「功績」「貢献」など主観的な要素にも左右される役員退職慰労金は、株主から見ると算定基準が不明確であり、どうしてもガバナンス上の問題を抱えやすい。こうした中、上場企業の間では2000年初頭からリーマンショックがあった2008年にかけて役員退職慰労金を廃止する動きが相次いだ。この動きはその後一旦落ち着いたものの、(1)2010年3月からスタートした新たな開示ルールにより、1億円以上の報酬を受け取る役員については、報酬金額の内訳(基本報酬、賞与、退職慰労金)を、氏名とともに開示しなければならなくなったことや、(2)臨時報告書に株主総会議案の賛成票率を開示しなければならなくなったこと、さらに、(3)平成24年度税制改正により平成25年1月1日以降支給分から役員退職所得の優遇税制が縮減されたことにより(従来は「退職慰労金額-退職所得控除額)×1/2×税率」により税金を計算することになっていたところ、「勤続年数5年以下の役員」への退職慰労金については算式中「×1/2」を廃止)、再び退職慰労金の廃止が上場企業の選択肢としてクローズアップされている。
役員退職慰労金を廃止する場合、これを基本報酬に振り替えることが考えられるが、この方法は、要するに退職慰労金相当部分を役員報酬として先取りしているに過ぎない(しかも、退職慰労金と違って、株主総会での否決リスクもない)。役員にとっては都合が良いが、中長期的に株主への説明には耐えられないだろう。
そこで多くの企業が採用しているのが、株式報酬型ストックオプションへの振替えだ。株式報酬型ストックオプションとは、権利行使価格を「1円」に設定したストックオプションであり、 “1円ストックオプション”とも呼ばれる。権利行使価格を1円とすることで、実質的に株式そのものを付与対象者に保有させるのと同じ効果がある。株価が上がらなければただの紙切れになってしまう通常のストックオプションと比べると、会社が倒産しない限り何らかの価値が残る株式報酬型ストックオプションの方が、退職慰労金の振替先として役員の納得感が高いと言える。
具体的には、退職慰労金を廃止した後、毎年積み上げられる予定だった退職慰労金の原資と同等の経済的価値を、株式報酬型ストックオプションとして「毎期」付与していくことになる。ただし、権利行使ができる時期は、退職慰労金をもらうのと同様に、役員の退任時以降に設定するのが通常。退任前に権利行使ができるようでは、長期インセンティブとしての役割を果たさないからだ。
株式報酬型ストックオプションは、「株価上昇」という方向で役員と株主のベクトルが一致することから、株主の理解も得られやすい。したがって、この株式報酬型ストックオプションを純粋な「報酬」の1つとして導入する企業も増えており、この傾向は今後も続くことになろう。
