これまで3回にわたり、時価総額上位企業の2019年6月株主総会において反対行使(株主提案議案については賛成行使)が目に付いた議案を分析してきたが、今回は・・・
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これまで3回にわたり、時価総額上位企業の2019年6月株主総会において反対行使(株主提案議案については賛成行使)が目に付いた議案を分析してきたが、今回は・・・
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これまで3回にわたり、時価総額上位企業の2019年6月株主総会において反対行使(株主提案議案については賛成行使)が目に付いた議案を分析してきたが、今回は時価総額第4位(2019年8月末現在)のNTTドコモをとり上げる。
第一弾 2019年9月5日『独立性の説明なければ「独立性なし」と“推定”される恐れ』
第二弾 2019年9月9日『「独立役員届出書」の内容も議決権行使の判断材料に』
第三弾 2019年9月10日「賛成率2%台の株主提案議案に機関投資家が賛成票」
| 議案 | 内容 | 賛成率 | |
| 第1号議案 | 剰余金の処分 | 配当性向:58.5% | 99.46% |
| 第2号議案 | 取締役4名選任 | 坪内 恒治 | 91.45% |
| 藤原 道朗 | 91.45% | ||
| 立石 真弓 | 94.36% | ||
| 黒田 勝己 | 94.04% | ||
| 第3号議案 | 監査役4名選任 | 【社外】寒河江 弘信 | 78.92% |
| 【社外】梶川 幹夫 | 90.56% | ||
| 【社外】中田 勝巳 | 77.80% | ||
| 【社外】辻山 栄子 | 91.80% | ||
NTTドコモの取締役任期は2年であり、今回は6月をもって退任する社内取締役に代わる4名の新任取締役候補者の選任議案が上程された。いずれも90%台の賛成率で可決されており、ほとんどの国内機関投資家は賛成票を投じたが、三菱UFJ信託銀行と三井住友トラスト・アセットマネジメントは4名全員に反対票を投じたことが確認されている。
三菱UFJ信託銀行は反対理由として「親会社等を有していながら、独立社外取締役が取締役総数の1/3以上選任されていないこと」を挙げている。これは同社の議決権行使基準に沿ったものとなっている。三井住友トラスト・アセットマネジメントは「親会社等を有する企業基準によって反対した」とだけ説明しているが、同社の議決権行使基準でも「親会社等を有する企業において、独立社外取締役が取締役総員数の 1/3以上でない場合、取締役選任に反対する」と明示されており、実質的な反対理由は三菱UFJ信託銀行と同じと言える。
外国人機関投資家に対し強い影響力を持つ議決権行使助言最大手のISSは、「親会社や支配株主を持つ会社において、株主総会後の取締役会に ISS の独立性基準を満たす社外取締役が最低2名いない場合」には経営トップの選任議案に反対するとしているが、NTTドコモは2名の独立役員である社外取締役を確保しており、ISSひいては多くの外国人投資家は同選任議案に賛成したものと推測される。候補者によって賛成率に差がある(坪内氏と藤原氏が91%台、立石氏と黒田氏が94%台)のは、「取締役会における社外取締役の占める割合が3分の1以上」などさらに厳しい議決権行使基準を持つ外国人投資家が、「取締役常務執行役員」候補の坪内氏、藤原氏を経営トップとみなして反対したためかもしれない(立石氏、黒田氏は「取締役執行役員」候補)。親子上場に対しては日本政府からも厳しい目が向けられている(2019年5月7日のニュース「グループ・ガバナンス実務指針案、上場子会社の扱いに“特段の配慮”」、経済産業省のCGS研究会(コーポレート・ガバナンス・システム研究会) が2019年6月28日に公表した「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」の「6 上場子会社に関するガバナンスの在り方」参照)。来年以降の株主総会では反対票を投じる機関投資家が増加する可能性もありそうだ。
支配株主 : 東証の上場規則では、議決権の50%超を有している者や議決権の40%以上を有している者で、かつ、取締役の過半数を派遣していたり重要な財務および事業の方針の決定を支配する契約書が存在していたりする者を指す(東証 有価証券上場規程施行規則3条の2)。上場会社の支配株主自体も上場しているケースを「親子上場」という。「支配株主」以外を「一般株主」という。
社外監査役の候補者については、寒河江氏と中田氏が80%台の賛成率を確保できなかった。両氏は共に親会社であるNTT出身者で、重要な関係会社の社長経験者(寒河江氏はNTTデータマネジメントサービス(株)、中田氏はNTTセキュリティ(株))であったことが影響した。アセットマネジメントOneは「企業からの独立性が十分に確保されていない」として反対しており、ほぼ全ての大手国内機関投資家も同様の理由で反対した模様。
一方、日興アセットマネジメントは両氏ともに賛成票を投じているが、同社の議決権行使基準を見ると「社外監査役の選任については原則として賛成する。ただし、明らかに独立性に欠けると判断される場合は反対する」とされており、少なくとも親会社における現役の役職員ではないことを前向きに評価したということかもしれない。ただし、同社の議決権行使結果の個別開示では、同議案が「顧客指定のガイドラインに基づく行使の結果が、弊社の賛否と異なる場合」に該当したこと、すなわち、アセットオーナーは反対の指図をしたことが示されている。今回の日興アセットマネジメントのような一部の例外はあっても、アセットオーナーを含む大部分の機関投資家が親会社出身の社外役員に対して厳しい目を向けていることは間違いないと言えよう。
周知のとおり、現在政府はコーポレートガバナンス関連の規定を中心に会社法改正を進めており、早ければ2019年秋の臨時国会で成立、来年にも施行される見込みとなっている。今回の会社法改正で、株主総会資料の電子提供制度の導入、社外取締役の選任義務付け、株主提案議案の制限、役員報酬に関する決定方針等に関する開示の充実、D&O保険や会社補償の内容の開示や株主総会での決議の義務付けなどと並び注目されるのが、「株式交付制度」の創設だ(会社法改正の全体像については2019年1月16日のニュース「会社法制(企業統治等関係)部会、会社法見直し要綱案を確定」、【WEBセミナー】~上場会社に求められる対応と優先順位~ 「会社法(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案」のポイント 参照)。
株式交付とは、分かり易く言えば・・・
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周知のとおり、現在政府はコーポレートガバナンス関連の規定を中心に会社法改正を進めており、早ければ2019年秋の臨時国会で成立、来年にも施行される見込みとなっている。今回の会社法改正で、株主総会資料の電子提供制度の導入、社外取締役の選任義務付け、株主提案議案の制限、役員報酬に関する決定方針等に関する開示の充実、D&O保険や会社補償の内容の開示や株主総会での決議の義務付けなどと並び注目されるのが、「株式交付制度」の創設だ(会社法改正の全体像については2019年1月16日のニュース「会社法制(企業統治等関係)部会、会社法見直し要綱案を確定」、【WEBセミナー】~上場会社に求められる対応と優先順位~ 「会社法(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案」のポイント 参照)。
株式交付とは、分かり易く言えば「自社の株式を対価に、“100%子会社でない子会社”を創る手法」と表現することができる。自社株を対価として子会社を創るというと「株式交換」が思い浮かぶところだが、株式交換とはあくまで「100%子会社」を創るための手法であるのに対し、株式交付は100%子会社とすることまでは考えていない場合(例えば議決権の3分の2を取得したい場合)にも使えるという点で、株式交換とは異なる。このように株式交付は他社の株式の相当程度を取得するために使えることから、株式交付を使った株式公開買付(TOB)は「自社株対価TOB」とも言われる。
株式交換 : 100%子会社化を図るための手法の一つ。子会社となる会社の株主が保有している(子会社となる会社の)株式を親会社となる会社が取得し、その代わりに子会社となる会社の株主に親会社となる会社の株式を割り当てる(割り当てる株式数は、株式交換契約によって決められた株式交換比率に基づく)。この結果、子会社の株主はすべて親会社となり(100%子会社化が実現)、子会社の元株主は親会社の株主となる。
株式公開買付(TOB) : 特定の上場会社の株式を、買取り株数・価格・買付期間を公告したうえで、株式市場外で不特定多数の株主から買い集めること。TOBとは「Take-Over Bid」の略。
株式交付は、まだ改正会社法が成立・施行されていない現在でも実施することは可能だが、通常、株式交付を実施した場合には、会社法上の規制(有利発行規制、現物出資規制など)を受けるうえ、被買収会社の株主(TOBに応じた株主)に株式譲渡益課税が生じるという問題もある(詳細は2017年7月19日掲載の(新用語・難解用語)自社株対価TOB 参照)。
有利発行規制 : 有利発行とは、例えば1株当たりの時価が千円のところ5百円で新株を発行するというように、新株や新株予約権の引受人にとって“有利な”価格(無償や時価未満)で新株を発行すること。有利発行が行われると、既存株主の持分は希薄化するため、会社法では株主総会の特別決議(2/3以上の賛成)を求めている(会社法199条2項、3項、200条2項、201条1項、309条2項5号)。
現物出資規制 : 株式交付の対価として現物出資される財産が適正に評価されるよう、裁判所が選任した検査役により現物出資財産の価値の調査を求めるもの(会社法207条)。仮に現物出資財産の値付けが適正に行われていなければ、現物出資した者あるいは現物出資を受け株式を交付した会社の株主が損害を被ることになる。
現在でも、産業競争力強化法に基づき、「特別事業再編計画」と呼ばれる自社株対価TOBを活用した事業再編計画を作成し、当該計画について所管の主務大臣の認定を受け、「認定特別事業再編事業者」となれば(特別事業再編計画の認定要件はこちら)、上述した会社法上の規制や譲渡益課税を回避することが可能だが(2017年9月22日のニュース「自社株対価TOBが各段に実施しやすく」参照)、この認定を受けることは企業にとっては大きな手間かつ高いハードルであり、現状、産業競争力強化法を活用して株式交付を行った企業がごく少数にとどまる原因となっている(平成26~29年度までに特別事業再編計画の認定を受けた事例は5事例、平成30年度以降はゼロ)。
産業競争力強化法 : 日本経済の3つの歪みとされる「過剰規制」「過小投資」「過当競争」を是正するため、収益力の飛躍的な向上に向けた事業再編などの企業の取り組みを後押しする法律。
こうした中、株式交付が“会社法上の制度”となる意義は大きい。というのも、会社法上の制度となれば、もはや産業競争力強化法の認定を得なくても、上述した会社法上の規制(有利発行規制、現物出資規制など)を受けることはなくなるため。
残された問題は税金だ。株式交付が会社法上の制度となっても、税法が改正されない限り、引き続き、産業競争力強化法上の「特別事業再編計画」の認定を受けない限り、被買収会社の株主(TOBに応じた株主)には株式譲渡益課税が生じることになる。
こうした中、経済産業省は8月30日に公表した令和2年度税制改正要望(9ページ)で、「株式を対価としたM&Aの円滑化・迅速かつ大胆な事業再編を円滑化するため、株式を対価としたM&Aにおける被買収会社株主の株式譲渡益について課税繰延の措置を講ずる」ことを求めている。この税制改正要望が実現すれば、自社株式を使ったTOBやM&Aが活発化する可能性がある。
気になるのは、「会社法上の株式交付」と「税法上の株式交付」がイコールとなるのかどうかという点。2019年2月に確定した会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱によると、株式交付とは「株式会社が他の株式会社をその子会社とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付するもの」とされているが、会社法上の株式交付は、対象会社から外国会社が除かれているほか、既存の子会社株式の買い増しにも適用されない。外国会社を対象とすることは、その国の法律が日本と異なる場合があることを考えればやむを得ない面もあるが、既存の子会社株式の買い増しニーズは決して小さくない。改正会社法については(要綱ベースでは)既に内容が確定していることから今更見直しは難しいかもしれないが、せめて「税法上の株式交付」では子会社株式の買い増しが対象となることが期待されるところだ。
2019年9月5日のニュース『独立性の説明なければ「独立性なし」と“推定”される恐れ』、2019年9月9日のニュース『「独立役員届出書」の内容も議決権行使の判断材料に』に続き、今回は・・・
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2019年9月5日のニュース『独立性の説明なければ「独立性なし」と“推定”される恐れ』、2019年9月9日のニュース『「独立役員届出書」の内容も議決権行使の判断材料に』に続き、今回は時価総額第3位(2019年8月末現在)のNTT(日本電信電話)をとり上げ、2019年6月株主総会で反対行使(株主提案議案については賛成行使)が目に付いた議案を分析する。
| 議案 | 内容 | 賛成率 | |
| 第1号議案 | 剰余金の処分 | 配当性向:40.9% | 99.42% |
| 第2号議案 | 取締役3名選任 | 岡 敦子 | 94.40% |
| 【社外】坂村 健 | 98.72% | ||
| 【社外】武川 恵子 | 98.71% | ||
| 第3号議案 | 監査役5名選任 | 井出 明子 | 98.66% |
| 前沢 孝夫 | 98.66% | ||
| 【社外】飯田 隆 | 99.20% | ||
| 【社外】神田 秀樹 | 99.32% | ||
| 【社外】鹿島かおる | 99.20% | ||
| 第4号議案 | 株主提案: 取締役の解任 | 島田 明 | 2.77% |
上表のとおり、会社提案議案はいずれも90%台の賛成率を確保している一方、株主提案議案は3%未満の低賛成率にとどまっている。ほぼ全面的に会社側を支持する議決権行使が行われたと評価することができよう。
高賛成率だった会社提案の中でも、社内取締役の岡氏の選任議案への賛成率は95%を切っており、相対的に反対票が多く集まった形となっている。大手国内機関投資家による議決権行使の個別開示結果からは反対行使は確認されておらず、海外機関投資家の一部が反対票を投じたものとみられる。①取締役任期が2年である(*1)、②株主総会後の取締役会の人数が12人から15人に増加した(*2)、③全取締役15人中、社外取締役は4人と、外国人機関投資家が求める「3分の1以上」という基準に達していない、といったことへの批判票が、唯一の社内取締役候補者である岡氏の選任議案に対して投じられた可能性がある。
参考に、三井住友トラスト・アセットマネジメントの議決権行使基準における上記①~③に関連する方針を確認してみよう。①については、取締役選任議案への言及はないが、定款変更議案に対しては「取締役任期を短縮する場合、賛成」とあり、任期の長期化には反対する姿勢であることがうかがわれる。②については、「取締役員数の増加が著しい場合、取締役選任に反対」とあり、具体的には「10名以上から30%超の増加」が「増加が著しい場合」に該当するとしている(NTTは25%の増加率)。③については、指名委員会等設置会社と監査等委員会設置会社を対象に「独立社外取締役が取締役総員数の1/3 以上いない場合、取締役選任に反対する」との基準を設けている(NTTは監査役会設置会社)。
大手の国内機関投資家は、岡氏を含めほぼ全ての取締役および監査役の選任議案に賛成している一方で、三菱UFJ信託銀行系のMU投資顧問は、社外監査役候補者の飯田氏と鹿島氏の選任議案に反対票を投じたことが確認された。MU投資顧問の議決権行使基準は「社外取締役候補・社外監査役候補が十分な独立性を有していない等、監視機能が期待できないと判断される場合、当該候補者の選任に原則として反対する」としており、両氏はこの基準に抵触したと考えられる。NTTの独立役員届出書の「独立役員・社外役員の独立性に関する事項」を確認すると、7人の社外役員の全てが「j.上場会社の取引先の業務執行者」に該当(〇:現在・最近、△:過去)している。こうした中、MU投資顧問が両氏の選任議案に反対行使をしたのは、飯田氏は弁護士、鹿島氏は公認会計士であり、士業に該当するサービス提供者には厳しい判断となったということかもしれない。
株主提案はNTTの代表取締役副社長(事業戦略担当・リスクマネジメント担当)である島田氏の解任を求めるもので、提案株主が不当な料金請求をされたことを黙認したとして、これを「取締役の忠実義務に違反する行為」であると主張している。野村アセットマネジメントは「会社経営の自由度を低下させると判断される提案」には反対するとしており、ほとんどの国内機関投資家は同様の理由で本株主提案には反対したと思われるが、その中で朝日ライフアセットマネジメントは賛成に回ったことが確認された。同社の議決権行使基準では、「株主価値の増大に寄与するかどうかを基準に、個別に判断する」としか説明されていないが、取締役任期が2年であり同氏の取締役選任議案が提出されていない(適格性を判断する機会がない)ことが、会社側に批判的な議決権行使につながった可能性もありそうだ。
正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と派遣労働者との間の不合理な待遇差を解消する「同一労働同一賃金」を求める改正労働者派遣法がいよいよ来年・2020年4月1日から施行されます。(2019年)7月8日に厚生労働省から派遣労働者の待遇を決定する際の基準となる「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」(詳細は後述)が公表されたことで(同一労働同一賃金に関する資料がまとめて掲載された厚生労働省のウェブサイトはこちら)、企業における同一労働同一賃金への対応も本格化しつつあります。
では、「同一労働同一賃金」を求める改正労働者派遣法に対し、企業はどのような対応をとればよいのでしょうか。これには主に下記の3つの対応が考えられます。
まず「無期転換」から見て行きましょう。既に無期転換を実施した企業は少なからずあります。人材派遣会社(以下、派遣会社)と企業の労働者派遣契約(以下、派遣契約)の期間は1か月、3か月、1年など様々ですが、同一労働同一賃金は「2020年4月1日にかかる契約」から適用されるため、1年間の派遣契約は既に2020年4月1日にかかっていることになります。したがって、このような比較的長期の派遣契約を締結している企業は無期転換を進める必要があったという事情もあります。
「無期転換」は、これまでの有期労働契約の派遣社員を「無期(=期間の定めのない)労働契約」の正社員にすることを意味するため、一見すると労働者にとっては有利な契約変更であるように見えます。しかし、無期労働契約を締結した場合、同一労働同一賃金制度の適用対象外となります。すなわち、たとえ仕事内容がプロパーの正社員と同じであっても、派遣労働者の時と賃金を同額に据え置いたまま、労働契約だけが無期になるという形が基本です。なぜなら、同一労働同一賃金とは、非正規労働者と正規労働者の間の待遇差をなくすことを趣旨とする制度であり、無期転換により正社員となれば、もはや「非正規労働者」ではないからです。無期転換後の労働契約の内容は、無期転換直前の労働条件と同等以上であれば法令上も問題はないことになります。
企業にとっては、期限を設けず雇用し続けなければならないというリスクはありますが、派遣社員をこれまでと同じ賃金で使い続けたいという場合には、無期転換は有力な選択肢となります。この場合、企業は「無期雇用労働者」向けの賃金体系や就業規則を作ることになると考えられます。
派遣社員に対し無期転換を勧める企業が少なくないのは、同一労働同一賃金制度の下では、派遣社員の賃金は上昇する可能性が高いからです。欧米にも同一労働同一賃金という仕組みは存在していますが、仕事内容が同じであれば賃金は何年経っても変わりません。一方、‟日本型同一労働同一賃金“は「非正規労働者の賃金を正社員に合わせる」ことを趣旨としているため、どうしても年功的な要素が入ってきます。したがって、同一労働同一賃金が適用された派遣社員の賃金カーブは年功型の賃金カーブ同様、急なものとなります。この点、日本の同一労働同一賃金と欧米の同一労働同一賃金は異なっています。
日本型の「同一労働同一賃金」を実現するためには、まず「どのような労働」に対し「いくらの賃金」が支払われるのかを特定する必要があります。そこで改正労働者派遣法では、派遣先企業(派遣労働者を受け入れる企業)に対し、自社の従業員の賃金等に関する情報を派遣元である派遣会社に提供することを義務付け、派遣会社はこの情報に基づき、派遣社員と同一の職務・職種に従事する当該派遣先企業の社員の賃金に派遣社員の賃金を合わせるという「派遣先均等・均衡方式」を、同一労働同一賃金を実現する“原則的”な手法として定めています。ただ、この派遣先均等・均衡方式に対しては、そもそも同一の職務・職種が派遣先企業に存在しないことが少なくないほか(同一の職務・職種が自社にないからこそ派遣社員を活用しているとも言えます)、企業側には、賃金表等の内部資料を派遣会社に提供することには抵抗があるといった声や、派遣会社から情報が漏洩するリスクを懸念する声があり、同方式を使う企業はほとんどないと予想されています(ただし、自社グループの派遣会社に対しては、同方式が採用されるケースも出て来る可能性はあります)。
こうした中、改正労働者派遣法が“例外的”に認めている、派遣社員の代表者と派遣会間の「労使協定」により待遇を決定する「労使協定方式」が利用されるケースが圧倒的に多いだろうと言われています(この問題については、2019年8月8日掲載の(新用語・難解用語)「派遣先均等・均衡方式」参照)。もっとも、同じ派遣会社に所属していても、派遣先が異なれば、普段は交流さえないというケースがほとんどでしょう。こうした人の集まりの中から代表を決め、その人が派遣会社と交渉して賃金の水準を決めるというのは、実際には困難だと考えられます。そこで労使協定方式では、派遣労働者の賃金額が「派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金(以下、一般賃金)の額として厚生労働省令で定めるものと同等以上の賃金の額」となればよいこととしています。冒頭で述べたとおり、この「一般賃金」がようやく(2019年)7月8日に厚生労働省から公表されましたが、同日に公表された一般賃金に関する厚生労働省の職業安定局長通達の4ページの下の表にあるとおり、一般賃金は経験年数に応じ3年後には30%超、10年後には60%超も上昇します。また、一般賃金には通勤手当や退職金も反映されていますので(厚生労働省の資料1ページ参照)、なおさら「派遣社員のこれまでの賃金<一般賃金」となる可能性は高く、その場合、派遣社員の賃金は「一般賃金と同等以上」の金額まで引き上げられることになります。さらに、一般賃金は毎年見直されるため、来年一般賃金が上昇すれば派遣社員の賃金も上昇することになります。
一般賃金よりも高い賃金を得ている派遣社員もいないわけではありません。例えばサイバーセキュリティ対策など特殊なスキルを持ったシステムエンジニアの派遣社員などは、企業に雇われているプロパー社員よりも賃金が高いということもあります。この場合、「派遣社員のこれまでの賃金>一般賃金」となりますが、それで“一件落着”になるとは限りません。一般賃金には通勤手当や退職金も含まれるとなれば、当該派遣社員は最低でもその分の賃金引上げを要望することが考えられます。
結局、無期転換に応じるかどうか(あるいは本人が望むかどうか)は、その人の仕事の内容に左右されることになります。例えば仕事内容が比較的単純で、今後も大きく変わることはないにもかかわらず、同一労働同一賃金制度の下、経験年数に応じ、3年、5年・・と経験年数に応じ賃金が上昇していくとなれば、企業側がこうした派遣社員の受け入れを敬遠する(派遣会社に対し、経験年数の短い人材の派遣を要望する)ようになる可能性もあります。このため、こうした仕事に従事する派遣社員が無期転換に応じる可能性は高いでしょう。
一方、無期転換に応じない派遣労働者も少なくないという話も聞こえてきます。無期転換の結果、正社員として会社に長期間企業に残れるといっても、プロパーの正社員が定期昇給していくのに対し、自分はずっと同じ待遇が固定されることになりかねないからです。したがって、派遣社員を無期転換に応じさせたいのであれば、(プロパーの正社員と同レベルの昇給は無理にしても)無期転換者にも一定の昇給を用意することは検討の余地があります。これは、無期転換により正社員になることを踏まえれば、無期転換者の仕事へのモチベーションを維持するという点でも意味があります。上述のとおり、無期転換後の労働契約の内容は転換直前の労働条件と同等以上であれば法令上も問題ありません。
それでも派遣社員が無期転換に応じず、同一労働同一賃金制度が適用されて派遣社員の賃金が引き上げられることとなった場合、次に問題になるのは、賃金の上昇分を派遣会社と派遣先企業のどちらが負担するのかという点です。
通常、派遣会社のマージン率は30%程度と言われています。この中から派遣社員の賃金の上昇分を捻出するのは容易ではないでしょう。したがって、派遣会社が派遣先企業に対し上昇した分の賃金を派遣料金に上乗せしてくることも考えられます。また、派遣料金を従来の金額に据え置くとのセールストークで営業を仕掛けてくる派遣会社が出て来るかもしれません。
いずれにせよ、上述のとおり派遣先均等・均衡方式が選択肢になり得ない以上、派遣会社を使っている企業がまずやらなければならないことは、その派遣会社に「労使協定方式に対応できるか否か」を確認するということです(逆に言うと、派遣社員の代表者と労使協定が締結できない派遣会社は、顧客(派遣先企業)を失う恐れがあります)。そのうえで、派遣社員の賃金の上昇分を派遣元と派遣先のどちらがどれくらい負担するのか、交渉することになります。
上述のとおり、同一労働同一賃金は「2020年4月1日にかかる契約」から適用されるため、1年間や半年間といった比較的長期の労働者派遣契約を結んでいる企業に残された時間は少なくありません。派遣会社に対し派遣社員の代表者との間で労使協定を締結するようすぐに求めるか、派遣契約を1か月刻みに変更するといった対応が必要になります。
仮に派遣社員の賃金上昇分を派遣先企業である自社が負担せざるを得ない状況となった場合、派遣契約を打ち切り、同一労働同一賃金の適用を受けない請負契約に切り替えるということも考えられます。
ただ、請負契約の下では、一度業務を受託先に投げた後は、一切の「指揮命令」はできないという点、要注意です。請負契約と言いながら、例えば受託先の作業状況を監督し、指揮命令をするようなことは、“偽装請負”という脱法行為になります。
偽装請負:実態は「労働者派遣」であるにもかかわらず、契約上は「請負契約」を装うこと。「請負」という形にすれば、会社と労働者の間には雇用関係が発生しないため、会社にとっては、社会保険への加入が不要、契約の打ち切り(実質的な解雇)が容易にできるといったメリットがある。
特に偽装請負に該当しやすいのが自社の工場に受託先を常駐させて作業を委託するケースです。この場合、受託先に対して指揮命令が及ばないよう、生産ラインを分けるなどの工夫が必要になるでしょう。これに対し、例えば小売業でよく見受けられる「この商品を、この場所でこの時間帯、お客さんに販売してください」とった形の業務委託であれば、指揮命令が入り込む余地は少ないため、偽装請負に該当するリスクは低いでしょう。同様に、運送会社がドライバーに荷物の配送を委託するケースや、倉庫内の作業を丸ごと委託するようなケースも、偽装請負に該当するリスクは少ないと考えられます。
当フォーラムの取材によると、同一労働同一賃金制度の導入を機に、派遣契約を請負契約に切り替えることを検討しているメーカー等は多数ある模様です。この場合、“偽装請負”というコンプライアンスリスクに細心の注意を払いながら、委託する業務の内容を詰める必要があります。
これまで見てきたように、同一労働同一賃金制度の導入により、企業には派遣社員に任せてきた仕事の内容を改めて検証することが求められます。
同一労働同一賃金制度の下では、派遣社員として雇用し続けた場合、経験年数等に応じ賃金は上昇することになりますが、例えば派遣社員が現在一般事務を担当しており、今後もその職務内容が大きく変わらないのであれば、企業としては無期転換を勧めることが第一の選択肢になるでしょう。
一方、サイバーセキュリティ対策を担うシステムエンジニアといった高度なスキルを要する職種になると、賃金の上昇が抑えられる無期転換は適さないと考えられます。また、このような知識は比較的短期間で陳腐化してしまう可能性も高いため、無期転換による長期間雇用よりも、たとえプロパーの社員より賃金が高くなったとしても、必要な期間だけ派遣社員として活躍してもらう方が理にかなっていると言えます。すなわち、ある程度短期間で最新のスキルを持った人材を回転させるという人材戦略です。
また、このような高いスキルを持った人材には、派遣社員としではなく、例えば「このシステムを作ってくださいと」といった形の請負契約により仕事をオファーすることも考えられます。派遣会社側も、このようなスキルの人材については派遣契約ではなく請負契約を斡旋するという営業スタイルに転換する可能性もあります。
このように、同一労働同一賃金は、従来の派遣社員の仕事内容や仕事のさせ方を改めて検討することを派遣会社、企業の双方に迫っていると言えます。同一労働同一賃金の導入を機にどのようなタスクを、誰に、どういう形で出すのがベストなのかという「職務分析」を行うことは、プロパーの社員の人事上も参考になることが多いはずです。経営陣は、単なる法的な対応にとどまらず、人材戦略を検討する一環として同一労働同一賃金に取り組みたいところです。
当フォーラムでは、時価総額上位企業(2019年8月末現在)の株主総会で反対行使(株主提案議案については賛成行使)が目立った議案を分析しているが(第1回目は2019年9月5日のニュース『独立性の説明なければ「独立性なし」と“推定”される恐れ』参照)、今回は・・・
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当フォーラムでは、時価総額上位企業(2019年8月末現在)の株主総会で反対行使(株主提案議案については賛成行使)が目立った議案を分析しているが(第1回目は2019年9月5日のニュース『独立性の説明なければ「独立性なし」と“推定”される恐れ』参照)、今回は時価総額第2位のソフトバンクグループをとり上げる。
| 議案 | 内容 | 賛成率 | |
| 第1号議案 | 剰余金の処分 | ― | 99.37% |
| 第2号議案 | 取締役12名選任 | 【会長兼社長】孫正義 | 92.85% |
| 【副会長】ロナルド・フィッシャー | 96.35% | ||
| 【副社長】マルセロ・クラウレ | 97.67% | ||
| 【副社長】佐護勝紀 | 97.69% | ||
| 【副社長】ラジーブ・ミスラ | 97.68% | ||
| 宮内謙 | 97.45% | ||
| サイモン・シガース | 97.66% | ||
| ユン・マー | 97.65% | ||
| ヤシル・アルルマヤン | 97.66% | ||
| 【社外】柳井正 | 94.74% | ||
| 【社外】飯島彰己 | 98.92% | ||
| 【社外】飯島彰己 | 96.94% | ||
| 第3号議案 | 監査役1名選任 | 【社外】遠山篤 | 98.79% |
上表の通り、全ての議案が90%台の賛成率を確保しており、第一義的には全く問題のない議決権行使結果であったと言えよう。ただし、ハードルを「95%」に設定すると、2つの議案(いずれも取締役選任議案)が相対的に低賛成率となっている。
最も賛成率が低かったのは、会長兼社長である孫氏の再任議案である。もっとも、大手国内機関投資家が同氏の再任議案に反対したケースは皆無だった模様。株主総会後の同社取締役会の構成を見ると、全12名のうち社外取締役は3名にとどまっており、「3分の1以上」を求める外国人機関投資家の議決権行使基準に抵触、コーポレートガバナンスに責任を負う会長職にある孫氏の再任議案に反対票が投じられたものと考えられる。なお、外国人投資家に影響力のある議決権行使助言会社の基準は、ISSが監査役会設置会社について「2名以上」、グラスルイスが「監査役と合わせて3分の1以上」なっており、ソフトバンクグループはいずれの基準にも抵触していない(監査役4名のうち社外監査役が3名おり、グラスルイスの基準をクリア)。
賛成率が95%を超えなかったもう1人の候補者が社外取締役の柳井氏だ。同氏の再任議案に対しては、大和証券投資信託委託、SBIアセットマネジメント、朝日ライフアセットマネジメントによる反対行使が確認された。いずれも反対理由は明らかにしていないが、同氏は株主総会前の時点で就任から18年が経過しており、在任期間の長さから独立性が棄損されると判断したものと考えられる。朝日ライフアセットマネジメントは議決権行使基準において「選任時点で10年以上」であれば反対すると明記、大和投信は「役員在任期間」を踏まえて総合的に判断する旨の方針を示している(SBIアセットマネジメントは詳細な議決権行使基準を公表していない)。
ところで、朝日ライフアセットマネジメントは柳井氏のみならず、同じく社外取締役候補者である松尾氏にも反対している。同氏は東京大学大学院工学系研究科教授であり、招集通知においては独立性に関する説明は特に記載されていない。ただし、招集通知と同日に提出された独立役員届出書において、「上場会社が寄付を行っている先の業務執行者」欄が△(過去に該当)となっており、これが朝日ライフアセットマネジメントの議決権行使基準にある「年間1,000万円以上の寄付金を受けている財団法人等」に該当したとみられる。ソフトバンクグループは寄付金の額は開示していないため、寄付金が「年間1,000万円以上」であったかどうかは定かではないが、朝日ライフアセットマネジメントは「説明不足」と判断した模様。上場企業としては、招集通知のみならず、独立役員届出書も議決権行使の判断材料とされているという点、認識しておきたい。
独立役員届出書 : 証券取引所では、企業行動規範の「遵守すべき事項」として、上場会社に独立役員(一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役)を1名以上確保することを求めており、上場会社は独立役員の確保に係る企業行動規範の遵守状況を示すため「独立役員届出書」に自社の独立役員を記載して証券取引所に提出しなければならない。
上場企業にとって、「創業家」の存在はメリットとデメリットの両方を併せ持つと言われる。創業時を知る古参の従業員にとって創業者は精神的支柱であり、創業者が引退した後も折に触れて創業家が求心力を発揮するという話はしばしば耳にする。また、創業家が経営に関わる同族経営の方が長期的視野に基づく経営を行いやすく、利益率も高くなる傾向にあることから、創業家の存在は投資家にとっても必ずしもネガティブなものではない(投資家の同族経営に対する評価は2018年11月13日のニュース「オーナー色の強い上場企業に見られる共通点」を参照)。一方で、創業家やその“取り巻き”が会社を私物化し、その結果、ガバナンスが低下するとともに不正を引き起こすリスクが否定できないということは「デメリット」と言える。
創業者である前代表取締役が逮捕されるという衝撃的な事件が起きた・・・
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