2023年11月の課題
周知のとおり、2023年3月、東京証券取引所より上場企業に対し、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」が要請されました。この要請では、役員報酬に資本収益性や企業価値の改善に関する指標を反映させることも、対応の一つとして挙げられています。そこで、具体的にどのような指標が採用候補となるのか、また指標の採用にあたり、報酬制度設計上、どのようなことが論点になるのか、考えてみてください。
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周知のとおり、2023年3月、東京証券取引所より上場企業に対し、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」が要請されました。この要請では、役員報酬に資本収益性や企業価値の改善に関する指標を反映させることも、対応の一つとして挙げられています。そこで、具体的にどのような指標が採用候補となるのか、また指標の採用にあたり、報酬制度設計上、どのようなことが論点になるのか、考えてみてください。
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上場会社A社(東証プライム市場に上場)では、資本コストやPBRに関する資料が配布され、東証から要請された「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する今後の取り組みやCG報告書における記載の仕方について議論が行われており、次の3人が下記の発言を行いました。誰の発言がGood発言でしょうか?
取締役A:「当社はPBRがギリギリとはいえ1倍を超えているので、資本コストや株価を意識した経営はすでに実現できています。対応についての議論も重ねてきていますが、私はこれ以上の議論は不要と考えます。次はPBRが1倍を切る事態になったら議論を再開しましょう。」
取締役B:「当社は確かにCG報告書には何も記載していませんが、中期経営計画をちゃんと読んでもらえれば、東証要請への対応の内容を分かってもらえるはず。中期経営計画にしっかりと書き込んでいるので、いまさらCG報告書に中期経営計画に記載している旨を表示する必要はないと考えます。」
取締役C:「CG報告書に東証が要請するキーワードを含めて記載しないと、東証が年明けに開示する資料では未対応企業として扱われかねませんよ。それにこの資料のPBRは分子の時価総額を「自己株式を含めた発⾏済株式数」ベースで計算していませんか?「自己株式を除いた発⾏済株式数」ベースで計算するとPBRは1を切るのではないでしょうか。」
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周知のとおり、東京証券取引所は2023年3月にプライム市場及びスタンダード市場に上場している会社に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請しました。これは、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けて、以下の一連の対応の継続的な実施を求めるものです(詳細については2023年4月5日のニュース『「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」における要請事項と開示時期』を参照)。
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なお、改善に向けた方針や目標、具体的な取組みや実施時期の開示にあたって、開示を行う書類・フォーマットについて特段の定めは設けられておりません。よって、本リリースによりコーポレート・ガバナンス報告書(以下、CG報告書)に改善に向けた方針や目標、具体的な取組みや実施時期の開示をする必要が生じたわけではないことに留意が必要です。東証では開示場所として、たとえば、経営戦略や経営計画、決算説明資料、自社ウェブサイト、上場維持基準の適合に向けた計画などの中で示すことなどが考えられるとしています。 そして、開示を行っている旨やその閲覧方法(ウェブサイトのURLなど)について、CG報告書の「コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示」の記載欄へ記載すればよいとされています。
もっとも、プライム市場及びスタンダード市場に上場している会社のCG報告書での開示はなかなか浸透していないことが指摘されています。実際に、東証が3月期決算企業を対象に、2023年7月14日時点のCG報告書等の内容に基づき集計「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請を踏まえた開示状況を調査したところ、次のように低調であることが分かりました(東証の市場区分の見直しに関するフォローアップ会議 第11回(2023年8月29日開催)東証説明資料3の1ページ目を参照)。
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とりわけ、PBRが高い企業では、相対的に開示が進んでいない状況です。
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。
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このようにPBRが高い企業で東証要請への取り組みの開示が進んでいない要因として、「PBRが1倍を超えていれば今般の要請への対応は不要」という誤解が生じているとの指摘もあります(その他、全体的に東証要請への取り組みの開示が進んでいない要因として、東証要請への取り組みの開示を行っていない上場会社の中には「CG報告書の他の記載欄に該当する説明があれば十分と判断した」「新しい記載事項であるため先行事例が乏しいことから、今回は様子を見ることにした」といったことを理由に挙げる会社もありました。詳細は2023年9月4日のニュース「資本コスト経営、PBR水準にかかわらず対応を要請することを改めて周知」を参照)。
そこで、東京証券取引所は2023年10月26日、『「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示企業一覧表の公表等について』(以下、本リリース)を公表しました。これは東証が2023年3月にプライム市場及びスタンダード市場に上場している会社に要請した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の実現に向け、取組みの検討・開示をさらに促進していく観点から、年明け(2024年初頭)に開示企業一覧表の公表を開始するというものです(本リリース公表の経緯については2023年10月18日のニュース『東証、年明けから「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」開示企業一覧公表へ、10月中に要請の趣旨等を再周知』を参照)。そして、既にPBR1倍を超えている場合であっても、株主・投資者の期待、国内外の同業他社との比較、PBR以外の資本収益性や市場評価に関する指標の状況などを勘案しつつ、更なる向上に向けた取組みについて、積極的な検討・対応をお願いするとしています。
本リリースによると、開示企業一覧表の掲載項目は次のようなイメージとされており、表計算用のファイルで開示されるものと予想されます。
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そして、上場会社が本一覧表に「開示済」として掲載されるためには、CG報告書に「【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応】」というキーワードを記載する必要があります。要請に基づいて決算説明会資料などでのみ開示している上場会社は2023年中にCG報告書の更新が必要になります。また、2023年中はまだ対応方針(資本コストとして何を用いるか、どういった指標を資本コストと比較するのか、株価向上のための施策として何を行うのかなど)が定まらない上場会社は「【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応(検討中)】」というキーワード記載する必要があります。「検討中」という開示を⾏う場合には、株主・投資者の分かりやすさの観点から、検討状況や開示の⾒込み時期について、可能な限り具体的に説明することが望ましいとされています。
いずれのキーワードも記載されていない上場会社は一覧表に掲載されないことから、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応がまったくできていない会社との評価を受けてしまいかねないので、2023年中にどちらかのキーワードが含まれるようCG報告書を更新しておく必要があります。
東証では、今般の要請に基づく開示内容について、英文開示を⾏っている場合、CG報告書において、「【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応】」もしくは「【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応(検討中)】」というキーワードに続けて、「【英文開示有り】」と記載することも求めています。
東証要請への対応に関して、ほとんどの会社が株価の指標としてPBRを採用しています(2023年8月9日のニュース「資本コストを意識した経営の取り組みに関する適時開示の好事例」および2023年10月23日のニュース「資本コストを意識した経営の取り組みに関する適時開示の好事例・第二弾」を参照)。PBRは時価総額を簿価ベースの純資産で除して算定します。PBR算定式の分子の時価総額は、以前は「自己株式の数を含めた発行済株式数」に株価を乗じて計算していましたが、最近では「自己株式の数を除いた発行済株式数」に株価を乗じて計算する方法が主流になりつつあると言われています。これは、企業の株主還元策として自己株式を取得し消却する動きが強まっていることから、「より実態に近い投資指標にするための措置」と言われています(野村証券のサイトを参照)。
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。
東証が2023年10月26日に公表した『「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示企業一覧表の公表等について』の参考資料では、「企業がPBRを計算する際、分子の時価総額に⾃社株分を含んでいるケースが⾒られるが、適切ではない。時価総額を用いて計算する場合には、「⾃社株を除く発⾏済株式数」ベースで計算するのが主流であり、留意すべき」との海外投資家の声が紹介されています(13ページの一番下を参照)。「自己株式の数を除いた発行済株式数」を用いなければ即間違いというものではありません。しかし、とりわけ、自己株式を含めて算定した時価総額で計算したPBRであれば1倍を超えるものの、自己株式を除いて計算するとPBRが1倍を切ってしまうようなケースなど自己株式を入れるかどうかで大きくPBRが変わる場合、あえて主流でない方法(自己株式分の株価を含める方法)を使うことの真意を投資家から尋ねられる可能性も考えられます。また、PERの算定式(株価÷1株当たり利益)にあたり用いる1株当たり利益は「1株当たり当期純利益に関する会計基準」により自己株式を除いて算定することが定められていることとの整合性にも配慮する必要があります。PBR算定にあたり、分子の時価総額は株価に「自己株式の数を除いた発行済株式数」乗じて算定するようにした方が無難と言えます。
さて、以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。
取締役C:「CG報告書に東証が要請するキーワードを含めて記載しないと、東証が年明けに開示する資料では未対応企業として扱われかねませんよ。それにこの資料のPBRは分子の時価総額を「自己株式を含めた発⾏済株式数」ベースで計算していませんか?「自己株式を除いた発⾏済株式数」ベースで計算するとPBRは1を切るのではないでしょうか。」
(コメント: 取締役Cの発言は、東京証券取引所が2023年10月26日に公表した『「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示企業一覧表の公表等について』をしっかりと理解していることが伺えるGOOD発言です。また、取締役CはPBRの算定式について何が主流となっているかを正しく理解できています。)
取締役A:「当社はPBRがギリギリとはいえ1倍を超えているので、資本コストや株価を意識した経営はすでに実現できています。対応についての議論も重ねてきていますが、私はこれ以上の議論は不要と考えます。次はPBRが1倍を切る事態になったら議論を再開しましょう。」
(コメント:取締役Aの発言は東証要請がPBRが1倍を切らない限り対応不要と誤解しているように見え、BAD発言と言わざるを得ません。また、「自己株式を除いた発⾏済株式数」ベースで計算するとPBRが1を切るようでは、そもそも株価を意識した経営ができていないと言わざるを得ません。)
取締役B:「当社は確かにCG報告書には何も記載していませんが、中期経営計画をちゃんと読んでもらえれば、東証要請への対応の内容を分かってもらえるはず。中期経営計画にしっかりと書き込んでいるので、いまさらCG報告書に中期経営計画に記載している旨を表示する必要はないと考えます。」
(コメント:東証要請への対応について中期経営計画にしっかりと書き込んでいる上場会社であっても、CG報告書にそのこと(中期経営計画に記載している旨や中期経営計画のURLなど)を記載したうえで、東証が年明け(2024年初頭)に公表開始予定の開示企業一覧表に掲載されるよう2023年中にCG報告書を更新して【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応】」というキーワードを記載するようしておくべきです。取締役Bの発言は、東京証券取引所が2023年10月26日に公表した『「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示企業一覧表の公表等について』をまったく理解できていないBAD発言です。)
2023年10月23日に召集された臨時国会では、6月に閉会した通常国会で未成立となっていた第1四半期(以下、1Q)と第3四半期(以下、3Q)の四半期報告書の廃止を盛り込んだ金融商品取引法(以下、金商法)改正法案の成立が見込まれている。金商法の改正に先立ち東証に設置された「四半期開示の見直しに関する実務検討会」は10月27日、第3回の会合を開催し、改正法案の成立を見据えて、四半期開示の見直しに関する実務の方針について検討を行った。
同検討会では、これまでに開催した2回の会合でキャッシュフロー計算書(以下、CF計算書)の取扱いなどを議論してきたが(2023年9月27日のニュース「新四半期決算短信、1Q・3Qで増す“負担”の内容」参照)、当フォーラムの取材により、第3回会合で示された1Q・3Q決算短信のCF計算書の取扱い案は、第2回の会合で示された案と比べると言い回しに変化が見られることが分かった。具体的には、第2回会合の案(下表の左列)ではCF計算書について「積極的な開示」を要請するとされていたところ、第3回会合の案(下表の右列)ではこれが「投資者ニーズに応じた開示」に変化している。CF計算書を開示すべきという投資家の要請とそれを回避したい企業側の要請を調整した結果であり、業種や事業内容によってCF計算書に対する投資者のニーズが異なることを考慮すると、合理的な落としどころと言えよう(第3回の会合の資料3「四半期開示の見直しに関する実務の方針(案)」の10ページ目を参照)。
| 第2回の実務検討会で示された方針(案) | 第3回の実務検討会で示された方針(案) |
| 日本基準、IFRS、米国基準で取扱いに差は設けず、以下の事項は一律義務付け →連結貸借対照表、連結損益計算書及び連結包括利益計算書(*) (CF計算書は投資判断に有用な情報として積極的な開示を要請)
* 四半期会計期間に係る連結損益計算書及び連結包括利益計算書については、新制度における半期報告書において2Q会計期間に関する開示はなされないことが想定されること等を踏まえ、省略を認める
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日本基準、IFRS、米国基準で取扱いに差は設けず、以下の事項は一律義務付け →連結貸借対照表、連結損益計算書及び連結包括利益計算書(*) (CF計算書は投資判断に有用な情報として、投資者ニーズに応じた開示を要請)
* 四半期会計期間に係る連結損益計算書及び連結包括利益計算書については、新制度における半期報告書において2Q会計期間に関する開示はなされないことが想定されること等を踏まえ、省略を認める
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また、第2回の会合では、「投資判断に有用な情報」として「積極的な開示を要請する事項(例示)」に、CF計算書や注記事項の一部が挙げられていたが、「投資判断に有用な情報」は「投資判断に有用と考えられる情報」に変更され、「積極的な開示を要請」との文言は削除されている(下表参照。第3回の会合の資料3「四半期開示の見直しに関する実務の方針(案)」の11ページ目も参照)。企業の負担を考慮し、トーンが弱められた。
そのうえで、「業種や事業内容等によって投資者ニーズは異なることから、開示する情報については投資者ニーズに応じて各社が判断」という文章が追加された。任意性が強まった点、企業側としては歓迎すべきと言える。ただし、新たに「重要な後発事象の注記」が追加されている点は気になるところだ(第3回の会合の資料3「四半期開示の見直しに関する実務の方針(案)」の11ページ目を参照)。これは、「重要な後発事象」は四半期末以降の財政状態、経営成績、キャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼすことから、投資判断の際に重要視されていることを考慮したもの。企業には、後発事象のチェックリストや投資者のニーズを踏まえて開示の要否を検討する手間が加わることになる。「重要な後発事象の注記」が追加されたとはいえ、「投資者ニーズに応じて各社が判断」という記述が追加されたことを踏まえると、上場会社としては一進一退と言えそうだ。
重要な後発事象 : 連結決算日後、連結会社並びに持分法が適用される非連結子会社及び関連会社の翌連結会計年度以降の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす事象のこと。
| 第2回の実務検討会で示された方針(案) | 第3回の実務検討会で示された方針(案) |
| <「投資判断に有用な情報」として、積極的な開示を要請する事項(例示)> (財務諸表・注記事項) ⚫ キャッシュ・フロー計算書 ⚫ 財務諸表の注記 ・ 貸借対照表関係の注記/損益計算書関係の注記 ・ 金融商品/有価証券/デリバティブ関係の注記(*)
* 企業集団の事業の運営において重要であり、かつ、前事業年度末から著しい変動が見られる場合に注記が必要。また、企業集団の総資産や総負債の大部分を金融資産や金融負債等が占める場合を除き、第1四半期及び第3四半期は省略可。
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<「投資判断に有用と考えられる情報」の具体例> 業種や事業内容等によって投資者ニーズは異なることから、開示する情報については投資者ニーズに応じて各社が判断 (新制度の財規のうち、開示を義務付ける事項以外の事項) ⚫ キャッシュ・フロー計算書 ⚫ 財務諸表に係る注記 ・貸借対照表関係の注記/損益計算書関係の注記 ・ 金融商品/有価証券/デリバティブ関係の注記(*) ・ 重要な後発事象の注記、など
* 企業集団の事業の運営において重要であり、かつ、前事業年度末から著しい変動が見られる場合に注記が必要。また、企業集団の総資産や総負債の大部分を金融資産や金融負債等が占める場合を除き、第1四半期及び第3四半期は省略可。
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このほか、第2回の会合では、任意のレビューの場合に四半期決算短信を二段階で開示する案について利用者を混乱させるおそれがあるとの意見が出ていたことから、二段階で開示することが望ましいとするスタンスは示さないこととなった(もっとも、第3回の会合の資料2「四半期開示の見直しに関する実務検討会 第3回事務局説明資料」5ページ目では「二段階で開示することを妨げるものではない」としており、任意のレビューを受けて二段階開示を行う上場会社が出てくる可能性もある。第3回の会合の資料3「四半期開示の見直しに関する実務の方針(案)」の12ページ目の『「決算の内容が定まった」と判断する時点は、各上場会社において判断する』が二段階開示を許容した表現となる)。
二段階で開示 : レビュー完了前に決算短信を先行して開示し(一段階目)、レビュー完了後に改めて決算短信を開示(二段階目)すること
また、レビューについては少なくとも取引所ルールで開示を求める事項だけ開示されていればOKとする「準拠性に関するレビュー」を基本としつつも、金商法改正後に公表が予定されている新制度下での財務諸表規則に準拠する形で開示を省略しない場合には「適正表示に関するレビュー」とすることも考えられるとしており、準拠性に関するレビュー“一択”だった前回(第2回)会合までの議論を比べると幅を持たせた格好となった(第3回の会合の資料3「四半期開示の見直しに関する実務の方針(案)」の16ページ目を参照)。これには、日本公認会計士協会や企業会計審議会監査部会において四半期決算短信を含めた期中レビューに関する基準の議論が進んだことが背景にある。もっとも、適正性か準拠性かの議論は、開示する項目に適正表示かどうかという目線が入るか入らないかの違いにすぎず、「その他の手続については全く変わりがなく、保証水準にも変わりがない」(企業会計審議会第54回監査部会議事録における藤本委員の発言)。そして、適正性であればレビュー報告書の結論が「一般に公正妥当と認められる作成基準に準拠して、適正に表示していないと信じさせる事項が全ての重要な点において認められなかった」となるところ、準拠性であれば「準拠して作成していないと信じさせる事項が全ての重要な点において認められなかった」という結論に変わるだけに過ぎない(企業会計審議会第54回監査部会議事録における藤本委員の発言)。結論として、「準拠性か適正性か」については、企業はそれほど意識する必要がない論点と言えよう。
準拠性に関するレビュー : 特別な利用目的に適合した会計基準に準拠して作成された財務諸表について、あくまでも法令等に定められている内容について開示がされているかどうかということのみを検討することが要求されているケースを想定したレビュー手続きを指す。
適正表示に関するレビュー: 一般目的の枠組み(一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して作成されている)の財務諸表について、財務諸表の利用者がその企業の財政状態等を理解するために、財務諸表が全体として適正に表示されるよう、法令で決められているものを越えて追加的な開示を求める規定が定められているケースを想定したレビュー手続きを指す。
2023年10月23日に召集された臨時国会では、6月に閉会した通常国会で未成立となっていた第1四半期(以下、1Q)と第3四半期(以下、3Q)の四半期報告書の廃止を盛り込んだ金融商品取引法(以下、金商法)改正法案の成立が見込まれている。金商法の改正に先立ち東証に設置された「四半期開示の見直しに関する実務検討会」は10月27日、第3回の会合を開催し、改正法案の成立を見据えて、四半期開示の見直しに関する実務の方針について検討を行った。
同検討会では、これまでに開催した2回の会合でキャッシュフロー計算書(以下、CF計算書)の取扱いなどを議論してきたが(2023年9月27日のニュース「新四半期決算短信、1Q・3Qで増す“負担”の内容」参照)、当フォーラムの取材により、・・・
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上場会社役員ガバナンスフォーラムと協力関係にあるJCGRが、東京証券取引所プライム上場会社を対象に、個別企業のコーポレートガバナンスの状態を調査しインデックス化する「JCGIndex調査を、本年度も実施しております。
ご回答いただいた各社には、企業ご自身のJCGIndexをご報告いたします(報告書サンプルはこちら)。また本年度より、ご回答結果を取りまとめたフィードバック資料(全体版)が、回答各社に無料で配布される予定です。
質問票は各社の取締役会事務局を宛先として、業務委託先である地域情報設計研究所より、9/30付で発送しております。ウェブサイト(下記)でもDLできます。
締切は10/30となっておりますが、1ヶ月程度の延長が間もなくリリースされる予定です。ご回答の上で同封の返信用封筒に入れて投函ください。質問票に記載のアドレスにメール送付でも可となります。
自社コーポレートガバナンスの現在地を確認するためにも、奮っての参加を是非ご検討ください。
詳細はこちら。
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ピッツェリア・カフェ・レストラン等を運営するバルニバービ(東証グロース)は2022年7月期の期末配当および2023年7月期中の中間配当にあたり、分配可能額を超えて配当を実施していた。
バルニバービが2023年10月4日に公表した「分配可能額を超えた剰余金の配当に関する一連の経緯及び再発防止策について」等によると、一連の経緯は次のとおり。
2021年
10月27日:公認会計士の資格を有する社外取締役が退任する。退任以後、バルニバービでは、弁護士、公認会計士、税理士等の資格を有する役員は不在となる。
2022年
1月30日:バルニバービの経営管理部長が退職する。それ以降、2023年4月に後任の経営管理部長が入社するまでの間、経営管理部長職は空席となる。
9月28日:バルニバービの取締役会が配当を決議する(分配可能額はゼロ円であるにも関わらず配当総額は44百万円)。バルニバービの取締役(6名)のうち5名は、配当について「分配可能額」という法規制(会社法461条等)が存在することを全く認識していなかった。取締役5名は、漠然と、法的な規制としてではなく、会社経営上の常識として「利益がなければ配当はできない」という程度に抽象的に「配当の可否あるいは上限」を認識していたに過ぎなかった。取締役1名は法規制の存在を認識していたが自己株式を差し引く計算方法については認識を持っていなかった。
10月26日:バルニバービの株主総会が配当議案を決議する(分配可能額はゼロ円であるにも関わらず中間配当総額は22百万円)。
10月27日:株主に対して配当金が振り込まれる。
2023年
2月28日:バルニバービの取締役会が中間配当を決議する。
4月13日:株主に対して中間配当金が振り込まれる。
9月5日:バルニバービは会計監査人(かがやき監査法人)より、2023年7月期の決算内容を確認する過程において、2022年7月期の期末配当および2023年7月期中の中間配当が分配可能額を超えていたことを発見したとの連絡を受ける。
9月14日:バルニバービの取締役会が本件各配当に係る事実関係等の調査を行うため、同社と利害関係のない社外の中立的な第三者で構成する外部調査員会を設置する。
10月3日:外部調査員会が調査報告書をバルニバービに提出する。
10月4日:バルニバービが「分配可能額を超えた剰余金の配当に関する一連の経緯及び再発防止策について」を公表する。
バルニバービが2023年10月4日に公表した「分配可能額を超えた剰余金の配当に関する一連の経緯及び再発防止策について」によると、分配可能額を超えた配当が行われた理由、再発防止策は次のとおりとされている。
| 内容 | バルニバービは2022年7月期の期末配当および2023年7月期中の中間配当にあたり、分配可能額を超えて配当を実施していた。 (2022年7月期の期末配当時の分配可能額の計算) バルニバービの2022年7月期の単体貸借対照表によると、その他の資本剰余金が33,424千円、その他の利益剰余金(繰越利益剰余金)が114,027千円であり、分配原資となる剰余金の合計は147,451千円であった。一方でバルニバービでは自己株式を172,596千円有していたため、分配原資となる剰余金の合計147,451千円から自己株式172,596千円を控除するとマイナスとなり、分配可能額はゼロであった。 |
| 原因 | (分配可能額がなくなった原因) バルニバービではコロナ禍で店舗の減損損失を計上した影響を受け、繰越利益剰余金が少なくなっていた。 (分配可能額の算定が実施されなかった原因) ・バルニバービでは株式上場以来、配当決定に至る業務プロセスが一部の知識経験を有する経営管理部長に依存し続け、業務過程について統一的なマニュアル等の規定も作成されていなかったため、当該社員の退職後、従前の配当手続に関する知識経験が経営管理部等の担当部署において適切に承継・蓄積されていなかった。また、人材不足もあって内部から経営管理部長の職を任せられる人材を登用することができず、外部からの招聘にも時間を要し、長期間にわたり経営管理部長の職が空席となってしまった。 ・経営管理部長代理の社員も、配当において分配可能額という法規制があることは全く認識しておらず、取締役全員と同様に、法的な規制としてではなく、漠然と「利益がなければ配当はできない」という程度に抽象的に「配当の可否あるいは上限」を認識し、また、ここにいう「利益」を、バルニバービ単体の決算数値ではなく、連結決算上の「利益」であると誤った認識を持っていた。そのため誰一人として分配可能額を計算するものはおらず、取締役会への分配可能額の報告も行われておらず、社外役員も何ら指摘をしなかった。その結果、機械的に過去2年と同じ内容(同額)の配当が実施された。 ・本件各配当を決議した当時、バルニバービの監査役2名は、配当について分配可能額という法規制があることを全く認識していなかった。また監査役1名は、法規制は認識していたものの正確な計算方法は認識していなかった。 ・決算財務報告プロセスに係る内部統制が形骸化していた。すなわち、期末決算については、内部監査室において作成した第31期決算財務に係る業務評価チェックリスト(以下「チェックリスト」という)に基づき、経営管理部において期末決算の決算財務報告に係る業務について確認がなされ、内部監査室による内部監査が実施されている。チェックリストには、「4.3会社法決算」という中プロセスの中の「4.3.1計算書類作成」という小プロセスとして「配当可能限度額報告」「配当可能限度額を担当取締役に報告する」との業務概要があるところ、当該業務概要欄には、取締役会開催までに、経営管理部担当社員および担当取締役の確認印が押印されていた。しかしながら、実際には、担当社員において配当可能限度額を担当取締役に報告した事実はなく、担当社員および担当取締役による配当可能限度額の確認はなされていなかった。 ・バルニバービには、かつて、公認会計士の資格を有する社外取締役が存在したが、同人が2021年10月27日に退任してからは、弁護士、公認会計士、税理士等の資格を有する役員は存在していない。 ・監査法人からの指摘もなかった。かがやき監査法人の配当に関する監査の内容は、期末配当は株主資本変動計算書関係の注記における配当額と取締役会議事録との突合、中間配当は、株主資本等関係の注記における配当額と取締役会議事録との突合とのことであった。 ・バルニバービグループでは、子会社役員のモチベーション維持のため、バルニバービは店舗運営子会社からの配当は受けない方針であった。一般的な親会社が子会社から配当収入を得るのと比べると特徴的であり、このため、店舗運営子会社には相当程度の利益剰余金が存在していた。このような企業集団としてのバルニバービグループの運営形態が、今般の違法配当の遠因になったと考えることができる。連結では十分な利益(子会社で1,637百万円の助成金収入があった)があったため、配当が可能であると誤認していた。 |
| 再発防止策、責任追及と処分 | (再発防止策) (1)外部専門家の活用や社員教育・外部からの登用による管理部門の人材の充実化 2023年10月25日開催の第32期定時株主総会で管理部門担当取締役を新たに1名選任する。外部より経営管理部および内部監査室の人員を採用し体制を強化する。 (2)社内研修等の実施 取締役、監査役、子会社の経営陣、管理部門スタッフについて会社法の知識を啓発する取り組みを実施します。 (3)業務遂行体制の見直し・再整備 経営管理部における配当関連業務を行うための体制構築および取締役会議案や株主総会議案の上程の際の業務プロセスを整備する(外部専門家への確認を含む)。 (責任追及) (1)刑事責任 当該刑事責任は故意犯であるところ、本件については、取締役および監査役が、本件各配当が会社法上の分配可能額規制に違反していることを認識して、本件各配当を行ったという事実は認められなかった。したがって、当社の取締役および監査役に刑事責任は生じないものといえる。 (2)民事責任 当社においては剰余金の配当に関する業務を適法に行うための体制は最低限度整備されているところ、分配可能額規制についての知識・認識の欠如から本件各配当に係る業務が担当部署によって適法に行われていると信頼することもやむを得ないこと、本件各配当がいずれも上場以来配当議案の作成等の配当業務を担当して前経営管理部長の退職後、後任の経営管理部長が就任するまでの経営管理部長不在の期間に決定されたこと、その間は、配当限度額という法規制に十分な知識・認識のない専門外の取締役兼事業開発部長が経営管理部を管掌せざるを得なかったこと、当社グループの連結経営において仮に親会社である当社の利益剰余金を増やす措置が講じられていれば違法配当という問題が生じることはなかったこと、取締役および監査役の全員がその職責に応じて、報酬3か月相当分の1割から3割を減額あるいは自主返納する予定であること、を総合考慮し、当委員会としては、当社の取締役および監査役に対して、会社法上の責任を追及する必要性までは認められないものと評価する。 (処分) 本件配当に係る配当議案の提案に同意した取締役全員(6名)は、その職責に応じて、報酬3か月相当分の1割から3割を減額することを、全取締役が同意の上、取締役会で決定。 監査役についても、監査役全員(3名)から報酬の3か月相当分の1割を自主的に返上する旨の申し出があり、監査役会において監査役が協議して決定。 |
東京証券取引所のプライム市場およびスタンダード市場に上場している会社では、2023年3月31日に東証より「 資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請されたこともあり、株主還元・株価の向上を目的として配当を増額したり、株主還元・ROE改善のため自己株式を取得したりする上場会社も少なくありません。自己株式は配当原資を減らす要因になるので、自己株式を取得したことで分配可能額が想定以上に減る可能性もあります(ニデックにおける違法中間配当の事例については2023年9月13日のニュース「株価を意識した諸施策に潜む法令違反リスク」を参照)。また、減損損失計上のような多額の特別損失を計上した場合、分配可能額が激減している可能性があります。そういった要因で、増配ではなかったとしても、昨年と同じ配当額が今年はできなくなっている可能性があります。配当にあたっては必ず分配可能額の計算を二重、三重に行い、それを取締役会に報告するようにしましょう。なお、自己株式の取得も分配可能額による規制に服することも失念しないようにしましょう。
バルニバービでは、分配可能額の算定についてのチェックリストが用意されていました。チェック項目は次の通りです。
・配当可能限度額を担当取締役に報告する
・利益処分方針案を確認する
そして上記のチェック項目はいずれも担当者、部門責任者、内部監査人の確認印と日付の記入がなされていました。このようにせっかくチェックリストを準備しても、運用面で形骸化が進めば、その効果は薄れます。また、チェックする者がチェックポイントの意味を正しく理解していなければ、チェックリストを用いる意味がありません。たとえば次のようなチェック項目にしていれば、状況は変わったのかもしれません。ポイントは具体的なアウトプットやチェックポイントを可視化させることです。
・分配可能額の計算シートが作成されているか
・分配可能額の計算シートは作成者以外の者により下記の点からチェックが行われているか(チェックを行った者の名前とチェック日を記載させる)
・計算シートの計算式のセルはロックされているか
・入力金額は最終の合計残高試算表の金額と一致しているか(作成者が経理より入手した合計残高試算表ではなく、チェック者が自ら経理より入手した最終の合計残高試算表を用いる)
・未入力の欄があれば未入力でよいことを確認したか
・分配可能額の計算シートを作成する者とチェックする者は会社法上の配当規制に関する内容を理解しているか(マニュアルの閲覧、外部セミナーの受講、専門書の閲覧など)
・今回の配当額は分配可能額の計算シートで算定された分配可能額より少ないか
・自己株式の取得や処分などイレギュラーな事象が発生した場合、分配可能額に与える影響について会計監査人や顧問弁護士に確認したか
・今回の配当額は配当方針に整合するものか(配当方針を記載させ、今回の配当額が配当方針に整合すると判断した理由も記載させる)
・分配可能額の算定結果と今回の配当額を比較した結果については、分配可能額の計算シートや配当方針との整合性の確認結果とともに、取締役会に報告しているか
投資家が企業に対してエンゲージメントを行う場合、自社株買いはポピュラーな提案の一つとなっている。企業側から見れば、他のエンゲージメント事項と比較して対応が容易であることも、自社株買いが提案されやすい要因と言える。ただ、そもそも自社株買いは企業価値にプラスとなるのだろうか。
日本企業は、保守的な財務戦略をとっていることが多い。具体的には、手元に多くの当座資産(現金預金や短期有価証券等)があり、事業活動に必要な資金を超える余剰資金を有している。投資家は、この余剰資金で自社株を購入することを提案する。ROE(自己資本利益率)は「当期純利益/自己資本」によって算出されるため、自社株買いによって自己資本を減少させれば、基本的にROEは向上する。しかし、自社株買いが正当化されるのは、実は極めて限られたケースのみであることは意外と理解されていない。・・・
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投資家が企業に対してエンゲージメントを行う場合、自社株買いはポピュラーな提案の一つとなっている。企業側から見れば、他のエンゲージメント事項と比較して対応が容易であることも、自社株買いが提案されやすい要因と言える。ただ、そもそも自社株買いは企業価値にプラスとなるのだろうか。
日本企業は、保守的な財務戦略をとっていることが多い。具体的には、手元に多くの当座資産(現金預金や短期有価証券等)があり、事業活動に必要な資金を超える余剰資金を有している。投資家は、この余剰資金で自社株を購入することを提案する。ROE(自己資本利益率)は「当期純利益/自己資本」によって算出されるため、自社株買いによって自己資本を減少させれば、基本的にROEは向上する。しかし、自社株買いが正当化されるのは、実は極めて限られたケースのみであることは意外と理解されていない。
ROEが株主資本コストより高い場合、あるいは負債コストも考慮したROIC(投下資本利益率)がWACC(加重平均資本コスト)より高い場合、投資家は自社株買いではなく、設備投資を勧めるべきと言える。設備投資によって、企業価値は増加するからだ。逆に、ROEやROICがそれぞれ株主資本コスト、WACCよりも低い企業に対しては、投資家はまず収益率の改善を求める必要がある。このような企業が資本コストを下回る収益率の事業に投資をすれば、企業価値は棄損する。そこで投資家は、企業が低収益率の投資を行うことを防ぐため、自社株買いを提案するのである。余剰資金があるからといって、どのような企業に対しても自社株買いを勧める投資家がいるとすれば、大きな問題と言える。
株主資本コスト : 単に「資本コスト」と言う場合、株主のみならず債権者を含む「資金提供者」に対するリターンのことを指すが、このうち株主のみに対するリターンを「株主資本コスト」という(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。株主に対するリターンが適切にできなければ、株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、株主資本コストは「株主に対するリターンの目標値」と言える。
WACC : 「Weighted Average Cost of Capital=加重平均資本コスト」の略であり、要するに「資本コスト」である。WACCは文字通り負債コスト(金利)と株主資本コスト(配当+キャピタルゲイン)を加重平均して算定される。
確かに、自社株買いによって株価は上昇することが多い。しかし、これは上述のようにROEが上昇するからではない。自社株買いによりROEは上昇するが、財務レバレッジの上昇により、リスクは高まる。その結果、株主資本コストも上昇し、ROEの上昇分を相殺する。自社株買いによって株価が上昇する理由は、情報の非対称性にある。経営陣は企業(自社)の中にいるので、企業の情報を十分に持っている。一方、投資家は企業の外にいるため、企業に関する十分な情報を持っていない。すなわち、経営陣と投資家の間では情報格差が存在している。したがって、投資家は、経営陣の行動からシグナルを受け取るしかない。経営陣が自社株買いを実施するということは、経営陣が現在の株価を割安であると判断しているからだと投資家は理解する。その結果、情報弱者である投資家は、経営陣の行動から現在の株価を割安と考え、自社株買いが発表されると買いに出る。その結果、株価が上昇することが多い。
財務レバレッジ : 株主資本(自己資本)を1とした場合、その何倍の総資本を有しているかを示す数値。「総資産/株主資本」によって計算される。財務レバレッジ(=テコ)が大きい会社とは、借入金の大きい会社である。財務レバレッジが高ければ、株主資本よりも大きな取引を行うことができる。ただし、その反面、有利子負債が増加して、金利負担、返済負担が増加し、会社の収益性が下がったり、財務リスクを抱えたりする可能性がある。
情報の非対称性 : 自社の情報については、経営陣など社内の人間の方が投資家よりも詳しいということ。
企業としては、自社株買いを提案する投資家の“見極め”が必要になる。短期投資家は、自社株買いのアナウンスメント効果で短期に株価が上昇することを期待している。一方、長期投資家は、収益率の低い企業が低収益の投資を行うことを防ぐために、自社株買いを提案する。問題は、短期投資家も、長期投資家のフリをして企業に自社株買いを勧めてくるということだ。これを見抜く方法は、過去において、その投資家が、自社株買いのアナウンスとともに売り抜けているかどうかを調べることである。もし、そのような記録があるなら、その投資家は短期投資家であると見て間違いないだろう。