2015/06/04 (新用語・難解用語)経路依存症(会員限定)

 過去の経緯や歴史により偶然決まった制度や仕組みに拘束される現象。歴史的経路依存症(historical path dependency)、経路依存性とも言われる。

 パソコンのキーボードの話(タイプライターの時代に、早打ちによりタイプライターが壊れてしまうことを避けるため、キーボードをわざと打ちにくい配列にしたところ、その配列がスタンダードになり、パソコンにも引き継がれたというもの)が有名だが、その応用編として、企業組織の中で、過去の成功体験などを通じ時間をかけて形成された行動様式や思考に経営陣や社員がとらわれる現象の喩えとしても使われる。なぜそのような行動をとるのかという問いに対し、「過去にそうであったから」としか答えられないとしたら、経路依存に陥っていると言える。

 “依存症”という言い回しにはネガティブな響きがあるが、「企業文化」も経路依存の結果生じるものの一つである。常に新しいことにチャレンジする企業文化、イノベーションを追求する企業文化、コスト削減の企業文化などは企業経営にプラスに働くことが多いが、そこに拘泥するあまり、失敗することもある(例えば、商品が斬新過ぎて市場に受け入れられなかったなど)。

 良きにつけ悪しきにつけ、企業の中に存在する「経路依存」は企業の行動を制約し、経営判断(新規事業、経営計画など)や企業の将来の成長に大きな影響を与える。企業を取り巻く環境の変化が激しい時代に経路依存症に陥らないために「過去の成功体験を捨てよ」とはよく言われるが、「企業文化」として根付いた経路依存を断ち切るのは簡単なことではない。

 経路依存症からの脱却において大きな役目を期待されるのが、社外取締役だ。それまでのやり方の変更を経営陣に提案する役目は、過去にしがらみのない社外取締役が適任であり、社外取締役に独立性が要求される趣旨もここにあると言えよう。ずっと同じ会社にいる経営陣や社員は、そもそも経路依存に陥っていることにすら気付いていないことも少なくない。そこを指摘してあげるだけでも、新たな発見や気づきが生まれる可能性があろう。

2015/06/03 上場会社は株主を選べないのか?

 長期的な企業価値に着目してくれる機関投資家は、企業にとっては自社の味方になってくれる“友好株主”とも言うべき心強い存在になり得る。株式持合の解消が加速し、安定株主が年を追うごとに減少する中、長期投資家を友好株主として迎えることは、経営の安定に大きく貢献することだろう。

 これに対し、上場会社の経営陣やIR担当者からはしばしば「上場会社は株主を選べないから・・・」という声が聞こえてくるが、必ずしもそうとは限らない。実際、「良い会社」が「良い株主」を選んでいるケースは少なくない。

 ここでいう良い会社とは、・・・

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2015/06/03 上場会社は株主を選べないのか?(会員限定)

 長期的な企業価値に着目してくれる機関投資家は、企業にとっては自社の味方になってくれる“友好株主”とも言うべき心強い存在になり得る。株式持合の解消が加速し、安定株主が年を追うごとに減少する中、長期投資家を友好株主として迎えることは、経営の安定に大きく貢献することだろう。

 これに対し、上場会社の経営陣やIR担当者からはしばしば「上場会社は株主を選べないから・・・」という声が聞こえてくるが、必ずしもそうとは限らない。実際、「良い会社」が「良い株主」を選んでいるケースは少なくない。

 ここでいう良い会社とは、資本市場において「良い会社」と認められる会社を指す。具体的には、企業・投資家の双方にメリットがある「企業価値」の向上のため、(長期)投資家と建設的な対話(エンゲージメント)を行い、対話を通じて得られた投資家の声を汲み取って経営計画やガバナンス体制を練り、企業価値の向上に邁進する企業がこれに該当する。

 逆に言うと、このような建設的な対話ができない上場会社は、たとえ業績が良いとしても、資本市場においては「良い会社」とは認められない。実際、「聞く耳を持たない経営者でなければ、エンゲージメントはしない」と言う機関投資家は少なくない(2015年5月25日のニュース「エンゲージメントの時代に問われる“経営者の度量”」参照)。

 資本市場から良い会社と認められなければ、「良い株主」から投資を受けられず、結果的に株価が不安定になったり、割安に放置されたりする恐れも出てくる。こうした企業が業界再編や敵対的買収のターゲットにされることは、資本市場における“適者生存”の原理と言えよう。

 コーポレートガバナンス・コードの最終章(第5章)にある基本原則5には「株主と建設的な対話を行うべき」とあるが、良い会社には良い株主が伴うのが道理。トヨタが中長期の保有を株主に求める種類株式()の発行に踏み切ったのは、良い株主を選択するためのファイナンスと言い換えることもできる。「株主を選べる」会社は自社にとって望ましい株主とだけ対話すればよく、会社側が「企業価値向上に貢献しない」と判断した投資家との話には必ずしも応じる必要はない。実際、海外の機関投資家のプレッシャーに長年耐えて来た会社などからは、「日本の運用業界には企業との対話を担える専門家が足りない」という声が少なからず聞こえてくる(2015年4月6日のニュース「企業に選別される機関投資家」参照)。“エンゲージメント時代”は運用機関側の意識と能力を向上させ、「良い株主」の登場を促進することになりそうだ。

 本種類株式は非上場であり、全期間にわたり譲渡制限が付いている。種類株式の株主は、発行から概ね5年を経過した後、種類株式から普通株式への転換および発行価格での取得請求が可能になるが、逆に言えば種類株式の株主としては5年間の譲渡制限を付されることで長期間の保有を求められることになる。一方、トヨタとしては中長期の資金を調達することで腰を据えてモノ作りに励むことができるようになる。また、トヨタ側から全部取得請求をすることが可能になっており、トヨタ側が有利な選択肢を有するファイナンスとなっている。トヨタでは本種類株式の発行後、普通株式の希薄化を回避するため、同数程度の自己株式を取得する予定。こちらを参照。

2015/06/02 コーポレートガバナンス・コードへの対応、3社が初日に開示

 コーポレートガバナンス・コードが昨日(2015年6月1日)施行された。ただ、同コードへの対応を記載したコーポレートガバナンス・報告書(以下、CG報告書)の提出期限には「施行後最初に開催される定時株主総会から6か月間」との猶予期間が設けられているため(2015年2月25日のニュース「ガバナンスコード対応は12月まで猶予あり!?」参照)、この猶予規定の適用を受けつつ、その間に提出された他社のCG報告書を参考にしたいと考える会社は少なくない。

 こうした中、全上場会社のトップを切って・・・

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2015/06/02 コーポレートガバナンス・コードへの対応、3社が初日に開示(会員限定)

 コーポレートガバナンス・コードが昨日(2015年6月1日)施行された。ただ、同コードへの対応を記載したコーポレートガバナンス・報告書(以下、CG報告書)の提出期限には「施行後最初に開催される定時株主総会から6か月間」との猶予期間が設けられているため(2015年2月25日のニュース「ガバナンスコード対応は12月まで猶予あり!?」参照)、この猶予規定の適用を受けつつ、その間に提出された他社のCG報告書を参考にしたいと考える会社は少なくない。

 こうした中、全上場会社のトップを切って「みずほフィナンシャルグループ」「サントリー食品ホールディングス」「大東建託」の3社がコーポレートガバナンス・コードに対応したCG報告書を東証に提出したことが、当フォーラムの調べで判明した。

 このうちみずほフィナンシャルグループとサントリー食品ホールディングスは全73項目にわたるコードをすべて「コンプライ」するとし、大東建託は4つのコードのみ「エクスプレイン」し、残りは「コンプライ」するとした。3社ともCG報告書の【コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示】の全部または一部の記載を省略し、自社サイトに参照させる方式(参照方式)を採用している。

 3社のうち特に注目すべきは大東建託の開示例である。管理部門が株主総会対応に追われるこの時期に、他社事例を見ながらではなく先陣を切って、しかも、役員のトレーニング方針など開示が必須となっている11項目以外の全ての原則についてその対応状況を示したということは、ガバナンスの強化に対する同社の高い意識を示すものであり、投資家からもこれを高く評価する声が上がっている。

 原則の中には至極当然の内容も含まれるため、各社のCG報告書の中にはコードの言葉をそのままなぞったようなコメントも見られるが、そもそも「全項目」を開示することに対しては投資家の中にも賛否両論ある。具体的には、(1)「企業価値」と関連付ける形でポイントを絞って開示すべきとする考え方と、(2)すべてを開示しないと遵守状況が確認できないという考え方だ。今回の開示内容を分析すると、「コンプライ」しているとされるコードの中にも投資家との対話の余地があると思われる部分が見えて来る。こうした点は全項目の開示を行ってこそ見えるものであることからすると、投資家と高品質な対話を行ううえで、全項目の開示は有意義だと言える。ちなみに、コーポレートガバナンス・コードの“本家”である英国では、「コードを踏まえたガバナンス体制の説明」と「エクスプレインが必要な個所の説明」という形の開示が一般的だが、投資家の間では「コンプライ・オア・エクスプレインではなく、“コンプライ・アンド・エクスプレイン”すべき」との意見もある。

 上述のとおり、大東建託は4つのコードのみ未対応(エクスプレイン)としているが、未対応の個所について同社の課題を認識し、今後の対応方針を示している点も高く評価できる。例えば、補充原則3-2①では監査役会の対応について下記のように規定しているが、同社ではこれを未対応であるとしつつ、「今後、外部団体のガイドラインを参照するなどして、監査役会にて協議・決定する予定」であることを明記している。こうした記述は投資家との対話の材料にもなりえ、有意義と言える。

<補充原則3-2①>

監査役会は、少なくとも下記の対応を行うべきである。
(ⅰ)外部会計監査人候補を適切に選定し外部会計監査人を適切に評価するための基準の策定
以下省略

 また、補充原則4-11③もコンプライしない項目の1つとして挙げられているが、これについて、社外取締役全員及び監査役全員で構成される「評価委員会」が中心となり、業務執行取締役の相互評価を実施していることを明らかにしていることで、むしろ投資家へのアピール材料となろう。

<補充原則4-11③>

取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである。

 一方、もう少し踏み込む余地が見られるところもある。補充原則1-1-①に関して株主総会後に全議案の賛否分析を行っているとあるが、例えば、これを取締役会に報告して、それを何らかの形で経営に反映させるステップまで示せばさらに投資家にアピールすることになる可能性がある。

<補充原則1-1①>

取締役会は、株主総会において可決には至ったものの相当数の反対票が投じられた会社提案議案があったと認めるときは、反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主との対話その他の対応の要否について検討を行うべきである。

 とはいえ、この時期にCG報告書を出していること自体が高く評価される。内容が不十分なところは、今後更新されていくことになろう。

 最後に、今後CG報告書の開示を行う上場会社に向け、改善ポイントを挙げておきたい。
(1)逐条対応型の開示の場合、コードごとに「コンプライ」なのか「エクスプレイン」なのかを明示することが望ましい(文末まで読まなければ「コンプライ」しているかどうかがわからないのでは不親切である)。
(2)コーポレートガバナンス・コードの主目的が「企業の持続的な成長」と「中長期的な企業価値創出のための仕組み」を示すことにあるとすると、逐条対応だけでは企業価値との対応が示しづらい(統合レポート等とリンクさせる形で、さらに分かりやすく説明することが望ましい)。

 なお、現段階ではこれら3社のようにCG報告書の更新は行わずに、「コーポレートガバナンス基本方針」等として、コーポレートガバナンス・コードへの対応方針を任意の適時開示としてリリースする企業も見られる(例えば第一生命)。定時株主総会が終了するまではこのスタイルが主流になる可能性もありそうだ。

2015/06/01 繰延税金資産の計上を巡る監査人との論争が減る?

 企業の業績に大きな影響を与えかねないことから当フォーラムでも何度か報じて来た繰延税金資産(新用語・難解用語辞典の「資産負債法」参照)の回収可能性に関する会計基準の改正内容が固まった(2015年4月13日のニュース「66号改訂、「会計上の見積りの変更」に該当なら利益の押し上げも」ほか参照)。企業会計基準委員会は5月26日に「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」を公表(企業会計基準適用指針公開草案第54号)、7月27日まで意見募集した後、遅くとも年内には正式決定する方針だ。

 今回公表された適用指針(案)は、通称“66号”と呼ばれていた日本公認会計士協会の監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」を企業会計基準委員会に移管するとともに(66号が実質的に「会計基準」として機能していたため)、内容も見直したもの。66号の内容を踏襲しつつも、繰延税金資産の計上を上積みすることを容認するなど、これまで硬直的といわれてきた繰延税金資産に関する取扱いの大幅な柔軟化を図った点が大きな特徴となっている。

 新旧それぞれの取扱いを表にまとめると以下のとおり。・・・

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2015/06/01 繰延税金資産の計上を巡る監査人との論争が減る?(会員限定)

 企業の業績に大きな影響を与えかねないことから当フォーラムでも何度か報じて来た繰延税金資産(新用語・難解用語辞典の「資産負債法」参照)の回収可能性に関する会計基準の改正内容が固まった(2015年4月13日のニュース「66号改訂、「会計上の見積りの変更」に該当なら利益の押し上げも」ほか参照)。企業会計基準委員会は5月26日に「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」を公表(企業会計基準適用指針公開草案第54号)、7月27日まで意見募集した後、遅くとも年内には正式決定する方針だ。

 今回公表された適用指針(案)は、通称“66号”と呼ばれていた日本公認会計士協会の監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」を企業会計基準委員会に移管するとともに(66号が実質的に「会計基準」として機能していたため)、内容も見直したもの。66号の内容を踏襲しつつも、繰延税金資産の計上を上積みすることを容認するなど、これまで硬直的といわれてきた繰延税金資産に関する取扱いの大幅な柔軟化を図った点が大きな特徴となっている。

 新旧それぞれの取扱いを表にまとめると以下のとおり。「分類1」および「分類5」は、上述したとおり「おおむね過去3年」が「過去3年」と明確化された以外には実質的な変更がないことから、ここでは記載を省略している。

要 件 繰延税金資産の計上額
分類1 期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を毎期(当期及びおおむね過去3年以上)計上している会社等で、その経営環境に著しい変化がない場合 繰延税金資産の全額について、回収可能性がある。
分類2 当期及び過去(おおむね3年以上)連続してある程度の経常的な利益を計上しているような会社 一時差異等のスケジューリングによって見積もられた繰延税金資産は回収可能性がある。
スケジューリング不能な将来減算一時差異について、一律に繰延税金資産を計上することができない。
次の要件のいずれも満たす企業
・過去(3年)及び当期のすべての事業年度において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が、期末における将来減算一時差異を下回るものの、安定的に生じている。
・当期末において、経営環境に著しい変化がない。
・過去(3年)及び当期のいずれの事業年度においても、重要な税務上の欠損金が生じていない。
一時差異等のスケジューリングによって見積もられた繰延税金資産は回収可能性がある。
一方、原則としてスケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産は、回収可能性がない。ただし、スケジューリング不能な将来減算一時差異のうち、「税務上の損金算入時期は個別に特定できないが、将来のいずれかの時点で損金算入される可能性が高い」と見込まれるものについて、将来のいずれかの時点で回収できることを合理的に説明できる場合には、当該スケジューリング不能な将来減算一時差異に係る繰延税金資産も回収可能性があるものとする。
分類3 過去の経常的な損益が大きく増減しているような会社 おおむね5年内の課税所得の見積額を限度として、その期間内の一時差異等のスケジューリングの結果に基づく限り、回収可能性があると判断できる。
次の要件をいずれも満たす企業
・過去(3年)及び当期において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している。
・過去(3年)及び当期のいずれの事業年度においても、重要な税務上の欠損金が生じていない。
将来の合理的な見積可能期間(おおむね5年)以内の課税所得(*)の見積額に基づいて、一時差異等のスケジューリングにより繰延税金資産を見積もる場合には、当該繰延税金資産は回収可能性がある。
ただし、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得の推移等を勘案して、5年を超える見積可能期間においてスケジューリングされた一時差異等に係る繰延税金資産が回収可能であることを合理的に説明できる場合には、当該繰延税金資産は回収可能性があるものとする。
分類4 期末において重要な税務上の繰越欠損金が存在する会社、過去(おおむね3年以内)に重要な税務上の欠損金の繰越期限切れとなった事実があった会社、又は当期末において重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる会社 翌期(1年)に確実に見込まれる課税所得の見積額を限度として、その期間内の一時差異等のスケジューリングの結果に基づく限り、繰延税金資産は回収可能性がある。
※リストラなど特殊要因がなければ課税所得を毎期計上しているような会社は(3)と同様に取り扱う。
次のいずれかの要件を満たし、かつ、翌期において課税所得(*)が生じることが見込まれる企業
・過去(3年)又は当期において、重要な税務上の欠損金が生じている。
・過去(3年)において、重要な税務上の欠損金が繰越期限(現行9年、平成29年4月1日以後開始事業年度において生じた欠損金からは10年)切れとなる事実があった。
・当期末において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる。
翌期の課税所得(*)の見積額に基づいて、翌期の一時差異等のスケジューリングにより繰延税金資産を見積る場合には、当該繰延税金資産は回収可能性がある。 ただし、重要な税務上の欠損金が生じた原因、中長期計画、過去における中長期計画の達成状況、過去(3年)及び当期の課税所得又は税務上の欠損金の推移等を勘案して、将来の課税所得(*)を見積もった場合、将来において5年超にわたり課税所得(*)が安定的に生じることが合理的に説明できる場合には、「分類2」に該当するものとして取り扱う。
また、将来においておおむね3年から5年程度は課税所得(*)が生じることが合理的に説明できる場合には、「分類3」に該当するものとして取り扱う。
分類5 過去(おおむね3年以上)連続して重要な税務上の欠損金を計上している会社で、かつ、当期も重要な税務上の欠損金の計上が見込まれる会社 繰延税金資産の回収可能性なしと判断する。

(出典:企業会計基準委員会資料に基づき当フォーラムが作成)

将来減算一時差異 : 建物の減損損失や賞与引当金を計上した場合のように、会計上の資産・負債の額と、税務上の資産・負債の額にズレがあり、かつ、そのズレが将来に解消する際に税額を減らすことが見込まれる場合に、そのズレを「将来減算一時差異」と言う。

スケジューリング : 一時差異が解消するタイミングのスケジュールを作成すること

* 一時差異等を加減算する前の課税所得を指す。

 今回取扱いが変更された「分類2」「分類3」「分類4」について詳しく説明しよう。

 まず、分類2では、会計上の利益に基づく要件から課税所得に基づく要件に変更されている。これは、繰延税金資産の回収可能性の判断においては課税所得の十分性を検討する必要があるところ、課税所得の十分性は利益よりも課税所得そのもので判断する方がより適切という考え方に基づく改正案である。

 分類3に該当する企業(業績が不安定な会社=過去3年及び当期において、臨時的な原因により生じたものを除いた課税所得が大きく増減している企業など)は、現行の取扱いでは5期分(5年)を超える繰延税金資産を計上できないが、新しい取扱いでは、たとえ5期分超える繰延税金資産であっても、それが「回収可能」であることを監査法人に対して合理的に説明できれば計上が認められる。

 企業にとって気になるのは、ここでいう「合理的な説明」とは具体的にどのようなものなのかであろう。新しい取扱いでは、IFRS(国際会計基準)や米国会計基準が尊重されることになる。IFRSや米国会計基準では、計上できる繰延資産の年数の上限が具体的に定められているわけではないが、例えば、IFRSや米国会計基準を「連結」で適用しており、8年分の繰延税金資産を計上している場合には、「単体」の日本基準においても8年分の繰延税金資産を計上することが認められる。IFRSや米国会計基準を採用していない場合で、企業が繰延税金資産計上を5年より上積みするには、課税所得が大きく増減している原因や過去の中長期計画の達成状況などを説明することで、監査人を説得する必要がある。

 また、分類4に該当する企業(重要な税務上の繰越欠損金がある企業=過去3年又は当期において、重要な税務上の欠損金が生じており、翌期において課税所得が生じることが見込まれる企業)も、企業側の説明の合理性次第で、分類2(過去(3年)及び当期のいずれの事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない企業等)あるいは分類3に該当する企業として繰延税金資産の上積み計上が可能になる。現行の取扱いでは、「重要な税務上の欠損金等が、事業のリストラクチャリングや法令等の改正などによる非経常的な特別の原因により発生したものである場合」に「おおむね5年内の課税所得の見積額を限度として計上している繰延税金資産は回収可能性がある」とされているが、法令等の“等”や“特別の原因”は何を指すのかを巡り、企業と監査人との間で議論になることが多いとの指摘を受け、今回の取扱いではこのルールが廃止される。ただ、「分類4」から分類2や3と取扱われるためには、当然ながらそれぞれの分類の要件を満たさなければならない。例えば分類2に変更するには、「5年超にわたって課税所得が安定的に生じること」を中長期計画などにより説明することが必要になる。

 新しい取扱いは平成29年3月期から適用されるが、平成28年3月期からの早期適用も認められる。繰延税金資産計上を巡り監査人との間で議論が絶えなかった企業にとっては朗報と言えそうだ。

2015/05/31 2015年5月度チェックテスト

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【問題1】

取締役が株主代表訴訟や第三者訴訟を提訴された場合、コーポレートガバナンス・コードは取締役側の主張をサポートする役目を果たし得る。


正しい
間違い
【問題2】

経産省が実施した「機関投資家が重視する株主総会議案」に関するアンケートによると、機関投資家が投資先の取締役選任の賛否を判断する際にもっとも重視する「経営成果」の指標はROICであった。


正しい
間違い
【問題3】

イギリスでは、高額化した役員報酬を株主に承認してもらうため、当期の業績に連動するだけのシンプルな算定式で報酬額を計算する上場企業が大半である。


正しい
間違い
【問題4】

平成27年12月1日からストレスチェック制度が導入され、従業員100人以上の会社では、従業員の心理的な負担の程度を把握するために、最低でも半年に1回、必ず医師による面談を従業員に受けさせることを義務付けられる。


正しい
間違い
【問題5】

監査役設置会社が監査等委員会設置会社へ移行すれば、取締役会がコーポレートガバナンス・コードで求められている「会社の戦略的な方向付け」「リスクテイクを支える環境整備」「実効性の高い監督」といった責務を確実に果たせるようになる。


正しい
間違い
【問題6】

工事進行基準を適用している会社が、工事原価総額を意図的に低く見積もり、将来の利益を先取りしていたことが税務調査により発覚した場合、重加算税を課される。


正しい
間違い
【問題7】

役員報酬BIP信託には、取締役が株価向上へのインセンティブを持たなくなってしまうというデメリットがある。


正しい
間違い
【問題8】

GPIFや年金基金がESG投資に積極的になることで、そういった機関投資家との対話を通じて上場会社側もESGへの対応を迫られることになる。


正しい
間違い
【問題9】

コーポレートガバナンス・コードの補助原則1-2③の「株主総会開催日をはじめとする株主総会関連の日程の適切な設定」をコンプライするためには、定時株主総会の7月開催(3月決算会社の場合)が欠かせない。


正しい
間違い
【問題10】

日本では上場会社が種類株式を発行するケースはあっても、議決権の多い種類株式と少ない種類株式を発行(複数議決権方式)している未上場会社が議決権の少ない種類株式を上場するケースはいまだない。


正しい
間違い

2015/05/30 2015年5月度チェックテスト第5問解答画面(正解)

正解です。
 コーポレートガバナンス・コードの原則4-1から4-3では、取締役会の主要な役割・責務として、「会社の戦略的な方向付け」「リスクテイクを支える環境整備」「実効性の高い監督」などが挙げられています。「取締役会に求められるこうした責務に応えるため、監査等委員会設置会社に移行しました」と説明することは可能ですが、監査等委員会設置会社に移行するだけで、上述した責務を自動的に果たすことにはならない点には注意しなければなりません。会社が人員面や費用面から取締役を支援する体制を整え、取締役が能動的に情報を入手し、取締役会における審議の活性化を図るとともに、監査役制度の廃止に伴うガバナンスの低下を補うための仕組みの構築に別途取り組むことが不可欠になります。問題文は「取締役会が責務を確実に果たせる」としている点で誤りです。

こちらの記事で再確認!
2015/05/13 監査等委員会設置会社への移行だけでは足りないもの(会員限定)

2015/05/30 2015年5月度チェックテスト第10問解答画面(不正解)

不正解です。
 上場会社が種類株式を発行するケースは、伊藤園、国際石油開発、メガバンク、最近ではトヨタなど少なくありません。資金調達の手法の1つとしてすっかり定着したと言えます。また、証券取引所の規則改正により、議決権の多い種類株式と少ない種類株式を発行(複数議決権方式)している未上場会社であっても、議決権の少ない方の種類株式を上場できるようになりました。実際に筑波大学発のベンチャー企業で介護ロボットスーツを開発・販売するサイバーダイン社が、2014年3月に同社社長が「普通株式の10倍の議決権」がある種類株式を有した状態で、議決権の少ない方の種類株式を東証マザーズ市場に上場して、話題になりました。

こちらの記事で再確認!
2015/05/29 2倍議決権制度(会員限定)