2014/09/17 顧問や相談役に対する株主の目(会員限定)

 会社法改正により、現行会社法上は社外取締役や社外監査役(以下、社外役員)の要件を充たす「会社の経営を支配している個人およびその配偶者や2親等以内の親族」が社外役員になれなくなる(ただし、経過措置により、改正会社法施行後最初に終了する事業年度に関する定時株主総会(3月決算法人であれば、2016年6月の株主総会となる見込み)の終結の時までは、社外役員の要件を満たすことになっている)。

 一方、こうした会社法上の要件が課されていないのが「顧問」や「相談役」だ。とはいえ、例えば親族等をこうした役職に付けた場合、株主から思わぬ指摘を受ける可能性がある。報酬が高額であればなおさらだろう。実際、ある東証一部上場企業は、「税務顧問」に同社代表取締役の実兄が代表を務める税理士法人、「経営相談役」に当該実兄を就任させていたところ、同社の株式の3%超を保有(3%以上で会計帳簿閲覧権あり(会社法433条))する投資ファンドから、「1つの業務・職務に対する報酬の二重払い」「業務・職務内容に対して対価・報酬が不相当に高額」であり、不要な会社財産の減少を生じさせるとして、これらの点を調査するために、関連の契約書や会計帳簿などを閲覧・謄写させるよう求める訴訟を起こされている。ちなみに、税務顧問契約の対価は年間886万6,000円、経営相談役の報酬は年間720万円であった(ただし、実兄が代表取締役を務める建築事務所に対しては、平成18年3月期~24年3月期まで毎年1千万余りから多い時で1億3,000万円近い「設計監理料」が支払われており、裁判ではこの点も問題になっている)。

 投資ファンドの求めに対し東京地裁は、契約書の閲覧・謄写は認めなかったものの、会計帳簿の閲覧・謄写はさせるよう同社に命じる判決を下している(東京地裁 平成26年7月22日判決)。おおむね投資ファンド側の主張が認められた判決と言っていいだろう。

 企業側は、閲覧・謄写の拒絶理由(会社法433条2項*)として、投資ファンド側が「当初、当社代表取締役との個別面会を要求し、対応した当社の広報担当取締役に対して、自社株買い等の要求をした」ことや「投資家にアピールすることにより自己の利益を図る目的で、被告から受領した回答書や被告の株主総会における質疑応答の内容をサイト上で公表し、当社に損害を与えている」ことなどを挙げた。しかし、これらの点について裁判所は、「自己株式取得・増配を求めることや、株主が株主総会でのやりとりを公表することは通常は不当とは言えない」とし、企業側の主張を退けている。

* ここでは「株主の権利の確保又は行使に関する調査以外の目的での請求(一号)」と「会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的での請求(二号)」を指す。

 この裁判例は、「実兄」を税務顧問や経営相談役に就任させるという一部上場企業としてはやや特殊なケースではあるが、株主の目は顧問や相談役にもおよぶ可能性があるということとともに、持株比率が3%以上であれば、通常は閲覧・謄写を受け入れる必要があるということを示している。社外役員の「社外性」ばかりに注目が集まっているが、自社の顧問や相談役と会社等との関係性や報酬額も再チェックしておいた方がよいだろう。

2014/09/16 公正取引委員会の立入検査が入ったら?

 「独占禁止法違反の疑いで公正取引委員会が立入検査」といった報道を目にすることは少なくない。もちろん、企業としては公正取引委員会(以下、公取委)の立入検査とは「無縁」であるに越したことはないが、コンプライアンスの取組みによっても独占禁止法(以下、独禁法)違反のリスクを完全に取り除くことは容易ではない。その大きな要因は、そもそも独禁法の違反要件が分かりづらいことにある。市場を画定(区切りを明確に決めること)する作業に加え、その市場において「反競争性」があるかどうかを判断することは、独禁法の専門家でも頭を悩ませることがある。ましてや、現場の社員の隅々まで独禁法違反の有無を認識できるようにすることは、よほどコンプライアンス系統がしっかりしている会社でない限り困難だろう。したがって、リスクマネジメントの観点からは、「いつ自社に立入検査が入ってもおかしくない」くらいの意識を持っておくことが求められる。

 しかも、立入検査は、拒否した場合には罰金が科される間接強制*の調査であり、事前の予告なしに行われる。いきなり公取委の審査官が会社にやって来たことで混乱し、その後の訴訟等で不利になる対応をしてしまわないよう、会社としては公取委による調査の対象となった場合の対応方法をあらかじめ整理しておく必要がある。

* 一定の不利益を課すことにより、義務の履行を強制すること

 立入検査が入った場合には、まず、被疑事実の要旨等を記載した「告知書」が交付される。告知書に書いてある被疑事実の要旨は立入検査の範囲を示すとともに、企業から見れば、その後の訴訟手続等における“防御活動”の対象を示しているため、これを正確に把握する必要がある。そのうえで担当者に話を聞いたり、資料を精査し、事実関係を把握することが会社側の対応の第一歩となる。

 また、立入検査が入ったら、弁護士を立ち会わせ、立入検査の範囲や提出命令*の範囲などについて、適切なアドバイスを受けることが望ましい。意外と知られていないが、・・・

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2014/09/16 公正取引委員会の立入検査が入ったら?(会員限定)

 「独占禁止法違反の疑いで公正取引委員会が立入検査」といった報道を目にすることは少なくない。もちろん、企業としては公正取引委員会(以下、公取委)の立入検査とは「無縁」であるに越したことはないが、コンプライアンスの取組みによっても独占禁止法(以下、独禁法)違反のリスクを完全に取り除くことは容易ではない。その大きな要因は、そもそも独禁法の違反要件が分かりづらいことにある。市場を画定(区切りを明確に決めること)する作業に加え、その市場において「反競争性」があるかどうかを判断することは、独禁法の専門家でも頭を悩ませることがある。ましてや、現場の社員の隅々まで独禁法違反の有無を認識できるようにすることは、よほどコンプライアンス系統がしっかりしている会社でない限り困難だろう。したがって、リスクマネジメントの観点からは、「いつ自社に立入検査が入ってもおかしくない」くらいの意識を持っておくことが求められる。

 しかも、立入検査は、拒否した場合には罰金が科される間接強制の調査であり、事前の予告なしに行われる。いきなり公取委の審査官が会社にやって来たことで混乱し、その後の訴訟等で不利になる対応をしてしまわないよう、会社としては公取委による調査の対象となった場合の対応方法をあらかじめ整理しておく必要がある。

間接強制 : 一定の不利益を課すことにより、義務の履行を強制すること

 立入検査が入った場合には、まず、被疑事実の要旨等を記載した「告知書」が交付される。告知書に書いてある被疑事実の要旨は立入検査の範囲を示すとともに、企業から見れば、その後の訴訟手続等における“防御活動”の対象を示しているため、これを正確に把握する必要がある。そのうえで担当者に話を聞いたり、資料を精査し、事実関係を把握することが会社側の対応の第一歩となる。

 また、立入検査が入ったら、弁護士を立ち会わせ、立入検査の範囲や提出命令の範囲などについて、適切なアドバイスを受けることが望ましい。意外と知られていないが、公取委は立入検査への弁護士の立会いを拒否していないからだ。実際、立入検査では女子ロッカーまで検査の対象となったり、予定を記した手帳や当日の会議に必要な資料が提出命令の対象となることもあるという。こういった不利益は、弁護士の立ち会いにより回避したり、軽減できる余地がある。社内に弁護士がいない場合には、こうした対応ができる外部の弁護士をあらかじめリストアップしておくべきだろう。

提出命令 : 立入検査の際には、事件調査に必要な範囲で物件の提出命令が行われる。

 ただし、提出命令を受けた物件について「被疑事実と関係ないので提出命令の対象としてふさわしくない」旨を立証するのは簡単ではない。提出命令を受けた物件については、当日ないし後日の閲覧・謄写が認められる場合があるので、日常業務に必要な書類等についてはできるだけ当日の謄写を求めるべきだ。また、大量の資料の中から必要な書類をすぐに特定できるよう、普段から書類のファイリング等をしっかりと行っておくことも必要であろう。

 立入検査では、検査当日に担当者の事情聴取を求められることがある。間接強制である審尋が用いられるケースもあるが、多くの場合は「任意の事情聴取」であるため、事実把握のために社内調査の必要がある場合などは、事情聴取は後日にするよう申し入れるべきだ。違反者が自主的に違反事実を公取委に申告し調査に協力することで課徴金の免除や減額が受けられる「リニエンシー」制度の適用は「最大5社」とされており、同制度を利用するか否かの検討は時間との勝負となるだけに、事実関係を把握している担当者の不在は避けたい。

審尋 : 当事者や利害関係人に、書面や口頭による意見陳述の機会を与えること

 独禁法の審査手続を巡っては、例えば任意の事情聴取において誘導的な質問がなされたり、審査官に威圧的な態度をとられたりといった話も聞かれる中、企業側にはかねてから「防御権の確保」を求める声がある。こうした企業側の声を受け、政府は内閣府に「独占禁止法審査手続についての懇談会」を設け、弁護士顧客秘匿特権の保障や、事情聴取における弁護士の立会いを認めるかどうかなどについて、年内に一定の結論を得ることを目標に議論が行われている。この議論の行方次第では、立入検査への対応にも変化が生じる可能性があるので、こちらの動向にも注目していきたい。

弁護士顧客秘匿特権 : 弁護士と依頼者間の通信や調査内容などの提出命令を拒否する権利

2014/09/15 【役員会 Good&Bad発言集】社外取締役の候補者選定

 M社(東証第一部上場の製造業)は、会社法改正や機関投資家からの要求を受け、社外取締役の候補者選びに取りかかっている最中である。役員の知人を中心にこれぞと思う社外取締役候補者に就任を打診しているが、なかなか良い返事をもらうことができない。

 M社は既存事業の販売額の落ち込みが大きく、起死回生を狙い5年前に大規模な設備投資を実施のうえ新規事業に進出したものの、製品の仕損率が高いことから粗利が低く、有利子負債の削減がままならないという状況にある。どうやら、社外取締役候補者から「財務リスクが高い会社」と判断され、就任を固辞されているようだ。

仕損率 : 仕損とは、製造はしたものの、自社の品質基準を下回ったことなどにより「失敗作品」となってしまうこと。投入に対して仕損したものの割合を仕損率という。

 取締役会でも、社外取締役候補者の就任固辞が話題となり、事態の打開に向け各取締役がそれぞれ解決策を述べました。次のAからDの発言のうち、誰の発言がGOOD発言でしょうか?

取締役A:「私の知人にX社で生産管理に長年携わった者がいます。先日、X社の常務取締役を退任し、時間をもてあましていると聞いていますが、社外取締役への就任を打診してみましょうか。」

取締役B:「A取締役のお知り合いの方は生産管理が専門ということですが、法律や会計の専門家ではないようですので、ガバナンスの確保という点からは適性に欠けるのではないでしょうか。ところで、専務取締役のご令嬢は確か弁護士でしたよね? 法律の専門家としての知見を活かしたご意見番として当社の社外取締役になっていただいてはどうでしょうか? また、我が社は女性幹部社員が少ないので、女性を積極的に登用する企業として、投資家へのアピールにもなりますし、女性従業員のやる気アップにもつながります。」

取締役C:「社外監査役を増員して、現在の2名から4名にする案はどうでしょうか。監査役が倍になれば、機関投資家にもガバナンスの向上を十分アピールできるので、あえて社外取締役を選任しなくてもよいのではないでしょうか。」

取締役D:「大学教授のYさんは、奇しくも私の大学時代のゼミ仲間です。マスコミからも引っ張りだこで、テレビにも多数出演しており、知名度は抜群です。有名な上場企業の社外取締役を2社兼任していますし、実績も十分です。彼なら投資家の“受け“は良いはずです。」

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2014/09/15 社外取締役の候補者選定(会員限定)

<解説>
社外取締役の定義

 現行会社法(2014年6月20日の改正前の会社法)上、社外取締役とは、「株式会社の取締役であって、当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人でなく、かつ、過去に当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人となったことがないもの」(会社法2条15号)を言います。社外取締役について会社法が定める「社外性要件(「社外」取締役に該当するための要件)」を分解して、一つひとつ見ていきましょう。

・「当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人でなく」

→法令の言い回しを理解していないと、非常に読みづらい書きぶりです。

 法令では「又は」と「若しくは」を使い分けています。小さなくくりを「若しくは」でつなぎ、大きなくくりを「又は」でつなぎます。すなわち、下線部分は、「業務執行取締役」と「執行役」が“業務執行を行う役員”という小さなくくりとなっています。「執行役」は委員会設置会社で業務執行を担う役員なので、委員会設置会社でない通常の株式会社の業務執行取締役と並列する格好で、「若しくは」でつながれているわけです。

執行役 : 委員会設置会社で、取締役会の意思決定に基づき業務を執行する役員

 そのうえで、「業務執行取締役」と「執行役」という“業務執行を行う役員”と、「支配人その他の使用人」(例えば、課長や係長、いわゆる平社員など役員でない者を指す。以下同じ)という“職員”が「又は」でつながれて、大きなくくりである“役職員”を指すことになります。その結果、この要件では、下記の者は社外取締役に就任できないと言っていることになります。

・業務執行取締役
・執行役
・支配人その他の使用人
・子会社の業務執行取締役
・子会社の執行役
・子会社の支配人その他の使用人

 なお、社外取締役は業務執行取締役を兼ねることができないため、社外取締役の立場で業務を執行することは認められないという点にも留意が必要です。

・「過去に当該株式会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役又は支配人その他の使用人となったことがないもの」

→ここでは、過去に下記のいずれかであった者は社外取締役に就任できないことが規定されています。要するに、自社か子会社の「業務執行取締役」「執行役」「支配人その他の使用人」のいずれかであった者は社外取締役にはなれないといことです。

・業務執行取締役
・執行役
・支配人その他の使用人
・子会社の業務執行取締役
・子会社の執行役
・子会社の支配人その他の使用人

 このように、会社法で社外取締役の社外性要件が細かく規定されているのは、従業員から取締役に昇任した者のように様々なしがらみや出身部門の利害関係を背負った「社内取締役」とは異なり、社外取締役には独立した立場で株主の声を代弁することが期待されているからです。

 また、社外取締役には弁護士や公認会計士が目立つことから、「法律や会計に詳しくないと就任できないのではないか」と誤解されがちですが、必ずしもそれが必須条件ではありません。むしろ、マネジメントの経験が豊富である、先端技術に詳しい、業界事情に精通している、海外事情に明るい、ファイナンス全般に関する知識・経験が豊富であるというように、社外取締役によって得意分野が異なっていた方が、取締役会で様々な視点からの意見が出やすく、会社にとってもメリットがあります。

会社法改正で社外性の要件が厳格化

 2014年6月20日、改正会社法が国会で成立しました(施行日は2015年4月1日が有力)。

 この改正により、社外取締役の社外性の要件は次のように変更されます。現行法では社外取締役に就任可能な親会社の取締役(社外取締役も含みます)や兄弟会社の業務執行取締役(こちらは社外取締役は含みません)が「社外性」の要件を満たさなくなるなど(下記(3)(4)の要件参照)、基本的には社外取締役に就任できる者の範囲を狭める改正と言えます。

(1)現在および社外取締役に就任する前の10年の間に、「業務執行取締役等」であったことがないこと
(2)社外取締役に就任する前の10年の間に、「当該会社またはその子会社の取締役、会計参与、監査役」であったことがある者」については、当該取締役、会計参与、監査役に就任する前の10年の間に、「当該会社またはその子会社の業務執行取締役等」であったことがないこと
(3)当該会社の経営を支配する個人や「親会社の取締役、執行役、支配人その他の使用人」でないこと
(4)「兄弟会社の業務執行取締役等」でないこと
(5)当該会社の取締役、執行役、支配人、当該会社を支配する個人の「配偶者または二親等以内の親族」でないこと

業務執行取締役等 : 「等」は執行役(委員会設置会社で業務執行を担う役員)や支配人その他の使用人が該当する。

取締役 : 業務執行取締役は(1)で社外取締役になれない旨規定されているため、ここでは業務執行取締役以外の取締役を指す。

当該会社の経営を支配する個人 : 自然人(個人)の立場で株式を50%超有する等会社の経営を支配している者を指す。

兄弟会社 : 自社から見て親会社に該当する会社や自社の経営を支配している個人等から経営を支配されている会社等のこと。

 この改正により、改正会社法が施行されるまで、現行会社法上は社外取締役の要件を充たしている次のような者も、社外取締役の要件を満たさないことになります(経過措置により、改正会社法施行後最初に終了する事業年度に関する定時株主総会(3月決算法人であれば、2016年6月の株主総会となる見込み)の終結の時までは、社外取締役の要件を満たすこととされています)。

・会社の経営を支配している個人およびその配偶者や2親等以内の親族
・親会社の取締役(業務執行取締役だけでなく、業務を執行しない取締役や社外取締役も含む)等
・兄弟会社の業務執行取締役等
・業務執行取締役等の配偶者や2親等以内の親族

 このように会社法改正により社外取締役の要件が厳格化される一方で、要件が緩和されている部分もあります。現行会社法の社外性要件である「過去に当該会社又はその子会社の業務執行取締役若しくは執行役、又は支配人その他の使用人となったことがない者」にいう「過去」には、期間の限定がありませんが(つまり、たとえ何十年も前に業務執行取締役等であった場合も社外取締役になれない)、上述のとおり、改正により「過去10年」に限定されることになりました。

上場会社で社外取締役の選任圧力が強まる2つの要因

 東京証券取引所は2014年2月に有価証券上場規程を改正、これにより上場会社は、取締役である独立役員()を少なくとも1名以上確保するよう努めなければならないこととされました。あくまで“努力規定”ですが、この改正を機に、これまで社外取締役を選任していなかった上場会社でも、独立役員の要件を満たす社外取締役を選任する動きが活発化しました。さらに、次の2つの要因から、上場会社に対する社外取締役の選任圧力はますます強まることが予想されます。

 一般株主と利益相反が生じる恐れのない社外取締役または社外監査役をいう。詳細な独立性の基準については、東京証券取引所の「独立役員の確保に係る実務上の留意事項について」参照。

要因1:会社法改正
 会社法改正により、社外取締役がいない上場会社は、定時株主総会の場で、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を説明しなければなりません(「社外取締役を置かないことが相当である理由」ではないことに留意が必要です)。ただ、実際には、株主に対して「社外取締役を置くことが相当でない理由」を合理的かつ説得的に説明することは難しいことから()、社外取締役選任のプレッシャーが強まることが予想されます。

 例えば、「探したが適当な人材が見つからなかった」「報酬が折り合わなかった」「会社の業績は順調なので、社外取締役を選任する必要性を感じない」「会社の実態を熟知した取締役だけで取締役会を運営した方が、機動的な意思決定ができる」「監査役会設置会社として、監査役の経営監視を受けている」「社外監査役を選任している」などの理由では、どれも説得力に欠けます。

要因2:コーポレートガバナンス・コードの導入
 安倍政権が策定した「日本再興戦略」改訂2014(2013年6月に出されたものの改訂版)では、東京証券取引所に「コーポレートガバナンス・コード」を策定することを求めています。コーポレートガバナンス・コードとは、模範的なガバナンスのあり方を定め、上場会社に対して、それを遵守するのか、遵守しない場合はその理由の説明を求める(Comply or Explain)というものです。既にイギリス、ドイツ、フランスなどのヨーロッパ諸国で運用されている制度であり、我が国でも上場会社のコーポレートガバナンスを確保し、日本経済の持続的成長につなげるために導入される見通しです。

 2014年6月30日にコーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会より公表された「社外役員を含む非業務執行役員の役割・サポート体制等に関する中間取りまとめ」では、先行するヨーロッパ諸国のコーポレートガバナンス・コードの内容がいくつか紹介されています。

 例えばイギリスでは以下のようなコード(あくまで一部です)が制定されています。

─────────────────────────────────────────────────
・取締役会議長は、業務執行取締役と非業務執行取締役との建設的な関係を確保すること等によりオープンな議論をする文化を促進する。
・非業務執行取締役は、取締役会議長の業績を評価する責任を負う。
・取締役会は、非業務執行取締役の相談役、業務執行取締役との仲介役として、非業務執行取締役の中から筆頭独立取締役(the senior independent director)を1名任命する。
・非業務執行取締役は、期待に見合うための十分な時間を有することを保証する。
・非業務執行取締役は、主要な株主との間の定期会合に出席する。主要な株主からの求めがある場合にも、会合に出席する。
・非業務執行取締役の報酬水準は、その職務に投入する時間及び職務上の責任を反映させる。
────────────────────────────────────────────────

 日本でも、このようなコーポレートガバナンス・コードを東京証券取引所が策定し、上場会社はそれに対して“Comply or Explain”の対応を求められることになります。コーポレートガバナンス・コードに、「社外取締役を選任する」ことが盛り込まれる可能性は高く、上場会社に対する社外取締役選任のプレッシャーがますます強まることになります。

 なお、上述の「日本再興戦略」改訂2014では、女性の活躍促進が重点政策として掲げられている点も見落とせないポイントです。具体的な施策の一つとして、有価証券報告書に役員の女性比率の記載を義務付けるよう企業内容等の開示に関する内閣府令の改正が行われる見通しです。管理職の女性比率が少ない会社では、女性の役員候補者の社内育成が十分でない会社もあることでしょう。役員の女性比率をあげるために、女性の社外取締役選任を視野に入れる会社もありそうです。

さて、以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。

<正解>
GOOD発言はこちら

取締役A:「私の知人にX社で生産管理に長年携わった者がいます。先日、X社の常務取締役を退任し、時間をもてあましていると聞いていますが、社外取締役への就任を打診してみましょうか。」
コメント:Bの発言にあるように、Aの知人は法律や会計の専門家ではありません。しかし、法律や会計の専門知識だけが社外取締役に求められる資質ではありません(後述のBの解説参照)。M社では、新規事業の製品の仕損率が高いという問題を抱えています。生産管理の専門家が、社外取締役という立場からノウハウを提供して、仕損率を低減し、生産効率を向上させるアドバイスをすることは、立派な貢献と言えます。また、「時間をもてあましている」という点も重要です(後述のCの解説参照)。
 X社でのボードメンバーとしての経験を生かし、大所高所からのアドバイスも期待できることから、社外の立場から株主の声を代弁するという社外取締役の役割にマッチしているものと思われます。
 ただし、気になるのは、就任後の生産管理業務との関わり方です。社外取締役は業務執行取締役を兼ねることができない以上、業務を執行することができません。仮に就任後、実質的に生産管理所管の取締役の役割をこなすことになれば、もはや社外取締役ではなくなります。いくら形式上は「社外取締役」の体裁をとっていても、業務執行を行った時点で社外取締役ではなくなるというのが会社法のルールだからです(会社法2条15号)。もし、生産管理のアドバイスに特化するのであれば、社外取締役ではなく、例えば工場の顧問のような形で関わる方が望ましいと言えるでしょう。就任後に生産管理業務とどう関わるのか線引きが難しいところですが、発言内容として間違っているわけではないことからGOOD発言としました。

BAD発言はこちら
取締役B:「A取締役のお知り合いの方は生産管理が専門ということですが、法律や会計の専門家ではないようですので、ガバナンスの確保という観点からは適性に欠けるのではないでしょうか。ところで、専務取締役のご令嬢は確か弁護士でしたよね? 法律の専門家としての知見を活かしたご意見番として当社の社外取締役になっていただいてはどうでしょうか? また、我が社は女性幹部社員が少ないので、女性を積極的に登用する企業として、投資家へのアピールにもなりますし、女性従業員のやる気アップにもつながります。」
コメント:確かに、女性役員の増加は女性の社会進出促進に向け我が国として優先度の高い課題であり、上場会社としては率先して取り組むべきと言えます。実際、2014年6月に「日本再興戦略改訂2014)」が閣議決定され、近い将来、有価証券報告書に「役員の女性比率」を記載することが義務付けられます。しかし、女性を社外役員に登用し、形だけ「役員の女性比率」を向上させても、女性従業員のモラールのアップにつながるがどうかは疑問です。なぜなら、社外役員就任は、女性従業員の社内におけるキャリアパスとはルートが異なるからです。女性従業員のモラールをアップさせるためには、全社的に女性の幹部社員を増やしていく必要があります。
 余談ですが、モラールとは「やる気」や「勤労意欲」のことを指します。たまに「やる気」という意味で「モラル」を使う方を見かけますが、これは間違いです。「モラル」は「道徳」という意味になりますので、誤用には気をつけてください。
 また、会社法改正により、取締役の二親等以内の親族は、社外取締役の要件を満たさないことになります。「専務取締役のご令嬢」は二親等以内の親族にあたることから、会社法改正後は社外取締役の要件を満たさなくなってしまう点には注意が必要です。もっとも、現行会社法上は違法ではないとはいえ、父親が専務取締役を務める会社の社外取締役に就任した娘が、株主の立場に立った発言をどれほどすることができるのか、疑問のあるところです。
 なお、社外取締役は、必ずしも法律や会計に強いことが必須条件とはされていませんので、冒頭の「適性に欠ける」旨の発言部分も不適切と言えます(上述のAの解説参照)。
取締役C:「社外監査役を増員して、現在の2名から4名にする案はどうでしょうか。監査役が倍になれば、機関投資家にもガバナンスの向上を十分アピールできるので、あえて社外取締役を選任しなくてもよいのではないでしょうか。」
コメント:社外監査役は社外取締役と異なり、取締役会での投票権を持っていません。そのため、社外監査役をいくら増員しても、取締役会での議決という観点からは、社外取締役の選任に及ばないと考えられます。したがって、「社外監査役を増員するので、社外取締役を選任しません」という理由は説得的とは言えません。実際、昨年(2013年11月22日)に会社法改正案が一部修正のうえ自民党法務部会で了承された際には、社外監査役が2名以上あることのみをもって「社外取締役を置くことが相当でない理由」とすることはできないことが確認されています(2014年6月6日のニュース「「社外監査役2名」より「社外取締役1名」の方が重い?」参照)。
取締役D:「大学教授のYさんは、奇しくも私の大学時代のゼミ仲間です。マスコミからも引っ張りだこで、テレビにも多数出演しており、知名度は抜群です。有名な上場企業の社外取締役を2社兼任していますし、実績も十分です。彼なら、投資家の“受け“は良いはずです。」
コメント:テレビに多数出演している有名大学教授であれば、一般人の認知度は高いと言えます。しかし、認知度が高いからといって、社外取締役の適性があるとは限りません。逆に、そのような多忙な方に、M社の社外取締役としての職務にどれほど時間を割いてもらえるのか疑問です。既に上場企業の社外取締役を2社も兼任しているのであれば、なおさらM社に割ける時間はわずかでしょう。社外取締役の職務は、月に1回の取締役会に出席し、「異議無し」と発言して取締役会議事録に判子を押せば十分というわけではありません。取締役会の資料を事前に読み込み、監査役と意見交換をすることで、会社の現況を理解し、問題点を見つけ出して深掘りをするといった時間を考慮すると、月に数時間だけ割けばよいという簡単な任務ではないのです。実際、イギリスのコーポレートガバナンス・コードには、「非業務執行取締役は、期待に見合うための十分な時間を有することを保証する。」(UKコードB.3.2)というものがあります。東証が定める予定のコーポレートガバナンス・コードでも、同様のコードが盛り込まれることが濃厚です。「忙しい人にこそ仕事を任せるべき」というセオリーは少なくとも社外取締役の選任に際しては当てはまらないことになります

2014/09/12 “スチュワードシップ・コード時代”の企業報告のポイント

 企業の中・長期的発展を促すための投資家の責任を明確にする日本版スチュワードシップ・コード(「責任ある機関投資家」の諸原則)が本年2月に策定されたことを受け、機関投資家は投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を模索している。これに伴い、企業サイドにも、機関投資家との「対話」が促進されるよう、自社のビジネスモデルや経営課題などの情報を分かりやすく提供する工夫が一層求められることになるのは間違いない。

 「日本版」のモデルとなったイギリスのスチュワードシップ・コード(2010年策定)の冒頭には、「投資家にとって、スチュワードシップとは単なる議決権の行使にとどまらない。企業の戦略・リスク・資本構造・ガバナンスを監視し、これらに関与することも含まれる。関与とは、これらおよび年次総会の喫緊の議題に関して、目的を持って企業と対話することである」と記載されている。監視にとどまらず、さらに関与までするとなれば、情報に対する機関投資家の要求レベルも必然的に上がらざるを得ないだろう。

 では、「対話」が促進される情報提供とは一体どのようなものだろうか。

 “スチュワードシップ・コード先進国”、イギリスの財務報告評議会(Financial Reporting Council=FRC 日本の企業会計基準委員会に相当)が最近(2014年8月12日)まとめた「明瞭・簡潔な報告に向けて(Towards Clear & Concise Reporting)」と題する報告書(以下「本報告書」)を見てみよう。

 まず、FRCが「良い企業報告の特徴」として挙げているのが以下の項目だ。・・・

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2014/09/12 “スチュワードシップ・コード時代”の企業報告のポイント(会員限定)

 企業の中・長期的発展を促すための投資家の責任を明確にする日本版スチュワードシップ・コード(「責任ある機関投資家」の諸原則)が本年2月に策定されたことを受け、機関投資家は投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を模索している。これに伴い、企業サイドにも、機関投資家との「対話」が促進されるよう、自社のビジネスモデルや経営課題などの情報を分かりやすく提供する工夫が一層求められることになるのは間違いない。

 「日本版」のモデルとなったイギリスのスチュワードシップ・コード(2010年策定)の冒頭には、「投資家にとって、スチュワードシップとは単なる議決権の行使にとどまらない。企業の戦略・リスク・資本構造・ガバナンスを監視し、これらに関与することも含まれる。関与とは、これらおよび年次総会の喫緊の議題に関して、目的を持って企業と対話することである」と記載されている。監視にとどまらず、さらに関与までするとなれば、情報に対する機関投資家の要求レベルも必然的に上がらざるを得ないだろう。

 では、「対話」が促進される情報提供とは一体どのようなものだろうか。

 “スチュワードシップ・コード先進国”、イギリスの財務報告評議会(Financial Reporting Council=FRC 日本の企業会計基準委員会に相当)が最近(2014年8月12日)まとめた「明瞭・簡潔な報告に向けて(Towards Clear & Concise Reporting)」と題する報告書(以下「本報告書」)を見てみよう。

 まず、FRCが「良い企業報告の特徴」として挙げているのが以下の項目だ。
(1)財務諸表の重要なポイントが文章で説明されており、財務諸表に予期しない情報が隠されていない。
(2)企業がどのように収益を上げているか(ビジネス)が記載されている。
(3)取締役会が懸念している重要なリスクや不確実要素が示されている。
(4)財務情報と非財務情報が矛盾していない。
(5)無駄な情報が削除され、重要なメッセージ・方針・事業活動が強調されている。
(6)的確な言葉遣いにより、複雑な会計・報告事項が明確に説明されている。
(7)内容が分かりやすくまとめられている。
(8)前期からの重要な変化が適切に説明されている。
(9)内容が真実かつ公正である。

 これらをすべて完璧に満たすのは容易ではないだろうが、“スチュワードシップ・コード時代”において、機関投資家との「対話」促進という観点から特に重視されるのは、冒頭でも述べた「分かりやすい」という視点だ。同報告書は、FTSE350*に属する41企業の2013年度年次報告書(=アニュアルレポート。日本の有価証券報告書に相当)の中で、より「明瞭・簡潔」な企業報告に向け改善のあった取組みを「グッド・プラクティス」として紹介している。具体的には、以下のようなものが挙げられている。

* ロンドン証券取引所に上場する企業のうち時価総額上位350社の時価総額を基にした同証券取引所の株式指標。FTSE250、FTSE100もある。

(1)記載する媒体の検討
 年次報告書に記載する情報を見直し、投資家が関心を有しないと思われる事項については記載しないか、補足資料に記載した。また、一部の投資家しか関心を有さないと思われる事項についても、補足資料に記載した。

(2)内容の検討
・プロセスではなく「何をしたか」について報告し、プロセスや方針はウェブサイトに掲載した(投資家は、例えば委員会が「何をする」機関なのかではなく、課題解決のために「何をしたか」について関心を持っているため)。
・CSR情報の記載を事業にとって重要なものに絞り、詳細は補足資料やCSR報告書に記載した。
・役員経歴の記載を、現在の役割に関係する経歴やスキルに絞り、詳細な情報はウェブサイトに掲載した。

(3)重要性の検討
・「前年度に記載されていたから」という理由で記載することはやめ、現在は重要でなくなった情報は削除した(例えば、金融危機の際の特定のヨーロッパの国のソブリン債*に対する懸念)。
・開示義務が解除された情報について、投資家に対して引き続き提供する必要があるかどうかを検討し、必要がなければ削除した。
・重要な会計方針に絞って記載した(ただし、FRCが調査した約半数の投資家がすべての会計方針を記載して欲しいと考えており、企業は自社の投資家のニーズを把握する必要がある)。

* 国債をはじめ、政府や政府関係機関が発行または保証する債券

(4)レイアウトの検討
・比較すべきデータを別の表に記載するのではなく、同じ表内に並列して記載した。
・アイコンを設置してその情報のタイプ(法定/任意開示事項など)が容易に分かるようにした。
・表により示されている情報を、文章で重複して説明しないようにした。

 もちろん、理想とする企業報告に一足飛びに到達できるわけではない。毎年、継続的な改善が必要になろう。そこでFRCでは、「改善サイクル」として、企業が取るべきステップを示し、これを運用することを提言している。具体的には以下のとおり。

計画
・取締役会などの組織のトップが協力する。
・年次報告書が対象とする読者を明確にする。
・投資家の意見を聞く。
・ウェブサイトの閲覧データから、よく閲覧されている情報を確認する。
・改善プロジェクトのスコープ(範囲)を決定する。

管理
・担当者を明確にする。
・目標を設定する。
・ビジネスモデルや戦略などの報告書の重要な要素については、早い段階で取締役会に相談する。

実行
・前例を踏襲しない。
・ビジネスや規制の変化を確実に反映する。
・報告書に記載すべき重要な情報は何であるか、チーム内で情報を共有する。

評価
・作成の途中で適宜レビューを行う。
・投資家からのフィードバックを求める。
・改善サイクルを持続的なものとするための方法を考える。

 日本版スチュワードシップ・コードがイギリス版をモデルとしている以上、イギリスで起きていることは今後日本でも起こる可能性が高い。その意味で、今回紹介したFRCの調査結果や提言は、日本企業の企業報告においても大いに参考になろう。

2014/09/11 (新用語・難解用語)宣言的決議

 会社法や定款に定められた株主総会の決議事項ではないものの、株主の意思確認を行う観点から、株主総会で決議されたもの。「勧告的決議」とも呼ばれる。宣言的決議が行われる代表的なものとして、買収防衛策がある。

 買収防衛策の導入(あるいは継続)議案は機関投資家の関心も高く、毎年の株主総会では同議案への賛否の動向に注目が集まる。今年(2014年)6月の株主総会では、ゲームソフト大手のカプコンの買収防衛策導入議案が史上初の否決となる一方(2014年7月2日のニュース「6月株主総会総括 買収防衛策の導入議案で初の否決、監査役への退職慰労金は過半数割れ寸前に」参照)、積水化学工業の議案が議決権行使助言の最大手ISSの賛成推奨を受けたとされ(2014年8月8日のニュース「外国人株主比率が高いのに買収防衛策への賛成率も高い会社の特徴」参照)、大きな話題を呼んだ。

 ただ、・・・

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2014/09/11 (新用語・難解用語)宣言的決議(会員限定)

 会社法や定款に定められた株主総会の決議事項ではないものの、株主の意思確認を行う観点から、株主総会で決議されたもの。「勧告的決議」とも呼ばれる。宣言的決議が行われる代表的なものとして、買収防衛策がある。

 買収防衛策の導入(あるいは継続)議案は機関投資家の関心も高く、毎年の株主総会では同議案への賛否の動向に注目が集まる。今年(2014年)6月の株主総会では、ゲームソフト大手のカプコンの買収防衛策導入議案が史上初の否決となる一方(2014年7月2日のニュース「6月株主総会総括 買収防衛策の導入議案で初の否決、監査役への退職慰労金は過半数割れ寸前に」参照)、積水化学工業の議案が議決権行使助言の最大手ISSの賛成推奨を受けたとされ(2014年8月8日のニュース「外国人株主比率が高いのに買収防衛策への賛成率も高い会社の特徴」参照)、大きな話題を呼んだ。

 ただ、上述のとおり、買収防衛策は会社法上、株主総会の決議事項として規定されているわけではない。すなわち、株主総会に諮ったとしても、それはあくまで「宣言的決議」として株主の意思を確認しているに過ぎないということになる。したがって、仮に議案への反対が多数にのぼったとしても、会社側が強引に買収防衛策導入に踏み切ることも理屈のうえでは可能となる。

 もっとも、株主総会で賛同を得られなかった買収防衛策を発動したとしても、敵対的買収者が「株主利益を毀損するもの」として裁判所に訴えた場合、その主張が認められる可能性は高い(そうなれば、買収防衛策は差し止めとなる)。買収防衛策はあくまで株主総会の賛同を得たうえで導入すべきということだ。

 なお、会社法上の決議事項でない宣言的決議には決議要件もないが、通常は普通決議と同じく出席株主の「過半数」とされるケースが多い。買収防衛策の導入議案も、「過半数」をもって可決とするのが一般的となっている。

2014/09/10 集団訴訟を防ぐリコールと防がないリコール

 自社製品の欠陥等が販売後に発見され、メーカーや販売会社がリコールを行うケースは後を絶たない。特に精密機械ほど、100%リコールを防ぐのは容易ではないだろう。

 それだけに、メーカーや販売会社にとしては、リコールと昨年(2013年)秋の臨時国会で成立した「消費者裁判手続特例法」(いわゆる集団訴訟法)との関係が気になるところ。リコールを行った企業に対して集団訴訟が提起されるとしたら、企業にとっては大きな脅威になる。

 集団訴訟法に対しては、濫訴*で悪名高いアメリカのクラスアクションのような現象が日本でも起こるのではないかとの懸念が企業から出されてきた(2014年3月19日「集団訴訟の対象とならないためにやるべきこととは?」および同7月16日「個人情報の漏洩は集団訴訟の対象になるか?」に関連のニュース記事)。こうした懸念を踏まえ、集団訴訟法では、訴訟を提起できる主体を政府から認定を受けた「特定適格消費者団体」に限定している。さらに、特定適格消費者団体による濫訴を防止するため、「不当な目的でみだりに」訴えを提起してはならないとの規定も設けており(同法72条)、これに違反した団体は消費者庁から改善命令を受けるほか、特定認定が取り消されることもある。

* むやみやたらに訴訟を起こすこと

 では、「不当な目的でみだりに」とは一体どういう状態を指すのだろうか。仮にリコールを実施している場合に訴訟を提起することがこの「不当な目的でみだりに」に該当するのであれば、企業にとってはありがたい話と言える。なぜなら、迅速なリコール対応さえしておけば、特定適格消費者団体から訴訟を提起されることはないからだ。

 この点については、現在消費者庁の「特定適格消費者団体の認定・監督に関する指針等検討会」で検討が行われているが、結論から言うと、・・・

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