東証は2020年1月7日に「従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会」を設置し、親会社等の影響力が大きい上場会社における少数株主保護の在り方について上場制度の見直しを検討してきたが、近く見直しの内容を取りまとめたうえでパブリックコメントに付し、2026年12月以降に終了する事業年度に係る定時株主総会から適用する方針だ。
見直しの柱となるのは、少数株主の賛否割合や反対票を踏まえた対応状況の開示義務化と、社外取締役の独立性基準等の見直しの2点。以下、それぞれについて見直しの方向性を解説する。
少数株主の賛否割合や反対票を踏まえた対応状況等の開示義務化
上場子会社等に対し、少数株主の反対票や懸念を踏まえた対話や対応を促すため、以下の適時開示を株主総会後「速やかに」実施することが上場規則において義務付けられる(2026年1月26日に開催された第9回研究会の東証説明資料①5ページ参照)。
| 対象議案 |
会社提案である取締役選任議案 |
| 対象企業 |
議決権保有比率が40%以上の大株主を有する上場会社 |
| 開示内容 |
● 少数株主の各取締役選任議案に対する賛否の割合
● 賛否割合の算定に用いた少数株主の範囲 |
「40%以上の大株主」の有無は、親会社やその子会社・関連会社など、同一グループに属する会社の保有分を合算して判断する。また、支配株主の影響を除いた一般株主の賛否状況を把握するため、「少数株主の範囲」からは「40%以上の大株主」を除外するほか、その他任意に除外した株主(例えば、資本提携先や株式持ち合い先など、一般株主とは利害関係が異なる株主)があれば開示が求められる。
関連会社 : 出資や人事、資金、取引などの関係を通じて、他社の財務・営業方針の決定に重要な影響を与えることができる会社(子会社を除く)。議決権の20%以上を保有する場合などが典型例である。
さらに、少数株主の50%超から反対票が投じられた議案があった場合には、株主総会後「速やかに」、また「6か月以内」に、以下の適時開示を実施する必要がある(「速やかに」開示する項目は、上表における開示と一体で行えばよい)。
| 株主総会後速やかに |
● 取締役会による反対理由や原因の把握のための、株主との対話等の方針 |
| 株主総会後6か月以内 |
● 株主からのフィードバック、追加的な対応の必要性および取組方針等 |
東証は今回の上場規則改正の背景として、「投資家から一定の反対が示されているにもかかわらず、投資家がエンゲージメントしても、会社としての考えや今後の取組みに関する説明を得られない事例」の存在を問題視していることを挙げている(第9回研究会の東証説明資料①3ページ参照)。また、研究会のメンバーからは「分析はもちろん、一定の説明をお願いすることが、コミュニケーションの改善という点でも前進につながるのではないか」との声が上がっていた(第8回の議事録9ページの菊池メンバーの発言)。
現行コーポレートガバナンス・コード(CGコード)の補充原則1-1①でも「株主総会において可決には至ったものの相当数の反対票が投じられた会社提案議案があった」場合には、「反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主との対話その他の対応の要否について検討」を行うことが求められており、同補充原則は今年予定されるCGコードの改訂で新設される原則1-3に格上げされる方向だが(CGコードの改訂については2026年3月3日のニュース「CGコード第三次改訂案、原則数は83から28に大幅減も「序文」および「解釈指針」を踏まえた対応必要に」参照)、少数株主利益が毀損されるリスクが相対的に高い上場子会社等については、別途、上場規則により開示を義務付ける必要があると判断したものと考えられる。
前述のとおり、本規制の対象となるのは、議決権比率40%以上の大株主(同一グループに属する会社の保有分を合算)を有する上場子会社等とされる。したがって、いわゆる上場子会社に限定されることなく、一定の大株主が存在する上場会社であれば対象となり得ることになる。上場会社各社はまず自社の株主構成を確認し、直近株主総会の議決権行使結果を分析するなど、対応を検討する必要があろう。
社外取締役の独立性基準等の見直し
独立社外取締役があらゆる局面で一般株主(主要株主以外の株主)の保護という役割を果たせるよう、主要株主(10%以上の議決権を保有する株主)および政策保有株式の相手先(持ち合い先)の業務執行者が社外取締役となる場合を念頭に、独立性基準の厳格化および属性情報の開示の拡充が図られる。
具体的には、独立性基準および属性情報に、それぞれ以下の内容が追加される。なお、「主要株主」および「政策保有株式の相手先」に該当するかどうかは、いずれも「現時点」の状況に基づいて判断される。
| 独立性基準 |
● 現在・最近に、上場会社の主要株主の業務執行者でないこと
● 現在・最近に、上場会社が主要株主である先の業務執行者でないこと |
| 属性情報 |
● 現在・過去10年以内に、上場会社が政策保有している/されている先の業務執行者である又はあった場合には、その該当状況 |
さらに、主要でない(意思決定に大きな影響を生じない)取引先の業務執行者が社外取締役である場合についても、取引関係の具体的な開示(売上高の〇%未満など)を求める方向だ。
独立性基準等の見直しの背景には、機関投資家の議決権行使基準では「10%以上の株主の関係者は一般株主の利益を客観的に代表できない」とみなされている(第9回研究会の東証説明資料①11ページ参照)一方で、東証の独立性基準には必ずしも抵触しないということがある。この点について研究会のメンバーからは、投資家と企業のエンゲージメントの場では「企業側から東証の独立性基準には抵触していないと主張され」議論が進まなくなることもあり、東証の独立性基準が「いわば隠れ蓑のように使われてしまっている」との指摘がある(第8回の議事録15ページ~の菊池メンバーの発言)。また、別のメンバーからは「非常に濃厚な取引関係にある会社の独立社外取締役の席が確保されているという事例」があることへの懸念が示されている(同議事録24ページ2段落目~の三瓶メンバーの発言)。
東証の独立性基準 : 一般株主と利益相反の生じるおそれがある場合の判断要素を定めたもの。独立性基準に抵触する場合には、独立役員として届け出ることができない。
東証は従来から、社外取締役と主要株主との関係を開示対象としてきたが、独立性基準には抵触しないという取扱いだった。今回の見直しにより、主要株主の業務執行者等は独立性基準に抵触することとなり、独立役員として届け出ることができなくなる。
もっとも、東証によると、現在・最近において主要株主の業務執行者等である/あった者を、独立社外取締役として選任している上場会社は34社(1.1%)にとどまる(第9回研究会の東証説明資料①15ページ参照)。より多くの上場会社に影響するのは、政策保有株式の相手先に関する開示の義務化だろう。
既に機関投資家の多くは、議決権行使の際には有価証券報告書の開示を踏まえ、政策保有株式の相手先企業の出身者の選任議案に対して反対票を投じている。今回の見直しにより、コーポレートガバナンス報告書の【取締役関係】欄での開示が義務付けられることになれば、上場会社に対する持ち合い解消に向けたプレッシャーは一層強まることになりそうだ。