2023/06/19 買収に関する公正なルール形成に向け示された指針案のポイント(会員限定)

上場会社の買収にあたり、買収者が重要な情報を隠すなどして買収の対象となっている会社の株主の判断を誤らせたり、強圧的に株主を追い出すような“不適切な買収”が横行したりすれば、買収への警戒感が高まり、損失を被った株主が資本市場を去っていくことでマーケットはシュリンクしていくであろう。一方、“適切な買収”が増えれば、リソース分配の最適化が行われることにより買収された会社の企業価値は向上し、業界再編が促されたり、資本市場の健全な新陳代謝が促進されたりすることが期待される。

企業価値 : 会社の財産、収益力、安定性、効率性、成長力等株主の利益に資する会社の属性又はその程度をいい、概念的には、企業が将来にわたって生み出すキャッシュフローの割引現在価値の総和

後者のような買収の増加を目論んで経済産業省が2023年6月8日に公表したのが「企業買収における行動指針(案)」(以下、本指針案)だ。本指針案は、経営支配権が移転する買収において、株主が十分な情報を与えられ適切な判断(インフォームド・ジャッジメント)を行うことにより市場機能が健全に発揮され、企業価値の向上と株主利益の確保の双方に資する買収が活発に行われるようになることを目指して策定された。2023年8月6日までパブリックコメントを受け付けた後、確定版が公表される予定となっている。

経済産業省は、買収に関する公正なルール形成を促すことで企業価値を高めるという考え方から、これまでも下記のような指針や報告書を公表してきた。

買収 : ここでは、主に買収者が上場会社の株式を取得することでその経営支配権を取得する行為を指す。

〇経済産業省 公正なM&Aに関するルール形成について
公正なM&Aの在り方に関する指針-企業価値の向上と株主利益の確保に向けて-」(2019年)
近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方」(2008年)
企業価値の向上及び公正な手続き確保のための経営者による企業買収(MBO)に関する指針」(2007年)
企業価値報告書」(2005年)
企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」(2005年)

しかし、これらの指針や報告書が公表されて以降、買収防衛策の多様化、企業のガバナンスや株式保有構造の変化が著しいことから、経済産業省は「公正な買収の在り方に関する研究会」を設置。買収提案に対する評価が「買収者」と「対象会社」で分かれるケース(同意なき買収や競合的な買収等)を念頭に、買収に関する当事者の行動のあり方等についての検討を行ってきた。本指針案は同研究会での検討結果を取りまとめたものであり、買収する側・される側の両当事者にとっての予見可能性を向上させることや望ましい姿を示すこと等を通じ、企業価値を高める買収がより生じやすく(そうでないものはより生じにくく)なることを狙いとしている。なお、本指針案と2005年指針の内容が整合しない部分については、本指針案の内容が優先する(本指針案の4ページの注1)。

本指針案は大きく分けて以下の4つのパーツにより構成されている。

(1)買収一般において尊重されるべき原則(第2章)
(2)買収提案を巡る取締役・取締役会の行動規範(第3章)
(3)買収に関する透明性の向上(第4章)
(4)買収への対応方針・対抗措置(第5章)

さらに、本指針の別紙として、下記の3つが付属している。

別紙1:取締役・取締役会の具体的な行動の在り方
別紙2:強圧性に関する検討
別紙3:買収への対応方針・対抗措置(各論)

以下、4つのパーツについて、別紙との関連性を示しながら順番に見ていこう。

(1)買収一般において尊重されるべき原則(第2章)
まず本指針の第2章では、上場会社の経営支配権を取得する買収一般において尊重されるべき原則として、以下の3つが示されている。

買収一般において尊重されるべき原則
第1原則:企業価値・株主共同の利益の原則 望ましい買収か否かは、企業価値ひいては株主共同の利益を確保し、又は向上させるかを基準に判断されるべきである。
第2原則:株主意思の原則 会社の経営支配権に関わる事項については、株主の合理的な意思に依拠すべきである。
第3原則:透明性の原則 株主の判断のために有益な情報が、買収者と対象会社から適切かつ積極的に提供されるべきである。そのために、買収者と対象会社は、買収に関連する法令の遵守等を通じ、買収に関する透明性を確保すべきである。

株主共同の利益 : 特定の株主の利益ではなく株主全体の利益のこと

これらの3つの原則は買収の当事者・関係者が「会社およびその株主」のために尊重すべきものであり、“適切な買収”を実現できるようにするために設けられた。換言すれば、「対象会社の経営陣が会社と株主の利益を損ねて買収を阻止しようとする」「買収に応じて株式を売るか否かの判断において株主が自らの本来の意思に反する行動を強いられる」「買収を通じて、買収者が本来享受すべきではない利益を得る」といった“不適切な買収”を発生させないための原則とも言える。

(2)買収提案を巡る取締役・取締役会の行動規範(第3章)
上記の3つの原則は適用範囲が「買収の当事者・関係者」と広めとなっているが、本指針の第3章では、対象者を「買収提案を受領した上場会社」(以下、対象会社)における取締役・取締役会に絞ったうえで、当該対象者が守るべき行動規範を時系列で解説している。

時点ごとの取締役・取締役会が守るべき行動規範
時点 取締役・取締役会が守るべき行動規範
買収提案を受領したとき 本指針案では、対象会社の経営陣または取締役は、経営支配権を取得する旨の買収提案を受領した場合には、速やかに取締役会に付議または報告することが原則とされており、付議された取締役会では、「真摯な買収提案」に対しては「真摯な検討」をすることが基本となる。

本指針案15ページには、何をもって「真摯な買収提案」と言えるのかについての判断基準も示されている。具体的には、「買収提案についての追加的な情報を買収者から得つつ、買収後の経営方針、買収価格等の取引条件の妥当性、買収者の資力・トラックレコード・経営能力、買収の実現可能性等を中心に、企業価値の向上に資するかどうかの観点から買収の是非を検討する」とされている(本指針案の16ページ参照)。

また、「真摯な買収提案」該当性を検討する際に判断に迷う場合や、社外取締役のM&Aに関する専門性が不足している場合には、情報管理を適切に行った上で外部のアドバイザーの助言を受けることも検討されるべきとしている(本指針案の15ページ参照)。より具体的な行動については、本指針の別紙1の「取締役・取締役会の具体的な行動の在り方」が参考になる。

取締役会が買収に応じる方針を決定するとき 取締役会が買収に応じるか否かの方針を決定する際には、会社の企業価値を向上させるか否かという観点から買収の是非を判断するとともに、株主が享受すべき利益が確保される取引条件で買収が行われることを目指して合理的な努力を行うべきである(本指針案18ページ)。

株主にとってできる限り有利な取引条件を目指した交渉とは具体的にどのようなものなのかについては、本指針案19ページに詳述されている。上述した本指針の別紙1の「取締役・取締役会の具体的な行動の在り方」には提案の検討や買収者との交渉に関する視点も示されており、参考にしたい。

取締役会が買収への対応方針を判断するのに先立ち、取締役会の独立性を補完し、取引の公正性を確保するために、独立した特別委員会を設置することがある。本指針案の第3章では、特別委員会の設置が有用であると考えられるケースや特別委員会のメンバーの構成など、特別委員会が公正性を担保するための留意点についても解説されている(本指針案の21ページ参照)。

真摯な買収提案 : 具体性・目的の正当性・実現可能性のある買収提案

(3)買収に関する透明性の向上(第4章)
上記「(1)買収一般において尊重されるべき原則(第2章)」のうち、上場会社の経営支配権を取得する買収一般に関する第2 原則(株主意思の原則)および第3 原則(透明性の原則)を実現するために重要となるのが、本指針の第4章だ。第4章では、 対象会社の株主の判断に資するよう、買収者および対象会社双方の観点から、買収に関する透明性を向上するため、以下の3つを求めている。

(1)買収者による情報開示・検討時間の提供
(2)対象会社による情報開示
(3)株主の意思決定を歪める行為の防止

(1)は買う側、(2)は買われる側による開示を指す。(3)としては、強圧的二段階買収などの強度な強圧性を有する買収手法を行うこと(強圧性については本指針の別紙2「強圧性に関する検討」が参考になる)のほか、不正確な情報開示や株主を誤導する情報開示・情報提供といった行為が考えられる。

強圧的二段階買収 : 最初の買付条件を有利に、二段階目の買付条件を不利に設定する、あるいは明確にしないで行う買収のことで、株主が強圧性を感じやすいと言われている。
強圧性 : 強圧性とは、対象会社の株主が買収に応じないでいる間に買収が実現すると、買収に応じた場合と比較して不利益を被ると予想されるケースでは、たとえ多くの株主が買付価格は客観的な株式の価値より低いと考えている場合であっても、株主が買収に応じるような圧力を受けるという問題である(本指針案40ページ参照)。

(4)買収への対応方針・対抗措置(第5章)
買収にあたっては、対象会社やその株主に対して必要な時間や情報が提供されずに買収が行われたり、買収者が対象会社や一般株主の犠牲と引き換えに不当な利益を得る目的で経営支配権を取得したりすることで、企業価値ひいては株主共同の利益を損なう可能性もある。そのようなリスクに備えるため、差別的な内容の新株予約権無償割当てを利用した買収への対抗措置を用いた方針(いわゆる買収防衛策。本指針案では「買収への対応方針」としている)を事前に定めておき、買収時に発動することもある。

こうした買収への対応方針に対しては内容次第で反対する機関投資家も多く、経営陣が保身を図ることを目的に利用されるのであれば訴訟に発展することもある。一方、適切に用いられるのであれば、「株主に検討のための十分な情報や時間を提供するとともに、取締役会に買収者に対する交渉力を付与し、買収者や第三者からより良い買収条件を引き出すことを通じて、株主共同の利益や透明性の確保に寄与する可能性もある」(本指針案の30ページ参照)。買収への対応方針は第5章で総論が述べられた後、別紙3で買収への対応方針・対抗措置(各論)が取りまとめられている。
※最近増えている有事導入型買収防衛策についてはWEBセミナー「買収防衛策の現状」もあわせて参照いただきたい。

有事 : 特定の者による買収の計画、提案または開始について対象会社が認識して以降の段階を指す。

時価総額が低ければ低いほど買収提案を受ける可能性は高く、PBR1倍以下の上場会社はその典型と言えるが、東京証券取引所のプライム市場およびスタンダード市場上場会社の半数以上がPBR1倍を切っており、買収リスクを抱えている。東京証券取引所は2023年3月31日に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」を公表し、上場会社に対して株価を意識したPDCAサイクルの実現を要請している(当該要請については2023年4月5日のニュース『「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」における要請事項と開示時期』参照)。円安により海外企業やファンドからの買収リスクも高まっているだけに、本指針の早期確定と実務への浸透が望まれるところだ。

PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価 ÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。

 

 

 

 

2023/06/16 Netflixで投資家と対話を重ねて設計した報酬制度が否決 自社の企業カルチャーに合った仕組みも株主には受け入れられず

ドラマ、映画をはじめ様々なコンテンツをインターネットを通じ定額・低価格で無制限に視聴できるという画期的なサービスで急成長を続けるNetflixの利用者は日本でも多い。その同社(米国本社)が提案した経営陣の報酬制度に対し株主が「No」を突きつけ、話題を呼んでいる。「Noを突きつけた」というのは決して比喩ではない。米国には、株主が経営陣の報酬について「賛成」もしくは「反対」の意見表明をすることができるSay on Pay(セイ・オン・ペイ)と呼ばれる制度が存在し、同社のケースでもこのSay on Payが活用された。すなわち、Netflixの株主は、2023年の株主総会に上程された「Say on Pay議案」を通じて、経営陣の報酬に反対の意思を表明した、ということだ。

Say on Payの決議には法的拘束力はなく、あくまで「勧告的決議」にとどまるが、Say on Payの影響力は決して無視できるようなものではない。通常、株主から不支持を表明された報酬制度については、会社側としても何らかの対応を検討せざるを得なくなる。仮に会社が誠意のある対応を見せない場合には、取締役の選任議案への賛否にも影響が及ぶ可能性がある。実際、議決権行使助言会社のISSは、・・・

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2023/06/16 Netflixで投資家と対話を重ねて設計した報酬制度が否決 自社の企業カルチャーに合った仕組みも株主には受け入れられず(会員限定)

ドラマ、映画をはじめ様々なコンテンツをインターネットを通じ定額・低価格で無制限に視聴できるという画期的なサービスで急成長を続けるNetflixの利用者は日本でも多い。その同社(米国本社)が提案した経営陣の報酬制度に対し株主が「No」を突きつけ、話題を呼んでいる。「Noを突きつけた」というのは決して比喩ではない。米国には、株主が経営陣の報酬について「賛成」もしくは「反対」の意見表明をすることができるSay on Pay(セイ・オン・ペイ)と呼ばれる制度が存在し、同社のケースでもこのSay on Payが活用された。すなわち、Netflixの株主は、2023年の株主総会に上程された「Say on Pay議案」を通じて、経営陣の報酬に反対の意思を表明した、ということだ。

Say on Payの決議には法的拘束力はなく、あくまで「勧告的決議」にとどまるが、Say on Payの影響力は決して無視できるようなものではない。通常、株主から不支持を表明された報酬制度については、会社側としても何らかの対応を検討せざるを得なくなる。仮に会社が誠意のある対応を見せない場合には、取締役の選任議案への賛否にも影響が及ぶ可能性がある。実際、議決権行使助言会社のISSは、米国における議決権行使基準として、過去のSay on Pay議案が賛成票率70%未満であり、それに対して取締役会が十分な対応をしていない場合、報酬委員会の委員もしくは取締役全体の選任について反対もしくは投票差し控えを推奨する可能性がある、としている。

投票差し控え : 投票差し控え(棄権票)は賛成率の計算上「分母」に含まれることから、反対票に等しい効果がある。

日本にはSay on Payという制度はないため、一見日本企業には関係のないようにも見えるが、本件は“外国の話”と片付けられない要素を含んでいる。

一般に、Say on Payの議案が否決されるケースとして最も多いのは、Pay for Performance(業績に照らした報酬水準の妥当性)の観点から納得感がない、つまり、会社の業績が悪化しているにもかかわらず、経営陣が高額な報酬を得ているような場合だ。確かに今回のNetflixのケースでも、高額な報酬は論点の一つとなり、Say on Payに先立ち、全米脚本家組合(Writers Guild of America)は、昨年Netflixが経営陣に支払った報酬額(166百万ドル)があれば、脚本家に支払うべき報酬(68百万ドル)が賄えるはずだと主張するとともに、Netflixの株主に対し「Say on Pay議案においてNetflixの経営陣の報酬を否決するよう」求めるレターを送っている。

ただ、今回の件で金額以上に注目されるのは、Netflixの経営陣の報酬制度そのものに対する批判だ。単純に金額として高い、ということのみならず、制度としての健全性や妥当性の観点からも、かねてより疑問が呈されていた。実際、NetflixのSay on Pay議案は、2022年の株主総会でも否決されている。Netflixの経営陣の報酬制度において特に問題視されていたのが、報酬に占めるキャッシュとストックオプションの割合を経営陣自らが決められるということだ。この他にも、「業績条件付きの報酬プランが含まれていないこと」や「ストックオプションが即時権利確定すること」も批判を受けていた。

2022年のSay on Pay議案の否決を受けて、Netflixは投資家との対話を重ね、改善策を発表した上で、2023年の株主総会においては、以下の点について報酬制度を改定し、Say on Pay議案を上程した。

(1)報酬のうち最低50%をストックオプションに割り当てること
(2)Co-CEOの基本報酬に3百万ドルの上限を設けること
(3)業績に連動した年次賞与制度を導入すること
(4)Co-CEOおよびExecutive Chairman(会長)に付与されるストックオプションについて、権利確定までに1年の期間を設けること

こうした経緯を踏まえると、株主は、単純に高額報酬を批判するにとどまらず、報酬制度のあり方自体にも高い関心を抱いているということが分かる。とはいえ、報酬制度のあり方については必ずしも正解があるわけではない。例えば、キャッシュかストックオプションかを選べるという制度にすることで、報酬を付与される側は、自分のライフスタイルに合った形で報酬制度をカスタマイズすることが可能となる(例えば、現在は多額のキャッシュは不要であるため、ストックオプションの割合を高めるなど)。また、このような柔軟な報酬制度は、テック企業における苛烈な人材獲得競争において有利に働いてきたのも間違いない。さらに、このような報酬制度は、Netflixの「Freedom and Responsibility(自由と責任)」というカルチャーとも一致するとの声もある。

しかし、結果として、2023年のSay on Pay議案も否決されるという結果となった。報酬制度は一概に正しいか正しくないかを判断できるものではないが、今回のNetflixのケースは、少なくとも、報酬制度については株主の意見を取り入れながら、不断の見直しを行っていく必要があることを示したと言えるだろう。

米国では、報酬委員会の委員長を務める社外取締役が、CEOを始めとするトップ・エグゼクティブの報酬の正当性について責任を持ち、その正当性について開示を通じて発信することが通常となっている。こうした形で矢面に立たされる社外取締役が受ける株主からのプレッシャーは相当なものになるはずだ。日本でも、任意のものを含め報酬委員会がコーポレートガバナンスにおいて果たす役割は高まっている。単純な金額だけではなく、なぜそのような報酬制度にしたのか、株主に説明できるようにしておく必要がある。

2023/06/15 公開買付制度改革の方向性

旧村上ファンドの村上世彰氏が関与する投資会社のシティインデックスイレブンスがコスモ石油の株式を20%超保有したことが話題を呼んでいるが、いつの間にか自社の株式を外資系投資ファンドから5%超保有されていたといったケースは珍しくない。時価総額があまり大きくないあるプライム市場上場会社はキャッシュを潤沢に持つことが外資系ファンドの目に留まり、5%超の株式を保有されるとともに、株主還元かM&Aの推進を迫られたという。

こうした会社の支配権等に影響を及ぼすような証券取引の透明性・公正性を確保するために設けられているのが公開買付(TOB=Take-Over Bid)制度だ。具体的には、特定の上場会社の株式を、買取り株数・価格・買付期間を公告したうえで、株式市場外で不特定多数の株主から買い集めることを求めるものだが、現状、「市場内取引」と「第三者割当」は原則として公開買付制度の対象外となっている。こうしたなか・・・

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2023/06/15 公開買付制度改革の方向性(会員限定)

旧村上ファンドの村上世彰氏が関与する投資会社のシティインデックスイレブンスがコスモ石油の株式を20%超保有したことが話題を呼んでいるが、いつの間にか自社の株式を外資系投資ファンドから5%超保有されていたといったケースは珍しくない。時価総額があまり大きくないあるプライム市場上場会社はキャッシュを潤沢に持つことが外資系ファンドの目に留まり、5%超の株式を保有されるとともに、株主還元かM&Aの推進を迫られたという。

こうした会社の支配権等に影響を及ぼすような証券取引の透明性・公正性を確保するために設けられているのが公開買付(TOB=Take-Over Bid)制度だ。具体的には、特定の上場会社の株式を、買取り株数・価格・買付期間を公告したうえで、株式市場外で不特定多数の株主から買い集めることを求めるものだが、現状、「市場内取引」と「第三者割当」は原則として公開買付制度の対象外となっている。こうしたなか金融庁は、公開買付制度などの見直しを検討するため、金融審議会に「公開買付制度・大量保有報告制度等ワーキング・グループ」を設置し、6月5日に会合を開催している。

同ワーキング・グループの会合は今回が第1回目だが、当フォーラムの取材により、結論の方向性が見えてきた。まず、会合に提出された資料からは、上記のとおり現在は公開買付制度の規制対象外となっている「市場内取引(立会内)」と「第三者割当(新株発行)」が論点となっていることが分かる(事務局説明資料4ページ参照)。そして、それぞれについて「強制買付規制の適用対象とすべきとの指摘がある」ことを紹介している(同8ページ9ページの冒頭参照)。これは、市場内取引、第三者割当のいずれも公開買付制度の規制対象下に置くことが既定路線になっていることを示している。そして、仮に公開買付制度の規制のルールを守らなかった場合には、株式の強制売却を求めたり、議決権行使を差し止めたりすることが検討されている。なお、議決権行使は会社法の範疇であり、法務省の所管となるが、同ワーキング・グループには法務省もオブザーバーとして参加している。

また、現行の公開買付制度の「3分の1ルール」の閾値の引下げも実施される方向。具体的な割合はまだ決まっていないが、事務局資料には米国の「5%」、英独仏の「30%」が紹介されており、例えば「30%」「4分の1」といった割合になる可能性がある(同10ページ参照)。

3分の1ルール : 買付け後の株式保有割合が「3分の1超」となる場合には、公開買付けによることを義務付けるルール。株主総会の特別決議を阻止できる割合が「3分の1超」であることを考慮している。

公開買付制度の見直しに関連して俎上に上っているのが、「大量保有報告制度」と「実質株主」の問題だ。

大量保有報告制度 : 市場の透明性・公正性を高め、投資者保護を図ることを目的として、株券等の大量保有者に対し「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出を義務付ける金融商品取引法上の制度。具体的には、①保有割合が5%超となった場合、②その後、保有割合が1%以上増減するなど重要な変更があった場合、それぞれ提出事由が生じた日から5営業日以内に「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出が求められる(②の場合に提出するのは「変更報告書」)。
実質株主 : 株主名簿の背後に存在する運用・議決権行使権限を持つ株主。

このうち大量保有報告制度については、報告書の提出遅延などが相次いでおり、そもそもルール自体が守られていないとの指摘がある(同23ページ参照)。このようなルール違反者に対しては、やはり株式の強制売却を求めたり、議決権行使を差し止めたりすることが検討されている模様。

実質株主については、現状、大量保有報告制度の適用対象(5%超)となる場合を除き、会社側や他の株主が把握する制度が存在しないことを踏まえ、実質株主を明らかにするルールを設ける方向だ。どのようなルールとなるかはまだ決まっていないが、事務局資料には、海外のルールとして、運用資産が1億ドル以上の機関投資家は四半期ごとに保有銘柄の名称・株式クラス・証券識別番号・株数・市場価格を記載した保有明細をSEC(米国証券取引委員会)に提出し、これがSECのウェブサイト上において公開するという米国の事例や、会社側から実質株主と思われる者に対し事実確認の通知をすることを認めている英国の事例が紹介されており、これらが参考にされる可能性がある(同26ページ参照)。

以上は会社側に立ったルール改正と言えるが、逆に投資家側に立ったルール改正として、「重要提案行為の範囲」「共同保有者の範囲」も検討されている。

重要提案行為の範囲 : 投資先企業の株主総会において、又は、その「役員」に対し、発行者の事業活動に重大な変更を加え、又は重大な影響を及ぼす行為として「一定の事項」を提案する行為。「一定の事項」としては、例えば代表取締役の選解任、株式交換・移転、会社の分割・合併、配当に関する方針の重要な変更、資本政策に関する重要な変更などがある。
共同保有者 : 大量保有報告制度上、たとえ単独での保有割合が5%以下でも、「保有者との間で、共同して株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している者」のこと。当該「共同保有者」がいる場合、その保有割合も合算して保有割合を判定する。

現行の大量保有報告制度上、金融商品取引業者等を対象に、提出頻度や期限等を緩和する特例報告制度が設けられているが、その適用を受けるためには、投資先企業に対して「重要提案行為」を行わないことが必要とされている。ただ、「具体的事項の総会決議を求める」「経営方針等の変更を求める」行為は明確に重要提案行為に該当するとされている一方、「経営方針等の説明を求める」「議決権行使予定等の説明」「議決権行使予定等の説明へのスタンスの説明を求める」「株主総会で質問を行う」ことなどは重要提案行為に該当するかどうか“グレー”となっており、投資家側からは明確化を求める声が上がっている(同20ページ参照)。

特例報告制度 : 事前に届け出た「月2回の基準日」において、「大量保有報告書(変更報告書)」の提出義務を判断し、当該基準日から5営業日以内に報告書を提出すればよいとする制度。

共同保有者の範囲については、投資家側から「協働エンゲージメントに参加した他の投資が株主提案を行った場合に、当該株主提案に賛成すると当該他の投資家が「共同保有者」に該当する懸念がある」などの声が上がっている。共同保有者の範囲が明確化されれば、協働エンゲージメントが活発化する可能性が高いだけに、上場会社にとっては要注意だろう。

2023/06/15 【2023年5月の課題】提出前最終チェック! 有価証券報告書の改正点(会員限定)

まず、2023年3月期以降に提出する有価証券報告書の記載上、改正の影響を受ける開示場所と改正の概要を整理しておきましょう。

有価証券報告書での開示場所 改正の概要 本Q&Aの番号
第1【企業の概況】
5【従業員の状況】
女性活躍推進法等に基づき「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「労働者の男女の賃金の差異」を公表している会社及びその連結子会社は、これらの指標を開示
第2事業の状況
2【サステナビリティに関する考え方及び取組】
(※新設)
必須記載事項:「ガバナンス」及び「リスク管理
重要性があれば記載する事項:「戦略」及び「指標及び目標

なお、サステナビリティ情報を有価証券報告書等の他の箇所に含めて記載した場合には、当該他の箇所の記載を参照できる。

2
第4【提出会社の状況】
4【コーポレート・ガバナンスの状況等】
(1)【コーポレート・ガバナンスの概要】
取締役会や指名委員会・報酬委員会等の活動状況(開催頻度、具体的な検討内容、出席状況)の記載を追加 3
(3)【監査の状況】 内部監査の実効性(デュアルレポーティングラインの有無等)の記載を追加
(5)【株式の保有状況】 政策保有株式の発行会社との業務提携等の概要の記載を追加

女性活躍推進法等 : 女性活躍推進法または育児・介護休業法をいう。
ガバナンス : サステナビリティ関連のリスク及び機会を監視し、及び管理するためのガバナンスの過程、統制及び手続。
リスク管理 : サステナビリティ関連のリスク及び機会を識別し、評価し、及び管理するための過程をいう。
戦略 : 短期、中期及び長期にわたり連結会社の経営方針・経営戦略等に影響を与える可能性があるサステナビリティ関連のリスク及び機会に対処するための取組をいう。
指標及び目標 : サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する連結会社の実績を長期的に評価し、管理し、及び監視するために用いられる情報をいう。
デュアルレポーティングライン : 内部監査部門のレポート先が、執行のトップだけでなく、監査委員会、監査等委員会、あるいは取締役会にも向けられていること。

以下、上表の開示項目別に、有価証券報告書提出前にチェックしておきたいポイント等についてQ&A形式で解説します。

1.【従業員の状況】における、多様性に関する指標の開示
問1-1
女性活躍推進法等に基づき「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「労働者の男女の賃金の差異」の公表が求められる企業が、当事業年度においてはいまだ公表前である指標は、有価証券報告書においても開示する必要はないと考えてよいでしょうか?
回答
提出会社やその連結子会社が、女性活躍推進法等により当事業年度における女性管理職比率等を公表しなければならない会社に該当する場合は、同法等による公表を行う前であっても、有価証券報告書において開示が求められます。
POINT!
女性管理職比率等の指標は、女性活躍推進法等に基づき公表されるものが有価証券報告書でも開示対象となります。このため、一見すると、有価証券報告書作成時点で女性管理職比率等を公表していない場合には有価証券報告書での開示も必要ないように見えるかもしれませんが、女性活躍推進法等上、当事業年度における女性管理職比率等を公表しなければならない会社に該当する場合は有価証券報告書でも開示が必要になります。

女性活躍推進法等 : 女性活躍推進法又は育児・介護休業法をいう。

問1-2
当グループの場合、女性活躍推進法等に基づき「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「労働者の男女の賃金の差異」を公表している連結子会社が100社以上あるため、全ての連結子会社を有価証券報告書の開示対象とすると、相当な負担となります。そこで、提出会社と主要な連結子会社のみ開示対象とするということでも問題ないでしょうか?
回答
女性活躍推進法等に基づき公表を行っている提出会社及び全ての連結子会社の情報を有価証券報告書でも開示する必要があります。主要な子会社かどうかは関係ありません。
POINT!
有価証券報告書における女性管理職比率等の開示は、連結子会社全て(女性活躍推進法等に基づく公表義務のない会社を除きます)が対象となり、子会社が重要であるか否かは関係ありません。
問1-3
「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「労働者の男女の賃金の差異」の開示は、個別企業ベースのみならず、連結ベースでも必要でしょうか?
回答
連結ベースの開示に努めるべきとされていますが、義務ではありません。
POINT!
連結ベースでの開示は、例えば海外子会社を有する場合における企業の負担に配慮し、義務化はされていません。投資家の投資判断にとって有用である連結ベースでの開示に努めるべきであるとする意見がある一方、女性活躍推進法等では個社の数値が求められていることから、個社としてのデータも有用であるとの意見があります。
問1-4
女性活躍推進法に基づき「男性の育児休業取得率」を開示する場合の留意点はありますか?
回答
女性活躍推進法に基づき「男性の育児休業取得率」を開示する場合、雇用管理区分別の開示が必要になる点、留意が必要です。
POINT!
女性活躍推進法に基づく「男性の育児休業取得率」は雇用管理区分ごと(正規、パート等)に開示されるため、有価証券報告書における開示も同様の区分で開示する必要があります。「労働者の男女の賃金の差異」は、全ての企業が一律に「全労働者」「正規雇用労働者」「非正規雇用労働者」の区分で開示することになりますが、「男性の育児休業取得率」は、各社の雇用管理区分ごとに開示することとなり区分が定められていないという点、両者には違いがあります。
問1-5
女性活躍推進法等で開示する女性管理職比率等を算定する際に使用する「従業員」と、有価証券報告書で開示する「従業員」の定義は同一でなければなりませんか?
回答
女性管理職比率等に関する計算方法や定義は、企業負担や情報利用者への統一的な情報提供の観点から女性活躍推進法等の定めに従う、すなわち、女性活躍推進法等に基づいて開示したものと同一の内容を有価証券報告書でも開示しなければなりません。
一方、【従業員の状況】には例えば「平均給与」など既に過去から開示している事項もあるため、ここでの従業員の範囲が女性活躍推進法等における従業員の範囲と異なっている場合があります。これは、有価証券報告書では従業員の範囲は定義されておらず、各社の判断で決められてきたからです。このような場合には、有価証券報告書における従業員の定義を女性活躍推進法等における従業員の定義に必ずしも合わせる必要はありません。
POINT!
女性管理職比率等に関する計算方法や定義については、女性活躍推進法等の定めに従わなければなりません。
問1-6
開示対象となる提出会社及び連結子会社は、「管理職に占める女性労働者の割合」「男性労働者の育児休業取得率」「労働者の男女の賃金の差異」の“全て”を開示しなければなりませんか?
回答
各社が女性活躍推進法等の規定により公表する項目をそれぞれ開示すれば問題ありません。
POINT!
提出会社やその連結子会社が女性活躍推進法等に基づき「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「労働者の男女の賃金の差異」の全てを公表する場合には、有価証券報告書でもこれらの指標全てを開示することになります。したがって、グループの中でも、例えば、「女性管理職比率」のみを開示する会社もあれば、「男性の育児休業取得率」及び「労働者の男女の賃金の差異」の2指標を開示する会社もあるということになります。

<有価証券報告書における「女性管理職比率」「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」の開示義務判定表>
労働者数 女性管理職比率 男性の育児休業取得率 労働者の男女の賃金の差異
1001人~ 女性活躍推進法に基づき公表項目として選択した場合、開示義務あり 開示義務あり
(育児・介護休業法施行規則)
開示義務あり
(女性活躍推進法)
1000~301人 女性活躍推進法に基づき公表項目として選択した場合、開示義務あり
300~101人 女性活躍推進法に基づき公表項目として選択した場合、開示義務あり
100~1人 開示義務なし 開示義務なし 任意(開示義務なし)
2.【サステナビリティに関する考え方及び取組】
問2-1
「サステナビリティに関する考え方及び取組」では、特定の開示基準に基づいた具体的かつ網羅的な開示が求められるのでしょうか?
回答
特定の開示基準に基づいた具体的かつ網羅的な開示は求められていません。現時点では我が国の開示基準は定められていないため、自社の取組状況を可能な範囲で開示することになります。
POINT!
今回の開示府令の改正では、細かな記載事項は規定されていませんので、各社が現状の自社の取組状況を柔軟に記載することが可能です。なお、当年度の有価証券報告書について開示府令が求める開示事項を開示していれば、翌年度以降、その開示内容を拡充したとしても、当年度の有価証券報告書について虚偽記載等の責任を問われることはありません。
問2-2
「サステナビリティに関する考え方及び取組」で開示すべき事項の“全て”について、任意に公表した他の書類(統合報告書等)を参照する旨を記載しても問題ありませんか?
回答
「サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載すべき事項の“全て”について、提出会社が任意に公表した他の書類を参照することはできません。投資者が真に必要とする情報は有価証券報告書に記載した上で、詳細情報について他の公表書類を参照することができます。
POINT!
有価証券報告書から任意に公表した他の書類を参照することができるのは、投資者が真に必要とする情報を補完する情報のみです。
問2-3
「サステナビリティに関する考え方及び取組」には、有価証券報告書提出日現在の最新の情報を記載しなければなりませんか?
回答
連結会計年度末(事業年度末)における「サステナビリティに関する考え方及び取組」を記載します。
POINT!
将来に関する事項を記載する場合も、原則として連結会計年度末(事業年度末)での判断を記載します。
問2-4
「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示では、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」をそれぞれ項目立てし、これら4つの項目全てについて記載しなければなりませんか?

ガバナンス : サステナビリティ関連のリスク及び機会を監視及び管理するためのガバナンスの過程、統制及び手続
戦略 : 短期、中期及び長期にわたり連結会社の経営方針・経営戦略等に影響を与える可能性があるサステナビリティ関連のリスク及び機会に対処するための取組
リスク管理 : サステナビリティ関連のリスク及び機会を識別、評価、管理するための過程
指標及び目標 : サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する連結会社の実績を長期的に評価、管理、監視するために用いられる情報

回答
「ガバナンス」「リスク管理」「戦略」「指標及び目標」の4つの構成要素をそれぞれ項目立てせずに、“一体”として記載することも可能です。また、「戦略」「指標及び目標」については、重要性を判断した上で、記載するかどうかを決定することになります。
POINT!
【サステナビリティに関する考え方及び取組】の記載欄が新設され、「ガバナンス」及び「リスク管理」は必須記載事項となり、「戦略」及び「指標及び目標」は“重要性に応じて”記載が求められることとなりました。
また、サステナビリティ情報を有価証券報告書の他の箇所や他の公表書類に記載した場合には、サステナビリティ情報の「記載欄」において当該他の箇所や他の公表書類の記載を参照できることが、それぞれ開示府令第二号様式(記載上の注意)30-2及びガイドライン5-16-4で示されました。
さらに、人材の多様性の確保を含む人材育成の方針や社内環境整備の方針及び当該方針に関する指標の内容等を、必須記載事項として、サステナビリティ情報の記載欄の「戦略」と「指標及び目標」で開示することが求められます。

社内環境整備の方針 : 例えば、人材の採用及び維持並びに従業員の安全及び健康に関する方針等

<4つの構成要素の記載内容>
4つの柱 ①サステナビリティに関する考え方及び取組(②以外)) ②人的資本(人材の多様性を含む)に関する開示
ガバナンス 必須
サステナビリティ関連のリスク及び機会を監視及び管理するためのガバナンスの過程、統制及び手続を記載する。
戦略 短期、中期及び長期にわたり連結会社の経営方針・経営戦略等に影響を与える可能性があるサステナビリティ関連のリスク及び機会に対処するための取組のうち、重要なものについて記載する。 必須
人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針、例えば、人材の採用及び維持、並びに従業員の安全及び健康に関する方針等を記載する。
リスク管理 必須
サステナビリティ関連のリスク及び機会を識別、評価、管理するための過程を記載する。/td>

指標及び目標 サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する連結会社の実績を長期的に評価、管理、監視するために用いられる情報のうち、重要なものについて記載する。 必須
「戦略」で記載した方針に関する指標の内容、並びに当該指標を用いた目標及び実績を記載する。
問2-5
ガバナンス」「リスク管理」はなぜ開示が必須なのですか?

ガバナンス : サステナビリティ関連のリスク及び機会を監視し、及び管理するためのガバナンスの過程、統制及び手続。
リスク管理 : サステナビリティ関連のリスク及び機会を識別、評価、管理するための過程

回答
自社の業態や経営環境、企業価値への影響等を踏まえ、サステナビリティ情報を認識し、その重要性を判断する枠組みが必要との観点から、「ガバナンス」と「リスク管理」は、全企業に開示が求められることとなりました。
POINT!
「ガバナンス」と「リスク管理」を全企業が開示するというのは、TCFDのフレームワークと同様の考え方です(この点については2021年7月7日のニュース「TCFD開示の4要素のうち有報での開示が必須となりそうな2要素とは?」参照)。

TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードとなっている。

問2-6
改正開示府令の記載上の注意では気候変動関連情報の開示は求められていないため、開示しなくても問題ありませんか?
回答
各社が「ガバナンス」と「リスク管理」の観点から重要と判断したサステナビリティ項目については、「戦略」及び「指標及び目標」の開示も求められます。気候変動関連情報についても、サステナビリティ情報の一つとして、同じ枠組みにより、開示の要否を判断することになります。
POINT!
下記の<開示内容の決定フローのイメージ>をご覧ください。
<開示内容の決定フローのイメージ>
*1 「ガバナンス」「リスク管理」の開示は、気候変動、人的資本といった個別テーマごとにそれぞれ記載することも考えられますが、基本的には、両者とも各テーマに共通の要素と考えられます。したがって、各テーマ固有の「ガバナンス」「リスク管理」がないのであれば、サステナビリティ全般の開示として記載することで十分と考えられます。
*2 開示原則(金融庁が公表している「記述情報の開示に関する原則」の略称)2―2はこちら
68508b
問2-7
人的資本の「戦略 」「指標及び目標 」は、重要性が乏しい場合には記載する必要はないでしょうか?
回答
人的資本の「戦略」及び「指標及び目標」については、少なくとも、開示府令第二号様式(記載上の注意)30-2の「C」が記載を求めている人材育成方針及び社内環境整備方針とこれらに関する指標及び目標の開示が必要となります。

社内環境整備方針 : 例えば、人材の採用及び維持並びに従業員の安全及び健康に関する方針等

POINT!
人材育成方針及び社内環境整備方針とこれらに関する指標及び目標は必ず開示しなければなりません。
問2-8
「サステナビリティに関する考え方及び取組」は、連結会社であれば連結ベースでの開示が求められるとのことですが、「指標及び目標」について連結ベースのものがない場合、開示は不要でしょうか?
回答
指標及び目標の開示は連結ベースで開示することが想定されていますが、連結グループに属する全ての会社が指標及び目標を設定しているわけではないなど、連結グループによる開示が困難である場合には、その旨を記載した上で、例えば、連結グループの中で主要な事業を営む会社単体(主要な事業を営む会社が複数ある場合にはそれぞれ)又はこれらを含む一定のグループ単位の指標及び指標の開示を行うことが考えられます。
POINT!
「サステナビリティに関する考え方及び取組」は原則として連結ベースで開示します。これは、開示府令第二号様式(記載上の注意)(30-2)において「連結会社のサステナビリティに関する考え方及び取組の状況について、次のとおり記載すること」とされているためです。
問2-9
サステナビリティ情報は「中長期」の情報であるため、多くの前提や仮定を置き、将来に関する事項を説明する必要がありますが、記載した将来情報と実際の結果が異なった場合、虚偽記載等の責任を負うことになるのでしょうか。
回答
有価証券報告書に記載すべき重要な事項について、一般的に合理的と考えられる範囲で具体的な説明が記載されている場合には、有価証券報告書に記載した将来情報と実際に生じた結果が異なったとしても、直ちに虚偽記載等の責任を負うものではありません。
POINT!
虚偽記載等の責任を負わされることへの懸念から企業の開示姿勢に萎縮効果が生じないよう、将来情報の開示については一定の配慮がなされています。「一般的に合理的と考えられる範囲での具体的な説明」としては、例えば「取締役会で合理的な根拠に基づき検討を行った」旨と、将来情報に関する検討過程として「前提とされた事実、仮定(例えば、○〇頃までに●●のような事象が起こる)及びこれらを基に将来情報を導いた論理的な過程(推論過程)の概要」を記載することが考えられます。
3.コーポレート・ガバナンスの状況等に関する改正
問3-1
「コーポレート・ガバナンスの概要」では、取締役会の活動状況として「具体的な検討内容」の記載が求められていますが、取締役会における議案全てを網羅しなければならないのでしょうか?
回答
取締役会における全ての議案について記載することは必須ではなく、投資家に分かりやすいよう“要約”して記載することなどが考えられます。
POINT!
取締役会・委員会等の機能発揮の状況への投資家の関心が高まる中、提出会社の以下の機関の活動状況として、「開催頻度」「具体的な検討内容」「個々の取締役又は委員の出席状況」の開示が求められることになりました。
①取締役会
②指名委員会等設置会社における指名委員会及び報酬委員会
③企業統治に関し提出会社が任意に設置する委員会(指名委員会等設置会社における指名委員会又は報酬委員会に相当する任意の委員会を含む)
有価証券報告書の開示を補完する詳細な情報がコーポレートガバナンス報告書に記載されている場合には、コーポレートガバナンス報告書を参照することができます。
問3-2
「監査の状況」でデュアルレポーティングラインの有無の記載が求められますが、デュアルレポーティングラインとはどのようなものですか?
回答
内部監査部門が代表取締役のみならず、取締役会並びに監査役及び監査役会に対しても直接報告を行う仕組みのことを言います。内部監査部門が代表取締役等のみの指揮命令下にあり、経営陣幹部による不正等が発生した際に独立した機能が十分に発揮されていない事例が見られたことから、デュアルレポーティングラインが重要視されています。
POINT!
内部監査の実効性を確保するための取組み(内部監査部門が代表取締役等のみならず、取締役会並びに監査役及び監査役会に対しても直接報告を行う仕組みの有無を含む)について開示します。

<参考>コーポレートガバナンス・コード 補充原則4-13③
上場会社は、取締役会及び監査役会の機能発揮に向け、内部監査部門がこれらに対しても適切に直接報告を行う仕組みを構築すること等により、内部監査部門と取締役・監査役との連携を確保すべきである。
(デュアルレポーティングラインのイメージ図)
68508a
問3-3
監査役及び監査役会の活動状況の記載事項が、「主要な検討事項」から「具体的な検討内容」へと表現が変更されましたが、記載内容についても実質的な変更はあるのでしょうか?
回答
「主な検討事項」から「具体的な検討内容」への用語の見直しは、単なる規程上の検討事項ではなく、実際に監査役会において検討された内容の開示を求める趣旨を明確化するために行ったものであり、開示事項を実質的に変更するものではありません。
POINT!
例えば、投資家の投資判断や投資家との建設的な対話に資するという観点から、開示内容を検討することが考えられます。
問3-4
政策保有株式の保有目的が、営業上の取引、業務上の提携その他これらに類する事項を目的とするものである場合には、「株式の保有状況」においてその概要の記載が求められることになりましたが、記載にあたって留意すべき点はありますか?
回答
「経営上の重要な契約等」や「関連当事者情報等」における記載事項と関連付けて記載することに留意が必要です。
POINT!
政策保有株式に対しては、その存在自体が日本企業のガバナンス上の問題であるとの厳しい指摘も聞かれる中、投資家の理解を得るためには、投資家との建設的な対話に資する十分な情報提供が必要です。また、「株式の保有状況」における記載内容が、「経営上の重要な契約等」や「関連当事者情報等」の記載内容と整合している必要があります。

2023/06/14 企業が対応を迫られる「財務情報」と「サステナビリティ関連財務情報」の開示のタイミングのズレ

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は今月(2023年6月)にも、「サステナビリティ関連財務情報」の開示基準であるS1基準(*1)、S2基準(*2)を確定させる見込みであり、日本でもサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が国内基準の作成作業を急ピッチで進めている。SSBJによる「国内基準」も、あと1年程度でリリースされるだろう。こうした中、今後問題となりそうなのが、・・・

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2023/06/14 企業が対応を迫られる「財務情報」と「サステナビリティ関連財務情報」の開示のタイミングのズレ(会員限定)

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は今月(2023年6月)にも、「サステナビリティ関連財務情報」の開示基準であるS1基準(*1)、S2基準(*2)を確定させる見込みであり、日本でもサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が国内基準の作成作業を急ピッチで進めている。SSBJによる「国内基準」も、あと1年程度でリリースされるだろう。こうした中、今後問題となりそうなのが、サステナビリティ関連財務情報の開示のタイミングだ。

ISSB : International Sustainability Standards Board(国際サステナビリティ基準審議会)。資本市場向けのサステナビリティ開示の包括的なグローバル・ベースラインを開発するため、IFRS財団が2021年11月に設立した団体。
SSBJ : 日本における非財務開示の基準を作成する団体。IFRS(国際財務報告基準)の母体であるIFRS財団が「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB=International Sustainability Standards Board)」を設立し、非財務開示の国際的な基準「サステナビリティ報告基準」を策定することを受け、日本では財務会計基準機構(FASF)が母体となり、IFRS財団におけるISSBに相当するSSBJ(Sustainability Standards Board of Japan)が設立された。

ISSBによれば、「サステナビリティ関連財務情報」とは財務諸表を“補完”するものであり、財務諸表と同じ報告企業について開示を行い、財務諸表と「同時に」公表することが求められている(【特集】ISSB公開草案・前編 「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」の開示フレームワークの「(1)サステナビリティ関連財務情報と財務諸表との関係」参照)。これは、重大な(significant)サステナビリティ関連のリスク及び機会が企業価値に与える影響を評価するという目的を達成するためであり、また、上記のとおり、そもそもサステナビリティ関連財務情報は企業の財務諸表に含まれる情報を補足・補完するものであるからだ。ただし、「同時に」公表するといっても、サステナビリティ関連財務情報と財務諸表を「同一の書類」で公表することまでは求められていない。要するに、「異なる書類で同時に提出する」ことは可能というわけだ。

サステナビリティ関連財務情報 : 企業価値に影響を与える持続可能性に関連するリスクと機会についての洞察を与え、一般目的の財務報告の利用者が、企業のビジネスモデルとそのモデルを維持・発展させるための戦略が依存する資源と関係を評価するための十分な基礎を提供するための情報。

もっとも、サステナビリティ関連財務情報と財務諸表を「同時に」公表することは簡単ではない。例えば、日本には温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度があり、温室効果ガス排出量等を自社の事業を所管する大臣(以下、当局)に報告することが法律上求められる企業が存在する(報告をせず、又は虚偽の報告をした場合には、20万円以下の過料の罰則が科される)。3月決算企業は毎年7月末日までに当局に報告を行う必要がある一方、財務諸表を掲載した有価証券報告書は6月末までに財務局に提出しなければならない。すなわち、有価証券報告書の提出期限の方が1か月間早い。

このため、サステナビリティ関連財務情報作成のために必要なデータが有価証券報告書提出日までに入手できないか、入手できたとしても、有価証券報告書提出日までにサステナビリティ関連財務情報のとりまとめが間に合わず、開示することが困難というケースがある。このような事態が生じる背景として、以下のようなものがある。

スコープ2排出量の算定には、電力会社における対象年度の排出係数の情報が必要だが、我が国では、電力会社が排出係数を国に報告し、国の確認を経て公表され、当該年度の確定排出係数が入手できるのは翌年12月となっている。したがって、有価証券報告書に温室効果ガス排出量の情報を盛り込む場合には、前年度の排出係数を基礎とした暫定的な数値の開示又は見積りに基づく開示とならざるを得ず、最終的なスコープ2排出量の算定には時間を要する。
スコー プ3の温室効果ガス排出に係る排出係数や、ファイナンスに伴う排出に係る投融資先の排出情報など、連結グループ外のサプライチェーンからも多くの情報や基礎データを入手する必要となる場合があるが、これらの情報はタイムリーに入手できない場合がある。

スコープ2、スコープ3 : スコープ1 : 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出のこと(燃料の燃焼、工業プロセス)。
スコープ2 : 他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う温室効果ガスの間接排出のこと。
スコープ3 : 事業者自ら排出している温室効果ガス(二酸化炭素等)であるScope1、Scope2以外の間接排出、具体的には「事業者の活動に関連する他社」による温室効果ガスの排出のこと。

さらに、企業がサステナビリティ関連財務情報と財務諸表のいずれについても開示を要求されている中、同時公表を行う上では、以下のような問題が生じる可能性がある。

・公表が求められる時期のいずれか早いタイミングに合わせることになり、対応が不可能又は負担が著しく増加する。
・同時公表を達成するために、サステナビリティ関連財務情報と財務諸表が完成するまで開示を延期せざるを得なくなり、情報開示の適時性が後退する。

ISSBが公表した「サステナビリティ開示基準の共通の表示基準」であるS1基準(サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項)の公開草案には、世界各国からサステナビリティ関連財務情報と財務諸表を「同時に公表」することについて懸念が寄せられた。

ISSBの基準はグローバルベースラインと位置付けられ、このベースラインに乗っていれば、詳細は各国が自国の実態に合わせて基準を作成することが許容される。逆に言えば、ISSBの基準は各国が採用することができるものにする必要がある。日本でもISSBの基準をベースにSSBJが基準開発を進めている。そこでISSBは、サステナビリティ関連財務情報の開示日を財務諸表と同一とすることを原則としつつも、外部要因に起因して指標の算定等に一定の時間を要する場合における例外的な対応についても容認する必要性に迫られていたところであり、2023年2月に行われたISSBのボード会議では以下の点が暫定決定されている。

SSBJ : Sustainability Standards Board of Japan :サステナビリティ基準委員会

財務諸表よりも後にサステナビリティ関連財務開示を報告することを容認するという、以下の短期間の経過措置を導入する。
・年度のサステナビリティ関連財務開示を、期中財務報告を提出することが要求されている場合、翌年度の上半期、第2四半期の期中報告と同時に報告することを容認する。
・任意で期中財務報告書を提出している場合、翌年度の上半期、第2四半期の期中報告と同時に報告することを容認する。ただし、年次報告書期末日から9カ月以内。
・期中報告の提出が要求されておらず、また、任意に開示していない場合、年次報告書期末日から9カ月以内

ただし、上記の経過措置は、あくまで、財務諸表と同時にサステナビリティ関連財務情報を報告することを原則とした“例外的”なものに過ぎない。実際「短期の経過措置」と明記されており、S1基準及びS2基準を適用する「最初の年次報告書」についてのみ利用可能とすることが暫定決定されている。つまり、「短期」とはたった1年間ということだ。

サステナビリティ関連財務情報と財務情報を併せて開示することが国際的な原則とされていることを踏まえると、日本でも将来的には両情報の公表時期を揃えていかざるを得ず、そのための環境整備や実務的対応について早急に検討する必要がある。特に日本では、財務諸表(有価証券報告)の提出時期が「決算日後3カ月以内」と欧州各国より早いタイミングとなっており、欧州各国よりも調整は困難となろう。

また、短期の経過措置とはいえ、財務諸表よりも後にサステナビリティ関連財務情報を開示することを容認するとなれば、年次報告書が二つに分かれることになる。年次報告書の社内における承認プロセスを含め、日本企業は多くの事項への対応を迫られることになりそうだ。

2023/06/13 「資本コストや株価を意識した経営」に関する開示に3つのパターン

東証が3月31日に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願い」(以下、要請)を公表したことは周知のとおりだが(2023年5月9日のニュース『東証の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」引用した株主提案相次ぐ』参照)、意外と見落とされているのが、この要請を受けて、・・・

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2023/06/13 「資本コストや株価を意識した経営」に関する開示に3つのパターン(会員限定)

東証が3月31日に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願い」(以下、要請)を公表したことは周知のとおりだが(2023年5月9日のニュース『東証の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」引用した株主提案相次ぐ』参照)、意外と見落とされているのが、この要請を受けて、コーポレートガバナンス報告書の記載要領が改訂されたということだ。2023年4月改訂版では、「コードの各原則に基づく開示」の記載事項に以下が追加されている(4ページの「※」~参照)。

※「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」/「株主との対話の推進と開示について」(2023年3月31日公表)に基づく内容について、 経営戦略や経営計画、決算説明資料、アニュアルレポート、自社のウェブサイト等で開示を行っている場合には、本欄に開示を行っている旨とその閲覧方法(ウェブサイトのURLなど)を記載してください。また、本欄に直接内容を記載することでも差支えありません。

(記載例)
【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応】
・・・・・・・・開示を行っている旨、閲覧方法等を記載・・・・・・・・

【株主との対話の実施状況等】
・・・・・・・・開示を行っている旨、閲覧方法等を記載・・・・・・・・

すなわち東証は、コーポレートガバナンス・コードの「特定の事項を開示すべきとする原則」(開示14原則)のコンプライ状況を記載する「コードの各原則に基づく開示」欄において、開示14原則に続き、今回の要請事項である2つの項目についての記載も求めているということだ。

開示14原則 : 原則1-4( 政策保有株式)、 原則1-7( 関連当事者間の取引)、補充原則2-4①(中核人材の登用等における多様性の確保)、原則2-6(企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮)、原則3-1(情報開示の充実)、補充原則3-1③(サステナビリティについての取組み、補充原則4-1①(経営陣に対する委任の範囲)、原則4-9(独立社外取締役の独立性判断基準及び資質)、補充原則4-10①(指名委員会・報酬委員会の権限・役割等)、補充原則4-11①( 取締役会の多様性に関する考え方等)、補充原則4-11② (取締役・監査役の兼任状況)、補充原則4-11③ (取締役会の実効性評価)、補充原則4-14② (取締役・監査役に対するトレーニングの方針)、原則5-1 (株主との建設的な対話に関する方針)

東証の「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」の議論では、「3月期決算会社の定時株主総会後に提出されるコーポレートガバナンス報告書の内容も踏まえ、今秋を目途に報告・議論を行うことを想定している」(第10回 東証説明資料①1ページ下部参照)とされている。したがって、6月の株主総会シーズン終了後、東証は上記2項目の開示状況を調査し、その過程で記載のない会社に対しては注意あるいは指導を行う可能性もある。コーポレートガバナンス・コード自体の要求項目ではなく、また、コンプライ・オア・エクスプレインが求められる事項でもない当該2項目について「コードの各原則に基づく開示」欄に記載することには違和感を覚えるかもしれないが、記載要領に定められた以上、各社は真摯に対応せざるを得ないだろう。

定時株主総会が既に5月中に終了した2月期決算会社のコーポレートガバナンス報告書の中には、改訂後の記載要領に沿った先行事例が散見されるが、開示の形式が主に3つのパターンに分かれている。3月決算会社は、自社の記載形式や内容を検討してする際の参考にされたい。

1.記載要領どおり、2項目の表題を設けて記載している事例
スクロール 【資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応】
当社は、中期経営計画の策定にあたり、自社の資本コストを加重平均資本コスト(WACC)を用いて把握しております。そのうえで、収益計画及び株主還元方針等の資本政策の基本的な方針と合わせ、資本コストを上回るROEを目標として設定し、開示しております。
当社グループの資本コストや資本収益性につきましては、2020年度のコロナ禍における巣ごもり需要と、主に通販事業において推進してまいりました原価率の改善、販促費の効率化等の事業構造改革の効果により資本コストを上回る資本収益性が達成できており、その後も高い水準で推移しております。
その結果PBR(株価純資産倍率)は1倍を回復する水準にはなったものの、株式市場からの評価は依然低い状態であると認識しております。 これは、近年の業績がコロナ特需によって恩恵を受けた通販事業による一過性のものであり、「将来の成長性(継続性)を期待させるだけの次の収益の柱(事業)が育っていない」との株式市場の評価によるものであると分析しています。
当社グループが標榜する「DMC複合通販企業戦略」は、「シナジーを発揮するためのグループ形成」と「成長に向けた計画的・持続的な投資を実現する事業ポートフォリオ経営」であり、変化が激しいマーケットのなかでも、新たな事業の創出・育成を可能とするものです。
2023年度から始まる中期経営計画においては、「ダイレクトマーケティングソリューションカンパニー(DMSC)への転換」を方針とし、次の収益の柱を「ソリューション事業」と明確に定めました。「事業ポートフォリオの最適化による成長戦略の推進」においては、ソリューション事業へ経営資源を重点的に配分することにより、投資による成長戦略の実現に取り組んでまいります。また、サステナビリティへの取組みでは「実効性のあるResponsibility経営の推進」をメインテーマに、長期的な視点にたった人的資本経営の強化を図ります。加えて、それらの進捗を分かりやすく開示することで、株式市場からの評価を高めてまいります。

【株主との対話の実施状況等】
当社は、株主、投資家の皆さまに当社をよりご理解いただくため、アナリストや機関投資家向けに、中間決算後及び期末決算後の年2回を基本に、代表取締役による説明会を実施しております。2022年度は、証券アナリストや投資家の求めに応じて個別のミーティングを年間のべ21回行いました。
また、2022年5月に、投資家様との対話ツールとして「統合報告書」を発行し、当社の考え方をご説明しております。 このほか、フェア・ディスクロージャー・ルールに基づき、当社ホームページ内にIR専用ページを設け、四半期ごとに決算説明資料を掲載し、適切な情報開示に努めております。

WACC : 「Weighted Average Cost of Capital=加重平均資本コスト」の略であり、要するに「資本コスト」である。WACCは文字通り負債コスト(金利)と株主資本コスト(配当+キャピタルゲイン)を加重平均して算定される。
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)
PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。

2.東証の要請をコーポレートガバナンス・コード原則5-2への対応として記載している事例
ミスターマックス・ホールディングス 【原則5-2】
当社の持続的な成長を目的に、資本コストに加え、人的資本など経営資源の配分や事業ポートフォリオを検討したうえで戦略を立案し、中期経営計画を策定しております。中期経営計画における資本コストや成長性の課題に関する取り組みは、当社HP記載の2023年2月期決算説明会資料の中にある「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」で説明しております。
https://www.mrmax.co.jp/contents/corporation/ir/files/ja/account/pdf/ppt_202302.pdf#16
3.東証の要請をコーポレートガバナンス・コード原則5-1への対応として記載している事例
東宝 【原則5-1 株主との建設的な対話に関する方針】
株主との建設的な対話を促進するための体制整備・取組みに関する方針は、以下の通りです。
全般的なIR方針を統括し、対話促進に目配りする役割の取締役は、コーポレート本部長である取締役副社長執行役員とします。
IRに関する株主からの窓口や主要なIRツールの作成は総務部広報・IR室が担当し、経理財務部・経営企画部と連携して業務に当たります。
原則として年に2回(4月・10月)代表取締役社長出席の下、アナリスト・機関投資家向け決算説明会を実施し、長期ビジョンや中期経営計画の進捗状況等に関する説明も行います。
株主との対話において把握された意見、アナリストレポート等は総務部広報・IR室で集約し、必要に応じて経営トップや取締役会に報告しております。
アナリスト・機関投資家との面談を担当する者をはじめIR業務に従事する担当者は、インサイダー情報の管理について十分な知識を有しております。また、原則として各四半期末から決算開示日までは沈黙期間として、面談の設定はしないよう配慮しております。

直前事業年度における経営陣等と株主との対話の実施状況は、以下の通りです。
当社では、セルサイドの証券会社及び国内及び海外機関投資家のアナリストと四半期ごとに約25回、年間約100回の面談・ミーティングを実施しております。対話における当社サイドの主な対応者は、コーポレート本部長である取締役副社長執行役員または経理財務担当執行役員及び経理財務部長です。また、昨年は代表取締役社長が証券会社主催のカンファレンスに参加し、海外の機関投資家との面談も実施しております。
対話における主なテーマは、足元の決算内容、今後の業績動向をはじめとして、長期ビジョンや中期経営計画の進捗状況、株主還元等の資本政策、政策保有株式に関する方針、業績予想と期待値のギャップについて、アニメ事業の今後の展望、不動産の再開発など、多岐にわたっています。
これら対話の実施状況・内容については、四半期ごとに経営会議で報告するとともに、直前事業年度では2023年2月の取締役会においてその概要を報告しており、経営陣及び取締役会へのフィードバックを実施しております。また、最近の対話において、成長領域であるアニメ事業に関する開示の強化についての要望が複数寄せられたことを踏まえ、2023年2月期の決算説明資料において、アニメ事業収入の内訳を分かりやすく開示する等の改善に努めました。

セルサイド : 証券会社に所属しており(株式を売る側にいることからこう呼ばれる)、そのレポート(アナリスト・レポート)は、証券会社の顧客である個人投資家や機関投資家に提供され、投資家はこれを投資先の選定や売買のタイミングの判断に利用する。