2025/02/07 機関投資家からのコンタクトを希望するグロース市場上場会社が200社越え

機関投資家の投資先と言えば時価総額の大きい銘柄が定番となっている。時価総額が小さい銘柄は株式市場での日々の出来高も少なく、大量に売買することで株価が大きく動きやすいという特性があり、一般的に機関投資家による投資には不向きとされている。投資金額を抑えるという対応も考えられるが、そうすると企業分析のためのコストを回収しづらくなってしまう。そこで、多くの機関投資家が投資候補先のスクリーニングにあたり「時価総額基準」を設定している。もっとも、アクティブ運用の長期投資を得意とする機関投資家は、少なくとも売却時の値崩れを心配する必要はない。リターンを得る頃には時価総額が十分大きい会社に育っているからだ。そのような機関投資家が増えたことで、最近は時価総額がそれほど大きくない上場会社であっても、成長可能性次第で機関投資家から投資を受けることが可能になってきている。また、投資銘柄の構成次第では高いパフォーマンスを出すことができる中小型株ファンドの増加や、上場・非上場を問わず投資する「クロスオーバー投資」を行う投資家の増加も、グロース市場のような新興企業向け市場への投資資金の流入を支えていると言える。


アクティブ運用 : 銘柄を選別し、魅力のある銘柄を購入する一方で、見劣りする銘柄を売却するなどして利益を得ようという投資手法。運用担当者(ファンド・マネージャー)が、株式市場や投資銘柄などを調査し、今後の動向を予測することでポートフォリオを決定する。市場の平均的な収益率をベンチマークとし、これを上回る運用成果を上げることを目標にすることが多い。

ただ、これまで機関投資家側には、普段投資しているプライム市場上場会社と異なり、グロース市場上場会社は担当部署やアクセス方法がよく分からないという問題があった。一方、グロース市場上場会社側にも、機関投資家へのアクセス方法がよく分からないという問題があった。そこで、・・・

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2025/02/07 機関投資家からのコンタクトを希望するグロース市場上場会社が200社越え(会員限定)

機関投資家の投資先と言えば時価総額の大きい銘柄が定番となっている。時価総額が小さい銘柄は株式市場での日々の出来高も少なく、大量に売買することで株価が大きく動きやすいという特性があり、一般的に機関投資家による投資には不向きとされている。投資金額を抑えるという対応も考えられるが、そうすると企業分析のためのコストを回収しづらくなってしまう。そこで、多くの機関投資家が投資候補先のスクリーニングにあたり「時価総額基準」を設定している。もっとも、アクティブ運用の長期投資を得意とする機関投資家は、少なくとも売却時の値崩れを心配する必要はない。リターンを得る頃には時価総額が十分大きい会社に育っているからだ。そのような機関投資家が増えたことで、最近は時価総額がそれほど大きくない上場会社であっても、成長可能性次第で機関投資家から投資を受けることが可能になってきている。また、投資銘柄の構成次第では高いパフォーマンスを出すことができる中小型株ファンドの増加や、上場・非上場を問わず投資する「クロスオーバー投資」を行う投資家の増加も、グロース市場のような新興企業向け市場への投資資金の流入を支えていると言える。


アクティブ運用 : 銘柄を選別し、魅力のある銘柄を購入する一方で、見劣りする銘柄を売却するなどして利益を得ようという投資手法。運用担当者(ファンド・マネージャー)が、株式市場や投資銘柄などを調査し、今後の動向を予測することでポートフォリオを決定する。市場の平均的な収益率をベンチマークとし、これを上回る運用成果を上げることを目標にすることが多い。

ただ、これまで機関投資家側には、普段投資しているプライム市場上場会社と異なり、グロース市場上場会社は担当部署やアクセス方法がよく分からないという問題があった。一方、グロース市場上場会社側にも、機関投資家へのアクセス方法がよく分からないという問題があった。そこで、東証が仲立ちする形で2025年1月15日よりスタートしたのが、「機関投資家からのコンタクトを希望するグロース市場上場会社の一覧表」の公表制度だ(同制度の内容はこちらを参照)。東証は同日に第1回目となる一覧表を公表している(第1回目の一覧表はこちら)。一覧表(エクセル)を見ると、IR用の専門部署を設けていない会社も少なくないことが分かる。東証は今後、毎月15日に一覧表を更新するとしている。

機関投資家からのコンタクトを希望する会社の一覧表を東証が分析したところ、昨年(2024年)末時点で機関投資家からの「より活発なコンタクト」を希望するグロース市場上場会社は220社あった。これはグロース市場全体の36%に相当する。これらの会社を時価総額別に分類したのが下表だ(第1回目の公表に合わせて東証が公表した資料より引用)。

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時価総額が小さい(40億円未満)グロース市場上場会社では機関投資家からのコンタクトを希望する会社の割合が低い(24%)。もっとも、時価総額が大きければ大きいほど機関投資家からのコンタクトを希望する会社の割合が高くなるかというとそうでもなく、40~50%で頭打ちになっていることが伺える。これは、時価総額がプライム市場の新規上場基準である「時価総額基準250億円以上」となったグロース市場上場会社は市場をプライム市場に移す(プライム市場への新規上場)のが一般的だからだ。すなわち、時価総額が250億円以上クラスでグロース市場に残っているのは、結果として時価総額に比してIR体制が十分でない会社が多く、機関投資家とのコンタクトにも積極的でないと推測される。

いずれにせよ、今回機関投資家からのコンタクトを希望するとして手を挙げたグロース市場上場会社の220社は将来のテンバガー候補であり、本一覧表は機関投資家だけでなく個人投資家によるスクリーニング時にも重宝される情報として利用されることになりそうだ。


テンバガー : 株価が取得時から10倍に上昇した銘柄のこと。バガーとは「塁打」を指す野球用語であり、一試合で10塁打の記録に相当するほどの投資の成功を表す。

2025/02/06 政策保有株式の更なる縮減へ国内機関投資家がプレッシャー

パッシブ運用を行う運用機関が集団的エンゲージメント()を行うためのプラットフォーム「一般社団法人機関投資家協働対話フォーラム」(以下、IICEF)は2025年1月21日、「政策保有株式縮減の実効性向上のための施策の提言」を公表した。

* 機関投資家協働対話フォーラムでは、「集団的エンゲージメント」ではなく「協働エンゲージメント(企業との協働対話)」という言葉を用いている。


パッシブ運用 : 東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法のこと。パッシブとは「消極的な」という意味である。

IICEFは2019年3月から政策保有株式について企業と協働エンゲージメントを開始し、2020年9月には投資家の共通見解をまとめている(2020年9月15日のニュース「機関投資家協働対話フォーラム、政策保有株の保有・被保有企業にレター送付」参照)。今回の提言は、企業との協働エンゲージメントの経験を踏まえて、政策保有株式の縮減を更に促進させることを狙いとしている。

今回の提言内容を当フォーラムが整理したのが下表だ。下表のとおり、提言内容は8つの大項目から構成されている。IICEFは、政策保有株式というのテーマはまだ「終わった話」ではなく、むしろ、これから「岩盤」が立ちはだかる課題と考えており、提言内容も投資家が依然として抱いている懸念や危機感を反映したものとなっている。・・・

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2025/02/06 政策保有株式の更なる縮減へ国内機関投資家がプレッシャー(会員限定)

パッシブ運用を行う運用機関が集団的エンゲージメント()を行うためのプラットフォーム「一般社団法人機関投資家協働対話フォーラム」(以下、IICEF)は2025年1月21日、「政策保有株式縮減の実効性向上のための施策の提言」を公表した。

* 機関投資家協働対話フォーラムでは、「集団的エンゲージメント」ではなく「協働エンゲージメント(企業との協働対話)」という言葉を用いている。


パッシブ運用 : 東証のTOPIXのような株価指数(インデックス)の値動きに連動する運用成果を目指し、株価指数を構成する銘柄をポートフォリオに組み入れるなどして、運用会社は定性的な判断を入れずに機械的に投資判断を行う運用手法のこと。パッシブとは「消極的な」という意味である。

IICEFは2019年3月から政策保有株式について企業と協働エンゲージメントを開始し、2020年9月には投資家の共通見解をまとめている(2020年9月15日のニュース「機関投資家協働対話フォーラム、政策保有株の保有・被保有企業にレター送付」参照)。今回の提言は、企業との協働エンゲージメントの経験を踏まえて、政策保有株式の縮減を更に促進させることを狙いとしている。

今回の提言内容を当フォーラムが整理したのが下表だ。下表のとおり、提言内容は8つの大項目から構成されている。IICEFは、政策保有株式というのテーマはまだ「終わった話」ではなく、むしろ、これから「岩盤」が立ちはだかる課題と考えており、提言内容も投資家が依然として抱いている懸念や危機感を反映したものとなっている。

【「政策保有株式縮減の実効性向上のための施策の提言」の概要】
コーポレートガバナンス・コード原則1―4 ● 政策保有株式に係る個別の議決権行使結果を開示
● 株式保有を商取引の条件とすることは不適切と明示
● 取引先が売却意向を示した場合の対処方針を開示
株式保有のスチュワードシップ責任 ● 上場会社の株式を保有する場合、スチュワードシップ・コードが求める対応を要請
有価証券報告書における開示 ● 以下を開示項目とする
 ・ 過去5年間の削減実績
 ・ 削減方針がある場合には方針と目標(水準・時間軸)、ない場合はその理由
 ・ 議決権行使結果
 ・ 売却を相手先に打診しているか否か
 ・ 参考とした指標など取締役会における具体的な検証内容
 ・ みなし保有株式の合計銘柄数、貸借対照表計上額
 ・ 連結ベースでの保有状況
● 有報と同等の開示を招集通知にも記載する
政策保有から「純投資」への区分変更 ● 株式運用の理由・方針・体制についての十分な説明・開示
● スチュワードシップ・コードが求める対応を要請
● 売却完了または区分変更後5年間まで政策保有株式と同等の開示(現行は区分変更の初年度のみ)
● 流動資産の「売買目的有価証券」に計上
● 定款に株式売買を業としていることを明示
● トレーディングを日常的に遂行する専門部署を設置
取引先持株会 ● 取引先持株会に加入している取引先の意見を聞き、継続の可否を検討してその結果を開示
業界としての取り組み ● 政府・業界団体が業界として縮減を進める方針を策定
監督体制 ● 政策保有株式の売却意向に対し取引上の不利益を示唆されたなど、監督当局に報告できる「目安箱」を設置
売却へのインセンティブ ● 政策保有株式の売却益を設備投資や研究開発、気候変動対策などに活用する場合に限った免税措置を導入


みなし保有株式 : 企業が所有権を持たないものの、議決権行使権限やその指図権限を留保している上場株式のこと。具体的には、信託契約やその他の契約、法律上の規定に基づいて、株主として議決権を行使する権限を持つ株式であり、例えば、企業が信託契約を通じて株式を保有している場合、その株式の議決権を行使する権限が企業にあれば、その株式はみなし保有株式とされる。
政策保有から「純投資」への区分変更 : 実際に政策保有株式を売却して縮減するのではなく、保有目的を見かけだけ「純投資目的」に変更すること。

このように提言には、「議決権行使結果の開示」「スチュワードシップ・コードが求める対応を要請」「売却を相手先に打診しているか否かの開示」など、総じて厳しい要求が列挙されている。IICEFはこれらの要求に企業が応じることを必ずしも望んでいるのではなく、むしろ「これだけのことを求められるならば政策保有は割に合わない」「縮減を加速させよう」という方向に企業を誘導することを真の狙いとしているものと推測される。実際、実現にはハードルが高い要求も少なくなく、現実的に対応を迫られる可能性は高いとは言えないが、国内大手機関投資家の総意とも言うべきIICEFの提言を上場会社は重く受け止める必要があろう。

特に純投資に対しては、「株式運用の理由・方針・体制の開示」「定款に株式売買を業としていることを明示」「トレーディングを日常的に遂行する専門部署の設置」など、極めて厳しい要求を突き付けている。純投資への区分変更による政策保有株式の隠蔽を問題視していることに加え、そもそも事業会社による「純投資」が投資家にとって違和感のあるものでしかないことを反映していると言える。こうした問題認識に沿った開示府令の改正も予定されている(2024年12月4日のニュース「過去5年以内の政策保有株式の純投資目的への変更、有報での開示強化へ」参照)。純投資額を多く計上している企業は慎重な対応が求められよう。

また、今回の提言の末尾には「政策保有に関するヒアリングのまとめ」が添付されている。これは、政策保有株式の削減を進めている好事例7社へのヒアリング結果をまとめたもので、特に「売りにくい企業の株式を売却していく困難さ」を具体的に示した各コメントは非常に興味深い。自社の削減が進まない要因を認識する契機とするとともに、同様に他社の売却要請を妨げていないか自省する材料としたい。

➢ 「お互い様なのでわかるが、急激に売却すると株価が下がるので、時間をかけて売却してくれないか」というところが大半。
➢ 「時代の変化はわかるが、昭和から持ってもらっているのに、寂しいね」という会社もある。
➢ 「ここで売るということは取引の見直しを考えているの?」と聞かれたこともある。
➢ 入札の申請書類に、持株数を書く欄があったり、そこはかとないプレッシャーになっている。
➢ ガバナンスの認識が低い企業では、取引縮小を示唆するというような反応もあった。もともと考えていた予定よりも伸びてしまうこともある。
➢ 受注産業なので、相手から持ってくれという要請がある。
➢ 株を持っていないと取引をしないという内規を持っている会社があり、売却が遅れている。
➢ 業界全体がそうなれば安心できるが、恐る恐るやっている。競合には非上場の会社もあり、付け込まれると負けてしまうという雰囲気はある。

2025/02/05 確定拠出年⾦にESG要素を考慮する運⽤会社を採⽤したことが違法に

ESG(環境・社会・ガバナンス)投資に対して批判的な立場を取るトランプ氏の米国大統領就任直前の2025年1月10日、・・・

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2025/02/05 確定拠出年⾦にESG要素を考慮する運⽤会社を採⽤したことが違法に(会員限定)

ESG(環境・社会・ガバナンス)投資に対して批判的な立場を取るトランプ氏の米国大統領就任直前の2025年1月10日、テキサス州北部地区連邦地裁は、航空⼤⼿アメリカン航空の従業員が確定拠出年金の運用方針を巡り同社を訴えていた裁判で、同社が確定拠出年⾦プランにおいてESG要素を考慮するブラックロック等の資産運⽤会社を採⽤することが従業員退職所得保障法(以下、エリサ法(Employee Retirement Income Security Act=ERISA))に違反するとの判決を下した。原告(同社のパイロット)は、ブラックロックがプランの資産運⽤を⼿掛けていることにより、投資パフォーマンスが平均を下回ったと主張していた。


従業員退職所得保障法 : 米国の企業年金制度や福利厚生制度の設計や運営を統一的に規定する連邦法であり、企業年金等に加入する従業員の受給権保護を最大の目的としている。ERISA(エリサ)とは「Employee Retirement Income Security Act(従業員退職所得保障法)」の頭文字をとった作られた通称。

エリサ法は事業主等に対し、確定拠出年金プラン加⼊者の利益を事業主等の利益よりも優先するための⾏動に関する忠実義務を課しているが、裁判所は「ブラックロックはESG⽬標を掲げ、経済的利益以外の要素に基づいて投資判断を⾏っており、ブラックロックを選定したアメリカン航空は、確定拠出年金プランのスポンサーとしてブラックロックのESGに関する活動を精査する義務を怠った」と指摘、アメリカン航空は⾃社の利益とブラックロックのESG⽬標を優先することで忠実義務に違反したとの判断を示した。

今回の判決を受け、確定拠出年⾦プランにESGを取り入れている米国の事業主等は今後、訴訟リスクを意識せざるを得ないだろう。日本の企業型確定拠出年金でも、事業主は年金加入者等(従業員等)のため忠実にその業務を遂行することが義務付けられている(確定拠出年金法43条1項)。企業型確定拠出年金では、通常、運営管理業務を外部の運営管理機関(金融機関等)に委託することになるが、事業主は年金加入者等の利益のみを考慮し、複数の運営管理機関を適正な評価して運営管理機関を選任する忠実義務を負うとともに、運営管理機関から提示された商品が年金加入者等の利益のみを考慮したものであると言えるかなどを評価する必要がある(確定拠出年金法7条4項、厚生労働省「事業主による運営管理機関の評価について」参照)。

これまで日本企業が確定拠出年金法上の忠実義務違反で従業員等から訴訟を提起された事例はなく、また、ブラックロックは今回の裁判には関与していないが、米国の裁判所がESGを理由にエリサ法違反という判断を下したという事実は、日本で事業を展開する米系運用会社の行動に変容をもたらす可能性は否定できない。トランプ氏の大統領就任後、日本でESG投資が引き続き受け入れられるのか関心が高まっているが(2025年1月21日のニュース「欧州でもESGファンドが閉鎖ラッシュ・・・2025年、日本におけるESGの行方」参照)、今回の判決は、日本でも確定拠出年金プランにおいてESG投資を採⽤することの是非を改めて検討してみる材料としては⼗分なインパクトがありそうだ。

2025/02/04 買収提案の競合と取締役の義務

フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男

昨年(2024年)は買収提案の競合、すなわち、買収提案があると複数の対抗提案が現れる事例が目に付いた年だった。具体的には、広告・看板用インクジェットプリンターでは世界屈指のメーカーであるローランド ディー.ジー.に対するタイヨウ・パシフィック・パートナーズによる買収提案後のブラザー工業による対抗提案、低温食品物流事を得意とするC&Fロジホールディングスに対するAZ-COM丸和ホールディングスによる買収提案の後のSGホールディングスによる対抗提案、富士ソフトに対するKKRによるの買収提案後のベインキャピタルと創業者による対抗提案、そして、セブン&アイ・ホールディングスに対するアリマンタシォン・クシュタールによる買収提案後の創業家による対抗提案である。

日本では“横取り”などと報道されることが多いが、欧米では稀なことではない。なぜだろうか。これは、買収ルールの違いによるところが大きい。・・・

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2025/02/04 買収提案の競合と取締役の義務(会員限定)

フィデューシャリーアドバイザーズ代表
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員 吉村一男

昨年(2024年)は買収提案の競合、すなわち、買収提案があると複数の対抗提案が現れる事例が目に付いた年だった。具体的には、広告・看板用インクジェットプリンターでは世界屈指のメーカーであるローランド ディー.ジー.に対するタイヨウ・パシフィック・パートナーズによる買収提案後のブラザー工業による対抗提案、低温食品物流事を得意とするC&Fロジホールディングスに対するAZ-COM丸和ホールディングスによる買収提案の後のSGホールディングスによる対抗提案、富士ソフトに対するKKRによるの買収提案後のベインキャピタルと創業者による対抗提案、そして、セブン&アイ・ホールディングスに対するアリマンタシォン・クシュタールによる買収提案後の創業家による対抗提案である。

日本では“横取り”などと報道されることが多いが、欧米では稀なことではない。なぜだろうか。これは、買収ルールの違いによるところが大きい。

米国では、判例法上、取締役は会社および株主に対して信認義務を負うものと解されており、取締役は「株主の利益」のために会社の「長期的な価値」を増大させる義務を負う。したがって取締役は、買収提案が「株主の利益」に対して「脅威」である場合には、会社を防衛することができるが、取締役がホワイトナイトを探し、当該ホワイトナイトが現金対価の対抗提案を開始した場合には、取締役の義務は、会社を防衛することから「株主の利益」のために会社の「売却価格の最大化」に変化すると言われている。これはRevlon Duty(レブロン基準)と呼ばれる。


信認義務 : 取締役がその職務を遂行する際に、会社および株主の利益を最優先に考え、誠実かつ忠実に行動する義務のこと。具体的には、忠実義務、善管注意義務、利益相反取引の禁止がある。 文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム
ホワイトナイト : 敵対的買収を仕掛けられた際に、当該買収者に対抗して、友好的な買収を提案してくれる会社等のこと。白馬の騎士(ホワイトナイト)に例えてこう呼ばれる。通常は、敵対的買収者よりも高い価格で株式を買い取るか、第三者割当増資を引き受けることになる。 文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム
レブロン基準 : 米国で、食品会社パントリーブライドのロナルド・ペレルマン社長が、化粧品大手レブロン社に対し、現金による全株式の買収提案を仕掛けた事例を巡り、裁判所が、会社が「売り」の状態にある場合、ホワイトナイトなど特定者に有利な防衛策は過剰な措置であって、すべての買手を差別せずに交渉を行うことで、売却価格の最大化を図らなければならないとした判決(1986年)。 文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム

また英国では、会社法上、取締役は「株主全体の利益」のために会社の成功を促進する可能性が最も大きいであろうと誠実に考えるところに従って行動しなければならず(会社法172条1項)、ここでいう「成功」とは、株主の「長期的な価値」の増加を意味する。ただし、米国と異なり、取締役は、株主総会の承認または当局(テイクオーバー・パネル)の同意がない限り、買収を妨害する行動をとってはならない(テイクオーバー・コード 規則21・1条)。これはno frustration rule(妨害禁止ルール)と呼ばれる。もっとも、公開買付けに応募しない旨の意見を述べることや買収者への情報提供を拒むことはできるほか、ホワイトナイトの探索や対抗提案を促すこともできる。そして、取締役がホワイトナイトを探し、当該ホワイトナイトが対抗提案を開始した場合には、米国と同様に判例法上、現在の「株主の利益」のために「最高価格」の買収提案を確保・推奨する義務を負うとする見解が多い。


テイクオーバー・パネル : 英国における企業買収(M&A)に関する規制と監督を行う自主規制機関。テイクオーバー・パネルの役割としては、(1)企業買収が公正かつ透明に行われることを目的とした企業買収に関するルールである「テイクオーバー・コード」を制定し、その運用を監督する、(2)企業買収案件を監督し、テイクオーバー・コードに違反する行為がないかをチェックし、違反があった場合、適切な措置を講じる、ことがある。このように、テイクオーバー・パネルは、企業買収が公正に行われることで、市場の信頼性を確保し、投資家の保護を図っている。 文責:上場会社役員ガバナンスフォーラム
テイクオーバー・コード : 企業買収が公正かつ透明に行われることを目的とした企業買収に関するルール。(1)ある企業が他の企業の30%以上の議決権を取得する場合、すべての株主に対して同じ条件で株式を買い取る義務(全部買付義務)があることや、(2) 買収対象企業の取締役は、株主の事前承認がない限り、買収を妨害する行為を行ってはならないこと(取締役の中立義務)、(3)買収者は、買収に必要な資金を確保していることを証明する必要があること(買収資金の確認 )などを定めている。

このように、米国と英国では、買収提案を受けた場合における取締役の権限が異なる部分があるものの、取締役が個人の利益ではなく「株主の利益」のために行動しなければならない義務があるという点では共通しており、対抗提案も好意的に捉えられている。

これに対し日本では、買収における取締役の義務が必ずしも明確ではないため、「株主の利益」のために取締役が売却価格の最大化を図っているとは言えない事例が見受けられる。経済産業省が2023年8月に公表した「企業買収における行動指針」(M&A指針)では、「望ましい買収か否かは、企業価値ひいては株主共同の利益を確保し、又は向上させるかを基準に判断されるべきである」としている(2.1)ことから、「企業価値基準」が採用されていると言われている。KKRから資金提供を受けMBOする富士ソフトの取締役は、KKRの方が自社の企業価値を向上させるとして、KKRよりも高い買収価格を提案したベインキャピタルと創業者の対抗提案を拒否した。また、セブン&アイ・ホールディングスの取締役は、アリマンタシォン・クシュタールから買収提案を拒否し、創業家の対抗提案を検討している(2024年12月23日のニュース『セブン&アイの“究極の買収防衛策”、「進むも地獄、退くも地獄」に』参照 引用:上場会社役員ガバナンスフォーラム)。

しかし、M&A指針では、「取締役会は、買収者との交渉を行う際に、取引条件の改善により、株主にとってできる限り有利な取引条件で買収が行われることを目指して、真摯に交渉すべきである」「買収者との間で企業価値に見合った買収価格に引き上げるための交渉を尽くす、競合提案があることを利用して競合提案に匹敵する程度に価格引き上げを求める」としており(3.2.3)、欧米と同様に「買収価格基準」が採用されているとも読める。ローランド ディー.ジー.とC&Fロジホールディングスの取締役は、いずれも高い買収価格を提案した買収者に賛同した。

対抗提案は今後“当たり前”のことになっていくだろう。なぜなら、M&Aにおいては、「買い手」には「売り手」を探すためのコストがかかるが、株式市場で「売り手」が“セール中”であれば、これに買収提案しない手はないからである。迎え撃つ取締役は、どのように対応すべきだろうか。

M&A指針はいわゆる「ソフトロー」であり、「ハードロー」である法律ではないため、裁判が起こり、判例法が確立しない限り、取締役の義務は必ずしも明確にはならない。しかし日本では、買収の帰趨を決めるのは株主である。いくら取締役が、ある買収提案について「買収価格は高いが、自社の企業価値を向上させない」と声高に主張したとしても、別の買収提案が「自社の企業価値を向上させる」ことを株主に説明し、納得させられなければ、取締役にとって気に食わない提案をした買収者に軍配が上がるということを肝に銘じておく必要がある。

2025/02/03 【2025年2月の課題】従業員エンゲージメント

2025年2月の課題

昨今、人的資本の重要性が認識される中、投資家の間では「従業員エンゲージメント」への関心も高まっています。企業価値の向上という観点からは、従業員エンゲージメントについて投資家にどのような質問を受けることが想定されるでしょうか。また、その質問に適切に答えるためには、取締役会として従業員エンゲージメントについてどのようなことを審議し、また監督しなければならないか、考えてみて下さい。

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模範解答を見る
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2025/01/31 2025年1月度チェックテスト第10問解答画面(不正解)

不正解です。
厚労省に設置された労働政策審議会は2024年12月26日に公表した建議により、就職活動中やインターンシップの学生・転職希望者等の求職者と事業主との関係は「雇用関係そのものではない」ものの、「就職活動中の学生等に対するセクシュアルハラスメントの防止は職場における雇用管理の延長上にある」と整理し、事業主の雇用管理上の措置義務とすることが適当であるとしています。上場会社としては、自社(子会社も含む)のセクハラ対策が就活等におけるセクハラも射程に入れているか、確認する必要があります。

こちらの記事で再確認!
2025年1月23日 厚労省が「カスハラ」「就活セクハラ」「自爆営業」対策を強化、3月末までに行うべきことは?(会員限定)