2015/06/29 オムロンのガバンナンス・コード対応に投資家から高評価(会員限定)

オムロンは6月24日、コーポレート・ガバナンス報告書を提出するとともに、コーポレートガバナンス・コードに対応した「オムロン コーポレート・ガバナンス ポリシー 」を発表した(コーポレート・ガバナンス報告書とコーポレート・ガバナンス ポリシーはともにこちらを参照)が、これが機関投資家から高い評価を受けている。コーポレートガバナンス・コードに対応した開示のモデルケースの1つとなりそうだ。

オムロンは元々、投資家との対話を十分に行う企業として有名だが、今回同社が行った対応は、コーポレートガバナンス・コードの趣旨を理解した完成度の高いものと言える。

例えば、株主総会関係では、開催日を「集中日の3営業日以上前」、招集通知の発送を「総会の3週間前まで」と数値目標を示している(ポリシーの1ページ(1)参照)。法務的な発想だと、万が一手違いがあり目標どおり実行できなかったらどうなるのかが気になってしまうところだろうが、こうした懸念を乗り越えた同社の“潔さ”に賛辞を送る声が機関投資家から上がっている(もっと、機関関投資家の目から見ると、もしそのような事態となった場合には事情を説明すれば済むだけであり、それが特段のリスクとは考えられていない)。

機関設計関係では、監査役会設置会社をベースに、取締役会の機能を補完する「諮問委員会」の機能を付加した“ハイブリット型”を打ち出している(4ページ「1.機関設計」参照)。そのうえで、取締役会の構成は「非業務執行取締役を半数以上」「独立社外取締役を1/3以上」とし、4つある諮問委員会のうち、人事諮問委員会、社⻑指名諮問委員会、報酬諮問委員会の委員長は独立社外取締役で、委員の過半数は独立社外取締役、コーポレートガバナンス委員会の委員長・委員は全員独立社外取締役か独立社外監査役とするとした(4ページ(2)参照)。また、取締役会議長は、「取締役の監督機能」という役割を明確にするため、代表権を持たず、業務執行も行わない会長が務めるとした(4ページ(3)参照)。

このほか、買収防衛策を導入しないと宣言した点(2ページ(6)参照)、中⻑期インセンティブの1つとして業績達成条件付新株予約権を発行するなど取締役の報酬に対する考え方を示した点(6ページ~7ページの(3)参照)、株主との建設的な対話に関する基本方針を新たに策定し(10ページ参照)、社外役員の独立性要件も示している点(11ページ参照)も注目される。

投資家の中には、同社の説明の仕方の良さを指摘する向きも多い。まず、説明の流れがスムーズということが挙げられる。「企業理念」から始まり、「ステークホルダー」との関係を株主、従業員、顧客、取引先、社会とそれぞれ分けて説明した後に、「情報開示」「ガバナンスの体制」と続く流れは非常にスムーズである。コーポレートガバナンス・コードを原則1から順番に説明するのに比べると、各段に理解しやすい。コーポレートガバナンス報告書にコーポレートガバナンス・コード実施状況表を掲載し、「コーポレート・ガバナンス ポリシー」における開示場所をすべて示していることも、欲しい情報を見つけやすいという点で重要なポイントの1つと言える。

また、投資家が気にする部分ほど丁寧に説明していることも、機関投資家には好評を博している。例えば、資本政策の基本的な方針ではROICなど具体的指標を提示して説明している点(2ページ(4)参照)や、投資家との対話を通じて得られた意⾒や質問等の取締役会へのフィードバックにコミットしている点(10ページ下から5行目)である。

一方、例えば議決権行使の結果分析を行うのは「反対率が30%を超える場合」と低いハードルを設定し(2ページ(2)参照)、また、政策保有株式に関しても踏み込んだ対応は記載していない(2ページ(5)参照)。要するに、今回の開示資料は、先進的と評価される元々のガバナンス体制を上手くまとめるとともに、コードの論点を正面からしっかり捉えたうえで歯切れよい説明を展開しつつ、経営として対応が難しい部分に関しては“前向き感”を出しながらも現実路線をとっており、この点、機関投資家からは「攻めと守りのバランスが絶妙」との声が聞こえて来る。

オムロンは、今回開示したガバナンスの体制をさらに分かりやすく企業価値に結び付けて説明する「統合レポート」を来月末には公表するとみられる。投資家にとっては、統合レポートの中身が待ち遠しくなるような開示であったと言えよう。

2015/06/29 オムロンのガバナンス・コード対応に投資家から高評価

オムロンは6月24日、コーポレート・ガバナンス報告書を提出するとともに、コーポレートガバナンス・コードに対応した「オムロン コーポレート・ガバナンス ポリシー」を発表した(コーポレート・ガバナンス報告書とコーポレート・ガバナンス ポリシーはともにこちらを参照)が、これが機関投資家から高い評価を受けている。コーポレートガバナンス・コードに対応した開示のモデルケースの1つとなりそうだ。

オムロンは元々、投資家との対話を十分に行う企業として有名だが、今回同社が行った対応は、コーポレートガバナンス・コードの趣旨を理解した完成度の高いものと言える。

例えば、株主総会関係では、・・・

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2015/06/27 【機関投資家対応】コーポレートガバナンスで高い評価を受けたい(会員限定)

 

コーポレートガバナンスを評価するのは誰か

コーポレートガバナンス・コードの実施などを受け、コーポレートガバナンスに対する投資家の関心が益々高まる中、多くの企業は自社のコーポレートガバナンスに対する評価を上げたいと考えているはずです。

それを実現するための前提として、まず、コーポレートガバナンスとは具体的に「誰」を見て構築していくべきかを確認しておきましょう。

コーポレートガバナンスの定義には様々なものがありますが、本稿では上場会社を前提に、「“株主にとっての利益”を追求するように経営を規律付ける仕組み」とします。ここでいう「株主」とは、創業家や親会社など特定の大株主ではなく、「投資収益の獲得」を目的として株式を購入・売却する「純投資家」を指します。したがって、メインバンクなど金融機関や取引先など、ビジネス上の関係強化を意図して株式を保有(株式持合い。いわゆる“片持ち”も含む)する株主も除外します。

「純投資家」の条件にもっとも当てはまるのが、投資収益の獲得を目的とする資金を集め“プロ”として資産運用を受託する、投資信託や投資顧問などの「機関投資家」です。もっとも、機関投資家には、投資信託や投資顧問に運用を委託する公的年金や年金基金など「アセットオーナー」や、株式を大量に保有する生・損保も含まれます。アセットオーナーは運用改善の観点から株主利益を重視するコーポレートガバナンスに注目しており、投資信託や投資顧問などの「アセットマネージャー」はアセットオーナーから運用を受託できるよう、コーポレートガバナンスの観点から投資先である上場会社を評価することが求められます。生・損保による株式保有は契約者獲得などビジネス上の意味合いも小さくありませんが、スチュワードシップ・コードの受け入れにより無条件に会社提案の株主総会議案に賛成するわけにはいかなくなっているうえ、近年の運用難などから、次第にコーポレートガバナンスを重視するようになってきています。

なお、もう1つの大きな株式購入層である個人投資家については、少なくとも現状ではコーポレートガバナンスを評価する主体として取り上げる意味は大きくないと考えられます。デイトレーダーは超短期的な価格変動にしか着目しておらず、コーポレートガバナンスはおろか企業そのものに対して関心薄です。また、比較的長期で株式を保有する個人投資家の中には、そもそも投資先の企業を自分が「好きかどうか」で選別していたり(ファン株主)、安定的な配当や株主優待を重視していたりすることも多いため、利益最大化に向けて経営陣が邁進しているか否かをチェックし、時には不信任の声を上げるという“コーポレートガバナンスの価値観”には馴染みにくいと言えそうです。

機関投資家の関心が高い株主総会議案は?

上場会社のコーポレートガバナンスが評価を受ける機会が、毎年の定時株主総会に上程される議案に対し株主が議決権を行使する場面です。

株主総会に上程される議案は、「剰余金処分」や「取締役選任」など株主利益に直結するコーポレートガバナンスにおける“最重要事項”であり、株主の中でも特に機関投資家は大きな関心を寄せています。例えば剰余金処分案に対しては、企業の利益水準や資産状況から見て適切かつ十分な金額の配当であるか否かを、配当性向などの指標を通じてチェックします(望ましい配当性向については、「会社の成長ステージに応じて株主還元策を見直したい」参照)。また、経営トップなどの取締役の選任議案では、利益やROEの水準を評価したり、不祥事があればその重大性を判断したりして、時には「不信任」の票を投じます。

特に近年において、機関投資家が議決権行使の方針を決定する際に注目しているのが、社外取締役の有無/人数です。株主利益を代弁する役員として、社外取締役に対する機関投資家の期待は非常に大きいものがあります。2015年5月1日から施行された改正会社法により1人以上社外取締役の選任が義務付けられ、コーポレートガバナンス・コード(2015年6月1日~)では「少なくとも2名以上」の独立取締役の選任が求められていますが(社外取締役と独立社外取締役の定義は、2014年12月26日のニュース「「社外取締役」と「独立社外取締役」の違い、明確に説明できますか?」参照)、英米では過半数の選任が常識であるため、特にグローバル投資家においては、社外取締役がいない/少ない企業に対する見方は厳しくなります。

このほか、役員報酬関連の議案(報酬枠、賞与、退職慰労金、ストックオプション)のうち固定的あるいは後払い的な性格が強い役員報酬を支給する議案に対して、機関投資家は「役員報酬制度は株主利益と連動していることが望ましい」との観点から否定的に判断します。また、買収防衛策(ライツプラン)の導入に関する議案に対しては(買収防衛策(ライツプラン)の詳細は「買収防衛策の導入(継続)議案に、より多くの賛成票を得たい」参照)、買収防衛策が導入されることにより「株主が買収提案の内容を判断してから株式を売却する機会」が奪われることに加え、株主利益の最大化に貢献していない経営陣の保身を助長するものになり得るとして、「原則反対」という厳しいスタンスで臨むことになります。

以上のような機関投資家の議決権行使スタンスは、各運用機関のウェブサイトにおいて、「議決権行使基準」や「議決権行使ポリシー」などの名称で例外なく公開されています。もっとも、その内容には各運用機関の考え方が反映されており、賛成/反対の基準にはバラツキがあります。したがって、「議決権行使の賛成票を得ること=コーポレートガバナンスに対する好評価」とするならば、機関投資家の様々なスタンスの“最大公約数”として表されている基準を参考にするのが賢明ということになります。ここでは、機関投資家を対象にした議決権行使助言機関の世界最大手、米ISS(インスティテューショナル・シェアホールダーズ・サービシーズ)が毎年発表している助言ポリシーを紹介します。

なお、機関投資家がISSの助言ポリシーを踏まえて議決権を行使するケースは少なくありませんが、仮にISSの助言ポリシーと機関投資家自身が設定した議決権行使基準の内容が異なる場合、機関投資家は自身の基準を優先することになります。これは、海外機関投資家でも国内機関投資家でも変わりません。ただし、利益相反がある会社(例えば、金融機関系のアセットマネジメント会社が、同じ金融グループに属する会社に対して議決権を行使する場合)に対してはISSの助言ポリシーを採用します。

○ISS「2015年日本向け議決権行使助言基準(概要)

ISSの助言ポリシーには、例えば以下のような基準が示されています(抄)。ISSの助言ポリシーは特に海外機関投資家に影響を与えるため、外国人株主比率の高い上場会社においては、ISSのポリシーに反する議案を上程した場合、20-30%の反対票が集まるケースも珍しくなく、否決リスクまで想定しておく必要があります。コーポレートガバナンスへの評価という観点からすると、否決は “落第”に相当しますし、たとえ可決は得られたとしても反対率が著しく大きいとなれば、コーポレートガバナンスの“劣等生”とみなされかねません。こうした事態を避けるためには、まずは影響力のあるISSのポリシーをクリアするようにし、さらに自社の株主である機関投資家独自の議決権行使基準もクリアするように努めるとよいでしょう。ただし、上述のとおり、ISSの助言ポリシーと機関投資家自身が設定した議決権行使基準の内容が異なる場合には、機関投資家は自身の基準を優先するため、それが自社に影響力の大きい株主であれば、当該機関投資家の基準をクリアするよう努める必要があります。

■剰余金の処分
下記のいずれかに該当する場合を除き、原則として賛成を推奨する。
・十分な説明がなく、配当性向が継続的に低い場合
・配当性向があまりに高く、財務の健全性に悪影響を与えうる場合

■取締役選任
下記のいずれかに該当する場合は、原則として反対を推奨する。
 監査役設置会社の場合
・資本生産性が低く(過去5期平均の自己資本利益率(ROE)が5%を下回り)かつ改善傾向にない場合、経営トップである取締役
・総会後の取締役会に社外取締役が1人もいない場合、経営トップである取締役
・親会社や支配株主を持つ会社において、ISSの独立性基準を満たす社外取締役が2名未満の場合、経営トップである取締役
・前会計年度における取締役会の出席率が75%未満の社外取締役
・少数株主にとって望ましいと判断される株主提案が過半数の支持を得たにもかかわらず、その提案内容を実行しない、あるいは類似の内容を翌年の株主総会で会社側提案として提案しない場合、経営トップである取締役

 指名委員会等設置会社の場合(上記監査役設置会社の基準に付加)
・株主総会後の取締役会の過半数が独立していない場合、ISSの独立性基準を満たさない社外取締役
・親会社や支配株主を持つ会社において、ISSの独立性基準を満たす社外取締役が2名未満の場合、指名委員である取締役

■独立性基準
例えば下記のケースでは多くの場合、独立していないと判断される。
・ 会社の大株主である組織において、勤務経験がある
・ 会社のメインバンクや主要な借入先において、勤務経験がある
・ 会社の主幹事証券において、勤務経験がある
・ 会社の主要な取引先である組織において、勤務経験がある
・ 会社の監査法人において勤務経験があった
・ コンサルティングや顧問契約などの重要な取引関係が現在ある、もしくは過去にあった
・ 親戚が会社に勤務している
・ 会社に勤務経験がある

■退職慰労金
下記のいずれかに該当する場合を除き、原則として賛成を推奨する。
・ 対象者に社外取締役もしくは社外監査役が含まれる場合
・ 個別の支給額もしくは支給総額が開示されない場合
・ 株価の極端な下落や業績の大幅な悪化など経営の失敗が明らかな場合や、株主の利益に反する行為に責任があると判断される者が対象者に含まれる場合

グローバルな機関投資家の期待水準

では、株主総会の議案に対する議決権行使結果で“ほぼ満場一致”を獲得(例えば賛成率が95%以上など)すれば、それで「コーポレートガバナンスへの評価が高い」と考えてよいのかというと、そうとは言い切れません。議決権行使で反対票を投じるということは、機関投資家にとっては「失格」の烙印を押しているに等しいものがあります。逆に言うと、たとえ議決権行使結果で満場一致を獲得しても、機関投資家に言わせれば「コーポレートガバナンスの最低限の水準をクリアしているに過ぎない」ということになります。

機関投資家が求めるコーポレートガバナンスの水準を知るのに有用なのが、ACGA(エイシアン・コーポレートガバナンス・アソシエーション)が2008年に発表した「日本のコーポレートガバナンス白書」です。ACGAはアジアにおけるコーポレートガバナンスの長期的向上に取り組んでいる独立非営利の会員制協会で、会員には米CalPERS(カルフォルニア州職員退職年金基金)や英ハーミーズ・ファンド・マネジャーズなど、グローバルな機関投資家が名を連ねています。少し前の資料ではありますが、グローバル投資家の考え方を知るうえで参考になります。

白書は「日本におけるより国際競争力ある企業セクターの創造と日本経済ならびにその資本市場の長期的成長のためには、健全なコーポレートガバナンスが不可欠であると考える」として、日本のコーポレートガバナンスについて以下の「6つの課題」に焦点を当て、解決策を提案しています。

1: 企業所有者としての株主
2: 資本の効率的活用
3: 独立した立場からの経営陣の監督
4: 新株引受権
5: ポイズンピルと買収防衛策(
6: 株主総会と議決権行使

ポイズンピル : 「敵対的買収者が被買収企業の株式の一定割合を取得した場合、既存株主は時価より安い価格で新株を購入できる」という権利(ライツ)を既存株主に与える手法。新株が発行されれば、敵対的買収者の持株比率は低下するとともに、1株当たりの株価も安くなり、敵対的買収者は大きな損失を被ることになる。ライツプランとも言われる。

白書を見ると、機関投資家は“コーポレートガバナンスの最低限の形式”を整えるだけでは満足しないことが分かります。例えば「3: 独立した立場からの経営陣の監督」では、「伝統的な取締役会構造の企業も含めて、すべての企業がかならず最低3人の独立社外取締役を可及的速やかに指名するよう提案する。中期的には社外取締役が、取締役会の3分の1を占めることが理想的である。長期的には少なくとも2分の1まで増員することを提案する」との記述があります。グローバルな機関投資家は、コーポレートガバナンス・コードが求める「2人以上の社外取締役の選任」では必ずしも満足するとは限らないことがうかがえます。

また白書では、取締役会の構成などコーポレートガバナンスの“形式面”だけではなく、株主利益の創出に直結する財務パフォーマンスといった“実質面”にも言及しています。具体的には、「2: 資本効率の追求」において、「バランスシートをより効率的に管理し、新規投資に合理的な ROE閾値(threshold)を設定する。ROE/ROAの目標値を明示し、達成のための具体的方策を示す。特に執行取締役報酬との連動性の観点から、付加的な測定基準として投資資本利益率の目標設定を考える」としています。これは要するに、ROEを基軸とした“資本効率を高める経営”に加え、その成果を経営陣の報酬に連動させることを求めているものと言えます。

ROE : Return On Equity(自己資本利益率)=当期純利益/自己資本

ROA : Return on Asset(総資産利益率)=当期純利益/総資産

このように、機関投資家は決して“形だけ”のコーポレートガバナンスを求めているわけではありません。有効に機能するために必要な水準であること(例えば社外取締役の人数・割合)はもちろん、実際に機能するよう有効な仕組みを備えていること(例えばROEに連動した役員報酬)を期待しています。したがって、会社としてはグローバルな資本市場の要求水準を意識しつつ、国内他社に先行して“一歩進んだコーポレートガバナンス”に取り組むことこそが、コーポレートガバナンスで相対的に高い評価を受けることにつながります。

コーポレートガバナンス・コードへの対応ぶりも評価の対象に

2015年6月1日から実施されているコーポレートガバナンス・コードへの対応も、投資家からの評価を左右することになります。

ただ、周知のとおり、コーポレートガバナンス・コードは、会社法などのハード・ロー(遵守しない場合には罰則が科せられる)ではなく「ソフト・ロー」であり、「コンプライ・オア・エクスプレイン」(ルールに従え(comply)、従わないのであればその理由を説明(explain)せよ)という規制手法を採用しています。

すなわち、コードをコンプライするのかしないか、またコンプライしない場合にどのようなエクスプレインをするかは、各社の個別事情によって異なることになります(エクスプレインに関する“ひな形”はありません)。

したがって、コーポレートガバナンス・コードへの対応が適切か否かの判断も、投資家の評価に委ねられることになります。判断にあたっては、以下の点が注目されることになるでしょう。

(1)コンプライされている原則は多い/少ないか
(2)特にコンプライすることが必要とされる原則(後述)をコンプライしているか
(3)コンプライするとした原則を、具体的にどのようにコンプライしているのか(
(4)コンプライしていない原則のエクスプレインは十分な内容か

 コーポレートガバナンス・コードのうち、政策保有株式(原則1-4)、独立社外取締役の独立性判断基準及び資質(原則4-9)、取締役・監査役に対するトレーニングの方針(補充原則4-14②)などの11項目(こちらの4ページ以降を参照)については、(コンプライする場合には)どのようにコンプライしているかをコーポレートガバナンス報告書で開示しなければならない(記載先のウェブサイトのURL等の表示でも可)。残りの項目については開示は必須ではないが、東証が公表した「「コーポレートガバナンス・コードの策定に伴う上場制度の整備について」に寄せられたパブリック・コメントの結果について」には、すべての項目について開示を求める声が投資家から寄せられている(10番目のコメント参照)。

すべての原則をコンプライし、しかもどのようにコンプライしているかまでしっかり説明できていれば理想的かも知れません。ただ、コーポレートガバナンス・コードはグローバル資本市場の信認を得ることを狙いとしているため、ハードルの高い内容も多分に含まれており(例えば政策保有の方針(原則1-4)、エグゼクティブセッション(補充原則4-8①、取締役会レビュー(原則4-11)など)、すべての原則をコンプライできる方がむしろ稀でしょう(本当はコンプライできていないのにコンプライしていると言うのは、投資家に対して極めて不誠実と言えます)。まずは投資家が特に注目している11の原則・補充原則(上記の参照)をできるだけコンプライするよう努め、それが難しければ、実施予定も含めて投資家が納得する真摯なエクスプレインを行うことが、コーポレートガバナンスに対して投資家から高い評価を受けるうえで重要と言えるでしょう。

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2015/06/26 政府の成長戦略で、取締役会への上程事項の範囲限定へ

 取締役会には「監督機能」と「意思決定機能」があるが、日本では、例えば「重要な財産の処分及び譲受け」のような「重要な業務執行の決定」は取締役会に上程することが強制されているように(会社法362条4項)、意思決定機能の方が強いと言える。ただ、近年は「監督機能」を重視するのが世界的な潮流であり、日本でも社外取締役選任を求めるなど監督機能に軸足を置いたコーポレートガバナンス・コードが実施されるとともに、会社法の改正により監査等委員会設置会社が導入されたことで今後その流れは加速していくだろう。

監査等委員会設置会社 : 監査役を設置せずに、取締役3名以上(過半数は社外取締役)で構成する監査等委員会が、取締役の業務執行の妥当性の監査を行うという機関設計の一類型。2015年5月施行の改正会社法で導入された。監査等委員会設置会社は、定款に定めたうえで取締役会にて決議すれば、重要な業務執行の決定の全部または一部を取締役に委任することができるため、監督機能に軸足を置いた機関設計と言える。

 こうした中、政府が今週月曜日(2015年6月22日)に公表した・・・

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2015/06/26 政府の成長戦略で、取締役会への上程事項の範囲限定へ(会員限定)

 取締役会には「監督機能」と「意思決定機能」があるが、日本では、例えば「重要な財産の処分及び譲受け」のような「重要な業務執行の決定」は取締役会に上程することが強制されているように(会社法362条4項)、意思決定機能の方が強いと言える。ただ、近年は「監督機能」を重視するのが世界的な潮流であり、日本でも社外取締役選任を求めるなど監督機能に軸足を置いたコーポレートガバナンス・コードが実施されるとともに、会社法の改正により監査等委員会設置会社が導入されたことで今後その流れは加速していくだろう。

監査等委員会設置会社 : 監査役を設置せずに、取締役3名以上(過半数は社外取締役)で構成する監査等委員会が、取締役の業務執行の妥当性の監査を行うという機関設計の一類型。2015年5月施行の改正会社法で導入された。監査等委員会設置会社は、定款に定めたうえで取締役会にて決議すれば、重要な業務執行の決定の全部または一部を取締役に委任することができるため、監督機能に軸足を置いた機関設計と言える。

 こうした中、政府が今週月曜日(2015年6月22日)に公表した「日本再興戦略」改訂2015素案の28ページ には、『「攻め」のガバナンス体制の強化』として、以下の記述が盛り込まれている。

取締役会による経営の監督が実効性の高いものとなるよう、取締役会が経営陣に決定を委任できる業務の範囲(取締役会への上程が不要な事項)や、社外取締役が社外性を有したまま行える行為の範囲等に関する会社法の解釈指針を作成し、公表する。【本年夏までに作成、公表】

 これは、監督機能の担い手として社外取締役の重要性の高まる中、取締役会の「意思決定機能」を縮小(「重要な業務執行の決定」の範囲を限定)するとともに、社外取締役の役割(業務執行にどこまで踏み込んでいいのか、など)を明確にすることを目指すものと言っていいだろう。

 ただ、いまだ上場会社の大部分を占める監査役会設置会社は、会社法上「重要な業務執行の決定」を取締役会に上程することが強制されていることから 、一口に「意思決定機能の縮小(監督機能の強化)」と言っても限界がある。そこで、“条件付き”で取締役会に上程が強制される「重要な業務執行の決定」の範囲を限定することが検討されそうだ。具体的には、社外取締役を選任した場合や、社外取締役を構成員とする指名委員会や報酬委員会を任意で設けた場合には、これらによる監督機能が実効性を失わないよう、取締役会への上程が強制される「重要な業務執行の決定」の範囲を絞るというもの。こうした案が浮上している背景として、社外取締役は社内取締役ほどの業務知識がそもそも期待されていないという点も挙げられる。つまり、社外取締役に期待される役割が限定されている以上、取締役会に上程される事項も「社外取締役を含めて議論する必要があるもの」に限定するべきというわけだ。

 また、会社が内部統制システムを構築・運用している場合には、業務執行に関するリスクは低減されるため、取締役会への上程が強制される事項の範囲を限定することが検討される模様だ。

 結果として、社外取締役の役割は、指名や報酬、利益相反などへの「監督」が中心とされることになる。その一方で、社外取締役には元経営者など会社にとって有用な経験を持つ者も多いため、どこからが「業務執行」に当たるのか、しばしばそのボーダーラインが問題となる(会社法上、社外取締役は業務執行を行うことが認められていない)。成長戦略では、この点も明確にされる方向。具体的には、社外取締役が豊富な人脈を活かしてM&Aの相手を発掘し、会社に紹介することや、経営会議に出席し、経営方針について意見を述べること、投資家との対話を行うことなどは「業務執行」には該当しないとする案が浮上している。このほか、内部通報の窓口や不祥事の内部調査委員会の委員を務める、コンプライアンス委員会の委員としてコンプライアンス向上に関与する、内部統制システムを通じて行われる調査に対し指示や指摘を行うといったことも業務執行とはしない方向で検討が行われる模様である。

2015/06/25 (新用語・難解用語)ホワイトペーパー

 アクティビストが経営陣に対して経営改革を提案する際に送る文書のこと。

 ホワイトペーパーという言葉は、元々は英国政府が発行した公式外交報告書の表紙が白かったことに由来する。それが通称「ホワイトペーパー」と呼ばれたのに始まり、政府機関が公式に発行する年次報告も「ホワイトペーパー(白書)」とされるなど、広く使われるようになった。また、「何かを議論するための文書」という意味でも用いられることから、アクティビストが経営陣と経営改革案を議論するための文書も「ホワイトペーパー」と呼ばれるようになった。

 アクティビストが作るホワイトペーパーの分量は提案内容によって様々だが、ビジネスモデルの変更や事業再編などを目指す場合には併せて詳細な事業分析書が提出されるため、数百ページにも及ぶ“経営改善提案書”となることもある。

 アクティビストは、投資している企業の価値向上策を経営陣に提案することで投資リターンの最大化を目指すが、それを実現するためには、メディアを使ったり法的な権利を主張したりすることも辞さない。典型的なパターンとしては、ホワイトペーパー(経営改革案)を経営陣に提出し、それに対する企業の対応に不満がある場合には・・・

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2015/06/25 (新用語・難解用語)ホワイトペーパー(会員限定)

 アクティビストが経営陣に対して経営改革を提案する際に送る文書のこと。

 ホワイトペーパーという言葉は、元々は英国政府が発行した公式外交報告書の表紙が白かったことに由来する。それが通称「ホワイトペーパー」と呼ばれたのに始まり、政府機関が公式に発行する年次報告も「ホワイトペーパー(白書)」とされるなど、広く使われるようになった。また、「何かを議論するための文書」という意味でも用いられることから、アクティビストが経営陣と経営改革案を議論するための文書も「ホワイトペーパー」と呼ばれるようになった。

 アクティビストが作るホワイトペーパーの分量は提案内容によって様々だが、ビジネスモデルの変更や事業再編などを目指す場合には併せて詳細な事業分析書が提出されるため、数百ページにも及ぶ“経営改善提案書”となることもある。

 アクティビストは、投資している企業の価値向上策を経営陣に提案することで投資リターンの最大化を目指すが、それを実現するためには、メディアを使ったり法的な権利を主張したりすることも辞さない。典型的なパターンとしては、ホワイトペーパー(経営改革案)を経営陣に提出し、それに対する企業の対応に不満がある場合には「経営者宛書簡」をホームページで公開、さらにメディアで自身の提案を発表する。時には訴訟(例えば、買収防衛策発動の差し止めを求める訴訟)に発展する場合もある。企業との溝が埋まらない場合には委任状争奪戦をしかけ、株主総会で経営陣の刷新を目指すことになる。

 従来は、株式を買い占めるためにアクティビスト自身が資金力を持っていることが重要だった。しかし近年、機関投資家の保有比率が高まり、議決権助言会社の影響力が強まる中、ほんの数%しか株式を保有しないファンドであっても、株主価値が上がると考えられる正当な提案を行うことにより他の投資家からの賛同を得て、目的を達成する事例が出てきている。資金力にものを言わせた「株式の買い占め」から「経営の提案力」を競う時代となった現在、ホワイトペーパーはその内容が極めて重要となる。ホワイトペーパーの提出を受けた企業も従来型の買収防衛策をとるだけではなく、ホワイトペーパーの内容に対して論理的に反論することが必要になっていると言えるだろう。

2015/06/24 日本年金機構に対する不正アクセス事件の教訓

 日本年金機構に対する「外部からの不正アクセス」による個人情報の漏洩は、一般企業にとっても他人事とは思えない怖さがある。

 今回の事件の発端となったのは「標的型メール」と呼ばれるものであり、個人宛に送付される一般のメールを巧みに偽装している点に特徴がある。これまで企業は、セキュリティーシステムによって迷惑メールが社員に届くことを遮断してきたが、今後はセキュリティーシステムだけでは迷惑メールを防ぎきれないことを前提に、個々の社員による「添付ファイルを不用意に開かない」という原始的な対応も求められるようになる。個々人の注意力に対応が委ねられるという点は、企業の情報管理としては心もとない面があり、また、リスクも小さくない。

 今回の一件がここまで大きな騒動に発展した原因としては、約100万件にも及ぶ個人情報が漏洩したこと、そして標的が世間の関心の高い年金であったことが大きいが、それに加えて、個人情報の流出が明らかになってからの国の対応が迅速さを欠いたことも挙げられる。

 サイバー攻撃への対策として、昨年「サイバーセキュリティー基本法」が成立したのは記憶に新しい。同法第16条では、「(情報通信、金融等の「重要インフラ」を扱う事業者を含む)多様な主体の相互連携」を求めているが、今回の事件では、厚生労働省と社会保険庁を廃止して設置された特殊法人である日本年金機構の間に十分な連携が行われておらず、問題の公表、対処にかなりの時間がかかることになった。これが国民の大きな不信感を買うことにつながったことは間違いない。この点は、企業にとっても教訓となる。

 民間企業の多くは、情報セキュリティーの重要性を認識し・・・

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2015/06/24 日本年金機構に対する不正アクセス事件の教訓(会員限定)

 日本年金機構に対する「外部からの不正アクセス」による個人情報の漏洩は、一般企業にとっても他人事とは思えない怖さがある。

 今回の事件の発端となったのは「標的型メール」と呼ばれるものであり、個人宛に送付される一般のメールを巧みに偽装している点に特徴がある。これまで企業は、セキュリティーシステムによって迷惑メールが社員に届くことを遮断してきたが、今後はセキュリティーシステムだけでは迷惑メールを防ぎきれないことを前提に、個々の社員による「添付ファイルを不用意に開かない」という原始的な対応も求められるようになる。個々人の注意力に対応が委ねられるという点は、企業の情報管理としては心もとない面があり、また、リスクも小さくない。

 今回の一件がここまで大きな騒動に発展した原因としては、約100万件にも及ぶ個人情報が漏洩したこと、そして標的が世間の関心の高い年金であったことが大きいが、それに加えて、個人情報の流出が明らかになってからの国の対応が迅速さを欠いたことも挙げられる。

 サイバー攻撃への対策として、昨年「サイバーセキュリティー基本法」が成立したのは記憶に新しい。同法第16条では、「(情報通信、金融等の「重要インフラ」を扱う事業者を含む)多様な主体の相互連携」を求めているが、今回の事件では、厚生労働省と社会保険庁を廃止して設置された特殊法人である日本年金機構の間に十分な連携が行われておらず、問題の公表、対処にかなりの時間がかかることになった。これが国民の大きな不信感を買うことにつながったことは間違いない。この点は、企業にとっても教訓となる。

 民間企業の多くは、情報セキュリティーの重要性を認識し、「情報管理方針」を定めるとともに、情報管理の責任者を置き、一元的な情報管理を行っているが、今回の事件と同じ轍を踏まないためは、外部との連携を含めた迅速な対応が必要になる。具体的には、標的型メールと思われるものが届いた場合の社内の連絡先、仮に開封をしてしまった場合の情報セキュリティー会社への連絡、広報のやり方、行政への連絡などである。せっかく作った情報管理方針に“魂”を入れるためにも、事故が起きた場合の対応を改めてシミュレーションしておきたいところだ。

2015/06/23 日本への影響は?英国で四半期開示やめる企業相次ぐ

 今年(2015年)4月23日に経済産業省が公表した伊藤レポートの第二弾「対話先進国に向けた企業情報開示と株主総会プロセス」では、モジュール型開示システム(投資家にとって必要な情報を「モジュール(まとまった構成要素)」として特定し、それを各開示制度に当てはめていくという考え方)により、3つの制度開示(金商法開示・会社法開示・証券取引所開示)を一元化する方向性が打ち出されている(資料の115ページ参照)。

 企業の間では、開示負担の軽減を期待する声がある一方、その実現性を疑問視する声もあるが、実はスチュワードシップ・コードやコーポレートガバナンス・コードの“本家”英国では、四半期開示を取りやめる企業が相次いでいる。これは、同国で2014年11月に四半期開示ルールが廃止されたことを受けたもの。投資家保護という大義名分の下、四半期開示はグローバルスタンダードとなってきたが、EUは企業の事務負担や企業を“短期志向”に走らせかねないという四半期開示の弊害を踏まえ、2013年11月に四半期開示ルールを廃止することを決め、EU各国に対して2年以内にこれを実施するよう求めていた。

 もっとも、企業が自主的に四半期開示を行うこと自体が禁止されたわけではない。このため、英国では・・・

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