既報のとおり、2019年3月決算の有価証券報告書から適用される改正開示府令は、役員報酬に関する開示の大幅な充実を求めており、その対応に苦慮する上場企業が少なくない(【2019年3月の課題】補充原則4-10①をエクスプレインした企業における報酬委員会に関する開示、2019年5月16日のニュース「明確な算定式がない役員報酬の開示と今後の方向性」参照)。
ただ、ここで誤解しないようにしたいのは、「開示の大幅な充実」とは必ずしも過度に詳細かつ複雑な開示を求めるものではないということだ。改正開示府令が求めているのは、あくまで投資家との建設的な対話が促進されることであり、それを実現するには「複雑さ」よりも「分かりやすさ」が重視されるべきであろう。実際、容易には理解できないほど複雑な仕組み(あるいは「開示」の問題とも言える)の役員報酬制度は、役員の頑張りと報酬額の相関関係が見えにくくなるため、投資家の評判も芳しくない。したがって企業としては、今回の開示府令改正に対応した役員報酬開示でも「分かりやすさ」を心掛けたいところだが、その際にボトルネックとなりかねないのが、法人税法が求める開示だ。
業績連動報酬(法人税法上は「業績連動給与」と呼ばれる)を、法人税の計算上、損金にしたいと考える企業も少なくないだろう。しかし、業績連動給与を損金算入するためには、業務執行役員ごとに「業績連動給与の算定の基礎となる業績連動指標」「限度としている確定した額又は確定した数」「客観的な算定方法の内容」等を網羅的に有価証券報告書において開示しなければならない(法人税基本通達9-2-19(算定方法の内容の開示)参照)。
業績連動給与 : その事業年度の利益や株価、売上等に関する指標に基づく「あらかじめ定められた方法」により決定されるもの。複数年度にわたる指標(例えば3年間の平均利益)を採用することも認められる。
損金 : 法人税計算の基礎となる法人所得を減らす性質の支出等のこと。損金は企業会計上の費用とおおむね一致するが、役員賞与や固定資産の減損損失など「損金には該当しない費用」もある。
一方、改正開示府令上は、業績連動報酬の決定方法を十分に説明できる限り、業績連動報酬を「主要な要素」のみ開示すれば足り、網羅的な開示までは求められていない(「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令(案)」に対するパブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方 No.57参照)。
このような法人税法と開示府令が求める開示の緻密さのギャップは、開示する情報量の違いとなって表れてくる。業績連動報酬を(法人税上の「業績連動給与」として)損金算入するために、有価証券報告書における業績連動報酬関係の情報を、本来改正開示府令が求める以上に詳細かつ大量に記載しなければならないということも起こりえる。この結果、業績連動報酬の内容が投資家にとって分かりにくいものとなれば、「投資家との建設的な対話を促す」という改正開示府令の趣旨にも反することになる。このような事態を避けるためには、例えば、今回の改正開示府令に対応した情報を上部に記載し、それとは切り分ける形で損金算入のための情報を下部に記載するといった工夫も必要になろう。
