2023/03/10 有報における取締役会や監査役会等の活動状況や政策保有株式に関する情報の開示レベル

2023年1月31日に公布・施行された改正開示府令(「2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等」から適用)では、取締役会や監査役会等の活動状況について「具体的な検討内容」の開示が求められているが、営業秘密の開示を避けたい企業側からは、改正開示府令案へのパブリックコメントで「営業上の秘密に関わるおそれがある場合等には、開示の内容に制約が生じると考えられるが、それは許容されると考えてよいか。」との疑問が寄せられていたところだ。これに対し金融庁は、「・・・投資家の投資判断や、投資家との建設的な対話の観点から、検討いただくことが考えられます。」と回答している(コメントNo. 297参照)。ただ、・・・

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2023/03/10 有報における取締役会や監査役会等の活動状況や政策保有株式に関する情報の開示レベル(会員限定)

2023年1月31日に公布・施行された改正開示府令(「2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等」から適用)では、取締役会や監査役会等の活動状況について「具体的な検討内容」の開示が求められているが、営業秘密の開示を避けたい企業側からは、改正開示府令案へのパブリックコメントで「営業上の秘密に関わるおそれがある場合等には、開示の内容に制約が生じると考えられるが、それは許容されると考えてよいか。」との疑問が寄せられていたところだ。これに対し金融庁は、「・・・投資家の投資判断や、投資家との建設的な対話の観点から、検討いただくことが考えられます。」と回答している(コメントNo. 297参照)。ただ、「投資家の投資判断や、投資家との建設的な対話の観点」という表現は抽象的で、企業からは「この回答だけではどこまで開示すればよいのか分かりにくい」との声が上がっている。

同様の声は、政策保有株式についても聞かれる。企業側からは、改正開示府令案のうち「保有目的が提出会社と当該株式の発行者との間の営業上の取引、業務上の提携その他これらに類する事項を目的とするものである場合には、当該事項の概要」を記載するよう求める部分を削除するよう求めるコメントや(コメントNo. 318参照)、「開示企業にとっては、契約上の守秘義務を重視しすぎて開示義務違反になることや、逆に、開示義務を重視しすぎて契約上の守秘義務違反となるおそれがあり、過度なリスクを負わされることとなる懸念がある・・・。そのため、「当該事項の概要」として、具体的にどの程度の記載が求められるのか、できる限り明確にされたい。」(コメントNo. 319参照)との要望、「事業戦略上秘匿性の高い情報が含まれることが多く、契約相手方との関係で守秘義務を負っている場合も考えられる。こうした場合には、一定程度抽象的な記載とせざるを得ないと考えるが、それは許容されると考えてよいか。」(コメントNo. 323参照)との疑問などが寄せられていたところ。これに対する金融庁の回答はいずれも「・・・投資者と企業の対話に資する具体的な開示内容となるよう各企業において適切に検討いただくことが期待されます。」となっており、上記取締役会や監査役会等の活動状況についての「具体的な検討内容」への回答と大差ない抽象的なものとなっている。

当フォーラムの取材によると、金融庁としても、営業秘密や守秘義務等に触れるような情報までの開示は想定していないようだ。とはいえ、金融庁の立場で「そのような情報は書く必要はない」とは公には明言しにくいところだろう。パブリックコメントへの回答が抽象的な表現になっているのはそれが一因であると考えられる。

では、企業としては具体的にどの程度のレベルの開示を行えばよいのだろうか。目安とすべきなのが「IR」だ。もちろん、IR活動の場だからこそ出すという情報もあろうが、IR活動においてプレゼンしている話を有価証券報告書で開示したとしても、企業にとって営業秘密の漏洩等にあたることは基本的にないと考えられる。逆に言うと、IR情報と有価証券報告書の記載内容に明らかな格差があるようだと問題視される恐れがある一方で、IR活動で明らかにしている情報を超える情報を有価証券報告書で開示する必要もない。改正開示府令への対応にあたっては、IR活動との整合性を意識するようにしたい。

2023/03/09 抜き打ち監査の実効性を高めるための方策

福岡県の温泉旅館で基準値の3700倍のレジオネラ属菌が検出された事件で、保健所の抜き打ち検査により温泉旅館の虚偽報告が覆えされたことが報じられている。このように抜き打ち検査は極めて有効性が高い検査手法であり、行政の現場ではしばしば用いられているにもかかわらず、企業における内部監査では一部の業種()や内部監査の水準が高い企業を除き、それほど普及しているとは言えないのが現状だ。

 銀行、貸金業、小売業、古物買取業、パチンコ業など多額の現金を扱う業種における現金実査やメーカー、建設業における現場での安全面の検査など、内部監査において抜き打ち検査のチェックが広く行われている業種はあるものの、業種に偏りがあることは否めない。

現金実査 : 金庫内の紙幣や硬貨を数えて実際在り高を求め、それと帳簿残高を比較すること

内部監査で抜き打ち検査(以下、抜き打ち監査)が普及しない理由としてまず挙げられるのが、・・・

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2023/03/09 抜き打ち監査の実効性を高めるための方策(会員限定)

福岡県の温泉旅館で基準値の3700倍のレジオネラ属菌が検出された事件で、保健所の抜き打ち検査により温泉旅館の虚偽報告が覆えされたことが報じられている。このように抜き打ち検査は極めて有効性が高い検査手法であり、行政の現場ではしばしば用いられているにもかかわらず、企業における内部監査では一部の業種()や内部監査の水準が高い企業を除き、それほど普及しているとは言えないのが現状だ。

 銀行、貸金業、小売業、古物買取業、パチンコ業など多額の現金を扱う業種における現金実査やメーカー、建設業における現場での安全面の検査など、内部監査において抜き打ち検査のチェックが広く行われている業種はあるものの、業種に偏りがあることは否めない。

現金実査 : 金庫内の紙幣や硬貨を数えて実際在り高を求め、それと帳簿残高を比較すること

内部監査で抜き打ち検査(以下、抜き打ち監査)が普及しない理由としてまず挙げられるのが、許認可権限をバックに強制力をもって検査を実施できる行政と異なり、企業の内部監査では社内に“軋轢”をもたらす抜き打ち監査の手法を採用しにくいということである。抜き打ち監査に入られた側は、当初予定していた業務を放り出して監査対応に追われることになる。結果として何も発見できなければ、内部監査担当者への風当たりも強くなるであろう。内部監査は監査対象部門の積極的な協力がなければ遂行自体が困難であるため、内部監査担当者としても、あえて敵を作るような抜き打ち監査はやりたくないというのが本音と言える。

そこで、現場における内部統制を充実させておき、内部監査担当者は当該内部統制のエビデンス(証跡)を確認する(例えば、現金の金種表を毎日作成し、それを上司が確認後に押印するといった内部統制を構築しておき、内部監査では金種表に上司が押印していることを事後的に確認する)という内部監査手法が一般的に採用されている。

金種表 : 紙幣・硬貨の種類ごとの枚数が記された書類で、紙幣や硬貨を数えた後に作成される。

また、抜き打ち監査時に目的の書類をすべて確認しようとしても、書類が十分に整理されていない、あるいは既に倉庫に移動させてしまった書類があるといった理由から、手待ち時間が発生しがちだ。“抜き打ち”である以上、アポイントも取らないため、会議室が空いてなかったり、キーマンが外出していたり休暇を取っていたりすることもある。このように抜き打ち監査には手間がかかることも、内部監査で抜き打ち監査が普及しない理由となっている。

結局、内部監査部門は、抜き打ち監査をせずに、監査対象部門と日程を調整のうえ、キーマンのアポを取り、必要資料をすべて会議室に集めてもらい、準備万端の状態で往査するといった段取り(以下、予告監査)に依存する傾向にある。

往査 : 監査対象会社の本社、営業所、工場などに監査の一環で赴くこと。

環境の変化もその傾向に拍車をかけている。まず、昨今はビジネスの現場で現金取引が減少しており、それに伴い事業所における現金残高も減少しているため、現金の横領の発見を目的とした抜き打ち監査のニーズが減った。また、高機能カメラやハードディスクの価格低下により、カメラを多数設置し録画データを長期間保存できるようになったため、抜き打ち監査の代わりに、換金可能な在庫を遠隔監視することが容易となった。さらに、特にコロナ禍以降は紙の書類が減り、各種報告(業法上必要とされる書類、注文書、注文請書、日報や週報、稟議書、事故報告書、プロジェクト進捗報告書など)のほとんどが電子化されたため、以前は現場に行かなければ見ることができなかった現場保管の書類も、本社にいながら閲覧できるようになった。それに加えて、電子帳簿保存法への対応によるエビデンスのスキャナー保存やコロナ禍でリモート会議ツールが普及したためリモート監査が増えているが、そもそもリモート監査は抜き打ちでは実施できず、どうしても予告監査となってしまう。

しかし、予告監査が常態化すると、監査対象部門が緊張感をなくして「内部監査が見に来る時だけルール通りに業務をやっておこう」といった発想に陥りがちになる。また、現場の内部統制には本社の目が届きにくいことから、現場の責任者によって運用を変えられてしまうリスクもある(上述した金種表の例では、上司が1か月分まとめて押印するなど内部統制が骨抜きにされてしまう)。さらに、予告監査では、不正実行者に隠ぺい工作をする時間的猶予を与えてしまう。その結果、予告監査で見つかるのはせいぜい「判子の漏れ」などいわゆる軽微な誤謬程度となりがちだ。結論として、内部監査の存在が良い意味で現場に緊張感をもたらすためには、いかなる業種であっても抜き打ち監査は不可欠と言えよう。

「我が社は抜き打ち監査を実施している」と胸を張る企業であっても、よくよく話を聞くと、抜き打ち監査を実施するのは不正を告発する内部通報があった時だけということも少なくないが、これには二つの問題がある。まず一つ目の問題として、そのようなルールが浸透すれば、「抜き打ち監査があった」イコール「内部通報があった」を意味することになり、内部通報者の探索をされかねないとして通報に踏み切れない者が出てくる()。二つ目として、内部通報がない限り内部監査担当者が抜き打ち監査を実施する機会がないため、内部監査担当者が抜き打ち監査に習熟しにくくなるという問題もある。抜き打ち監査を成功させるには、監査の段取りが重要となってくる。内部監査担当者が抜き打ち監査に習熟するためにも、内部通報の有無にかかわらず抜き打ち監査の頻度を高める必要がある。

 【失敗学第97回】大東建託の事例が参考になるので、以下再掲する。
『大東建託には内部通報制度があり、年間300件を超える利用がありました。しかし、内部通報制度の運用は支店におけるコンプライアンス案件の発見に主眼が置かれていました。X氏の会計操作を認識していた経理担当者は、内部通報制度を利用すると業務の特殊性から通報の存否や通報内容が社内に知られてしまうと考え、利用に至りませんでした。普段から内部監査が経理に対しても抜き打ち調査をしていたのであれば、内部通報時にも抜き打ち調査のテイで通報対応できた(内部通報の存否がばれない)はずであり(調査報告書10ページ参照)、他社でも参考にしたいところです。』

また、抜き打ち監査の実施にあたっては「聖域を作らない」ようにしなければならない。例えば、工場や事業所だけでなく、本社管理部門も内部監査の対象から外さないようにすべきである。その方が公平感があるだけでなく、不正は往々にして“聖域”から起こるからだ。

内部監査担当者のスキル向上も欠かせない。経理・財務の知識が乏しい者に経理財務部門への内部監査を任せることはできないのは言うまでもない。人事総務部門への内部監査でも同様のことが言える。

それに加えて、抜き打ち監査に伴う内部通報担当者への風当たりを弱めるために、社長が社内に対して「内部監査では抜き打ち監査も恒常的に実施していく」という強い意志を繰り返し表明しておくべきだ。経営者の強いリーダーシップと内部監査担当者のリスキリングの合わせ技で、実効性のある抜き打ち監査が可能となり、全社的なコンプライアンスのレベルは間違いなく向上することになろう。

2023/03/08 ESG評価でCEOの報酬制度に「0点」続出、自社の役員報酬制度におけるKPIの再考を

近年、企業のESG関連情報の収集、分析、評価等を行い、機関投資家に提供するESG評価機関・データプロバイダが急増しているが、その評価項目の一つが「CEOの報酬制度」だ。このCEOの報酬制度について「0点」がついてしまい、役員報酬担当が慌てるという事例が続出している。本来であれば、株主等から信任を得た自社の経営戦略指標の達成度が適切に役員報酬に反映されている限り、それについて第三者からどのような評価を受けたとしても過剰に反応する必要はないはずだ。しかしながら、・・・

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2023/03/08 ESG評価でCEOの報酬制度に「0点」続出、自社の役員報酬制度におけるKPIの再考を(会員限定)

近年、企業のESG関連情報の収集、分析、評価等を行い、機関投資家に提供するESG評価機関・データプロバイダが急増しているが、その評価項目の一つが「CEOの報酬制度」だ。このCEOの報酬制度について「0点」がついてしまい、役員報酬担当が慌てるという事例が続出している。本来であれば、株主等から信任を得た自社の経営戦略指標の達成度が適切に役員報酬に反映されている限り、それについて第三者からどのような評価を受けたとしても過剰に反応する必要はないはずだ。しかしながら、この評価が近年注目度の高いESG分野における代表的なインデックス(指数)であるDJSI(Dow Jones Sustainability Index)のスコアにも影響が出るとあって、各社としても無視しがたいというのが実情となっている。

DJSI : 米国のS&P Dow Jones Indices社とスイスのRobecoSAM社が共同開発した投資家向けのインデックス。開発されたのが1999年と、ESGインデックスの中では最も古く、権威があるとされる。主要企業をESGの観点から評価し、総合評価の高い企業がDJSI銘柄に選定される。

DJSIはCEOの報酬について「Success Metrics」という評価基準を設定している。その概要(仮訳)は概ね以下のようなものである。

□ 自社は、CEOの変動報酬に対して、予め定められた財務リターン指標(※1)、および/または相対評価による財務指標(※2)を適用しています(該当する場合にはチェックを入れる)

※1:財務リターン指標とは、ROAROEROIC等を指す。本設問においてDJSIは、売上成長(revenue growth)、税引き後利益(net profit after taxes)、1株当たり利益(EPS)、1株当たり配当(dividends per share)を評価しない(“do not accept”)。P/L指標をB/S指標で除す(たとえばROEはP/Lの利益をB/Sの株主資本で除して算定する)ことによって評価を実施すべきであるとしている。
※2:相対評価による財務指標とは、ピアグループ(peers)との比較による評価を指し、TSRや、トービンのq、成長性の比較等を指す。

ROA : Return On Assets =総資産利益率(利益/総資産)。実務上、ROAの利益には「営業利益」もしくは「事業利益」を使うことが多い。これは、総資産に対応する利益は、営業利益あるいは事業利益であるという考え方による。
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)
EPS : 1株当たり利益(Earnings Per Share)のことで、「当期純利益÷発行済株式数」によって計算される。
ピアグループ : 同業種、同規模等の比較対象企業群
トービンのq : 米国の経済学者ジェームズ・トービンが提唱した指標で、株式市場で評価された企業の市場価値を資本の再取得価格(企業が所有する個別資産を時価評価したもの)で割った値。

したがって、CEOの変動報酬のKPIにおいてROA、ROE、ROIC等の指標の設定がなく、かつ、同業他社等との相対評価(TSR等)も実施していない、という場合には、DJSIによるスコアがその分下がってしまう可能性がある。近年は「DJSIにおいて一定の評価以上となること」を自社のサステナビリティ施策上の一つのゴールとしている企業も多く、その意味でも本件は社内で問題視される可能性が大いにある。

もちろん、ESGにおける“スコアメイク”は受験対策のようであり、本質を見失ってしまうという事態も懸念される。しかしながら、日本企業は従来から「経営陣がP/Lしか見ていない」との批判を受けることも多かったため、ROA、ROE、ROIC等、P/LとB/Sを組み合わせたリターン指標にフォーカスが当たること自体は近時の議論(例として、ROICスプレッドへの着目等)と整合している。自社の役員報酬制度におけるKPI選択について再考が必要な時期が来ていると言えそうだ。

ROICスプレッド : ROICと資本コストを比較した場合において、ROICと資本コストの差額が「ROICスプレッド」である(スプレッドとは「広がり」という意味)。ROICスプレッドがプラスである場合、それは企業価値の増加分を意味する。

2023/03/07 予算策定時には要注意 配当の効力発生日の設定次第で資金繰りに大きな影響

年度末が近づき、3月決算企業では来年度の予算がそろそろ固まりつつある時期だろう。来期(3月決算企業の場合、2024年3月期)の予算策定にあたっては、今年の10月に適用開始となる税制改正がグループの資金繰りに与える影響を織り込むことを失念しないよう注意したい。・・・

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2023/03/07 予算策定時には要注意 配当の効力発生日の設定次第で資金繰りに大きな影響(会員限定)

年度末が近づき、3月決算企業では来年度の予算がそろそろ固まりつつある時期だろう。来期(3月決算企業の場合、2024年3月期)の予算策定にあたっては、今年の10月に適用開始となる税制改正がグループの資金繰りに与える影響を織り込むことを失念しないよう注意したい。

その税制改正とは、100%子会社(自己の名義をもって有するものに限られる)および株式保有(直接保有)割合が3分の1超の会社(自己の名義をもって有するものに限られる。なお、その保有割合の判定は配当の基準日の一時点のみで行う)から配当を受ける際に、源泉徴収が不要になるというもの(所得税法177条)。この改正は2023年10月1日以降に支払を受けるべき配当から適用される。現在、非上場会社による配当には「20.42%」(所得税および復興特別所得税)の源泉徴収が必要とされている。その源泉徴収が「100%子会社および株式保有(直接保有)割合が3分の1超の会社からの配当」という限定付きとはいえ廃止されるとなると、一見「減税」されたように捉える向きもあるかもしれないが、それは誤解である。源泉徴収は税金の単なる前払いに過ぎないからだ。ただ、「受取配当金の益金不算入の制度」と「還付加算金の制度」を利用した“特典”を利用できなくなることには注意が必要となる。

まず受取配当金の益金不算入制度とは、子会社等からの配当については、法人税法上の所得の計算上、益金に算入しない()という制度である。この制度が適用されれば、配当金を受取っても、その分の税金は増えないことになる。

 配当金の益金不算入割合は配当を行う会社に対する持株比率に応じて異なる。株式会社を前提にすると、100%子会社であれば配当金の全額を益金不算入にできるが、株式保有割合が「3分の1超100%未満」の会社からの配当の場合、配当金から「その配当等の額に係る利子の額相当額」を控除する必要がある。株式保有割合が「5%超1/3以下」では配当金の50%しか益金不算入にできず、株式保有割合が5%以下となると、配当金の20%しか益金不算入にできない。

次に還付加算金とは、税金を還付する際のいわば利息のようなもので、国税の法定納期限等の翌日から還付金の支払を決定した日までの期間の日数に応じ、還付金の額に一定の割合()を乗じて計算され、納税者には還付金に加算して支払われる。

 当該割合は市中金利の実勢を踏まえ年々下がっており、現在(2023年2月)は0.9%となっている。

以上の「配当の源泉徴収」「受取配当金の益金不算入制度」「還付加算金」があわさって適用されることで、納税者(親会社)が“得”をするケースが出てくる。具体的には、親会社が赤字等により納税が不要という状況の場合、100%子会社から配当を受け取っても受取配当金の益金不算入制度により益金とならず(=納税も発生せず)、配当受領時に源泉された所得税を還付()してもらう際に還付加算金を得ることになる。低金利政策が長引く中、決して高利回りとは言えないものの、少なくとも銀行の利息よりは高い利回りを実現できる。

 源泉税は税金の前払いであるため、法人税の納付が不要な会社には還付されることになる。

これに物言いをつけたのが会計検査院だ。会計検査院が、100%子会社や株式保有割合が「3分の1超100%未満」の会社からの配当に対する源泉所得税相当額について還付加算金が発生していた880法人を対象に調査を実施したところ、還付加算金の支払額は、平成29年度9,988万円、同30年度1億1,931万円、令和元年度1億4,643万円の計3億6,563万円となっていた。会計検査院は、こういった還付加算金は無駄なコスト(税収の手取りを減らす上、法人側の徴収事務や税務署側の還付事務の負担が生じる)であるとして令和元年度決算検査報告で制度の見直しを求めていた(令和元年度決算検査報告の280ページを参照)。これを受け、令和4年度の税制改正で実現したのが、上述の100%子会社および株式保有(直接保有)割合が3分の1超の会社からの配当にあたっての源泉徴収の不要化である(本税制改正の趣旨については、財務省の税制改正の解説も参考にされたい)。

会計検査院 : 会計検査院は、国や政府関係機関等の会計検査を行うだけの機関と思われがちだが、税制改正においてもその“発言権”は大きい。会計検査院は、「会計経理に関し法令に違反し又は不当であると認める事項がある場合」には、本属長官等に対し意見表示等をすることができるとされ(会計検査院法34条)、これに基づき税制の問題点が指摘され、その結果、税制改正につながることが少なくない。

今秋に子会社からの配当を予定している親会社では、配当の効力発生日が「2023年9月30日まで」か「2023年10月1日以降」かで約20%も手取額が変わることになる。そもそも源泉でキャッシュを眠らせて僅か0.9%の利回りを目指すより、企業グループ外への資金流出を防いで少しでも高いROICを実現できる事業に資金を回すべきだろう。

そこで、配当の効力発生日を2023年10月1日以後にずらすことで配当の手取額をより多く確保し、それを資金予算に反映させることを検討しておきたい。

2023/03/07 G20/OECDコーポレートガバナンス原則が今月中にも確定、次回CGコード改訂に影響を与えそうな事項は?(会員限定)

G20/OECDコーポレートガバナンス原則(以下、OECD原則)の改訂プロセスが大詰めを迎えている。同原則はOECD(経済協力開発機構)が策定し、金融・世界経済に関する首脳会合(G20)が承認するもので、良いコーポレートガバナンスが金融市場の安定、投資および経済成長に貢献するとの考え方の下、世界中の政策担当者、投資家、企業およびステークホルダー(利害関係者)のための国際的ベンチマークとなることを目的としている。

OECD原則は1999年に策定されて以来、2004年と2015年に改訂されており、現在、3回目の改訂が進められている。既にOECDは昨年(2022年)9月19日に改訂案を公表、10月21日を期限とするパブリックコンサルテーションを実施済みであり、今月中にも最終案が確定するものと見られる(G20の承認は今年(2023年)の第3四半期となる予定)。昨年9月の改訂案からいくつかの変更点はあったとしても、大きな方向性は最終案でも維持されるだろう。

我が国のコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)はOECD原則を踏まえて策定された。「日本再興戦略 改訂2014-未来への挑戦-」では、「コードの策定に当たっては、東京証券取引所のコーポレートガバナンスに関する既存のルール・ガイダンス等やOECDコーポレートガバナンス原則を踏まえ、我が国企業の実情等にも沿い、国際的にも評価が得られるものとする」とされており(30ページ①の2段落目参照)、OECD原則の改訂は引き続き日本のCGコードにも重要な示唆を与えるものと考えられる。

2015年に改訂された現在のOECD原則は以下の6つのパートにより構成されている。我が国のCGコードと対照すると、Ⅱが「第1章:株主の権利・平等性の確保」、Ⅳが「第2章:株主以外のステークホルダーとの適切な協働」、Ⅴが「第3章:適切な情報開示と透明性の確保」、Ⅵが「第4章:取締役会等の責務」に相当し、我が国のCGコードが構成上もOECD原則に強い影響を受けていることが分かる。なお、Ⅲに対応するのが日本版スチュワードシップ・コードである。

2015/9改訂後のOECD原則
I.  有効なコーポレートガバナンスの枠組みの基礎の確保
II. 株主の権利と公平な取扱いおよび主要な持分機能
III. 機関投資家、株式市場その他の仲介者
IV. コーポレートガバナンスにおけるステークホルダーの役割
V.  開示及び透明性
VI. 取締役会の責任

現行のOECD原則に対し、昨年9月に公表された改訂案においては以下の通り「Ⅳ.コーポレートガバナンスにおけるステークホルダーの役割」が削除され、代わりに「Ⅵ.サステナビリティとレジリエンス」のパートが新設された。気候変動問題や人的資源などサステナビリティ課題に対する意識の高まり、また、新型コロナウイルス感染症やウクライナ侵攻などに対するレジリエンスの必要性から、Ⅳを“発展的に”拡充したものと言えよう。

レジリエンス : 気候変動等の悪影響に対する脆弱性を減らしつつ、事業の“復元力” や“しなやかな強靭さ”を持つことを意味する。

2022/9公表のOECD原則改訂案
I.  有効なコーポレートガバナンスの枠組みの基礎の確保
II. 株主の権利と公平な取扱いおよび主要な持分機能
III. 機関投資家、株式市場その他の仲介者
IV. 開示及び透明性
V.  取締役会の責任
VI. サステナビリティとレジリエンス(新設)

改訂案における変更部分のうち、日本のCGコード(あるいは、CGコードの付属文書である「投資家と企業の対話ガイドライン」)に影響を与える可能性があると考えられるのが以下の事項だ(当フォーラムが抽出)。2024年にも実施が見込まれるCGコード改訂に備え、取締役会等でも徐々に議論を始めておきたいところだ。

●バーチャルあるいはハイブリッドの株主総会は促進されるべき。ただし、全ての株主が参加する機会を確保できる方法でなければならない(Ⅱ)
●役員報酬の決定においてサステナビリティ指標を採用することは、経営陣に長期的な視点が伴っているのかを投資家が評価するうえで有用である(Ⅳ)
●取締役会はリスク管理のポリシーと実施をレビューする必要がある(Ⅴ)
●取締役会が重要な機能を遂行するためには、報酬や指名、リスク管理などの専門的な委員会によるサポートが有効である(Ⅴ)
●サステナビリティ情報の開示は一貫性があり、比較可能で、信頼性の高いものでなければならない(Ⅵ)
●サステナビリティ情報の重要性は、投資家による企業価値の評価に大きく影響するかどうかで判断すべき(Ⅵ)
●サステナビリティ情報は、独立した専門機関により、国際的な基準に準拠した保証を受けることが望ましい(Ⅵ)

2023/03/06 G20/OECDコーポレートガバナンス原則が今月中にも確定、次回CGコード改訂に影響を与えそうな事項は?

G20/OECDコーポレートガバナンス原則(以下、OECD原則)の改訂プロセスが大詰めを迎えている。同原則はOECD(経済協力開発機構)が策定し、金融・世界経済に関する首脳会合(G20)が承認するもので、良いコーポレートガバナンスが金融市場の安定、投資および経済成長に貢献するとの考え方の下、世界中の政策担当者、投資家、企業およびステークホルダー(利害関係者)のための国際的ベンチマークとなることを目的としている。

OECD原則は1999年に策定されて以来、2004年と2015年に改訂されており、現在、3回目の改訂が進められている。既に・・・

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