アクティビストによる株式保有が分かるのはいつ?
もし自社の株式がアクティビストに買われていたとしても、多くの場合、その保有株式数が発行済株式の5%を超えて大量保有報告書が提出されるか、あるいはアクティビストからレターの送付や面談の要求などのアクションがない限り、会社サイドは感知できないのが通常です。これは、アクティビストも通常の運用機関と同様、カストディアンを経由して株式を保有する「実質株主」であり、株主判明調査を実施しなければその保有を確認することができないためです。
カストディアン : 投資家に代わって株式の管理(カストディ)を行う機関のこと。信託銀行等が該当する。機関投資家は信託銀行等を通じて株式を保有するのが通常であり、多くの場合、名義上の株主は信託銀行などのカストディアンとなっている。
実質株主 : 機関投資家は信託銀行等を通じて株式を保有するのが通常であり、多くの場合、名義上の株主(名義株主)は信託銀行などのカストディアン(投資家に代わって株式の管理(カストディ)を行う機関)となっているため、名義株主に対する呼称として「実質株主」と言われる。機関投資家は名義株主でない以上、株主総会の場で議決権を行使することは基本的にはない。
しかし近年は直接株式を購入することで「名義株主」となり、企業の株主名簿にそれと分かる形で現れるアクティビストも増えているようです。例えば近年の有価証券報告書の「大株主の状況」においては、以下のような名義が確認されています。
| 株主名簿上の名義 |
会社 |
| OASIS INVESTMENTS II MASTER FUND LTD. |
片倉工業など |
| HORIZON GROWTH FUND |
佐藤渡辺など |
| RMB JAPAN OPPORTUNITIES FUND, LP. |
フェイスなど |
| アルファレオ1号投資事業有限責任組合 |
乾汽船 |
これらの名義で株式を保有しているオアシス・インベストメンツ、ホライゾン・キャピタル、RMBキャピタル、アルファレオは、いずれも投資先の企業に対し、今年(2018年)の6月株主総会において株主提案を実施しています。このことから推測すると、株主名簿において大株主であることを明確に知らしめたうえで、いわば「正門から堂々と」アクティビズムを実施しているのではないかと思われます。
名義株主としてアクティビストの存在が明らかな場合、いつ何時そのアクティビストが接触してくるか、あるいは株主提案などのアクティビズムに乗り出してくるか、秒読みの段階に入っていると言わざるを得ません。また、株主名簿上は明確でなくとも、見慣れないカストディアンの名義が出現したり、証券会社の保有が急に増えたりしている場合、その背後にアクティビストが実質株主として存在している可能性は決して小さくありません。株主判明調査なども含めた初動対応を早急に検討するべきでしょう。
アクティビストには対応しなければならないのか?
では、株主名簿でアクティビストによる保有が明らかになった企業、あるいは株主判明調査でアクティビストの保有可能性が高まった企業においては、どのような備えが必要になるのでしょうか。
業績動向やガバナンスに何ら弱みがなければ、「アクティビストなど怖くない」と無視を貫くのも選択肢かもしれません。しかし、本当に何の弱みもなければ、そもそもアクティビストが株式を保有することないでしょう。
株主構造がグループ会社や取引先などによる持ち合いで盤石(例えば議決権の過半数を確保している)なので、アクティビストが何を言ってきても、どんな株主提案をしてきても関係ないと決め込むことも考えられます。確かにこの場合、株主提案が可決されたり、TOBによって経営権を握られたりすることはありません。しかし、株主提案の賛成率あるいは会社提案の反対率が半数に迫った場合、過半数には達しなくとも相当に多くの株主が「現経営陣に不満を持っている」ことが臨時報告書によって白日の下に晒されてしまいます。これは企業のレピュテーションへの影響という観点から決して無視できるものではありません。
TOB : 特定の上場会社の株式を、買取り株数・価格・買付期間を公告したうえで、株式市場外で不特定多数の株主から買い集めること。TOBとは「Take-Over Bid」の略。
また、話はレピュテーションの問題にとどまりません。アクティビストにとって、経営陣に対する反対票(株主提案の場合は賛成票)の割合は、次なるアクティビズムに移行するかどうかの大きな判断材料になります。例えば株主提案に40%の賛成票が集まったとします。この40%は、次の提案の内容次第ではアクティビストの側につく“賛成予備軍”と認識されます。そこでアクティビストが魅力的なプランを携え、議決権保有割合の目標の下限を「3分の1超」に設定してTOBを実施したらどうなるでしょうか。これが成立した場合、アクティビストの同意なしでは定款変更、合併や事業譲渡など、株主総会の特別決議が必要なコーポレート・アクションができなくなってしまうのです。
特別決議 : 議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、その出席株主の議決権の3分の2以上の多数による決議。
アクティビストによる株式の保有などの資本市場リスクを議論する場合、一つ重要な視点として挙げられるのは「純投資家」の立場でモノを考えるということです。資本市場の論理において株式の持ち合いは決して肯定されるものではありませんので、これに頼った株主総会の運営ひいては会社経営の掌握は決して純投資家からは評価されません。国内および海外の機関投資家に個人株主(大株主を除く)を合わせた割合が60%であれば、会社提案に30%(60%の半数)を超える反対があった時点があった時点で、機関投資家にとっては「実質否決」も当然なのです。資本市場に株式を上場している以上、少数株主である純投資家によるガバナンスに服するべきでしょう。
純投資家 : 創業家や親会社など特定の大株主ではなく、「投資収益の獲得」を目的として株式を購入・売却する投資家のこと。
「やってはいけない」備えとは?
アクティビストが出現した場合に会社が最も恐れるのは、アクティビストの株式保有比率が高まってその影響力が増大することでしょう。今回の課題にあるように、2%程度の保有比率であれば当面は事業継続に問題があるとは考えにくいでしょうが、市場での買い増しやTOBの実施によってこれが20%、30%と高まってくると、特別決議を要するコーポレート・アクションがとりにくくなりますし、アクティビストと他の株主との連携次第では経営権を奪取されることにもつながりかねません。
だからと言って安易に選択してはならないのが、いわゆる事前警告型ライツプラン(*)と言われる買収防衛策の導入です。
* 事前警告型ライツプランの基本的な流れは、(1)一定割合以上の株式取得を狙う敵対的な買収者に対し、事前に設定した「猶予期間」中に、買収者自身や買収提案の内容など詳細な情報の提供を要求する、(2)社外役員や有識者などから構成される「独立委員会」が買収提案を精査する、(3)独立委員会の勧告を踏まえて、取締役会が賛成/反対の対応を決定する―――となっている。日本で最も活用されている買収防衛策がこの「事前警告型ライツプラン」である。ライツプランという名称は、新株を購入する「権利(ライツ)」から来ている。また、毒薬が回って体が弱るようなイメージがあることから、「ポイズンピル(毒薬条項)」とも呼ばれる。
今回の課題のタイミング(決算期末で株主名簿を締めたところ)で買収防衛策導入を発表すれば、明らかに特定のアクティビストを狙い撃ちしたことが見え見えで、当該アクティビストをいたずらに刺激することになるでしょう。何より買収防衛策は機関投資家全般からネガティブに見られており、資本市場全体を敵に回しかねません。そもそも株主総会で導入議案が通るかどうかも微妙でしょう。
以下は近時の株主総会における、買収防衛策関連議案の賛成率です。会社提案の「導入議案」はあと数パーセントで否決、株主提案の「廃止議案」は可決されるところだったことが分かります。なお2014年6月にはカプコンの防衛策が実際に否決されています。
※買収防衛策の詳細や近年の事例はケーススタディ「買収防衛策の導入(継続)議案に、より多くの賛成票を得たい」参照
| 議案 |
時期 |
会社 |
賛成率 |
| 導入の会社提案 |
2017/3 |
東洋紡 |
51.3% |
| 2017/3 |
日本製鋼所 |
53.6% |
| 2017/3 |
因幡電機産業 |
53.6% |
| 廃止の株主提案 |
2018/3 |
GMOインターネット |
44.7% |
また議決権の確保を狙って持ち合い強化に走ることも決して勧められません。株主の権利を削ぎ落とすようなアクションは、機関投資家の反発(≒アクティビストへの同調)を誘うことになりかねません。そもそも相手あっての持ち合いであり、将来にわたって持ちつ持たれつの関係が続くとも限りません。実際、改訂ガバナンスコードでは「上場会社が政策保有株式として上場株式を保有する場合には、政策保有株式の縮減に関する方針・考え方など、政策保有に関する方針を開示すべき」とされており、政策保有株式に対して投資家から厳しい視線が注がれています。従来のような株式の相互持ち合いに頼る時代は終わったと考えるべきです。
「やっておくべき」備えとは?
まず自社の株主となったアクティビストの特徴、どのような投資方針でどのような要求をしてくるのか、「敵を知る」ことが重要です。アクティビストの戦略は、大きく分けて以下の3通りあります。自社の株主となったアクティビストがどのような戦略をとるのかは、他の投資先に対するアクティビズムの実績や、専門のアドバイザリー会社による助言などから、大まかには把握することができます。
| 戦略 |
内容 |
対象 |
要求 |
| アービトラージ |
低価格で買った株式を高価格で転売する |
株価水準が低い企業 |
・株式買取り価格の引き上げ
・MBOまたは100%子会社化(後述)
・経営計画の開示/IRの充実(内容が魅力的でかつ実現可能なものであれば、株価が上昇) |
| レバレッジ |
財務戦略の改善による資本コストの引き下げ |
B/Sが非効率な企業(株主や債権者から調達した資金を効率的に使っていない企業)、ROEの低い企業 |
・増配/自己株式の取得(効率的に使えていない資金の株主への返還)
・政策保有株式の売却(効率的に使えていない資金を回収し、本業への投資を増やす) |
| マネジメント |
経営に参画して企業/事業価値を上げる |
業績が低迷している企業 |
・外部からの経営者招聘
・事業ポートフォリオの組替え
・痛みを伴うリストラの断行
・ガバナンス体制の強化(放漫経営をさせない)
|
MBO : マネジメント・バイアウト:経営陣による買収。上場会社の非上場化策の一つである。
レバレッジ : 社債や借入金など負債による資金調達を増やして、純資産と負債のバランスを変え、株主に帰属する利益を増やすこと。負債により調達した資金を設備や子会社などへ投資に回すことによって、負債コストの増加分以上に利益が増えれば、株主の取り分を増やすことができる。自己株式取得により純資産を減らすことでも、純資産と負債のバランスが変わるため同じ効果が得られる。
資本コスト : 株主および債権者の期待収益率の「加重平均」によって算出する。株式の期待収益率を「株式コスト」、債権者の期待収益率を「負債コスト」という。
ROE : Return On Equity=株主資本利益率(当期純利益/株主資本)
次に必要なのは、上述したアクティビストの各戦略の対象となる「弱み」が自社に存在するかどうか、「己を知る」ことになります。
株主となったアクティビストがアービトラージ戦略をとるなら、自社の株価水準が資本市場でどう評価されているのか、資本市場における認知度に問題はないか、などを検証すべきです。
レバレッジ戦略であれば、資本生産性=ROEは適切か、株主還元は十分な水準か、などが俎上に載るでしょう。もし他社(アクティビストの投資先、自社にとっての同業他社など)と比較して目立って劣後したものが自社にあれば、まさにその点がアクティビストの攻めどころになるはずです。
アクティビストがマネジメント戦略をとる場合には、自社の経営の検証が必要となります。そのうえで、例えば業界の成長性の鈍化や厳しい競争環境に晒されている状況にあれば、抜本的な経営改革を実現するためのアクション(大胆な戦略転換、経営陣の刷新など)が求められます。また複数の事業を多角展開しており各事業の収益性が必ずしも高くなければ、コングロマリット・ディスカウントを解消する施策(組織再編、事業売却など)が期待されるでしょう。
もっとも、アクティビストに目を付けられるであろう自社の「弱み」が明確になったとしても、「克服できる弱み」と「克服できない弱み」があります。後者としては、例えば親子上場の問題が挙げられます。親会社とその子会社が両方上場している状態である親子上場では、子会社は上場しているにもかかわらずその筆頭株主は親会社のままであり、他の株主の意見が経営に反映されにくい構造となっています。このため親子上場は、アクティビストはもちろん資本市場からも否定的に見られており、「子会社の少数株主の権利を守る」という大義名分の下、アービトラージ戦略(例えば、アクティビストが子会社の株式を買い集めたうえで、親会社に100%子会社化を迫る)の対象になりやすいことを十分に認識すべきです。とはいえ、親子上場の問題を上場子会社が自力で解決することは難しいでしょう。
「克服できる弱み」にも、「実施が容易なもの」と「実施が容易でないもの」があります。このうち後者には、例えば事業売却や痛みを伴うリストラなど、慎重な検討を要するコーポレート・アクションがあります。このようなものについては、まずは長期を見据えたビジョンや戦略を策定することから始め、アクティビストが攻めに転じた際にすぐに実施できなくても、その方向性をアクティビスト、さらには他の機関投資家に説明できるようにしておくことが重要だと言えます。
一方、「実施が容易なもの」については、可能な限り速やかに行動することをお勧めします。例えば、増配や自己株式取得など株主還元の充実、経営トップ自ら出席するIRミーティングの実施などは、経営陣の決断次第でスピーディな対応が可能なはずです。できることは即実施する、難しいことには今後の方針を打ち出す、できないことには少なくとも問題意識を高く持っておく、といった備えを尽くしたうえで、アクティビストとの対話に臨むことができるようにしましょう。