2018/03/27 (新用語・難解用語)株主委員会(会員限定)

コーポレートガバナンス・コード補充原則4-10①が、役員の指名・報酬について「任意の諮問委員会」の設置を勧めていることを受け、監査役会設置会社や監査等委員会設置会社が任意の指名委員会、報酬委員会、あるいは両者を一体にした「指名・報酬委員会」を設置するケースが急増したが、欧米企業ではさらにESG委員会、ファイナンス委員会、安全委員会など日本企業より多くの委員会を設ける企業が少なくない(参考記事として2017年7月25日のニュース「報酬と指名の関係」、2017年6月13日のニュース「委員会は3つでは少ない?」参照)。

このように委員会の多い欧米企業でもまだ珍しいのが、「株主委員会」だ。株主委員会は、文字通り株主により構成された委員会だが、基本的には“諮問機関”的な役割を果たすことが想定されており、何らかの意思決定について権限を持つわけではないものの、役員報酬やガバナンス、経営戦略などについて検証し、意見を述べることができる。株主委員会は欧州のスウェーデンなどの企業ではごく一般的に設置されている。

一方、他の国では欧米諸国であってもほとんど設置が進んでおらず、“ガバナンス先進国”と言われる英国の企業でも株主委員会を設置しているところはまだ一社もない。正式な株式委員会ではないが、唯一、株主委員会に近い機能を持っていると言えるのが、雑貨や食品などを扱う大手小売業者のマークス&スペンサーで2016年に設置された「株主パネル」だ。株主パネルは個人株主の集まりであり、年2回、株主が同社幹部と面談の機会を持っている。

こうした中、英国でもついに株主委員会を設置する動きが出てきている。英国のメガバンンクであるロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(通称「RBS」)はこのほど、英国個人投資家協会(ShareSoc)英国株主協会(UKSA)の要請を受け、今年(2018年)5月に開催される株主総会で、株主委員会の設置案を諮ることに合意した。

もっとも、RBSには“特殊事情”もある。株主委員会の設置は「特別決議事項」であり、その可決には株主75%の賛成が必要となるが、RBSは2008年のリーマンショックを受け英国政府から200億ポンドの公的資金の注入を受けた関係で、株式の70%を英国政府によって保有されている。したがって、英国政府が株主委員会の設置に賛成すれば、可決に至る可能性が高い。RBSはかつて、英国政府から巨額の公的資金注入を受けたにもかかわらず銀行業界で過去最大規模のボーナスを社員に支給したことで批判を集め、その結果、CEOのグッドウィン卿が辞任に追い込まれたというガバナンス上の“汚点”もある。現地では、「RBSに株主委員会が設置されれば、同社はもちろん、同社がリードする形で英国企業全体のコーポレート・ガバナンスの強化を図る機会になる」といった期待の声が高まっている。

日本がコーポレート・ガバナンスの手本とする英国の企業で初の株主委員会が実現すれば、株主と企業の関わり方について日本企業にも一石を投じることになりそうだ。

2018/03/26 会社法改正中間試案、「無対価」の株式交付は認めず

企業買収は、市場における自社のシェアを高めたり、新規事業に進出する足掛かりにしたりするための手法として広く行われているが、現金で企業を買収すると、キャッシュフローを悪化させてしまうという問題がある。現金負担を回避する買収手法としては株式交換が考えられるが、株式交換は買収先企業の株式を「すべて」買い取る手法であるため、当該企業買収の目的が完全子会社化(100%子会社化)でないケース(例えば51%だけ取得すれば企業買収の目的を達成できるというケース)には使えないという問題がある。他には、買収先企業の株式のうち取得したい株数(例えば51%に相当する株数)を自社に現物出資してもらうという手法もあるが、この手法にも、現物出資財産(ここでは株式)の価値を調査するため検査役の選任や検査という余計な手間やコストがかかるという問題がある。

株式交換 : 買収元企業の株式と買収先企業の株式を交換する企業再編手法(会社法767条)
検査役の選任や検査 : 仮に現物出資財産の値付けが適正に行われていなければ、現物出資した者あるいは現物出資を受け株式を交付した会社の株主が損害を被ることになる。そこで会社法では、株式交付の対価として現物出資される財産が適正に評価されるよう、裁判所が選任した検査役により現物出資財産の価値の調査を求めている(会社法207条)。

こうした中、・・・

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2018/03/26 会社法改正中間試案、「無対価」の株式交付は認めず(会員限定)

企業買収は、市場における自社のシェアを高めたり、新規事業に進出する足掛かりにしたりするための手法として広く行われているが、現金で企業を買収すると、キャッシュフローを悪化させてしまうという問題がある。現金負担を回避する買収手法としては株式交換が考えられるが、株式交換は買収先企業の株式を「すべて」買い取る手法であるため、当該企業買収の目的が完全子会社化(100%子会社化)でないケース(例えば51%だけ取得すれば企業買収の目的を達成できるというケース)には使えないという問題がある。他には、買収先企業の株式のうち取得したい株数(例えば51%に相当する株数)を自社に現物出資してもらうという手法もあるが、この手法にも、現物出資財産(ここでは株式)の価値を調査するため検査役の選任や検査という余計な手間やコストがかかるという問題がある。

株式交換 : 買収元企業の株式と買収先企業の株式を交換する企業再編手法(会社法767条)
検査役の選任や検査 : 仮に現物出資財産の値付けが適正に行われていなければ、現物出資した者あるいは現物出資を受け株式を交付した会社の株主が損害を被ることになる。そこで会社法では、株式交付の対価として現物出資される財産が適正に評価されるよう、裁判所が選任した検査役により現物出資財産の価値の調査を求めている(会社法207条)。

こうした中、現在パブリックコメントを募集中(2018年4月13日まで)の「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案」(以下、中間試案)で提案されている新たな企業買収手法が「株式交付」だ(株式交付制度の概要は、2018年3月2日のニュース『ガバナンス関連の会社法改正「中間試案」公表、株式交付制度創設へ』参照)。株式交付とは、株式を交付する会社(これを株式交付親会社という)が他の株式会社を子会社(これを株式交付子会社という)とするため、株式交付子会社の株主(譲渡人)から株式を譲り受け、譲渡人に対して株式交付親会社の株式を交付する組織再編の手法のこと。株式交付は株式交換と異なり、100%子会社化を目的としない場合でも使えるうえ、外国会社の子会社化にも利用できる。ただし、株式交付はあくまで「子会社化」図る場合でなければ使うことができない。もっとも、ここで言う「子会社化」には、自社が有する議決権の所有割合が過半数になる場合だけでなく、“実質的に支配”している場合()も含まれる。

 例えば、自社と緊密な関係にある者が所有している議決権と合算して過半数になる場合で、役員若しくは使用人である者、またはこれらであった者で自己が他の企業の財務および営業または事業の方針の決定に関して影響を与えることができる者が、当該他の企業の取締役会その他これに準ずる機関の構成員の過半数を占めている場合など。支配力基準の具体的判断の詳細は【役員会 Good&Bad発言集】子会社の連結外しを参照)。

中間試案によると、株式交付を行うためには、(株式を交付する会社=株式交付親会社において)株主総会の特別決議が必要とされている。ただし、金額的重要性の低い()株式交付においては、簡易的に特別決議を経ないことも認められる方向だ。ちなみに、株式交付子会社には、株主総会の決議等特段の手続きは求められていない。

 中間試案では具体的水準は明示されていないが、株式交換では、「完全親会社が完全子会社の株主に交付する株式交換の合計金額が完全親会社の純資産額の20%以下」に該当すれば特別決議は不要とされており、株式交付も同水準の規定となることが見込まれる。

株式交付の肝となる「対価」については、柔軟な制度設計が示されている。例えば、株式交付親会社が株式交付の対価として株式交付子会社の株主に交付する株式は、必ずしも自社の株式でなくてもよい(中間試案18ページのエ)。例えば、株式交付親会社が有する別の子会社の株式を株式交付子会社の株主に交付するといった使い方もできる。一方、株式交付子会社の株主から株式交付親会社に対する見返りは新株予約権でもよい。ただし、「株式交付により株式交付子会社の株式を全く取得しないことは想定していない」(中間試案の補足説明64ページ)ため、株式交付子会社の株主からの(株式交付親会社に対する)見返りが株式交付子会社の新株予約権だけということは認められない(=対価ゼロの株式交付は不可)。すなわち、株式交付親会社は、株式交付子会社の「株式」と併せて当該株式交付子会社の新株予約権を譲り受けることができるということだ。株式交換では対価ゼロの株式交換(無対価株式交換)も認められているが、この点について中間試案の補足説明では、「株式交付は株式交付親会社の株式を対価として株式交付子会社を買収するための制度であり、株式交付により株式交付親会社の株式をまったく交付しないことは想定していない」との解説が行われている(中間試案の補足説明63ページ)。

無対価株式交換 : 株式交換完全子法人の株主に株式交換完全親法人の株式その他の資産が交付されない株式交換のこと。同一企業グループ内での組織再編成に用いられることが多い。

もっとも、株式交付により取得する株式交付子会社の株式の対価が妥当でない場合も考えられる。その場合、株式交付に反対する株式交付親会社の株主は、株式交付親会社に対し、自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求できる。取得した株式交付子会社の株式の価値が交付した株式交付親会社の株式の価値を下回っていれば、株式の低廉発行となり、既存株主にとって希薄化が生じる。そこで、株式交付に反対する株主に事前に資金回収の途を残そうというのがこの買取請求の目的だが、上述した簡易手続きの場合(金額的重要性が低く、特別決議を要しない場合)には株式買い取り請求は認められないことが見込まれる(中間試案の補足説明66ページ)。既存株主の保護とスピーディな組織再編のバランスをとった制度設計になっていると言えそうだ。

希薄化 : 「1株当たりの価値」が下がること。

2018/03/23 CGコード改訂で大幅見直しの政策保有株式、開示府令も見直しへ

2018年3月13日のニュース「速報・CGコード改訂の3つのポイント」でもお伝えしたとおり、コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の改訂案では、政策保有株式について下記のような新たな規律が設けられている。

・「保有目的が適切か」「保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか」等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、検証の内容を開示すべき(原則1-4)。
・政策保有株主(自社の株式を政策保有株式として保有している会社)から株式の売却等の意向が示されたとしても、取引の縮減を示唆することなどにより売却等を妨げるべきではない(補充原則1-4①)。
・政策保有株主との間で取引の経済合理性を十分に検証しないまま取引を継続するなど、会社と株主の共同の利益を害するような取引を行うべきではない(補充原則1-4②)。

もっとも、政策保有株式のように「純投資目的以外の目的で保有する株式」については、現行金融商品取引法(開示府令)上も、下記の項目を開示することが求められている(第二号様式・記載上の注意(57)a(e))。

イ 純投資目的以外の目的で保有する株式の全銘柄数、B/S計上額の合計額
ロ 次のいずれかに該当するもの(非上場株式を除く)について、その銘柄、株式数、保有目的、 B/S計上額
・そのB/S計上額が資本金の1%超を超えたもの
・B/S計上額の上位 30 銘柄に該当するもの

ここでいう「純投資目的」について金融庁は、・・・

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2018/03/23 CGコード改訂で大幅見直しの政策保有株式、開示府令も見直しへ(会員限定)

2018年3月13日のニュース「速報・CGコード改訂の3つのポイント」でもお伝えしたとおり、コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の改訂案では、政策保有株式について下記のような新たな規律が設けられている。

・「保有目的が適切か」「保有に伴う便益やリスクが資本コストに見合っているか」等を具体的に精査し、保有の適否を検証するとともに、検証の内容を開示すべき(原則1-4)。
・政策保有株主(自社の株式を政策保有株式として保有している会社)から株式の売却等の意向が示されたとしても、取引の縮減を示唆することなどにより売却等を妨げるべきではない(補充原則1-4①)。
・政策保有株主との間で取引の経済合理性を十分に検証しないまま取引を継続するなど、会社と株主の共同の利益を害するような取引を行うべきではない(補充原則1-4②)。

もっとも、政策保有株式のように「純投資目的以外の目的で保有する株式」については、現行金融商品取引法(開示府令)上も、下記の項目を開示することが求められている(第二号様式・記載上の注意(57)a(e))。

イ 純投資目的以外の目的で保有する株式の全銘柄数、B/S計上額の合計額
ロ 次のいずれかに該当するもの(非上場株式を除く)について、その銘柄、株式数、保有目的、 B/S計上額
・そのB/S計上額が資本金の1%超を超えたもの
・B/S計上額の上位 30 銘柄に該当するもの

ここでいう「純投資目的」について金融庁は、「純投資目的とは、専ら株式の価値の変動又は株式に係る配当によって利益を受けることを目的とする場合を言う」との見解を示しているが(『金融庁の考え方』124、131)、企業の中には、純投資と政策保有の定義を自社に都合良く解釈しているところもあるようだ。また、母体企業は政策保有株式の一部を自社の企業年金(退職給付信託)に拠出する()ことがあるが、母体企業が政策保有株式を持ち続けることへの批判をかわしたり換金をしたりするために当該政策保有株式を自社の企業年金に押し付けるのであれば、母体企業と企業年金の間で利益相反が生じている(企業年金に“お荷物”の政策保有株式が押し付けられることで、母体企業の従業員からしてみれば自身の年金資産の価値が毀損される)ことになる。また、母体企業が拠出後も実質的に議決権を保有し続けるのであれば、それは企業年金がアセットオーナーであるにもかかわらず主体的に議決権を行使できないことを意味する。すなわち、企業年金が投資先企業(当該政策保有株式の発行企業)の価値向上のために議決権を行使する機会を失うということであり、この点についても批判の声が強い。

 母体企業が政策保有株式を自社の企業年金(退職給付信託)に拠出するとB/Sから除外(=オフバランス)できる。もっとも、拠出後も実質的に母体企業が引き続き議決権を保有している場合には「みなし保有」として開示対象になる(開示府令第二号様式記載上の注意(57)a(e)ⅱ)。

こうした批判があるにもかかわらず、現状では各社における政策保有株式を保有する目的の開示内容が「取引関係維持のため」などボイラープレート(決まり文句)的な説明にとどまっている。そこで、「投資家がもっと具体的に政策保有の理由を理解できるような説明をするべき」という趣旨で、上記の政策保有株式に関するCGコードの見直しが行われることになったというわけだ。

そして、政策保有株式に関する議論は、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」から「ディスクロージャーワーキング・グループ」(ディスクロージャーワーキング・グループの活動については2018年1月26日 のニュース『新しい有報では「経営者の視点」への注目必至』ほか参照)へと引き継がれることが当フォーラムの取材により判明した。すなわち、政策保有株式については、プリンシプルベースのスタイルをとるCGコードで上記規律が設けられるのみならず、開示府令というルールベースでの規制も強化されるということだ。これは、政策保有株式について規定するCGコード原則1-4に「検証の内容を開示すべき」という文言が入ったことからもうかがえる。

プリンシプルベース : 大まかな原理・原則だけを定め、細かな運用は現場の判断に任せるという規制方法のこと。プリンシプルベース(原則主義)の反意語は「ルールベース(細則主義)」である。

また、原則1-4の改訂を後押しするかのように、情報開示に関する補充原則3-1①では、「(法令に基づく開示を含む)」というカッコ書きが追加されている点にも留意したい。

上記の情報の開示(法令に基づく開示を含む)に当たっても、取締役会は、ひな型的な記述や具体性を欠く記述を避け、利用者にとって付加価値の高い記載となるようにすべきである。

当フォーラムの取材によると、ここでいう「法令に基づく開示」とは有価証券報告書および株主総会招集通知を指しているという。つまり、有価証券報告書や株主総会招集通知においても、「ひな型的な記述や具体性を欠く記述ではなく、「利用者にとって付加価値の高い記載」を求められるということになる。「取引関係維持のため」といった説明は通用しない時代が間もなく到来することになりそうだ。

2018/03/22 収益認識基準、最後は“政治決着” 有償支給の在庫は連単で異なる処理可

企業に大きな影響を与える売上の計上ルールを変える新たな会計基準「収益認識に関する会計基準」が間もなく正式に決定され、企業会計基準委員会(ASBJ)が近日中に開催する予定の次回の委員会で公表される見通しとなっているが(適用は2021年4月1日以後開始する会計年度の期首から)、その中でパブリックコメント時にメーカーを中心に多くの企業から反対意見が寄せられていたのが、有償支給取引の会計処理だ(反対意見の詳細等は2017年12月1日のニュース「有償支給が支給先からの融資に? 収益認識基準で製造業に広範な影響も」参照)。

有償支給取引 : 企業が、対価と交換に原材料等を外注先に譲渡し、外注先における加工終了後、当該外注先から当該支給品を購入すること。自動車メーカー、電機メーカーなどの製造業を中心に広く行われている。

簡単におさらいしておくと、そもそもこの問題の前提として、「売主から買主への“支配の移転”の時に収益を認識する」という新たな収益認識会計基準のルールがある。メーカー等(発注元)はこれまで、外注先(下請先など支給品を受け取って加工する側)に支給した部品・素材の在庫を当該支給時に減らしてきた(ただし、支給時には収益(売上)は認識せず、完成品の代金から差し引く(相殺する)ケースが多い)。ところが、新たな収益認識のルールの公開草案では、有償支給取引では「有償支給品への支配が売主から買主へ移転していない」として在庫を減らすことを認めずに、これを外注先が発注元にあたかも金銭を貸し付けたかのように処理する「金融取引」として扱い、発注元に外注先への「金融負債」の認識(金額は有償支給額)を求める案になっていた。

この案にメーカー等が猛反発したのは上述のとおりだが、これを受け企業会計基準委員会(ASBJ)は3月9日に委員会を開催し、メーカー等の要望を受け入れる形で、従来の会計処理をおおむね認めることとなった。具体的には、・・・

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2018/03/22 収益認識基準、最後は“政治決着” 有償支給の在庫は連単で異なる処理可(会員限定)

企業に大きな影響を与える売上の計上ルールを変える新たな会計基準「収益認識に関する会計基準」が間もなく正式に決定され、企業会計基準委員会(ASBJ)が近日中に開催する予定の次回の委員会で公表される見通しとなっているが(適用は2021年4月1日以後開始する会計年度の期首から)、その中でパブリックコメント時にメーカーを中心に多くの企業から反対意見が寄せられていたのが、有償支給取引の会計処理だ(反対意見の詳細等は2017年12月1日のニュース「有償支給が支給先からの融資に? 収益認識基準で製造業に広範な影響も」参照)。

有償支給取引 : 企業が、対価と交換に原材料等を外注先に譲渡し、外注先における加工終了後、当該外注先から当該支給品を購入すること。自動車メーカー、電機メーカーなどの製造業を中心に広く行われている。

簡単におさらいしておくと、そもそもこの問題の前提として、「売主から買主への“支配の移転”の時に収益を認識する」という新たな収益認識会計基準のルールがある。メーカー等(発注元)はこれまで、外注先(下請先など支給品を受け取って加工する側)に支給した部品・素材の在庫を当該支給時に減らしてきた(ただし、支給時には収益(売上)は認識せず、完成品の代金から差し引く(相殺する)ケースが多い)。ところが、新たな収益認識のルールの公開草案では、有償支給取引では「有償支給品への支配が売主から買主へ移転していない」として在庫を減らすことを認めずに、これを外注先が発注元にあたかも金銭を貸し付けたかのように処理する「金融取引」として扱い、発注元に外注先への「金融負債」の認識(金額は有償支給額)を求める案になっていた。

この案にメーカー等が猛反発したのは上述のとおりだが、これを受け企業会計基準委員会(ASBJ)は3月9日に委員会を開催し、メーカー等の要望を受け入れる形で、従来の会計処理をおおむね認めることとなった。具体的には、メーカー等から「支給品に対する支配が実質的に支給先に移転している有償支給取引、または、金融取引としての性質を有していない有償支給取引にまで、広く本設例の処理が求められる恐れがあり、適切ではない」との批判を浴びることとなった有償支給取引に関する【設例32】を廃止(【設例32】は2017年12月1日のニュース「有償支給が支給先からの融資に? 収益認識基準で製造業に広範な影響も」参照))。そのうえで、適用指針に有償支給取引の項を設けている。適用指針には、従来の実務を尊重し、支給元が支給品を買い戻す義務を負っても負わなくても収益を認識しない(発注元が外注先に支給品を渡しただけでは売上を計上しない)ことが明記される。これは、売上のダブルカウントを避けるのが目的であり、連結P/Lでも個別P/Lでも変わらない。

売上のダブルカウント : 仮に有償支給時に支給元で収益(売上)を認識する(これを1つ目の売上とする)と、当該有償支給品が加工されて支給元に戻ってきた後に最終製品として販売するときにも収益を認識する(2つ目の売上)以上、同一の部品・材料を起因として収益(売上)を2回計上することになる。もちろん売上原価も2回計上するので利益の額がかさ上げされることはないとしても、投資家等の財務諸表の読者がダブルカウントで膨らんだ売上を見て企業の取引規模を実態以上に大きいものであると誤解する可能性がある。そこで、売上のダブルカウントを防ぐために、従来から1つ目の売上は認識しない(2つ目の売上だけを認識する)といった会計実務が行われている。

もっとも、適用指針では「企業が当該支給品を買い戻す義務を負っているか否か」で、下表のとおりB/Sの会計処理は変わるとしている(買い戻し義務の有無は取引の実態に応じて判断する)。

<有償支給取引の会計処理>
財務諸表 支給元が在庫(支給品)を買い戻す義務を
負っていない場合
支給元が在庫(支給品)を買い戻す義務を
負っている場合
連結 P/L 収益を認識しない
B/S 在庫(支給品)を控除する 在庫(支給品)を控除しない
個別 P/L 収益を認識しない
B/S 在庫(支給品)を控除する 在庫(支給品)を控除しないことができる

B/Sの取扱いも、従来の実務を尊重しつつも、“一部”を除き(後述)、理論的なものとなっている。まず、有償支給取引において支給元が支給品を買い戻す義務を負っていれば、支給元は支給品(すなわち在庫)をB/Sから控除しない(計上したままとする)ことになる。これは支給元が買戻義務を負っている限り、外注先においては「当該支給品について指図する能力」や「当該支給品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力」が制限されているため、外注先は当該支給品に対する支配を獲得していない(すなわち外注先における加工中も、当該支給品に対する支配は支給元が有し続けている)と考えられるからだ。その結果、支給元としては外注先が保管中の支給品についても在庫管理の対象にしなければならないことになり、支給元にとっては支給品の残数管理や棚卸といった事務負担の煩雑さが増す。一方、支給元が支給品を買い戻す義務を負っていなければ、当該支給品に対する支配は外注先に移転したことになるため、支給元はB/Sから在庫(支給品)を控除することになる。そうなれば、支給元は外注先が保管中の在庫についても在庫管理の対象にする必要がなくなる。支給元にとっては、在庫管理という事務負担がないこちらが望ましい処理と言える。

注目すべきは、表中オレンジ色の「支給元が在庫(支給品)を買い戻す義務を負っている場合」の「個別財務諸表のB/S」である。個別財務諸表のB/Sでは「在庫(支給品)を減らすことができる」とされている。有償支給品の在庫管理の煩雑さを回避したい支給元としては、支給品(在庫)をB/Sから控除してもしなくてもよい(企業が任意に選択できる)のであれば、控除する方を選ぶであろう。もちろん、上の表のとおり、連結B/Sでは支給品(在庫)の控除が認められていないため、連結B/Sを作成する際には単体B/Sを合算するだけでなく単体B/Sから控除されていた在庫を加算しなければならず、この連結手続き上の証憑として有償支給品の預け先や在庫金額を資料としてまとめなくてはならないが、それでも個別のB/Sに在庫を計上して在庫管理をするよりは手間がはるかに少なくて済む。

個別のB/Sに限って「(在庫を減らすことが)できる」という会計処理は、公開草案にはなかったもの。連結と個別で会計処理を変えることを認める結果となったのは、収益認識会計基準の導入に伴い在庫管理システムや会計システムの改修が必要になる中、収益認識会計基準の導入に伴う自社への影響を最小限にとどめたいメーカー側と、少なくとも連結財務諸表に関しては会計理論を押し通したいASBJ側との“政治的決着”の代物と見ることもできそうだ。

2018/03/20 相談役・顧問等の開示状況に不満を持つ機関投資家

周知のとおり、東京証券取引所は今年(2018年)1月からコーポレート・ガバナンス報告書に「代表取締役社長等を退任した者の状況」欄を新設、上場企業各社に対し、元代表取締役社長等である相談役・顧問等の「氏名」「業務内容」「勤務形態・勤務条件(常勤・非常勤、報酬の有無等)」「社長等退任日」「任期」「元代表取締役社長等である相談役・顧問等の合計人数」を任意で開示することを求めている(2018年1月9日 のニュース「相談役・顧問制度の開示ルールがスタート、早速4社が開示」参照)。制度が開始してからの状況を見ると、今年に入ってから2月末までにコーポレート・ガバナンス報告書を更新した企業のうち、相談役・顧問等の状況を記載した企業は・・・

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2018/03/20 相談役・顧問等の開示状況に不満を持つ機関投資家(会員限定)

周知のとおり、東京証券取引所は今年(2018年)1月からコーポレート・ガバナンス報告書に「代表取締役社長等を退任した者の状況」欄を新設、上場企業各社に対し、元代表取締役社長等である相談役・顧問等の「氏名」「業務内容」「勤務形態・勤務条件(常勤・非常勤、報酬の有無等)」「社長等退任日」「任期」「元代表取締役社長等である相談役・顧問等の合計人数」を任意で開示することを求めている(2018年1月9日 のニュース「相談役・顧問制度の開示ルールがスタート、早速4社が開示」参照)。制度が開始してからの状況を見ると、今年に入ってから2月末までにコーポレート・ガバナンス報告書を更新した企業のうち、相談役・顧問等の状況を記載した企業は26社にすぎず、記載していない企業は208社にのぼる。2か月という短期間ではあるが、相談役・顧問等の状況について開示はそれほど進展していないと言える。

開示を行った上記26社のうち、相談役・顧問等がいるのは半数の13社であった。人数は、銀行等で最大9名というところもあるが、多くは1~3名となっている。相談役・顧問等のほとんどは非常勤だが、その多くは会社から報酬を受けている(銀行等の場合、人数は多いが報酬を受け取っているのは1名だけである)。

もっとも、上記の数字は、サンプル数が極めて限られていることと、任意で開示した企業だけのデータであるため、日本企業全体の状況とは異なっていると考えておいた方がよい。実際には、相談役・顧問等を有する企業の比率や、常勤の比率はより高いことが予想される。昨年行われた東洋経済の第13回CSR調査では、相談役・顧問制度を導入している企業の割合は62.4%とされていたが、これもアンケート対象企業が限定されているうえ、回答した企業の中での割合に過ぎないため、上場企業全体の実態はより低い可能性がある。

海外投資家を中心に、投資家の間では依然として相談役・顧問等の存在が日本企業のコーポレート・ガバナンスにおける大きなテーマとなっている。ここで勘違いしないようにしたいのは、投資家の要望は相談役・顧問等の廃止ではなく、その実態の把握にあるということだ。すなわち、相談役・顧問等がどのような役割を担い、どのような待遇を得ているのかを彼らは知りたがっている。相談役・顧問等の状況に関する開示制度はまだ始まったばかりであるが、投資家のニーズを踏まえれば、もっと多くの企業がこの開示を行うことが望まれる。その意味では、既に開示を行っている企業は、IRの観点から大いに評価されるべきであろう。

2018/03/19 CGコード改訂 独立社外取締役に関する記述の背景と今後

「取締役会の3分の1以上の独立社外取締役の選任」を企業に強制するかのような新聞報道もあり、コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)原則4-8の改訂の方向性に企業の関心が集まっていたが、当フォーラムが2018年2月20日のニュース「“社外取締役1/3以上説”、現時点での最新情報」でお伝えしていたとおり、原則4-8の後段部分の書きぶりを強める形で収束している。

【原則4-8.独立社外取締役の有効な活用】
独立社外取締役は会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に寄与するように役割・責務を果たすべきであり、上場会社はそのような資質を十分に備えた独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきである。
また、業種・規模・事業特性・機関設計・会社をとりまく環境等を総合的に勘案して、自主的な判断により、少なくとも3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える上場会社は、上記にかかわらず、そのための取組み方針を開示十分な人数の独立社外取締役を選任すべきである。

ただ、勘違いしないようにしたいのは、・・・

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