2018/06/06 会計士へのプレッシャーが粉飾決算を減らす?(会員限定)

粉飾決算と言えば上場企業の不正の代表格だが、粉飾された財務諸表に無限定適正意見()を出した監査法人に対し、株主に6億円の損害賠償を命じる判決が東京高裁であったことが当フォーラムの取材で分かった。

 「財務諸表は、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従っている」との意見。監査法人の意見の種類については、新用語・難解用語の「意見不表明」参照。

本裁判で被告となったのが、電子部品製造装置の開発製造等を手掛けていたプロデュース社(2005年12月ジャスダック上場、2008年10月27日に上場廃止)の粉飾決算に加担したとされる公認会計士が代表社員を務めていた監査法人を吸収合併した監査法人だ(原告はプロデュース社の株主)。

プロデュース社による粉飾決算の手口は、循環取引などにより売上高や経常利益を嵩上げし、赤字を黒字に転換(赤黒転換)するというもので、上場前から行われていた。この粉飾決算には、プロデュース社の社長らのほか、同社の会計監査を担当していた監査法人の代表社員であった公認会計士も関わっていた。むしろ、当該公認会計士は粉飾の手口を逐一指南するなどして粉飾決算に積極的に加担していたという。

循環取引 : 特定の関係者の間で利益を乗せて売買を繰り返す取引。経済的実態の伴わない取引であり、最終的には関係者の利益が乗った高値で買い戻す必要があるため、粉飾取引の一つに位置付けられている。

証券取引等監視委員会による調査によりプロデュース社の粉飾決算が発覚(=同社が証券取引等監視委員会から強制調査を受けた事実を公表した2008年9月19日)した後、同社の株価(終値)は、粉飾決算発覚の前日(同年9月18日)の33万4,000円から大幅に続落、最終取引日の同年10月24日の終値はわずか305円となった。これを受け、粉飾決算発覚前に同社の株式を取得した株主(法人4社、個人225名)は、虚偽記載がある有価証券報告書等の財務諸表に無限定適正意見を出した監査法人を吸収合併した監査法人に対して損害賠償を求める訴訟を提起した。

この訴えに対し、東京地裁は株主の訴えを全部棄却する判決を下していたが(2017年7月19日判決)、株主はこの地裁判決を不服として控訴。東京高裁は、プロデュース社の社長らと共謀して巧妙な手法で巨額の赤黒転換を伴う粉飾決算を実行したうえで無限定適正意見を表明した公認会計士に故意があったことは明らかであると指摘し、一転して監査法人の責任を認め、虚偽記載により株主らが被った損害額を約6億円とはじき出したうえで、監査法人に対してその損害賠償を命じている。東京高裁は、粉飾決算発覚前に同社株式を取得し保持し続けてきた株主については、同社が2014年9月4日に裁判所から破産手続の開始決定を受けていることから、同社株式の取得価額全額を損害額として認めている。

ちなみに、プロデュース社の粉飾決算は刑事事件にもなっており、同社の社長に対しては懲役3年・罰金1,000万円の実刑判決、同社の監査を担当した上記の公認会計士に対して懲役3年6月の実刑判決が下され、いずれも確定している。

これまで発生した粉飾決算事案でも、監査法人が株主から責任が問われた例はあるが(最近では、ニイウスコー社粉飾事件で監査法人(トーマツ)が勝訴(同事件については2014年12月19日のニュース「注目判決 粉飾決算で“人事担当取締役”に株主への賠償命令」参照)、FOI社粉飾事件では監査を担った公認会計士桜友共同事務所が裁判途中で和解した例(同事件については2017年3月10日のニュース「粉飾決算で上場廃止、元役員の責任は」参照)がある)、監査法人が敗訴したケースとしては、今回のプロデュース社の事案が、ナナボシ社の事案(トーマツが敗訴。大阪地裁2008年4月18日判決)に次ぐ二例目となる模様。事案数としてはそれほど多くないが、今回の高裁判決を見て、身が引き締まる思いをした公認会計士も少なくないだろう。今回の判決が、上場企業の粉飾決算の減少に寄与することを願いたい。

2018/06/05 「ポイント」を活用した事業を展開する企業にリスク(会員限定)

いまやBtoC事業を展開する企業の多くが「ポイント」を活用しているが、こうした企業では自社の消費税の処理を確認してみる必要がある。消費税の処理というと、経営陣の中には「経理の仕事」と考える人もいるかもしれないが、それが将来にわたって億単位の税負担の増加を招き、事業の採算も悪化させる可能性があるとなれば、重要な経営問題と言わざるを得ないだろう。

スマートフォンを利用したフリーマーケットの運営で急成長し、今月19日には東証マザーズに上場する予定の「メルカリ」が、2015年6月期および2016年6月期の2事業年度について東京国税局により消費税の追徴課税(税額は約1億円)を受けたことは一部の新聞などでも報じられたが(同社のリリースはこちら )、同様のリスクが「ポイント」を活用した事業を展開する企業に広く及ぶ恐れがあることが当フォーラムの取材により分かった。

まずメルカリの仕組みを簡単に説明しておこう。個人が物品を売買するフリーマーケットであるメルカリで売買が成立した場合、購入者は購入対価をメルカリに支払い、販売者は販売価格の10%の手数料をメルカリに支払った残額(ここでは配送料は無視する)を手にすることになる。購入対価や手数料は、現金のみならず、購入者や販売者が保有する「ポイント」で支払うこともできる。メルカリへの追徴課税で問題になったのは、このポイントの取扱いだ。

メルカリは、しばしばポイントを“無料”で配布している。例えば無料で配布を受けた100円分のポイントを保有する購入者が1,000円の物品を購入する際にこのポイントを使用した場合、メルカリにはポイント分を除いた900円が入金されることになる。すなわち、メルカリには本来(ポイントが使用されなければ)1,000円が入金されるところ900円しか入って来ないわけだ。そこでメルカリは、この100円を「多くの人にマーケットに参加してもらうために必要なコスト」と考え、これを費用に計上したうえで、100円の8%相当額である8円について、消費税の仕入税額控除()を行っていた。

 消費税は事業者にとってはあくまで「預り金」という位置付けであり、事業者が商品やサービスなどの販売により「受け取った消費税」は税務署に納める必要がある。ただ、事業者自身も他の事業者から商品やサービスなどを購入(=費用を支出)した際には、消費税を支払っている。そこで、この「支払った消費税」は「受け取った消費税」から控除して、その差額を税務署に納めればよいことになっている。詳細は国税庁のウェブサイト参照。

これに対し東京国税局は、“無料”で付与したポイントには対価性がなく、それについて消費税が発生することもないため、消費税の仕入税額控除は認められないと判断し、上記追徴課税に至った模様。

ここで重要なのは、本件は決してメルカリだけの話ではないという点だ。消費者を呼び込むために、無料でポイントや割引券を付与している企業(例えば飲食業者や小売業者等)はたくさんある。もしこれらの企業がメルカリと同様に、ポイントの利用により販売対価から減額された金額について、消費税(減額分×8%)の仕入税額控除を行っていたとしたら、メルカリと同じパターンで追徴課税を受ける可能性が高い。経営陣、特に経理担当役員はすぐに自社の経理処理を確認してみるべきだろう。

2018年2月14日のニュース「消費税率アップで一部業界が苦境に」では、マンション販売事業者に対する消費税の追徴課税が相次いでいる旨をお伝えしたが、同様のことが飲食業界や小売業界でも起こる可能性がある。

2018/06/04 「投資家と企業の対話ガイドライン」公表で注目必至の“コンプライの“質”

(2018年)6月1日に公表された改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の確定版が「改訂案」から小幅な修正にとどまったのは(2018年5月30日のニュース「改訂CGコード、パブコメ後の修正点は?」参照)、改訂案のとりまとめまでに金融庁・東証と経済界との間で議論・調整が重ねられた結果と言えそうだが、政策保有株式に関する原則1-4や補充原則1-4①、1-4②をはじめ、上場企業にとってはコンプライのハードルが高い改訂も少なくない(政策保有株式に関する原則の改訂は、2018年5月23日のニュース「政策保有株式、「精査・検証結果」を個別企業ごとに開示する必要は?」参照)。

改訂された以上、企業には「コンプライ」が期待されるところではあるが、その一方で、CGコードの改訂を検討したスチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(以下、フォローアップ会議)で問題視されたのが“とりあえずコンプライ”だ。これは、原則の趣旨や本来求められるコンプライの水準を満たしていないにもかかわらず、原則の一部をクリアしているからという理由で、あるいは企業側が原則の趣旨を捻じ曲げて解釈することによって「コンプライしていることにする」というもの。

東証は・・・

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2018/06/04 「投資家と企業の対話ガイドライン」公表で注目必至の“コンプライの“質”(会員限定)

(2018年)6月1日に公表された改訂コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の確定版が「改訂案」から小幅な修正にとどまったのは(2018年5月30日のニュース「改訂CGコード、パブコメ後の修正点は?」参照)、改訂案のとりまとめまでに金融庁・東証と経済界との間で議論・調整が重ねられた結果と言えそうだが、政策保有株式に関する原則1-4や補充原則1-4①、1-4②をはじめ、上場企業にとってはコンプライのハードルが高い改訂も少なくない(政策保有株式に関する原則の改訂は、2018年5月23日のニュース「政策保有株式、「精査・検証結果」を個別企業ごとに開示する必要は?」参照)。

改訂された以上、企業には「コンプライ」が期待されるところではあるが、その一方で、CGコードの改訂を検討したスチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(以下、フォローアップ会議)で問題視されたのが“とりあえずコンプライ”だ。これは、原則の趣旨から外れている、あるいは本来求められるコンプライの水準を満たしていないにもかかわらず、原則の一部をクリアしているからという理由で、あるいは企業側が原則の趣旨を捻じ曲げて解釈することによって「コンプライしていることにする」というもの。

東証は各原則のコンプライ率をとりまとめた資料を公表しているが、コンプライ率の高い原則であっても、そこには“コンプライの質”が低いものが相当程度含まれていることは東証も金融庁も認識している。今回、改訂コーポレートガバナンス・コードと併せ、主な原則の趣旨を明確にする「投資家と企業の対話ガイドライン」を公表した理由もそこにある(同ガイドラインについては、2018年3月14日のニュース『「投資家と企業の対話ガイドライン」はコンプライする必要があるのか』参照)。

上述のとおり“コンプライの質”の問題はフォローアップ会議でも話題に上っており、「どのようにコンプライしているのか、具体的な取り組みを説明するべき」との意見が多く聞かれた。フォローアップ会議は単なるコンプライではなく、「コンプライ&エクスプレイン」を求めていると言えよう。

フォローアップ会議には「質の低いコンプライよりも、その原則が自社に合わないのであれば堂々とエクスプレインする方が良い」という声さえあるが、原則の中にはエクスプレインしづらいものがあるのも事実。例えば、今回の改訂で原則4-11に役員構成の多様性として「ジェンダー」と「国際性」が例示されたが(2018年3月16日のニュース『続報・CGコード改訂 「ジェンダー・ダイバーシティ」のコンプライ基準』参照)、「国際性」についてはエクスプレインの余地があるものの(例えば「ドメスティックなビジネスを展開しており、海外の売上が極めて少ない」など)、女性の活用についてエクスプレインすることは企業イメージの悪化につながる恐れがある。上場企業にとっては、「コンプライすべき原則」の見極めも重要と言えそうだ。

2018/06/01 1/3以上の社外取選任のための取組方針は開示対象外、委員は氏名を記載(会員限定)

改訂コーポレートガバナンス・コードが(2018年)6月1日、公表された。当フォーラムが2018年5月30日のニュース「改訂CGコード、パブコメ後の修正点は?」でお伝えしていたとおり、改訂案の段階から修正されたのは「第3章 適切な情報開示と透明性の確保」の【基本原則3】の「考え方」にESG等に関する記述が追加された一箇所のみで、他に改訂案からの変更点はない。

改訂案からの変更箇所(赤字部分) ※改訂CGコード11ページより抜粋
更に、我が国の上場会社による情報開示は、計表等については、様式・作成要領などが詳細に定められており比較可能性に優れている一方で、会社の財政状態、経営戦略、リスク、ガバナンスや社会・環境問題に関する事項(いわゆるESG要素)などについて定性的な説明等を行ういわゆる非財務情報を巡っては、ひな型的な記述や具体性を欠く記述となっており付加価値に乏しい場合が少なくない、との指摘もある。取締役会は、こうした情報を含め、開示・提供される情報が可能な限り利用者にとって有益な記載となるよう積極的に関与を行う必要がある。

上記の変更箇所については、改訂案に対して寄せられたパブリックコメントとそれに対する東証の考えをとりまとめた「提出された意見とそれに対する考え」の中で言及されている。それによると、『会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のためには、いわゆるESGへの取組みが不可欠となっており、また、中長期的な観点からエンゲージメントを実施する投資家と、企業との対話は、ESGに関する議論が中心となっている。そのため、第3章「適切な情報開示と透明性の確保」に、ESG情報の開示に関する記載を盛り込むことを提案する。』『第3章「適切な情報開示と透明性の確保」において、ESG 課題に関する開示を促すように記載すべきと考える。』といったコメントに対し東証は、「ご指摘を踏まえ、第3章の「考え方」において、ここでいう「非財務情報」にいわゆるESG要素に関する情報が含まれることを明確化します。」「なお、上場会社がこうした情報を含む非財務情報の法定開示・任意開示を行うに当たっては、それぞれの開示の役割やステークホルダーの関心も踏まえ、適切に開示内容が検討されることが重要と考えます。」との考え方を示している(72ページ~ 295番~303番参照)。

コーポレートガバナンス・コードの改訂に併せて、コーポレートガバナンス報告書の記載要領も変更されている。主な変更点は下記のとおり。

コードの各原則を実施しない理由
ある原則についてエクスプレインする場合、そのやり方として、「代替手段によってコードの趣旨を実施している場合にはその旨」を記載することが例示として追記された。エクスプレインするにしてもコードの趣旨を企業に考えさせ、安易なエクスプレインができないよう釘が刺された感もある。

コードの各原則に基づく開示
開示が求められる原則に、「運用に当たる適切な資質を持った人材の計画的な登用・配置などの人事面や運営面における取組みを行うとともに、そうした取組みの内容」の開示が求められることとなった新設の原則2-6(企業年金としての機能発揮)が新たに加わり(2018年3月15日のニュース「続報・CGコード改訂 企業年金への関与を求める原則に込められた“警告”」参照)、これまで「少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、・・・そのための取組み方針」を開示することが求められていた原則4-8(独立社外取締役の選任)が除かれた。これは今回の改訂で同原則の表現が強められ、“取組み方針の開示”ではなく「十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである」とされたことによる(2018年3月19日のニュース「CGコード改訂 独立社外取締役に関する記述の背景と今後」参照)。

また1-4(政策保有の方針)における「保有株式の検証内容」も、新たな開示項目として加えられている(2018年5月23日のニュース『政策保有株式、「精査・検証結果」を個別企業ごとに開示する必要は?』参照)。

任意の指名委員会・報酬委員会
任意の指名委員会・報酬委員会に関する補足説明として、「委員の氏名」を記載することが例示された。委員の氏名を記載すれば、各委員会の構成メンバー(例えば独立社外取締役の割合)、各委員の兼務状況などが明白になる。任意の諮問委員会について規定する補充原則4-10①は、今回の改訂により任意の諮問委員会に「独立性」を求めているが(2018年5月29日のニュース『改訂CGコードが意図する「独立した」委員会』参照)、この改訂を念頭に置いたものと言えそうだ。

また、最高経営責任者(CEO)の選解任に当たって任意の指名委員会、経営陣の報酬制度の設計や報酬額の決定に当たって任意の報酬委員会を利用している場合には、その旨を記載することを例示して追記している。補充原則4-2が経営陣の報酬制度の設計と報酬額の決定に「客観性・透明性のある手続き」を、補充原則4-3②がCEOの選任について、補充原則4-3③がCEOの解任についてやはり「客観性・透明性のある手続き」を求めていることを踏まえたものと言えよう。

このほか任意の指名委員会・報酬委員会関係では、コーポレートガバナンス報告書の末尾に参考資料として添付される内部統制システムの概要を含むコーポレート・ガバナンス体制についての模式図に、「独立社外取締役を主要な構成員とする任意の指名委員会・報酬委員会」の設置状況も記載することが求められることとされた。上場企業各社は、これらの委員会の位置付けを明確にする必要があろう(取締役会の下部機関なのか、経営トップの諮問機関なのか、など)。

なお、改訂コーポレートガバナンス・コードの確定とともに、金融庁による「企業と投資家の対話ガイドライン」も6月1日に確定している。こちらは案の段階から変更された箇所はない。

2018/06/01 1/3以上の社外取選任のための取組方針は開示対象外、委員は氏名を記載

改訂コーポレートガバナンス・コードが(2018年)6月1日、公表された。当フォーラムが2018年5月30日のニュース「改訂CGコード、パブコメ後の修正点は?」でお伝えしていたとおり、改訂案の段階から修正されたのは・・・

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2018/05/31 【2018年4月の課題】アクティビスト株主に対する備え:解答(会員限定)

アクティビストによる株式保有が分かるのはいつ?

もし自社の株式がアクティビストに買われていたとしても、多くの場合、その保有株式数が発行済株式の5%を超えて大量保有報告書が提出されるか、あるいはアクティビストからレターの送付や面談の要求などのアクションがない限り、会社サイドは感知できないのが通常です。これは、アクティビストも通常の運用機関と同様、カストディアンを経由して株式を保有する「実質株主」であり、株主判明調査を実施しなければその保有を確認することができないためです。

カストディアン : 投資家に代わって株式の管理(カストディ)を行う機関のこと。信託銀行等が該当する。機関投資家は信託銀行等を通じて株式を保有するのが通常であり、多くの場合、名義上の株主は信託銀行などのカストディアンとなっている。
実質株主 : 機関投資家は信託銀行等を通じて株式を保有するのが通常であり、多くの場合、名義上の株主(名義株主)は信託銀行などのカストディアン(投資家に代わって株式の管理(カストディ)を行う機関)となっているため、名義株主に対する呼称として「実質株主」と言われる。機関投資家は名義株主でない以上、株主総会の場で議決権を行使することは基本的にはない。

しかし近年は直接株式を購入することで「名義株主」となり、企業の株主名簿にそれと分かる形で現れるアクティビストも増えているようです。例えば近年の有価証券報告書の「大株主の状況」においては、以下のような名義が確認されています。

株主名簿上の名義 会社
OASIS INVESTMENTS II MASTER FUND LTD. 片倉工業など
HORIZON GROWTH FUND 佐藤渡辺など
RMB JAPAN OPPORTUNITIES FUND, LP. フェイスなど
アルファレオ1号投資事業有限責任組合 乾汽船

これらの名義で株式を保有しているオアシス・インベストメンツ、ホライゾン・キャピタル、RMBキャピタル、アルファレオは、いずれも投資先の企業に対し、今年(2018年)の6月株主総会において株主提案を実施しています。このことから推測すると、株主名簿において大株主であることを明確に知らしめたうえで、いわば「正門から堂々と」アクティビズムを実施しているのではないかと思われます。

名義株主としてアクティビストの存在が明らかな場合、いつ何時そのアクティビストが接触してくるか、あるいは株主提案などのアクティビズムに乗り出してくるか、秒読みの段階に入っていると言わざるを得ません。また、株主名簿上は明確でなくとも、見慣れないカストディアンの名義が出現したり、証券会社の保有が急に増えたりしている場合、その背後にアクティビストが実質株主として存在している可能性は決して小さくありません。株主判明調査なども含めた初動対応を早急に検討するべきでしょう。

アクティビストには対応しなければならないのか?

では、株主名簿でアクティビストによる保有が明らかになった企業、あるいは株主判明調査でアクティビストの保有可能性が高まった企業においては、どのような備えが必要になるのでしょうか。

業績動向やガバナンスに何ら弱みがなければ、「アクティビストなど怖くない」と無視を貫くのも選択肢かもしれません。しかし、本当に何の弱みもなければ、そもそもアクティビストが株式を保有することないでしょう。

株主構造がグループ会社や取引先などによる持ち合いで盤石(例えば議決権の過半数を確保している)なので、アクティビストが何を言ってきても、どんな株主提案をしてきても関係ないと決め込むことも考えられます。確かにこの場合、株主提案が可決されたり、TOBによって経営権を握られたりすることはありません。しかし、株主提案の賛成率あるいは会社提案の反対率が半数に迫った場合、過半数には達しなくとも相当に多くの株主が「現経営陣に不満を持っている」ことが臨時報告書によって白日の下に晒されてしまいます。これは企業のレピュテーションへの影響という観点から決して無視できるものではありません。

TOB : 特定の上場会社の株式を、買取り株数・価格・買付期間を公告したうえで、株式市場外で不特定多数の株主から買い集めること。TOBとは「Take-Over Bid」の略。

また、話はレピュテーションの問題にとどまりません。アクティビストにとって、経営陣に対する反対票(株主提案の場合は賛成票)の割合は、次なるアクティビズムに移行するかどうかの大きな判断材料になります。例えば株主提案に40%の賛成票が集まったとします。この40%は、次の提案の内容次第ではアクティビストの側につく“賛成予備軍”と認識されます。そこでアクティビストが魅力的なプランを携え、議決権保有割合の目標の下限を「3分の1超」に設定してTOBを実施したらどうなるでしょうか。これが成立した場合、アクティビストの同意なしでは定款変更、合併や事業譲渡など、株主総会の特別決議が必要なコーポレート・アクションができなくなってしまうのです。

特別決議 : 議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その出席株主の議決権の3分の2以上の多数による決議。

アクティビストによる株式の保有などの資本市場リスクを議論する場合、一つ重要な視点として挙げられるのは「純投資家」の立場でモノを考えるということです。資本市場の論理において株式の持ち合いは決して肯定されるものではありませんので、これに頼った株主総会の運営ひいては会社経営の掌握は決して純投資家からは評価されません。国内および海外の機関投資家に個人株主(大株主を除く)を合わせた割合が60%であれば、会社提案に30%(60%の半数)を超える反対があった時点があった時点で、機関投資家にとっては「実質否決」も当然なのです。資本市場に株式を上場している以上、少数株主である純投資家によるガバナンスに服するべきでしょう。

純投資家 : 創業家や親会社など特定の大株主ではなく、「投資収益の獲得」を目的として株式を購入・売却する投資家のこと。

「やってはいけない」備えとは?

アクティビストが出現した場合に会社が最も恐れるのは、アクティビストの株式保有比率が高まってその影響力が増大することでしょう。今回の課題にあるように、2%程度の保有比率であれば当面は事業継続に問題があるとは考えにくいでしょうが、市場での買い増しやTOBの実施によってこれが20%、30%と高まってくると、特別決議を要するコーポレート・アクションがとりにくくなりますし、アクティビストと他の株主との連携次第では経営権を奪取されることにもつながりかねません。

だからと言って安易に選択してはならないのが、いわゆる事前警告型ライツプラン()と言われる買収防衛策の導入です。

 事前警告型ライツプランの基本的な流れは、(1)一定割合以上の株式取得を狙う敵対的な買収者に対し、事前に設定した「猶予期間」中に、買収者自身や買収提案の内容など詳細な情報の提供を要求する、(2)社外役員や有識者などから構成される「独立委員会」が買収提案を精査する、(3)独立委員会の勧告を踏まえて、取締役会が賛成/反対の対応を決定する―――となっている。日本で最も活用されている買収防衛策がこの「事前警告型ライツプラン」である。ライツプランという名称は、新株を購入する「権利(ライツ)」から来ている。また、毒薬が回って体が弱るようなイメージがあることから、「ポイズンピル(毒薬条項)」とも呼ばれる。

今回の課題のタイミング(決算期末で株主名簿を締めたところ)で買収防衛策導入を発表すれば、明らかに特定のアクティビストを狙い撃ちしたことが見え見えで、当該アクティビストをいたずらに刺激することになるでしょう。何より買収防衛策は機関投資家全般からネガティブに見られており、資本市場全体を敵に回しかねません。そもそも株主総会で導入議案が通るかどうかも微妙でしょう。

以下は近時の株主総会における、買収防衛策関連議案の賛成率です。会社提案の「導入議案」はあと数パーセントで否決、株主提案の「廃止議案」は可決されるところだったことが分かります。なお2014年6月にはカプコンの防衛策が実際に否決されています。

※買収防衛策の詳細や近年の事例はケーススタディ「買収防衛策の導入(継続)議案に、より多くの賛成票を得たい」参照

議案 時期 会社 賛成率
導入の会社提案 2017/3 東洋紡 51.3%
2017/3 日本製鋼所 53.6%
2017/3 因幡電機産業 53.6%
廃止の株主提案 2018/3 GMOインターネット 44.7%

また議決権の確保を狙って持ち合い強化に走ることも決して勧められません。株主の権利を削ぎ落とすようなアクションは、機関投資家の反発(≒アクティビストへの同調)を誘うことになりかねません。そもそも相手あっての持ち合いであり、将来にわたって持ちつ持たれつの関係が続くとも限りません。実際、改訂ガバナンスコードでは「上場会社が政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべき」とされており、政策保有株式に対して投資家から厳しい視線が注がれています。従来のような株式の相互持ち合いに頼る時代は終わったと考えるべきです。

「やっておくべき」備えとは?

まず自社の株主となったアクティビストの特徴、どのような投資方針でどのような要求をしてくるのか、「敵を知る」ことが重要です。アクティビストの戦略は、大きく分けて以下の3通りあります。自社の株主となったアクティビストがどのような戦略をとるのかは、他の投資先に対するアクティビズムの実績や、専門のアドバイザリー会社による助言などから、大まかには把握することができます。

戦略 内容 対象 要求
アービトラージ 低価格で買った株式を高価格で転売する 株価水準が低い企業 ・株式買取り価格の引き上げ
MBOまたは100%子会社化(後述)
・経営計画の開示/IRの充実(内容が魅力的でかつ実現可能なものであれば、株価が上昇)
レバレッジ 財務戦略の改善による資本コストの引き下げ B/Sが非効率な企業(株主や債権者から調達した資金を効率的に使っていない企業)、ROEの低い企業 ・増配/自己株式の取得(効率的に使えていない資金の株主への返還)
・政策保有株式の売却(効率的に使えていない資金を回収し、本業への投資を増やす)
マネジメント 経営に参画して企業/事業価値を上げる 業績が低迷している企業 ・外部からの経営者招聘
・事業ポートフォリオの組替え
・痛みを伴うリストラの断行
・ガバナンス体制の強化(放漫経営をさせない)

MBO : マネジメント・バイアウト:経営陣による買収。上場会社の非上場化策の一つである。
レバレッジ : 社債や借入金など負債による資金調達を増やして、純資産と負債のバランスを変え、株主に帰属する利益を増やすこと。負債により調達した資金を設備や子会社などへ投資に回すことによって、負債コストの増加分以上に利益が増えれば、株主の取り分を増やすことができる。自己株式取得により純資産を減らすことでも、純資産と負債のバランスが変わるため同じ効果が得られる。
資本コスト : 株主および債権者の期待収益率の「加重平均」によって算出する。株式の期待収益率を「株式コスト」、債権者の期待収益率を「負債コスト」という。
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)

次に必要なのは、上述したアクティビストの各戦略の対象となる「弱み」が自社に存在するかどうか、「己を知る」ことになります。

株主となったアクティビストがアービトラージ戦略をとるなら、自社の株価水準が資本市場でどう評価されているのか、資本市場における認知度に問題はないか、などを検証すべきです。

レバレッジ戦略であれば、資本生産性=ROEは適切か、株主還元は十分な水準か、などが俎上に載るでしょう。もし他社(アクティビストの投資先、自社にとっての同業他社など)と比較して目立って劣後したものが自社にあれば、まさにその点がアクティビストの攻めどころになるはずです。

アクティビストがマネジメント戦略をとる場合には、自社の経営の検証が必要となります。そのうえで、例えば業界の成長性の鈍化や厳しい競争環境に晒されている状況にあれば、抜本的な経営改革を実現するためのアクション(大胆な戦略転換、経営陣の刷新など)が求められます。また複数の事業を多角展開しており各事業の収益性が必ずしも高くなければ、コングロマリット・ディスカウントを解消する施策(組織再編、事業売却など)が期待されるでしょう。

もっとも、アクティビストに目を付けられるであろう自社の「弱み」が明確になったとしても、「克服できる弱み」と「克服できない弱み」があります。後者としては、例えば親子上場の問題が挙げられます。親会社とその子会社が両方上場している状態である親子上場では、子会社は上場しているにもかかわらずその筆頭株主は親会社のままであり、他の株主の意見が経営に反映されにくい構造となっています。このため親子上場は、アクティビストはもちろん資本市場からも否定的に見られており、「子会社の少数株主の権利を守る」という大義名分の下、アービトラージ戦略(例えば、アクティビストが子会社の株式を買い集めたうえで、親会社に100%子会社化を迫る)の対象になりやすいことを十分に認識すべきです。とはいえ、親子上場の問題を上場子会社が自力で解決することは難しいでしょう。

「克服できる弱み」にも、「実施が容易なもの」と「実施が容易でないもの」があります。このうち後者には、例えば事業売却や痛みを伴うリストラなど、慎重な検討を要するコーポレート・アクションがあります。このようなものについては、まずは長期を見据えたビジョンや戦略を策定することから始め、アクティビストが攻めに転じた際にすぐに実施できなくても、その方向性をアクティビスト、さらには他の機関投資家に説明できるようにしておくことが重要だと言えます。

一方、「実施が容易なもの」については、可能な限り速やかに行動することをお勧めします。例えば、増配や自己株式取得など株主還元の充実、経営トップ自ら出席するIRミーティングの実施などは、経営陣の決断次第でスピーディな対応が可能なはずです。できることは即実施する、難しいことには今後の方針を打ち出す、できないことには少なくとも問題意識を高く持っておく、といった備えを尽くしたうえで、アクティビストとの対話に臨むことができるようにしましょう。

2018/05/31 【2018年5月の課題】改訂コーポレートガバナンス・コードへの対応

2018年5月の課題

6月より改訂コーポレートガバナンス・コードの適用が開始されます。改訂コーポレートガバナンス・コードに基づくコーポレートガバナンス報告書は12月中に提出すればよいこととされていますが、今回改訂された各原則によって、対応の時期、対応の深度は異なることになりそうです。改訂コーポレートガバナンス・コードに対する自社の対応方針と内容について検討してみてください。

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2018/05/31 2018年5月度チェックテスト

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【問題1】

3月決算の上場会社は、2018年6月にコーポレートガバナンス・コードが改訂された後でも、2018年6月の株主総会後にひとまず現行CGコード(改訂前のCGコード)に基づくCG報告書を提出できる。


正しい
間違い
【問題2】

開示府令では、有価証券報告書の【コーポレート・ガバナンスの状況等】の「株式の保有状況」の開示に際しての「株式の保有目的の判断基準」が明確かつ詳細に定められているため、上場企業によって純投資目的か否かの判断がぶれることはありえない。


正しい
間違い
【問題3】

上場企業の役員報酬体系に株式報酬を導入するのであれば、その分だけ固定報酬を下げなければ、機関投資家の理解を得ることは困難である。


正しい
間違い
【問題4】

改訂CGコードに基づくCG報告書の提出期限に約半年間の猶予(3月決算企業の場合)が設けられたのには、人事面でのコード対応を図るための時間的余裕の確保が背景にある。


正しい
間違い
【問題5】

独立社外取締役がメンバーとなる任意の小委員会は、欧米であっても指名委員会と報酬委員会がほとんであり、それ以外の小委員会を見かけることはほとんどない。


正しい
間違い
【問題6】

東証1部上場企業にあっては、2020年3月決算の監査から監査報告書におけるKAMの記載が早期適用される可能性があり、そうなれば株主は2020年6月総会から会社法計算書類の監査報告書のKAMを見ながら質問権を行使できるようになる。


正しい
間違い
【問題7】

価値協創ガイダンスを参照して作成された開示書類等には「ロゴマーク」を表示することができる。


正しい
間違い
【問題8】

株式報酬の支給により発行済株式数が増加すると、これにより一株当たりの価値が薄まるのが通常である。


正しい
間違い
【問題9】

改訂CGコード案の原則1-4の前段部分には、「毎年、取締役会で、個別の政策保有株式について保有目的が適切か、保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、そうした検証の内容について開示すべきである」とあり、精査・検証結果を(政策保有株式として)株式を保有している個別企業ごとに開示することが求められている。


正しい
間違い
【問題10】

中間試案では、株主総会参考書類、議決権行使書面、(連結)計算書類事業報告および連結計算書類を株主に電子提供することを可能にする案が示されたものの、当該案に対してはデジタル・ディバイドが拡がってしまうことから反対意見が多数寄せられていた。


正しい
間違い