コーポレートガバナンス・コードが昨日(2015年6月1日)施行された。ただ、同コードへの対応を記載したコーポレートガバナンス・報告書(以下、CG報告書)の提出期限には「施行後最初に開催される定時株主総会から6か月間」との猶予期間が設けられているため(2015年2月25日のニュース「ガバナンスコード対応は12月まで猶予あり!?」参照)、この猶予規定の適用を受けつつ、その間に提出された他社のCG報告書を参考にしたいと考える会社は少なくない。
こうした中、全上場会社のトップを切って「みずほフィナンシャルグループ」「サントリー食品ホールディングス」「大東建託」の3社がコーポレートガバナンス・コードに対応したCG報告書を東証に提出したことが、当フォーラムの調べで判明した。
このうちみずほフィナンシャルグループとサントリー食品ホールディングスは全73項目にわたるコードをすべて「コンプライ」するとし、大東建託は4つのコードのみ「エクスプレイン」し、残りは「コンプライ」するとした。3社ともCG報告書の【コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示】の全部または一部の記載を省略し、自社サイトに参照させる方式(参照方式)を採用している。
3社のうち特に注目すべきは大東建託の開示例である。管理部門が株主総会対応に追われるこの時期に、他社事例を見ながらではなく先陣を切って、しかも、役員のトレーニング方針など開示が必須となっている11項目以外の全ての原則についてその対応状況を示したということは、ガバナンスの強化に対する同社の高い意識を示すものであり、投資家からもこれを高く評価する声が上がっている。
原則の中には至極当然の内容も含まれるため、各社のCG報告書の中にはコードの言葉をそのままなぞったようなコメントも見られるが、そもそも「全項目」を開示することに対しては投資家の中にも賛否両論ある。具体的には、(1)「企業価値」と関連付ける形でポイントを絞って開示すべきとする考え方と、(2)すべてを開示しないと遵守状況が確認できないという考え方だ。今回の開示内容を分析すると、「コンプライ」しているとされるコードの中にも投資家との対話の余地があると思われる部分が見えて来る。こうした点は全項目の開示を行ってこそ見えるものであることからすると、投資家と高品質な対話を行ううえで、全項目の開示は有意義だと言える。ちなみに、コーポレートガバナンス・コードの“本家”である英国では、「コードを踏まえたガバナンス体制の説明」と「エクスプレインが必要な個所の説明」という形の開示が一般的だが、投資家の間では「コンプライ・オア・エクスプレインではなく、“コンプライ・アンド・エクスプレイン”すべき」との意見もある。
上述のとおり、大東建託は4つのコードのみ未対応(エクスプレイン)としているが、未対応の個所について同社の課題を認識し、今後の対応方針を示している点も高く評価できる。例えば、補充原則3-2①では監査役会の対応について下記のように規定しているが、同社ではこれを未対応であるとしつつ、「今後、外部団体のガイドラインを参照するなどして、監査役会にて協議・決定する予定」であることを明記している。こうした記述は投資家との対話の材料にもなりえ、有意義と言える。
<補充原則3-2①>
監査役会は、少なくとも下記の対応を行うべきである。
(ⅰ)外部会計監査人候補を適切に選定し外部会計監査人を適切に評価するための基準の策定
以下省略
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また、補充原則4-11③もコンプライしない項目の1つとして挙げられているが、これについて、社外取締役全員及び監査役全員で構成される「評価委員会」が中心となり、業務執行取締役の相互評価を実施していることを明らかにしていることで、むしろ投資家へのアピール材料となろう。
<補充原則4-11③>
| 取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである。 |
一方、もう少し踏み込む余地が見られるところもある。補充原則1-1-①に関して株主総会後に全議案の賛否分析を行っているとあるが、例えば、これを取締役会に報告して、それを何らかの形で経営に反映させるステップまで示せばさらに投資家にアピールすることになる可能性がある。
<補充原則1-1①>
| 取締役会は、株主総会において可決には至ったものの相当数の反対票が投じられた会社提案議案があったと認めるときは、反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主との対話その他の対応の要否について検討を行うべきである。 |
とはいえ、この時期にCG報告書を出していること自体が高く評価される。内容が不十分なところは、今後更新されていくことになろう。
最後に、今後CG報告書の開示を行う上場会社に向け、改善ポイントを挙げておきたい。
(1)逐条対応型の開示の場合、コードごとに「コンプライ」なのか「エクスプレイン」なのかを明示することが望ましい(文末まで読まなければ「コンプライ」しているかどうかがわからないのでは不親切である)。
(2)コーポレートガバナンス・コードの主目的が「企業の持続的な成長」と「中長期的な企業価値創出のための仕組み」を示すことにあるとすると、逐条対応だけでは企業価値との対応が示しづらい(統合レポート等とリンクさせる形で、さらに分かりやすく説明することが望ましい)。
なお、現段階ではこれら3社のようにCG報告書の更新は行わずに、「コーポレートガバナンス基本方針」等として、コーポレートガバナンス・コードへの対応方針を任意の適時開示としてリリースする企業も見られる(例えば第一生命)。定時株主総会が終了するまではこのスタイルが主流になる可能性もありそうだ。