イーロン・マスク氏は1月14日、「ISSやグラス・ルイスといった議決権行使助言会社に権力が集中し過ぎている。事実上、株式市場を支配している」とツイートし、話題を読んだ。これは、米国の株式市場の現状を嘆いたものだが、実は日本も例外とは言えない状況にある。
周知のとおり、議決権行使助言会社(以下、助言会社)とは、機関投資家から対価を得て、株主総会における議決権行使について「賛成」あるいは「反対」の推奨という形の助言を行う企業である。日本の株式市場も、ISS(Institutional Shareholder Services)とグラス・ルイスの2社による寡占状態となっているが、その2社の活動に対し、多くの日本企業から不満の声が上がっている。
そもそもの背景としては、パッシブ・インデックス運用を行うファンドが増加したことに伴い、多数の株式銘柄を保有する機関投資家が全保有銘柄の議案を精査したうえで議決権を行使することが困難となり、助言会社を活用せざるを得ないという事情がある。国際的な認知度のある助言会社の推奨に従ったとなれば、年金基金等のアセットオーナーへの説明もつく。こうして、実質的に相当数の議決権行使が委ねられる助言会社の株式市場における存在感が高まっているというわけだ。
パッシブ・インデックス運用 : 東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法のこと。パッシブとは「消極的な」という意味である。パッシブ運用に対し、銘柄を選別し、魅力のある銘柄を購入する一方で、見劣りする銘柄を売却するなどして利益を得ようとする投資手法がアクティブ運用である。
しかし、助言会社の存在感の高まりとともに、企業側の不満は増してきている。
企業が抱く第一の不満が、助言会社の推奨内容が“事実誤認”とも言える判断に基づいている場合があるということである。賛否推奨の対象となる企業が異議の申し立てや対話をしようにも、助言会社側が聞く耳を持たないといった指摘もある。
二つ目が、推奨内容が形式的かつ画一的なものになっているということである。推奨にあたっては、個々の企業が持つ背景や実情を考慮する必要があるはずだが、企業側からは「そうはなっていない」との声が上がっている。
三つ目が「利益相反」への疑念だ。ISSは子会社に投資判断をサポートするコンサルティング会社を持つため、推奨内容が歪められる可能性を指摘する声はかねてから存在している。さらに、上記一つ目、二つ目の問題の根本的な原因として、助言会社の人的・物的リソースの不足も指摘されている。
以上のような状況を踏まえ、2017年に実施された(日本の)スチュワードシップ・コードの改訂では、助言会社の業務体制や利益相反管理、助言の策定プロセス等の取組みの公表(指針5-5参照)、2020年の再改訂では、①日本拠点の整備を含む人的・組織的体制の充実、②助言策定プロセスの透明性の確保、③企業との積極的な意見交換、の3点が新たに盛り込まれた(指針8-2~8-3参照)。両助言会社はスチュワードシップ・コードを受け入れているものの、「実態は変わっていない」との指摘があるのも事実であり、その意味では、現状、助言会社を律するものは何もないとも言える。
では、この現状を打破する解決策はあるのだろうか。機関投資家が自らリソースを割き、個別に精査したうえで議決権を行使すること、あるいは助言会社が体制を充実させ、企業との対話をよりきめ細やかに行ったうえで助言を行うことなどが考えられるが、これまでの経緯や現状を踏まえると、これらはまだまだ理想論に過ぎない。
“現実解”として、筆者は大きく三つの方向性があると考える。
一つ目は規制強化である。例えば、金融商品取引法で議決権行使助言会社を当局の監督下に置く、あるいは、オーストラリアのようにライセンス制とし、ライセンスを付与する条件として情報開示の充実等を課すといったことが考えられる。ただし、このような規制強化を実現するハードルは高く、また、強い規制を課すことによって、助言会社が日本市場から撤退してしまうことも想定される。
二つ目は、助言会社の影響力が増している根本的原因を取り除くことである。それは、機関投資家が助言会社に頼らなくてよい状況を作るということだ。そのためには、英国のように機関投資家の業界団体が議決権行使のガイドラインを出すなど、個々の機関投資家の活動をサポートすることも一案であろう。ただし、日本の大量保有報告制度上、たとえ単独での保有割合が5%以下でも、「保有者との間で、共同して株主としての議決権その他の権利を行使することを合意している者」がいる場合には当該「共同保有者」の保有割合も合算する必要があり、大量保有報告書の提出が求められるケースが出てくる恐れがあることなどから、この案の実現は難しいとの指摘もある。
大量保有報告制度 : 市場の透明性・公正性を高め、投資者保護を図ることを目的として、株券等の大量保有者に対し「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出を義務付ける金融商品取引法上の制度。具体的には、①保有割合が5%超となった場合、②その後、保有割合が1%以上増減するなど重要な変更があった場合、それぞれ提出事由が生じた日から5営業日以内に「大量保有報告書(or変更報告書)」の提出が求められる(②の場合に提出するのは「変更報告書」)。
三つ目は、ソフト・ロー的な規制によって外堀を埋めていくことである。助言会社に対し、スチュワードシップ・コードへの「コンプライ・オア・エクスプレイン」の徹底をはかりつつ、ESGを評価する側に説明責任を問う「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範」(同規範の詳細は2022年11月22日のニュース「速報 ESG評価・データ提供機関の行動規範案の修正事項」参照)の対象であるとし、受け入れを求めることも考えられる。
これまで述べてきたように、助言会社を巡る問題は複雑に絡み合っており、現状では特効薬はない。しかし、静観していてよい問題でもないため、規制当局や機関投資家の協力の下、解決に向けて動きだす時が近づいていると言えよう。