2025/03/11 取締役会向け説明資料の不備は誰の責任か?

コンプライアンス違反が起こる原因の一つとして、チェック体制の甘さがある。「後ろの工程でチェックしてくれるだろう」「前の工程でチェックしているはず」といった“人任せ”のマインドが社内にはびこると、結局「誰もチェックしていない」という事態に陥ることになる。その結果、毎年のように複数の上場会社で起きているコンプライアンス違反が、・・・

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2025/03/11 取締役会向け説明資料の不備は誰の責任か?(会員限定)

コンプライアンス違反が起こる原因の一つとして、チェック体制の甘さがある。「後ろの工程でチェックしてくれるだろう」「前の工程でチェックしているはず」といった“人任せ”のマインドが社内にはびこると、結局「誰もチェックしていない」という事態に陥ることになる。その結果、毎年のように複数の上場会社で起きているコンプライアンス違反が、「分配可能額を超えた配当や自己株式取得」だ。「配当や自己株式取得は分配可能額の範囲内で行う」ということは総務担当者や経理担当者、管理部門担当の取締役、監査役にとっては基本中の基本であり、上場会社であればそのための内部統制も整備しているはずだが、1年のうちに数社は「分配可能額を超えた配当や自己株式取得」が発覚したとして調査委員会を立ち上げ調査報告書を公表するのがもはや恒例となっている。

直近では、「一風堂」などのラーメン店をチェーン展開している力の源ホールディングス(東証プライム市場に上場)が2025年2月17日付で「分配可能額を超えた当期の中間配当金と自己株式取得に関する第三者委員会の調査結果及び再発防止策について」と題するリリースを公表している。同社は2024年11月13日開催の取締役会において、総額272百万円、1株あたり9円の中間配当を行うことを決議し、2024年12月6日に配当金の支払いを実施した。また、中間配当の直後の2024年12月20日に開催した取締役会において、取得株数200,000株(上限)、取得価格の総額200百万円(上限)とする自己株式の取得を行うことを決議し、2024年12月23日までに、72,100株(総額70百万円)を取得した。その後、会計監査人(三優監査法人)からの指摘により、中間配当と自己株式取得のいずれも会社法および会社計算規則に基づき算定される分配可能額を超えていたことが発覚。同社は2024年12月30日にその旨を公表するとともに、2025年1月22日には本件に関する事実関係の調査、事実認定及び評価・原因の分析、再発防止策の策定、本件に係る関係者の責任の検討のため、外部の専門家で構成される第三者委員会を設置した。

力の源ホールディングスが設置した第三者委員会の調査により、下記の事実が判明した。

第三者委員会による調査で判明した事実
(1)担当者の知識・理解不足に起因して分配可能額の計算方法に誤解がありました。
(2)分配可能額を超えた剰余金の配当等を防止するための社内手続きを定めておらず、本件中間配当金の決議時点では、チェックリスト等による分配可能額の算定が行われていませんでした。
(3)本件中間配当及び本件自己株式取得の決議の際の取締役に対する説明資料の作成にあたり、分配可能額の算定を実施していなかったことから、当該資料に取締役が分配可能額を検証できる記載がなく、取締役において分配可能額を超えていることを認識することができませんでした。
(4)当社の取締役が、分配可能額を超えていることを認識しつつ、本件中間配当及び本件自己株式取得の決議に同意したという事実は認められませんでした。

上記のうち違和感を持たざるを得ないのが(3)の記述だ。あたかも取締役会向け説明資料を作成した者にミスがあったかのような書きぶりになっているが、そもそも分配可能額を検証するための内部統制を構築する責任を有するのは取締役に他ならない。そして、取締役会向け説明資料は、取締役自らが構築した内部統制が吸い上げた情報を取締役の求めに応じて記載したものであり、その記載が不十分であれば取締役が補充を要請すべきということになる。

したがって、取締役会向け説明資料に分配可能額を検証できる記載がないのであれば、取締役(とりわけ監査等委員(同社は監査等委員会設置会社)である取締役)は「分配可能額のチェックが行われていない可能性」を察し、「分配可能額のチェックを実施したのか」「実施したのであれば、それを検証できるように資料を作成して欲しい」旨、説明資料の作成者に求めるべきであった。裏を返せば、(3)には取締役がその責任を怠ったことを記載すべきだったと言える。

昨年(2024年)はウイルプラスホールディングス(東証スタンダード市場に上場)が2024年5月に取得した自己株式が分配可能額を超えていたとして2024年9月17日付で特別調査委員会の調査報告書を公表している。その前にも、エックスネット(東証スタンダード市場に上場)が分配可能額を超えて自己株式を取得していたとして外部調査委員会の調査結果を公表し、サンケン電気(東証プライム市場に上場)は分配可能額を超えて中間配当を実施していたことを公表している(エックスネットおよびサンケン電気の事例の詳細については2024年5月23日のニュース「能登半島沖地震関連損失計上で欠損填補責任が論点に」を参照)。

力の源ホールディングスやウイルプラスホールディングスは、リリースにおいて、分配可能額に関するチェックリストを作成していなかったことを明らかにしている。分配可能額に関するチェックリストを作成していない上場会社は同じ間違いを犯さないためにも、チェックリストを整備・運用するとともに、配当や自己株式取得時の取締役会議案の添付資料としたい。

2025/03/10 2025年 DEI政策のテーマ

トランプ政権は米国におけるDEI(Diversity, Equity, Inclusion:多様性、公平性、包摂性)推進は「行き過ぎ」だとして、これにストップをかける動きを見せている。日本企業におけるDEIへの取り組みは、政府等による働きかけに加え、機関投資家からのプレッシャーも大きな動機となってきただけに、米国での風向きが変わる中で、機関投資家のスタンス、ひいては日本企業の取り組みにどのような影響があるのか注目を集めている。


包摂性 : 社会や組織が多様なる人々を受け入れ、差別や排除をなくし、全ての人が平等に参加できる状態を指す。

この点についてまず確認しておきたいのは、日本におけるDEIへの推進状況だ。SDGs(持続可能な開発目標)の達成期限を5年後の2030年に控える中、政府はSDGsの進捗状況などを報告する「自発的国家レビュー(VNR=Voluntary National Review)」の取りまとめ作業を進めているが(2025年7月に公表予定)、それに先立ち2024年6月にドイツのベルテルスマン財団持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN=Sustainable Development Solutions Network)が発表した「Sustainable Development Report2024」によると、日本のSDGs達成状況は調査対象166か国中18位と上位にランクされたものの、ゴール別評価では概ね「進展中」とされ、ゴール5の「ジェンダー平等」に至っては「停滞」という評価を受けている。また、2024年6月の世界経済フォーラムが公表したジェンダーギャップ指数でも、日本は146か国中118位とされており、改善が求められている。さらに、2024年10月には国連の「女性差別撤廃委員会」が日本政府に対し、夫婦同姓を定めた民法の改正を求めるなどしている。このように、日本におけるDEIの推進は国際的には周回遅れとなっている。・・・


SDGs : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。
ベルテルスマン財団 : ドイツを本拠に世界規模で新聞、出版、放送、レコードなどのメディア事業を展開しているベルテルスマン・グループを母体に1977年に設立されたイツ最大規模の財団。社会福祉に貢献する目的で、文化をはじめ、教育、国際交流、政治、医療など多くの分野で公益事業を展開している。
持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN=Sustainable Development Solutions Network) : SDGsに関する世界最大のネットワークで、国連事務総長の後援の下、世界中の大学、シンクタンク、国立研究所と協働し、持続可能な開発に関わる重要課題へのグローバルおよびローカルな解決策を特定することを目的としている。具体的には、科学、政策、そして持続可能な開発の実践活動が交差する領域で活動し、教育、研究、政策分析、国際協力を通じて、SDGsおよびパリ協定の推進に取り組んでいる。
世界経済フォーラム : 経済、政治、学究、その他の社会におけるリーダーたちが連携することにより、世界、地域、産業の課題を形成し、世界情勢の改善に取り組むことを目的とし、1971年に発足した非営利財団。世界経済フォーラムが毎年1月に開催する年次総会である「ダボス会議」には、日本の首相を含む各国を代表する政治家や実業家が一堂に会し、世界経済や環境問題など幅広いテーマについて議論するだけに、同会議における決定・公表事項は世界に強い影響力を持つ。スイスの有名な保養地であるダボスで開催されることから「ダボス会議」との名前が付いた。

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2025/03/10 2025年 DEI政策のテーマ(会員限定)

トランプ政権は米国におけるDEI(Diversity, Equity, Inclusion:多様性、公平性、包摂性)推進は「行き過ぎ」だとして、これにストップをかける動きを見せている。日本企業におけるDEIへの取り組みは、政府等による働きかけに加え、機関投資家からのプレッシャーも大きな動機となってきただけに、米国での風向きが変わる中で、機関投資家のスタンス、ひいては日本企業の取り組みにどのような影響があるのか注目を集めている。


包摂性 : 社会や組織が多様なる人々を受け入れ、差別や排除をなくし、全ての人が平等に参加できる状態を指す。

この点についてまず確認しておきたいのは、日本におけるDEIへの推進状況だ。SDGs(持続可能な開発目標)の達成期限を5年後の2030年に控える中、政府はSDGsの進捗状況などを報告する「自発的国家レビュー(VNR=Voluntary National Review)」の取りまとめ作業を進めているが(2025年7月に公表予定)、それに先立ち2024年6月にドイツのベルテルスマン財団持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN=Sustainable Development Solutions Network)が発表した「Sustainable Development Report2024」によると、日本のSDGs達成状況は調査対象166か国中18位と上位にランクされたものの、ゴール別評価では概ね「進展中」とされ、ゴール5の「ジェンダー平等」に至っては「停滞」という評価を受けている。また、2024年6月の世界経済フォーラムが公表したジェンダーギャップ指数でも、日本は146か国中118位とされており、改善が求められている。さらに、2024年10月には国連の「女性差別撤廃委員会」が日本政府に対し、夫婦同姓を定めた民法の改正を求めるなどしている。このように、日本におけるDEIの推進は国際的には周回遅れとなっている。したがって、トランプ政権がDEIの推進の動きにストップをかけたところで、日本と米国との差が大きすぎる現状からすれば、日本での取り組みをスピードダウンするものではないと言えよう。


SDGs : 「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、「エスディージーズ」と読む。「人間、地球及び繁栄」のための行動計画として国連が掲げる世界共通の目標であり、17の目標と169のターゲットからなる。2015年9月に開催された「国連持続可能な開発サミット」において150を超える加盟国首脳の参加のもとで採択され、2016年から2030年までの15年間での達成を目指している。
ベルテルスマン財団 : ドイツを本拠に世界規模で新聞、出版、放送、レコードなどのメディア事業を展開しているベルテルスマン・グループを母体に1977年に設立されたイツ最大規模の財団。社会福祉に貢献する目的で、文化をはじめ、教育、国際交流、政治、医療など多くの分野で公益事業を展開している。
持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN=Sustainable Development Solutions Network) : SDGsに関する世界最大のネットワークで、国連事務総長の後援の下、世界中の大学、シンクタンク、国立研究所と協働し、持続可能な開発に関わる重要課題へのグローバルおよびローカルな解決策を特定することを目的としている。具体的には、科学、政策、そして持続可能な開発の実践活動が交差する領域で活動し、教育、研究、政策分析、国際協力を通じて、SDGsおよびパリ協定の推進に取り組んでいる。
世界経済フォーラム : 経済、政治、学究、その他の社会におけるリーダーたちが連携することにより、世界、地域、産業の課題を形成し、世界情勢の改善に取り組むことを目的とし、1971年に発足した非営利財団。世界経済フォーラムが毎年1月に開催する年次総会である「ダボス会議」には、日本の首相を含む各国を代表する政治家や実業家が一堂に会し、世界経済や環境問題など幅広いテーマについて議論するだけに、同会議における決定・公表事項は世界に強い影響力を持つ。スイスの有名な保養地であるダボスで開催されることから「ダボス会議」との名前が付いた。

以下、2025年において日本企業が取り組むべきDEIのテーマとしてどのようなものがあるのか整理したい。

・男女間の賃金格差の縮小、女性管理職比率の向上
これらのテーマは既に言い尽くされてきた感があるが、2025年1月17日のニュース「女性管理職比率の開示義務化が既定路線に 適用対象拡大により子会社での開示が必要になるケースも増加へ」でお伝えしたしたとおり、政府は現在開催中の2025年通常国会に女性活躍推進法の改正案を提出し、さらなる強化を図る。具体的には、現在は「従業員数301人以上」の企業に課されている「男女の賃金の差異」についての開示義務を「従業員数101人以上」の企業にも拡大するとともに、従業員数101人以上の企業に対し、新たに女性管理職比率の情報公表も求めるほか、追加的な情報公表や男女別管理職登用比率を参考値として記載することを促す。

既に「男女の賃金の差異」を開示している企業の中には、発生している賃金格差の要因の分析と説明を工夫し、格差の縮小に取り組んでいる事例も見受けられる。厚生労働省が公表している開示の好事例も参考に、同様の取り組みが求められる。

女性管理職比率の向上については、政府や東証、30%クラブジャパンや経団連の「2030年30%チャレンジ」が2030年までに女性の役員比率を30%とすることを目指しており、さらに政府はその中間到達点として、プライム市場上場企業に対し「2025年を目途に、女性役員を1名以上選任するよう努める」「2025年までに女性役員の比率を19%以上とすることを目指す」こととしている(2023年12月25日のニュース「政府、2025年中にプライム上場企業の役員に占める女性割合の目標を19%に設定」参照)。2024年時点で女性役員(取締役、監査役、指名委員会等設置会社の執行役)の登用がないプライム市場上場企業は4.2%、経団連会員のプライム市場上場企業で1.5%にすぎない。また、女性役員割合はプライム市場上場企業で16.1%、経団連会員のプライム市場上場企業で16.8%となっており、2025年の女性役員がいない企業をゼロとすること、女性役員割合19%以上を達成することはいずれも射程に入っている。議決権行使助言会社最大手のISSも当フォーラムの取材に対し、「女性取締役が一人もいない場合、経営トップである取締役」の選任議案に原則として反対を推奨するとの日本向けポリシーは変更しないと回答している。女性役員を増やすためにも、その候補者となる女性管理職の比率向上は必須となる。


30%クラブジャパン : 2010年に英国で誕生した女性役員の比率を増やす取り組みで、日本でも2019年から活動を開始した。

・選択的夫婦別姓
経団連は昨年(2024年)6月に「選択肢のある社会の実現を目指して~ 女性活躍に対する制度の壁を乗り越える~」と題する提言を公表するなど、選択的夫婦別姓制度の早期導入を求めている。同提言では、姓名はその人格を示すものであり、職業人にとっては、これまで築いてきた社内外の実績や信用、人脈などが紐づく「キャリアそのもの」であるとし、さらなる女性活躍の観点からはもちろん、一人ひとりがそれぞれの考えのもと生き方を選択できるというDEIの本質からも選択的夫婦別姓制度の必要性を訴えている。

3月6日に開催された自民党の「氏制度のあり方を検討する作業チーム」の会合には経団連も出席し、改めて早期の制度の導入を求めた。選択的夫婦別姓制度は2024年の自民党総裁選や各党の党内での議論、臨時国会での論戦が行われてきたが、2025年の通常国会で具体的な法案の議論に入れるのか、注目される。

・女性と健康
男女平等が求められる一方で、男女の性差に着目したうえで、そのケアを求める「女性と健康」も大きなテーマとなっている。

経済産業省は2024年2月、女性特有の健康課題による労働損失等の経済損失は社会全体で約3.4兆円に上るとの推計を発表し、対策の重要性を訴えるとともに(経済産業省「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」参照)、女性活躍推進に優れた上場企業であるなでしこ銘柄を選定する際の調査項目の一つに「女性従業員の健康課題解決への取組の概要と得られた成果(定量的な成果を含む)」を挙げ、女性の健康課題への取り組みを後押ししている。

経団連も2025年の春季労使交渉の指針の中で、企業に対し「女性と健康」に関する取り組みを進めるよう求めており、2025年は企業における対策の定着が求められる年となろう。

・LGBTQI+
LGBTQI+のような性的マイノリティについては、2023年に制定された性的指向・ジェンダーアイデンティティ理解増進法に基づく政府の基本計画がいまだ策定されていない。また、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律についても、2023年10月に最高裁で、いわゆる生殖不能要件について違憲との決定(外観要件について高裁に差し戻し)がされており、これに対応した法改正も求められている。同性婚についても、2024年に札幌・東京・福岡の高裁で違憲との判決が出ており、2025年にも最高裁の判断が示される可能性がある。


LGBTQI+ : レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの総称であるLGBTに、クエスチョニング(性自認が分からない・決めていない人)、インターセックス(身体的性が一般的に定められた男性や女性の中間、どちらにも一致する人)を加え、さらに「+(プラス)」を付けることでそれ以外の多様な性の在り方を包括する意味が込められた造語。
性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律 : 性同一性障害者のうち、特定の要件を満たす者について、法令上の性別の取扱いと戸籍上の性別記載を変更できるようにする法律。2003年7月10日に国会で成立し、2004年7月16日から施行された。

企業は政府や裁判の動向をにらみながら、取り組みを検討していく必要があろう。

職場のDEIは従業員のパフォーマンスを高めると言われる。経営のダイバーシティは危機に際して強靭な経営やイノベーティブな経営を実現するものとされ(エビデンスはこちら)、昨今では経営のパフォーマンス向上には不可欠との認識が定着しつつある。アクティブ投資家がエンゲージメントに際して、投資先企業がダイバーシティを活かした経営を進めているかを問う流れは変わらないと思われる。むしろ、女性管理職の割合や役員比率といった数字の問題だけでなく、ダイバーシティを経営にうまく活かせているか、実効性が問われることになろう。


アクティブ : 銘柄を選別し、魅力のある銘柄を購入する一方で、見劣りする銘柄を売却するなどして利益を得ようという投資手法。運用担当者(ファンド・マネージャー)が、株式市場や投資銘柄などを調査し、今後の動向を予測することでポートフォリオを決定する。市場の平均的な収益率をベンチマークとし、これを上回る運用成果を上げることを目標にすることが多い。






2025/03/07 「アクティビズム」が「同意なき買収」にシフトする可能性 経営者に必要な備えは?

フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男

資本市場では「同意なき買収」に注目が集まっているが、「アクティビズム」も益々活発化している。最近だと、花王がオアシス・マネジメントから書面で株主提案を受け、3月21日に開催予定の定時株主総会において、社外取締役5名の選任、社外取締役に対する報酬額の改訂、社外取締役に対する事後交付型株式報酬の付与、社外取締役以外の取締役に対する株式報酬制度の承認を求められていることを公表した(花王のリリースはこちら)。また、サッポロホールディングスも、3月28日に開催予定の定時株主総会において、3Dインベストメント・パートナーズから、新たに取締役の選任などを求められていることを公表している(サッポロホールディングスのリリースはこちら)。


事後交付型 : 取締役等と会社の契約において、株式の発行等について権利確定条件が付されており、権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる仕組み。

今後、日本の資本市場からアクティビズムがなくなることはない。なぜなら、日本の上場企業においては依然として、成長が期待されている「Growth」(PBR2倍以上、ROE10%以上)あるいは「Aggressive Growth」(PBR2倍以上、ROE10%未満)に属する価値創造企業の割合が欧米企業を大幅に下回っており、事業の構造改革が求められる「Value」(PBR1倍未満、ROE7%未満)に属する価値毀損企業が多いからだ。


PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。
ROE : ROE(Return On Equity = 株主資本利益率)とは株主資本に対する当期純利益の割合であり、「当期純利益 ÷ 株主資本」により算出される。

では、近年のアクティビズムにはどのような傾向が見られるのだろうか。まず挙げられるのは、・・・

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2025/03/07 「アクティビズム」が「同意なき買収」にシフトする可能性 経営者に必要な備えは?(会員限定)

フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男

資本市場では「同意なき買収」に注目が集まっているが、「アクティビズム」も益々活発化している。最近だと、花王がオアシス・マネジメントから書面で株主提案を受け、3月21日に開催予定の定時株主総会において、社外取締役5名の選任、社外取締役に対する報酬額の改訂、社外取締役に対する事後交付型株式報酬の付与、社外取締役以外の取締役に対する株式報酬制度の承認を求められていることを公表した(花王のリリースはこちら)。また、サッポロホールディングスも、3月28日に開催予定の定時株主総会において、3Dインベストメント・パートナーズから、新たに取締役の選任などを求められていることを公表している(サッポロホールディングスのリリースはこちら)。


事後交付型 : 取締役等と会社の契約において、株式の発行等について権利確定条件が付されており、権利確定条件が達成された場合に株式の発行等が行われる仕組み。

今後、日本の資本市場からアクティビズムがなくなることはない。なぜなら、日本の上場企業においては依然として、成長が期待されている「Growth」(PBR2倍以上、ROE10%以上)あるいは「Aggressive Growth」(PBR2倍以上、ROE10%未満)に属する価値創造企業の割合が欧米企業を大幅に下回っており、事業の構造改革が求められる「Value」(PBR1倍未満、ROE7%未満)に属する価値毀損企業が多いからだ。


PBR : Price Book-value Ratio=株価純資産倍率(株価÷1株当たり株主資本)。株価が1株当たり純資産(BPS:Book value Per Share)の何倍まで買われているか(=1株当たり純資産の何倍の値段が付いているか)を指す。PBRが1.0を大幅に下回る場合、投資家が企業の将来性に疑問を持っていたり、減損リスクのように潜在的な資産の含み損が多額にのぼる可能性が株価に織り込まれていたりすることを示唆する。
ROE : ROE(Return On Equity = 株主資本利益率)とは株主資本に対する当期純利益の割合であり、「当期純利益 ÷ 株主資本」により算出される。

では、近年のアクティビズムにはどのような傾向が見られるのだろうか。まず挙げられるのは、キャンペーン数の増加が加速し、より多くのアクティビストが参戦しているということだ。英国の大手金融グループ バークレイズの調査によると、2024年の第3四半期までに世界中で184のキャンペーンが実施された。これは過去4年間の平均を26%上回る。また、初めてキャンペーンを行ったアクティビストが22%を占め、主要なアクティビストの占有率を初めて上回った。2023年には「活発なアクティビストのトップ10」が46%を占めていたが、今回の調査では30%にとどまっている。国別では、米国での活動が22%増加した。欧州のメガ・キャピタル企業も引き続き高い確率でターゲットにされているが、欧州全体では前年比29%減、長期的な平均と同水準と比較的静かだった。


キャンペーン : 企業の経営やガバナンスに影響を与えることを目的として行われるもので、例えば、配当の増加、取締役の選任・解任、企業戦略の変更等を求める「株主提案」、企業の経営陣に対して経営改善やガバナンスの強化を求める「公開書簡の送付」、新聞、テレビ、SNS等のメディアを通じて企業の問題点を公表し、世論を喚起することで企業に圧力をかける「メディアキャンペーン」、企業の経営陣との「直接対話」などがある。
メガ・キャピタル企業 : 大規模な資本を持つ企業。一般的には、時価総額が非常に高く、従業員数も多い企業を指すことが多い。

次に、キャンペーン内容が「戦略」や「オペレーション」関連に移ってきていることが挙げられる。戦略やオペレーション関連のキャンペーンは、キャンペーン全体の23%を占め、過去3年平均の18%を上回った。これは全世界に共通する傾向だが、特に米国で顕著となっており、26%を占めた。M&A関連のキャンペーンは過去3年平均の43%と同水準の41%であり、引き続き高い割合を占めている、M&A市場が回復する中、M&A関連のキャンペーンの性質は変化している。具体的には、より多くのアクティビストがターゲットを「売却」に追い込んでいる。

アクティビストのターゲットになった企業のCEOの辞任が急増していることも最近の傾向だ。米国S&P500企業のCEOの離職率は年間平均12%だが、過去2年間でアクティビストのターゲットとなった企業のCEOの20%が「1年以内」に辞任している。CEOが1年以内に辞任した企業の38%をメガ・キャップ企業が占めており、アクティビストのキャンペーン後にCEOが辞任するまでの平均期間は2022年以降、35%も短くなっている。アクティビストが獲得した取締役会の議席数は84で、2023年同時期の113から減少しているにもかかわらずCEOの離職率が増加しているのは、戦略とオペレーションに焦点を当てたキャンペーンの増加の“副産物”である可能性が高い。


S&P500 : アメリカの投資情報会社スタンダード&プアーズが選定した、ニューヨーク証券取引所、NASDAQ、アメリカン証券取引所に上場する代表的な500社。
メガ・キャップ企業 : 時価総額が非常に高い企業のこと。

こうした中、経営者にはどのような「備え」が必要だろうか。

2024年と同様、2025年においてもアクティビズムはさらに活発化することが予想される。もっとも、さらに注意が必要なことは、「アクティビズム」が「同意なき買収」にシフトする可能性だ。上記のとおり、アクティビストのキャンペーンでは引き続きM&A関連のものが高水準にある。M&A関連のキャンペーンには、既に交渉中または間もなく議決権行使が行われるM&Aに介入し、M&Aを阻止または遅延させ、その過程でリターンを得る「Bumpitrage(バンピトラージ)」(M&A公表後の株価上昇(bump in stock price)とさや取り(arbitrage)を組み合わせた造語)だけではなく、“ソフト・タッチ”に働きかけ、公の場で声明を発表し、企業を「売却」するよう経営陣に圧力をかけるものも含まれる。すなわち、アクティビストが相場を大きく動かす「カタリスト」になり、「オークショニア」として同意なき買収の契機を創出している。今後、とりわけ価値毀損企業では、「アクティビズム」と「同意なき買収」の両方への備えが必要になる。


カタリスト : 元々は「化学反応を促進する物質」のことだが、そこから派生して、株価や株式市場に対して重要な影響を与える要因という意味で使われる。
オークショニア : 元々はオークション(競売)を司る人物のことを指す。そこから派生して、ここでは金融商品や株式の価格を設定する役割を果たす者のことをいう。

アクティビストのキャンペーンでは「コーポレート・ガバナンス」の問題が前面に出てくる。 これは、コーポレート・ガバナンスを重視する多くの機関投資家、とりわけパッシブ投資家の意思決定においても同様である。そこで、まずは取締役会の構成やキャピタルアロケーションなど、自社にコーポレート・ガバナンス上の問題がないかをセルフチェックする。ただし、同意なき買収では、コーポレート・ガバナンスの問題はほとんど意味をなさない。なぜなら、最大の焦点は、「現経営陣」と「同意なき買収者」のどちらが株主に対し(より近い将来において)価値を提供できるかにあるからだ。そのため、セルフバリュエーションを行い、その過程で、価値を創造するための現実的な選択肢をすべてピックアップする必要がある。これには、部門の売却や分社化、他社や資産の買収、事業会社やPEファンドなどの新たな投資家の招聘、株主への資本還元などがある。そして、洗練された反論やメディア対応計画を策定し、それぞれを定期的に見直す必要がある。


パッシブ : 東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法のこと。パッシブとは「消極的な」という意味である。
キャピタルアロケーション : 調達した資金、事業活動を通じて得た資金をどこに投資するか、どのように使うかを判断すること

日本企業の経営者は、欧米の資本市場で起きていることはもはや対岸の火事ではないことを肝に銘じる必要がある。

2025/03/06 小林製薬の臨時株主総会で株主提案が否決、アクティビストが惨敗した理由

紅麹問題で揺れる小林製薬(東証プライム市場に上場)は2025年2月19日に臨時株主総会を開催したが、その結果は小林製薬を利するものとなった。

この臨時株主総会はアクティビストのOasis Japan Strategic Fund Ltd.(以下、Oasis)より株主提案を受けて開催されたもので、Oasis以外の株主の判断や議案の行方が注目を集めていた。・・・

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2025/03/06 小林製薬の臨時株主総会で株主提案が否決、アクティビストが惨敗した理由(会員限定)

紅麹問題で揺れる小林製薬(東証プライム市場に上場)は2025年2月19日に臨時株主総会を開催したが、その結果は小林製薬を利するものとなった。

この臨時株主総会はアクティビストのOasis Japan Strategic Fund Ltd.(以下、Oasis)より株主提案を受けて開催されたもので、Oasis以外の株主の判断や議案の行方が注目を集めていた。小林製薬が2025年2月25日に行ったリリース「臨時株主総会における議決権行使結果に関するお知らせ」によると、本臨時株主総会でOasisが(株主)提案した議案にはいずれも7割以上の反対票が投じられ、否決された。それぞれの議案の内容とOasisの主張は下表のとおり(Oasisの小林製薬関連特設サイトはこちら)。議決権行使助言会社のISSとグラス・ルイスはオアシスの提案を支持した。下表には各議案に対するそれぞれの見解も付している(出典はオアシスのリリース)。

議案の内容 Oasisの主張 ISSの見解 グラス・ルイスの見解
会社法316条2項に定める当社の業務及び財産の状況を調査する者として弁護士の牛島信氏を選任する 本紅麹事件の発生及び拡大阻止に既存の社外取締役が何ら力を発揮できていなかった事実や、本紅麹事件の公表後も、死者数の報告に際して創業家一族の強い反対に押し切られ、敢えて過少に報告する等していた事実等の存在を踏まえると、既存の経営陣のみよっては品質管理体制・内部統制システムの抜本的改革を期待することはできない。したがって、多数の健康被害が引き起こした事実を重く受け止め、当社の信頼を回復するためにも、真に独立性が担保された調査者により本紅麹事件の再調査・検証を行った上で、本紅麹事件の原因分析(当社における全般的な内部統制システム及び品質管理体制の当否の分析を含む)を行う必要がある。 ・内部統制システムの機能不全における創業家の役割についての独立した評価は、小林製薬が新たなコーポレートガバナンスシステムを構築し、再発防止策を策定するために非常に重要であることは明らかである。しかしながら、本件においてはそのようなことはなされておらず、事実検証委員会の調査は不十分であると結論付けた。
・費用に関して、小林製薬は、オアシスが提案する方法による調査は、小林製薬の経営を大きく阻害すると言及しているものの、調査費用は社会的に合理性のある範囲で設定されるはずである。小林製薬の懸念は過度に強調されたものである。
・創業家からの脱却は容易ではない。実際に、小林一雅前会長は会長職にあった当時から使用していた会長室の使用を今もなお継続し、現在も特別顧問として報酬を得ている。
・紅麴事件は小林製薬における内部統制システム及びリスク管理体制に深刻な欠陥があることを浮き彫りにした。
・グラス・ルイスは、事実検証委員会が調査結果を事前に社内取締役に共有していたことから同委員会の報告の客観性に懸念を有している。
・小林製薬は日本弁護士連合会のガイドライン又はこれと同等の基準に沿った、真に独立した委員会を設置するべきである。
・小林製薬が数次にわたり調査を実施していることは認識しているものの、現在の取締役会の判断を全面的に信用できないという、根本的な懸念は解消されていない。
新たな社外取締役として、弁護士の中村芳生氏、弁護士のRichard Dols Young(リチャード・ドルス・ヤング)氏および医師のTomoko Chubachi(トモコ・チュウバチ)氏の3名を選任する 新たな社外取締役を選任し、執行取締役らに対する監督・牽制機能を発揮してもらう必要もある。 ・小林製薬において有効な内部統制システムが機能しなかったことが紅麴事件の公表の遅れの主要な要因であり、内部統制システムの強化が小林製薬にとっての喫緊の課題である。この観点から、オアシスの独立社外取締役候補者はいずれも、同社の課題に対応できる知見を有している。
・社外取締役候補の選任は、創業家の影響が未だ残る小林製薬の取締役会において、新たな独立した視点を取締役会にもたらすことが期待される。
・紅麴事件は小林製薬の内部統制システム及びリスク管理体制の根本的な脆弱性を露見させた。
・オアシスは小林製薬の危機的な欠陥を的確に指摘している。
・紅麴事件についての責任を負うべきと考える小林一雅前会長を特別顧問として任命したことや、同じく紅麹事件について責任を負うべきと考える小林章浩前社長を来る定時株主総会における再任取締役候補として推薦するなど、小林製薬の取締役会の意思決定プロセスに対して深刻な疑念を抱かざるを得ない。
・小林製薬にこれらの深刻なコーポレートガバナンス上の懸念があり、オアシスはコーポレートガバナンス、コンプライアンス、医薬領域における研究開発等、小林製薬が明らかに問題を抱えている重要な領域の専門家を推薦しており、その候補者の人数は取締役の半数に満たないことを踏まえれば、小林製薬の株主に対しオアシスの提案する社外取締役の選任への賛成を強く推奨すべき事案である。

一方、Oasisから株主提案を受け取った小林製薬の取締役会は2025年1月21日付で、下記を理由として同提案に反対することを決議した。

(1) 事実検証委員会により、適切に調査・検証が実施されていること
(2) 事実検証委員会の調査報告書を受け、再発防止や各種の改革に取り組んでいること
(3) 当社の監査役においても、独立した外部弁護士を活用して法令上の権限に基づき調査を実施し、取締役に善管注意義務違反を含む法令違反は認められないと判断していること
(4) 厚生労働省や大阪市といった行政当局等による調査も進められてきたこと
(5) 本提案株主が提案する調査を実施する場合、当社の業務に著しい支障を生じさせ、信頼回復や経営改善等の取組みを停滞させるものとなること
(6) 当社は2025年3月開催予定の定時株主総会に新たな取締役会構成を提案する予定であること

ポイントとなるのは、①小林製薬の事実検証委員会による調査は十分だったのか、②小林製薬は創業家から脱却できているのか、の2点だ。議決権行使助言会社も指摘しているとおり、事実検証委員会が「内部統制システムの機能不全における創業家の役割について独立した評価をしていない」「事実検証委員会が調査結果を事前に社内取締役に共有していた」といった事実は現経営陣にとって不利に働くことは間違いない。また、「紅麴事件についての責任を負うべきと考える小林一雅前会長を特別顧問に任命したことや、同じく紅麹事件について責任を負うべきと考える小林章浩前社長を来る定時株主総会における再任取締役候補として推薦」したことは現経営陣が創業家一族から脱却できていないことの表れというOasisの主張は非常に説得的と言える。

それにもかかわらず、Oasisが提案した議案への反対率は7割以上に上った。Oasisの持株比率が10.1%であったことを考えると、賛成に回ったOasis以外の株主は2割を切っていたことになる。厚生労働省の発表によれば、小林製薬の紅麹関連の健康被害は2024年12月1日時点で死者397名、入院治療を要した者は退院者も含め542名に及ぶ。それだけに、Oasisの提案が他の株主に同調されなかったことには意外感もあろう。

その理由として考えられるのが、小林製薬の業績の動向だ。小林製薬の2024年2月期の業績は、2024年11月8日に発表した業績予想(経常利益255億円)を5.3%上回る水準(268億円)となった(小林製薬のリリースはこちら)。紅麹問題が発覚した2024年12月期の連結売上高は1,656億円と、発覚前の2023年12月期の連結売上高1,734億円を下回ったものの、2022年12月期の1,662億円と同水準にある。2024年12月期の連結当期純利益は100億円と、さすがに2023年12月期の203億円の半分程度となったものの、赤字に転落したわけでもない。紅麹問題発覚時点ではワーストシナリオとして長期の赤字転落も予想されただけに、想定よりも傷が浅かった小林製薬に対して“現状維持”を望む株主が多数派を占めていたとうことだろう。

ただ、Oasisがこれで諦めたわけではない。Oasisは本株主提案と並行して小林製薬の創業家らに対して株主代表訴訟を起こす方針を明らかにしており、3月には小林製薬の定時株主総会も開催される。定時株主総会では株主が臨時株主総会とは異なる判断をすることも考えられる。小林製薬の正念場はこれからと言えよう。

2025/03/05 「保有株ウォッシュ」のあぶり出しへ 詳細解説・政策保有株式関連の開示強化

上場会社における「政策保有目的での株式保有」は相互持ち合いを通じた“緩い”議決権行使による経営者保身の手段として用いられがちであり、議決権行使の空洞化や資産効率の悪化を招く。そこで、コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)原則1-4では下記のルールを設け、コーポレート・ガバナンス報告書による開示等を求めているのは周知のとおりだ。この開示をきっかけに、機関投資家との対話において、政策保有株式を縮減するようプレッシャーを受けたという上場会社は少なくない。

CGコード【原則1-4.政策保有株式】
上場会社が政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で、個別の政策保有株式について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである。
上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うべきである。

また上場会社は、コーポレート・ガバナンス報告書とは別に有価証券報告書でも政策保有株式の保有株数等を開示することが求められている。その趣旨は、保有株数等の開示を通じて政策保有株式の縮減を促すことにある。

もっとも、現行の有価証券報告書の開示ルールでは、政策保有目的株式であれば保有株数の開示が求められるが、純投資目的の保有であれば保有株数の開示を免れることになる。そのため、保有目的を政策保有から純投資に変更した場合、変更年度においては変更した株数を確認できるものの、翌年度以降、株数が開示されなくなるという問題があった。この“抜け穴”を利用して一部の上場会社で見られたのが、「政策保有株式の保有目的を純投資目的に変更する」という動きだ。実際に純投資目的で運用しているのなら問題ないが、実態としては何も変わっていないケースが少なくない。こうしたいわゆる「保有株ウォッシュ」はコンサル会社等が指南して実施されるケースもあるという(後述。また、「保有株ウォッシュ」は【役員会 Good&Bad発言集】保有株ウォッシュ も参照)。

そこで金融庁は保有株ウォッシュを封じるため、・・・

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2025/03/05 「保有株ウォッシュ」のあぶり出しへ 詳細解説・政策保有株式関連の開示強化(会員限定)

上場会社における「政策保有目的での株式保有」は相互持ち合いを通じた“緩い”議決権行使による経営者保身の手段として用いられがちであり、議決権行使の空洞化や資産効率の悪化を招く。そこで、コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)原則1-4では下記のルールを設け、コーポレート・ガバナンス報告書による開示等を求めているのは周知のとおりだ。この開示をきっかけに、機関投資家との対話において、政策保有株式を縮減するようプレッシャーを受けたという上場会社は少なくない。

CGコード【原則1-4.政策保有株式】
上場会社が政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべきである。また、毎年、取締役会で、個別の政策保有株式について、保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである。
上場会社は、政策保有株式に係る議決権の行使について、適切な対応を確保するための具体的な基準を策定・開示し、その基準に沿った対応を行うべきである。

また上場会社は、コーポレート・ガバナンス報告書とは別に有価証券報告書でも政策保有株式の保有株数等を開示することが求められている。その趣旨は、保有株数等の開示を通じて政策保有株式の縮減を促すことにある。

もっとも、現行の有価証券報告書の開示ルールでは、政策保有目的株式であれば保有株数の開示が求められるが、純投資目的の保有であれば保有株数の開示を免れることになる。そのため、保有目的を政策保有から純投資に変更した場合、変更年度においては変更した株数を確認できるものの、翌年度以降、株数が開示されなくなるという問題があった。この“抜け穴”を利用して一部の上場会社で見られたのが、「政策保有株式の保有目的を純投資目的に変更する」という動きだ。実際に純投資目的で運用しているのなら問題ないが、実態としては何も変わっていないケースが少なくない。こうしたいわゆる「保有株ウォッシュ」はコンサル会社等が指南して実施されるケースもあるという(後述。また、「保有株ウォッシュ」は【役員会 Good&Bad発言集】保有株ウォッシュ も参照)。

そこで金融庁は保有株ウォッシュを封じるため、2025年1月31日に「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、開示府令)等の改正を公表している。今回の開示府令の改正は、有価証券報告書の提出会社が上場会社等で、提出会社が投資株式の保有目的を変更したもの(最近事業年度末において保有しているものに限る)がある場合には、下記の⒜又は⒝に掲げる場合の区分に応じ、銘柄ごとに、当該⒜又は⒝に定める事項を記載することを求めるというもの(本改正の経緯については2024年12月4日のニュース「過去5年以内の政策保有株式の純投資目的への変更、有報での開示強化へ」を参照)。2025年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書等から適用される。

⒜ 最近事業年度において保有目的を純投資目的から純投資目的以外の目的に変更したものがある場合
ⅰ 銘柄
ⅱ 株式数
ⅲ 貸借対照表計上額
⒝ 最近5事業年度(6箇月を1事業年度とする会社にあっては、10事業年度)において保有目的を純投資目的以外の目的から純投資目的に変更したものがある場合
ⅰ ⒜に定める事項
ⅱ 保有目的を変更した事業年度
ⅲ 保有目的の変更の理由及び保有目的の変更後の保有又は売却に関する方針

今回の改正には二つのポイントがある。一つ目は、(b)の保有目的の変更を「最近5事業年度」に遡るということだ。こうした開示ルールの改正は、通常は施行日後の保有目的変更に適用されるが、今回の改正はあえて「最近5事業年度」に遡ることとされた。つまり、数年前に政策保有目的を純投資目的に変更しても、新開示ルールによって株式数が一向に減っていない事実が明らかになれば、「保有株ウォッシュ」との疑念の目を向けられることになる。

二つ目のポイントは、開示対象となる株式に「最近事業年度末において保有しているものに限る」との限定が付けられたということだ。すなわち、期末日までに株式を売却すれば、開示を免れることになる。3月決算会社の場合、残された期間は2か月を切っている。その間、駆け込み売却が増える可能性もあり、株価に与える影響も懸念される。

「保有株ウォッシュ」をあぶりだすためには、解釈の余地を残さないよう「純投資目的」の定義を明確化しておく必要がある。そこで、本改正に伴い開示ガイドラインに下記が追加された(2025年1月31日より適用)。

5-19-3-2
開示府令第二号様式記載上の注意(58)a、e及びfに規定する「純投資目的」とは、専ら株式の価値の変動又は株式に係る配当によって利益を受けることを目的とすることをいう。例えば、当該株式の発行者が提出会社の株式を保有する関係にあること、当該株式の売却に関して発行者の応諾を要すること等により、発行者との関係において提出会社による売却を妨げる事情が存在する株式は、純投資目的で保有しているものとはいえないことに留意する。

金融庁は今回の改正案を2024年11月26日に公表し、12月26日までパブリックコメントを募集したところ、24の個人および団体より延べ59件のコメントが寄せられた。その多くが今回の改正により「上場会社の政策保有株式の削減プロセスがより明確化される」「相互保有の減少につながり、コーポレート・ガバナンス改革が推進される」といった改正を支持するものであったこともあり、改正案からの変更はわずか1点にとどまっている(上記の開示ガイドラインの改正の赤字の「等」が追加された。これは、パブコメで寄せられた「ホールディングスなどにおいて子会社が提出会社の株式を保有するケースを想定するべき」とのコメントを受けたものである)。

金融庁は改正開示府令の公表に伴い、「パブリックコメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」を明らかにしている。主なコメントとそれに対する金融庁の考え方は下表のとおり(最右列の「備考」欄は当フォーラムが留意点等をまとめたもの)。

開示府令改正について
No. コメントの概要 金融庁の考え方 備考
3 新たに開示が求められる事項「保有目的の変更の理由及び変更後の保有又は売却に関する方針」において、当該事項に関する意思決定に関与した監査法人及び法務アドバイザー等がいる場合は、それらの名称及び意見を当該事項に含めて開示することとしていただきたい。
上場企業から報酬を得る一部の会計専門家、法務専門家及びコンサルタント等(以下「当該専門家等」という。)が、株主価値向上以外を目的とする経営陣の行為を容認することで、当該専門家等が自己の利益の確保を図っており、結果として当該上場企業の株主価値向上に向けた経営が阻害されていると見ている。
また、純投資目的に変更したにもかかわらず実質的に政策保有目的で株式を保有し続ける、いわゆる「保有株ウォッシュ」にも、当該専門家等の加担が疑われる。この点、上場企業が上記提案のような透明性の高い開示を行うことにより、自己利益の確保を図ろうとしている当該専門家等を明らかにすることができ、結果として真に株主価値を追求する経営及びコーポレート・ガバナンス改革が推進されると考える。
貴重なご意見として承ります。
なお、本改正は、令和5年度有価証券報告書レビューにおいて、保有目的が純投資目的以外の目的(以下「政策保有目的」という。)である投資株式(以下「政策保有株式」という。)の縮減の方針を示しつつ、株式の保有目的を政策保有目的から純投資目的に変更している株式に関し、
・売却可能時期等について発行者と合意をしていない状態で保有目的を変更していること
・発行者から売却の合意を得た上で保有目的を変更しているものの実際には長期間売却に取り組む予定がないこと
により、実質的に政策保有株式を継続保有していることと差異がない状態になっているものがあるとの課題が識別されたことに対応するために行うこととしたものです。
本コメントは、専門家が「保有株ウォッシュ」に加担している実態についての情報提供となる。
6 ・有価証券報告書においては、【経理の状況】を中心に前事業年度数値の比較情報を載せることが一般的と理解しており、【株式の保有状況】についても同様。有価証券報告書全体の記載に従い、(中略)「最近2事業年度」へ変更願いたい。
・有価証券報告書の比較対象期(2024年3月期)よりも前の会計期間の経営判断まで、今回の新規開示要請により事後的に開示を求めることは過度な開示要請にあたると考えられることから、2023年3月期以前に保有目的を変更した株式についての記載を任意とすることが妥当と思われる。
現行開示府令において5年分の主要な経営指標等の推移の開示を求めていることを踏まえたものです。 有報の【経理の状況】が2期比較となっていること等を理由に遡及期間を2年に限定する提案だったが、金融庁は【主要な経営指標等の推移】が5年分となっていることを理由に公開草案を維持した。
11 政策保有目的から純投資目的に変更後、5事業年度を経過すると開示対象から外れることとなる理解でよいか。 ご理解のとおりです。
12 保有目的を政策保有目的から純投資目的に変更した後、当該銘柄について買い増しした株式は、開示対象に含まれないという理解でよいか(なお、買い増しした当該銘柄の保有目的は純投資目的とする)。 ご理解のとおりです。 開示対象に含まれないのは、あくまで「買い増し分」だけである。
14 「保有目的の変更後の保有又は売却に関する方針」をどの程度の具体性のある記述とするかは各社の判断に委ねられるという理解でよいか。また、例えば、発行企業のガバナンスや業績・株主還元姿勢の変化、株価の推移等を参照しつつ、保有又は売却するといった概括的な記述とせざるを得ないケースは、そうした記述も許容されるという理解でよいか。 売却方針である株式については、売却予定時期を明示することが考えられますが、それが困難である場合であっても、売却を実現する際の考慮要素など、売却の時期に関する会社の考え方を具体的に記載することが考えられます。
また、ご指摘の「発行企業のガバナンスや業績・株主還元姿勢の変化、株価の推移等を参照しつつ」という点については、これらの要素を参照する旨の記載だけでなく、これらの要素がどのような状況になれば売却又は保有に関する方針がどのように変化するのかという点についても記載する必要があると考えております。
「発行企業のガバナンスや業績・株主還元姿勢の変化、株価の推移等を参照しつつ」といったひな形的な記述は否定された。こうした抽象的な記述しかできていない上場会社は、今後行われる予定の令和7年度の有価証券報告書レビューを経て記述の修正を求められる可能性がある。
18 企業が「純投資」目的の株式を保有するということは、市場の変動等に応じて株式の売買を行うための社内体制が整備されるものと考えられる。「純投資」への区分変更に実態が伴っているかを明らかにする観点から、株式の売買管理体制についても開示事項に含めることが適切であると考える。 貴重なご意見として承ります。 今回の改正は「純投資」の実態にまで踏み込んだものではないため、公開草案の変更には至らなかった。これは開示ルールの限界であり、「純投資」への区分変更に実態が伴っているかは各社のコーポレート・ガバナンスに委ねられていると言えよう。
23 現行の開示府令では政策保有株式のいわゆる「持合い」の関係について「当該株式の発行者による当社の株式の保有の有無」の開示が義務付けられているが、当該株式の発行者の定義を限定的にとらえ「当該株式の発行者の「子会社」による当社の株式の保有」があっても「無」と開示をするケースが散見される。企業によっては注記に子会社が株式を保有している旨を記載するケースもあるが、残念ながらそうした記載がないケースも多いのが実情である。
そのため「当該株式の発行者による当社の株式の保有の有無」については「当該株式の発行者」だけでなく「当該株式の発行者の「子会社」による保有」も「有」と開示する必要があることをガイドラインで明記するかパブリックコメントへの回答で言明する事が重要だと考える。
貴重なご意見として承ります。
なお、本改正は、令和5年度有価証券報告書レビューにおいて、株式の保有目的を政策保有目的から純投資目的に変更している株式について識別された課題(№3「金融庁の考え方」参照)に対応するために行うこととしたものです。
本コメントに対する金融庁の考え方を読むと、何ら対応が図られず開示の抜け穴が放置されたように見えるが、実際には開示ガイドラインの改正において「等」という文字を入れる(上表の赤字部分を参照)ことで対応が図られている。
24 一般的に投資家の観点から見た場合、株式投資を本業としない事業会社が純投資=上場株式投資を行う合理的理由はない。また、金融機関等が本業の資産運用の一環として新たに「純投資」を行う場合においても、ALMなどの観点からの必要性についての十分な説明が必要である。したがって、純投資への区分変更を行う事業会社・金融機関等においては、保有目的変更の理由に先立ち、「そもそも株式運用を行う理由と目的、期待している成果」についての開示・説明を求めるべきであると考える。また、変更後の保有又は売却に関する方針は極めて重要であることから、形式的な開示にならないように十分な検証をお願いしたい。 純投資目的の株式に係る株式運用を行う理由と目的、期待している成果については、現行の開示府令の記載事項である「保有目的が純投資目的である投資株式と純投資目的以外の目的である投資株式の区分の基準や考え方」として、記載することが望ましいと考えられます。また、開示内容については、ご指摘の「保有目的の変更後の保有又は売却に関する方針」も含め、投資者との対話に資する適切な開示を行うことが重要と考えております。 今回の改正は「純投資」の実態にまで踏み込んだものではないため、公開草案の変更には至らなかった。これは開示ルールの限界であり、「純投資」への区分変更に実態が伴っているかは各社のコーポレート・ガバナンスに委ねられていると言えよう。
25 開示府令改正案の「ⅲ保有目的の変更の理由及び保有目的の変更後の保有又は売却に関する方針」については、「投資株式が非上場株式以外の株式の場合には、投資者が資本コストと比較して純投資目的として当該投資株式を保有する妥当性を適正に判断するに足りる程度に定量的に記載」する旨を追記すべき。上場会社が、市場で調達した資本を使用して、純投資目的で他の上場会社の株式を保有する場合、開示内容は、純投資目的という記載に即して、各事業年度における株主総利回り(TotalShareholderReturn)及び将来の株主総利回りをどのように期待しているかについて、定量化した説明を行うこととすべきである。純投資目的である以上、事業のシナジーや当該他の上場会社との関係性等を一切考慮すべきではなく、株主総利回りを定量化できない場合、保有目的を純投資であると評価することはできないと思料する
27 保有させている企業の取締役、特に社外取締役は資本市場の代弁者として政策保有株式に関する問題点を取締役会において議論することが望まれる。自身が取締役を務める企業が他社の資産効率を阻害する、非合理的な取引慣行を強いるような行動を取っているかどうかを確認し、そのような行動が認められる場合は断固として対応することが必要である。取締役会及び社外取締役におけるこの課題認識を有価証券報告書、コーポレート・ガバナンス報告書、招集通知において開示することが必要である。 貴重なご意見として承ります。
なお、本改正は、令和5年度有価証券報告書レビューにおいて、株式の保有目的を政策保有目的から純投資目的に変更している株式について識別された課題(№3「金融庁の考え方」参照)に対応するために行うこととしたものです。
30 今般の改正を踏まえて残された課題としては、純投資目的に変更された銘柄の議決権行使にあると考える。純投資目的に変更された場合においては、適切な議決権行使が必要であると考えており、議決権行使基準の明確化と議決権行使の結果の公表が、純投資目的での保有の透明性を高め日本企業のガバナンスの改善、ひいては企業価値の向上に資すると考えていることも併せて指摘する。 貴重なご意見として承ります。
なお、本改正は、令和5年度有価証券報告書レビューにおいて、株式の保有目的を政策保有目的から純投資目的に変更している株式について識別された課題(No.3「金融庁の考え方」参照)に対応するために行うこととしたものです。


有価証券報告書レビュー : 金融庁が上場企業等の有価証券報告書の記載内容の適正性の確保の観点から、各財務(支)局等と連携して行っている行政手続き。

開示ガイドラインの「純投資目的」の定義について
No. コメントの概要 金融庁の考え方 備考
42 非上場株式や新規公開株式に関しては、
・専ら将来的な株式の価値の変動又は株式に係る配当によって利益を受けることを目的に、創業期や成長期にあるベンチャー企業や、設立後間もないスタートアップ企業等への投資を行なうケースがあるが、非上場株式については経営の安定性の観点から株式に譲渡制限を付すことが、また、新規公開株式については株式等の募集や売出しを実施した後の需給関係を安定させる観点からロックアップを設けることが一般的であること
(中略)
を踏まえると、開示ガイドラインにかかわらず、純投資目的と位置付けることが妥当と考えているが、その理解で問題ないか。
「売却を妨げる事情」は「発行者との関係において」存在するものであることが重要になります。この点、御指摘の、新規公開株式に付されたロックアップによる譲渡制限は、株式の需給関係の安定のために証券会社等と一定の大株主との間で締結されるもの、非上場株式に付される譲渡制限は、定款上、当該株式の性質として一般的に定められるものと考えられます。したがって、いずれも「発行者との関係において」売却が妨げる事情があるものとはいえず、これらの譲渡制限のある株式を純投資目的に区分することは否定されるものではないと考えております。 ロックアップは「売却を妨げる事情」に該当しないと整理された。
43 非上場会社の株式に通常課されている会社法上の譲渡制限(譲渡による株式の取得について取締役会の承認を要する旨の制限)は、これのみをもって「発行者との関係において提出会社による売却を妨げる事情」が存在すると解されることはない、という理解でよいか。
44 外形上、A社とB社が株式を互いに保有し、かつ、A社がB社株保有を「純投資目的以外の目的」と開示しているケースであっても、B社によるA社株保有が真に純投資を企図したものであり、当該株式の売却を妨げる事情(例:株式持合いの合意など)も存在しない場合、B社がA社株保有を「純投資目的」として開示することについて特段の問題はないものと考えるが、そのような認識で差し支えないか。 提出会社において本改正により明確化した純投資目的の考え方等を踏まえ、株式の保有目的を検討した結果、提出会社が保有する発行者の株式と、当該発行者が保有する提出会社の株式の保有目的の区分が異なることとなる場合であっても、そのこと自体は否定されるものではないと考えられます。 たまたま相互保有になっていたケースを想定したコメントである。
45 株価への影響を考慮して一定ペース(出来高の5%など)で売却を行う(短期間かつ多額の市場売却はマーケット(発行者・提出会社・投資家)への悪影響が生じる可能性があるため)ことは「発行者との関係において売却を妨げる事情」に該当しないと考えて良いか。 一般的に、市場において株式を短期間に大量に売却する場合、当該株式の急激な株価変動が生じ得るため、これを回避する目的で、発行体と売却の進め方を調整し、段階的に売却を進めていくことも想定されます。そのことのみをもって純投資目的に区分することを否定するものではありませんが、投資者が保有目的変更後の当該株式の売却又は保有の方針を理解できるよう、発行体との間で調整された売却計画の概要を記載することが有益と考えられます。 機関投資家から「株価への影響の抑制」を理由として政策保有株式の縮減を遅延させていると主張されないよう、「発行体との間で調整された売却計画の概要」を記載し、投資家に理解を求めることが考えられる。
46 開示ガイドライン改正案の「当該株式の売却に関して発行者の応諾を要する」に関して、「要する」とはどの程度の要求レベルを指すのか。発行者の応諾がなく売却することは法的には妨げられない場合であっても、例えば、応諾なく売却した場合に取引関係において不利益な扱いがなされるなどの場合には、どうか。 「当該株式の売却に関して発行者の応諾を要する」とは、提出会社と発行者との間の契約、取決め、慣行等により、提出会社の意思による発行者株式の売却が妨げられている事情があることをいい、必ずしも法的に売却が禁止されることまでは要しないと考えられます。ご指摘の「応諾なく売却した場合に取引関係において不利益な扱いがなされるなどの場合」には、かかる取扱いがなされることによって間接的に提出会社の意思による売却が妨げられているものと考えられるため、「発行者の応諾を要する」ものであると考えられます。 「発行者の応諾」は法的なものに限定されず、間接的なものであっても「発行者の応諾」と認めるよう広く解釈することになる。
47 保有相手方がいわゆるホールディング会社で提出会社の株式が子会社に保有されている場合など「当該株式の発行者の子会社が提出会社の株式を保有する関係にある」場合に純投資と言えるとの誤解を招く可能性が考えられる。そのため、「当該株式の発行者」とは株式の発行者のみを指すものではなくその子会社も含める事を開示ガイドラインで明記する若しくはパブリックコメントへの回答で言明する事が重要だと考える。 開示ガイドラインの「当該株式の発行者が提出会社の株式を保有する関係にあること」は、あくまで「発行者との関係において提出会社による売却を妨げる事情が存在」し得る例として挙げたものであり、実際にかかる事情が存在するかどうかは、第一義的には、個別事例ごとに提出会社自身が判断する必要があるものと考えております。
御指摘のような、提出会社が上場持株会社の株式を保有し、当該上場持株会社の子会社が提出会社の株式を保有しているという状況であっても、当該上場持株会社との関係において上記の「売却を妨げる事情」が存在する場合には、当該上場持株会社の株式については純投資目的で保有しているとはいえないものと考えられます。
このため、御指摘の例における子会社が「当該株式の発行者」に含まれうるとの趣旨で、開示ガイドラインの文言を修正しました。
今回の改正で金融庁が唯一コメントを受け入れ、公開草案に「等」を入れるよう修正した箇所である。


ロックアップ : 株式の売買や譲渡を一定期間制限する制度。企業が株式を発行する際や資金調達を行う際に、大株主の売却により需給が悪化するのを防ぎ、既存の株主や投資家の利益を保護することを目的とする。英語の lock up(閉じ込める、固定する) に由来する。

上場会社の取締役・監査役は、自社の政策保有株式に関する開示が今回の改正に則ったものになっているかに加え、上表のとおりコメントとして寄せられた投資家の視点も取り入れながら、政策保有株式を巡るコーポレート・ガバナンスを再考する必要があろう。