<解説>
コードでは厳格な定義は示されず
コーポレートガバナンス・コード(原案)には「本コード(原案)で使用されている用語についても、法令のように厳格な定義を置くのではなく、まずは株主等のステークホルダーに対する説明責任等を負うそれぞれの会社が、本コード(原案)の趣旨・精神に照らして、適切に解釈することが想定されている」とあります(コード原案序文10)。コードの解釈を会社に任せているのは、コード(原案)が、会社が取るべき行動について詳細に規定する「ルールベース・アプローチ」(細則主義)ではなく、原則のみが記載され会社が各々の置かれた状況に応じて対応していく「プリンシプルベース・アプローチ」(原則主義)を採用しているからです。
プリンシプルベース・アプローチは、近日中に公表予定の東京証券取引所のコードでも同様に採用されています。このため、各コードについて「コンプライ・オア・エクスプレイン」のどちらを選択するのかを決める際にも、各社なりに用語を解釈することが必要になります。とはいえ、「本コード(原案)の趣旨・精神に照らして、適切に解釈」するためには、一般的にどのように解釈されているのかを意識しておくことも大切です。
例えば、コード(原案)の基本原則4では「経営陣幹部」(青字)と「経営陣」(赤字)の用語の使い分けがされています。
【基本原則4】
上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、
(1)企業戦略等の大きな方向性を示すこと
(2)経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
(3)独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと
をはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。
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経営陣幹部と経営陣のどちらも厳密な定義は示されていません。したがって、その解釈は各社で行わざるを得ませんが、基本原則4と補充原則3-2②をあわせて読むと、次のことが分かります。
ア:基本原則4の(3)では「経営陣」という言葉に執行役員(下線)を含めている(「経営陣」の後の括弧書き内を参照)
イ:基本原則4の(3)の「経営陣(中略)・取締役」という記述は、「経営陣」に含まれない取締役が存在することを前提にしている
ウ:補充原則3-2②には「CEO・CFO等の経営陣幹部」という表現がある
以上より、コードにおける「経営陣」という言葉は単なるボードメンバー(取締役)とは異なり、取締役全員を指すわけではなく(イ参照)、また、執行役員も含む概念である(ア参照)ことが分かります。一方、「経営陣幹部」はその経営陣の中の幹部を指し、単なる経営陣よりも狭い概念であることが分かります(ウ参照)。なお、コード(原案)には「最高経営責任者等」(補充原則4-1③)という用語もあります。「最高経営責任者等」(補充原則4-1③)という用語もあります。「最高経営責任者等」は経営陣幹部の中のさらに一握りの幹部(CEO。会社によってはCEO+COOなど)となります。
また、原則1-4の「いわゆる政策保有株式」では、次のように規定されています。
【原則1-4.いわゆる政策保有株式】
上場会社がいわゆる政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で主要な政策保有についてそのリターンとリスクなどを踏まえた中長期的な経済合理性や将来の見通しを検証し、 これを反映した保有のねらい・合理性について具体的な説明を行うべきである。
上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための基準を策定・開示すべきである。
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コードでは「政策保有株式」の定義はなんら示されていません。そこで各社が「政策保有株式」について解釈する必要があります。実際には、有価証券報告書における開示(*)と足並みを合わせることになるものと思われます。
* 上場会社は、既に有価証券報告書の【コーポレート・ガバナンスの状況】において純投資目的以外の目的で保有する株式の状況を開示しています。
なお、上記の原則1-4では、「開示」が2か所(赤字)、「説明」が1か所(青字)に用いられています。コードで要求される「開示」はコーポレート・ガバナンス報告書(以下、CG報告書)に新たに設けられる「コードの各原則に基づく開示」欄で行われるのが原則です。2015年3月13日のニュース「CG報告書冒頭にガバナンスコード不実施理由の記載欄が新設」でお伝えしたとおり“参照方式”も認められていますが、参照方式を採用する場合には、CG報告書で「参照すべき場所」を特定しておく必要があります。
一方、「説明」は開示よりもトーンが弱く、CG報告書での「開示」まで求められているわけではありません(もちろん自主的に開示しても構いませんし、開示はしないとしても、株主との対話の中で説明を求められた場合には回答できるようにしておかなければなりません)。
以上より、上場会社(東証第一部および第二部)は、各社が政策保有株式について解釈を行い、それに該当する上場株式を保有していれば、「政策保有に関する方針」と「政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための基準」の2つをCG報告書で開示します。
一方、「保有のねらい・合理性」については投資家に説明すれば十分ということになります。投資家向け説明会や決算発表の場で自主的に説明したり、個別投資家から説明を求められ1対1の場で説明したりする(*)こともあるでしょう。もちろん、「保有のねらい・合理性」の説明を求められた場合に備えて、事前に回答を準備しておくことは欠かせませんし、合理性を説明できないのであれば政策保有株式の保有をやめることも検討せざるを得ないでしょう。
* この場合、未公表の重要情報が
選択的開示にならないよう留意しなければなりません。
選択的開示 : インサイダー情報を特定の者だけに選別的に開示すること。選択的開示をするとインサイダー取引をもたらしてしまうことから、投資家にとって有用な情報であれば証券取引所の適時開示情報閲覧システム(TDnet)で開示すべきである。
「ひな型的な表現」に投資家の厳しい視線
コードのうち実施しないものがある場合には、CG報告書の「コードの各原則を実施しない理由」欄で実施しない理由を説明しなければなりません(*)。この理由の説明の際には、「ひな型的な表現」を避けなければなりません。独立社外取締役を2名以上選任していない理由をはじめ、コードを実施しない理由を説得的に書くのは難しいため、ついひな型に頼りたくなるのですが、コード(原案)では、「会社としては、当然のことながら、「実施しない理由」の説明を行う際には、実施しない原則に係る自らの対応について、株主等のステークホルダーの理解が十分に得られるよう工夫すべきであり、「ひな型」的な表現により表層的な説明に終始することは「コンプライ・オア・エクスプレイン」の趣旨に反するものである」(コード原案序文12)と、ひな型を使うことに釘を刺されているだけに、注意が必要です。
* 実施しないコードがあることで、その会社のコーポレートガバナンスに関する投資家の評価は大きく変わってくることから、「実施しない理由」は投資家の関心が高いと言えます。そのため、他の開示書類等において、コードの各原則を実施しない理由を記載している場合であっても、CG報告書の「コードの各原則を実施しない理由」欄で「●●に記載されているので、そちらを参照してください」といった参照方式を利用することはできず、必ず「実施しない理由」を記載する必要があります。
もし、CG報告書の「エクスプレイン」をひな型的な表現で済ませてしまった上場会社があった場合、その会社に対して何らかのペナルティは課されるのでしょうか?実は証券取引所が「ひな型」的な表現かどうかのチェックを行うことはありません。したがって、仮にCG報告書の提出後にひな型的な表現であることが判明しても、証券取引所がペナルティを課すことはありません。
だからといって、ひな型的な表現で済ませても構わないのかと言うと、そうではありません。CG報告書の開示内容は投資家にウォッチされます。「コーポレートガバナンスの重要性に鑑み、必要に応じて適切に対応して参ります」といった具体性に乏しく経営陣が一体何を考えているのかがまったく伝わってこない「エクスプレイン」に終始している会社は、投資家から「コーポレートガバナンスへの取り組みに真剣ではない会社」との烙印を押され、投資家にそっぽを向かれて、株価が下落することになります。株価の下落により、買収されるリスクも高まります。
「ひな型」的な表現では、その会社が「本当に伝えたいこと」が投資家に届くわけがありません。CG報告書での開示は「株主との対話」の第一歩と捉え、経営陣が議論を尽くした結果をもとに丁寧で具体的な「エクスプレイン」を心がければ、ひな型的な表現は自然に一掃されるはずです。
以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。
<正解>
取締役A:「コード原案をじっくり読むと「開示」と「説明」の違いが気になりました。「説明」は「開示」よりもトーンが弱いことから、「開示」と異なりコーポレート・ガバナンス報告書での記載は求められていないのではないでしょうか。」
(コメント:コード(原案)を漫然と眺めているだけでは、「開示」と「説明」の使い分けがされていることに気が付きにくいものです。「このコードに対してどのような行動をしなければならないのか」といった具体的なアクションを意識している点がGOOD発言です。)
取締役C:「「経営陣」と言えばボードメンバーを指すイメージがあるのですが、「経営陣幹部」なので、「経営陣」に加えて、「幹部」、すなわち執行役員や役職者も含む広い概念だと思います。」
(コメント:コード(原案)には「経営陣」と「経営陣幹部」の定義が記載されていません。このため、「経営陣」という言葉は、会社の経営体制に応じて「ボードメンバーである取締役全員」「業務執行取締役」「業務執行に携わる取締役・執行役員」といった様々な解釈が可能です。「経営陣幹部」の解釈も同様です。もっとも、両者の関係には注意が必要です。取締役Cは「経営陣幹部」を「経営陣」+「経営陣以外の幹部」と誤読し、経営陣幹部の方が経営陣よりも広い概念であると発言している点がBAD発言です。)
取締役B:「コードの場合、証券取引所が上場会社のコーポレート・ガバナンス報告書にひな型的な表現がないかどうかを逐一チェックし、ひな型的表現をした会社に対して公表措置などのペナルティを課すのではないでしょうか?」
(コメント:証券取引所が、コーポレート・ガバナンス報告書にひな型的表現があるかどうかといった点をチェックすることはありません。また、ひな型的表現をした上場会社があったとしても、証券取引所がそういった会社に記載内容の充実や表現の改善を要請したり、ましてやペナルティを課したりすることはありません。取締役Bの発言のうち「公表措置などのペナルティを課す」という点がBAD発言です。)