2024/05/13 相次ぐ下請法の運用見直し 下請代金支払い手形のサイト短縮を迫られる企業も

賃上げ圧力が高まりとともに記録的な円安が継続する中、企業経営においては、コストアップへの対応と価格転嫁が最優先の課題となっている。しかも、コストアップへの対応は自社だけで完結するものではなく、サプライチェーンを通じた対応が不可欠であるため、仕入先や下請先からの取引価格アップの要請にどう応えるのかが課題となる。価格転嫁が容易ではない企業は、下請先からの取引価格アップの要請に対して取引価格の据え置きを依頼することを検討しているかもしれない。しかし、そのような“価格据え置き依頼”は下請代金支払遅延等防止法(以下、下請法)上の「買いたたき」に該当する可能性があることには注意が必要だ。・・・


下請代金支払遅延等防止法 : 下請取引の公正化・下請事業者の利益保護のため、下請代金の支払い遅延禁止、下請け代金の減額の禁止、買いたたきの禁止など、親事業者と下請事業者の取引に関するルールを定めた法律

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2024/05/13 相次ぐ下請法の運用見直し 下請代金支払い手形のサイト短縮を迫られる企業も(会員限定)

賃上げ圧力が高まりとともに記録的な円安が継続する中、企業経営においては、コストアップへの対応と価格転嫁が最優先の課題となっている。しかも、コストアップへの対応は自社だけで完結するものではなく、サプライチェーンを通じた対応が不可欠であるため、仕入先や下請先からの取引価格アップの要請にどう応えるのかが課題となる。価格転嫁が容易ではない企業は、下請先からの取引価格アップの要請に対して取引価格の据え置きを依頼することを検討しているかもしれない。しかし、そのような“価格据え置き依頼”は下請代金支払遅延等防止法(以下、下請法)上の「買いたたき」に該当する可能性があることには注意が必要だ。


下請代金支払遅延等防止法 : 下請取引の公正化・下請事業者の利益保護のため、下請代金の支払い遅延禁止、下請け代金の減額の禁止、買いたたきの禁止など、親事業者と下請事業者の取引に関するルールを定めた法律

下請法第4条第1項第5号で禁止されている買いたたきとは、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」(平成15年公正取引委員会事務総長通達第18号「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(以下、下請法運用基準)の第4の5)とされている。ここでいう「通常支払われる対価」とは、「当該給付と同種又は類似の給付について当該下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価」を指す。すなわち、「買いたたき」とは、一般的にイメージされている「下請代金を積極的に値切る」行為だけには限られないということだ。最近のように「当該下請事業者の属する取引地域において一般に支払われる対価」が上昇している状況では、下請代金を「据え置く」だけでも「買いたたき」に該当することになる。まさに日本全国で賃上げ圧力が高まり、円安で原材料費やエネルギーコストが上昇している中では、「当該下請事業者の属する取引地域」が全国のどこであっても、「一般に支払われる対価」が上昇している状況にある。

そこで公正取引委員会は、2023年11月29日に公表した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」等を踏まえ、たとえ「通常の対価を把握することができないか又は困難」である場合であっても、下請法上の買いたたきの解釈・考え方が明確になるよう下請法運用基準を改正することし、2024年4月1日に改正案の公開草案をリリースし、4月30日までパブリックコメントを募集していたところだ。改正に伴う新旧対照表は下表のとおり(下線部が改正箇所)。

73153

なお、買いたたきに該当するか否かは、「下請代金の額の決定に当たり下請事業者と十分な協議が行われたかどうか等対価の決定方法、差別的であるかどうか等の決定内容、通常の対価と当該給付に支払われる対価との乖離状況及び当該給付に必要な原材料等の価格動向等を勘案して総合的に判断する」(上表の左列下部参照)とされているが、ここでいう「下請事業者との十分な協議」とは、パートナーシップ構築宣言のひな形において具体的に次のようなものとされている(赤字が新ひな形で修正された記述部分)。

①価格決定方法
不合理な原価低減要請を行いません。取引対価の決定に当たっては、下請事業者と少なくとも年に1回以上の協議を行うとともに、下請事業者の適正な利益を含み、下請事業者における労働条件の改善が可能となるよう、十分に協議して決定します。その際、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」に掲げられた行動を適切にとった上で決定します。また、原材料費やエネルギーコストの高騰があった場合には、適切なコスト増加分の全額転嫁を目指します。なお、取引対価の決定を含め契約に当たっては、契約条件の書面等による明示・交付を行います。

また、これまで公正取引委員会は、下請代金の支払い手段としての手形等(以下、手形だけでなく「一括決済方式」や「電子記録債権」も含む)のサイトを、繊維業は「90日」、その他の業種については「120日」を超える長期のサイトの手形等を「割引困難な手形(下請法第4条第2項第2号)」等に該当するおそれがあるとして、親事業者は長期サイトの手形等を下請代金の支払い手段にしないよう指導してきた。しかし、これらのサイトが、2024年11月1日以降は業種を問わず「60日」に短縮されることが確定している。これは、公正取引委員会が2024年4月30日に公表した「手形が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導基準の変更について」で明らかとなったもの。


一括決済方式 : 企業間の決済をファクター(金融機関)を介して行う方法。通常は、手形と同様、期限到来前に割り引くこともできる。
電子記録債権 : 電子債権記録法に基づき、電子債権記録機関を通じて、債権の発生記録や譲渡記録、支払記録を行う決済方法。電子手形とも言われる。電子手形には、支払側と受取側の利用する電子債権記録機関が異なる場合には利用できないという問題がある。
サイト : 手形の交付日から手形の満期までの期間

本変更に先立ち、公正取引委員会は2021年3月31日に「下請代金の支払手段について」を公表し、「今後、おおむね3年以内を目途に当該期間を60日とすることを前提として、見直しの検討を行うこととする」と宣言しており、今回の指導基準の変更は既定路線どおりと言える。さらに公正取引委員会は、サプライチェーン全体の支払手段の適正化および支払手段の改善に取り組む事業者の資金繰りへの配慮が必要であるとして、指導基準の変更と同じタイミングで、中小企業庁との連名によりそれぞれ関係する事業者団体や省庁等に向け、官民の金融機関等に対し資金繰り支援に努めるよう指導することと要請している(要請文はこちら)。

公正取引委員会が2024年2月28日に公表したパブリックコメント案に対しては、下請事業者側からは「手形ではなく原則銀行振込とすべき」「サイトを60日よりも更に短縮すべき」といった要請が寄せられたものの、親事業者の資金繰りへの配慮からパブコメ案どおりの変更となった。一方、親事業者側からは「企業の資金繰りを考慮した運用や、何らかの支援策(本件の資金調達に関する公的融資制度)」を要請するコメントも寄せられている。

パブコメ案へのコメントの中で気になるのは、「手形等のサイトの短縮に伴い、下請代金の支払条件を、「月末締翌月10日支払」であったものを、「月末締翌々月10日支払」にするなど、親事業者が故意に手形交付日を先延ばしにする」行為が考えられるとの指摘だ(2番のコメント参照)。そもそも「下請法では、親事業者が下請事業者の給付を給付した日から起算して、60 日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において支払期日を定める必要があり、この期間を超えて支払期日を定めることは、支払期日を定める義務に違反する」からである(同コメントへの公正取引委員会の回答参照)。手形等のサイトの短縮に伴い、同時に下請代金の支払条件の変更を検討している親事業者では、支払期日に関して下請法違反を起こさないようくれぐれも注意したい。

変更後の指導基準は施行日である2024年11月1日以後に手形等が下請代金の支払手段として用いられる場合に適用される。例えば、25日締め翌月10日手形払いの場合、2024年10月25日締めからの適用とされることになる。施行日前に手形が下請代金の支払手段として用いられた場合には、変更前の指導基準が適用される。なお、手形は2026年までに利用廃止が予定されており、企業にとっては手形以外の支払手段への変更も課題となっている。

指導基準はあくまで下請法に基づくものであり、下請関係が成立しない取引にはそもそも適用されない(下請法の対象となる取引は事業者の資本金規模と取引の内容で決まる。詳細はこちらを参照)。したがって、中小規模の企業全般が本基準変更の恩恵を受けるわけではない。もっとも、親事業者と下請事業者との望ましい取引慣行(下請中小企業振興法に基づく「振興基準」)には既に「下請代金の支払いは、できる限り現金によるものとする。」との内容が盛り込まれており、多くの上場会社が同基準の遵守を「パートナーシップ構築宣言」を通じて表明済み(パートナーシップ構築宣言の詳細については2024年4月12日のニュース「パートナーシップ構築宣言、早目の更新を」参照)。いまだに「パートナーシップ構築宣言」を表明していない上場企業は論外として、表明済みの上場企業は、サプライチェーン全体のコスト圧縮の観点から、下請代金に関する手形や一括決済方式や電子記録債権のサイトの短縮に頭を悩ませるのではなく、そもそも下請代金に限らず仕入れ全般に係る代金を現金払い(銀行振込)に切り替えるようにしたいところだ。

2024/05/10 日本株市場で存在感を増す新しい外国人投資家

日本の株式市場における外国人投資家の存在感が益々大きくなっている。その売買シェアは日本株市場の約7割を占めるに至っており、この傾向は今後も続くものと考えられるが、外国人投資家の“種類”には変化が見られる。

外国人投資家の中で日本株投資を急拡大しているのが、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2024/05/10 日本株市場で存在感を増す新しい外国人投資家(会員限定)

日本の株式市場における外国人投資家の存在感が益々大きくなっている。その売買シェアは日本株市場の約7割を占めるに至っており、この傾向は今後も続くものと考えられるが、外国人投資家の“種類”には変化が見られる。

外国人投資家の中で日本株投資を急拡大しているのが、中国本土の投資家だ。これまでは、日本が成熟市場、中国が成長市場という関係から、日本の投資家が中国株に投資をするのが一般的であり、また中国の投資家も、成長率が低い日本企業ではなく、自国の高い成長率の企業に投資してきた。しかし、中国経済の低迷の長期化や、海外マネーが中国本土から引き揚げられている状況から(2023年9月11日のニュース「海外投資家が日本株に注目する本当の理由」参照)、中国本土の投資家は、自国の株式市場への投資から海外市場への投資にシフトしてきている。その資金の相当部分は米国に向かうと考えられるが、一定の資金は日本に向けられており、それが日本株ETFに中国本土の投資家が殺到するという現状につながっている。


ETF : Exchange Traded Fundの略で、日本語では「上場投資信託」と訳されていることから分かるように、証券取引所に上場しており、証券取引所での売買が可能。ETFは、TOPIXや日経平均といった指数を構成する銘柄をこれらの指数と同じ割合で保有しているため、必然的にこれらの指数と同じ値動きをすることになる。

これまで「外国人投資家」と言えば欧米の投資家が中心だったが、今後はそこに中国本土の投資家が加わり、存在感を増してくることになる。これまでも香港やシンガポールからは日本株投資が行われてきたが、主力は香港やシンガポールに拠点を置く“欧米の”アセットマネージャー(運用会社)だった。すなわち、資金の出所はアジアであっても、その運用者は欧米のスタンダードで投資を行ってきたため、欧米の外国人投資家との間で投資行動に大きな差はなかった。一方、中国本土のアセットマネージャーは文字通り中国系が多く、投資行動は欧米のスタンダードとは異なる。日本株市場にとっては、まさに“新しい外国人投資家”が参入してきたと言ってよい。

上記のとおり、現在のところ、中国本土からの資金は日本株ETFを中心に流入しているが、これからは個別銘柄に向かって行くと考えられる。もちろん、中国本土の投資家も欧米の投資家と同様、成長率が高い企業や、技術などの強みを持った企業を物色し、選択的に投資をするであろう。しかし、コーポレートガバナンス、サステナビリティ、ディスクロージャーなどへの要求において、中国本土の投資家は、これまで日本株市場の主役だった欧米の投資家とはその選好が違っている可能性がある。例えば、中国企業のコーポレートガバナンスは日本企業よりも大きな問題を抱えており、その改善を要求せずに投資をしてきた投資家が、果たして日本企業に対してコーポレートガバナンスの改善を求めるだろうか。中国本土の投資家は、自国の株式市場で比較的短期の投資を行ってきた。場合によっては、日本企業に対しても、コーポレートガバナンス等の改善よりも、短期的な利益を要求してくることが考えられる。そうなれば、日本企業に対するエンゲージメントの内容も必然的に変わってくるだろう。

これまで欧米のスタンダードが海外投資家のコンセンサスのように語られることが多かったが、中国本土の投資家の参入で、海外投資家のスタンスも多様化することになりそうだ。

2024/05/09 内部通報制度の実効的な運用を阻害する5つの要因

企業不祥事の調査報告書で必ずと言っていいほど不祥事の発生原因の一つに挙げられるのが、「内部通報制度が機能していなかった」というものだ。さすがに内部通報制度を導入していない上場会社は存在しないと思われるが、だからと言って「自社の内部通報制度が実質的にも機能している」と胸を張って答えることができる上場会社もまだまだ少数派であろう。

では、せっかく内部通報制度を導入しても、それが機能するようにならないのはなぜだろうか。その理由として、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2024/05/09 内部通報制度の実効的な運用を阻害する5つの要因(会員限定)

企業不祥事の調査報告書で必ずと言っていいほど不祥事の発生原因の一つに挙げられるのが、「内部通報制度が機能していなかった」というものだ。さすがに内部通報制度を導入していない上場会社は存在しないと思われるが、だからと言って「自社の内部通報制度が実質的にも機能している」と胸を張って答えることができる上場会社もまだまだ少数派であろう。

では、せっかく内部通報制度を導入しても、それが機能するようにならないのはなぜだろうか。その理由として、消費者庁は次の5つを指摘している(消費者庁が企業不祥事の調査報告書を収集・分析した結果を取りまとめた「企業不祥事における内部通報制度の実効性に関する調査・分析」を参照)。

内部通報制度が機能しない理由
内部通報制度が機能しない理由 説明
① 規範意識の鈍麻(独自の規範意識の形成 問題となる行為が従前から繰り返されていたことや、法令に違反するとの確信のなさにより、その行為を問題視しない又は正当化する独自の規範意識が形成されてしまった
② 内部通報窓口の問題 グループ子会社が親会社に通報する手段や海外子会社の従業員が日本語以外で親会社に通報する手段がなかったことなど、窓口の利用者の制限の問題や、上司への報告が内部通報の前提条件であると誤解されるような形での制度の周知があった
③ 内部通報制度に対する認識の欠如 従業員が内部通報制度の存在を認識していなかったと述べる事例や、同制度の対象はパワハラ等の労働問題であり、問題となった不祥事は対象外であると誤解していた事例がある
④ 内部通報を妨げる心理的要因 従業員が(1)通報者として特定され、不利益を被る懸念や、(2)不正行為に関与している者などが内部通報対応に従事しており、実効的な調査が行われない懸念の存在
⑤ 内部通報後の不適切な対応 内部通報があったにもかかわらず、報告を受けた者の思い込み(バイアス)や調査担当者の権限・能力不足、大事になることを避ける目的から、適切な対応が取られなかった事例がある


鈍麻 : 感覚がにぶくなること。「どんま」と読む。

①~④は「そもそも内部通報が行われない理由」、⑤は「内部通報には至ったものの、内部通報への対応が不適切であったため結果的に機能しなかった理由」と分類できる。

消費者庁は、それぞれの理由ごとに、経営者への提言を次のようにまとめている。

消費者庁から経営者への提言
内部通報制度が機能しない理由 経営者への提言
① 規範意識の鈍麻(独自の規範意識の形成)

■以下のような取組みを通じ、従業員が、どのような行為が法令に違反するかの具体的なイメージを持ちながら、安心して不正に対して声を上げられるよう、定期的な研修・教育を実施するとともに、経営トップからもメッセージを発信する
• 自社の業務内容を踏まえて想定される具体的な不正行為事例の紹介
• 同業他社で発覚した不正行為の周知
■新たに配属された者の方が問題意識を持ちやすいことから、例えば、新規採用・異動者に対するコンプライアンス研修の一環で、アンケート調査やヒアリングを実施するなど、新規採用・異動者からの通報を促す施策も有効
② 内部通報窓口の問題 ■経営のグローバル化の進展や雇用形態が多様化する中で、適切なグループ経営管理の観点から、経営トップは、グループ会社の従業員等が安心・信頼して通報できるよう、以下のような体制を構築し、グループ会社の従業員等にも広く周知することが必要
• グループ会社の従業員等からの通報を受け付ける体制
• 具体的な内部通報の方法、手続きの周知(前提条件があると誤解されない、わかりやすい形での周知)
• グローバルな事業展開をしている場合、通報窓口の多言語対応
• 通報者が、匿名性を保ったまま通報窓口とコミュニケーションできる体制の構築
③ 内部通報制度に対する認識の欠如 ■従業員が安心して不正を通報できるよう、以下のような取組みを通じて、定期的・継続的な研修・教育や情報発信を行う
• 制度の意義・役割や受け付ける通報の対象範囲を説明
• ポスターの掲示、携行カードの配布、ロールプレイング要素を含む研修など、周知方法の工夫
• 研修後の確認テストの実施やアンケート調査などにより、従業員の制度の理解度を定期的に確認
■制度の活用状況や通報分野の偏りを確認し、通報を促す方策を検討するため、運用実績を定期的に分析し、従業員等に開示することも有効
④ 内部通報を妨げる心理的要因 ■経営トップが、内部通報により不正を早期発見することで、問題が大きくなる前に不正に対処できるという組織にとっての意義を理解し、その意義を従業員等に対して継続的かつ積極的に発信する(Tone from the Top
■従業員が通報後のプロセスをイメージできるよう、以下のような取組みを実施し、制度に対する信頼の確保に努めるべき
• 経営トップのメッセージ発信や定期研修により、通報を理由とした不利益取扱い禁止の周知
• 通報者を特定する情報に法律上の守秘義務があることの周知や情報共有の範囲・管理方法等の具体的な周知
• 窓口の社外設置や社外取締役等の関与
• 不利益な取扱いや情報漏洩、通報者の探索を行った者などに対する懲戒処分など厳正な対処
• 通報者が特定されない調査方法の工夫
⑤ 内部通報後の不適切な対応 ■適切な人選と研修・教育による内部通報窓口及び調査担当者のモチベーションと能力の向上
■調査担当部署に十分な調査権限や独立性を付与した上で、他部署に対し、調査への協力を周知
■職制上のレポーティングラインへの報告、ホームページのお問い合わせフォームへの連絡など、内部通報窓口以外への報告・通報が適切に処理されるよう、通報対応を明確化し、全部署を対象とした定期的かつ継続的な研修・教育を行う。


Tone from the Top : 組織のトップ層が醸し出す雰囲気や姿勢(Tone)のこと。具体的には、リスク管理の重要性などについて、取締役会や経営陣がどのような基本方針を設定しているかを指す。

①では、「ジョブローテーションや内部牽制の強化により聖域を作らない」という対策も考えられる。なお、①の「自社の業務内容を踏まえて想定される具体的な不正行為事例」とは、最近の監査の現場で重要視されている「不正シナリオ」を指す。これを従業員に“紹介”してしまうと、不正の手口が共有され、不正を助長してしまわないか心配する経営トップがいるかもしれないが、手口が判明している不正である以上、単にそれをさせない内部統制を構築しておけばよいだけの話である。


不正シナリオ : 「仮に不正が起きるとしたら」という観点から、事前に「誰がいつどういう手法でどういった不正を行うのか」を想定しておくこと。想定可能な不正シナリオに備えて内部統制を構築したり、監査の切り口を検討したりすることになる。

また、④や⑤は、経営者が強力なリーダーシップを発揮し、強い信念のもと取り組まなければ、形だけの対応に終わる危険性が高い。経営者自身が襟を正して行動し、「信頼されるリーダー」でいることが大前提となる。また、指名委員会は、そのような人物を経営者に指名する必要がある。結局のところ、内部通報制度が適切に機能するかどうかは、自社のガバナンス機能如何にかかっていると言えよう。

内部通報制度が機能していない上場会社の多くは、制度を導入したことだけで満足してしまっている可能性がある。内部通報制度は、制度導入後も、経営トップ主導のもと、手間を惜しまずに育てていかなければ、実効的に機能するようにはならない。消費者庁の提言は、2019年1月以降に公表された企業不祥事に関する調査報告書265本を丁寧に分析して抽出されたエッセンスであり、上場会社の経営者としてはその重みを受けとめ、自社の内部通報制度を健全に育てていくためのマニュアルとして活用していきたい。

2024/05/08 「資本コストや株価を意識した経営」の開示の最新状況 アップデートは不可避に

東証が2023年3月31日に、プライム市場およびスタンダード市場の全上場企業を対象として、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請を行ってから1年が経過した。2024年1月15日から公表されている・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合は ログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2024/05/08 「資本コストや株価を意識した経営」の開示の最新状況 アップデートは不可避に(会員限定)

東証が2023年3月31日に、プライム市場およびスタンダード市場の全上場企業を対象として、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請を行ってから1年が経過した。2024年1月15日から公表されている本要請に関する開示企業一覧()も、既に2月15日、3月15日、4月15日と3回の更新が行われている。

 東証が、プライム市場・スタンダード市場の全上場企業のうち、コーポレートガバナンス報告書に【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応】のキーワードを記載している企業を集計し開示している一覧表(開示企業一覧については、2023年11月7日のニュース「開示企業一覧表に掲載されるためのキーワードが確定、 CG報告書はいつ再提出する?」参照)。本一覧表は2024年1月15日に初回分(2023年12月末時点の開示企業)が公表され、その後、毎月月末時点の状況が翌月15日を目途に更新されている。本開示の詳細については2024年1月16日のニュース『「株価を意識した経営の実現に向けた対応」の開示、プライムでも半数に届かず」参照)。


資本コスト : 「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」のこと(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。

まず初回公表分から3回の開示状況を分析してみると、開示企業一覧に掲載されている企業数は回を追うごとに増加していることが分かる(下表参照)。プライム市場では2月末の開示率が59%と、ほぼ6割に達している。

「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示企業一覧に掲載されている企業数(対応を検討中の企業を含む)
市場 2023年12月末時点 2024年1月末時点 2024年2月末時点
プライム市場上場会社 815社(49%) 899社(54%) 969社(59%
スタンダード市場上場会社 300社(19%) 325社(20%) 348社(22%)
合計 1,115社 1,224社 1,317社

一方、スタンダード市場での開示状況は芳しくない。相対的に人的リソースが豊富で対応力の高いプライム市場上場企業から開示が進むという図式が明確となっている。

また、東証は4月15日に一覧表(3月末時点の開示企業)を更新している。今回の更新は全上場企業の1割強を占める12月決算企業が株主総会を終え、コーポレートガバナンス報告書を提出した後のタイミングであることから、これまで未開示だった企業が軒並み開示に転じるのではないかと予想する声も聞かれたところ。

そこで当フォーラムでは、東証の一覧表から12月決算のプライム市場上場企業を抽出し、昨年12月末時点および今年3月末時点における掲載の有無を確認した。結果は下表の通り、「開示済」とした企業数は2.6倍に急増し過半数に達した一方、依然として4割近い12月決算企業が未開示であることが分かった。時価総額の大きいTOPIX500採用銘柄(12月期決算の70社)に限ると「開示済」の割合は7割まで高まるものの、約1/4という決して少なくない企業が未開示にとどまっている。

プライム市上場会社の12月決算企業(230社)
2023年12月末 2024年3月末
開示済 43社 20.5% 113社 53.8%
検討中 12社 5.7% 14社 6.7%
未開示 155社 73.8% 83社 39.5%
TOPIX500採用銘柄の12月決算企業(70社)
2023年12月末 2024年3月末
開示済 25社 35.7% 49社 70.0%
検討中 4社 5.7% 4社 5.7%
未開示 41社 58.6% 17社 24.3%

上記のとおり本対応はコーポレートガバナンス報告書の記載要領で求められている事項であるにもかかわらず、同報告書の一般的な更新時期である株主総会終了後において未開示の企業が約4割に達するという状況について市場関係者からは、「東証の要請は未だ十分な実効性が伴なっていない」と指摘する声も上がっている。開示が時期尚早というのであれば少なくとも「検討中」とするべきであり、また、東証では、現状分析など一部の対応が実施されていれば「検討中」とせず「開示済」とすることを認めている。未開示の企業は、今後、その理由や進捗状況を投資家から厳しく問われる可能性もあろう。

さらに当フォーラムでは、12月期決算企業のうち時価総額上位20社について一覧表における掲載の有無を確認したところ、6社が未開示であることが分かった。投資家の注目度が高い企業群であるだけに、今後の対応に注目が集まりそうだ。

社名 開示状況
英文開示
中外製薬 開示済
日本たばこ産業 開示済
ルネサスエレクトロニクス
キヤノン 開示済
ブリヂストン 開示済
ユニ・チャーム 開示済
大塚ホールディングス
花王 開示済
日本ペイントホールディングス 開示済
INPEX 開示済
アサヒグループホールディングス
クボタ
ネクソン
シマノ 開示済
キリンホールディングス 開示済
資生堂 開示済
サントリー食品インターナショナル 開示済
ヤマハ発動機 開示済
協和キリン
楽天グループ 開示済

上表のうちルネサスエレクトロニクスは、 コーポレートガバナンス・コード原則1―3(資本政策の基本的な方針)への対応として、事業ポートフォリオ戦略や株主還元を説明しているが、同社の記載には東証要請のキーワード【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応】が含まれていない。また、大塚ホールディングスは4月8日、アサヒグループホールディングスは4月1日に提出したコーポレートガバナンス報告書において東証要請のキーワードを伴った開示を行っているが、開示のタイミングの遅れから、4月15日付の一覧表には非掲載となっている。開示にあたってはキーワードやタイミングにも留意したいところだ。

「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示は一度公表すればそれで終わりという性質のものではない。特にROEなどの指標は、本決算の確定により更新が必要となる。3月決算企業は、遅くとも6月のコーポレートガバナンス報告書更新時に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示の更新(数値のアップデートや追加的な施策の開示、進捗報告など)を実施したい。記載内容を見直す際には、東証が2024年2月1日に公表した「資本コストや株価を意識した経営」の「ポイントと事例」と「(別紙)事例集」も参考になる(「ポイントと事例」とや「事例集」については、2024年2月16日のニュース『「資本コストや株価を意識した経営」で参考にしたい「投資者目線とのギャップ実例」』参照)。


ROE: Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)

東証内に設置された「市場区分の見直しに関するフォローアップ」が2024年3月22日に開催した第15回の会議では、資本コストや株価への意識を、企業⾏動規範として規定することの是非について議論が行われている(同会議の配布資料2「企業⾏動規範の⾒直し」の39ページの「ご議論いただきたい事項」の末尾を参照)。仮に資本コストや株価への意識が企業行動規範のうちエンフォースメント(実効性確保措置)のある「遵守すべき事項」に位置付けられれば、機関投資家が「資本コスト・株価を意識した経営への対応」未開示企業の社長選任議案に反対する動きが加速することが予想される(2024年3月15日のニュース『「資本コスト・株価を意識した経営への対応」未開示企業の社長選任議案に反対』参照)。

日経平均株価は引き続き4万円近い水準で推移しているが、その中で株価が低迷しているにもかかわらず「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示ができていない企業の経営陣は、もはや株価向上への意欲がないとみなされてもおかしくはない。特に低PBR企業に対しては、アクティビストファンドによる株式の買い占めや同業他社からの買収提案が行われる可能性は決して低くないだろう。


PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。









2024/05/07 WEBセミナー『~2024年6月総会対応の前哨戦~ 2024年3月株主総会の状況』配信開始!

会員の皆様に必要な情報をいち早くお届けするべく、2024年5月7日(火)より下記のWEBセミナーの配信を開始いたしました。

テーマ 講師
~2024年6月総会対応の前哨戦~
2024年3月株主総会の状況
三菱UFJ信託銀行 法人コンサルティング部
中川 雅博 様

■WEBセミナーの詳細

セミナー
の内容
3月決算会社に続いて社数が多い12月決算会社の3月総会は、これから6月総会を迎える3月決算会社にとってはいわば先行事例であり、6月総会に向け準備を進めるうえでは必ずチェックしておきたいところです。
本セミナーでは、株主総会実務や株主総会分析の第一人者であり、全国株懇連合会の理事も務める三菱UFJ信託銀行の中川雅博様をお招きし、2023年12月決算会社の2024年3月総会を分析していただきます。昨年の6月総会で過去最高を記録した株主提案を受けた会社は2024年3月総会でも14社と前年より6社増加、そのうち2社では可決に至っています。どのような内容の株主提案が多かったのか、それを踏まえ上場会社は事前にどのように対処すべきなのか、検討しておく必要があります。また、女性取締役の選任、スキル・マトリックスの記載内容など、投資家の関心が高いガバナンス上のテーマに対する2023年12月決算会社の対応も気になるところです。このほか、導入2年目を迎えた株主総会資料の電子提供制度への対応状況、バーチャル総会、バーチャルオンリー総会の実施状況、事前質問制の採用状況といった株主総会の運営に関する事項、株主からの質問のテーマ・内容など、上場会社の関心事を幅広く取り上げ、解説していただきます。
講師のご紹介 中川 雅博(なかがわ まさひろ)様
大阪大学法学部卒、大阪大学大学院法学研究科(修士課程)修了。1990年、東洋信託銀行(現三菱UFJ信託銀行)に入社。以後、証券代行部門・法人ビジネス部門に所属し、一貫して会社法務に関するコンサルティングを行う。現在、三菱UFJ信託銀行(株)法人コンサルティング部に所属し、全国株懇連合会理事、東京株式懇話会常任幹事(研究部 研究第1部担当)も務める。
ハンドブックシリーズ1「株主総会」(共著:2002年12月・商事法務)、ハンドブックシリーズ2「株式実務」(共著:2003年4月・商事法務)、「委員会等設置会社への移行戦略」(共著:2003年5月・商事法務)、「株券電子化と移行のポイント」(共著:2008年5月・商事法務)、「株券電子化-その実務と移行のすべて」(共著:2008年8月・きんざい)、「全株懇モデル[新訂2版]」(共著:2009年3月・商事法務)、「株式事務の基礎知識」(2009年11月・商事法務)、「株主総会ハンドブック第3版」(共著:2015年3月・商事法務)、「株主総会・取締役会・監査役会の議事録作成」(共著:2015年3月・清文社)、「監査等委員会設置会社の活用戦略」(共著:2015年9月・商事法務)、「新株主総会実務なるほどQ&A」(共著:2017年3月・中央経済社)、「株主総会の準備実務・想定問答」(共著:2018年1月・中央経済社)など著書多数。

会員の方は下記URLよりWEBセミナーを視聴いただくことができます。
■会員向けURL(ログインが必要です)
/member/webseminar-webseminar-l/73100/

非会員の方は下記URLよりWEBセミナーの視聴をお申込みいただけます。
■非会員向けURL(グーグルフォームが立ち上がります)
https://forms.gle/7s3whchxezdePzBw8

<収録月>
2024年5月

<収録時間>
1 時間20分

<視聴環境>
ブラウザー上で視聴できます。インターネットエクスプローラー、エッジで再生できない場合は、ChromeまたはFirefoxなど他のブラウザーをお試しください。また、インターネットに接続する際にプライベートネットワークやプロキシサーバーを経由している場合やファイアーウォールのセキュリティレベルが高い場合には、サンプル動画が再生されない可能性があります。
万が一、こちらのサンプル動画が再生されない場合、端末を管理するシステム管理者にお問い合わせください。

2024/05/07 【Webセミナー】『~2024年6月総会対応の前哨戦~ 2024年3月株主総会の状況』

概略

【WEBセミナー公開開始日】2024年5月7日

3月決算会社に続いて社数が多い12月決算会社の3月総会は、これから6月総会を迎える3月決算会社にとってはいわば先行事例であり、6月総会に向け準備を進めるうえでは必ずチェックしておきたいところです。
本セミナーでは、株主総会実務や株主総会分析の第一人者であり、全国株懇連合会の理事も務める三菱UFJ信託銀行の中川雅博様をお招きし、2023年12月決算会社の2024年3月総会を分析していただきます。昨年の6月総会で過去最高を記録した株主提案を受けた会社は2024年3月総会でも14社と前年より6社増加、そのうち2社では可決に至っています。どのような内容の株主提案が多かったのか、それを踏まえ上場会社は事前にどのように対処すべきなのか、検討しておく必要があります。また、女性取締役の選任、スキル・マトリックスの記載内容など、投資家の関心が高いガバナンス上のテーマに対する2023年12月決算会社の対応も気になるところです。このほか、導入2年目を迎えた株主総会資料の電子提供制度への対応状況、バーチャル総会、バーチャルオンリー総会の実施状況、事前質問制の採用状況といった株主総会の運営に関する事項、株主からの質問のテーマ・内容など、上場会社の関心事を幅広く取り上げ、解説していただきます。

【講師】
三菱UFJ信託銀行 法人コンサルティング部
中川 雅博 様

セミナー資料 ~2024年6月総会対応の前哨戦~ 2024年3月株主総会の状況.pdf
セミナー動画

2024年3月株主総会の状況(前半)

前半

2024年3月株主総会の状況(後半)

後半

本Webセミナーを閲覧して感じたことや気付いた点(学んだ点、疑問点、自社の課題など)を下の右側の「感想の登録」ボタンを押してください。マイ研修レポートの所感等記入欄の書き直しもこちらからどうぞ。

感想の登録