2020/01/28 親会社が赤字体質の企業グループによる“新”連結納税制度導入の留意点(会員限定)

既報のとおり、連結納税制度の大幅な見直しが令和2年度(2020年度)税制改正で実施される(新たな連結納税制度の概要は2019年2月26日のニュース『導入検討の価値あり 「連結納税制度」が大幅に使いやすく』参照、詳細は令和2年度税制改正大綱105ページ参照)。「仕組みが複雑すぎて経理部門の負担が大きい」といった理由から、上場企業でさえ導入を見送るところが少なくなかった連結納税制度だが、今回の見直しにより思い切った簡素化が図られ、名称も「グループ通算制度」へと変更される(以下、「グループ通算制度」という)。

連結納税制度 : 100%の持株関係にある企業グループに属する各企業の所得金額(≒黒字)と欠損金額(≒赤字)を通算して「連結所得金額」を計算し、この連結所得に対する法人税を親会社がまとめて納税する仕組み。例えば親会社の所得金額が100、子会社の欠損金額は100である場合、連結納税制度を採用していなければ親会社は所得金額100に対する法人税を負担しなければならないが、連結納税制度を採用していれば、親会社の所得金額100は子会社の欠損金額100と相殺され、税負担はゼロとなる。
税制改正大綱 : 税制改正は毎年1回行われるのが通常だが、翌年度の税制改正の内容を大まかにとりまとめたものが税制改正大綱であり、毎年12月中旬頃に政府(与党)が公表する。

グループ経営が一般化する中、グループ内の各社の黒字と赤字を相殺してグループ全体の税負担を減らす効果があり、かつ連結納税制度よりも簡素なグループ通算制度の導入を検討する企業グループは少なくないと思われるが、導入にあたりボトルネックとなりかねないのが、多額の税務上の繰越欠損金(以下、「繰越欠損金」という)を有する親会社の存在だ。

税務上の繰越欠損金 : 法人税の計算上の利益(益金)を損失(損金)が上回った場合に生じるものであり、翌事業年度以降に繰り越して(10年間繰越が可能)、所得(益金-損金)から控除することができる。ただし、資本金が1億円超の法人では、繰越欠損金を控除できるのは「所得の50%」が上限となる。

近年、CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)による投資が活発化しているが、投資を行う機会が増えれば、投資に失敗して損失を被るリスクも高まる。通常、投資を行うのはグループの親会社であり、その意味では親会社は「コストセンター」とも言える。また、親会社は子会社からの配当を受け取る立場にあるとはいえ、法人税の計算上、子会社からの配当は基本的に益金(≒売上)に算入されない(詳細は2018年12月10日のニュース「受取配当の益金不算入制度から見た政策株保有のデメリット」参照)。これらはいずれも、親会社が必然的に繰越欠損金を抱えやすくなる一因となっている。

CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル) : 投資を本業としない事業会社が自己資金をベンチャー企業に投資すること(またはその組織)。CVCは社内の投資部門や子会社が運営するか、外部のVC(Venture Capital=ベンチャーキャピタル)に運営を委託することが多い。CVCもVCもベンチャー企業に投資を行うという点では同じだが、VCが投資先の将来的な上場によるキャピタルゲインを得ることを目的としているのに対し、CVCは自社とシナジーのあるベンチャー企業に投資し、協業等により本業の成長や拡大を目的としている点、大きく異なる。

連結納税制度では、同制度を導入した際に親会社が有していた繰越欠損金は制限なく連結グループ全体の所得と相殺できることになっている。一方、グループ通算制度においては、親会社が有していた繰越欠損金のうち連結グループ全体の所得と相殺できる金額は「親会社の所得金額(≒利益)」が上限となる。例えば50億円の繰越欠損金を有する親会社の所得金額が10億円しかなければ、繰越欠損金のうち連結グループ全体の所得と相殺できる金額は最大でも10億円が上限となる(残りの40億円は翌期に繰り越し)。親会社が多額の繰越欠損金を抱えている中で、連結グループ全体の所得との相殺が制限されるとなれば、グループ通算制度の導入に躊躇する企業が出て来る可能性もあろう。

ただし、これには一つ“抜け道”がある。それは、グループ通算制度が施行される「令和4年(2022年)4月1日以後に開始する事業年度」前に現行の連結納税制度を導入することだ。一度連結納税制度を導入すれば、自らやめると言わない限り、「令和4年4月1日以後に開始する事業年度」をもって自動的にグループ通算制度に移行することになるが、その際、親会社の繰越欠損金については連結納税制度の取り扱い(すなわち、制限なく連結グループ全体の所得と相殺可)が踏襲されることになる。

実際、この手法を実行するべく検討に入っている企業が複数確認されている。選択如何によっては納税額に巨額の差が出てくるだけに、現時点で連結納税制度を導入しておらず、かつ今後グループ通算制度の導入を視野に入れている企業の経営陣は検討を急ぐ必要があろう。

2020/01/27 ESG情報の開示フレームワーク、統一へ

ESG投資の活発化とともに、投資家から企業に対し、ESG情報の開示の充実を求める声が高まっている。ただ、その場合に企業にとって悩ましいのが、開示の手法や内容だ。

ESG投資 : ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。ESG投資とは文字通り「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資することをいう。

現状、企業がESG情報を開示するうえでの拠り所となる主な「開示フレームワーク」としては、・・・

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2020/01/27 ESG情報の開示フレームワーク、統一へ(会員限定)

ESG投資の活発化とともに、投資家から企業に対し、ESG情報の開示の充実を求める声が高まっている。ただ、その場合に企業にとって悩ましいのが、開示の手法や内容だ。

ESG投資 : ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。ESG投資とは文字通り「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資することをいう。

現状、企業がESG情報を開示するうえでの拠り所となる主な「開示フレームワーク」としては、TCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)、GRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)、SASB(米国サステナビリティ会計基準審議会   詳細は2018年11月8日のニュース「既に投資家が活用 米国SASBが業種別ESG開示基準の正式版を公表」参照)などがあり、若干“乱立”気味とも言える状況となっている。この状況は、企業に「どのフレームワークを活用するべきか」という迷いを生むとともに、投資家にとっても問題となる。異なるフレームワークに基づき開示されたESG情報を比較することは極めて困難だからだ。

TCFD : 主要国の金融当局(中央銀行、金融監督当局、財務省)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)などで構成される国際的な金融システムの安定を目的とする組織である金融安定理事会(FSB)が設置した組織。TCFDとは「Task Force on Climate-related Financial Disclosures」の略である。TCFDが2017年6月に公表した最終提言は、気候変動リスクに関する情報開示のフレームワーク(枠組み)のグローバルスタンダードになりつつある。この開示フレームワークは制度開示書類、つまり日本においては有価証券報告書への適用を想定しているが、日本においては現状、金融庁が気候変動リスクについて「開示義務化の予定はない」と明言しており、有価証券報告書だけでなく、統合報告書など投資家向け任意開示書類をも含めた開示媒体への“自主的な”記載が推奨されている。
GRI : GRI(Global Reporting Initiative)は地球環境問題の深刻化を背景に1997年、国連傘下のNGOとして設立された。当初は環境報告書の国際基準を策定することを目的にしていたが、その後、「経済」「環境」「社会」の3つの側面から企業を評価するトリプルボトムラインの考え方を採用することで、GRIのガイドラインは持続可能性(サステナビリティ)報告書の指針となった。
SASB : 2012年に設立された団体で、「FASB(財務会計基準審議会(ファスビー)」の“サステナビリティ版”と言われ、「サスビー」と呼ばれる。企業が開示すべき非財務情報を業種ごとに公表している。正式名称は「Sustainability Accounting Standards Board」

こうした中、各国の首脳や大物実業家が一堂に会し世界経済に強い影響力を持つダボス会議(今年は2020年1月22日開催)の場で、ESG情報に関する新たな開示フレームワークの草案が公表された。この新たな開示フレームワークをとりまとめたのは、ダボス会議の母体である世界経済フォーラムの諮問機関である国際ビジネス評議会(IBC)である。同評議会は世界的企業のCEO約120名で構成されており、国際社会におけるビジネス上の課題解決策を提案する機能を持つ。同評議会が作成し、ダボス会議の場で公表された新たな開示フレームワークは、ESG情報開示のグローバルスタンダードとなる可能性がある。ダボス会議で実施されたアンケートでも回答者のおよそ3分の2がIBCの取り組みを支持している。同案は今後修正を経て、来年(2021年)から発効される予定。企業にとって、新たな開示フレームワークに対応するために残された時間は多くない。

ダボス会議 : 1971年に発足した非営利財団「世界経済フォーラム」(本部:スイス・ジュネーブ)が毎年1月に開催する年次総会のこと。スイスの有名な保養地であるダボスで開催されることから「ダボス会議」との名前が付いた。ダボス会議には、日本の首相を含む各国を代表する政治家や実業家が一堂に会し、世界経済や環境問題など幅広いテーマについて議論するだけに、同会議における決定・公表事項は世界に強い影響力を持つ。

新たな開示フレームワークでは、上述したTCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)、GRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)、SASB(米国サステナビリティ会計基準審議会)など既存の開示フレームワークの指標を統合したうえで、欧州委員会が策定したEUタクソノミー(サステナビリティ活動に関する分類基準)も考慮して開示すべき情報が統一化されている。新たな開示フレームワークの内容は「ガバナンス」「地球環境」「人々」「繁栄」の4つで構成される。各項目について求められる開示内容は下表のとおり。

欧州委員会 : 欧州連合(EU)の政策執行機関。
タクソノミー : 分類、分類法

開示項目 内容
ガバナンス 組織の目的、取締役会の構成、報告内容を確定する過程で特定した重要課題とそれら課題がステークホルダーに与える影響などの開示が求められる。新たな開示フレームワークでは、「ガバナンス」を企業の長期的価値創造及びステークホルダーへの説明責任義務の基礎と位置付けている。
地球環境 温室効果ガス排出量、水資源の使用状況、温室効果ガス削減目標およびゴミ廃棄が環境に与える影響(科学的根拠に基づくもの)などの開示が求められる。バリューチェーン全体を考慮して環境負荷を分析する必要がある。
人々 基本給および報酬総額の男女比、ダイバーシティに関する情報、従業員1人当たりの年間平均研修時間、労働安全衛生に関する情報、児童労働や強制労働の著しいリスクがある事業所およびサプライヤーなどの開示が求められる。企業の成功は、従業員、顧客、取引先等の成長、繁栄、幸福なくしてはあり得ないとの考え方がベースにある。
繁栄 実質所得の上昇、社会との共有価値を生み出すためのビジネスモデルの変革、従業員の新規雇用の状況や離職率、売上高に対する研究開発費比率、コミュニティ投資の状況など、企業による社会の繁栄に向けた取り組みの開示が求められる。

バリューチェーン : 購買した原材料に対し、技術開発、生産、販売、人材育成といった一つひとつの企業活動が価値を付加し、最終的に顧客に対する価値が生み出されるという一連の流れのこと■

開示されるESG情報の統一化が実現すれば、投資家は各企業のESG情報を同じ物差しにより横並びで比較することができるようになる。これによりESG投資が加速する可能性もありそうだ。

2020/01/24 未払賃金支払い、4月以降は3年分に セブンイレブンは全額支払いへ

昨年(2019年)12月、セブンイレブンの本部が給与計算プログラムのミス()により店舗従業員の残業手当のうち一部を支払っていなかったとして不足分を過去に遡り支払う旨を公表し、話題を呼んだ。未払額は2001年以降だけで4億9千万円にのぼるが、セブンイレブンは2001年より前の未払額もすべて支払いに応じる姿勢を見せている。

 「精勤手当」「職責手当」に対する残業手当の計算にあたっては、本来であれば「精勤手当」「職責手当」を月所定労働時間で除してこれに残業時間を乗じ、さらに1.25を乗じるべきところ、0.25しか乗じていなかった。

賃金請求権の消滅時効は、労働基準法115条で「2年間(退職手当については5年間)」と定められている()。すなわち、法律上は2年分についてのみ支払不足額を支払えば足りるが、セブンイレブンは今回の支払不足は計算プログラムの設定ミスが原因であることから、この消滅時効は援用せず、過去の支払不足分全額の支払いに応じる方針だ。

 民法上、一般債権の消滅時効は10年(民法167条)とされるが、「月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権」については1年の短期消滅時効(民法174条:使用人の給料等に関する短期消滅時効)が定められている。ただ、労働者にとって重要な給料の請求権の消滅時効が1年だと短すぎて労働者の保護に欠け一方、10年になると長すぎて使用者にとって酷であり、取引安全に及ぼす影響も少なくないとして、労働基準法115条では「2年間(退職手当については5年間)」と定められている。

もっとも、この賃金請求権の消滅時効期間は近いうちに改正される見込みとなっている。・・・

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2020/01/24 未払賃金支払い、4月以降は3年分に セブンイレブンは全額支払いへ(会員限定)

昨年(2019年)12月、セブンイレブンの本部が給与計算プログラムのミス()により店舗従業員の残業手当のうち一部を支払っていなかったとして不足分を過去に遡り支払う旨を公表し、話題を呼んだ。未払額は2001年以降だけで4億9千万円にのぼるが、セブンイレブンは2001年より前の未払額もすべて支払いに応じる姿勢を見せている。

 「精勤手当」「職責手当」に対する残業手当の計算にあたっては、本来であれば「精勤手当」「職責手当」を月所定労働時間で除してこれに残業時間を乗じ、さらに1.25を乗じるべきところ、0.25しか乗じていなかった。

賃金請求権の消滅時効は、労働基準法115条で「2年間(退職手当については5年間)」と定められている()。すなわち、法律上は2年分についてのみ支払不足額を支払えば足りるが、セブンイレブンは今回の支払不足は計算プログラムの設定ミスが原因であることから、この消滅時効は援用せず、過去の支払不足分全額の支払いに応じる方針だ。

 民法上、一般債権の消滅時効は10年(民法167条)とされるが、「月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権」については1年の短期消滅時効(民法174条:使用人の給料等に関する短期消滅時効)が定められている。ただ、労働者にとって重要な給料の請求権の消滅時効が1年だと短すぎて労働者の保護に欠け一方、10年になると長すぎて使用者にとって酷であり、取引安全に及ぼす影響も少なくないとして、労働基準法115条では「2年間(退職手当については5年間)」と定められている。

もっとも、この賃金請求権の消滅時効期間は近いうちに改正される見込みとなっている。まず、特別法である労働基準法の一般法にあたる民法が2017年に改正され、使用人の給料等に関する短期消滅時効(1年間)の規定が廃止されるとともに、消滅時効期間が整理され、①債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年間行使しないとき、または②権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年間行使しないとき――には、当該債権が時効によって消滅するとされた(民法の消滅時効の改正については賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会が2019年7月1日に公表した賃金等請求権の消滅時効の在り方について(論点の整理)の18ページを参照。また民法改正への対応については【2019年11月の課題】改正民法への対応 を参照)。

特別法 : 一般法とはその分野に対して一般的に適用される法律であり、適用対象がより特定されているのが特別法である。特別法がない分野では一般法が適用されるが、特別法がある場合、特別法は一般法に優先して適用されることになる。例えば一般法と特別法とで法が異なった規律を定めている場合、特別法の適用を受ける事象には一般法の適用が排除されることになる。

改正民法の施行期日は2020年4月1日であるため、その特別法である労働基準法の賃金請求権の消滅時効についても民法改正を機に改正すべきかどうか検討することが喫緊の課題となっていたところ。この点については、厚生労働省に設置された「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」が議論を重ね、2019年7月1日に「賃金等請求権の消滅時効の在り方について(論点の整理)」をとりまとめた後、議論の場を同省の労働政策審議会(労働条件分科会)に移し、さらなる検討を行っていた。結論としては、賃金(退職手当を除く )の請求権の消滅時効期間を、契約上の債権の消滅時効期間とのバランスも考え「5年間」に延長するとともに、消滅時効の起算点とは「請求権を行使することができる時」であることを明確化するとの方針を固めた(労働基準法の一部を改正する法律案要綱を参照)。厚生労働省は、2020年1月10日に労働政策審議会が改正労働基準法案について「おおむね妥当」との答申を行ったのを機に、改正労働基準法を改正民法の施行期日にあわせて2020年4月に施行できるよう、今通常国会に改正法案を提出する見通し。

 退職手当の請求権の消滅時効期間については、現行の消滅時効期間(5年)が維持されることとなる。また、年次有給休暇請求権も、「年休権が発生した年の中で確実に取得することが要請されている」ことを理由に、現行の消滅時効期間(2年)が維持される。

なお、改正労働基準法案によると、消滅時効期間の延長は段階的に行われ、当分の間、賃金(退職手当を除く) の請求権の消滅時効期間は「3年間」とする。このように「5年間」を原則としつつ当分の間は「3年間」としたのは、現行労働基準法109条に規定する記録の保存期間が「3年間」とされていることと平仄を合わせるため。企業の記録保存に関する事務負担を増加させることなく、労働者保護の実現を図る。「当分の間」とは改正法の施行から「5年」とされており、5年経過後の運用状況を勘案しつつ、消滅時効期間を原則通り5年に延ばすかどうかが再検討されることとなる。

未払い賃金の存在が発覚した際、消滅時効の規定を援用するのか、あるいはセブンイレブンのように消滅時効の規定を援用しない場合にはいつまで遡って支払うのかは企業ごとの判断となる。ただし、仮に消滅時効の規定を援用するとしても、2020年4月以降に生じた未払い賃金は最低でも3年分について支払いリスクを負うことになる点には留意したい。

賃金請求権の消滅時効が問題になるのは、「本来法律に基づいて支払うべき割増賃金が未払いの場合や名ばかり管理職で割増賃金が未払いになっている場合のように、法令に違反した結果として賃金支払義務が発生しているのに履行されていないようなとき」が多い(上記「賃金等請求権の消滅時効の在り方について(論点の整理)」8ページを参照)。経営陣としては、そもそも未払い賃金が発生しないようなコンプライアンス体制の確保に努めるとともに、セブンイレブンのような給与計算プログラムのミスが生じていないか、再点検しておく必要があろう。

名ばかり管理職 : 自社独自の基準で「管理職」とされているものの、労働基準法上の「管理監督者」には該当しない従業員のこと。労働基準法上の管理監督者には残業代(割増賃金)の支払いをする必要がないことを悪用するめ、実態としては労働基準法上の管理監督者としての業務を行っていないにもかかわらず、 肩書だけは「管理職」とすることから、“名ばかり”と形容されている。

 

 

 

 

 

2020/01/23 「プライム市場上場企業」でいられるのはいつまで?

現在検討が進んでいる東証の市場区分の見直し議論においては、東証一部上場企業が新市場区分の最上位市場である「プライム市場」に移行することができるかどうかが最大の焦点となっていたところだ。プライム市場に上場するには、流通時価総額(100億円目途)と流通株式比率(現行35%)の2つの基準をクリアする必要があるが、既報のとおり、これらの基準には「経過措置」が設けられ、流通時価総額基準を満たせない企業については「より高いガバナンスについてのコミットメント」、流通株式比率基準を満たせない企業については「流通株式比率向上に向けた取組等の策定・開示」を条件に、 “プライム市場上場企業”となれることとなった(2019年12月25日のニュース「CGコードの一部が強制適用の可能性、ジャスダック企業にもフル適用へ」参照)。

流通時価総額 : 流通株式数(上場株式数から「役員所有株式数」「自己株式数」「上場株式数の10%以上を所有する者が所有する株式数」を控除した数を流通株式数)に時価を乗じた額
流通株式比率 : 流通株式数を上場株式数で除した値

もっとも、これらはあくまで「経過措置」であり、「当分の間」プライム市場への上場を認めるために手当てされたものに過ぎない。そこで気になるのが、・・・

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2020/01/23 「プライム市場上場企業」でいられるのはいつまで?(会員限定)

現在検討が進んでいる東証の市場区分の見直し議論においては、東証一部上場企業が新市場区分の最上位市場である「プライム市場」に移行することができるかどうかが最大の焦点となっていたところだ。プライム市場に上場するには、流通時価総額(100億円目途)と流通株式比率(現行35%)の2つの基準をクリアする必要があるが、既報のとおり、これらの基準には「経過措置」が設けられ、流通時価総額基準を満たせない企業については「より高いガバナンスについてのコミットメント」、流通株式比率基準を満たせない企業については「流通株式比率向上に向けた取組等の策定・開示」を条件に、 “プライム市場上場企業”となれることとなった(2019年12月25日のニュース「CGコードの一部が強制適用の可能性、ジャスダック企業にもフル適用へ」参照)。

流通時価総額 : 流通株式数(上場株式数から「役員所有株式数」「自己株式数」「上場株式数の10%以上を所有する者が所有する株式数」を控除した数を流通株式数)に時価を乗じた額
流通株式比率 : 流通株式数を上場株式数で除した値

もっとも、これらはあくまで「経過措置」であり、「当分の間」プライム市場への上場を認めるために手当てされたものに過ぎない。そこで気になるのが、「当分の間」とはいつまでのこと指すのかという点だ。

現時点では具体的な年数等は示されていないが、当フォーラムの取材によると、市場制度に関する「次回の改革時」までということになる模様。次回の改革がいつになるかは分からないが、この変化の激しい時代においては、それが案外早い時期にやってきても不思議ではない。経過措置の適用を受けてプライム市場に移行する企業は、できるだけ早く流通時価総額基準と流通株式比率基準を満たせるよう努める必要がある。

また、経過措置によりプライム市場に上場している企業は、TOPIXの対象外となることも確認されている。これは、新TOPIXが浮動株時価総額を基準とすることに平仄を合わせるためだと思われる。すなわち、新TOPIXが浮動株時価総額に着目する以上、肝心の浮動株に着目した流通時価総額や流通株式比率がプライム市場の要件を満たさない企業は新TOPIXの対象とするべきではないということだろう。プライム市場に上場していても新TOPIXの対象銘柄に選定されなければインデックス投資の対象にもなりにくく、プライム市場に上場している意義は半減しかねない。この点を考えても、「経過措置によるプライム市場企業」からは一日も早く脱したいところだ。

浮動株 : 市場に出回っている株式のこと
インデックス投資 : 株価指数(インデックス)を構成する銘柄を一定の条件でポートフォリオに組み入れるなどして、対象となる株価指数と同じ値動きを目指す運用方法のこと。運用会社があまり裁量を加えない運用方法である「パッシブ(消極的な)運用)の一つである。ファンドマネジャーが独自に銘柄を選択して運用する「アクティブ(積極的な)運用」とパッシブ運用は対極の関係にある。

なお、現行TOPIXから新TOPIXへの移行時の対象銘柄の入れ替えは、一定の時期に機械的に行われるわけではなく、数年かけて徐々に実施されることになる。

2020/01/22 外国人株主比率64.4%の企業、ISSの反対推奨受けても社長の賛成率96%

2019年の株主総会において議決権行使助言会社大手のISSやグラスルイスの反対推奨を受けた上場会社の対応事例をレポートするシリーズの第四弾では、外国人株主比率64.4%の企業が、ROEの低さから経営トップの選任議案についてISSから反対推奨を受けたにもかかわらず、96%の賛成率を確保した事例を取り上げる。・・・

ROE : Return On Equity=株主資本利益率(利益/株主資本)

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2020/01/22 外国人株主比率64.4%の企業、ISSの反対推奨受けても社長の賛成率96%(会員限定)

2019年の株主総会において議決権行使助言会社大手のISSやグラスルイスの反対推奨を受けた上場会社の対応事例をレポートするシリーズの第四弾では、外国人株主比率64.4%の企業が、ROEの低さから経営トップの選任議案についてISSから反対推奨を受けたにもかかわらず、96%の賛成率を確保した事例を取り上げる。

ROE : Return On Equity=株主資本利益率(利益/株主資本)

第一弾 2020年1月14日 「ISSの反対推奨を受けても85%の賛成率
第二弾 2020年1月16日 「経営トップの選任議案への賛否で議決権行使助言会社の判断が二分
第三弾 2020年1月20日 『「借入額僅少」「主幹事証券退任から15年超」でも独立性なし

電池・電池材料メーカーのダブル・スコープは時価総額400億円弱とそれほど大きくないが、外国人株主比率が64.4%に達しており、株主構成は高度にグローバル化していると言える。そのうち17.0%は友好的アクティビストを標榜するタイヨウ・ファンド・マネッジメント・カンパニー・LCCが保有しているが、これを除いても議決権の約半数は外国人株主が占めていることから、同社は議決権行使助言会社の影響を大きいく受けやすいと考えられる。なお、国内系のアクティビストであるストラテジックキャピタルも同社株式を保有している模様だ。

ダブル・スコープは2019年3月5日、「ISS レポートに対する当社見解について」と題するリリースを公表した。これは、代表取締役社長である崔元根氏および社外監査役である李俊範氏の再任議案に対してISSが反対推奨したことについて、自社の見解を株主に説明しようとしたものである。

崔氏が反対推奨された理由について本リリースは、「ISSの定める過去五年間の平均ROEが5%を下回っており、経営トップとして責任を負うべきであるため」であることを明らかにしている。ダブル・スコープのROEは直近が▲7.5%、過去5年平均が3.6%であり、「共に5%未満の場合は経営トップの選任議案に反対推奨する」というISSの助言基準に抵触する。これに対して同社は、「数年前より本格的にリチウムイオン電池メーカーとともに電気自動車向けリチウムイオン電池の開発に取り組んで」おり、「2019年からは欧州自動車向けの新規販売も始まり、昨年までの投資資金を回収する段階に入ることで利益性の改善」を図ることを説明、株主に対し、引き続き崔氏を経営トップとして信任するよう求めた。

ROE : Return On Equity=株主資本利益率(利益/株主資本)

李氏の選任議案への反対理由については、「あずさ監査法人での勤務経験があり、当社の会計監査人があずさ監査法人であることから、ISSの定める独立性を満たしていないため」と説明している。しかし、この点について同社は、李氏はセンチュリー監査法人に入社後、合併によって新日本監査法人に所属、同監査法人を退所して現在に至るとした上で、その後に設立されたあずさ監査法人での勤務経験はなく、「センチュリー監査法人(合併後、新日本監査法人)での勤務経験が、あずさ監査法人での勤務経験にあたるとの本レポートの見解は適切ではない」として、同氏の独立性には問題がないことを主張している。

結果としての賛成率は崔氏が96.0%、李氏が87.2%と、同社の外国人株主比率を考えればかなり健闘したと評価できる。同社の時価総額規模を考え合わせると、おそらく同社株主である海外投資家はアクティブ運用スタイルをとっているところが中心とみられる(時価総額が大きいと様々なインデックスに組み込まれるため、パッシブ運用比率が高まる傾向がある)。アクティブ投資家は議決権行使に際して会社側(経営サイド)に理解を示すことが多く、本件においても、ISSの反対推奨にかかわらず信任票を投じた投資家は少なくなかったものと推察される。本事例を見ても、アクティブ投資家である株主が多い中堅規模の上場会社においては、反駁リリースや対話など株主に対する直接的な働きかけの有効度は高いと言えよう。

アクティブ運用 : 銘柄を選別し、魅力のある銘柄を購入する一方で、見劣りする銘柄を売却するなどして利益を得ようとする投資手法(以下、アクティブ運用)をとる投資家のこと。アクティブ運用はパッシブ運用の対極の概念であり、運用担当者(ファンド・マネージャー)が、株式市場や投資銘柄などを調査し、今後の動向を予測することでポートフォリオを決定する。市場の平均的な収益率をベンチマークとし、これを上回る運用成果を上げることを目標にすることが多い。
パッシブ運用 : パッシブ(「消極的」なという意味)運用とは、東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法であり、そのような運用手法を採用する投資家をパッシブ投資家という。ファンドマネジャーが独自に銘柄を選択して運用する「アクティブ運用」とは対極の関係にある。

また、両氏の賛成率に10ポイント近い差がついたことも注目される。これは、同じISSの反対推奨であっても、経営トップの選任議案の方が社外監査役の同議案よりも、反駁レターや対話などによって覆しやすい、ということを示している。ROEなど業績については時期、タイミングなどにも左右されるため、“長い目”で信任を与えるという投資家は少なくない。議決権行使全般にはISSの助言を採用しつつ、ROEなど業績については独自に判断するという投資家も存在するようだ。一方で、社外監査役の独立性といったガバナンス・マターについては、助言機関と投資家の間で見解のズレが小さい。会社側としては、議案の種類も勘案してエンゲージメント戦略を構築する必要があるだろう。

2020/01/21 IFRSにおける「のれん償却」の最新動向

M&Aなどにおいて生じる「のれん」は、日本の会計基準では最長20年の償却期間にわたって償却(費用計上)しなければならないが、現状、IFRS(国際会計基準)では償却しなくてよいことになっており、このことは企業がIFRSを採用する大きなインセンティブ(のれんの償却費計上による利益の減少を回避できる)の一つとなっている。こうした中、IFRSを策定している国際会計基準審議会(IASB)で、のれんの償却義務付けが検討されていることは2018年10月3日のニュース『IFRSにおける「のれん」の償却義務化議論の方向性』でもお伝えしたとおりだ。2018年7月にロンドンで開催されたIASBでは、「のれんの償却」を検討することについて、14人のIASBメンバーのうち・・・

のれん : 企業を買収したり合併したりする際における「支払対価-企業の時価純資産」こと(これがプラスの場合、「正ののれん」という。以下は「正ののれん」を前提とする)。のれんは「財務諸表には表れない企業の価値」と言える。つまり、のれんは投資原価の一部を構成している。このため、そこで日本の会計基準では、のれんについては「20年以内の期間」で償却し、のれんの価値が下がった場合には「減損」を行うことになっている。一方、IFRSおよび米国会計基準では、「のれん」の定期償却は認められていない(減損処理しか認められない)。そこには、利益の平準化を好む日本型経営と、業績好調時にはできるだけ利益を出し、逆に業績悪化時にはすべて“膿”を出すという欧米型経営の発想の違いがある。

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