<解説>
執行役員制度導入のメリット・デメリット
執行役員とは、委員会設置会社以外の会社で実際の業務執行の責任者である従業員等を指します。委員会設置会社の「執行役」とは異なり、会社法上の役員ではありません(よって株主総会で選任する必要はありません)が、監督と執行の分離を進めていくために執行役員制度を導入する企業は多く、日本監査役協会が実施したアンケート結果によると、執行役員制度を導入している上場企業は監査役会設置会社の回答企業(1,359社)や監査等委員会設置会社の回答企業(628社)のうち約8割(第22回インターネット・アンケート集計結果<監査役(会)設置会社版>の28ページおよび同<監査等委員会設置会社版>の26ページを参照)となっています。
執行役員制度を導入するメリットとデメリットは次のとおりです(雇用型や委任型については後述します)。
<メリット>
・取締役会が監督および重要な意思決定を行い、その執行は執行役員が担うことで、取締役会がモニタリングボードとしての機能を発揮しやすくなる。
・執行役員に権限が委譲されることで、迅速な意思決定が可能になる。
・企業規模の拡大に伴い、現場と取締役の間の距離が離れていかざるを得ないが、執行役員は現場と取締役の間に入り、両者のコミュニケーションの仲介役として機能する。
・執行役員が取締役と同じ目線で仕事に取り組みやすくなる。これにより、次世代の取締役候補として、マネジメントのトレーニングを積むことができる。
・委任型にすることで、成果についての意識が強まり、緊張感を持って仕事に取り組んでもらえる。
・株式報酬を付与することで、企業価値に責任感を持たせやすくなる。
<デメリット>
・報酬が固定のままであったり、権限委譲が進まなかったりすれば、執行役員といえども従業員としての意識が抜けず、取締役と同じ目線に立ちにくくなる。
・委任型にすると、執行役員にとっては地位の不安定化につながる。
ガバナンス強化の観点から執行役員との契約を雇用契約ではなく委任契約にする会社も増えてきています(従業員が委任契約の執行役員になる場合、いったん退職することになります。その場合、退職金制度があれば、委任契約の執行役員になった従業員に退職金を支給することになります)。また、取締役が執行役員を兼ねるケースも多く見受けられます。
会社によっては、機能毎の最高責任者(CXO)を設置する会社も増えています。CEO(最高経営責任者)やCOO(最高執行責任者)やCFO(最高財務責任者)は相当普及していますが、最近ではCTO(最高技術責任者)、CMO(最マーケティング責任者)、CSO(最高戦略責任者)、CIO(最高情報責任者)、CLO(最高法務責任者)なども増えています。執行役員制度とCXO制度の双方を導入している企業では、執行役員がCXOを兼務するケースが多いと言えます。
執行役員制度を導入する場合は、事前に執行役員規程を定めておき、責任・権限を明確にしておかなければなりません。執行役員同士の情報交換や現場のルール作りの場として、執行役員を構成員とした執行役員会を設けることも検討すべきです。また、執行役員の選任・解任基準も事前に定めておきます(【役員会 Good&Bad発言集】経営陣幹部の選解任の方針と手続 を参照)。執行役員は重要な使用人として取締役会で選任することになりますが、選任や報酬の確定に先立ち、任意の報酬委員会・指名委員会での検討を行う会社もあります。
執行役員への株式報酬支給時の留意点
執行役員への報酬は、雇用型の場合は一般従業員と同様の賃金テーブルまたは年俸制となります。委任型の場合は、委任契約に基づく報酬となります。任期は1年ないし2年が多く(任期を設けないこともあります)、再任されない場合や解任された場合は、雇用型であれば一般従業員に戻ることになり、委任型であれば会社から離れる(あるいは再雇用)ことになります。
執行役員に企業価値向上へのインセンティブを持ってもらうために、株式報酬を付与する会社も少なくありません。この点、2021年3月1日に施行された改正会社法202条の2(取締役の報酬等に係る募集事項の決定の特則)により、「無償」で株式報酬を支給することが可能となりましたが、株式の無償交付の対象者はあくまで「上場会社」である「自社の取締役等(取締役、執行役)」に限定される(2020年9月25日のニュース『改正会社法で導入された株式報酬、「事前交付」と「事後交付」の違い』参照)ため、執行役員には無償での株式を交付することはできないということには注意が必要です(2020年10月5日のニュース「子会社の取締役等に株式が無償交付できないことにより生じる手間」を参照)
執行役員にも求められるダイバーシティやスキル・マトリックス
コーポレートガバナンス・コードの原則2-4には、「女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保」と題して、「上場会社は、社内に異なる経験・技能・属性を反映した多様な視点や価値観が存在することは、会社の持続的な成長を確保する上での強みとなり得る、との認識に立ち、社内における女性の活躍促進を含む多様性の確保を推進すべきである。」と定められています。この「社内における女性の活躍促進を含む多様性の確保」は、当然のことですが、執行役員にも求められます。イノベーション創出のため、執行役員といえども、ダイバーシティの確保は重要となってきます。
また、2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コード補充原則4-11①には、「各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキル・マトリックスをはじめ、経営環境や事業特性等に応じた適切な形で取締役の有するスキル等の組み合わせを取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべき」と記載されています。この改訂には、取締役会に対し、スキル・マトリックス等の作成・開示を通じて、自社の経営戦略に沿った取締役会の構成を意識させようという狙いがあることは2022年5月26日のニュース「取締役会におけるスキルと属性の多様性を同時に実現する一案」でお伝えしたとおりです。執行役員は次世代の社内取締役候補である以上、取締役に求められることは執行役員にも同様に求められると考えるべきです。すなわち、執行役員の構成は自社の経営戦略に沿っている必要があり、さらにその考え方を推し進めると、取締役だけでなく執行役員についてもスキル・マトリックスを作成すべきということになります。執行役員のスキル・マトリックスは必要に応じて開示してもよいでしょう。実際に、執行役員のスキル・マトリックスも示す会社がすでに出てきています(【2021年5月の課題】スキル・マトリックス作成上のポイント を参照)。
現在の有価証券報告書では【役員の状況】において、取締役の経歴を開示するようになっていますが、執行役員については開示の対象にはなっていません。もっとも、2022年7月19 日に公表された改訂版コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)でも、「執行役員は会社法上の役員ではないため、その構成や属性は制度開示の対象ではないが、各分野の業務執行の最終的な責任を負っているトップマネジメントチームについては、ダイバーシティの面も含めた積極的な開示がなされることが望ましい」(CGSガイドライン44ページを参照)とされており、今後は任意開示の枠組みの中で執行役員の構成や属性を開示する上場会社が増えることが予想されます。
さて、以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。
<正解>
取締役D:「執行役員は会社法上の役員ではないので、その構成や属性は制度開示の対象ではありませんが、制度導入後は当社の各分野の業務執行の最終的な責任を負っているトップマネジメントチームとして、ダイバーシティの面も含め積極的に開示してはどうでしょうか。」
(コメント:『執行役員は会社法上の役員ではないこと』『執行役員の構成や属性は制度開示の対象ではないこと』を正しく理解したうえで、さらに取締役に求められる『ダイバーシティ』『スキル・マトリックス等の開示』について執行役員にも積極的に拡大して適用するという姿勢は、改訂CGSガイドラインなど最近のトレンドを押さえたGood発言です。)
取締役A:「執行役員は株主総会で選任されるので、株主総会での決議事項が増えますね。」
(コメント:これだけ執行役員制度が普及したにもかかわらず、そもそも執行役員の選任権限がどこにあるのかをまったく理解していないBad発言です。)
取締役B:「執行役員を選任するのは株主総会ではありませんが、有価証券報告書で執行役員の経歴や保有株数を開示しなければなりません。」
(コメント:取締役Bは、執行役員を選任するのが株主総会ではないということを理解している点で、少なくとも取締役Aよりはましですが、取締役と同様、執行役員も有価証券報告書で経歴や保有株数を開示するという誤解をしており、Bad発言です。)
取締役C:「執行役員になっても結局は雇用契約しか選べないので、取締役とどれほど目線合わせができるか、疑問です。」
(コメント:執行役員制度は雇用型だけでなく委任型もあるという点を理解していないBad発言です。)