2019/05/22 業績連動給与を損金算入したい企業におすすめの開示上の工夫(会員限定)

既報のとおり、2019年3月決算の有価証券報告書から適用される改正開示府令は、役員報酬に関する開示の大幅な充実を求めており、その対応に苦慮する上場企業が少なくない(【2019年3月の課題】補充原則4-10①をエクスプレインした企業における報酬委員会に関する開示、2019年5月16日のニュース「明確な算定式がない役員報酬の開示と今後の方向性」参照)。

ただ、ここで誤解しないようにしたいのは、「開示の大幅な充実」とは必ずしも過度に詳細かつ複雑な開示を求めるものではないということだ。改正開示府令が求めているのは、あくまで投資家との建設的な対話が促進されることであり、それを実現するには「複雑さ」よりも「分かりやすさ」が重視されるべきであろう。実際、容易には理解できないほど複雑な仕組み(あるいは「開示」の問題とも言える)の役員報酬制度は、役員の頑張りと報酬額の相関関係が見えにくくなるため、投資家の評判も芳しくない。したがって企業としては、今回の開示府令改正に対応した役員報酬開示でも「分かりやすさ」を心掛けたいところだが、その際にボトルネックとなりかねないのが、法人税法が求める開示だ。

業績連動報酬(法人税法上は「業績連動給与」と呼ばれる)を、法人税の計算上、損金にしたいと考える企業も少なくないだろう。しかし、業績連動給与を損金算入するためには、業務執行役員ごとに「業績連動給与の算定の基礎となる業績連動指標」「限度としている確定した額又は確定した数」「客観的な算定方法の内容」等を網羅的に有価証券報告書において開示しなければならない(法人税基本通達9-2-19(算定方法の内容の開示)参照)。

業績連動給与 : その事業年度の利益や株価、売上等に関する指標に基づく「あらかじめ定められた方法」により決定されるもの。複数年度にわたる指標(例えば3年間の平均利益)を採用することも認められる。
損金 : 法人税計算の基礎となる法人所得を減らす性質の支出等のこと。損金は企業会計上の費用とおおむね一致するが、役員賞与や固定資産の減損損失など「損金には該当しない費用」もある。

一方、改正開示府令上は、業績連動報酬の決定方法を十分に説明できる限り、業績連動報酬を「主要な要素」のみ開示すれば足り、網羅的な開示までは求められていない(「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方 No.57参照)。

このような法人税法と開示府令が求める開示の緻密さのギャップは、開示する情報量の違いとなって表れてくる。業績連動報酬を(法人税上の「業績連動給与」として)損金算入するために、有価証券報告書における業績連動報酬関係の情報を、本来改正開示府令が求める以上に詳細かつ大量に記載しなければならないということも起こりえる。この結果、業績連動報酬の内容が投資家にとって分かりにくいものとなれば、「投資家との建設的な対話を促す」という改正開示府令の趣旨にも反することになる。このような事態を避けるためには、例えば、今回の改正開示府令に対応した情報を上部に記載し、それとは切り分ける形で損金算入のための情報を下部に記載するといった工夫も必要になろう。

2019/05/21 女性役員ゼロのTOPIX100構成企業の半数が原則4-11をコンプライ

2019年5月13日のニュース『「女性役員比率」「社外取締役比率」とROEの相関性』では、東証一部上場企業(金融業を除く)における女性役員比率とROEの相関関係を検証したが、両者の相関関係がより明確に数字に映し出されるようになるには、日本企業における女性役員の数がもっと増える必要があろう。30%クラブ・ジャパンは、TOPIX100構成企業の取締役会に占める女性比率を2020年には10%、2030年には30%に引き上げるという目標を掲げているが、現状は「7.8%」にとどまっており、英国(FTSE350)の26.4%、米国(S&P100)の23.5%、香港(Hang Seng-50)の13%を大きく下回る。当フォーラムが2019年4月末時点のTOPIX100構成企業における女性役員の選任状況を調査したところ、下記のとおりの結果となっている。・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2019/05/21 女性役員ゼロのTOPIX100構成企業の半数が原則4-11をコンプライ(会員限定)

2019年5月13日のニュース『「女性役員比率」「社外取締役比率」とROEの相関性』では、東証一部上場企業(金融業を除く)における女性役員比率とROEの相関関係を検証したが、両者の相関関係がより明確に数字に映し出されるようになるには、日本企業における女性役員の数がもっと増える必要があろう。30%クラブ・ジャパンは、TOPIX100構成企業の取締役会に占める女性比率を2020年には10%、2030年には30%に引き上げるという目標を掲げているが、現状は「7.8%」にとどまっており、英国(FTSE350)の26.4%、米国(S&P100)の23.5%、香港(Hang Seng-50)の13%を大きく下回る。当フォーラムが2019年4月末時点のTOPIX100構成企業における女性役員の選任状況を調査したところ、下記のとおりの結果となっている。

① 女性役員(監査役、執行役を含む)がいる企業:78社
② 女性取締役がいる企業:68社
③ 女性取締役の総数:132人(取締役総数982人に対して8.9%)
④ (女性取締役を選任している68社における)女性取締役の平均人数:1.3人
⑤ 女性社内取締役の人数:5人(選任社数は5社)

女性取締役の比率は、30%クラブジャパンが示した「7.8%」より若干上昇しているものの、依然として10%には満たない(③)。女性取締役が1人もいない企業も未だ約3分の1あり(②)、監査役や執行役を含む「女性役員」に対象を広げても未選任の企業が約4分の1ある(①)。また、女性取締役を選任している企業でも人数は「1名」のみというところが大部分であり(④)、さらに女性取締役が「社内取締役」である事例はごく少数にとどまる(⑤)。

コーポレートガバナンス・コードは、2018年6月の改訂以降、取締役会に「ジェンダーおよび国際性の面を含む多様性」を求めている(原則4-11)。原則4-11を文言通りに解釈すれば、女性取締役を1人も選任していなければ「エクスプレイン」に直結するものと考えられる。

改訂コーポレートガバナンス・コード4-11(抜粋:赤字は2018年6月1日に改訂された部分)
【原則4-11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】
取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性の面を含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきである。また、監査役には、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を有する者が選任されるべきであり、特に、財務・会計に関する適切十分な知見を有している者が1名以上選任されるべきである。
取締役会は、取締役会全体としての実効性に関する分析・評価を行うことなどにより、その機能の向上を図るべきである。

そこで、女性取締役がいないTOPIX100構成企業32社(②から逆算)のコーポレートガバナンス報告書の記載を確認したところ、下記のとおり、原則4-11を「コンプライ」としている企業が半数に上っていることが分かった。

・女性取締役はいないものの女性役員(監査役等)はいる 10社: 6社がエクスプレイン
・監査役を含め、女性役員が1人もいない 22社: 10社がエクスプレイン

原則4-11はコーポレートガバナンス報告書での「開示」が求められる原則ではないため、同じく取締役会の多様性に言及しており、かつ開示が求められる下記の補充原則4-11①を「コンプライ」した企業の開示内容を確認すると、女性取締役の選任を「検討している」としているケース、「性別、国籍」にこだわらず取締役を選任するとしているケース、「多様性を確保している」との記載にとどまっているケースなど、各社各様となっている。

補充原則4-11①
取締役会は、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定め、取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべきである。

投資家等からは、コーポレートガバナンス・コードのコンプライ率は現実の数字よりも高いとの指摘も聞かれる。自社の「コンプライ」が実体を伴ったものであるかどうか、再度検証する必要がありそうだ。

2019/05/20 個人データの消去“義務化”も 企業側は強い懸念示す

2019年5月14日のニュース「個人情報保護法改正 課徴金導入・罰金引上げ&漏えい報告義務化の行方」では、来年2020年に実施されることになっている個人情報保護法の改正により、欧州の「一般データ保護規則(General Data Protection Regulation =GDPR)」並みの「課徴金導入・罰金引上げ」および「漏えい報告の義務化」が行われることになるのかどうかについてお伝えしたが、これらと同様に、仮にGDPRの規制が導入された場合、企業にとって大きな負担となる可能性があるのが・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2019/05/20 個人データの消去“義務化”も 企業側は強い懸念示す(会員限定)

2019年5月14日のニュース「個人情報保護法改正 課徴金導入・罰金引上げ&漏えい報告義務化の行方」では、来年2020年に実施されることになっている個人情報保護法の改正により、欧州の「一般データ保護規則(General Data Protection Regulation =GDPR)」並みの「課徴金導入・罰金引上げ」および「漏えい報告の義務化」が行われることになるのかどうかについてお伝えしたが、これらと同様に、仮にGDPRの規制が導入された場合、企業にとって大きな負担となる可能性があるのが「データポータビリティ権」と「利用停止権・消去権(忘れられる権利)」だ。それぞれ具体的に見てみよう。

■データポータビリティ権
日本の個人情報保護法では、個人情報取扱事業者は、本人からの請求があれば、本人が識別される個人データを、「書面」により本人に開示しなければならないことになっている(この権利を「開示請求権」という)。

一方、GDPRにおける開示請求権は日本の個人情報保護法よりも進んでおり、「データポータビリティ権」として以下の権利が認められている。

①自らの個人データを、機械可読性のある形式で取り戻す権利
②技術的に可能な場合には、自らの個人データを、ある管理者から別の管理者に直接的に移行させる権利

機械可読性:コンピューターにより文書構造が認識できること。機械可読性に配慮した文書(例えばXML(Extensible Markup Language=拡張可能なマークアップ言語)により作成された文書)はインターネットで検索されやすく、それゆえ流通しやすい。文書流通がインターネットを中心とするようになり、機械可読性を高めた文書の重要性が増してきている。

①で、事業者に対し電磁的形式(=機械可読性のある形式)により本人に個人データを提供することが求められているのは、本人が取り戻した個人データを他の用途で利用できるようにするためであり、この点、「書面」による個人データの提供が求められる日本の個人情報保護法上の開示請求権とは大きく異なっている。②は、「技術的に可能な場合」という条件付きで、事業者間での個人データの直接移行(例えば、携帯電話会社をA社からB社に乗り換える場合に、A社からB社に個人データを直接移行する)を求めるものである。

上記①②に関し、「個人情報保護委員会」 が(2019年)4月25日に公表した「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直しに係る検討の中間整理」(以下、中間整理)では、「個人情報保護法における開示の際の電磁的形式による提供の明確化についても、今後、利用者の利便性も考慮しつつ、検討していく必要がある」との考えが示されていることから(中間整理17ページ下部参照)、①については何らかの法改正が行われる可能性が高い。電磁的形式による個人データの提供が原則とされた場合、企業には、法改正を踏まえた社内規定、個人へのデータ提供プロセスやこれに関連する内部統制の整備が求められることになるだろう。

個人情報保護委員会:内閣府の外局として、内閣総理大臣が所轄する行政委員会。個人情報保護委員会には調査、監督権限が認められており、同委員会の命令違反には罰則が科される。個人情報保護法に基づき、2016年1月1日に設置された。

■利用停止権・消去権(忘れられる権利)
日本の個人情報保護法では、事業者が本人から個人データの利用停止・消去の請求を受けた場合には、事業者はそれらの請求に対応しなければならないことになっている。ただし、同法上、事業者に対応が義務付けられているのは、例えば事業者が本人の同意なく保有個人データを目的外利用している場合等、法律に違反している場合に限られている。

一方で、GDPRでは、本人の請求に基づき事業者に個人データを消去させる権利(GDPRでは「忘れられる権利」と称される)をより幅広く認めている点に大きな特徴がある。例えば、個人データを保有する必要性がなくなった場合や、個人データを利用することについて本人が同意を撤回した場合等においては、事業者は当該個人データを消去する義務を負うことが明確化されている。これに対し日本の個人情報保護法では、利用する必要がなくなった個人データを遅滞なく消去するよう“努力”しなければならないこととされているものの、法律上の義務とはなっていない。

こうしたなか中間整理では、個人データの利用停止権・消去権について、「消費者側からの根強い要望に対して、個人の権利を保護していく観点からどのようにすれば一定の対応が可能か、企業側の実態も踏まえつつ具体的に検討していく必要がある」との考えが示されている(中間報告19ページ冒頭参照)。慎重な書きぶりとはいえ、何らかの形で個人の権利を拡充する方向で法改正が行われる可能性が高い。

個人データの利用停止権・消去権のうち、企業にとって特に影響が大きいのは消去権の方だろう。消去権が行使された場合、多大な努力によって獲得したノウハウ(例えば特定の属性の個人の購買行動パターンなど)が、企業から不可逆的に流出することとなる。また、企業内に点在する個人データを集約して消去するためには相当の工数を要し、実務上の負担も大きい。このため企業側からは、消去権がGDPR並みに拡充されることに対し強い懸念が示されている。企業にとっては、注意を要する改正事項と言えよう。

2019/05/19 【2019年5月の課題】執筆陣の入れ替えに伴うお休みのお知らせ

2019年5月の課題

2019年5月の「今月の課題」は執筆陣の入れ替えに伴い、お休みさせていただきます。2019年6月の課題は2019年6月1日に掲載する予定です(回答は2019年7月10日頃を予定)。

上場会社役員ガバナンスフォーラムでは、今後も会員の皆様のお役に立つ情報の提供に努めてまいります。何卒ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。

会員登録はこちらから

2019/05/17 機関投資家と温度差も 上場企業が選んだESG活動の主要テーマ

ESG投資の活発化によりESGへの取組みは今や時価総額が小さい企業にとっても不可避となりつつある。もっとも、何をESG活動の主要テーマとするかは各社でバラツキが見られる。年金積立金管理運用独立行政法人(以下、GPIF)が(2019年)5月16日に公表した調査結果(第4回 機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果)によると、各社がESG活動において重点を置いているとしたテーマは下表のとおりとなっている(GPIFが設定したテーマの中から、各社が最大5つを選択。同集計結果の18ページ参照。表中の順位の「前回」は昨年同時期に公表された第3回調査結果の順位)。

ESG投資:ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。ESG投資とは文字通り「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資することをいう。

順位 主要テーマ 比率
今回 前回 今回 前回
1 1 コーポレートガバナンス 71.2% 67.4%
2 3 気候変動 45.5% 36.3%
3 2 ダイバーシティ 41.6% 43.0%
4 4 人権と地域社会 34.4% 33.8%
5 5 健康と安全 33.3% 32.5%

「コーポレートガバナンス」が2位以下を大きく引き離して1位となっているのをはじめ、上位にはESGの“王道”と言えるテーマが並んでいる。投資家から「ESGへの取り組みが遅れている」といった評価を受けないようにするためにも、上位のテーマでは他社に後れを取らないようにしたいところだ。

一方、重点を置く企業が「少ない」テーマは下表のとおり(「その他」の回答を除く)。

順位 主要テーマ 比率
今回 前回 今回 前回
20 21 不祥事 3.1% 2.3%
21 20 腐敗防止 2.5% 3.7%
22 22 少数株主保護(政策保有等) 1.0% 0.8%
23 23 紛争鉱物 0.7% 0.6%
23 24 税の透明性 0.7% 0.5%

注目すべきは、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2019/05/17 機関投資家と温度差も 上場企業が選んだESG活動の主要テーマ(会員限定)

ESG投資の活発化によりESGへの取組みは今や時価総額が小さい企業にとっても不可避となりつつある。もっとも、何をESG活動の主要テーマとするかは各社でバラツキが見られる。年金積立金管理運用独立行政法人(以下、GPIF)が(2019年)5月16日に公表した調査結果(第4回 機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果)によると、各社がESG活動において重点を置いているとしたテーマは下表のとおりとなっている(GPIFが設定したテーマの中から、各社が最大5つを選択。同集計結果の18ページ参照。表中の順位の「前回」は昨年同時期に公表された第3回調査結果の順位)。

ESG投資:ESGとは、「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を組み合わせたもので、近年、特にグローバル機関投資家の間で、企業の投資価値を測る評価項目としての地位を確立しつつある。ESG投資とは文字通り「Environmental(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」に優れた企業に投資することをいう。

順位 主要テーマ 比率
今回 前回 今回 前回
1 1 コーポレートガバナンス 71.2% 67.4%
2 3 気候変動 45.5% 36.3%
3 2 ダイバーシティ 41.6% 43.0%
4 4 人権と地域社会 34.4% 33.8%
5 5 健康と安全 33.3% 32.5%

「コーポレートガバナンス」が2位以下を大きく引き離して1位となっているのをはじめ、上位にはESGの“王道”と言えるテーマが並んでいる。投資家から「ESGへの取り組みが遅れている」といった評価を受けないようにするためにも、上位のテーマでは他社に後れを取らないようにしたいところだ。

一方、重点を置く企業が「少ない」テーマは下表のとおり(「その他」の回答を除く)。

順位 主要テーマ 比率
今回 前回 今回 前回
20 21 不祥事 3.1% 2.3%
21 20 腐敗防止 2.5% 3.7%
22 22 少数株主保護(政策保有等) 1.0% 0.8%
23 23 紛争鉱物 0.7% 0.6%
23 24 税の透明性 0.7% 0.5%

注目すべきは、「少数株主保護(政策保有等)」を挙げた企業の少なさだろう。2018年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは「政策株式の保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているかなどを具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容についてコーポレート・ガバナンス報告書で開示すべき」とされただけでなく、今年(2019年)1月に施行された改正開示府令では、「2019年3月31日以後に終了する事業年度」の有価証券報告書から、政策保有株式保有の合理性の検証方法等の開示が求められるとともに、個別開示の対象となる銘柄数が30銘柄から60銘柄に拡大されたのは周知のとおり(【2018年11月の課題】新たな有報における「役員報酬」と「政策保有株式」の記載事項を参照)。また、上場子会社の少数株主保護をメインテーマとして、2019年6月には「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」が とりまとめられる見込みとなっている(2019年5月7日のニュース「グループ・ガバナンス実務指針案、上場子会社の扱いに“特段の配慮”」を参照)。このような動きは機関投資家の要望を受けたものであるだけに、「少数株主保護(政策保有等)」への関心を巡っては、上場企業と機関投資家の間に少なからず温度差が生じているとの見方もできそうだ。

また、節税に取り組んだ結果としての実効税率の低さを投資家にアピールすることが珍しくない海外の多国籍企業にとってはホット・イシューになっている「税の透明性」が最下位に位置付けられているのは、節税に対する日本の上場企業の姿勢(節税=悪いこと)を象徴しているとも言えそうだ(税の透明性についは(新用語・難解用語)アグレッシブ・タックスプランニング(新用語・難解用語)所得に関する税務情報レポートを参照)。

実効税率:法人税、住民税、事業税といった企業の利益に課税される税の総合的な負担率

2019/05/16 明確な算定式がない役員報酬の開示と今後の方向性

業績連動報酬が急速に普及する中、さすがに「固定報酬」のみしか支給していないという上場企業は見受けられない。しかし、固定報酬以外には年度末に「賞与」に相当する報酬を支払っているのみ、という上場企業はある。この上場企業における「賞与」は、一応は業績等(当期純利益の増減、配当の増減など)を見て、報酬総額を調整しながら最終的には社長が決めているが、金額をはじき出す算定式(公式=フォーミュラ)があるわけではない。言い換えれば、必ずしも報酬額と業績等が明確にリンクしているわけではない。

周知のとおり、2019年3月決算の有価証券報告書から適用される改正開示府令には業績連動報酬に関する開示項目が多数追加され、その中には「業績連動報酬にかかる指標(KPI)、KPIの選定理由、⽀給額の決定⽅法」というものがある(詳細は【2019年3月の課題】補充原則4-10①をエクスプレインした企業における報酬委員会に関する開示 における表の最上段「報酬プログラム(報酬の決定に関する⽅針)」参照)。算定式がない上場企業にとって、この開示要請に対応するのは容易ではない。

こうした企業の開示方法として考えられるのは、・・・

このコンテンツは会員限定です。会員登録(有料)すると続きをお読みいただけます。

続きはこちら
まだログインがお済みでない場合はログイン画面に遷移します。
会員登録はこちらから

2019/05/16 明確な算定式がない役員報酬の開示と今後の方向性(会員限定)

業績連動報酬が急速に普及する中、さすがに「固定報酬」のみしか支給していないという上場企業は見受けられない。しかし、固定報酬以外には年度末に「賞与」に相当する報酬を支払っているのみ、という上場企業はある。この上場企業における「賞与」は、一応は業績等(当期純利益の増減、配当の増減など)を見て、報酬総額を調整しながら最終的には社長が決めているが、金額をはじき出す算定式(公式=フォーミュラ)があるわけではない。言い換えれば、必ずしも報酬額と業績等が明確にリンクしているわけではない。

周知のとおり、2019年3月決算の有価証券報告書から適用される改正開示府令には業績連動報酬に関する開示項目が多数追加され、その中には「業績連動報酬にかかる指標(KPI)、KPIの選定理由、⽀給額の決定⽅法」というものがある(詳細は【2019年3月の課題】補充原則4-10①をエクスプレインした企業における報酬委員会に関する開示 における表の最上段「報酬プログラム(報酬の決定に関する⽅針)」参照)。算定式がない上場企業にとって、この開示要請に対応するのは容易ではない。

こうした企業の開示方法として考えられるのは、報酬総額の原資を決める際に“判断材料”として使った業績の状況、例えば売上高、営業利益、経常利益、ROEROICなどを、前期および当期分を比較する形で並べ、「当期の数値および前期からの変動を踏まえ総合的に判断した」といった形で今回はやり過ごすということだ。決してベストの形ではないが、改正開示府令の施行日が2019年1月末であり、対応に十分な時間がなかったことを踏まえれば、投資家等もある程度理解してくれるだろう。

ROE : Return On Equity=株主資本利益率(利益/株主資本)。実務上、ROEの利益には「当期純利益」を使うことが多い。これは、株主資本に対応するのは、株主資本に帰属する当期純利益であるとの考え方による。

もっとも、「業績連動報酬」と言っても、業績関連指標との関連性が強ければ強いほど良いというわけではない。確かに近年は、業績関連指標にリンクしたフォーミュラを持つ業績連動報酬を導入している上場企業は多いが、例えば銀行などの金融機関の場合、利益との連動性が高いフォーミュラは必ずしも好ましいものとは言えない。なぜなら、金融機関の利益は、不良債権をどの程度処理するのか、減損損失をどの程度を認識するのかなど、経営陣が能動的にリスクをとるかどうかによりある程度コントロールできるからだ。したがって、業績連動報酬と利益との連動性が高い場合、例えば現経営陣が不良債権処理や減損損失の計上を先送りするといった行動に走りかねない。これは何も金融機関に限った話ではない。一般の事業会社の経営陣にあっても減損損失を先送りしようというインセンティブが働きやすくなるのはもちろん、例えば投資家から「ROE」を業績連動報酬のKPIにすべきと指摘されたことを受け、単年度のROEが業績連動報酬にダイレクトに反映されるようなフォーミュラを設定した場合、経営陣はROEの低下につながるようなこと(例えば当期純利益が減少するようなこと)は避けようと考え、積極果敢な経営姿勢が失われる可能性がある。特に自分の任期が残り少ない経営陣は、そのような行動に走る可能性が高まる。

KPI : 定量的に示される重要業績評価指標(Key Performance Indicators=KPI)のこと。KPIの例としては「新規顧客の獲得数」「従業員1人あたりの経費」「総資産額」などがある。

結論として、「業績連動報酬」といっても、業績関連のKPIのみならず、むしろバランス・スコアカードのように、定性的なものを含む様々なKPIを考慮し、一定の“幅”をもって算出されるべきと言える。そう考えると、業績連動報酬の開示の仕方にも幅があってしかるべきであり、改正開示府令の内容通りの開示ができない企業があったとしてもそれはやむを得ないところだろう。もちろん、社長が密室で鉛筆を舐めるような形の報酬報酬プロセスには問題があるが、業績以外の “のりしろ” (例えば定性評価等)の部分があったとしても、それが報酬委員会(任意の報酬諮問委員会を含む)の審議を経て認められている限り、何ら引け目を感じる必要はない。むしろ“のりしろ”部分を開示しないという「不作為」の方が問題と言えそうだ。