4.2年、監査役全体では3.6年となっている。サンプル数が十分ではなく、これが上場会社の全体像を表しているわけではないが、①取締役については、「社外取締役」よりも「社内取締役」の在任期間が長く、逆に②監査役については、「社内監査役」よりも「社外監査役」の在任期間が長く、③取締役全体と監査役全体の比較では、取締役の在任期間の方が長い、という結果の背景にはどのような事情があるのだろうか。
まず①「社外取締役」よりも「社内取締役」の方が在任期間が長いのは、近年、社外取締役を増員する動きが相次いだことから、就任して間もない社外取締役が多く存在するということが考えられる。一方、②監査役の任期についてはこのような事情はないため、一般に管理畑役職員の“上がりのポスト”である社内監査役よりも社外監査役の在任期間の方が長くなっているものと推測される。また、③監査役よりも取締役の在任期間が長いことは、「1期4年」で退任する監査役が相当数いることを示していると言えよう。
実際のところ、上場会社各社は役員の任期を何年としているのだろうか。役員定年制は多くの上場会社が導入しているが、役員の在任期間を内規等で定めている上場会社も一定数はあるようだ。TOPIX100の構成銘柄について、役員の在任期間を内規等で定めている会社を調査したところ、次のような事例が確認できた。
住友商事は、「住友商事コーポレートガバナンス原則」において、取締役会長と社外取締役の在任期間は「原則として6年を超えない」こととしている。また、監査役については、「社外監査役は原則として8年を超えない」こととしている。
ソニーグループは、「取締役の資格要件」として、社外取締役の在任期間を原則6年までとしつつ、取締役全員の同意があれば最長9年まで、としている。なお、同社は指名委員会等設置会社であるため、監査役は存在しない。
MS&ADインシュアランス グループ ホールディングスは、「取締役候補及び監査役候補の選任基準・独立性の判断基準」として、社外取締役・社外監査役の任期は4年を目途(社外監査役は原則として1期4年)とし、最長8年まで再任を妨げない、としている。
在任期間を内規等で定めていても必ずしも公表しているとは限らないが、上記3社の事例を見る限り、社外役員については在任期間を定め、社内役員については特段在任期間を定めていない上場会社が少なくないものと推測される。経済産業省の委託による「日本企業のコーポレートガバナンスの実質化に向けた実態調査(令和5年度)」によると、「社外取締役の任期又はその考え方の明確化」を実施している上場会社は25%あった(同報告書38ページ参照)。
社外役員について在任期間を定める理由は、長期間在任することで独立性が損なわれる懸念があるからに他ならない。周知のとおり、既に主要な国内機関投資家の多くは議決権行使基準において、「在任期間が12年以上」の社外役員の再任に反対することを定めている。また、議決権行使助言会社大手のISSは2026年2月1日より、「在任期間が 12 年以上の社外監査役及び監査に関与する社外取締役」は独立性が失われると考え、その選任議案に反対推奨することを予定している。ちなみに、英国のコーポレートガバナンス・コードでは、「在任期間が 9 年以上」の取締役を独立取締役とする場合、その理由を説明するよう求めている。
さらに、経済産業省のコーポレートガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)では、社外取締役の在任期間について、「就任期間が長期に及ぶ社外取締役の再任の判断において、就任期間の長さによる利点と弊害の有無等を考慮した上でその適否を判断することを検討すべきである」とし、「例えば、厳格な再任上限を設けないとしても、定量的な就任期間の目安を定め、それを超えて社外取締役に就任させ続ける場合には、指名委員会等において、その者の社外取締役としての貢献度合いや引き続き就任させる必要性と、就任期間の長さによる弊害の有無等を十分に考慮した上で、再任の適否を判断することが考えられる」と提言している。この提言は、社外取締役のみならず、社外監査役の在任期間を考えるうえでも参考になろう。
では、「社内役員」については在任期間を定める必要はあるだろうか。
社内役員に在任期間を定めるメリットとして、経営陣の新陳代謝を促進できること、特に経営トップについて、権限の集中や環境変化への対応の遅れなど、長期在任による弊害を抑制できることが挙げられる。社内監査役については、経営陣との馴れ合いによる独立性の欠如やマンネリ化による監査の質の低下が、長期在任による弊害と言える。
社内役員に在任期間を定めるデメリットとしては、中長期的な経営課題への対応がおざなりになる恐れがあること、実績のある有能な人材を失うこと、後継人材が育っていない場合には経営弱体化のリスクがあること、逆に“在任期間の上限”まで再任するという慣例ができやすいこと、などが挙げられる。このようなデメリットを小さくするため、社内役員について在任期間を定める場合には、上記のソニーグループの「取締役全員の同意があれば最長9年まで」といった“例外的な対応”の余地を残す、CGSガイドラインが提案しているように厳格な再任上限は設けず指名委員会の個別判断に委ねる、あるいは住友商事のように経営トップにのみ在任期間を設けるといった工夫が考えられよう。
社外役員については、上記TOPIX100各社の事例を見ても、原則として4年、6年または8年、最長でも9年であるので、社外役員の在任期間は8年前後を軸に考えるのが適当と言えそうだ。また、監査役の任期が4年であることを勘案すると、任期途中で退任を強いることは望ましくないことから、社外監査役の在任期間は8年が有力となる。会社の実情を把握し、職務に慣れるまでのアイドリング・タイムも必要になるため、1期4年では短すぎるように思われる。
一方、社内監査役については、監査の独立性という観点も重要だが、社外監査役ほどそれが重視されるわけではないため、「3期12年」とすることも考えられなくはない。ただし、上述のとおり社内監査役は管理畑役職員の“上がりのポスト”であることも少なくない。ローテーションの観点からは「3期12年」が限界であろう。具体的な在任期間を定めるのであれば、社外監査役と同様に「2期8年」とするのが妥当と言えそうだ。