2.コーポレートガバナンス・コード>
(1)コーポレートガバナンス・コードの制定
東証は、金融庁と東証が共同事務局を務める「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」(座長 池尾 和人 慶応義塾大学経済学部教授)によって2015年3月5日付で公表された「コーポレートガバナンス・コード原案」(以下「コード原案」という)をその内容とするコードを制定する。制定されたコードは有価証券上場規程の別添とし、後述するコードの趣旨・精神の尊重を定める規定や、コードの各原則を実施しない理由の説明義務を定める規定において引用される。
コードは5章構成となっている。第1章から第4章(「株主の権利・平等性の確保」、「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」、「適切な情報開示と透明性の確保」、「取締役等の責務」)まではOECDコーポレート・ガバナンス原則の構成を踏まえたものとなっており、第5章(「株主との対話」)は独自の章立てとなっている。
各章の冒頭には「基本原則」が置かれており、それに続いて「原則」と「補充原則」が置かれる3層構造となっている。「基本原則」は、OECDコーポレート・ガバナンス原則を踏まえて、実現すべき普遍的な理念・目標を示したものである。「原則」では、「基本原則」を構成要素ごとに整理しつつ、その理念・目標を実現するための具体的方策も記載されている。「補充原則」は、「原則」を補い、「基本原則」の理念・目標を実現するための具体的方策を記載したものである。
(2)プリンシプルベース・アプローチの採用
コードはプリンシプルベース・アプローチ(原則主義)を採用する(コード原案 序文10項)。上場会社は、コードの適用にあたって、その形式的な記載・文言ではなく、その趣旨・精神に照らして、自らの活動が当該原則に則しているか否かを判断することが求められる。ルールベース・アプローチ(細則主義)であれば、「しなければならないこと」「してはいけないこと」が詳細に決められることが通常だが、プリンシプルベース・アプローチの下では、各原則の趣旨・精神に則した具体的行動を上場会社が自ら考えて実行することが期待されている。
(3)コードの趣旨・精神の尊重規定
上述のプリンシプルベース・アプローチの意義を踏まえて、有価証券上場規程にコードの趣旨・精神の尊重規定を設ける。具体的には、有価証券上場規程の企業行動規範のうち「望まれる事項」に規定されている現行の「上場会社コーポレート・ガバナンス原則」の尊重規定(445条の3)を、コードの趣旨・精神の尊重規定に置き換える。「望まれる事項」は、上場会社に要請される事項を努力義務として定める規定群で、違反しても実効性確保措置の対象とはならない。
これに伴い、現行の「上場会社コーポレート・ガバナンス原則」は廃止される。
3 コンプライ・オア・エクスプレイン>
(1) 実施しない理由の説明
① 有価証券上場規程
コードの各原則を実施しない場合の理由の説明を義務付ける規定を有価証券上場規程に新設する。これは、「『日本再興戦略』改訂2014」に従って、コードの各原則についてのコンプライ・オア・エクスプレイン(原則を実施するか、実施しない場合にはその理由を説明するか)を制度化するものである。実施しない理由の説明は、コーポレート・ガバナンスに関する報告書(以下「ガバナンス報告書」という)に記載を求める。
コードの各原則を実施しない場合の理由の説明義務は、企業行動規範のうちの「遵守すべき事項」に新設する。「遵守すべき事項」は、前述の「望まれる事項」と異なり、違反すれば実効性確保措置の対象となる。したがって、コードの原則を実施せず、その理由の説明もしない場合には、論理的には企業行動規範違反として実効性確保措置の対象となる。もっとも、実施しない理由の評価は株主等のステークホルダーによってなされることが想定されており(コード原案 序文12項参照)、会社の取組みに改善すべき点があれば株主との対話を通じた改善が図られることが想定されている(コード原案 序文8項参照)。したがって、取引所が実効性確保措置をとるとすれば、コードの原則を実施してないことが明らかであり、かつ、上場会社がその理由の説明を拒絶するような場合や、理由の説明が明らかに虚偽であるような場合等と考えられる。
② 適用範囲
実施しない場合に理由の説明義務が課されるコードの原則の範囲は、市場区分によって異なる。市場第一部又は市場第二部の上場会社は、コードの「基本原則」、「原則」、「補充原則」の73原則の全てについて、いずれかを実施しない場合にはその理由を説明しなければならない。これに対し、マザーズ又はJASDAQの上場会社は、5つの「基本原則」のいずれかを実施しない場合にその理由を説明しなければならない。
(2)ガバナンス報告書における理由の記載欄の新設
上述のように、コードの各原則を実施しない場合にその理由の説明をガバナンス報告書に記載することを求めることに伴い、ガバナンス報告書にそうした理由の記載欄を新設する。
4 コードの各原則に基づく開示の記載欄の新設
コードには特定の事項を「開示すべき」とする11の原則(原則1-4、原則1-7、原則3-1、補充原則4-1①、原則4-8、原則4-9、補充原則4-11①、補充原則4-11②、補充原則4-11③、補充原則4-14②、及び原則5-1)が含まれるところ、これらの原則に基づいて開示を行うための記載欄をガバナンス報告書に新設する。これらの11原則を実施するにあたっての、開示場所を提供するものである。
本欄の記載にあたっては、開示すべき事項の内容を本欄に直接記載してもよいし、有価証券報告書や会社のウェブサイト等でそうした開示を行っている場合には、その内容を参照すべき旨と閲覧方法(ウェブサイトのURL等)を本欄に記載することでもよい。
5 ガバナンス報告書の更新時期>
(1)原則的な取扱い
コードの制定に伴い新設される2つの記載欄の記載内容に変更が生じた場合は、変更が生じた後最初に到来する定時株主総会の日以後遅滞なく記載を更新する必要がある。任意に、変更の都度、遅滞なく記載を更新することももちろん可能である。
(2)初回の特例
コードの制定に伴い新設される2つの記載欄については、コードの適用開始後の初回の提出時の取扱いに特例を設ける。すなわち、2015年6月1日以降に最初に到来する定時株主総会の日後準備ができ次第速やかに(遅くとも当該定時株主総会の日から6か月が経過するまでに)記載すればよい。6月総会の会社であれば、最長で2015年12月まで初回の記載のための準備期間の猶予がある。既存の記載欄については、通常どおり、定時株主総会の日後遅滞なく更新が必要なので、留意が必要である。
「6 独立役員の独立性に関する情報開示の見直し」へ(会員限定)