積立金には大きく分けて3つの種類があります。
まず、「税法(租税特別措置法)・定款の規定を根拠とする積立金」と「それ以外の積立金」に分けられます。さらに、「それ以外の積立金」は、特定の目的のために積み立てられる「目的積立金」と、目的を特定せずに積み立てられる「無目的積立金」に分けられます(下図参照)。
積立金の積み立て・取り崩しを行う際には、原則として株主総会の決議が必要です(会社法452条、会社計算規則153条2項1号・2号)。上述のとおり、繰越利益剰余金は株主資本の一部であり、これを株主に無断で動かすことはできないからです。
ただし、積み立て・取り崩しに株主総会の決議が必要かどうかは積立金の種類に応じて異なり、なかには決議が不要な場合もあります。以下、積立金の種類ごとに見ていきましょう。

1.税法(租税特別措置法)・定款の規定を根拠とする積立金
(1)租税特別措置法上の特例を利用するために設ける積立金
租税特別措置法上の特例を利用するために設ける積立金には、例えば圧縮記帳積立金、特別償却積立金などがあります。これらの積立金の詳細は後述しますが、結論から言うと、その積み立てに際しては、株主総会の決議は不要とされています。なぜなら、これらの積立根拠はあくまで法令であり、法人税を繰り延べるために“便宜上”積み立てられたテクニカルなものであることから、上述したような「将来の設備拡張」や「社債の償還」に備えての自主的な積み立てとは、根拠や積立理由が根本的に異なるからです。
また、後で説明しますが、これらの積立金は、積み立ての翌事業年度から徐々に取り崩します(この結果、積立金を取り崩した分だけ繰越利益剰余金が増えます)。この取り崩しはあくまで税法の特例の適用上起こる“テクニカル”なものに過ぎないので、積み立てと同様、取り崩しに関する株主総会の決議は不要です。
なお、圧縮記帳積立金や特別償却準備金などの積み立て・取り崩しは、会社がその適用を受ける意思があり、かつ税法に定める適用要件を満たしている必要があります。その場合には、株主総会の決議を経ずに、単なる「決算手続」として積み立てまたは取り崩しができます(積み立てや取り崩し自体に特段の取締役会決議は必要ありません。もっとも計算書類の承認といった形での全体的な承認(通常は決算取締役会の承認で確定)を受ける必要があります)。
とはいえ、繰越利益剰余金や積立金の変動は、株主等のステークホルダーにとっては関心の高いところであり、役員としては当然変動の理由を把握しておかなければなりません。そのためには、圧縮記帳積立金、特別償却積立金の仕組みを理解する必要がありますので、以下で平易に説明します。
○圧縮記帳
固定資産を取得する際、国や地方自治体などから補助金が出ることがあります。例えば、研究開発用に機械設備を取得するケースです。この補助金は会社にとっては「利益」であり、本来は法人税を課税されてしまうところですが、国等からの補助金に税金をかけてしまうと、事実上、補助金の一部が税金として国等に返還されてしまい、政策効果が半減してしまいます。その問題点の解消のために設けられているのが「圧縮記帳」という制度です。具体的には、受入れた補助金を「利益」に計上する一方で、取得した固定資産の取得原価から補助金と同額を減額(取得原価を“圧縮”)し、当該減額分を「損失」として計上します。この結果、利益と損失が相殺され、補助金をもらった事業年度においては、補助金に対する課税が行なわれないことになるわけです。
もっとも、法人税が「非課税」になるわけではありません。固定資産の取得原価の“圧縮”に伴い、各事業年度の減価償却費は減少しますので、その分、法人税の負担は増えます。つまり、圧縮記帳制度は、補助金を“非課税”にするのではなく、圧縮記帳を使わなければ補助金を受け取った事業年度に課されるはずだった法人税を、固定資産の耐用年数期間にわたって少しずつ課税(*)しているに過ぎません。
* 補助金を受け取ったときに“一気”に課税されるのではなく、耐用年数の間に少しずつ課税されることから、「課税の繰延べ」とも言われます。
なお、固定資産の取得原価から補助金の額を直接減額(圧縮)する方法を「直接減額方式」と言います。もっとも、直接減額方式では、固定資産の評価という観点から問題がある(固定資産の簿価が著しく少なくなってしまう)ことから、上場会社の場合、固定資産の取得価額を直接減額せずに、積立金を用いた会計処理(積立金方式)を用いるケースが良く見受けられます。直接減額方式を採用した場合は、上記の問題点をカバーするため、圧縮記帳に関する金額等の注記が必要になります。
○特別償却
特別償却とは、国が政策的に取得を促すため、一定の固定資産(例えば研究開発用の資産)を取得した際に、通常の減価償却とは別に、例えば「固定資産の取得価額の20%」といった一定割合の金額を追加で損金算入することを認める税法(租税特別措置法)上の特例です。
もっとも、特別償却を行ったとしても、耐用年数を通じたトータルの減価償却費の額には何ら変わりありません。なぜなら、固定資産を取得した年に特別償却によってその分多くの減価償却を行えば、その分固定資産の簿価(=取得原価-減価償却費)は小さくなり、2年目以降に行う減価償却費の合計も少なくなるからです(*)。つまり、特別償却も、圧縮記帳と同様、課税を繰り延べる制度の1つです。
* 言い換えれば、1年目において、2年目以降の減価償却費を先取りしているともいえます。
そして、特別償却においても、会計監査の観点から、固定資産の評価を歪めないために積立金方式を採用するケースがよく見受けられます。すなわち、固定資産の取得価額から直接特別償却額を控除するのではなく、「特別償却積立金」という勘定を設け、固定資産を取得した事業年度において積立額の全額を損金に算入し、耐用年数に応じて、毎期取り崩して益金に算入していくことになります。積立金方式では、固定資産の取得原価から特別償却額を控除しないため、一見すると、2年目以降も通常どおりの減価償却費が計上されているように見えますが、圧縮記帳積立金と同様、減価償却の2年目以降、特別償却積立金が取り崩されて益金に算入されるため、差し引きの損金算入額は小さくなる仕組みとなっています。
このように、圧縮記帳積立金や特別償却積立金は、補助金などを受けて固定資産を取得した場合や、特別償却の対象となる固定資産を取得した場合に増加します。逆に、圧縮記帳や特別償却の対象固定資産に関して減価償却費を計上した場合には、減価償却費に対応するだけ圧縮記帳積立金や特別償却積立金が減少します。
また、圧縮対象の固定資産や特別償却の対象の固定資産を売却した場合には、圧縮記帳積立金や特別償却積立金の対象自体がなくなってしまうわけですから、その全額が取り崩されることになります(*)。廃棄したときも同様です。圧縮対象の固定資産や特別償却の対象の固定資産を売却・廃棄する際には、益金が増加する点を見込んでおく必要があります。
* その分、繰越利益剰余金が増加し、売却した期の益金となります。
(2)定款の規定に基づき積み立てる積立金
租税特別措置法上の特例を利用するために設ける積立金と同じく、増減に際して株主総会での決議が不要となるのが、定款において積み立てが規定されている積立金です。定款はすでに株主の承認を受けています。そこで、定款において積み立てが規定されている積立金は、その増減自体がすでに株主の承認済みであると考えられるため、増減に際してあらためて株主総会で決議することは不要になるわけです。
例えば、将来の設備投資などに備えるため、毎期、当期純利益の1%を積立金として積み立てる旨や、繰越剰余金の1%を取り崩して積立金とする旨を定款に規定した場合、当該積立金の増加または減少に関する株主総会での決議は不要です(取締役会での決議も不要です)。
2.その他の積立金(減債積立金、事業拡張積立金、別途積立金、任意積立金など)
上記「1」のような税法または定款の規定による積立金以外の積立金としては、減債積立金(社債などの返済に備えるための積立金)や事業拡張積立金など、積立ての目的が明確な「目的積立金」と、別途積立金(目的を特定せずに社内留保された積立金)や任意積立金(会社の任意で積立てが行われる積立金)のように目的を特定せずに社内留保された「無目的積立金」があります。これらの積立金の積み立ては、法令や定款を根拠とせずに株主資本である繰越利益剰余金から積み立てられる以上、株主による承認、すなわち定時または臨時の株主総会の決議が必要となります(会社法452条)。
もっとも、経営環境が目まぐるしく変化する今日、次の株主総会まで待てないというケースも多いことでしょう。そこで会社法では、会計監査人設置会社であれば、定款の定め(下記の定款例参照)を置くことにより、積立金の積み立ての権限を取締役会に委譲できるとされています。
会計監査人設置会社 : 監査法人等の監査を受けている会社。上場企業であればすべてが会計監査人設置会社に該当する。
| 定款例 |
当会社は、取締役会の決議によって、会社法459条1項3号に掲げる事項を定めることができる。 |
なお、繰越利益剰余金から資本金への振替は株主総会の権限事項であり、取締役会に権限移譲することは認められていません。
では、これらの積立金を取り崩す場合はどうでしょうか。まず、目的を明確にして積み立てられた目的積立金ですが、例えばその1つである事業拡張積立金は、実際に事業拡張を行う際に取り崩すことになります。このように、目的積立金を、その目的に沿った取り崩しを行う限りにおいては、(既に積み立て時に株主総会の承認を得ているので)株主総会の決議を経る必要はなく、単なる「決算手続」として取り崩しができます(取締役会決議も不要です)。ただし、例えば配当により次の第1四半期での繰越利益剰余金が赤字になる場合に、事業拡張積立金を取り崩して繰越利益剰余金の赤字を回避するなど、「目的とは異なる取り崩し」を行う場合には、株主総会の決議が必要となります。
これに対し、目的を明確にせず積み立てた別途積立金などの無目的積立金は、株主総会において当該目的を明確にしたうえで株主の承認を得なければ取り崩すことができませんので留意が必要です。
以上のように、積立金は、種類によって積み立てや取り崩しの手続きが異なります。そこで役員としては、積立金ごとに、「株主総会の決議が必要か否か」「取締役会決議だけで可能か」「取締役会決議すら不要なのか」といった点を事前に検討しておく必要があります。