日本シェアホルダーサービス株式会社
コンサルタント 水嶋 創
株主総会で議案の賛成率が低位に留まった場合、当然のことながらその背後には反対行使を行った株主が存在します。特定の大株主の反対の影響が大きいこともありますし、多数の株主の反対の結果として賛成率が低下するということもあります。特に後者の場合には、その反対株主は主に国内外の機関投資家であることが多いと言えるでしょう。
本稿では、本年6月に開催された東証プライム市場上場企業の定時株主総会を対象とし、剰余金処分議案、定款変更議案、取締役選任議案(社内/社外)を取り上げ、機関投資家の主な反対行使の理由について解説します。
剰余金処分議案
(賛成率が低位となる主なケース)
・計算書類の監査が未了である
・配当性向/総還元性向が低く、ROEも低い
・キャッシュリッチ企業に該当するにもかかわらず、配当性向/総還元性向が高水準でない
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総還元性向 : 企業が利益をどの程度株主に還元しているかを示す指標。「総配分性向」「株主還元性向」とも言われる。「(配当金+自社株買いの金額)÷当期純利益」によって計算される。ちなみに、「配当性向」は当期純利益に占める「配当金」のみの割合を示す。自社株買いも株主還元の1つであるため、最近は配当性向とともに、総還元性向を開示する企業が多い。
(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
ROE : Return On Equity=自己資本利益率
(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
剰余金処分議案の平均賛成率は98.0%と高い水準でした。東証プライム市場上場企業全体でも、賛成率が80%未満となった議案は3件に留まっています。
賛成率が最も低かったのはフジクラの議案(59.5%)であり、次いで低かったのはエン・ジャパンの議案(70.4%)でした。いずれも決算手続きや監査の遅れに伴い、決算報告を7月開催の継続会で行うとしており、計算書類の監査が未了であることを理由とした反対が相当程度あったものと考えられます。なお、両社に次いで賛成率が低かったアイコムの議案(78.8%)は、特定の大株主による反対の影響が大きく、機関投資家の反対行使は限定的であったと推測されます。
継続会 : (会社法上、株主総会は、延期または続行することができるとされている(会社法317条)。ここでいう「延期」とは株主総会の成立後に議事に入らずに開催日を後日に変更することであり、一般的には「延会」と呼ばれ、「続行」とは株主総会の成立後に議事に入るものの、全ての議事の審議を完了せず残りの議事の審議を後日に先送りすることであり、一般的に「継続会」と呼ばれる。
(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
こうした特殊事例を除くと、剰余金処分議案の賛成率に影響する主な要因としては、①配当性向/総還元性向、②ROE、③自己資本比率とネットキャッシュ水準などが挙げられます。議決権行使助言会社ISSは「配当性向が15%から100%の場合、通常は賛成を推奨する」としており、原則として①のみで賛否を判断しています。一方、国内機関投資家は、アセットマネジメントOneが「3期連続で総還元性向が30%未満かつROE8%未満(赤字企業を除く)に該当する企業について、財務不安定な場合を除き、原則反対」するとしているように、①と②の組み合わせで判断することが多くなっています。
ネットキャッシュ : 現預金−有利子負債(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
さらに国内機関投資家中心に、いわゆるキャッシュリッチ企業に対して、より高い還元水準を求める動きもみられます。例えば日興アセットマネジメントは、本年3月の議決権行使基準の改定により「キャッシュリッチ企業(「ネットキャッシュ/総資産」が30%以上、かつ、自己資本比率50%以上)で、総還元性向40%未満、かつ、過去3期連続でROE8%未満の場合」に原則として剰余金処分議案に反対するとの基準を導入しています。
定款変更議案
(反対が多い定款変更の内容)
・剰余金の配当等を取締役会決議により決定する旨の変更
・バーチャルオンリー型株主総会の開催を可能とする旨の変更
・取締役の員数の上限を取締役の人数まで減少させる旨の変更
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バーチャルオンリー型株主総会 : リアル株主総会を開催せず、全出席者が遠隔地からインターネット等で参加する株主総会。日本の会社法では、株主総会を招集するには、開催する「場所」を定めることを求めていることから(会社法298条1項1号)、実現は困難とされていたが、2021年6月19日より施行された改正産業競争力強化法において上場会社に限り会社法の特例として「場所の定めのない株主総会」の開催が可能となった。
(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
定款変更議案の平均賛成率も97.7%と高い水準でした。昨年比では大きく低下(▲0.8p(ポイント))していますが、これは昨年、ほとんどの企業で上程された株主総会招集通知の電子提供制度に対応するための定款変更議案の賛成率が高かったことの反動と言えます。実際、定款変更議案が付議された企業数は、昨年が1,242社であったのに対し、本年は209社と大幅な減少が確認されています。
本年6月総会で賛成率が90%未満となった議案は11件ですが、これらは3つの内容に分類することができます。一つ目は剰余金の配当等の決議を株主総会で行っている企業が、これを取締役会に変更(授権)する旨の定款変更(6件)です。ISSが原則反対推奨のスタンスをとっていることもあり、主に海外機関投資家から反対が集まったと考えられます。
二つ目は、バーチャルオンリー型株主総会の開催を可能とする旨の定款変更議案(4件)です。こちらもISSが感染症拡大や天災地変の発生時に限定する場合を除いて、原則として反対推奨を行うとしていることが影響していると考えられます。
三つ目として、本年6月総会では、取締役の員数の上限を減少させる定款変更議案の賛成率が90%未満となった事例が1件確認されました。具体的には、取締役の人数が7名であったところ、定款上の員数の上限を8名から7名に変更するという内容でした。この点ISSは、「取締役の実際の人数と定員数が同じであれば、株主が推薦する取締役候補を新たに選任させるには、現在の取締役をまず解任する必要が生じる。よって、株主提案による取締役選任が困難になるため、買収防衛目的と解される」として、こうした議案に反対推奨するとの基準を有しています。
取締役選任(社内)
(想定される主な反対理由)
・政策保有株式が多い
・女性役員が不在
・業績基準への抵触
・取締役会に占める独立役員の割合が小さい
・不祥事、株主価値毀損行為
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本年6月総会における社内取締役選任議案の否決事例としては、空港施設と東洋建設の議案が挙げられます。前者は特定の大株主による反対、後者は株主提案として取締役選任議案が付議されていたという特殊事情があります。
社内取締役選任議案の平均賛成率は94.5%であり昨年から0.9p低下していますが、その主な要因としては、国内外の機関投資家による「政策保有株式基準」や「ジェンダー・ダイバーシティ基準」の導入・厳格化が挙げられます。政策保有株式を過大に保有する場合に経営トップ等に反対するという「政策保有株式基準」はISSが昨年から導入していましたが、本年は野村アセットマネジメントやりそなアセットマネジメントなど主要国内機関投資家による基準適用開始が確認されました。女性取締役等が不在の場合に経営トップ等に反対するという「ジェンダー・ダイバーシティ基準」については、本年よりISSが適用を開始したほか、国内機関投資家による基準導入や適用対象の拡大(TOPIX500構成企業からプライム市場上場企業への拡大など)もみられました。
また、ROEが一定期間低水準で推移した場合に経営トップ等の選任議案に反対する「業績基準」については、一部の機関投資家が新型コロナウイルス感染症拡大を受けて停止していましたが、本年6月総会では同基準の再開がみられたほか、野村アセットマネジメントが昨年11月の基準改定で「直近3期連続して株主資本利益率(ROE)が5%未満かつ業界の25%ile未満の場合」に原則会長・社長等の選任議案に反対するとの基準を「直近3期連続して株主資本利益率(ROE)が5%未満かつ業界の33%ile未満の場合」に引き上げるなど、厳格化の動きも確認されています。
%ile : 「パーセンタイル」と読む。データを小さい順に並べた場合に、例えば小さい方から数えて全体の75%に位置する値を75パーセンタイルという。75パーセンタイルは「第三四分位数」ともいわれる。25パーセンタイルは「第一四分位数」、50パーセンタイルは中央値を指す。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
取締役会に占める独立役員が一定の割合に満たない場合に経営トップ等の選任議案に反対する「取締役会構成基準」については、国内外とも「1/3」が閾値として主流となっています。もっとも、米国最大級の公務員年金基金であるカリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS=カルパース)が本年より日本企業に対して「半数以上」の独立役員の選任を求めるなど、一部厳格化の動きもみられます。
上記のほか、本年もいわゆる不祥事が要因となり、経営トップ等の賛成率が低位に留まったとみられる事例も散見されました。
取締役選任(社外)
(想定される主な反対理由)
・在任期間が長い
・取引先や大株主出身者である
・取締役会への出席率が低い
・兼職数が多い
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社外取締役選任議案の平均賛成率は95.3%と概ね昨年と同水準でした。前述の東洋建設を除けば、最も賛成率が低かったのは日本碍子における社外取締役選任議案で、その賛成率は56.3%でした。候補者の在任期間が12年と長期であったことが要因と考えられます。ここで注目されるのが、同じ候補者の昨年の賛成率は97.5%であった点です。ほぼ全ての主要国内機関投資家が「12年」を閾値として設定していることから、前年比で大きく賛成率が低下したとみられます。
その他の反対要因としては、大株主や取引先、政策保有先出身などで独立性が否認されるケース、取締役会への出席率(75%未満で反対等)や過度な兼職数(5社以上の兼職で反対等)などが挙げられます。
また、社内取締役選任議案に対する反対理由として紹介した、政策保有株式基準やジェンダー・ダイバーシティ基準、業績基準、取締役会構成基準は、投資家によっては社外取締役も適用対象とされ、反対行使の理由となることには注意が必要です。例えば三井住友トラスト・アセットマネジメントは、政策保有株式基準と業績基準に抵触した場合は「3年以上在任の取締役」の選任議案に、ジェンダー・ダイバーシティ基準と取締役会構成基準については「取締役」の選任議案に反対するとしています。
賛成率分析の重要性
会社提案議案に対する反対行使には必ずその理由があります。特に取締役選任議案においては、独立性など候補者自身の属性等を理由とする反対のほか、政策保有株式や取締役会構成など自社に対する不満が経営トップ等に対する反対行使として表れることもあります。株主の自社に対する見方を把握するという観点でも、株主総会における賛成率・反対理由を分析する必要性は高いと言えます。
また、結果的に賛成率がそれほど低くなかったような場合でも、本稿で取り上げた「主な反対理由」に該当する事項がある場合には、「なぜそれほど反対が多くなかったか」という視点で分析を行うことも重要です。例えば政策保有株式基準の場合、各機関投資家の定量基準には抵触したものの、削減に向けた取組みが評価されて例外的に賛成につながったなどの可能性も考えられます。この場合、今後縮減のペースが減速するようなことがあれば、経営トップ等の選任議案への賛成率が低下するということもあり得ます。また、在任期間基準の場合は、前述のとおり「11年」在任では反対が少なかったものの、「12年」で大きく反対が増加するということもあります。
主要国内機関投資家は、毎年7月から9月頃に6月総会に係る議決権行使結果の個別開示を実施しますが、反対した議案についてはその理由が明示されるのが一般的となっています。こうした開示も参照しつつ、自社の株主総会における議案の賛成率の分析を進めることが有用と言えるでしょう。