スチュワードシップ・コードの導入により、投資家から企業への「対話を通じた要求」すなわちエンゲージメントが今後増えていくことは間違いないが、日本ではまだ“夜明け前”の状態にある(2015年6月30日のニュース「変化するエンゲージメントのターゲット」参照)。
エンゲージメント先進地域である欧州の現状から、日本の将来を占ってみよう。現在の日本では「単独」でのエンゲージメントが多いが、欧州ではいくつかの機関投資家が一緒になってエンゲージメントを行うケースが少なくない。こうした機関投資家を束ねてエンゲージメントを請け負う会社まで存在している。複数の機関投資家がまとまれば議決権の規模も無視できないものとなるため、企業としても対応せざるを得ない。
エンゲージメントの内容はESGに関するものが非常に多い。E(環境)については、カーボンの削減は業界を問わず、石炭やパーム油などは特定の業界の企業とのエンゲージメントでテーマとなる。S(社会)については、このところ労働環境が大きなテーマとなっている。ここで注意したいのは、環境・社会のいずれにおいても、自社だけではなく「サプライチェーン」にまで責任を持たなければならないということだ。いかに自社が環境・社会問題の解決に注力していても、サプライヤーにこれらの問題があれば、機関投資家から改善を求められることになる。G(コーポレートガバナンス)については、日本企業が対応に追われている「独立社外取締役の導入」といったレベルでなく、取締役のダイバーシティ(ジェンダー、国籍、キャリア等)にまで踏み込んだ議論が行われることが多い。いずれのテーマにも共通するのは「長期的な企業の課題」ということであり、この点からも、機関投資家は「短期的にコストを削減して利益還元を求める」といったことを求めていないことが分かる。
では、企業が機関投資家からのエンゲージメントを拒絶したらどうなるのだろうか。想定されるシナリオの1つが、議決権を行使して取締役の選任に反対票を投じるか、株主提案を活用することだろう。一方、機関投資家はアクティビストではない以上、株を買い増して、企業に何らかの要求をするといったことは行わない。エンゲージメントを行った後、機関投資家の求める改善が実行されなければ、株式を売却して終わりということもある。
このように見ると、機関投資家が企業に直接与える影響はあまり大きくはないように見えるかもしれないが、機関投資家の議決権行使により「反対票」が多くなれば、企業に対する投資家の評価は確実に下がることになる。また、機関投資家の中には、エンゲージメントに失敗した企業名を公表するとともに、その理由を開示しているところもある。これは企業により大きなダメージを与えることになろう。
逆に、エンゲージメントを取り入れた企業名を公表し、これを賞賛する内容が公表されることも多い。投資家からの評価を上げるという側面からも、エンゲージメントを受け入れる意義は大きいと言える。