議決権行使助言の世界最大手ISS(Institutional Shareholder Services Inc.)は来月2月1日から2016年版の日本向け議決権行使助言方針(以下、新ポリシー)を施行する。
これに先立ち、ISSは昨年(2015年)10月27日から11月9日まで日本向けポリシーの改定案を示したうえで、これに関するオープンコメントを募集していたが(2015年11月2日のニュース「ISSが近く議決権行使助言基準を改定、2016年株主総会への影響は?」参照)、既に改定案で示されていた内容(取締役会構成要件の厳格化、買収防衛策ポリシーの厳格化)とは別に、新ポリシーで新たに明らかにされた(2015年版ポリシーからの)変更点があるのでチェックしておきたい。
変更点は以下の通りとなっている。
剰余金の処分
解説文(2015年版ポリシー4ページ参照)から以下の文言がカットされた。
「資本金の減少については、減少の必要性について具体的な説明がされている場合、個別に判断する。そうでなければ、配当の支払いが直ちに滞る場合を除き、原則として反対を推奨する」
これは、株主に大きな影響を与える100%減資などの議案の上程が滅多にないことによるとみられる。
取締役選任
(1)注記により、不動産投資法人(REIT)の役員選任議案に、監査等委員会設置会社の基準を準用するとされた。この結果、REITの監督役員は、監査等員会設置会社の「監査等委員である社外取締役」と同じISSの独立性基準を満たすことが求められる。
監査等委員会設置会社の基準 : 監査役会設置会社向けの基準(過去5期平均の自己資本利益率(ROE)が5%を下回らないことなど)と同じ基準が設けられているほか、ISSの定める独立性基準を満たさない「監査等委員である社外取締役」の選任議案には反対を推奨することとされている。
(2)注記により、指名委員会等設置会社の監査委員および監査等委員会設置会社の監査等委員に対し、それぞれの委員会における出席率として「75%」という基準を適用することとされた。この結果、たとえ取締役会の出席率が75%を満たしていても、当該基準を満たさなければ、反対推奨されることになる。
(3)「経営権の争いがある場合」が新設された。株主提案による取締役選任議案が提案された場合などにおいては、以下の観点に基づき、株主提案・会社提案ともに個別判断される。
・ 同業種他社と比較した、長期で見た会社の経営成績
・ 現経営陣の実績
・ 経営権に争いが生じた背景
・ 候補者の経歴・資格・資質
・ 株主が提案する経営戦略および現経営陣に対する批判の妥当性
・ 両サイド(現経営陣および提案株主)の提案の実現可能性
近年の株主提案は、資本効率やコーポレートガバナンスに問題のある企業を対象とした、企業価値および株主共同の利益に資する内容のものが珍しくなくなってきたことによるとみられる。
定款変更
(1)指名委員会等設置会社への移行については、2015年ポリシーでは「下記に該当する場合を除き、原則として賛成を推奨する」として、具体的には「株主総会後にISSの独立性基準を満たす社外取締役が1人もいない場合」という条件が挙げられていたが、新ポリシーでは、「下記に該当する場合を除き、」という文言および当該条件がカットされた。
これは、実際に上記条件のようなケースが存在しないことによるとみられる(会社法の規定上はあり得る)。
(2)自社株式取得の取締役会授権について、従来の「原則反対」から「個別判断」へと変更した。判断のポイントとして具体的に以下が挙げられている。
・ バランスシートの状況
・ 資本生産性とROE
・ 過去の自社株取得と配当の状況
・ 取締役会構成
・ 株主構成
・ その他考慮すべき事項
この変更は、社外取締役の複数選任など監督機能の充実を前提として、機動的に資本効率を向上させることを期待したものとみられる。もっとも、自社株式取得の株主提案権が排除される場合は、原則として反対を推奨するとしている。
買収防衛策
ISSは買収防衛策の導入および更新に対し、第一段階の「形式審査」、第二段階の「個別審査」を経て賛否を判断することとしているが(原則として反対を推奨。2015年版ポリシー21ページ参照)、第2段階である個別審査においてこれまで規定されてきた「具体的な株主価値向上施策」に加えて、以下の内容とともに招集通知で説明することが要求された。
「買収防衛策導入により与えられる一時的な保護が、どのようにしてその施策(具体的な株主価値向上施策)の実行に役立つのか」
2015年の株主総会では、前年に否決された議案が一転して可決された事例があり(ISSも反対から賛成推奨に転じたとみられる)、今後は一層慎重に判断することを表明したものとみられる。