日本シェアホルダーサービス株式会社
研究開発/コンサルティング部
チーフコンサルタント
藤島 裕三
CGコード再改訂のスケジュールと対象
2015年6月に導入されたコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の改訂頻度は、スチュワードシップ・コードのように明確に「3年ごと」とは定められているわけではありませんが、2018年6月に初めて改訂されてから3年目後となる2021年に再改訂されることは既定路線となっています。既に再改訂を議論するため金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下FU会議)が10月20日に再開しており、今後は同会議が再改訂案を取りまとめ、これがパブリックコメントに付され、2021年6月の株主総会シーズン前には再改訂されたCGコードが確定することが予想されます。
ただし、今回の再改訂は、金融庁・東証が進めている市場区分見直しと連動しており、再改訂後のCGコードの適用開始は、新市場区分への一斉移行日である2022年4月1日となる可能性があります。また、2020年2月に東証が公表した「新市場区分の概要等について」によると、新たな市場区分(仮称)ごとに「上場基準」として課されるCGコードは下表のとおりとなります(7〜9ページ参照)。
| プライム市場 |
見直し後のCGコード全原則の適用 |
| スタンダード市場 |
CGコード全原則の適用 |
| グロース市場 |
CGコード基本原則のみを適用 |
したがって、上記上場基準によれば、基本的に今回のCGコードの再改訂はプライム市場上場会社のみを対象とするものであり、スタンダード市場上場会社には現行のCGコードが引き続き適用されることになりそうです。あるいは、再改訂されたCGコードのうち特に重要なものに限って、スタンダード市場上場会社向けのCGコードに反映されるかもしれません。そこで本稿では、主にプライム市場上場会社を対象に行われると予想されるCGコードの再改訂について、直近のFU会議における議論を手掛かりに考察します。
金融庁の掲げる課題
10月20日に開催されたFU会議において金融庁は、事務局資料として「コロナ後に向けた経済・社会構造の変化とコーポレートガバナンス上の課題」を提出しました。この資料では「コロナ以降の経済・社会構造の変化」と題し、下表のとおり、「コロナ禍により発生・顕在化した企業をめぐる変化」として、①顧客が求める財・サービスの変化、②従業員の働き方の見直しへのニーズの高まりや新たな雇用・人材活用の萌芽、③不確実性の高まりを挙げたうえで、企業には「多様なステークホルダーへの価値提供、社会的課題のビジネスによる解決」が求められるとしています。
コロナ禍により発生・顕在化した
企業をめぐる変化 |
顧客が求める財・サービスの変化 |
| 従業員の働き方の見直しへのニーズの高まりや新たな雇用・人材活用の萌芽 |
| 不確実性の高まり |
| 求められる企業像・企業行動に関する議論 |
多様なステークホルダーへの価値提供、社会的課題のビジネスによる解決 |
また、資料では、上記問題提起を踏まえ、「コロナ後の企業の変革に向けたコーポレートガバナンスの課題」として、「これらに対応して新たな成長を実現するためには、株主はじめ顧客・従業員・地域社会などとの間で企業の変革ビジョンを共有し、迅速・果断な意思決定を通じて変革ビジョンを積極的に実行することが必要」とするとともに、これまでのFU会議等においても指摘されてきた下表(左欄)の5項目をコーポレートガバナンスの課題として挙げています。今後のFU会議におけるCGコードの再改訂議論は、これら5項目をベースに進められるものと考えられます。
| 資本コストを意識した経営 |
現預金保有、政策保有株式の在り方等 |
| 取締役会の機能発揮 |
社外取締役の質・量の向上、ダイバーシティ等 |
| 中長期的な持続可能性 |
サステナビリティ、管理職等におけるダイバーシティ等 |
| 監査の信頼性の確保 |
内部監査部門から経営者及び取締役会等に直接報告を行う体制の構築等 |
| グループガバナンスのあり方 |
グループ全体としての経営の在り方、上場子会社の一般株主保護等 |
資本コスト : 株主など資本提供者の期待利回りのこと。資本コストが小さい=投資家にとってのリスクが小さいということになる。ここで「株主など」としたのは、負債にも資本コストはあるためである。株主資本により資金調達を行った場合のコストが「株主資本コスト」であり、株主資本の提供者である株主が期待する収益率のことを指す。一方、他人資本コストとは要するに借入金の金利を指す。この株主資本と他人資本を合わせた「総資本」のコストが「総資本コスト」である。総資本コストは、株主資本コストと他人資本コストを、株主資本(株式の時価総額)と他人資本(負債総額)の合計額に占めるそれぞれ額で按分(加重平均)した上で合計するため「加重平均資本コスト」、英語では「Weighted Average Cost of Capita=WACC(ワック)」と呼ばれる。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
以下では、上記5つの各項目について直近のFU会議で提起された問題点を整理し、それを踏まえたうえで想定されるCGコード再改訂の方向性について検討します。
1.資本コストを意識した経営
「資本コストを意識した経営」とはすなわち、企業価値の向上としての財務的なリターンを確実に生み出すことを意味しています。FU会議の委員からは「未だに欧米企業のROEは日本企業の2~3倍ある」「日本企業の課題はマージン率の低さである」「資本コストを意識した経営をしている日本企業は半分にも満たない」など、現状に対する不満が示されました。
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(利益/株主資本)(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
CGコード原則1-3(資本政策の基本的な方針)は上場会社に「資本政策の基本的な方針」を説明することを求めています。CGコードの再改訂により、プライム市場上場会社においては、例えば「方針」の重要な要素として資本コストの推計値および資本生産性指標の目標値を設定すること、さらに、同原則を現在は「11」あるコーポレート・ガバナンス報告書(以下、CG報告書)において「特定の事項を開示すべきとする原則」に加え、具体的なコンプライの内容の開示を求めることなどが考えられるでしょう。
資本生産性 : 投下した資本が生み出す付加価値額を示す指標で、「付加価値額/総資本」により計算される。ここでいう総資本は通常は有形固定資産を指す。「資本生産性が高い」ということは、少ない設備で大きな付加価値を生み出しているということである。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
一方、事務局資料に挙げられている政策保有株式(上表の右欄参照)については、前回改訂で原則1-4(政策保有株式)において「保有の適否の検証の内容について開示すべき」旨が追加されるなど全面的な見直しがあったことから、今回の再改訂では大幅な変更は考えにくいと言えそうです。
2.取締役会の機能発揮
CGコードは取締役会の監督機能を重視していますが、その機能の発揮において重要な役割を果たすのが社外取締役です。社外取締役についてFU会議の委員からは、「社外取締役が3分の1に達する企業が増えている実態に合わせるべき」「異業種の経験者など様々な経験を持った社外取締役を選任すべき」など、社外取締役の質・量の確保に向け、企業に一層の取り組みを求める意見が聞かれました。また、取締役の指名・報酬に関する機能である「任意の諮問委員会」についても、「社外過半数を義務化すべき」「(取締役会の)実効性評価の対象とすべき」など厳しい注文が相次ぎました。
CGコード原則4-8(独立社外取締役の有効な活用)では、「少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は(中略)十分な人数の独立社外取締役を選任すべき」としていますが、ここでいう「必要と考える上場会社」が「プライム市場上場会社」と読み替えられるのではないでしょうか。プライム市場上場会社の指名・報酬委員会については、「社外取締役が委員の過半数を占めていること」「社内・社外取締役が同数の場合は、委員長を社外取締役とすること」など、独立性の向上が求められる可能性があります。補充原則4-11③が求める「取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示」する対象が、任意の指名・報酬委員会にまで拡大されることも考えられます。
3.中長期的な持続可能性
FU会議の委員の間では、持続可能な成長のためには管理職等におけるダイバーシティ(多様性)が重要であるという認識は一致していますが、そのうちジェンダーについては、「多様性の重要さは女性に限った話ではない」「男女を問わず働きやすいことが必要」など、より幅広い観点で捉えるべきである旨の指摘がありました。一方、持続可能性の議論においてしばしば登場する「ステークホルダー重視」という視点については、「既にCGコードはステークホルダーを重視している」「日本企業はステークホルダーの前に株主の期待に応えていない」「耳に心地よいステークホルダー重視に逃げてはいけない」など、慎重な見解が大勢を占めました。
上記のとおり、ジェンダーについて委員からは幅広い観点で捉えるべきという発言が目立ちましたが、わが国の社会的課題を鑑みると、やはり女性にフォーカスした再改訂が実施される可能性は高いと思われます。具体的には、CGコード原則2-4(女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保)は「社内における女性の活躍促進を含む多様性の確保を推進すべき」としていますが、プライム市場上場会社に対しては、例えば女性の活躍促進を中心とした多様性の推進について取締役会が方針を決定、かつ実施状況を確認すべきとされることが考えられます。また、取締役会に「ジェンダーや国際性を含む」多様性を求める原則4―11(取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件)においても、女性の取締役(社内・外を問わず)を「1名以上選任すべき」とされることが考えられます。
4.監査の信頼性の確保
事務局資料が示した「内部監査部門から経営者及び取締役会等に直接報告を行う体制の構築」(ダイレクト・レポーティング、デュアル・レポーティング)については、委員から特段の発言はありませんでした。一方、内部統制の重要な一部であるリスクマネジメントについて、「企業経営における不確実性が高まっている」「内部統制の強化やBCPの整備は喫緊の課題」といったコメントがありました。
BCP : Business Continuity Plan(事業継続計画)の略で、災害や事故などの予期せぬ出来事が発生した際に、限られた経営資源で事業活動を継続あるいは短期間で再開するため、事前に策定しておく行動計画のこと。防災計画が被害を最小限にするための「事前対策」であるのに対して、BCPは被害を受けてしまった後の「事後対応力」を備える取り組みと言える。(文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム)
ダイレクト・レポーティングについては、「取締役会は(中略)内部統制やリスク管理体制を適切に整備すべき」ことを求めるCGコード原則4―3(取締役会の役割・責務(3))に新たな補充原則を追加する形で盛り込まれることも考えられます(現在の補充原則は4つ)。また、経営者のみならず取締役会など監督サイドも直接報告の対象とする「デュアル・レポーティング」についても、同様に原則4―3もしくは原則4-13(情報入手と支援体制)における新たな内容とすることも考えられます。一方、リスクマネジメントに関する発言はあくまで重要性を確認するものであることから、CGコードの再改訂に盛り込む要素としては馴染まないかもしれません。
5.グループガバナンスのあり方
グループ全体としての経営の在り方についてFU会議では、「M&Aや事業撤退を促進すべき」「複数事業の組み合わせは企業価値向上につながらなければならない」など、事業ポートフォリオ経営の徹底を求める声が上がりました。また、上場子会社の一般株主保護等、すなわち「親子上場問題」についても、「過渡的なものを除いて認められない」「将来的に0%か100%の方向性を開示させるべき」といった厳しい意見が聞かれました。
「グループ全体としての経営の在り方」に関連したところでは、現行のCGコード原則5―2(経営戦略や経営計画の策定・公表)が、経営戦略や経営計画の策定・公表に当たっては「事業ポートフォリオの見直し」「経営資源の配分」について説明することを求めていますが、CGコードの再改訂では、原則3―1(情報開示の充実)の(ⅰ)が求める経営戦略・経営計画の開示において、プライム市場上場会社は事業ポートフォリオや資源配分の方針まで含めるべきとすることが考えられるでしょう。親子上場については、親会社との間で利益相反取引が行われていないかといった観点からの取締役会の監督機能を強化するため、例えばCGコード原則4―8(独立社外取締役の有効な活用)で、「上場子会社においては取締役会の過半数は独立社外取締役を選任すべき」といった内容が追加されることも予想されます。
ここまでCGコード再改訂の方向性について検討してきましたが、再改訂議論が進む中で、一部の項目についてはハード・ロー(法令等)で義務付けるべきとの声が高まる可能性もあるという点、留意が必要です。具体的には「女性活用の促進」と「親子上場」がその対象になることが想定されます。未対応でも適切にエクスプレインすれば許容されるCGコードとは異なり、上場規則などハード・ローによる規制となれば、影響は格段に大きくなります。女性取締役を未選任の会社および上場子会社においては、その可能性も視野に入れて対応を検討しておく必要があるでしょう。