2020/07/22 横領を発見できなかった責任の転嫁認められず

複雑なスキームによる粉飾決算など企業不祥事が高度化・複雑化する一方、いまだに企業不祥事の相当部分を占めるのが、従業員による横領だ。横領が発覚した場合、取締役・監査役は、従業員の着服行為が疑われる状況があるにもかかわらずそれを放置していたり、従業員の着服行為が発覚した後の対応が不十分だったりすれば、善管注意義務違反に問われる可能性もある。仮に善管注意義務違反にまでは至らないとしても、回収不能額が多額に上る場合などは、降格、減給等の経営責任に問われることも十分考えられる(ケーススタディ「【不祥事】従業員が会社の金を着服していた」の「発覚後の会社の対応が不十分なら、善管注意義務違反も」参照)。

もっとも、横領はえてして「まさかあの人が」と評されるような“想定外”の人物によって行われる。このため、社内のチェックだけでは見過ごされてしまうケースも多く、税務署や監査法人などの外部の第三者による調査によって発覚することも珍しくない。・・・

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2020/07/22 横領を発見できなかった責任の転嫁認められず(会員限定)

複雑なスキームによる粉飾決算など企業不祥事が高度化・複雑化する一方、いまだに企業不祥事の相当部分を占めるのが、従業員による横領だ。横領が発覚した場合、取締役・監査役は、従業員の着服行為が疑われる状況があるにもかかわらずそれを放置していたり、従業員の着服行為が発覚した後の対応が不十分だったりすれば、善管注意義務違反に問われる可能性もある。仮に善管注意義務違反にまでは至らないとしても、回収不能額が多額に上る場合などは、降格、減給等の経営責任に問われることも十分考えられる(ケーススタディ「【不祥事】従業員が会社の金を着服していた」の「発覚後の会社の対応が不十分なら、善管注意義務違反も」参照)。

このため、社内のチェックだけでは見過ごされてしまうケースも多く、税務署や監査法人などの外部の第三者による調査によって発覚することも珍しくない。

では、監査法人が横領を発見できなかった場合、監査法人に任務懈怠があったとして賠償責任を負わせることはできるのだろうか。監査法人が受嘱したのが「会計監査」や「合意された手続き」であれば、監査法人が通常実施すべき手続き(あるいは契約上合意された手続き)が明確であり任務懈怠を問いやすくなるが、「コンサルティングサービス」のような契約であれば、手続きが明示されていないのが通常であり、任務懈怠を問うのであれば、まずどのような手続きについて合意していたのかを争い、明確にする必要がある。東京地裁では、監査法人が受嘱した業務が「株価算定」や「内部統制のチェック」であったケースで、横領を発見できなかった監査法人の責任の有無について企業(非上場)と監査法人の間で争われた裁判の判決が(2020年)6月1日に下されている。

複数の子会社を有するA社(原告)は、「A社およびその複数の子会社の経理の調査・確認等を監査法人(被告)に委任するに契約において、監査法人は子会社の金融機関口座の残高証明書又は通帳の原本を直接確認する義務を負っていたにもかかわらず、確認を実施した旨の誤った報告をしたため、当時原告の従業員であった者によるA社およびその子会社からの横領行為を覚知することができず、その後も横領被害が続いた」などと主張し、被告に対し、債務不履行による約5000万円の損害賠償を求め、東京地裁に訴訟を提起した。A社社長は監査法人代表者に対し、「金融機関から残高証明書を取得して預貯金の直接残高確認を行うよう」特に依頼していたという。

一方、監査法人側は、「確かにA社代表から不正発見調査を求められたがこれは断わり、その後、株価算定及び内部統制のチェックの依頼を引き受けた」と前置きしたうえで、「当該業務の遂行にあたり、監査法人に所属する会計士は、複数の預貯金口座について、帳簿上の預貯金残高と残高証明書が一致するかどうかを確認した」と主張。確認は、基本的に監査法人が銀行から直接、残高証明書の送付を受ける方法で行われたが、ゆうちょ銀行については同様の方法を用いることができなかったため、A社から提供された資料を基に確認する方法とした。ところが、A社から提供された預金通帳の写しは、横領した従業員が作成した虚偽の内容の偽造文書だった。そこでA社は、「監査法人は、会社の経理を調査する場合でも、内部統制の有効性を調査する場合でも、会計帳簿の金額と金融機関が発行する残高証明あるいは通帳の原本を確認する必要がある」などと主張していた。

裁判所はまず、本件契約による委任事務は(1)A社の内部統制の有効性評価、(2)株式評価の2点であると認定。そのうえで、監査法人が残高証明書又は通帳の原本を直接確認する義務の有無については、監査法人がA社の内部統制の有効性評価の方法として用いたウォークスルーの手法とは、1つの取引を追いながら誤謬や不正取引が起きにくいチェック体制となっているか否かを確認する作業を行うことにより、内部統制手続をチェックするものであるとし、「この手法は、抽出した取引データが各部署に正確に伝達され、正しくは取り扱われているかどうかを確認するものであって、取引データ自体の誤りを発見することには重点が置かれず、また、その分析に預貯金残高の情報は用いられない」との判断を示した。また、内部統制の有効性評価という観点からは、収集した情報・資料を基に、実際の預貯金残高と帳簿残高の不一致が生じ得る「仕組み」となっていないかを検証すれば足りるとし、収集資料の正確性に具体的な疑義が生じているような状況でない限り、収集資料の作成に偽装、不正が介在しないことの検証までは求められていないものと解すべきと判示している。

ウォークスルー : 取引が開始されてから財務諸表に反映されるまでの流れを追跡すること。例えば売上であれば、注文(受注)から現預金として回収するまでの流れを追いながら、内部統制手続を調査確認する。また、実証的な検証のため、担当者への質問を行う。誤謬や不正取引が起きにくい内部統制手続となっているかを確認する作業と言える。

結論として裁判所は、契約当時、A社において、不正な経理処理がされたとの具体的な疑義は生じていなかったことから、監査法人が内部統制の有効性評価を行うにあたり、A社の預金残高証明書等を直接確認する義務はないとしてA社の請求を棄却。監査法人が勝訴している。ただし、裁判に先立ち、A社は監査法人に対し「口座の偽装を見逃した責任がある」などとして既払報酬の返還を要求、監査法人はこの要求を受け入れ、約544万円の報酬を返還している。

2020/07/21 企業理念vs破格条件のTOB、注目される株主の選択

既報のとおり、「甘太郎」「牛角」「かっぱ寿司」等の店舗を運営するコロワイド(東証一部)との経営権争いを繰り広げているJASDAQに上場する大戸屋ホールディングス(以下、大戸屋HD)の定時株主総会では、ひとまず大戸屋HDが提案(会社提案)した取締役(11名)選任議案が可決される一方、コロワイドが提案した取締役(12名。そのうち5名は会社提案の取締役と重複しているものの、いずれも株主提案の取締役候補者となることを承諾していない)選任議案が否決されるという結果となったが(2020年6月29日のニュース「大戸屋HDでコロワイドの株主提案が否決、トップの言動影響の可能性」参照)、その後、コロワイドが大戸屋HDの株式に対する公開買付け(TOB)を実施する方針を打ち出し、引き続き株式市場の話題をさらっている(コロワイドのリリースはこちら)。

市場関係者を驚かせたのが、・・・

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2020/07/21 企業理念vs破格条件のTOB、注目される株主の選択(会員限定)

既報のとおり、「甘太郎」「牛角」「かっぱ寿司」等の店舗を運営するコロワイド(東証一部)との経営権争いを繰り広げているJASDAQに上場する大戸屋ホールディングス(以下、大戸屋HD)の定時株主総会では、ひとまず大戸屋HDが提案(会社提案)した取締役(11名)選任議案が可決される一方、コロワイドが提案した取締役(12名。そのうち5名は会社提案の取締役と重複しているものの、いずれも株主提案の取締役候補者となることを承諾していない)選任議案が否決されるという結果となったが(2020年6月29日のニュース「大戸屋HDでコロワイドの株主提案が否決、トップの言動影響の可能性」参照)、その後、コロワイドが大戸屋HDの株式に対する公開買付け(TOB)を実施する方針を打ち出し、引き続き株式市場の話題をさらっている(コロワイドのリリースはこちら)。

市場関係者を驚かせたのが、コロワイドが仕掛けたTOBの内容だ。具体的には、TOB公表日前日の終値が2,113円だった大戸屋HDの普通株式1株を3,081円で買い取るというもので、実に45%ものプレミアムを上乗せする破格の条件となっている。買付期間は、2020年7月10日(金曜日)から2020年8月25日(火曜日)まで(30営業日)となっているが、TOBにより取得する大戸屋HDの株式数には上限(既存の持分と合わせて51.32%)が設けられており、上限を超えて応募があった場合には抽選となる。なお、コロワイドはTOB成立後も大戸屋HDの株式のJASDAQ上場を維持する予定。

今回コロワイドがTOBに踏み切った背景には、上述のとおり大戸屋HDの定時株主総会における取締役選任議案で“完敗”したことがあるのは言うまでもない。大戸屋HDの取締役選任議案が勝った理由として、「生殺与奪の権は、私が握っている。さあ、今後どうする。どう生きて行くアホ共よ」といったコロワイドのトップの言動の影響や、大戸屋の経営理念である「店内調理」の維持を個人株主が支持したということが考えられるが(上記で引用のニュース参照)、最大の要因は、コロワイドの大戸屋HD株式の持株比率が19.15%に過ぎなかったことにある。そこで、TOBにより持株数を増やすことで、有無を言わさず大戸屋HDを連結子会社化し、コロワイドグループへの強制的参画を実現しようというわけだ。

コロワイドが表明したTOBの意向に対し、当然ながら大戸屋HDは何らかの対抗策を打ち出してくることが予想された。しかし大戸屋HDはコロワイドがTOBの意向を表明した当日(7月9日)こそ下記のコメントを出したものの、それから一週間以上「当社の見解」が出て来ることはなかった。

・本公開買付けの公表は、当社に対して何ら事前の連絡もなく、一方的かつ突然に行われたものであり、本年6月25日に開催された当社定時株主総会において、コロワイド社による当社子会社化を前提とした株主提案が、多くの株主の皆様の反対により否決されたにもかかわらず、コロワイド社が当社の子会社化を目的とした本公開買付けをその後直ちに開始するということは、当社定時株主総会において示された当社株主の皆様の意思を軽視するものと考えており、当社として誠に遺憾
・今後、本公開買付けに係る公開買付届出書等の内容その他の関連情報を精査した上で、速やかに当社の見解を公表する予定です。株主の皆様におかれましては、当社から開示される情報に十分ご留意いただき、慎重に行動していただきますようお願い申し上げます。

しびれを切らした大戸屋グループの従業員が緊急声明を出したのが2020年7月17日。コロワイドの経営トップの言動に「強い不安と恐怖」を感じる従業員有志が、大戸屋HD取締役会に対して早期に本TOBへの反対意見を表明するよう要請した(大戸屋HDのリリースはこちら)。その3日後、ようやく大戸屋HD取締役会は社外取締役6名を含む取締役11名の全員一致で本TOBに反対する意見を表明することを決議し、「当社の見解」についてのリリースを公表するに至った。

コロワイドの主張(2020年7月9日付「株式会社大戸屋ホールディングス株式(証券コード:2705)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」参照)と大戸屋HD取締役会の主張を、主要論点ごとに比較したのが下表だ。

論点 コロワイドの主張 大戸屋HD取締役会の主張
本TOBは大戸屋HDの定時株主総会における株主の意思(コロワイドの株主提案の否決)に反するのではないか 大戸屋HDの株主総会においてコロワイドの株主提案が否決された事実からは、「大戸屋HD執行部による経営の方が、コロワイドによる経営よりも「相対的に」大戸屋HD企業価値向上に資する」と判断した株主が一定数存在することが伺えるものの、コロワイドによる経営方針の如何を問わず「コロワイドによる経営により大戸屋HDの企業価値が毀損される」と判断したことが示されたとまではいえないものと考えられる。 コロワイドが、本定時株主総会における本株主提案の否決後直ちに、当社(大戸屋HD)の経営体制を刷新し、当社をコロワイドの連結子会社化すること等を目的として本TOBを開始することは、本定時株主総会において示された当社株主の皆様の意思に反するものと言わざるを得ない。
コロワイドのTOBに強圧性があるかどうか

強圧性 : 仮に公開買付けが成功した場合、公開買付けに応募しなかった株主が、応募していたよりも不利に扱われることが予想されるとき、株主は公開買付けに応募するか否かの判断を不当に歪められ、その結果、買付価格に不満のある株主も、事実上、公開買付けに応募するように圧力を受けることになる。「強圧性」があるとは、このような状況を指す。

本TOBの対象者(大戸屋HD)の少数株主において、「公開買付者(コロワイド)の支配下では対象者の企業価値が毀損される」との認識があれば強圧性があったことになる。一般に、このような認識が認められるのは、公開買付者において明確な経営方針を示さないなど、対象者の経営への関与の態様が全く不明瞭な場合であると考えられる。本TOBでは、①公開買付者(コロワイド)は対象者(大戸屋HD)と同業となる事業会社であること、②本TOB後における経営方針等を明確に提示している、③上述した「本TOBは大戸屋HDの定時株主総会における株主の意思(コロワイドの株主提案の否決)に反するのではないか」で示したとおり、大戸屋HD株主総会での株主提案の否決は同社少数株主が「コロワイドによる経営により大戸屋HDの企業価値が毀損される」と判断したことが示されたとまではいえないといった理由から、本TOBにおける大戸屋HDの少数株主が、コロワイドが大戸屋HDの支配株主となった場合に大戸屋HDの企業価値が毀損すると考えているとまではいえないことから、本TOBには強圧性は認められない。 本TOBにおいては買付予定数の上限(所有割合にして32.16%)が定められており、応募された株式のすべてについて公開買付価格による売却が保証されているものではない。一方、本TOB後に、コロワイドが予定している各種施策は、コロワイド側には、コロワイドの経営資源の利用促進等によって多くの利益をもたらす一方で、当社(大戸屋HD)にとって特段のメリットがなく、かえってお客様に提供する料理の品質低下を招くなど、当社の企業価値・ブランド価値を毀損する可能性が高いものと言わざるを得ない。本TOB後に、当社の取締役会がコロワイドの指名する取締役によって構成されるものになった場合には、コロワイドとの利益相反に対する牽制機能が失われ、株主共同の利益のためのガバナンス体制の構築も困難となり、本TOBに応じなかった場合における大戸屋HD少数株主にとっては、企業価値が毀損するリスクに晒されることになる。大戸屋HD少数株主にとって、そのリスクを回避するために本TOBへの応募を余儀なくさせられる点で、本TOBは強圧的なものであると言わざるを得ない。
・定時株主総会においてコロワイドの株主提案が反対多数により否決されたにもかかわらず、「『コロワイドによる経営により大戸屋HDの企業価値が毀損される』と判断したことが示されたとまではいえない」ものとは強弁に過ぎない。
・①コロワイドが同業の事業会社であることや②経営方針等について一定の説明を行っていることは強圧性を低減する根拠とはならない。
セントラルキッチンの活用 セントラルキッチンを利用した「内製品」の活用は、単純なコスト削減策としてではなく、従来の「購買品」以上の品質を前提としていること、並びに今後大戸屋グループ店舗が目指すべきオペレーションおよびお客様にとっての商品性と価格両面における価値を高めるためには、内製品の活用と大戸屋HDの厨房設備の見直しを併行して検討することが望ましい。 ・当社は、美味しく、かつ健康に資する料理の原点は店内調理にあると確信しており、この提供方針は、飲食チェーン大手各社がセントラルキッチンを使う中で、当社の最大の差別化要因であり、当社の企業価値・ブランド価値の源泉であると考えている。
・コロワイドの主張するシナジー効果は、大戸屋HDの関与のもとで当社の事業に係る具体的な情報に基づく検討や協議を経た上で算出されたものではなく、その根拠や実現可能性は全く検証されていない。
・コロワイドの主張する各施策は、コロワイドの経営資源の利用促進等によって、コロワイド側には多くの利益をもたらす一方で、大戸屋HDにとっては特段のメリットがなく、かえってお客様に提供する料理の品質低下を招くなど、大戸屋HDの企業価値・ブランド価値の源泉を損う可能性が高い。
・大戸屋HDとしても、これまでに経営改善のため聖域なく様々な経営施策の可能性を模索する中で、セントラルキッチンの可能性を検討することもあったが、お客様に支持される主要なメニュー・素材群について、店内調理とセントラルキッチンでの加工品を比較したときに、味、鮮度、食感、栄養価など品質に直結する各要素が明らかに低下することが確認されたことから、セントラルキッチンは導入せず、お客様への提供価値に直接的な影響を与えない仕込工程における加工品への切り替えや、付加価値の高い調理工程における標準化など、「美味しさ」と両立する効率化施策を進めることとしている。
・コロワイドは、大戸屋が使用する食材や調理方法、大戸屋において採用している加工品の品質等を何ら具体的に確認することなく、「セントラルキッチンの活用」と「店内調理」及びお客様の信頼に足る品質の担保は可能であるとしているが、このような姿勢は、コロワイドが品質よりも効率性を重視していることを端的に示すものと考えている。
共同仕入れ コロワイドグループは、様々なブランド・業態を傘下に有しており、食肉・鮮魚類・野菜・飲料などすべての分野において、大戸屋HDを大きく上回る規模の原材料調達を行っている。これに大戸屋HDグループの事業を加えることで、コロワイドグループ全体の事業規模をさらに拡大することを通じて、価格交渉力の強化による仕入価格の低減および仕入条件の統一によるコスト削減が可能となる。 大戸屋では厳選された安全・安心な食材の仕入れにこだわっており、コロワイドグループが運営している寿司屋、居酒屋および焼き肉屋等の業態で利用されている食材とは、品質面で共通性が乏しいことが想定される。それにもかかわらず仕入れを共通化すると、食材の品質低下を招き、お客様の喪失につながるリスクがある。
物流拠点の相互活用・物流効率の改善 コロワイドグループおよび大戸屋HDグループが利用している物流拠点を集約・統合することで、双方において物流拠点に要する設備費用の削減が推進できる。また、各物流拠点が担う配送エリアにおける両社合算の店舗密度が向上することから、物流ルートの共通化・最適化により、物流効率改善を通じた物流費用の改善についても見込める。 当社へのシナジー効果は限定的であり、これらの施策は、あくまでもコロワイドにとっての利点のみで取りまとめられた施策であると考えざるを得ない。
TOB後の経営体制 当初株主提案候補者のうち、対象者の現取締役5名を除いた候補者7名を対象者の取締役候補者に指名する。 ・本TOB成立後に、大戸屋HDの現取締役全員を解任し、新たな取締役を選任した場合には、大戸屋HDの経営を把握する取締役が全く存在しないこととなり、経営に多大な混乱が生じるおそれがある。
・コロワイドは、本TOB成立後は、定時株主総会において選任されたばかりの社外取締役6名(うち5名は独立役員の要件を満たす社外取締役)をも解任して、株主提案で社外取締役候補者とされていた4名を選任するとしているが、当該4名がコロワイドから独立した立場で大戸屋HDの少数株主の利益を十分に考慮した経営のモニタリング機能を発揮できるかについては強い懸念がある。
経営の不安定化 ・コロワイドが2014年12月に連結子会社化したカッパ・クリエイトは、買収後5年間に4人も代表取締役社長が交代する等の不安定な経営体制となっている。また、コロワイドは、カッパ・クリエイトの連結子会社化により、共同仕入れやセントラルキッチンの活用、相互の物件情報の活用による店舗開発などのシナジーを見込んでいるとしていたが、結果として、同社による買収後の5期間において、連結営業利益率の目立った改善は認められない。
・コロワイドは支払利息の負担が大きく、インタレスト・カバレッジ・レシオは毎期連続して減少している。また、コロワイドの連結貸借対照表上には「のれん」として71,795百万円が計上されているが、これは自己資本額24,958百万円の約2.8倍にあたる高い水準である。コロワイドの買収した企業は、居酒屋、焼肉、回転ずし、ステーキレストラン、カラオケなど、コロナ禍の影響を受け収益性が悪化しやすい業態に偏っており、今後の業況や将来の収益見通しの変化によっては、「のれん」の減損損失の計上で財務状態が悪化する可能性も否定できない。

インタレスト・カバレッジ・レシオ : 営業利益を支払利息で除した値。どの程度の余裕を持って支払利息を払っているのかが分かる指標である。

従業員の離職や労働意欲の著しい低下 本TOB成立後に、大戸屋HDの従業員およびフランチャイズ・オーナーの皆様と対話をして、対象者の運営課題とコロワイドが考える事業方針との整理・統合を行い、業績回復に向けたロードマップを作成する。 大戸屋グループ従業員の賛同を得ないまま本TOBによりコロワイドが当社の実質的な支配権を取得した場合には、当社の従業員の離職や労働意欲の著しい低下等が懸念され、これにより、サービス水準の低下などの企業価値・ブランド価値が毀損されるおそれが更に高まる。

定時株主総会の取締役選任議案では「店内調理」維持を支持した個人株主が45%ものプレミアムを上乗せされたことでコロワイドの支持に回るのか、あるいは大戸屋HDにホワイトナイトが現れれるのか、本TOBの行方が注目される。

ホワイトナイト : 敵対的買収を仕掛けられた際に、当該買収者に対抗して、友好的な買収を提案してくれる会社等のこと。白馬の騎士(ホワイトナイト)に例えてこう呼ばれる。通常は、敵対的買収者よりも高い価格で株式を買い取るか、第三者割当増資を引き受けることになる。


 


2020/07/20 会社提案の株式報酬議案、英ファンドが2倍の上限額提案で低賛成率に

TOPIX100採用企業の2020年6月・定時株主総会(以下、株主総会)における議決権行使結果のレポート第四弾では・・・

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2020/07/20 会社提案の株式報酬議案、英ファンドが2倍の上限額提案で低賛成率に(会員限定)

TOPIX100採用企業の2020年6月・定時株主総会(以下、株主総会)における議決権行使結果のレポート第四弾では、剰余金処分案と役員報酬の関連議案をとり上げる。

第一弾 2020年7月7日 『2020年6月総会 ROE基準非適用でも賛成率80%割れの取締役選任議案増加
第二弾 2020年7月13日 『「3分の1基準」に抵触で、経営トップへの賛成率が20ポイント下落
第三弾 2020年7月15日 『監査等委員および監査役選任議案、「独立性」に厳しい視線

※なお、本シリーズでとり上げるTOPIX100採用企業は、8月決算であるファーストリテイリングを除く99社とする。また、本稿の議決権行使結果データには、株主総会を7月に開催する日立製作所とオリンパス、および7月3日時点で臨時報告書が提出されていない日産自動車と住友不動産のものは含まれていない。

TOPIX100採用企業における剰余金処分案は、監査等委員会設置会社および監査役会設置会社である72社のうち64社によって上程された。残りの8社は定款によって取締役会に剰余金の配当を授権しているものとみられる(2020年4月21日のニュース「配当基準日は変えずに議決権基準日を後倒しして総会を延期する企業が出現」参照)。

授権 : 「配当の決定権限」といった権限を株主総会から取締役会に委譲すること。

【剰余金処分の低賛成率議案】
社名 金額 配当性向等 賛成率 (前回)
キーエンス 年間200円 配当性向:18.4%、自己資本比率:95.8% 87.50% 68.85%
SMC 年間400円 配当性向:24.1%、自己資本比率:89.9% 88.20% 83.60%

剰余金処分案への賛否は、通常、株主還元水準(配当性向、総還元性向など)や財務安定性(自己資本比率など)を勘案して判断される。近年、キーエンスは自己資本比率が100%近い水準であるにもかかわらず配当性向は5~10%の範囲で推移していたことから、昨年は70%台にも満たない著しく低い賛成率となっていた。しかし、今年は株式分割を実施したにもかかわらず期末配当を据え置いたことによる“実質増配”があったことから、例年よりも高い賛成率を確保した。

総還元性向 : 企業が利益をどの程度株主に還元しているかを示す指標。「総配分性向」「株主還元性向」とも言われる。「(配当金+自社株買いの金額)÷当期純利益」によって計算される。ちなみに、「配当性向」は当期純利益に占める「配当金」のみの割合を示す。自社株買いも株主還元の1つであるため、最近は配当性向とともに、総還元性向を開示する企業が多い。

一方、TOPIX100採用企業における役員報酬関連議案は、27社によって41議案が上程された。内訳は賞与が15議案、株式報酬が17議案、退職慰労金が2議案、その他(報酬枠の改定など)が7議案となっている。

【役員報酬関連の低賛成率議案】
社名 議案 議案の内容 賛成率 (前回)
キリンHD 報酬額改定 株式給付信託ファントムストック、上限:6億円 71.92% -
SMC 退職慰労金贈呈 取締役名誉会長、取締役相談役、金額:一任 84.30% 88.20%
信越化学工業 ストックオプション 行使価格:終値×1.25、行使期間:1年後、対象:幹部 84.34% 84.90%
SMC 慰労金打切り支給 社長、副社長、専務(2)、執行役員(2)、金額:一任 88.10% -

株式給付信託 : 当初から現物株式が付与されるわけではなく、はじめに役位別・個人別に一定のユニット(単位)やポイントが付与され、業績/株価条件がなければ一定の待機期間の後に、ユニットやポイント数に応じた株式が交付される。業績/株価条件がある場合は、その達成度に応じてユニット/ポイント数が上下し(例:0~200%)、そのユニットやポイント数に応じた株式が本人に交付される。
ファントムストック : 文字通り架空(ファントム=Phantom)の株式(ストック=Stock)を用いたインセンティブ報酬であり、架空の株式を付与し、一定期間経過後、その間における株価の上昇・下落等を反映させた「株価×付与数」を現金で支給する。ファントムストックを使えば、実質的に株式報酬を支給した場合と同じインセンティブ効果を作り出すことができる。日本語名では「自社株連動型報酬」)」と呼ばれる。なお、ファントムストックはフルバリュー型(⇔値上がり益型(例:通常型ストックオプション))という点で、株式報酬型ストックオプションの代替措置と言える。資本構成や議決権に影響を与えたくないなど、資本政策上の観点から利用されることが多い。ただし、企業にとっては、ストックオプションと異なりキャッシュアウトが生じる分、負担が大きい点は注意が必要。
打切り支給 : 退職金制度の変更や役員への昇格、定年延長による雇用形態の変更などに伴い、「在職中」に退職金を支払うこと。

キリンホールディングスの株式給付信託(非居住者に対しては、ファントムストックとして現金を給付する)は、上限が6億円に設定されている。従来の譲渡制限付株式は上限が2.5億円だったため、新制度はインセンティブ性を高めた設計となっている。しかし英国ファンドのフランチャイズ・パートナーズが株主提案で譲渡制限付株式の上限を12億円に引き上げる議案を上程したため、両案を比較し、反対票が集まったものと推測される。

譲渡制限付株式 : 一定期間の譲渡制限が付された株式報酬で、企業が株式を無償取得することとなる事由(没収事由:例えば所定の期間勤務を継続しない、目標の業績に未達など)が定められているものを指す。リストリクテッド・ストック(restricted stock)という呼称も定着している。

SMCの退職慰労金は贈呈・打切り支給の両議案ともに対象が社内取締役であるという点では問題ないが、金額が取締役会に一任され明らかにされていないため、投資家は「説明不足」と判断したものと考えられる。信越化学工業のストックオプションについては、付与後1年から行使できる設計になっていることから、長期インセンティブとしてはべスティング(権利移転)期間が不足していることが問題視されたとものとみられる。役員報酬に対する投資家の関心は高まっており、今後その設計には一層の配慮を要することになろう。

べスティング : 権利を付与されてから権利行使可能になるまでの期間のこと。ベスティング(vesting)とは「権利確定」という意味である。


 
 
 
 

2020/07/17 【失敗学第74回】ALBERTの事例(会員限定)

概要

AIを活用したコンサルティングやビッグデータの分析などを手掛けるALBERT(マザーズ)において、計上することが妥当ではない売上があることが確認され、合計約77百万円の売上の取り消しが必要となった。

経緯

ALBERTが2020年5月13日に外部調査委員会の調査報告書を公表し、2020年5月22日に再発防止策を取りまとめるまでの経緯は次のとおり。

2020年
2月14日:ALBERTは会計監査人である有限責任あずさ監査法人からの指摘を受け、同日に予定していた決算発表を延期するとともに、一部の売上の実態把握のために社内調査を実施していることを開示(リリースはこちら)。
2月27日:ALBERTは、あずさ監査法人からの要請を受け、社内調査ではなく、外部調査委員会を設置して、調査を委嘱する(リリースはこちら)。
3月23日:ALBERTは、あずさ監査法人から「監査リスクが高まり監査契約の継続が困難になった」として会計監査人の退任通知を受けたことを公表。
5月13日:ALBERTは、外部調査委員会の調査報告書を公表する(リリースはこちら)。
5月22日:ALBERTは、和泉監査法人を一時会計監査人に選任するとともに、再発防止策を公表する。

内容・原因・改善策

ALBERTが2020年5月13日に公表した同日付の外部調査委員会の調査報告書および2020年5月22日に公表した再発防止策によると、本件不適切会計の内容およびそれらの原因ならびに再発防止策は次のとおりとされている(下記のA社案件以外にも不適切な売上が27百万円あったが本稿では割愛する)。

役務を提供していないにもかかわらず売上を計上
内容 ALBERTは取引先のA社から研修員を預かりデータサイエンティストとして育成するための研修を実施していたが、A社研修員が当初想定していた期間内に所定の分析スキルを身に付けることができなかったため、2019年11月7日までに、A社とOJTによる再研修を行う旨の合意をした。そして、ALBERT(12月決算)はその対価としてA社から2019年12月と2020年1月に合計5,000万円を受け取り、A社からも再研修に係る検収書の提出を受けていたため、2019年12月期に同額の売上を計上していた。しかし、実際には再研修は行われておらず、売上を認識するための実現主義の「①財貨または役務の提供」「②対価として現金または現金等価物の受領」といった二つの要件のうち「①役務の提供」を満たしていないことから、売上を認識することは認められないものであった。
原因 A社が「役務の提供」を重視していなかった可能性
本調査報告書では、A社がなぜ役務の提供を受けていないにもかかわらず再研修に係る検収書を提出し、50百万円を支払ったのかの理由が説明されていないため、本調査報告書を読んでも本取引の意図をうかがい知ることはできない。ただ、本調査報告書には、再研修の内容に精通していた執行役員が、本件再研修の目的について、「A社との協業事業で発生していたアイドルコストを軽減することにあり、これによりALBERTにもたらされる損益改善の金額が重要で、その損益改善の方法については必ずしも重視していなかった」旨供述している旨の記述があり、A社は「役務の提供」を重視していなかった可能性が高い。

CFOの非定型取引への対応が不十分であった
ALBERTのCFOは、本件再研修の非定型性に伴う会計上のリスクや、そのようなリスクを踏まえて売上計上の妥当性を確保するという意識が不十分であった。

OJTと通常のプロジェクトへのアサインとの区別が不十分であった
A社からの派遣社員に対して再研修を実施するにあたって、従前のプロジェクトへのアサインと区別して、OJTの実施状況を確認できる客観的資料を整備しておくことをしていなかった。

再発防止策 1)CFOの役割の明確化および充実化
2)適切な会計処理に関するルールの整備およびコミュニケーション環境の改善
3)教育・研修を通じた会計に係る知識・コンプライアンス意識の強化
4)再発防止策の実行性を担保する体制
5)不適切な会計処理に関与した役職員に対する適正な処分
<この失敗から学ぶべきこと>

期末間際の非定型的な取引には利益をねん出するための不正取引が含まれている可能性が高いということを改めて認識させる会計不正でした。

本調査報告書では、A社がなぜ役務の提供を受けていないにもかかわらず再研修に係る検収書を提出していたのかの理由が説明されていません。また、50百万円の行方(ALBERTは返金したのかどうか)や最終的にどのような会計処理になったのかも示されていません。仮に、A社がALBERTの株式を保有している資本・業務提携先であれば、利益をねん出して株価向上を図るために5千万円を提供する動機があったと推測することも可能ですが、真相は明らかにされていません。

ALBERTは、この外部調査委員会の調査に総額190百万円も掛けており、2020年12月期の決算で特別損失に計上すると開示しています(特別損失に係るリリースはこちら)。不正調査においては、調査の範囲や規模にもよりますが、短期間で多数の弁護士・公認会計士を動員することから1億円以上かかることも決して珍しくはありません。このようなコストの支払いを迫られるような事態(不正会計)を回避すべく、平時から非定型的な取引のリスクの高さに注目した内部統制・内部監査・監査役監査の充実を図っておくべきです。

2020/07/16 株主総会で議長は“拍手”すべき?

株主総会で「拍手」をもって採決をする場合、議長は拍手をしなくても賛成の議決権数に加算するのが一般的な取扱いとされているが、・・・

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2020/07/16 株主総会で議長は“拍手”すべき?(会員限定)

株主総会で「拍手」をもって採決をする場合、議長は拍手をしなくても賛成の議決権数に加算するのが一般的な取扱いとされているが、議長が拍手をしなかったことを議案へ賛・否のいずれと取り扱うかを巡る裁判(以下、本件)が発生、今年(2020年)3月11日に東京地裁で判決が下されていたことが当フォーラムの取材で分かった。

本件は、2018年3月23日に開催された東証1部上場企業の臨時株主総会が舞台となった事案。臨時株主総会では、同社の代表取締役(当時)を取締役から解任する議案が株主から提案されていた。

臨時株主総会では当初、代表取締役(当時)が議長を務めていたが、出席株主から「解任対象となっている者が議長を務めるのは相当でない」として議長の交代を求める動議が提出され、筆頭株主(ファンド)代表者が議長になった。そして採決では、議長となった筆頭株主代表者が議案に賛成する株主に拍手を求めたが、議長自身は採決の際に拍手をしなかった。そこで、会社(代表取締役)側はこれを「賛否不明」と取扱い、筆頭株主が本件議案(代表取締役を取締役から解任する議案)に賛成したものと取り扱うことはできないとした。

動議 : 株主総会において「株主側」から審議・採決の提案が行われること。動議には「実質的動議」と「手続的動議」の2種類がある。実質的動議とは、株主が株主総会において、株主総会の目的事項である「議題」に対して「議案」を提出することであり、手続的動議とは、議題に対してではなく、「株主総会の運営」や「議事進行」に関する株主からの提案を指す。

これに対し筆頭株主(原告)は、拍手をしなかったことをもって「賛否未確認」とすることで筆頭株主の議決権行使を妨げたとし、(元)代表取締役(被告)を相手取り、損害賠償を求め東京地裁に訴訟を提起した。

裁判では、被告(代表取締役)が「筆頭株主代表者は議長として、採決の方法を『議案に賛成する株主については拍手によるもの』と明言したうえで、自らは採決の際に拍手をしなかったのであるから、本件議案に賛成したものと取り扱うことはできず、賛否不明とした本件取扱いには何ら問題もなく、筆頭株主の議決権行使を妨げた事実はない」「筆頭株主代表者は、株主総会の議場において議長に選任された者であり、採決に当たって議決権を有していることは他の出席株主も当然理解している」などと主張する一方、原告(筆頭株主)は、「採決に際して筆頭株主代表者がした拍手をしないという挙動の客観的意味を基準にして判断したとしても、筆頭株主は事前に議決権行使し、また、本件株主総会の会場への入場の際に本件議案に賛成する旨を記載した議決権行使書面を本件会社に提出しており、その賛成という判断は現在も変わらないため、あえて同一内容の議決権行使を再度する必要はないとの判断から拍手をしなかったものと解釈することができる」「筆頭株主代表者は株主総会の議長を務めており、①議場の秩序維持、議事進行の整理あるいは採決結果の集計・確認といった議長としての職務に集中しなければならないこと、②拍手により議案への賛意を明確にすると出席株主から議長としての公正性・中立性に疑念を抱かれるおそれがあったことからすれば、たとえ本件議案に賛成である場合であっても、議長席で拍手をすることは現実的に行い難い」などと反論した。

結論から言うと、東京地裁は筆頭株主(原告)の損害賠償請求を棄却している。その理由として東京地裁は、「株主総会の実務上、拍手をもって採決をする場合、議長や役員は拍手をしなくても賛成の議決権数に加算するのが一般的な取扱いであるとされている」としたうえで、そのことを考慮しても、「本件においては、①筆頭株主代表者は、株主総会開会後閉会に至るまで議案に賛成する意思を対外的に表明しておらず、採決の際に拍手もしていないところ、当該行為を法的にどのように評価するかは解釈が分かれ得る問題であること、②代表取締役は、本件会社の顧問弁護士の見解に基づいて本件意思決定を行っていること、③仮に筆頭株主の議決権行使の結果を賛成の議決権数に算入したとしても、本件議案に賛成した株主の議決権の割合は約60%にとどまり、出席株主の議決権の3 分の2 以上という本件議案の可決のための特別多数には達していない」ことを挙げている。

もっとも、上述のとおり、筆頭株主は事前に議決権を行使しするとともに議決権行使書面を提出をしており、そのいずれも議案に賛成する内容となっている。このように、筆頭株主が明らかに「賛成」の意思を示しているにもかかわらず、「拍手」をしなかったことをもって「賛否未確認」と言えるのかという点は気になるところだ。この点について裁判所は、「電子投票制度及び書面投票制度はいずれも『株主総会に出席しない株主』(会社法298 条1 項3 号、4 号)が議決権を行使することができる制度であるから、事前の議決権行使及び議決権行使書面は、筆頭株主代表者が本件株主総会に出席した時点で無効となる」としたうえで、「筆頭株主代表者が株主総会における審議や質疑応答を経て最終的に議案に反対する立場に転じる可能性もあるから、事前の議決権行使及び議決権行使書面の内容から採決に際して拍手をしなかったことをもって議案に賛成すると解釈することはできない」と結論付けている。

本件は、代表取締役の解任を議案とする臨時株主総会を舞台とした若干特殊な事例とはいえ、上記赤字部分のとおり裁判所が「当該行為を法的にどのように評価するかは解釈が分かれ得る問題である」としている点には留意したい。議長が拍手をもって採決をとると自ら言った以上は、(議長自身も議決権を有し、かつ賛成なのであれば)議長も拍手をしておいた方が無難と言えるかもしれない。