2023/05/23 終身雇用制度の終焉に向け政府が大ナタ 長い勤続期間に有利な退職所得優遇税制見直しへ

政府の「新しい資本主義実現会議」は5月16日に「三位一体の労働市場改革の指針(案)」をとりまとめたが、同指針案から見えて来るのが、従来の終身雇用を転換し、人材の流動化を促進しようという政府の強い意思だ。同指針案では「労働移動」という文言が随所に見られるほか、自己都合による離職の際における失業給付制度の見直し(失業給付の受給時期の早期化等。同指針案8ページの一番下参照)、また、「自己都合退職に対する障壁の除去」として、「民間企業の例でも、一部の企業の自己都合退職の場合の退職金の減額、勤続年数・年齢が一定基準以下であれば退職金を不支給、といった労働慣行の見直しが必要になりうる。」「その背景の一つに、厚生労働省が定める「モデル就業規則」において、退職金の勤続年数による制限、自己都合退職者に対する会社都合退職者と異なる取り扱いが例示されていることが影響しているとの指摘があることから、このモデル就業規則を改正する。」ことが盛り込まれている(9ページ 「(3)自己都合退職に対する障壁の除去」参照)。

三位一体 : ①リ・スキリングによる能力向上支援、②個々の企業の実態に応じた職務給の導入、③成長分野への労働移動の円滑化、の3つを指す。

最も注目されるのが、いまだ多くの日本企業で実質的に続いている終身雇用制度を支える仕組みである退職所得に対する優遇税制の見直しだ。・・・

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2023/05/23 終身雇用制度の終焉に向け政府が大ナタ 長い勤続期間に有利な退職所得優遇税制見直しへ(会員限定)

政府の「新しい資本主義実現会議」は5月16日に「三位一体の労働市場改革の指針(案)」をとりまとめたが、同指針案から見えて来るのが、従来の終身雇用を転換し、人材の流動化を促進しようという政府の強い意思だ。同指針案では「労働移動」という文言が随所に見られるほか、自己都合による離職の際における失業給付制度の見直し(失業給付の受給時期の早期化等。同指針案8ページの一番下参照)、また、「自己都合退職に対する障壁の除去」として、「民間企業の例でも、一部の企業の自己都合退職の場合の退職金の減額、勤続年数・年齢が一定基準以下であれば退職金を不支給、といった労働慣行の見直しが必要になりうる。」「その背景の一つに、厚生労働省が定める「モデル就業規則」において、退職金の勤続年数による制限、自己都合退職者に対する会社都合退職者と異なる取り扱いが例示されていることが影響しているとの指摘があることから、このモデル就業規則を改正する。」ことが盛り込まれている(9ページ 「(3)自己都合退職に対する障壁の除去」参照)。

三位一体 : ①リ・スキリングによる能力向上支援、②個々の企業の実態に応じた職務給の導入、③成長分野への労働移動の円滑化、の3つを指す。

最も注目されるのが、いまだ多くの日本企業で実質的に続いている終身雇用制度を支える仕組みである退職所得に対する優遇税制の見直しだ。

同指針案9ページの冒頭には下記の記述がある。

(2)退職所得課税制度等の見直し
○ 退職所得課税については、勤続20年を境に、勤続1年あたりの控除額が40万円から70万円に増額されるところ、これが自らの選択による労働移動の円滑化を阻害しているとの指摘がある。制度変更に伴う影響に留意しつつ、本税制の見直しを行う。

日本の所得税制では、退職所得は 「退職金額-退職所得控除額)×1/2×税率」により税金を計算することになっており、この算式のとおり、「退職所得控除」と「×1/2」により、税負担が大幅に軽減される仕組みとなっている。今回見直されるのは「退職所得控除」の方であり、「×1/2」は現状維持される。退職所得控除を見直すのは、勤続年数が長いほど税負担が軽くなるという点を見直すためだ。政府には、上記のとおり現行制度では、勤続20年を境に「勤続1年あたりの控除額」が40万円から70万円に増額されることから、これが「一つの会社にずっといた方が得」という発想につながり、人材の流動化の障害になっているという問題意識がある。

1/2 : 平成24年度税制改正により平成25年1月1日以降支給分から、「勤続年数5年以下の役員」への退職金については算式中「×1/2」が廃止された。

指針案では具体的な見直しの内容にまでは触れていないが、当フォーラムの取材によると、退職所得控除額を、勤続年数を問わず「一律」の金額とする方向。当該金額は今後検討することになるが、40 万円~70 万円の間の金額(例えば55万円等)が有力視されている。

指針案の語尾に「行う」とあるように、退職所得課税制度の見直しを行うことは政府内では既定路線となっており、今年の年末に税制改正大綱がとりまとめられる令和6年度税制改正に盛り込まれることは確実。ただし、改正の影響の大きさを考えると、施行は改正の数年後(例えば2年後)になる可能性が高い。

税制改正大綱 : 税制改正は毎年1回行われるのが通常だが、翌年度の税制改正の内容を大まかにとりまとめたものが税制改正大綱であり、毎年12月中旬頃に政府(与党)が公表する。

終身雇用制度の象徴と言える退職所得課税の優遇税制の見直しに政府が踏み込んだインパクトは大きい。企業にとっては、優秀な人材のつなぎとめが益々重要な経営課題となりそうだ。

2023/05/22 G7広島サミットで「インパクト投資イニシアティブ」立ち上げ

5月21日に閉幕したG7広島サミットは、ロシアのウクライナ侵攻が続き世界情勢が混乱している最中、ゼレンスキー大統領の訪日、G7首脳による原爆資料館の訪問、核軍縮に関する「広島ビジョン」の打ち出しを実現するなど、大いに注目を集めた。こうした中、G7広島サミットでテーマとして取り上げられるか金融・経済界等の関心を集めていたグローバルヘルス分野へのインパクト投資(2023年5月10日のニュース『“インパクト加重会計”、関係者からは「2030年に義務化」発言も 19日からの広島サミットでの言及の有無に注目』参照)についても動きがあった。

20日に取りまとめられた「G7広島首脳コミュニケ」では、下記のとおり、・・・

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2023/05/22 G7広島サミットで「インパクト投資イニシアティブ」立ち上げ(会員限定)

5月21日に閉幕したG7広島サミットは、ロシアのウクライナ侵攻が続き世界情勢が混乱している最中、ゼレンスキー大統領の訪日、G7首脳による原爆資料館の訪問、核軍縮に関する「広島ビジョン」の打ち出しを実現するなど、大いに注目を集めた。こうした中、G7広島サミットでテーマとして取り上げられるか金融・経済界等の関心を集めていたグローバルヘルス分野へのインパクト投資(2023年5月10日のニュース『“インパクト加重会計”、関係者からは「2030年に義務化」発言も 19日からの広島サミットでの言及の有無に注目』参照)についても動きがあった。

20日に取りまとめられた「G7広島首脳コミュニケ」では、下記のとおり、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成やパンデミックへの“PPR”(予防(Prevention)、備え(Preparedness)、対応(Response))を含むグローバルヘルスへの貢献に向け、インパクト投資イニシアティブ(Impact Investment Initiative)の立ち上げが宣言された。

ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ : 全ての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態

(前略)我々は、インパクト投資も通じたものを含む、国際保健における持続可能な資金調達に向けた民間セクターの重要な役割を強調し、「グローバルヘルスのためのトリプル I (インパクト投資イニシアティブ)」を承認する

このイニシアティブは、特に低中所得国におけるグローバルヘルス分野の財政負担が増大している現状を受け、公的資金に加え、サステナブル・ファイナンスインパクト投資を含む、民間資金を動員することを目指している。G7では、2023年9月の国連総会ハイレベル会合での立ち上げを目指しており、開発金融機関 、ファンドマネージャー、ファミリーオフィス、金融機関、財団、年金基金、機関投資家、企業、業界団体など、幅広い関係者に参加を呼びかけている。

サステナブル・ファイナンス : ESG投資やグリーンボンドの発行といった「持続可能な社会を実現するための金融」を意味する。
インパクト投資 : 社会問題・環境問題を解決することを目的として投資すること。
開発金融機関 : 途上国の貧困削減や持続的な経済・社会的発展を、金融支援や技術支援、知的貢献を通じて総合的に支援する国際機関の総称で、世界銀行、アジア開発銀行等が該当する。
ファミリーオフィス : 直訳すれば「家族の事務所」だが、明確な基準はないものの、一般の富裕層とは“レベルが違う富裕層”、具体的には通常は1000億円(ビリオネア)以上の資産を有する富裕層が家族の資産を管理して後の世代に継承し、家系が永続的に繁栄することを目的として、家族の資産管理などのために設立するプライベートな組織を指す。ファミリーオフィスは日本ではまだ数は多くないが、欧米では相当数存在している。代表的なところでは、例えばロックフェラー一族やビル・ゲイツ一族がファミリーオフィスを保有していることが知られている。

投資の対象とされる分野は、予防接種、感染症(HIV/AIDS、結核、マラリア、ポリオ、麻疹、コレラなど)、顧みられない熱帯病、薬剤耐性、メンタルヘルス症状を含む非感染性疾患、性と生殖に関する健康と権利、母子・新生児・思春期の健康、健康的な高齢化、栄養、水・衛生、非常に高額な医療費に対する経済的保護とその軽減、パンデミックへの予防・備え・対応、デジタルヘルスなど、グローバルヘルスの課題が広く網羅されている。

デジタルヘルス : AI(人工知能)、IoT( Internet of Things=モノのインターネット:モノをインターネットでつなぐこと)、ウェアラブルデバイス、ビッグデータ解析、仮想現実(VR)など最新のデジタル技術を活用して、医療やヘルスケアの効果を向上させること。

対象となる投資の基準は、9月のイニシアティブ立ち上げまでに詳細が詰められるという。現時点で示されている基準案を、国際的なインパクト投資推進団体であるGIIN(Global Impact Investing Network)が定めた指針「①意図を持つこと、②収益を持つこと、③インパクトを管理・計測できること」と比較すると、収益性への言及がない代わりに、「最も貧しい人々や最も脆弱な人々に届く製品・サービスを対象とするプロジェクト・金融取引」と、インクルーシブ性が追加されており、インパクト投資の社会貢献の測面がより強調されている。また、協力機関として、「インパクト投資とグローバルヘルス」に係る研究会の委員が所属または関与するGSG諮問委員会インパクト・タスクフォースビル&メリンダ・ゲイツ財団といった名前も挙げられており(同研究会の委員の名簿はこちら)、今後の活動に向けても強固な体制が整ったと言えるだろう。

GIIN : インパクト投資の拡大と成果向上を目的として2009年に設立された団体で、ロックフェラー財団との関わりが強い。
インクルーシブ : 「すべてを包括する、包みこむ」といった意味がある。ここでは、多様性やお互いの違いを認め合い、すべての人がお互いの人権と尊厳を尊重することを指す。

例えば、昨年のG7ドイツサミットで大々的に設置された産業界のグリーン化で国際協力を目指す「気候クラブ」があまり成果が出せていないように、国際的なイニシアティブは“出オチ”で終わることも多いとの懸念はあるが、「グローバルヘルス」分野は「気候」分野よりは利害対立が少なく、比較的国際協調しやすい分野であるため、気候クラブの二の舞となる可能性は低い。

まだ黎明期にあるインパクト投資だが、2022年度における国内インパクト投資残高は5兆8,480億円を達成し、前年度比4.4倍と急成長している(CGC諮問委員会による調査結果の10ページ参照)。パンデミック以降、グローバルヘルスの課題がますます顕在化し、その解決には国際社会全体の一体的な取組みが求められている。インパクト投資が注目されているのは、社会の要請とマーケットのニーズが一致しているからに他ならない。このイニシアティブが成功すれば、社会的インパクトと経済的リターンの両立が可能なことを示す実例となり、インパクト投資市場の一層の成熟が期待できるとともに、日本としても世界のグローバルヘルス分野、インパクト投資市場でリーダーシップを示すことができるだろう。

なお、上記で引用したニュースでも触れたとおり、G7広島サミットで取り上げられるかどうかが注目された「インパクト加重会計(IWA)」への言及はなかった。もっとも、インパクト加重会計は、あくまでインパクト投資を進めるためのツールという位置付けであるため、今回立ち上げられたイニシアティブの中で議論され、引き続きツールとしての改善や普及が図られていくことになりそうだ。

2023/05/19 アクティビストによる株主提案増加の背景

総会シーズンを目前に控え、アクティビストによる株主提案が増えてきている。昨年の株主提案の数は76社290議案と過去最高を記録しており、今年もその数を更新しそうな勢いだ。その理由の1つに東証の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請があることは間違いないが(2023年5月9日のニュース『東証の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」引用した株主提案相次ぐ』参照)、そもそもの前提として、諸外国と比較した場合、日本の株主提案権が株主にとって“強力な”権利であることも背景にあると考えられる。日本の制度の特徴は、今後の株主提案の増減や中身の傾向を予想するうえでも、上場会社の経営陣が押さえておくべきと言える。

株主提案権には、①株主総会の議題の提案、②株主総会における審議議題に対する議案の提案、③株主総会招集通知に株主提案の議案の要領を記載するよう請求すること、の3種類ある。最近提案された議題・議案としては、例えば自社株買いや増配、取締役の選解任などのほか、気候変動などサステナビリティに関する定款変更を求める提案等も増えている。こうした株主提案権について米国、欧州と日本を比較した場合、日本の法制度上の株主提案のハードルが低すぎるのではないかとの指摘がある。

議題 : 例えば「取締役選任の件」のように、株主総会におけるテーマそのものを指す。
議案 : 議題に関する具体的な提案のこと。例えば「取締役〇〇××氏選任の件」といったものが議案に該当する。

株主提案に至るまでには、提案権を行使するために満たさなければならない要件と、行使できる提案内容に対する制限というハードルがある。まず、権利行使のための要件は、下表のとおり、欧州の英国、フランス、ドイツといった国の要件が厳しく、日本や米国が比較的ハードルが緩いと考えられる。ただ、米国ではかつての・・・

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2023/05/19 アクティビストによる株主提案増加の背景(会員限定)

総会シーズンを目前に控え、アクティビストによる株主提案が増えてきている。昨年の株主提案の数は76社290議案と過去最高を記録しており、今年もその数を更新しそうな勢いだ。その理由の1つに東証の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請があることは間違いないが(2023年5月9日のニュース『東証の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」引用した株主提案相次ぐ』参照)、そもそもの前提として、諸外国と比較した場合、日本の株主提案権が株主にとって“強力な”権利であることも背景にあると考えられる。日本の制度の特徴は、今後の株主提案の増減や中身の傾向を予想するうえでも、上場会社の経営陣が押さえておくべきと言える。

株主提案権には、①株主総会の議題の提案、②株主総会における審議議題に対する議案の提案、③株主総会招集通知に株主提案の議案の要領を記載するよう請求すること、の3種類ある。最近提案された議題・議案としては、例えば自社株買いや増配、取締役の選解任などのほか、気候変動などサステナビリティに関する定款変更を求める提案等も増えている。こうした株主提案権について米国、欧州と日本を比較した場合、日本の法制度上の株主提案のハードルが低すぎるのではないかとの指摘がある。

議題 : 例えば「取締役選任の件」のように、株主総会におけるテーマそのものを指す。
議案 : 議題に関する具体的な提案のこと。例えば「取締役〇〇××氏選任の件」といったものが議案に該当する。

株主提案に至るまでには、提案権を行使するために満たさなければならない要件と、行使できる提案内容に対する制限というハードルがある。まず、権利行使のための要件は、下表のとおり、欧州の英国、フランス、ドイツといった国の要件が厳しく、日本や米国が比較的ハードルが緩いと考えられる。ただ、米国ではかつての「2000ドル相当の保有を1年以上」という要件を2022年に引き上げている。一方、日本では2018年に、議決権が付与される単位株数が「1,000株」から「100株」に引き下げられたため、権利行使のための要件のハードルが低くなった。また、株主提案の要件としては原則「総株主の議決権の1%以上」または「300個(単元)以上(1単元株=100株)」の議決権が求められるが、通常、「300単元」は議決権総数の1%を大きく下回っている。

株主提案のための要件
日本 議決権総数の1%以上、または議決権単位300個以上(多くの場合、1単位=100株)の6か月間継続した保有
米国 市場価格2,000米ドルの株式の3年以上の保有、15,000米ドルの株式の2年以上の保有、25,000米ドルの株式の1年以上の保有
英国 議決権総数の5%以上、または100英ポンド以上の株式を保有する100名以上の各株主(議決権総数10,000英ポンド以上)
フランス 原則として株式資本の5%以上。ただし、株式資本が75万ユーロを超える場合は、75万ユーロ未満の部分は4%、75万ユーロから750万ユーロの部分は2.5%、750万ユーロから1500万ユーロの部分は1%、 1,500万ユーロを超える部分は0.5%の保有が必要
ドイツ 5%以上の株式または50万ユーロ以上の保有

また、提案内容に対する制限を見ると、フランスとドイツでは業務執行に関する議題や議案の提案は原則として認められていない。さらに、米国ではより厳しい制限が課せられており、提案株主が利害を有する提案、事業に重要な関係性のない提案、会社の通常の事業運営に関する提案、取締役の選任に関する提案、配当についての提案等が認められていないほか、業務執行事項に関する提案は法的拘束力のない勧告的提案となるため、過半数の賛成があった場合でも会社は従う必要がない。

一方、日本では提案内容に関しては今のところ制限はないうえ、あらゆる提案に関して法的拘束力があるため、仮に株主提案が可決された場合には会社は従わなければならない。現状では、外形的な制限として、法令・定款違反の議案や、過去3年以内の株主総会にて株主の10分の1以上の賛成を得られなかった議案については再提案ができないこと、また、過去に株主提案権が濫用されたケースがあったため(2019年11月27日のニュース「株主提案権の濫用的行使制限規定の一部が消滅」参照)、議案数の上限が10までとの制限が設けられているに過ぎない。

株主提案権そのものは、導入の目的は一般的に「(株主の)疎外感を払拭し、経営者と株主あるいは株主相互間のコミュニケーションをよくして、開かれた株主総会を実現すること」と説明されているとおり、我が国が志向する会社と株主の建設的な対話を実現するうえでの重要な権利と言える。また、アクティビスト等からの株主提案を上手く会社の成長のための改革に活用することも期待されている。しかし、上記東証の要請の対象となる会社がPBR改善のために自社株買いや増配など近視眼的な取組みに終始することを助長してしまう懸念もある(2023年4月19日のニュース『「PBR1倍割れ」問題を巡る空気の変化』参照)。さらに、提案内容の制限がなく、法的拘束力もあることから、提案内容への対応を迫られる会社側の負担増も問題になる。今後の株主提案の動向次第では、金融当局が①300個以上の議決権という提案要件の廃止あるいは引上げ、②業務執行事項に関する提案の制限、③提案できる議案数のさらなる削減――などの施策により、株主提案権を弱めることを検討するよう求める声が高まりそうだ。

PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。






2023/05/18 事業撤退の意思決定に疑念を抱いた株主が「定款変更」を提案

アクティビストなどに、不採算事業からの撤退を求める株主提案を受ける上場企業は少なくない。最近では、セブンイレブンホールディングスが、かつてオリンパスに取締役を送り込んだことで知られる米投資会社のバリューアクト・キャピタルに「セブン-イレブン事業への集中」「そごう・西武の100%売却」「イトーヨーカ堂のIPO・スピンオフなどの戦略的選択肢の検討」「その他の非中核事業からの撤退」など選択と集中を推し進めるための株主提案を受けている()。

スピンオフ : 企業や組織の一部を分離し、別個の独立した企業や組織とすること。

 セブンイレブンホールディングスの定時株主総会(こちらを参照)は2023年5月26日に予定されており、バリューアクト・キャピタルとセブンイレブンホールディングスの取締役会の主張の詳細は下記を参照。
・バリューアクト・キャピタルの主張(こちらを参照)
・セブンイレブンホールディングスの取締役会の主張(こちらを参照)

逆に、不採算事業から撤退した上場企業がアクティビストに当該経営判断の誤りを指摘される事例は滅多にない。その理由は、不採算事業かどうかを判断するうえで必要となる情報のほとんどを上場企業側が独占しており、外部の株主にとっては当該経営判断の是非を一般論でしかジャッジできないことにある。こうした中、情報格差を乗り越え経営判断の誤りを指摘した珍しいケースと言えるのが・・・

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2023/05/18 事業撤退の意思決定に疑念を抱いた株主が「定款変更」を提案(会員限定)

アクティビストなどに、不採算事業からの撤退を求める株主提案を受ける上場企業は少なくない。最近では、セブンイレブンホールディングスが、かつてオリンパスに取締役を送り込んだことで知られる米投資会社のバリューアクト・キャピタルに「セブン-イレブン事業への集中」「そごう・西武の100%売却」「イトーヨーカ堂のIPO・スピンオフなどの戦略的選択肢の検討」「その他の非中核事業からの撤退」など選択と集中を推し進めるための株主提案を受けている()。

スピンオフ : 企業や組織の一部を分離し、別個の独立した企業や組織とすること。

 セブンイレブンホールディングスの定時株主総会(こちらを参照)は2023年5月26日に予定されており、バリューアクト・キャピタルとセブンイレブンホールディングスの取締役会の主張の詳細は下記を参照。
・バリューアクト・キャピタルの主張(こちらを参照)
・セブンイレブンホールディングスの取締役会の主張(こちらを参照)

逆に、不採算事業から撤退した上場企業がアクティビストに当該経営判断の誤りを指摘される事例は滅多にない。その理由は、不採算事業かどうかを判断するうえで必要となる情報のほとんどを上場企業側が独占しており、外部の株主にとっては当該経営判断の是非を一般論でしかジャッジできないことにある。こうした中、情報格差を乗り越え経営判断の誤りを指摘した珍しいケースと言えるのがLIM JAPAN EVENT MASTER FUND(本拠地は香港)によるテレビ東京ホールディングス(東証プライム市場上場)に対する株主提案だ。

テレビ東京ホールディングスは、子会社のテレビ東京コミュニケーションズがテレビ東京ホールディングスの発行済株式の32.7%の株式を保有する日本経済新聞(非上場。以下、日経)と立ち上げたYouTubeチャンネル「日経テレ東大学」を2023年3月、契約期間満了を理由に終了()したが、これにLIM JAPAN EVENT MASTER FUNDが噛みついた。元々、LIM JAPAN EVENT MASTER FUNDはテレビ東京ホールディングスの昨年(2022年3月期)の定時株主総会でも、日経からの天下り禁止や資本コストの開示などを定款に盛り込むよう株主提案を行う(いずれも否決)などアクティビストとして活動してきたが(当該議案への賛成率については後述)、今年の定時株主総会を前に起きた日経テレ東大学の終了は早速、株主提案の切り口の一つに選定されている。

資本コスト : 「資金提供者(債権者+株主)に対するリターン」のこと(なお、株主に対するリターンには、配当のほかキャピタルゲインも含まれる)。資金提供者に対するリターンが適切にできなければ、債権者は会社に資金の返還を求め、株主は株式を売却(=株価が下落する)せざるを得ない。したがって、会社にとって資本コストは「資金提供者に対するリターンの目標値」と言える。

 本日現在、YouTubeチャンネル「日経テレ東大学」で過去のコンテンツを閲覧することはできるものの、将来的にいつまで閲覧できるのかは不明。

日経テレ東大学はコメンテーターの西村博之氏(2ちゃんねる創設者)、成田悠輔氏(イェール大学アシスタント・プロフェッサー)などをMCに据えたYouTubeの経済チャンネルで、2021年3月にスタート。企画の斬新さやMCとゲストのトークが評判を呼び、2023年2月には登録者数が100万人を超えたばかりだっただけに、突然の事業中止は様々な憶測を呼んだ。

LIM JAPAN EVENT MASTER FUNDが株主提案をした定款変更議案の内容は次のとおり(下線は変更部分)。

コール・オプションとプット・オプション : 買い戻す(呼び寄せるという意味で「コール」と言われる)ことができる権利。あくまでも権利なので、権利の保有者は買い戻しをしなくてもよい。反対に、売り渡すことができる権利はプット(押し付けるという意味で用いられる)・オプションと言われる。

現行定款 変更案
(新設) 第 8 章 重要な契約の開示
(株式会社日本経済新聞社との共同事業運営契約の開示)
第 50 条 当会社は、当会社が東京証券取引所に提出するコーポレートガバナンスに関する報告書において、株式会社日本経済新聞社との間で締結した共同事業運営契約における、事業内容、出資比率、役割分担、利益配分、制作物の権利帰属、コール・オプションとプット・オプション、オプションが行使される場合の価額・算定手法、契約期間、存続規定の各条項を開示するものとする。

上記の株主提案が日経テレ東大学の事業継続を求める内容となっていないのは、個別事業の継続・撤退は経営判断の領域であるため、株主総会の場を利用して事態を打開するには、定款変更とコーポレートガバナンス報告書での開示を求めた方が良いという判断に基づくものと思われる。この提案の次に記載された「提案の理由」(下記)では日経テレ東大学の事業価値などについて触れつつ、日経からの経営トップ等の受け入れを批判している(「当社」はテレビ東京ホールディングスを指す)。

(2) 提案の理由
当社の完全子会社と当社の筆頭株主である日本経済新聞社(日経)は 2021 年、「経済 Labo」を介してニュースバラエティ番組「日経テレ東大学」を YouTube にて配信する契約を交わし、登録者数 100 万人超の事業体に成長させた。再生回数や制作本数などを鑑みるに、2022年10-12月に約3500万円の税引き前利益を稼いだと推計できるが、提案株主がディカウント・キャッシュフロー(DCF)方式で算定したところ、事業価値は約30億円に達した。メディア報道によると、日経側の事情によって、2022 年末に同契約の非更新が決まったが、当社株主の利益に資する関連情報は未開示である。
当社は1973年以来、日経から経営トップを受け入れ続け、現在も首脳陣 4 人が日経元幹部である。様々な分野で両社は事業を共同運営しているが、日経に有利な契約が結ばれている又は当社が契約にある権利を十分に生かしていないリスクが内在する。
「経済 Labo」に関する契約においても、一定の事由が生じた場合に相手側の出資分を買い取れるコール・オプション条項、同じく当社側の出資分を売ることができるプット・オプション条項、オプションが行使される場合の事業価値や同算定手法が契約に盛り込まれていたかは甚だ疑問である。

このLIM JAPAN EVENT MASTER FUNDの株主提案についてテレビ東京ホールディングスは、「主に若者層向けの動画コンテンツを実験的に配信」「一定の成果は得たものの、その収益、及び人件費を含めた費用の実態に照らせば、提案株主が示している利益及び事業価値には到底及ばないものであった」「報道配信サービス「テレ東 BIZ」など当社の配信事業全体を見据えたうえで総合判断」と主張している(テレビ東京ホールディングスが2023年5月11日にリリースした「株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ」の2ページの上部参照)。

しかし、週刊文春が、日経テレ東大学の事業終了の背景に日経内の内紛があったと報道したことで、テレビ東京ホールディングスのリリースを額面通りに受け取ってよいものか、疑念も生じている。また、テレビ東京ホールディングスの2022年3月期の有価証券報告書では、同社グループのセグメントの一つであるコミュニケーション事業における新たな取り組みとして「経済・ビジネスを楽しく学べる番組「日経テレ東大学」のYouTube配信や地域と連携したEC事業を開始しました。」と紹介されていたことから、今更「実験的な事業であった」と言われても、にわかには信じがたいというのが一般的な感想だろう。ましてや、登録者数が100万人を超えるまでに育った日経テレ東大学のチャンネル登録者の属性を見ると、20代から30代の男性という、衰退産業となった新聞・テレビなどのオールドメディアが十分にリーチできていない層が中心となっていた。それだけに、「日経電子版への誘導など、まだまだ打てる施策はあったはず」と同事業の中止を惜しむ声も少なくない。

採算性の悪さに加えて、テレビ東京ホールディングスの取締役会が言及したのは、「日経との共同事業における株主共同の利益」についての考え方だ。

株主共同の利益 : 株主全体に共通する利益の総体。取締役会は支配株主等(支配株主とまではいかなくても創業者株主などの一部株主も含む)と支配株主以外の株主(少数株主)との間で利益相反が生じる可能性に備えて、業務執行により株主共同の利益が侵害されていないかを監督する必要がある。

本件に限らず、日経との共同事業、或いはその他の共同事業全般については、必要に応じて取締役会等で審議しつつ、当社の経営戦略との適合性、成長に資するかどうかなどを含めた幅広い観点から十分に議論し、適切に判断して実施しております。その際、契約条件の交渉やその実行においても適正に株主共同の利益に配慮しております。
ただ、個々の事業の契約内容を開示することは、競合他社との競争条件などの面で、当社の事業展開に不利益をもたらす恐れがあります。このため、個別企業との契約内容を開示することは不適切で、その開示は会社の根本原則である定款の規定にはなじまないと考えます。

このようにテレビ東京ホールディングスの取締役会が「株主共同の利益」を持ち出したのは、仮に日経テレ東大学の事業の採算性が資本コストを上回るほどの水準だった場合、それを日経側の都合だけで中止したとなれば、テレビ東京ホールディングスの最大株主(32.7%保有)である日経と日経以外の株主との間で利益相反が生じることになるからだ。テレビ東京ホールディングスとしては、週刊文春に報道されたこともあり、日経テレ東大学の事業を中止することが株主共同の利益からも必要であるという前提を持ち出さざるを得なくったとの見方もできよう。

ちなみに、2022年3月期のテレビ東京ホールディングスの定時株主総会でLIM JAPAN EVENT MASTER FUNDが株主提案をした際の賛成率は、下表のとおり最大でも18.44%であった。

決議事項 決議の結果および賛成率
第6号議案
定款一部変更(株式会社日本経済新聞社からの天下りの禁止)の件
否決
8.15%
第7号議案
定款一部変更(顧問等の廃止)の件
否決
16.67%
第8号議案
取締役1名選任の件
否決
8.89%
第9号議案
定款一部変更(取締役報酬の個別開示)の件
否決
18.44%
第10号議案
定款一部変更(資本コストの開示)の件
否決
11.73%
第11号議案
定款一部変更(政策保有株式の売却)の件
否決
8.02%
第12号議案
剰余金の処分の件
否決
13.33%

テレビ東京ホールディングスは今年の定時株主総会を2023年6月15日に開催する予定となっている。日経テレ東大学は若い世代を中心に人気のあったコンテンツであっただけに、それを切り口にしたLIM JAPAN EVENT MASTER FUNDの株主提案が前期と比べどれほどの賛成票を集めるのか、注目される。

2023/05/17 開示初年度の「気候変動情報」はどこまで書けばよい?

2023年3月期の有価証券報告書等から「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設され、どのような内容を書くか頭を悩ませている企業も少なくないことだろう。特にハードルが高いと思われるのが、専門性が求められる気候変動情報に関する開示だ。こうした中、有価証券報告書の「記載上の注意」(改正開示府令の第二号様式)には「気候変動」という文言は一切なく、開示を求める記述もないことから、「今年は開示を見送ってもよいのではないか」との声が一部の企業から聞かれる。

しかし、「記述情報の開示に関する原則(別添)―サステナビリィ情報の情報の開示について―」の(注2)では、気候変動について以下のとおり言及している。

(注2)・・・・・2022年6月13日に公表された「金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ報告」においては、企業が、気候変動対応が重要であると判断する場合には、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標及び目標」の枠で開示することとすべきであるとされ、・・・・・(以下略)

上記は要するに「気候変動対応が自社にとって重要であれば開示すべき」ということであり、「開示しなければならない」とまでは断定していないことから・・・

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2023/05/17 開示初年度の「気候変動情報」はどこまで書けばよい?(会員限定)

2023年3月期の有価証券報告書等から「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設され、どのような内容を書くか頭を悩ませている企業も少なくないことだろう。特にハードルが高いと思われるのが、専門性が求められる気候変動情報に関する開示だ。こうした中、有価証券報告書の「記載上の注意」(改正開示府令の第二号様式)には「気候変動」という文言は一切なく、開示を求める記述もないことから、「今年は開示を見送ってもよいのではないか」との声が一部の企業から聞かれる。

しかし、「記述情報の開示に関する原則(別添)―サステナビリィ情報の情報の開示について―」の(注2)では、気候変動について以下のとおり言及している。

(注2)・・・・・2022年6月13日に公表された「金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ報告」においては、企業が、気候変動対応が重要であると判断する場合には、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標及び目標」の枠で開示することとすべきであるとされ、・・・・・(以下略)

上記は要するに「気候変動対応が自社にとって重要であれば開示すべき」ということであり、「開示しなければならない」とまでは断定していないことから、気候変動情報の開示は必須ではないようにも見えるが、一概にそのように言うことはできない。この点については、下記のとおり、改正開示府令案へのパブリックコメントNo.113に金融庁の回答が示されている。

金融庁の考え方
「ガバナンス」と「リスク管理」は、企業において、自社の業態や経営環境、企業価値への影響 等を踏まえ、サステナビリティ情報を認識し、その重要性を判断する枠組みが必要となる観点か ら、全ての企業が開示することが求められます。そして、各企業が「ガバナンス」と「リスク管理」の 枠組みを通じて重要と判断したサステナビリティ項目については、「戦略」及び「指標及び目標」の開示も求められます。気候変動関連の情報についても、サステナビリティ情報の一つとして、上記のような枠組みで、その開示の要否が判断されることになります。

上記の金融庁の考え方を図示すると、以下のイメージとなる。

「戦略」および「指標及び目標」の開示イメージ図
(注)「ガバナンス」「リスク管理」の開示は、気候変動、人的資本といった個別テーマごとにそれぞれ記載することも考えられるが、基本的には、各テーマ共通の要素と言える。したがって、各テーマ固有の「ガバナンス」「リスク管理」がないのであれば、サステナビリティ全般の開示として一体的に記載することで足りると考えられる。
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サステナビリティ開示における重要性の判断基準は現時点では我が国には存在しないが、改正開示府令案へのパブリックコメントNo.88に対して金融庁は下記のとおり回答している。

重要性の判断にあたっては、開示原則2-2において、「記述情報の開示の重要性は、投資家の投資判断にとって重要か否かにより判断すべきと考えられる。」としており、その重要性は「その事柄が企業価値や業績等に与える影響度 を考慮して判断することが望ましい。」としていることを参考にすることが考えられます。

気候変動情報の重要性の判断については、2022年11月18日のニュース「改正開示府令における気候変動開示の位置付け」でお伝えしたとおり、気候変動対応は基本的にすべての企業にとって重要があると考えられ、重要ではないとする企業、業種は極めて限定的と考えられる。

では、気候変動情報について「重要」と判断した場合、何を書けばよいのだろうか。この点については、改正開示府令案へのパブリックコメントNo.79~80に対し、金融庁は下記のとおり回答している。

現時点においては我が国における開示基準は定めていないところ、各企業の取組状況に応じて記載していくことが考えられます。なお、当年度の有価証券報告書について、開示府令が求める開示事項を開示している場合には、翌年度以降、企業においてその開示内容を拡充したとしても、当年度の有価証券報告書について虚偽記載等の責任を負うものではないと考えられます。

上記の金融庁の考え方を踏まえると、サステナビリティ開示初年度においては、TCFDに基づく開示までは至らなくても、とりあえず自社が現在行っている取り組みの状況を記載しておき、次年度以降において開示のレベルアップを図ればよいということになる。

TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードとなっている。

なお、上記「金融庁の考え方」(赤字部分参照)や「戦略」および「指標及び目標」の開示イメージ図にあるとおり、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の開示においては、「ガバナンス」および「リスク管理」に関する事項ついては必須記載事項とされ、「戦略」および「指標及び目標」に関する事項ついては、“重要性”があれば記載が求められることになる。したがって、上記で示したとおり、気候変動以外のサステナビリティのテーマ、例えば「人権」「水」「生物多様性」等が重要であると判断した場合には、「サステナビリティに関する考え方及び取組」の「戦略」及び「指標及び目標」の開示が必要となる。重要性の判断によっては、「気候変動」だけが開示対象となるわけではない点、注意したい。