<解説>
社外取締役の定義
現行会社法(2014年6月20日の改正前の会社法)上、社外取締役とは、「株式会社の取締役であって、当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人でなく、かつ、過去に当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人となったことがないもの」(会社法2条15号)を言います。社外取締役について会社法が定める「社外性要件(「社外」取締役に該当するための要件)」を分解して、一つひとつ見ていきましょう。
・「当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人でなく」
→法令の言い回しを理解していないと、非常に読みづらい書きぶりです。
法令では「又は」と「若しくは」を使い分けています。小さなくくりを「若しくは」でつなぎ、大きなくくりを「又は」でつなぎます。すなわち、下線部分は、「業務執行取締役」と「執行役」が“業務執行を行う役員”という小さなくくりとなっています。「執行役」は委員会設置会社で業務執行を担う役員なので、委員会設置会社でない通常の株式会社の業務執行取締役と並列する格好で、「若しくは」でつながれているわけです。
執行役 : 委員会設置会社で、取締役会の意思決定に基づき業務を執行する役員
そのうえで、「業務執行取締役」と「執行役」という“業務執行を行う役員”と、「支配人その他の使用人」(例えば、課長や係長、いわゆる平社員など役員でない者を指す。以下同じ)という“職員”が「又は」でつながれて、大きなくくりである“役職員”を指すことになります。その結果、この要件では、下記の者は社外取締役に就任できないと言っていることになります。
・業務執行取締役
・執行役
・支配人その他の使用人
・子会社の業務執行取締役
・子会社の執行役
・子会社の支配人その他の使用人
なお、社外取締役は業務執行取締役を兼ねることができないため、社外取締役の立場で業務を執行することは認められないという点にも留意が必要です。
・「過去に当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人となったことがないもの」
→ここでは、過去に下記のいずれかであった者は社外取締役に就任できないことが規定されています。要するに、自社か子会社の「業務執行取締役」「執行役」「支配人その他の使用人」のいずれかであった者は社外取締役にはなれないといことです。
・業務執行取締役
・執行役
・支配人その他の使用人
・子会社の業務執行取締役
・子会社の執行役
・子会社の支配人その他の使用人
このように、会社法で社外取締役の社外性要件が細かく規定されているのは、従業員から取締役に昇任した者のように様々なしがらみや出身部門の利害関係を背負った「社内取締役」とは異なり、社外取締役には独立した立場で株主の声を代弁することが期待されているからです。
また、社外取締役には弁護士や公認会計士が目立つことから、「法律や会計に詳しくないと就任できないのではないか」と誤解されがちですが、必ずしもそれが必須条件ではありません。むしろ、マネジメントの経験が豊富である、先端技術に詳しい、業界事情に精通している、海外事情に明るい、ファイナンス全般に関する知識・経験が豊富であるというように、社外取締役によって得意分野が異なっていた方が、取締役会で様々な視点からの意見が出やすく、会社にとってもメリットがあります。
会社法改正で社外性の要件が厳格化
2014年6月20日、改正会社法が国会で成立しました(施行日は2015年4月1日が有力)。
この改正により、社外取締役の社外性の要件は次のように変更されます。現行法では社外取締役に就任可能な親会社の取締役(社外取締役も含みます)や兄弟会社の業務執行取締役(こちらは社外取締役は含みません)が「社外性」の要件を満たさなくなるなど(下記(3)(4)の要件参照)、基本的には社外取締役に就任できる者の範囲を狭める改正と言えます。
(1)現在および社外取締役に就任する前の10年の間に、「業務執行取締役等」であったことがないこと
(2)社外取締役に就任する前の10年の間に、「当該会社またはその子会社の取締役、会計参与、監査役」であったことがある者」については、当該取締役、会計参与、監査役に就任する前の10年の間に、「当該会社またはその子会社の業務執行取締役等」であったことがないこと
(3)当該会社の経営を支配する個人や「親会社の取締役、執行役、支配人その他の使用人」でないこと
(4)「兄弟会社の業務執行取締役等」でないこと
(5)当該会社の取締役、執行役、支配人、当該会社を支配する個人の「配偶者または二親等以内の親族」でないこと
業務執行取締役等 : 「等」は執行役(委員会設置会社で業務執行を担う役員)や支配人その他の使用人が該当する。
取締役 : 業務執行取締役は(1)で社外取締役になれない旨規定されているため、ここでは業務執行取締役以外の取締役を指す。
当該会社の経営を支配する個人 : 自然人(個人)の立場で株式を50%超有する等会社の経営を支配している者を指す。
兄弟会社 : 自社から見て親会社に該当する会社や自社の経営を支配している個人等から経営を支配されている会社等のこと。
この改正により、改正会社法が施行されるまで、現行会社法上は社外取締役の要件を充たしている次のような者も、社外取締役の要件を満たさないことになります(経過措置により、改正会社法施行後最初に終了する事業年度に関する定時株主総会(3月決算法人であれば、2016年6月の株主総会となる見込み)の終結の時までは、社外取締役の要件を満たすこととされています)。
・会社の経営を支配している個人およびその配偶者や2親等以内の親族
・親会社の取締役(業務執行取締役だけでなく、業務を執行しない取締役や社外取締役も含む)等
・兄弟会社の業務執行取締役等
・業務執行取締役等の配偶者や2親等以内の親族
このように会社法改正により社外取締役の要件が厳格化される一方で、要件が緩和されている部分もあります。現行会社法の社外性要件である「過去に当該会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役、又は支配人その他の使用人となったことがない者」にいう「過去」には、期間の限定がありませんが(つまり、たとえ何十年も前に業務執行取締役等であった場合も社外取締役になれない)、上述のとおり、改正により「過去10年」に限定されることになりました。
上場会社で社外取締役の選任圧力が強まる2つの要因
東京証券取引所は2014年2月に有価証券上場規程を改正、これにより上場会社は、取締役である独立役員(*)を少なくとも1名以上確保するよう努めなければならないこととされました。あくまで“努力規定”ですが、この改正を機に、これまで社外取締役を選任していなかった上場会社でも、独立役員の要件を満たす社外取締役を選任する動きが活発化しました。さらに、次の2つの要因から、上場会社に対する社外取締役の選任圧力はますます強まることが予想されます。
要因1:会社法改正
会社法改正により、社外取締役がいない上場会社は、定時株主総会の場で、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明しなければなりません(「社外取締役を置かないことが相当である理由」ではないことに留意が必要です)。ただ、実際には、株主に対して「社外取締役を置くことが相当でない理由」を合理的かつ説得的に説明することは難しいことから(*)、社外取締役選任のプレッシャーが強まることが予想されます。
* 例えば、「探したが適当な人材が見つからなかった」「報酬が折り合わなかった」「会社の業績は順調なので、社外取締役を選任する必要性を感じない」「会社の実態を熟知した取締役だけで取締役会を運営した方が、機動的な意思決定ができる」「監査役会設置会社として、監査役の経営監視を受けている」「社外監査役を選任している」などの理由では、どれも説得力に欠けます。
要因2:コーポレートガバナンス・コードの導入
安倍政権が策定した「日本再興戦略」改訂2014(2013年6月に出されたものの改訂版)では、東京証券取引所に「コーポレートガバナンス・コード」を策定することを求めています。コーポレートガバナンス・コードとは、模範的なガバナンスのあり方を定め、上場会社に対して、それを遵守するのか、遵守しない場合はその理由の説明を求める(Comply or Explain)というものです。既にイギリス、ドイツ、フランスなどのヨーロッパ諸国で運用されている制度であり、我が国でも上場会社のコーポレートガバナンスを確保し、日本経済の持続的成長につなげるために導入される見通しです。
2014年6月30日にコーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会より公表された「社外役員を含む非業務執行役員の役割・サポート体制等に関する中間取りまとめ」では、先行するヨーロッパ諸国のコーポレートガバナンス・コードの内容がいくつか紹介されています。
例えばイギリスでは以下のようなコード(あくまで一部です)が制定されています。
─────────────────────────────────────────────────
・取締役会議長は、業務執行取締役と非業務執行取締役との建設的な関係を確保すること等によりオープンな議論をする文化を促進する。
・非業務執行取締役は、取締役会議長の業績を評価する責任を負う。
・取締役会は、非業務執行取締役の相談役、業務執行取締役との仲介役として、非業務執行取締役の中から筆頭独立取締役(the senior independent director)を1名任命する。
・非業務執行取締役は、期待に見合うための十分な時間を有することを保証する。
・非業務執行取締役は、主要な株主との間の定期会合に出席する。主要な株主からの求めがある場合にも、会合に出席する。
・非業務執行取締役の報酬水準は、その職務に投入する時間及び職務上の責任を反映させる。
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日本でも、このようなコーポレートガバナンス・コードを東京証券取引所が策定し、上場会社はそれに対して“Comply or Explain”の対応を求められることになります。コーポレートガバナンス・コードに、「社外取締役を選任する」ことが盛り込まれる可能性は高く、上場会社に対する社外取締役選任のプレッシャーがますます強まることになります。
なお、上述の「日本再興戦略」改訂2014では、女性の活躍促進が重点政策として掲げられている点も見落とせないポイントです。具体的な施策の一つとして、有価証券報告書に役員の女性比率の記載を義務付けるよう企業内容等の開示に関する内閣府令の改正が行われる見通しです。管理職の女性比率が少ない会社では、女性の役員候補者の社内育成が十分でない会社もあることでしょう。役員の女性比率をあげるために、女性の社外取締役選任を視野に入れる会社もありそうです。
さて、以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。
<正解>
取締役A:「私の知人にX社で生産管理に長年携わった者がいます。先日、X社の常務取締役を退任し、時間をもてあましていると聞いていますが、社外取締役への就任を打診してみましょうか。」
(コメント:Bの発言にあるように、Aの知人は法律や会計の専門家ではありません。しかし、法律や会計の専門知識だけが社外取締役に求められる資質ではありません(後述のBの解説参照)。M社では、新規事業の製品の仕損率が高いという問題を抱えています。生産管理の専門家が、社外取締役という立場からノウハウを提供して、仕損率を低減し、生産効率を向上させるアドバイスをすることは、立派な貢献と言えます。また、「時間をもてあましている」という点も重要です(後述のCの解説参照)。
X社でのボードメンバーとしての経験を生かし、大所高所からのアドバイスも期待できることから、社外の立場から株主の声を代弁するという社外取締役の役割にマッチしているものと思われます。
ただし、気になるのは、就任後の生産管理業務との関わり方です。社外取締役は業務執行取締役を兼ねることができない以上、業務を執行することができません。仮に就任後、実質的に生産管理所管の取締役の役割をこなすことになれば、もはや社外取締役ではなくなります。いくら形式上は「社外取締役」の体裁をとっていても、業務執行を行った時点で社外取締役ではなくなるというのが会社法のルールだからです(会社法2条15号)。もし、生産管理のアドバイスに特化するのであれば、社外取締役ではなく、例えば工場の顧問のような形で関わる方が望ましいと言えるでしょう。就任後に生産管理業務とどう関わるのか線引きが難しいところですが、発言内容として間違っているわけではないことからGOOD発言としました。)
取締役B:「A取締役のお知り合いの方は生産管理が専門ということですが、法律や会計の専門家ではないようですので、ガバナンスの確保という観点からは適性に欠けるのではないでしょうか。ところで、専務取締役のご令嬢は確か弁護士でしたよね? 法律の専門家としての知見を活かしたご意見番として当社の社外取締役になっていただいてはどうでしょうか? また、我が社は女性幹部社員が少ないので、女性を積極的に登用する企業として、投資家へのアピールにもなりますし、女性従業員のやる気アップにもつながります。」
(コメント:確かに、女性役員の増加は女性の社会進出促進に向け我が国として優先度の高い課題であり、上場会社としては率先して取り組むべきと言えます。実際、2014年6月に「日本再興戦略改訂2014)」が閣議決定され、近い将来、有価証券報告書に「役員の女性比率」を記載することが義務付けられます。しかし、女性を社外役員に登用し、形だけ「役員の女性比率」を向上させても、女性従業員のモラールのアップにつながるがどうかは疑問です。なぜなら、社外役員就任は、女性従業員の社内におけるキャリアパスとはルートが異なるからです。女性従業員のモラールをアップさせるためには、全社的に女性の幹部社員を増やしていく必要があります。
余談ですが、モラールとは「やる気」や「勤労意欲」のことを指します。たまに「やる気」という意味で「モラル」を使う方を見かけますが、これは間違いです。「モラル」は「道徳」という意味になりますので、誤用には気をつけてください。
また、会社法改正により、取締役の二親等以内の親族は、社外取締役の要件を満たさないことになります。「専務取締役のご令嬢」は二親等以内の親族にあたることから、会社法改正後は社外取締役の要件を満たさなくなってしまう点には注意が必要です。もっとも、現行会社法上は違法ではないとはいえ、父親が専務取締役を務める会社の社外取締役に就任した娘が、株主の立場に立った発言をどれほどすることができるのか、疑問のあるところです。
なお、社外取締役は、必ずしも法律や会計に強いことが必須条件とはされていませんので、冒頭の「適性に欠ける」旨の発言部分も不適切と言えます(上述のAの解説参照)。)
取締役C:「社外監査役を増員して、現在の2名から4名にする案はどうでしょうか。監査役が倍になれば、機関投資家にもガバナンスの向上を十分アピールできるので、あえて社外取締役を選任しなくてもよいのではないでしょうか。」
(
コメント:社外監査役は社外取締役と異なり、取締役会での投票権を持っていません。そのため、社外監査役をいくら増員しても、取締役会での議決という観点からは、社外取締役の選任に及ばないと考えられます。したがって、「社外監査役を増員するので、社外取締役を選任しません」という理由は説得的とは言えません。実際、昨年(2013年11月22日)に会社法改正案が一部修正のうえ自民党法務部会で了承された際には、社外監査役が2名以上あることのみをもって「社外取締役を置くことが相当でない理由」とすることはできないことが確認されています(2014年6月6日のニュース「「社外監査役2名」より「社外取締役1名」の方が重い?」参照)。)
取締役D:「大学教授のYさんは、奇しくも私の大学時代のゼミ仲間です。マスコミからも引っ張りだこで、テレビにも多数出演しており、知名度は抜群です。有名な上場企業の社外取締役を2社兼任していますし、実績も十分です。彼なら、投資家の“受け“は良いはずです。」
(コメント:テレビに多数出演している有名大学教授であれば、一般人の認知度は高いと言えます。しかし、認知度が高いからといって、社外取締役の適性があるとは限りません。逆に、そのような多忙な方に、M社の社外取締役としての職務にどれほど時間を割いてもらえるのか疑問です。既に上場企業の社外取締役を2社も兼任しているのであれば、なおさらM社に割ける時間はわずかでしょう。社外取締役の職務は、月に1回の取締役会に出席し、「異議無し」と発言して取締役会議事録に判子を押せば十分というわけではありません。取締役会の資料を事前に読み込み、監査役と意見交換をすることで、会社の現況を理解し、問題点を見つけ出して深掘りをするといった時間を考慮すると、月に数時間だけ割けばよいという簡単な任務ではないのです。実際、イギリスのコーポレートガバナンス・コードには、「非業務執行取締役は、期待に見合うための十分な時間を有することを保証する。」(UKコードB.3.2)というものがあります。東証が定める予定のコーポレートガバナンス・コードでも、同様のコードが盛り込まれることが濃厚です。「忙しい人にこそ仕事を任せるべき」というセオリーは少なくとも社外取締役の選任に際しては当てはまらないことになります)