改正公益通報者保護法の施行(2022年6月1日~)に伴い、上場会社各社は社内規程を改正したうえで、公益通報対応業務の責任者を定め、業務従事者を指定することが求められる。施行日が明後日に迫る中、既に多くの上場会社が内部公益通報対応体制の整備(詳細は下記の【役員会 Good&Bad発言集】やニュースを参照)や社内周知の徹底などを終えていることだろう。
公益通報対応業務 : 内部公益通報を受け、並びに当該内部公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務をいう(公益通報者保護法11条1項)。
業務従事者 : 公益通報者保護法11条1項に定める公益通報対応業務従事者を指す。公益通報者を特定させる事項(通報者特定事項)を伝達される者が該当する。
指定 : 公益通報者保護の改正により、業務従事者には通報者を特定させる情報の守秘が義務付けられ、同義務違反に対しては刑事罰が導入されることから、業務従事者に該当することを本人に認識させるため、書面などによる「指定」が必要となる。
内部公益通報対応体制 : 事業者が内部公益通報に応じ、適切に対応するために整備する体制のこと(公益通報者保護法11条2項)
<公益通報者保護法の改正についてのニュース等>
【役員会 Good&Bad発言集】内部公益通報制度の設計(1)
【役員会 Good&Bad発言集】内部公益通報制度の設計(2)
【役員会 Good&Bad発言集】内部公益通報制度の設計(3)
2021年11月4日のニュース『内部通報制度を機能させるための「範囲外共有」防止策』
2021年10月25日のニュース『内部公益通報指針の解説が公表、既存制度は早目にアップデートを』
2021年9月10日のニュース『取締役全員が「公益通報対応業務従事者」として刑事罰の対象となる恐れ』
2020年6月23日のニュース『CGコードの遵守状況に影響も 改正公益通報者保護法改正のポイント』
改正公益通報者保護法の施行日である2022年6月1日の前後にマスコミ報道などで改正公益通報者保護法の解説や各社の取組みが報じられると、それを目にした従業員(退職してから1年内の元従業員も含む)による通報が一時的に増える可能性は否定できない。また、業務従事者の刑事罰が法定される改正法の施行を待ってから内部通報を行うなど通報の“改正待ち”も6月1日以降の通報増加の一因となることも予想される。
こうした中、一部の会社が頭を悩ませているのが、監査役等(監査役・監査等委員設置会社の監査等委員・指名委員会等設置会社の監査委員)や社外取締役を業務従事者に指定するべきかどうかということだ。冒頭でも触れたとおり、今回の公益通報者保護法の改正の目玉の一つは業務従事者の指定にある。従事者は正当な理由なく通報者特定事項を漏らすと刑事罰(30万円以下の罰金)を科される可能性があるからだ(改正公益通報者保護法12条、21条)。経営を監督する立場にある社外取締役や監査役等は業務従事者には適任との考えもあるが、会社の規模や内部通報制度の設計によっては監査役等や社外取締役は通報者特定事項を伝えられなくても職務遂行は可能であり、あえて刑事罰を受ける可能性のある業務従事者の指定を受ける必要はないという考えを持つ監査役等や社外取締役もいるであろう。また、業務従事者の指定にあたって、①事前に特定の人物や役職を指定しておく方法、②通報の都度、個別に指定する方法のいずれの方法によることも可能とされているので、常勤監査役等一部の役員だけ事前に業務従事者として指定しておき、案件の内容次第で、他の監査役等や社外取締役を案件単位の業務従事者に追加で指定(都度指定)することもできる。適任と言えるが、改正公益通報者保護法上、「通報の都度」指定することも可能とされている。一部の役員につき業務従事者として事前に指定することはせずに、案件の内容次第で都度指定することを選択した企業は、いざ通報があった場合、刑事罰を受ける可能性のある業務従事者に社外取締役や監査役を指定すべきかどうか、判断に迷うところだろう。
通報者特定事項 : 改正公益通報者保護法12条の「公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるもの」を指す。
この点、・・・
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