2022/01/12 改訂CGコード対応後における招集通知のスキル・マトリックスのあり方

昨年(2021年)12月末、改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)に対応したコーポレート・ガバナンス報告書(以下、CG報告書)が提出期限を迎えた(プライム市場上場会社向けの原則については、2022年4月4日以降最初に開催される定時株主総会終了後に遅滞なく提出するCG報告書で対応)。今後は改訂CGコード対応と矛盾しないよう株主総会招集通知(以下、招集通知)の記載内容を改善するなど、来たる株主総会シーズンに向けた準備に着手することになる。招集通知における記載事項(任意のものを含む)のうち、CGコード改訂の影響を最も大きく受けたものの一つに挙げられるのが、補充原則 4-11①により開示が求められることとなった取締役会のスキル・マトリックスだ。

補充原則 4-11① ※赤字が2020年6月改訂部分
取締役会は、経営戦略に照らして自らが備えるべきスキル等を特定した上で、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定め、各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキル・マトリックスをはじめ、経営環境や事業特性等に応じた適切な形で取締役の有するスキル等の組み合わせを取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべきである。その際、独立社外取締役には、他社での経営経験を有する者を含めるべきである。

補充原則4-11①は「いわゆるスキル・マトリックスをはじめ」と、スキル・マトリックスを例示として挙げる形の表現にはなっているが、CGコードの改訂に際し寄せられた『「スキル・マトリックス」が例示の一つであることを確認したい。』などのパブリックコメントに対し東証は以下のように回答しており(43ページ参照)、「より分かりやすい開示」でない限り、基本的にスキル・マトリックスによる開示が期待されている。

補充原則 4-11①における、いわゆるスキル・マトリックスは、「経営環境や事業特性等に応じた適切な形で取締役の有するスキル等の組み合わせ」を開示するための方法の 1 つとして掲げています。スキル・マトリックス以外の方法によっても、本コードの趣旨に照らしてより分かりやすい開示が考えられる場合には、スキル・マトリックス以外の方法による開示を行うことも想定されています。

当フォーラムがTOPIX100採用企業(昨年12月末現在)の昨年の招集通知を対象にスキル・マトリックスの掲載社数を調査したところ、・・・

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2022/01/12 改訂CGコード対応後における招集通知のスキル・マトリックスのあり方(会員限定)

昨年(2021年)12月末、改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)に対応したコーポレート・ガバナンス報告書(以下、CG報告書)が提出期限を迎えた(プライム市場上場会社向けの原則については、2022年4月4日以降最初に開催される定時株主総会終了後に遅滞なく提出するCG報告書で対応)。今後は改訂CGコード対応と矛盾しないよう株主総会招集通知(以下、招集通知)の記載内容を改善するなど、来たる株主総会シーズンに向けた準備に着手することになる。招集通知における記載事項(任意のものを含む)のうち、CGコード改訂の影響を最も大きく受けたものの一つに挙げられるのが、補充原則 4-11①により開示が求められることとなった取締役会のスキル・マトリックスだ。

補充原則 4-11① ※赤字が2020年6月改訂部分
取締役会は、経営戦略に照らして自らが備えるべきスキル等を特定した上で、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定め、各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキル・マトリックスをはじめ、経営環境や事業特性等に応じた適切な形で取締役の有するスキル等の組み合わせを取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべきである。その際、独立社外取締役には、他社での経営経験を有する者を含めるべきである。

補充原則4-11①は「いわゆるスキル・マトリックスをはじめ」と、スキル・マトリックスを例示として挙げる形の表現にはなっているが、CGコードの改訂に際し寄せられた『「スキル・マトリックス」が例示の一つであることを確認したい。』などのパブリックコメントに対し東証は以下のように回答しており(43ページ参照)、「より分かりやすい開示」でない限り、基本的にスキル・マトリックスによる開示が期待されている。

補充原則 4-11①における、いわゆるスキル・マトリックスは、「経営環境や事業特性等に応じた適切な形で取締役の有するスキル等の組み合わせ」を開示するための方法の 1 つとして掲げています。スキル・マトリックス以外の方法によっても、本コードの趣旨に照らしてより分かりやすい開示が考えられる場合には、スキル・マトリックス以外の方法による開示を行うことも想定されています。

当フォーラムがTOPIX100採用企業(昨年12月末現在)の昨年の招集通知を対象にスキル・マトリックスの掲載社数を調査したところ、全体の過半数に当たる54社が掲載していた。逆に言えば、TOPIX100採用企業と言えども未だ半数近くは掲載していないということになる。

これからスキル・マトリックスを新たに作成しようという企業はもちろんのこと、既に作成済みの企業においても、開示する前にはその内容が補充原則 4-11①の趣旨に沿ったものとなっているかを確認する必要がある。同原則の趣旨に沿ったスキル・マトリックスかどうかを判断する際に重要な指針となるのが、同原則における「経営戦略に照らして自らが備えるべきスキル等を特定した上で」との文言だ。ここでいう「スキル」とは、候補者が持っているスキルではなく、企業が候補者に期待するスキルを指しており、これを「経営戦略に照らして特定」、すなわち例えば中期経営計画などの経営戦略に紐づけて説明することが同原則では求められている。上記54社の招集通知を確認したところ、自社のスキル・マトリックスが経営戦略などをベースにしていることを明示しているのは、下表のとおりわずか4社にとどまった。

社名 スキル・マトリックスに関する招集通知の記載の特長
積水ハウス 経営戦略・経営計画を踏まえたスキル・マトリックスを策定
アサヒグループホールディングス 当社のグループ理念「Asahi Group Philosophy」やアサヒグループ行動規範、経営戦略から導いた役員に求める要件を明確化
第一三共 当社の中長期的な経営の方向性や事業戦略に照らして、第5期中期経営計画で示した2030ビジョン「サステナブルな社会の発展に貢献する先進的グローバルカンパニー」の実現に向け、当社の取締役会がその意思決定機能及び経営の監督機能を適切に発揮するために備えるべきスキル(知識・経験・能力)を特定
ENEOSホールディングス 長期ビジョン実現のための重点分野を特定(当フォーラム注:スキル・マトリックスにおける8つのスキル項目のうち、ESG、デジタル、国際ビジネス・M&A、人材開発・育成の4つ)

一方、経営戦略などとの明確なつながりは示されていないが、候補者に対して「期待する」「必要とされる」スキルであることを記載している事例は、上記54社のうち20社あった。こうした表現を使うだけでも、当該スキル・マトリックスが補充原則4-11①が求める「経営戦略に照らして自らが備えるべきスキル」のうち少なくとも後半部分の「自らが備えるべき」スキルを説明するものであるように見えやすい。これに対し、「取締役の専門性・経験」といった表題で、候補者が有しているスキルを単に並べているだけの場合、「経営戦略に照らして自らが備えるべきスキル」を開示しているとは言い難い。改訂CGコード対応後の招集通知では、タイトルを含め工夫が必要だろう。

なお、スキル・マトリックスの開示に際して、「〇印を付けると、〇印が付いていないスキルについては×印を想起させるので候補者に対して失礼」と考えている企業が非常に多い。些細なことのようにも思えるが、実際、ほとんどの企業が「○」ではなく「●」を使用しており、なかには「★」「✓」などを使っている企業もある。また、上記54社のうち28社は、「特に期待/必要とするスキルである」「候補者の有する全てのスキルではない」などと注釈を入れることで、「印がついていない=スキルが備わっていない」という意味ではないことを明確にしている。また、印を付けるスキル項目数を最大で3~4つに限定し、候補者間で印の数に格差が生じないようにしている事例も散見される。スキル・マトリックスには「評価」の側面がないとは言い切れないだけに、各社の“気遣い”が偲ばれるところだ。

2022/01/11 【2021年12月の課題】 2021年6月株主総会 議決権行使結果の個別開示を踏まえた機関投資家の動向(会員限定)

日本シェアホルダーサービス株式会社
コンサルタント 水嶋 創

多くの上場企業では、自社の株主総会後に議案に対する機関投資家の賛否を確認する目的で、議決権行使結果の個別開示を参照していることでしょう。本稿では、東証一部上場企業の2021年6月総会を対象として、主要国内機関投資家の取締役選任議案(会社提案)と気候変動関連議案(株主提案)に対する議決権行使結果を分析します。

会社提案議案:取締役選任議案の分析

取締役選任議案に対する主要国内機関投資家の反対率をまとめたところ、下表のとおりとなりました。

<取締役選任議案に対する主要国内機関投資家の反対率(東証一部上場企業)>
60843a

まず反対率そのものに着目すると、三菱UFJ信託銀行の反対率が最も高くなっています。三菱UFJ信託銀行の反対率が高い要因としては、同社が機関設計を問わず全ての企業に対して、取締役総数の1/3以上の社外取締役の選任を求めており、これを充たせない場合は「取締役全員」の選任議案に反対していることが挙げられます。

1/3以上の社外取締役の選任を求める投資家は増加しており、上表の中では三井住友トラスト・アセットマネジメントも、企業の機関設計を問わず1/3を基準として設定しています。ただし同社は、仮に1/3を下回っていたとしても、東証に独立役員として届出のある(もしくは届出予定のある)社外取締役2名以上が選任されており、かつROEがTOPIX構成銘柄全体の上位75%以内の場合には反対行使を行わないという経過措置を設けていることから、三菱UFJ信託銀行に比べて反対率が低かったとものと考えられます。ただし、この経過措置は2022年3月総会までとされている点には注意が必要です。

三菱UFJ信託銀行に次いで反対率が高かったのが三井住友DSアセットマネジメントです。その要因としては、まず同社のROE基準が厳しいこと(国内上場企業平均水準を過去3年に一度も上回っていない場合、3年以上在任の取締役の再任に原則反対)が挙げられます。一方、企業(本則市場上場企業に限る)に求める取締役会構成基準は、監査役設置会社に対しては「2名以上または20%以上の独立性を満たす社外取締役の選任」、指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社に対しては「3名以上または25%以上の独立性を満たす社外取締役の選任」とされており、三菱UFJ信託銀行や三井住友トラスト・アセットマネジメントの「1/3」よりも数値としては緩やかになっています。ただし、ここで留意すべきなのが「独立性を満たす」との文言です。国内機関投資家が多くは社外取締役の独立性について、概ね①東証への独立役員届出書の有無、②大株主出身者か否か、③長期間在任しているか、の3つの観点から判断しています。一方、三井住友DSアセットマネジメントは、独立性について以下のようより厳格な基準を設定しています。この基準をクリアする社外取締役が「2名以上または20%」(監査役設置会社)あるいは「3名以上または25%」(指名委員会等設置会社・監査等委員会設置会社)いなかったため、取締役会選任議案に反対行使を受けた企業が相当数あったことが、三井住友DSアセットマネジメントの高い反対率につながったものと考えられます。

なお、三井住友DSアセットマネジメントは本年から社外取締役の構成割合に関する基準を改定し、プライム市場上場企業のうち、監査役会設置会社には「2名以上かつ1/3以上」、指名委員会等設置会社及び監査等委員会設置会社には「3名以上かつ1/3以上」の独立性を満たす社外取締役の選任を求めることとしています。

<三井住友DSアセットマネジメントの独立性判断基準>
社外監査役の独立性判断に当たっては、以下に掲げる関係者としての各基準を総合的に判断する。
(ア)大株主(保有比率5%程度以上、ただし純投資を目的とする投資家を除く)、親会社もしくは当該企業の子会社・関連会社、主要取引先(主要借入先、主幹事証券会社を含む)、その他継続的かつ固定的な関係構築が推定される(出身者による継続的な役員就任等)企業等の関係者
(イ)候補者が所属する弁護士、監査法人等が、顧問弁護士契約、顧問税理士・会計士契約を結び、1,000万円程度を超える年間取引関係が直近2年間以上継続的にあった場合(なお、候補者本人が顧問弁護士契約を結んでいた場合、監査業務に直接関与していた場合には、金額に関する軽微基準は適用しない)
(ウ)現任の会計監査人の関係者
(エ)役員在任期間が12年を超え、当該候補者の独立性や役員会への余人をもって代えがたい貢献等が十分に説明されていない
(オ)当該企業の現任役員の親族
(カ)その他、独立性に疑義がある場合

各機関投資家の反対率を昨年と比較すると、上述のとおり今年最も高かった三菱UFJ信託銀行の反対率が昨年比では大きく低下していることが確認できます。コーポレートガバナンス・コードの要請(原則4-8)や機関投資家からのプレッシャー等により、1/3以上の社外取締役を選任する企業が増加したことが要因と考えられます。

社外取締役の選任増加を背景に、全体的に昨年と比べて反対率が低下傾向にある中、反対率の上昇が確認された機関投資家としては、社内取締役選任議案についてはりそなアセットマネジメント、社外取締役選任議案については野村アセットマネジメント及びりそなアセットマネジメントが挙げられます。

りそなアセットマネジメントは従来、監査役設置会社に対しては、「2名以上かつ20%以上」の独立性のある社外取締役が選任されていない場合、代表取締役の選任議案に反対していましたが、昨年(2021年)の総会シーズンの前に当該基準を「2名以上かつ25%以上」に引き上げたことから、代表取締役を含む「社内取締役」の選任議案への反対率が上昇したと考えられます。なお、本年からは監査役設置会社を含む全ての企業について「1/3以上の独立性のある社外取締役の選任」を求める旨の基準改定が実施されています。

また、りそなアセットマネジメントと野村アセットマネジメントは、昨年の総会シーズン前に、在任期間12年以上の社外取締役の独立性を否認する旨の基準厳格化を行っており、これが社外取締役の選任議案の反対率の上昇につながったとみられます。

株主提案議案:気候変動関連議案の分析

2021年6月株主総会シーズンでは、一昨年(2020年)のみずほフィナンシャルグループに続き気候変動関連の株主提案議案が提出され、その内容や賛成率が注目されました。

<気候変動に関する株主提案議案(定款変更議案)の内容と賛成率>
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主要国内機関投資家の議決権行使結果を見てみると、関西電力の議案に賛成したのはりそなアセットマネジメントのみであったことが分かります。関西電力以外の3社への提案が、気候変動に関する目標や戦略、実施状況などの開示を求めるという比較的緩やかな内容であったのに対し、同社に対する提案は、火力発電所の新設禁止や二酸化炭素回収技術等の導入、ESG要素に連動する役員報酬の導入を求めるなど、より具体的なアクションを求める内容を含んでいるという点で、機関投資家としてはやや賛成しにくかったと言えそうです。

<気候変動に関する株主提案に対する主要国内機関投資家の行使判断>
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また、野村アセットマネジメントは三菱UFJフィナンシャル・グループの議案に賛成する一方で、他の3社の議案には反対しています。開示されている下記の賛否理由を参照すると、「業務執行に具体的な制約を加えるか否か」が判断のポイントとなったことがうかがわれます(制約を加える可能性がある場合は反対)。関西電力を除く3社の議案の内容は非常によく似ているものの、わずかな内容の違いが賛否判断に大きな影響を及ぼしたものと考えられます。

<野村アセットマネジメントの気候変動に関する株主提案に対する賛否とその理由>
60843d

なお、野村アセットマネジメントは昨年11月に議決権行使基準を改定し、「ESG課題を巡る取組みについての基本的な方針の策定に関するもの」に該当する定款変更議案については原則として賛成するとの方針を示しました。同社以外でも、気候変動を含むESG関連の株主提案に対する考え方などを議決権行使基準に盛り込む機関投資家は増加しつつあります。

本年の株主総会に向けて

以上のとおり、株主総会議案について議決権行使結果を投資家毎に比較するとで、会社提案・株主提案を問わず、議決権行使基準の違いが、各社の反対率の違いの要因となっていることが確認されました。また、取締役選任議案については、機関投資家の議決権行使基準の改定や企業の取組みの進捗により反対率が前年から変化していることも分かりました。

本稿でも紹介したように、既にいくつかの項目については、本年の株主総会シーズンに向け、各機関投資家で議決権行使基準の改定が進んでいます。経営陣としては、本年の株主総会に向け、自社にとって大株主にあたる機関投資家を中心に前年の議決権行使結果と最新の議決権行使基準を比較して改定内容を把握し、改定内容によっては個別の面談(エンゲージメント)の実施も検討した上で、株主総会に向けた準備を進めることが必要になるでしょう。

2022/01/11 改正電子帳簿保存法に対応したシステム構築に2年間の猶予措置が実現、「やむを得ない事情」はどこまで説明する必要がある?

2021年12月2日のニュース「予想以上に高かった帳簿書類のペーパーレス化の壁」でお伝えしたとおり、年明けの2022年1月1日から施行される改正電子帳簿保存法に対応するためのシステム構築が・・・

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2022/01/11 改正電子帳簿保存法に対応したシステム構築に2年間の猶予措置が実現、「やむを得ない事情」はどこまで説明する必要がある?(会員限定)

2021年12月2日のニュース「予想以上に高かった帳簿書類のペーパーレス化の壁」でお伝えしたとおり、年明けの2022年1月1日から施行される改正電子帳簿保存法に対応するためのシステム構築が間に合わないと訴える企業が続出する中、政府は改正電子帳簿保存法の施行から「2年間」は現行法同様、電子データではなく「紙」での帳簿書類の保存を認めることを検討していたが、年末ぎりぎりの12月27日、この2年間の猶予措置を実現するための改正電子帳簿保存法施行規則(4条3項)が公布された。従来から認められていた災害等の要因に加え、電子データを保存することができなかったことについて所轄税務署長が「やむを得ない事情」があると認めた場合には、「紙(出力した書面等)」の保存に代えることが認められる。

施行規則の公布翌日には国税庁から通達やQ&Aが公表され、上記「やむを得ない事情」とは、「電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存に係るシステム等や社内でのワークフローの整備未済等、保存要件に従って電磁的記録の保存を行うための準備を整えることが困難であること」を指すことが明らかにされた(取扱通達7-10)。これには「システムの構築が間に合わなかった」ことも当然含まれる。

当局によると、一部企業の間では、いまだに「本猶予措置の適用を受けるためには税務署への届出が必要」との誤解が残っているようだ。その原因は、2021年12月6日付の新聞報道で、「帳簿書類を紙で保存する場合、その可否を企業の申し出に応じて税務署長が判断する」との記事が一面トップに掲載されたことがある。この点については当フォーラムが同日中に「税務署への届出などは一切必要ない」旨お伝えしたところだが(2021年12月6日のニュース『帳簿書類の「紙」保存を巡る留意点』参照)、国税庁がこのほど公表したQ&Aでも、この新聞報道を意識した記述が以下のとおり複数個所で確認できる(下記赤字部分)。

問 41-3
電子データを授受した場合であっても、令和5年12月31日までの間は、やむを得ない事情があれば、出力することにより作成した書面による保存が認められるのでしょうか。
【回答】
令和4年1月1日から令和5年12月31日までの間に電子取引を行う場合には、授受した電子データについて要件に従って保存をすることができないことについて、納税地等の所轄税務署長がやむを得ない事情があると認め、かつ、保存義務者が税務調査等の際に、税務職員からの求めに応じ、その電子データを整然とした形式及び明瞭な状態で出力した書面の提示又は提出をすることができる場合には、その保存要件にかかわらず電子データの保存が可能となり、また、その電子データの保存に代えてその電子データを出力することにより作成した書面による保存をすることも認められます。
なお、上記の取扱いを受けるに当たり税務署への事前申請等の手続は必要ありません。
問41-5
やむを得ない事情が認められ、かつ、出力することにより作成した書面の提示又は提出に応じることができれば、電子データによる保存をしていなくても要件違反にならないとのことですが、事前に税務署への申請等をすることは必要でしょうか。
【回答】
やむを得ない事情の有無や出力された書面については、必要に応じて税務調査等の際に確認することとしており、事前に税務署への申請等をすることは必要ありません。

上記問41-5の回答における「やむを得ない事情の有無・・・については、必要に応じて税務調査等の際に確認する」との記述を見て、果たしてどの程度の深度で確認が行われるのか懸念を持つ企業もあろう。しかし、問41-2の(参考)には「税務職員から確認等があった場合には、各事業者における対応状況や今後の見通しなどを、具体的でなくても結構ですので適宜お知らせいただければ差し支えありません。」とあり、かなり“緩い”確認であることが示唆されている。今回の猶予措置は、「もともと法律の施行日に無理があった」との企業からの大ブーイングの中で実現しただけに、税務調査において「やむを得ない事情」の是非が問題にされることは想定し難く、したがって、企業においても、「やむを得ない事情」を税務署に納得させるための理論武装は特段必要ないと考えてよい。その時間をシステム構築の推進に費やすべきだろう。

2021/12/31 【役員会 Good&Bad発言集】「ビジネスと人権」への対応(1)

東証上場会社のA社では、投資家からの問い合わせをきっかけとして取締役会で「ビジネスと人権」への対応についての検討を行っているところです。これに関してA・B・C・D・Eの5人が別々に次の発言を行いました。誰の発言がGood発言でしょうか?

取締役A:「企業買収に先立ち、ビジネスや法務や財務などのデュー・ディリジェンスを行いますが、それと同じで人権方針に先行して第三者による人権デュー・ディリジェンスを必ず実施しなければなりません。」

取締役B:「人権に関する取り組みを行うことは慈善活動のようなものであり、企業イメージを改善するという加点的な要素はあるものの、それを行わなかったとしても何かを失うわけではありません。」

取締役C:「人権は環境と違って『オフセット』するわけにはいかないですからね。負の影響の防止・軽減・救済を重視した対策が重要となってきます。」

取締役D:「法令を遵守することは必須であるとしても、そもそも人権保護に関連する国内法令がないような後進国で事業を行う場合は、現地の水準にあわせて先進国よりも人権保護の線引きを多少緩めに解さざるを得ない。そうしなければ当社は低コストでの製造が困難になり、ライバル社に負けてしまいますよ。」

取締役E:「人権デュー・ディリジェンスは定期的に実施するだけでなく、新規取引開始時やM&A時にも実施すべきです。」

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解説と正解はこちらをクリック
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2021/12/31 【役員会 Good&Bad発言集】「ビジネスと人権」への対応(1)(会員限定)

<解説>
「ビジネスと人権」への対応が重要である理由

現在では、企業が人権に配慮した上で企業活動を行うことは当然の責務と理解されています。それは、ビジネスと人権が下記のように密接に結びついているからと言えます(法務省人権擁護局『今企業に求められる「ビジネスと人権」への対応』(概要版)の令和3年3月版の17ページより抜粋)。

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実は、ビジネスと人権の関わり合いが現在のように重要視され、かつ、具体策をもって実行されはじめたのは、それほど昔の話ではありません。ビジネスと人権の関わり合いが強く認識され始めるきっかけとなったのは、2011年に国連人権理事会が「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下、指導原則)を策定してからと言われています。指導原則のⅡ.人権を尊重する企業の責任のA.基盤となる原則15には次のように定められており(aが「人権方針」、bが「人権デュー・ディリジェンス」、cが「救済措置」と称されています)、これに並行してSDGsやESG投資の浸透・普及や統合報告書の普及があったことが後押しとなり、現在の状況に至ったと言えます。

ESG投資 : 「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資すること。

15. 人権を尊重する責任を果たすために、企業は、その規模及び置かれている状況に適した方針及びプロセスを設けるべきである。それには以下のものを含む。
a.人権を尊重する責任を果たすという方針によるコミットメント
b.人権への影響を特定し、防止し、軽減し、そしてどのように対処するかについて責任を持つという人権デュー・ディリジェンス・プロセス
c.企業が引き起こし、または助長する人権への負の影響からの是正を可能とするプロセス

本稿では、ビジネスと人権の関わり合いの流れを変えたと言われる上記の規定につき、全体像を解説します。次回以降、a「人権方針」、b「人権デュー・ディリジェンス」、c「救済措置」の各論につき順に解説します。

「ビジネスと人権」への対応(1):「ビジネスと人権」への対応についての総論
「ビジネスと人権」への対応(2):人権方針
「ビジネスと人権」への対応(3):人権デュー・ディリジェンス(人権への悪影響の特定)
「ビジネスと人権」への対応(4):人権デュー・ディリジェンス(その他のステップ)
「ビジネスと人権」への対応(5):苦情処理および是正措置(救済措置)
「ビジネスと人権」への対応(6):人権問題であることへの気付き
指導原則に基づき企業が尊重すべき国際行動規範

指導原則に基づき企業が尊重すべき国際行動規範としては、 国際人権章典(「世界人権宣言」「経済的・社会的及び文化的権利に関する国際規約」(社会権規約)および「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(自由権規約)ならびにこれらの規約に対する選択的議定書)に加えて、人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約、ILO 多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言など国際連合が中心になって定めた30ほどの人権条約や労働関連の文書が該当します(日本弁護士会連合会の「人権デュー・ディリジェンスのためのガイダンス(手引)」の19ページ以降を参照)。

また、指導原則12では、「企業が人権を尊重する責任は、関連する法域において国内法の規定により主に定義されている法的責任や執行の問題とは区別される。」と定められています。これは、人権保護に関連する国内法令がないような(人権の)後進国で事業を行う場合であっても、その国の法律さえ守っていれば問題なしとしてはいけないということを意味します。すなわち、人権は法律を超えて守るべきものであり、人権後進国だからと言って人権を尊重する責任が軽くなるわけではなく、そのような場合でも人権先進国と同様、企業は人権を尊重する責任を果たさなければなりません。

「ビジネスと人権」への対応を進めるにあたり重視したいポイントは、人権は環境のように『オフセット』はできない(すなわち、正の影響により負の影響を相殺することができない)ということです。正の影響の増加ももちろん重要ですが、それよりも負の影響の防止・軽減・救済に焦点を当てて対策を立てることが最重要となります。

「人権方針」「人権デュー・ディリジェンス」「救済措置」を実施する際の順番

デュー・ディリジェンスというと、人権デュー・ディリジェンスよりも、M&Aに先立ち取得予定の事業や会社に対して行うビジネス、法務、財務、税務などの事前調査(詳細調査)を想起する向きも多いのではないでしょうか。人権デュー・ディリジェンスにおいてデュー・ディリジェンスとは「(負の影響を回避・軽減するために)その立場に相当な注意を払う行為又は努力」という意味です(日本弁護士会連合会の「人権デュー・ディリジェンスのためのガイダンス(手引)」の2ページを参照)。もっとも、M&Aにおけるデュー・ディリジェンスと人権デュー・ディリジェンスも、「リスクを認識し、対応を検討する」という意味では変わりはありません。すなわち、M&Aにおけるデュー・ディリジェンスは、取得予定の事業や会社にコンプライアンス違反や粉飾や将来の債務負担などのリスクが潜んでいないかを様々な角度からプロフェッショナルを交えて詳細に調査・分析して、リスクを認識し、対応を検討することになります。人権デュー・ディリジェンスもそれと同じで、「企業の人権に対する潜在的な負の影響」である人権リスクを、「特定し、評価する」ことになります(指導原則18の解説)。ただ、M&Aにおけるデュー・ディリジェンスは「事業または会社(株式)の取得」という限定された単発の行為に先立ち実施するものですが、人権デュー・ディリジェンスは企業のビジネス全体に関わることから、新規事業や新規取引の開始やM&Aに先立って実施する()のはもちろんのこと、そのような「新規」の行為がない場合でも、全社的かつ継続的に実施する必要があります(すなわちM&Aにおけるデュー・ディリジェンスのように範囲が限定されているわけではなく、かつ、単発的なものではありません)。

「人権方針」「人権デュー・ディリジェンス」「救済措置」の3つは実施の順番がとくに定められているわけではありませんが、一般的にはまずは人権方針を定め、あわせて救済措置も設けておき、人権デュー・ディリジェンス・プロセスを継続的に実施していくのが通常と思われます。また、救済措置により見落としていた人権リスクを検出した場合には、人権方針や人権デュー・ディリジェンス・プロセスにフィードバックすることになります。

 指導原則では、「人権リスクは、契約やその他の合意が形作られる段階で増大または軽減されうるものであり、また合併や買収を通じて継承されるかもしれないことを考えると、新たな事業または取引関係を展開するにあたっては、人権デュー・ディリジェンスはできるだけ早く着手されるべきである」とされています(指導原則17の解説)。また、指導原則には「人権の状況は常に変化するため、人権への影響評価は定期的に行われるべきである。新たな事業活動または取引関係に先だって、事業における重要な決定または変更(例えば、市場への参入、新製品の発売、方針変更、または事業の大幅な変更)に先だって、事業環境の変化(例えば、社会不安の高まり)に反応またはそれを予見して、そしてひとつの事業活動または取引関係が続くあいだ中、周期的にということである」とも記載されています(指導原則18の解説)。

さて、以上の解説をご覧いただければ、誰の発言がGOOD発言か、もうお分かりですね。正解は以下のとおり。

<正解>
GOOD発言はこちら

取締役C:「人権は環境と違って『オフセット』するわけにはいかないですからね。負の影響の防止・軽減・救済を重視した対策が重要となってきます。」
コメント:環境問題はカーボンオフセットのように正の影響と負の影響を『オフセット』(相殺)するという解決もありますが、人権はどんなに正の影響を強めたところで、現実に人権を侵害されている状況が改善される訳ではありません。だからこそ、負の影響の防止・軽減・救済を重視した対策が重要となってくるという取締役Cの発言は正論でありGoodです。

取締役E:「人権デュー・ディリジェンスは定期的に実施するだけでなく、新規取引開始時やM&A時にも実施すべきです。」
コメント:人権デュー・ディリジェンスは新規事業や新規取引の開始やM&Aに先立って実施するのはもちろんのこと、そのような「新規」の行為がない場合でも、全社的かつ定期的に実施する必要があります。取締役Dの発言は人権デュー・ディリジェンスの実施時期についての理想に基づくものであり、Goodです。ただ、実際に自社の経営リソースからすると、そのような理想を実現できるかどうかは別問題と言えます。そのあたりの現実に配慮した発言まで踏み込めれば、よりGoodでした。

BAD発言はこちら

取締役A:「企業買収に先立ち、ビジネスや法務や財務などのデュー・ディリジェンスを行いますが、それと同じで人権方針に先行して第三者による人権デュー・ディリジェンスを必ず実施しなければなりません。」
コメント:確かにM&A時のデュー・ディリジェンスはM&Aに先行して実施するものですが、人権デュー・ディリジェンスは人権方針に先行して実施すべきものではありません。取締役Aの発言は人権方針と人権デュー・ディリジェンスの関係を整理できていないBad発言です。

取締役B:「人権に関する取り組みを行うことは慈善活動のようなものであり、企業イメージを改善するという加点的な要素はあるものの、それを行わなかったとしても何かを失うわけではありません。」
コメント:企業が人権に関する取り組みを充実させれば、業績や企業価値にポジティブな影響が生じるのは当然のことですが、人権に関する取り組みが不足しても不買運動などで業績が低下したりブランド価値が毀損したり、ダイベストメントにより投資を引き揚げられて株価が減少するなど、ネガティブな影響が生じることとなります。取締役Bの発言は、ネガティブな影響についての視点が欠落しており、Bad発言です。

取締役D:「法令を遵守することは必須であるとしても、そもそも人権保護に関連する国内法令がないような後進国で事業を行う場合は、現地の水準にあわせて先進国よりも人権保護の線引きを多少緩めに解さざるを得ない。そうしなければ当社は低コストでの製造が困難になり、ライバル社に負けてしまいますよ。」
コメント:人権は法律を超えた規範として尊重されるべきものであり、水準は世界共通です。人権後進国で製造する場合は現地の水準にあわせて人権を尊重する責任が軽くなるわけではありません。企業は人権後進国であっても人権先進国と同水準で人権を尊重する責任を果たさなければなりません。Dの発言は、仮に昭和の時代であったとしても首をかしげざるを得ない「ビジネス>人権保護」の発想に基づくBad発言です。他の役員はこういった発言をする取締役がボードメンバーにいるという事態を恥じるべきです。