2022/08/30 CGコードの成果に対する企業と規制当局の認識のギャップ(会員限定)

周知のとおり、今年(2022年)5月には、金融庁・東証が主催するスチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議が、コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の再改訂後の中間点検を実施している。5月16日に開催された第27回会合で金融庁は、2021年6月に実施されたCGコードの再改訂を受け「各企業におけるガバナンス改革の取組みは一層進展している」と評価し、その例として、2022年4月時点でプライム市場上場企業の8割超が3分の1以上の独立社外取締役を選任したことなどを挙げた(事務局資料2ページ参照)。また、上場企業へのヒアリングの結果、取締役会の審議の充実・中長期的な経営戦略の議論の深化によって企業経営に良い影響が生じているとの声が聞かれたことを紹介、「ガバナンス改革の方向性及び有効性は広く支持されている」との見解を示している(同17ページ「コーポレートガバナンス改革への主な評価」参照)。

一方、同会合に提出された経団連の意見書「再改訂コーポレートガバナンス・コードの実効性の向上」は、CGコードの課題として、持続的成長に寄与できているのか(2ページ「(3)ガバナンス・コードの課題」参照)、企業・投資家を形式主義に陥らせていないか(3ページ参照)、といった点を指摘している。また同意見書では、企業からの「ガバナンス・コードが成果をもたらしたとの実感が得にくい」(3ページ上から2行目参照)、「昨年の再改訂では、細則化する項目への対応の負担感に加え、必要性に関して必ずしも納得が得られていない項目がある」「企業が適切と考える経営体制と、ガバナンス・コードで求められる内容に合致しない部分がある場合、企業の戦略実施を阻害しているとの受け止めもある」といった批判的な声も紹介している(3ページ「② 企業・投資家を形式主義に陥らせていないか」参照)。投資家に対しては、「依然として、ガバナンス・コードの規定にコンプライかどうかによる形式的判断もある」との指摘もあった(3ページ下から4行目参照)。こうした企業の声を踏まえ同意見書では、成長戦略の一環として策定されたガバナンス・コードがその目的の通り企業の中長期的成長を促すためには、企業価値の向上に向けた企業と投資家の建設的対話の促進が不可欠とし、そのためには、「責任ある機関投資家」の諸原則として2014年に策定され2020年に再改訂されたスチュワードシップ・コードの適切な運用が必要であるとしている(4ページ「(2)スチュワードシップ・コードの実効的な運用の確保」、5ページ「(3) 政府・企業・投資家その他市場関係者による認識の共有」参照)。

このように、改訂CGコードを巡る規制当局と企業側の評価が必ずしも一致しているとは言えない中、7月には、経済産業省に設置された(第3期)コーポレート・ガバナンス・システム研究会(以下、CGS研究会)が「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」を改訂している(改訂版に関する資料一式はこちら。改訂の全体像はWEBセミナー「CGSガイドラインの改訂について」参照)。改訂CGSガイドラインは、経営の一元的な責任を負う社長・CEO ら経営陣、執行機能の強化を主眼に置いており、経営者のアントレプレナーシップと、スピード感を持ったリスクテイクを促している。同ガイドラインは自社の取り組みを再確認するきっかけとなろう。

コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン) : CGコードの主要原則を実践するための実務指針

また、現在企業の注目を集めているのが、機関投資家・専門家のグローバル組織であるICGN(国際コーポレートガバナンスネットワーク=International Corporate Governance Network)が10月に東証の協力を得て開催するシンポジウムだ。このシンポジウムでは、昨年のCGコードの再改訂と、今年4月のプライム市場発足の後、日本企業が持続的な企業価値の向上を実現できているか、投資がいかにそれに貢献していくかがテーマであり、既に満席となっている。ロシアのウクライナ侵略など地政学的なリスク、カーボンニュートラル社会の構築をはじめ、激変する経営環境の中で、企業側が、持続的な企業価値向上に向けた投資を促すイニシアチブに期待していることの表れだろう。こうした中、CGコードへの取り組みについては、企業、投資家、規制当局それぞれがチェック・ザ・ボックス(コンプライしているかどうか)ではなく、真に持続的な成長に寄与しているのかとの観点で評価、検証する時期に来ていると言えそうだ。

ICGN : グローバル機関投資家や年金基金などが参加する団体であり、ICGNの意見はグローバル投資家の意見を最も色濃く反映していると考えられている。

2022/08/29 “分配”を重視してきた「新しい資本主義」の変容

役員報酬コンサルティングなどの世界的権威であるウイリス・タワーズワトソンの調査によると、2021年度における日本企業のCEOの報酬が初めて2億円を突破した(売上高1兆円以上の企業の中央値)。コロナ禍からの業績回復もあり、昨年度の落ち込み以上に報酬を増額したことが要因だという。ただ、それでもなお、米国企業の16億円をはじめとする欧米企業のCEO報酬額とは大きな開きがある。

古今東西、報酬は世間の関心を集めやすいテーマである。欧米においては、例外なくメディアが「高過ぎる報酬」について疑問を投げかけ、株主や従業員もこれに追随し、社会正義を問う論調になっていくという展開が一般的だ。これに対し日本は欧米と異なり、役員の報酬水準の是非について“双方向”のリアクションが見られる。

一つは・・・

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2022/08/29 “分配”を重視してきた「新しい資本主義」の変容(会員限定)

役員報酬コンサルティングなどの世界的権威であるウイリス・タワーズワトソンの調査によると、2021年度における日本企業のCEOの報酬が初めて2億円を突破した(売上高1兆円以上の企業の中央値)。コロナ禍からの業績回復もあり、昨年度の落ち込み以上に報酬を増額したことが要因だという。ただ、それでもなお、米国企業の16億円をはじめとする欧米企業のCEO報酬額とは大きな開きがある。

古今東西、報酬は世間の関心を集めやすいテーマである。欧米においては、例外なくメディアが「高過ぎる報酬」について疑問を投げかけ、株主や従業員もこれに追随し、社会正義を問う論調になっていくという展開が一般的だ。これに対し日本は欧米と異なり、役員の報酬水準の是非について“双方向”のリアクションが見られる。

一つは欧米と同じく、大企業のトップだけ報酬が上がり続けることによる格差拡大の懸念である。確かに、1億円以上の役員報酬の個別開示が始まった2010年当時においては、個別開示対象者の人数は300人程度にすぎなかったが、直近の2021年では1000人にも迫ろうとしている。多くの企業が横並びで報酬改定を行ってきた結果、この10年余りで“1億円の壁”を超えることへの役員の心理的ハードルは相当低くなったことが伺える。この間、一般授業員の賃金は年率2%前後でしか上がっておらず、昨今では国際比較における従業員報酬の低さそのものが“安いニッポン”の象徴にすらなっている。格差は欧米に比べてなお小さいものの、10年間続くこの傾向に世間が強い懸念を抱くのももっともだろう。

その一方で、「日本企業の役員報酬はまだまだ低い」という指摘も根強い。「日本企業はもっとリスクを取ってイノベーションを起こすべき」「次元の違う成長や価値創造にコミットすべき」「それを実現できるトップ人材をグローバルから登用すべき」というのが機関投資家の間では支配的な意見であり、日本における一連のガバナンス改革の方向感もこれと軌を一にしている。実際、従業員とのバランスを意識するあまり「業績連動報酬や株式報酬をあまりたくさんもらうと居心地が悪くなる」と考える経営者の事なかれ主義や“現状維持バイアス”が、大胆な発想やチャレンジ精神の妨げになっているのは事実だろう。

「配分」の側面、「成長の手段」の側面のいずれも、報酬のあり方を考えるうえで重要な視点ではある。ただ、両者の関係は脆く、成長への道筋が見えなければ、分配のフェアネスの問題だけが直ちに先鋭化することになる。そうなれば、“悪平等”に向かって役員報酬の進化にもブレーキがかかる。しかし、資本市場は、大きな業績連動報酬に見合う戦略目標を遂行しなければならないというストレスに耐えて成果を出すリーダーを求めている。従業員の中にも、たとえ自社のトップの報酬がケタ違いに高かろうが、むしろ会社を違う次元へと成長させ、ひいては自分の報酬も引き上げてくれる強いリーダーシップに共鳴する者は少なくないはずだ。

岸田首相も就任当初は「分配無くして成長なし」として分配政策をかなり強調していたが、有識者などの意見を踏まえ次第にトーンダウンし、6月7日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」はほぼアベノミクスと変わらない“成長重視”の中身になっている。そして、次元の違う成長を実現するためには、「成長推進のインセンティブ」として徐々に報酬を上げていく従来のやり方では限界があるのは明らかだろう。能力の高さに見合った欧米企業並みの高額報酬を得るCEOの登場が待たれるところだ。

2022/08/26 【失敗学第98回】東京産業の事例(会員限定)

概要

機械商社の東京産業(東証プライム市場に上場)で架空の売上・仕入が計上されていた(2022年3月期は売上高が651百万円過大となっていた)。

経緯

東京産業が2022年7月28日に公表した「特別調査委員会の調査報告書」(以下、調査報告書)等によると、一連の経緯は次のとおり。

2022年
1月17日:東京産業に東京国税局による税務調査が入る。
4月下旬:東京産業は東京国税局より売上の一部に疑義がある旨の指摘を受け、社内調査を開始する。
5月13日:東京産業は決算発表を行う。
5月26日:東京産業は特別調査委員会を発足させる。
5月30日:東京産業は、特別調査委員会による調査が開始されたことから決算関連手続きの完了に時間を要することになったとして、6月29日に開催する予定であった定時株主総会の継続会の開催方針につき取締役会で決議を行い、リリースを行う。
7月29日:東京産業は「2022年3月期有価証券報告書および過年度の有価証券報告書等の訂正報告書の提出、並びに2022年3月期決算短信の訂正に関するお知らせ」をリリースするとともに、定時株主総会の継続会を2022年9月21日に開催することをリリースする。

内容・原因・改善策

東京産業が2022年7月28日に公表した「特別調査委員会の調査報告書」(以下、調査報告書)によると、調査により判明した事実ならびに原因および改善策は次のとおりとされている。

架空売上および架空仕入
内容 東京産業の営業第三本部プラントインフラ機器部国際インフラ課所属のX氏は、計上根拠の確認できない売上を計上するとともに、架空仕入を計上していた。
原因 動機
(架空売上の計上)
・X氏は取引の赤字を隠して案件を成功裏に進めたかった。
・X氏は取引先との関係を良好にして更なる案件獲得につなげるため、たとえ赤字案件が生じても販売価格の上乗せ交渉をせずに、架空売上の計上や原価の付替などにより赤字を糊塗していた。また、社内では赤字案件を忌避する風潮が強かった。
(架空仕入の計上)
・赤字案件が発生しそうな場合、いったん別の取引先に立替払いを依頼し、当該別の取引先に対しては、後日別案件に関する原価であるかのようにして支払って、補填していた。
・X氏は自分自身や配偶者などに対し資金を流出させたかった。

機会
・X氏は、いわゆる“問題社員”で、提出すべき書類の大幅な期限徒過、業務関連の報告の遅滞から、そもそも上司からの電話に出ないといったレベルに至るまで、多くの問題行為が確認されていた。X氏の直属の上司であるH氏はX氏に対し指導や叱責を行ったものの、それでもなおX氏は問題行為を根本的に改めることはしなかった。その背景には、X氏が開発した事業が特殊でX氏へ依存せざるをえなかったこと(案件の属人化)、X氏が特定の役員との結びつきを強く持っていたことから、直属の上司に対する報告を意図的に省略する等、適切な指揮命令系統を無視した行動をとることが事実上許されていたことがある。また、X氏は直属の上司であるH氏の決裁が必要な書類も、あえて提出期限を無視して可能な限り提出を遅らせ、なおかつ取引先の事情があると偽って迅速な決裁を依頼することで、H氏が急いで決裁せざるを得ない状況に持ち込み、チェックをすり抜けるといった工作を行っていた。
このような環境の中で、X氏の課内での立場は聖域化しており、その結果として、真正でない書類による取引申請、必要書類なしでの取引申請、直属の上司への報告の懈怠などの手段により本件架空取引等が実行しやすく、またその露見を防ぐ形になったものといえる。
・東京産業には、各営業担当者が自己の案件に一貫して責任を負う「ひとり商人」文化(社風)があった。これは、各担当者の責任感や取引先への積極的な姿勢につながるといったメリットがある一方で、不正が起きやすい環境となっていた。
・東京産業の役員は管理・統制面についてのリスク感度が低かった。
・東京産業では現場部門に内部監査の指摘を軽んじる風潮があった。

再発防止策 ・社内へのコンプライアンスに対する意識の周知・徹底
・組織的な統制、管理のための仕組みづくり
・新規事業や複雑性の高い事業のサポート
・役員のリスク意識の向上
・適正な決裁、チェックのための対応
・内部監査への対応の適正化
<この失敗から学ぶべきこと>

東京産業では、問題社員の業務が聖域化して、内部統制が効かない状況になっていました。その背景には、同社には各営業担当者が自己の案件に一貫して責任を負う「ひとり商人」文化なる社風があったことが指摘されています。そういった文化が根付いた背景には、当該文化が実際に業績の向上を実現させてきたという成功体験や自負があるだけに、仮に内部統制の観点から仕組みを変えようとしてもついトーンダウンしがちです。上場会社各社では、過去の成功体験に固執した結果、脆弱になっている内部統制が存在しないか、あらためて点検が必要と言えます。

また、東京産業では社内調査がスタートしてすぐに決算発表を行っています。本来であれば、全容が判明するまでは決算発表の延長を行うべきでした。決算発表間際の不祥事発覚時には、決算発表時期の延期の要否を必ず検討すべきです。

2022/08/25 【2022年7月の課題】経営層におけるジョブ型人事制度(会員限定)

ボードの性格で変わる「経営層にジョブ型人事制度を導入する必要性」

ジョブ型人事制度とは、多くの日本企業が採用しているメンバーシップ型人事制度(長期雇用を前提とし、個人の能力に応じて処遇を行う仕組み)と異なり、自社に必要な職務を定義したうえで、その職務に応じて処遇を行う制度のことです。ジョブ型人事制度は、従業員層のみならず経営層(役員)に対しても適用できるものであり、いずれに適用する場合も基本的な考え方は変わりません。例えばジョブ型人事制度が一般的となっている欧米企業では、ほとんどの場合、その適用にあたり「従業員層か、経営層か」という区分は設けられておらず、全社的にジョブ型人事制度が適用されています(ただし、部門の長たる職務(CXOなど)に従事する者が「Executive Member」等と取り扱われる例はあります)。

一方で、日本企業の人事制度は、経営層(役員)と従業員の間で明確な区分が設けられているケースがほとんどです。そのため、従業員層に対する処遇と役員に対する処遇を“別物”と取り扱うことが多く、従業員層のみに対してジョブ型人事制度を適用している企業も多くあります。今後、こうした企業においては、人事戦略の一貫性や、経営層に対してよりメリハリのある処遇をすべきという観点から、経営層へのジョブ型人事制度の導入は避けては通れない道となる可能性があります。

経営層に対してジョブ型人事制度を導入するにあたりまず検討する必要があるのが、自社における「経営層のあり方」です。一口に経営層と言っても、経営の監督機能を担う役員(主に社外取締役など)、業務執行を担う役員、そしてその両方を担う役員がいます。例えば自社の取締役会が、経営の監督機能に重きを置いたモニタリング・ボードであるならば、取締役についてはジョブ型人事制度を採用する必要性は低いでしょう。「執行の監督」という職務のみについて、その最大公約数を定義する意味は小さいからです。

モニタリング・ボード : 経営陣の監督を主たる役割・任務とする取締役会のこと。これに対し、業務執行におけるコンセンサスを形成する場としての取締役会が「マネジメント・ボード」である。

一方、経営の監督とあわせて業務執行を担う取締役や、業務執行のみを担う執行役員、執行役に対しては、ジョブ型人事制度が適しています。そこで本稿では、このような取締役や業務執行役(員)に対するジョブ型人事制度について考えてみます。

ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)作成のポイント

ジョブ型人事制度の要として、ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)があります。これは、自社に必要な職務を特定し、それぞれの職務の内容を明文化したものであり、経営層に対してジョブ型人事制度を導入する際にまず作成すべきものです。基本的には従業員層と同様の考え方で作成することになりますが、業務執行とあわせて経営の監督を担う取締役については、経営の監督に関する職務についても記載すべきでしょう。

また、ジョブ・ディスクリプションには、職務内容のみならず、必要とされる資質やスキル、経験などを含めて記載することがあります。そして、これらは、経営層のスキルマトリックスや人材要件と整合的であるべきです。むしろ本来、ジョブ・ディスクリプション、スキルマトリックス、人材要件は「自社が求める人材像」という観点から一体的に議論されるべきであり、議論の結果をそれぞれの媒体に落とし込むようにしましょう。

人材要件 : 自社の経営理念や戦略を踏まえ、自社に必要となる人材に求める経験、スキル、属性などを具体的に言語化したもの。人材要件を設定することで、中長期的な視点で自社に人材を可視化することができる。特に採用活動においては、人材要件が正確に設定できているかどうかがその成否のカギを握ることになる。人材要件に合う人物を採用できれば、採用後のミスマッチを防止できる可能性は高まる。

ジョブ型人事制度における採用・登用の考え方

ジョブ型人事制度においては、外部からの採用、内部からの登用を問わず、ジョブ・ディスクリプションに記載されている職務を担える人材を採用・登用することとなります。この点、基本的な考え方は従業員層と経営層で同様であるものの、取締役が対象となる場合には、その選任プロセスや、取締役会全体の中で必要とされるスキルなど、特有の検討事項があります。

まず、ジョブ型人事制度の適用の有無にかかわらず、取締役の選解任の場面では、透明性・客観性の高いプロセスの確立が求められます。この点からすると、ジョブ・ディスクリプションは取締役の選解任プロセスにおいて、ステークホルダーに対する説明材料として活用することが可能でしょう。ジョブ・ディスクリプションには職務内容や職務遂行に必要なスキル等が定義されているため、その定義に当てはまる人材を選任している、あるいは当てはまらないことが判明したため解任したという理由を明確に示すことができるからです。

一方、ジョブ・ディスクリプションに職務内容や職務遂行に必要なスキル等を明確に定義することで、人材採用・登用の柔軟性は低くなりがちです。本来、ジョブ型人事制度においては人材採用・登用の柔軟性は高くないものの、ジョブ・ディスクリプションに固執するあまり企業のカルチャーや求める人材像と大きなギャップを生む結果となれば本末転倒であるため、スキル等以外の面もチェックする選解任プロセスを確立する必要があります。

また、ジョブ・ディスクリプションに記載されたスキルに加え、「取締役会全体」の中で必要とされるスキルの有無も個別に検討する必要があります。すなわち、取締役会全体の機能を考えた場合にどのような人材が必要か、という視点を持つということです。もっとも、取締役会全体の中で必要とされるスキルは、企業の成長ステージ、経営戦略の方向性、他の取締役の持つ資質やスキルによって左右されるため、普遍的に定義することは非常に困難であり、ジョブ型人事制度とは切り離して検討する必要があります。

ジョブ型人事制度における職務の変更(異動)の考え方

経営層は、部門の長たる職務(CXOなど)を筆頭に、職務の規模が大きいケースがほとんどです。そのような経営層の職務の遂行に必要となるスキルや知識は専門性が高く、職務の変更(異動)を行うことはあまり現実的ではありません。もちろん、従業員と同様に、個人のキャリアパスの構築やCEOの後継者計画の一環などとして異なる職務を経験することも考えられますが、従業員層と比較すると限定的です。このような異動に関する論点は、経営層か従業員層かというよりも、職務の規模の大きさによるものと捉えた方が適切と言えるでしょう。

ジョブ型人事制度における昇格・降格の考え方

ジョブ型人事制度においては、ある部門で最上位の職務を担っている人材は、基本的にそれ以上昇格することはありません。一般的に日本企業では、同一の職務であったとしても昇格(例えば、常務執行役員から専務執行役員への昇格など)が可能とされていることと比較すると、この点はジョブ型人事制度の大きな特徴と言えます。ただし、さらに上位の職務がある場合、その職務に昇格することは考えられます。具体的には、CEOやCOO等の業務執行の長への登用という形での昇格です。

ジョブ型人事制度における「降格」は、経営層の処遇に対して最も大きな影響を与える要素となります。ジョブ型人事制度では、ジョブ・ディスクリプションの要件や職務内容を満たせない(と判断された)人材は、降格(下位の職務への異動または“外部”への転身の推奨)となるのが一般的です。

一方、多くの日本企業は、経営層を降格させることはあまり行っていません。これは、経営層を降格させたり従業員の身分に戻したりするということが、企業のカルチャーとして根付いていないことを示しています。見方を変えれば、一度役員に就任すれば、降格のリスクから逃れられるということを意味しているとも言えます。

したがって、ジョブ型人事制度を経営層に導入するということは、一部の既存の経営層にとっては大きな痛みを伴う改革ともなり得ます。しかし、従業員層より職務の規模や職責の大きい経営層の方がよりリスクを伴う厳しい環境に置かれるのは当然とも言えます。しかし、その「厳しさ」の裏側では、成果に対して十分に報いることができる仕組みが整っているべきであることから、経営層にジョブ型人事制度を導入する際には、報酬面についてもあわせて検討することが必要となります。

ジョブ型人事制度における報酬の考え方

では、ジョブ型人事制度における報酬制度とはどのようなものでしょうか。まず大きな特徴として、冒頭でも述べたとおり「職務」に対して報酬を設定するということが挙げられます。具体的には、職務毎に、他社との報酬競争力を意識しつつ、報酬額を設定することになります。逆に、日本企業に多く見られる役位別報酬テーブルなどによる報酬制度の運用はジョブ型人事制度にはフィットしません。

他社との報酬競争力の確認は、コンサルティングファーム、調査会社、金融機関などが保有するデータベースを活用した報酬ベンチマークによることが一般的ですが、国内企業を対象に職務別の報酬ベンチマークを行う場合には注意が必要です。というのも、日本では「役位序列」に基づいて報酬を定めている企業がほとんどであるため、「職務別」の報酬データが十分に有用とは言えないことが少なからずあるからです。例えばCFOについてベンチマークを行う場合、ベンチマークの対象となるCFOが副社長なのか、専務なのか、常務なのかといった役位により、報酬データが大きな影響を受ける可能性があります。そのため、職務に対する報酬競争力の根拠とするデータとしては適切ではない恐れがあります。したがって、当面の実務においては、他の国内企業の水準を確認することとあわせて、職務毎に報酬を設定している欧米企業のデータ(職務間格差のデータなど)を参考に自社の報酬水準を検討していくことになるでしょう。

報酬ベンチマーク : 競合他社で同様の仕事をする労働者に支払われている報酬を調査すること。自社の労働者に支払うべき給与の目安を決定するために行われる。

ジョブ型人事制度における評価の考え方

ジョブ型人事制度における評価に普遍的なものはなく、各社の報酬ポリシーを踏まえて検討されることになります。

ただし、ジョブ型人事制度においては、ジョブ・ディスクリプションに記載されている職務を担えるかどうかという観点での評価・判断は必須となります。評価の仕組みを構築する際にはこの点を踏まえることが重要です。

おわりに

経営層に対するジョブ型人事制度のあり方は未だ十分に議論されておらず、ここまで解説してきた内容も、今後ジョブ型人事制度に関する議論が進展する中でさらにアップデート、熟成されていくことになると考えられます。

もっとも、経営層(または従業員層)に対してジョブ型人事制度を導入することが、必ずしもすべての企業において有用であるとは限りません。自社の経営戦略や人事戦略、カルチャー等を踏まえて、本稿でも述べた導入のメリット、デメリットを十分に検討する必要があるでしょう。

2022/08/25 「ビジネスと人権」、サプライチェーン重視鮮明

いまや多くの上場企業が賛同し実現に取り組むSDGsの目標はいずれも「生きること」に関連しており、人権尊重の考え方がベースにある。しかし、残念ながら多くの日本の上場企業では、人権尊重に関する取り組みが十分に進んでいるとは言えないのが現状だ(2021年12月10日のニュース「上場企業における人権方針と人権デュー・ディリジェンス対応の実態」参照)。人権尊重への取り組みが進まない要因の一つに、具体的な取組方法の分かりづらさがある。当フォーラムでは【役員会 Good&Bad発言集】で5回にわたり「人権尊重への具体的な取組方法」について解説してきたが、そのベースとなる「国連指導原則」自体が抽象的であり、かつ和訳が読みにくいことも、企業による人権尊重への取り組みに遅れが生じている要因と言えよう。

SDGs : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。

【役員会 Good&Bad発言集】「ビジネスと人権」への対応(1)
【役員会 Good&Bad発言集】「ビジネスと人権」への対応(2)
【役員会 Good&Bad発言集】「ビジネスと人権」への対応(3)
【役員会 Good&Bad発言集】「ビジネスと人権」への対応(4)
【役員会 Good&Bad発言集】「ビジネスと人権」への対応(5)

このような状況を解消するため、・・・

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2022/08/25 「ビジネスと人権」、サプライチェーン重視鮮明(会員限定)

いまや多くの上場企業が賛同し実現に取り組むSDGsの目標はいずれも「生きること」に関連しており、人権尊重の考え方がベースにある。しかし、残念ながら多くの日本の上場企業では、人権尊重に関する取り組みが十分に進んでいるとは言えないのが現状だ(2021年12月10日のニュース「上場企業における人権方針と人権デュー・ディリジェンス対応の実態」参照)。人権尊重への取り組みが進まない要因の一つに、具体的な取組方法の分かりづらさがある。当フォーラムでは【役員会 Good&Bad発言集】で5回にわたり「人権尊重への具体的な取組方法」について解説してきたが、そのベースとなる「国連指導原則」自体が抽象的であり、かつ和訳が読みにくいことも、企業による人権尊重への取り組みに遅れが生じている要因と言えよう。

SDGs : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。

【役員会 Good&Bad発言集】「ビジネスと人権」への対応(1)
【役員会 Good&Bad発言集】「ビジネスと人権」への対応(2)
【役員会 Good&Bad発言集】「ビジネスと人権」への対応(3)
【役員会 Good&Bad発言集】「ビジネスと人権」への対応(4)
【役員会 Good&Bad発言集】「ビジネスと人権」への対応(5)

このような状況を解消するため、経済産業省に設置された「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」は2022年8月8日に「責任あるサプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン(案)」(以下、本ガイドライン案)を公表し、8月29日までパブリックコメントを募集している。

本ガイドライン案は「総論」と「各論」に分かれており、「総論」では人権尊重のための流れ(人権方針の策定→人権デュー・ディリジェンス(以下、人権DD)の実施→救済)と人権尊重の取り組みにあたって重視すべき考え方が示され、「各論」では「人権方針の策定」「人権DDの実施」「救済」それぞれについて詳説されている。また、本ガイドライン案では、直近で問題視されている事例が示され(例えば、「新型コロナウイルス影響下での労働環境の変化」(15ページ)や「紛争等の影響を受ける地域における考慮」(16ページ)や「技能実習生問題」(15ページ)など)、末尾には豊富なQ&Aもある。国連指導原則を難解と感じている企業は少なくないだけに、今後、本ガイドラインが日本企業における人権尊重の取り組みにおいて果たす役割は大きいだろう。本ガイドラインに法的拘束力はないが、企業の規模、業種等にかかわらず、日本で事業活動を行うすべての事業主が、本ガイドラインに則り、人権尊重に最大限努めるべきであるとされている。

人権方針 : 企業が人権尊重責任を果たすために、企業の内外に向けて表明するコミットメント(約束)。「企業のトップを含む経営陣で承認されていること」「企業内外の専門的な情報・知見を参照した上で作成されていること」「従業員、取引先、及び企業の事業、製品又はサービスに直接関わる他の関係者に対する「一般に公開されており、全ての従業員、取引先及び他の関係者30にむけて社内外にわたり周知されていること」「企業全体に人権方針を定着させるために必要な事業方針及び手続31に、人権方針が反映されていること」の5つの要件を満たす必要がある。
人権デュー・ディリジェンス : 企業が、自社・グループ会社およびサプライヤー等における人権への負の影響を特定し、防止・軽減し、取組の実効性を評価し、どのように対処したかについて説明・情報開示していくために実施する一連の行為のこと。
救済 : 人権への負の影響から生じた被害を軽減・回復することおよびそのためのプロセスのこと。

その分かりやすさに加え、本ガイドラインにおいて注目されるのは、本ガイドラインの名称が「責任あるサプライチェーンにおける」人権尊重のためのガイドライン、とされている点だ。これは、企業が「自社」「グループ会社」だけでなく、サプライヤー等(国内外のサプライチェーン(*1)上の企業及びその他のビジネス上の関係先(*2)をいう)における人権尊重にも責任を果たす必要があることを強調する趣旨であり、従来多用されていた「ビジネスと人権」というフレーズよりも具体性があることから、企業に責任を意識させる効果がある。本ガイドラインでも、「自社内で対応が完結するものではなく、各企業が協力して共に取り組むことによって初めて人権尊重責任を果たすことができる」という考え方が示されている(巻末のQ&AのQ4参照)。

*1 本ガイドラインにおいて、「サプライチェーン」とは、自社の製品・サービスの原材料や資源、設備やソフトウェアの調達・確保等に関係する「上流」と、自社の製品・サービスの販売・消費等に関係する「下流」を意味するものとされている(本ガイドライン案5ページ参照)。
*2 「その他のビジネス上の関係先」は、サプライチェーン上の企業以外の企業であって、自社の事業・製品・サービスと関連する他企業を指している。具体的には、例えば、企業の投融資先や合弁企業の共同出資者、設備の保守点検や警備サービスを提供する事業者等が挙げられる(本ガイドライン案5ページ参照)。

このほか、国連指導原則公表後の議論の進展を踏まえて、「強化された人権DD」(17ページ)の考え方が示されるとともに、「取引停止に関する『責任ある対応』の例」(20ページ)、「紛争等の影響を受ける地域からの『責任ある撤退』」(21ページ)など、取引停止や撤退など企業の社会的責任の果たし方の指針も具体的に示されている。

強化された人権DD : 紛争等の影響を受ける地域においては、人権侵害のリスクが高いことから、そのリスクの高さに応じて人権DDも強化された内容で実施すべきというもの。

今後パブコメが終了し、確定版が公表された時点で、人権をめぐるステークホルダーとの対話が活発化することが予想されるだけに、人権尊重への取り組みに未着手あるいは道半ばの上場企業は、まず本ガイドライン案を精読し、早期に人権方針を策定するとともに、人権DDを一巡させ、救済措置を設けておくべきだろう。

2022/08/24 プライム市場&スタンダード市場、CGコードのコンプライ状況とコンプライ率の高・低の理由

東証は2022年8月3日に「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況」を公表している。本稿では、プライム市場上場会社とスタンダード市場上場会社それぞれのコンプライ状況、コンプライ率の高・低の理由などを分析する(同資料の詳細な解説はWEBセミナー「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況~プライム市場向け原則等を中心に~」参照)。

同資料は、今年6月の定時株主総会後、7月14日までに上場会社が提出したコーポレートガバナンス報告書に基づき、コーポレートガバナンス・コードの各原則への対応状況をまとめたもので、前回公表された12月末時点の対応状況との比較とともに「全原則のコンプライ状況」の一覧表が掲載されている。

プライム市場上場会社とスタンダード市場上場会社別のコンプライ状況の概要は以下となっている。全般的にプライム市場上場会社の方がスタンダード市場上場会社よりもコンプライ率が高い。また、いずれの市場においても、開示14原則の平均コンプライ率は全83原則の平均コンプライ率よりも低くなっている。

開示14原則 : 原則1-4(政策保有株式)、原則1-7(関連当事者間の取引)、補充原則2-4①(中核人材の登用等における多様性の確保)、原則2-6(企業年金のアセットオ-ナ-としての機能発揮)、原則3-1(情報開示の充実)、補充原則3-1③(サステナビリティについての取組み等)、情報開示の充実補充原則4-1①(経営陣に対する委任の範囲)、原則4-9(社外取締役の独立性判断基準及び資質)、補充原則4-10①(独立した指名委員会・報酬委員会の設置による独立社外取締役の適切な関与・助言)、補充原則4-11①(取締役会の多様性に関する考え方等)、補充原則4-11②(取締役・監査役の兼任状況)、補充原則4-11③(取締役会の実効性評価)、補充原則4-14②(取締役・監査役に対するトレ-ニングの方針)、原則5-1(株主との建設的な対話に関する方針)

● 対象会社数はプライム市場1,837社(前回1,838社)、スタンダード市場1,456社(同1,475社)
● 全83原則の平均コンプライ率はプライム市場が96.5%、スタンダード市場が89.0%、開示14原則ではプライム市場が92.0%、スタンダード市場が80.2%
● コンプライ率が100%だった原則の数は、プライム市場で15原則、スタンダード市場で10原則
● コンプライ率が90%未満だった原則の数は、プライム市場で11原則、スタンダード市場で14原則
● 最も低いコンプライ率は、プライム市場では62.6%(補充原則3-1③)、スタンダード市場では15.7%(補充原則1-2④

プライム市場上場会社の平均コンプライ率が低い原則のトップ5は・・・

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2022/08/24 プライム市場&スタンダード市場、CGコードのコンプライ状況とコンプライ率の高・低の理由(会員限定)

東証は2022年8月3日に「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況」を公表している。本稿では、プライム市場上場会社とスタンダード市場上場会社それぞれのコンプライ状況、コンプライ率の高・低の理由などを分析する(同資料の詳細な解説はWEBセミナー「コーポレートガバナンス・コードへの対応状況~プライム市場向け原則等を中心に~」参照)。

同資料は、今年6月の定時株主総会後、7月14日までに上場会社が提出したコーポレートガバナンス報告書に基づき、コーポレートガバナンス・コードの各原則への対応状況をまとめたもので、前回公表された12月末時点の対応状況との比較とともに「全原則のコンプライ状況」の一覧表が掲載されている。

プライム市場上場会社とスタンダード市場上場会社別のコンプライ状況の概要は以下となっている。全般的にプライム市場上場会社の方がスタンダード市場上場会社よりもコンプライ率が高い。また、いずれの市場においても、開示14原則の平均コンプライ率は全83原則の平均コンプライ率よりも低くなっている。

開示14原則 : 原則1-4(政策保有株式)、原則1-7(関連当事者間の取引)、補充原則2-4①(中核人材の登用等における多様性の確保)、原則2-6(企業年金のアセットオ-ナ-としての機能発揮)、原則3-1(情報開示の充実)、補充原則3-1③(サステナビリティについての取組み等)、情報開示の充実補充原則4-1①(経営陣に対する委任の範囲)、原則4-9(社外取締役の独立性判断基準及び資質)、補充原則4-10①(独立した指名委員会・報酬委員会の設置による独立社外取締役の適切な関与・助言)、補充原則4-11①(取締役会の多様性に関する考え方等)、補充原則4-11②(取締役・監査役の兼任状況)、補充原則4-11③(取締役会の実効性評価)、補充原則4-14②(取締役・監査役に対するトレ-ニングの方針)、原則5-1(株主との建設的な対話に関する方針)

● 対象会社数はプライム市場1,837社(前回1,838社)、スタンダード市場1,456社(同1,475社)
● 全83原則の平均コンプライ率はプライム市場が96.5%、スタンダード市場が89.0%、開示14原則ではプライム市場が92.0%、スタンダード市場が80.2%
● コンプライ率が100%だった原則の数は、プライム市場で15原則、スタンダード市場で10原則
● コンプライ率が90%未満だった原則の数は、プライム市場で11原則、スタンダード市場で14原則
● 最も低いコンプライ率は、プライム市場では62.6%(補充原則3-1③)、スタンダード市場では15.7%(補充原則1-2④

プライム市場上場会社の平均コンプライ率が低い原則のトップ5は下表のとおりとなっている。サステナビリティに関する補充原則3-1③は前回調査時よりもコンプライ率が低くなっているが、これは各社が人的資本や気候変動への取り組みを真剣に検討したがゆえの結果とも言えそうだ。ダイバーシティに関する補充原則2-4①のコンプライ率が低いのは、外国人や中途採用者の管理職について目標値を設定していない会社が少なくないことが影響しているものと推測される。

※ 4-8③のコンプライ率は、支配株主を有する上場会社を分母として算出
原則 内容 今回 前回比
3-1③ 【新設】 サステナビリティ課題(人的資本、知的財産、気候変動) 62.55% -4.16pt
2-4①【新設】 中核人材の多様性、人材育成方針・社内環境整備方針 72.95% +2.92pt
4-8③【新設】※ 支配株主のいる上場会社の利益相反 76.83% +3.46pt
4-1③ 後継者計画 80.08% +1.68pt
4-10①【改訂】 指名報酬の委員会、独立性の考え方・権限・役割等 82.58% +4.83pt

下表はプライム市場上場会社の平均コンプライ率が改善した原則のトップ5である。前回最もコンプライ率が低かった取締役会の多様性に関する考え方等の開示を求める補充原則4-11①のコンプライ率が大幅に改善したのは、この半年間でスキル・マトリックスの開示事例が増加したことによる。議決権の電子行使・招集通知の英訳に関する補充原則1-2④も同程度の改善となっているが、こちらは議決権行使プラットフォームに参加する会社の増加が背景にある。

原則 内容 今回 前回比
4-11①【改訂】 取締役会の多様性に関する考え方等の開示 89.66% +16.59pt
1-2④【改訂】 議決権の電子行使/招集通知の英訳 84.05% +14.08pt
4-2②【新設】 サステナビリティの基本方針、実効的な監督 86.45% +6.20pt
3-1②【改訂】 英文情報開示 90.80% +5.44pt
4-11【改訂】 取締役会の多様性、監査役の知見 86.77% +5.38pt

スタンダード市場上場会社の平均コンプライ率が低い原則のトップ5を見ると、50%を割っている原則が4つもあった。特に議決権の電子行使/招集通知の英訳に関する補充原則1-2④、英文情報開示に関する補充原則3-1②については、グローバルな資本市場を対象とするプライム市場ではなく、機関投資家の株主比率が低いスタンダード市場を選択した会社にとっては「エクスプレインしても当然」という意識があることは否定できないだろう。

原則 内容 今回 前回比
1-2④【改訂】 議決権の電子行使/招集通知の英訳 15.73% +0.07pt
3-1②【改訂】 英文情報開示 35.37% +0.12pt
4-10①【改訂】 指名報酬の委員会、独立性の考え方・権限・役割等 41.28% +2.43pt
2-4①【新設】 中核人材の多様性、人材育成方針・社内環境整備方針 41.55% -1.84pt
4-1③ 後継者計画 51.10% +0.52pt

一方、スタンダード市場上場会社の平均コンプライ率が改善した原則のトップ5には、中期経営計画未達の原因説明に関する補充原則4-1②、取締役会の多様性に関する考え方等(スキル・マトリックス)の開示を求める補充原則4-11①などがある。経営計画や監督機能といった企業経営に関する取り組みについては、自社の株主に機関投資家が多いかどうかにかかわらず、着実に改善を進めている会社がスタンダード市場にも少なくないと言えそうだ。

※ 4-8③のコンプライ率は、支配株主を有する上場会社を分母として算出
原則 内容 今回 前回比
4-1② 中期経営計画未達の原因説明 79.88% +12.15pt
4-11①【改訂】 取締役会の多様性に関する考え方の開示 63.74% +11.40pt
4-8③ (※)【新設】 支配株主のいる上場会社の利益相反 71.48% +7.69pt
4-8【改訂】 独立社外取締役の有効な活用 77.82% +3.92pt
4-2②【新設】 サステナビリティの基本方針、実効的な監督 67.24% +3.51pt